秋の夜長には、やはり静かな時間のなかでひっそりと楽しむ読書が一番!えっ活字離れで何を読んだらいいかわからない?そんな方にお薦めしたいのが今回ご紹介する“都電荒川線・文学の旅”。東京に残る唯一の路面電車に乗って、読書の秋にふさわしい粋な一冊を探しに行こう。
旅の出発点は、都の西北『早稲田』駅。北原白秋、寺山修司など、多くの作家を輩出した早稲田大学を散策。なかでも、敷地の一角ある「演劇博物館」は、近代日本文学の幕開けともいえる「小説神髄」の作者・坪内逍遙の古希(70歳)と「シェイクスピア全集」の翻訳を記念して昭和3年に建てられたもの。「真夏の夜の夢」を見終わった後は「リア王」の不条理な世界もいい。
続いて『早稲田』から『雑司ヶ谷』駅へ。雑司ヶ谷霊園は著明な作家が数多く眠る由緒ある墓地だ。たとえば、秋の夜長にちょっとミステリアスな話がお好きな方は泉鏡花の「歌行燈」。一方、おセンチなあなたには、大正ロマンの詩情溢れる竹下夢二の世界をどうぞ。いやいや、秋はしんみりとシリアスな人間模様に挑戦したい方は、夏目漱石の絶筆「明暗」。さらに、雑司ヶ谷霊園を出て足を進めれば、そこは菊池寛記念会館。芥川賞・直木賞の生みの親、菊池寛が昭和12年から住んでいた旧宅だ。戯曲「父帰る」、「恩讐の彼方に」がお薦め。親友の芥川龍之介の短編もスリリングでいい。
旅の最後を飾るのは、都電荒川線のもう一つの終着点『三ノ輪橋』駅。バラの有名な駅として“関東の駅百選”にも選ばれている名所だ。ここでは駅近くの浄閑寺を散策。江戸・新吉原の遊女たちの身に起きた暗く悲しい過去が、“生きては苦界、死しては浄閑寺”という花又花酔の川柳とともに蘇る。そんな遊女たちの悲しくも切ない生涯に思いを寄せた作家・永井荷風もこの寺を愛した一人。隅田川の私娼屈を題材とした「墨東綺譚」で未知の世界へとトリップしてみたい。
さて、このほかにもまだまだたくさんの名作が眠る都電荒川線・文学の旅。みなさんも是非、自分なりの名作を探し出してみてほしい。ちなみに来年(平成13年)は都電開業90周年を迎える。運賃は大人160円、子供80円、1日乗車券は大人400円、子供200円とお得だ。
文/麒麟 写真/武居英俊