平成十二年東京都議会会議録第十七号

○副議長(五十嵐正君) 百三番池田梅夫君。
   〔百三番池田梅夫君登壇〕

○百三番(池田梅夫君) 初めに、障害者福祉について伺います。
 障害者医療費助成の有料化と所得制限強化が九月から実施されました。その後、わずか三カ月で、耐えがたい影響が障害者と家族に及んでいます。
 都立城南養護学校PTAの保護者アンケートの結果によると、八月までは全校生徒の七一%が助成を受けていましたが、九月以降は三五%まで激減しています。そして、今回の制度見直しで困っていると答えた保護者が全体の七割に及びます。これは、石原知事あてに提出された来年度予算への要望書の中で紹介されているものです。要望書は、医療費助成について、次のように訴えています。経済的負担がふえ、精神的にも常に圧迫される状況が起きています、子どもの命に直接的に影響しないようにと頑張っていますが、このような状況から抜け出すために、一日も早く所得制限の見直しをお願いします。
 知事、今回の見直しは、府中療育センターに入所している人と同様の重い障害を持ちながら、在宅で懸命に生きている子どもたちと家族を直撃しているのであります。今回の所得制限で医療費助成の対象外になったある小学生の場合、十日間の入院で三十万円の医療費が請求されました。八月までなら無料でした。もちろん、後から高額療養費で返ってきますが、この子は腸閉塞を繰り返し、一年に何度も入院、手術になります。母親は、余りに費用が高いので、モニターや心電図をつけずに入院できないかと医師に相談しました。医師の回答は、それでは命の保証はないというものでした。
 重度障害児は、生命保険に加入できません。医療費の負担軽減には公的助成だけが頼りであります。また、入院は個室対応が多く、差額ベッド料だけで六十万円、その上医療費が有料になり、兄の進学のため蓄えた定期預金を泣く泣く取り崩した、そういう話を私は直接伺いました。長期に継続するリハビリテーションの費用負担が重いことや、緊急一時入所まで有料になり、気楽に利用できなくなったなどなど、切実な訴えが渦巻いています。
 石原知事、これらは小さい影響ですか。都として、直ちに影響実態調査が必要であります。所見を伺います。
 知事は、国の老人保健法改悪に連動させて、都の障害者医療費助成に一層の負担増を持ち込もうとしていますが、全く道理がありません。既に、新潟県は連動させないことを決めました。東京都でも、老人保健法改悪に伴う障害者、家族への新たな負担増はやめるべきであります。
 同時に、こんな問題が起きるのも、今回の見直しで、無料制度を崩し、老人保健法に準ずる自己負担を入れたためです。障害者医療費助成は、文字どおり障害者、児童の命綱であります。一日も早く無料に戻し、所得制限ももとに戻すこと、重度障害者手当についても、所得制限なしの制度に戻し、削減はやめること、以上二点を強く求めるものであります。お答えください。
 さて、東部療育センターの早期建設は、東部地域だけでなく、東京全体の緊急、切実な要求となっています。重度心身障害児施設の入所待機者は、ここ十年で倍増し、一千人に迫ろうとしています。それだけに、都内の百六十を超える障害者団体が早期建設に賛同署名をし、地元の江東、江戸川、葛飾の区長が都に要望書を提出したのであります。
 昨日の本会議で知事は、東部療育センターについて、公が手をつけるべきものと答弁されました。もはや、これ以上先送りしてはなりません。来年度、基本設計の予算をつけ、建設に踏み出すべきであります。また、緊急一時入所のベッド不足は深刻であり、大幅な拡充が必要です。答弁を求めます。
 次に、都立成東児童保健院の廃止計画の再検討を求めて、質問します。
 千葉県成東町にあるこの施設は、病院併設の児童養護施設、虚弱児施設であり、全国で二カ所しかない貴重なものです。東京都は、結核やぜんそくの転地療養の必要性がなくなったなどといって廃止計画を打ち出していますが、そんな話は成り立ちません。
 施設の役割は、時代とともに変わるものであります。今入所しているのは、児童虐待や両親の離婚などにより家庭に恵まれず、その上、ぜんそくや重度のアトピー、また、膠原病などの難病や重い慢性疾患の子がほとんどです。超未熟児で生まれ、障害があり、母親から養育放棄された子や、病気が原因でいじめに遭い、不登校だった子もいます。むしろ今日的役割が大きく、医療と福祉の連携という点でも先駆的な児童施設であります。一人一人の健康管理を行い、車で送迎するなど努力して、全員が地元の幼稚園や学校に通えているのも大事なことであります。
 私も、現地を訪ねましたけれども、子どもたちが手厚い医療的ケアと保育士、看護婦などの愛情を受けながら、ここへ来てやっとほっとしたといって伸び伸びと過ごしている姿に感銘を受けました。
 九五年の児童福祉施設検討委員会最終報告では、虚弱児施設の果たすべき役割は、今後ともなお大きなものがあるとうたっています。ところが、わずか数年で方針転換し、ことし一月、帰るべき家庭を持たない子どもらに廃止計画が報告されました。説明会では、泣き出す子や、会場から飛び出していく子もいたそうです。子どもたちから私どものところに、ここが幸せの場所です、だからどうしても保健院を壊さないでください、もうほかのところには行きたくないと訴える手紙が届いています。
 養護施設のあり方検討会の議事録を見ると、財務当局から廃止を強く迫られていることもあるので、廃止した場合の問題点と課題を明らかにする必要があるという発言が、会議の第一回目に記録されています。初めから、廃止先にありであったことは明白であります。廃止されたら、長期入院となり、学校へ行けなくなる子が出ることも心配されます。子どもの権利を擁護すべき行政が、子どもたちの願いを踏みにじり、幸せの場所から追い立てることは絶対に許されません。したがって、成東児童保健院の廃止計画は根本から再検討すべきであります。答弁を求めます。
 次に、震災予防条例についてです。
 二十一世紀を迎え、地震による災害を未然に防ぎ、地震に強い東京をつくることは、都民共通の願いです。今定例会に提案された震災予防条例の改定は、当然この願いにこたえる方向で行わなければなりません。しかし、条例案は、震災を未然に防ぐという震災予防の原点を掲げた前文を削除し、自分の生命は自分で守るなどと、震災の対策を専ら都民に押しつけ、現行条例が目指してきた、地震は避けられないが、人災は防げるとの立場に立った震災対策から大きく後退しようとしています。
 知事は、所信表明で、現行条例が行政の主導による震災の予防を中心にしていることから、震災被害に対応する上で限界があるといいましたが、私は、震災の予防という仕事は、まさに行政が中心にならなければ進まないものだということを指摘したいと思います。
 五年前の阪神・淡路大震災では、地震直後に五千人を超える方が亡くなり、その九割以上の方が住宅の倒壊による圧死であったことが報告されています。しかも、その多くが高齢者や障害者でした。
 一方、東京には、大きな震災被害が予想される木造住宅密集地域が、東池袋地域を初め多く残されていますが、その改善事業は遅々として進んでいません。それは、公共用地の確保など、行政が主導的に乗り出さなければ前に進まないからであります。
 また、阪神・淡路大震災では、住宅の耐震補強が行われていれば多くの倒壊が防げたといわれていますが、これも、個人の力では改善ははかどりません。そのため、横浜市は、個人住宅の無料の耐震診断と耐震補強工事のための二百万円の補助、四百万円の無利子貸付を実施しています。
 これらの地震の被害を最小限に抑えるための対策は、個人の力では解決できないものです。行政のしっかりとした考えと体制、予算と施策があって初めて成り立つものであります。
 知事、都民が自分の命や町を自分たちが主体となって守るというのは当然の話です。だからこそ、現行条例の前文は、都民と都が一体となって東京を地震から守る、このことをうたっているのであります。阪神・淡路大震災の教訓というのであれば、人災としての震災の予防という立場に立って震災対策を進める重要性を改めて確認することが必要です。前文をわざわざ削除する必要があるのか、明快な答弁を求めます。
 また、予防の精神を具体化した規定であった耐震診断の実施の規定も削除されますが、とんでもありません。横浜市長は、市民の命と財産を守るのが自治体本来の基本的責務、この信念から、先ほど紹介した個人住宅の耐震診断と補強の助成を始めたのです。個人住宅の耐震対策は、国の施策から抜け落ちたものとなっています。そのため、区市町村は単独事業として実施しなければなりません。
 東京都として、無料の耐震診断、耐震改修の補助を制度化し、区市町村との連携事業として実行に移すことを求めるものであります。所見を伺います。
 次に、公害防止条例の改定は、大型ディーゼル車の排気ガス規制、新たな地球温暖化対策など、我が党がかねてから提案してきたものであり、歓迎するものです。
 私は、ここで、この条例をより実効力のあるものにするためにも、ディーゼル規制を大きく前進させるためにも欠かせない課題について、絞って提案するものです。
 第一に、条例の実効性を確保する問題です。
 今回の改定の特徴の一つは、地球温暖化、土壌汚染などの解決が急がれる新たな問題について条例化されたことですが、問題は、対策を具体化する上で、本来であれば条例に規定してよい事柄が指針にゆだねられていることです。例えば、事業者に作成を求める計画書について、その作成に当たっての事項は指針で定められています。すなわち、規制は指針の内容に左右されるということです。
 知事、条例を本当に役立つものとするためには、指針を実効性のあるものとすることが欠かせないと思いますが、どうか。また、検討段階から専門家や関係団体、都民の参加を保障し、都民参加でつくり上げていくことが必要かと思いますが、見解を伺います。
 次に、ディーゼル規制についても、東京の深刻な実態を考えると、より強い規制と対策が欠かせません。その際、これ以上悪くさせないという考え方でなく、二十一世紀の早い時期に自動車公害をなくしていくという視点が必要です。この点では、ヨーロッパやアメリカでは、既に日本の二倍以上に厳しいディーゼル規制を実施し、将来的にも日本の十倍という徹底した規制を行うとしていることに学ぶことが大切です。
 先日の名古屋公害裁判は、浮遊粒子状物質が公害の大きな原因であるとして、行政の道路管理責任を問い、差しとめ請求を認めましたが、判決が示した排出差しとめに該当する地域は、東京では大田区、板橋区、保谷市など八カ所に上ります。また、都内の自動車排気ガス測定局のすべてで、窒素酸化物、浮遊粒子状物質ともに環境基準をオーバーしています。
 知事、世界都市を目指すというなら、世界の大都市の中で最悪といわれる大気汚染を早急に解決し、汚名を返上すべきではありませんか。その立場から、使用過程車にとどまらず、新車についても、ヨーロッパ並みの厳しい基準を目指すようにすべきではないか。また、大気汚染の構造的原因となっている、区部への自動車交通の過度の集中を抑えるための交通総量規制に踏み出すことなどを求めるものです。
 知事の答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
  〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 池田梅夫議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、障害者医療費助成制度についてでありますが、障害者医療費助成制度は、社会経済状況の大きな変化や国の施策の充実などを踏まえ、負担の公平、介護保険制度との整合性の確保などの観点から見直しを行ったものであります。
 障害者福祉は、都の重要課題と認識しておりまして、見直しと同時に、新たな時代にふさわしい施策として積極的に展開していきたいと思っております。新しい方式の定着には、その過程で多少ぎくしゃくもありますが、今後、さらに見直しの成果を生かして、福祉改革に本格的に取り組んでいきたいと思っております。
 次いで、震災対策条例の前文についてでありますが、この人災としての災害予防という文言を削除するに関してのご意見というのは、ちょっと得手勝手な読み違えという感じがいたしました。
 この人災としての災害予防という意味は、関係者の努力の不備という意味で使われたと思いますが、いずれにしろ、この災害というのは、どのような準備をしようとしまいと一方的にやってくるものでありまして、それを十全に防ぐなどということは、とても人間の知恵、技術ではできるものではない。しかしなお私たちは、それが起こった後の、要するに被害というものを最小限に食いとめるために、この新しい条例では、危機管理に重点を置いた応急及び復興をも視野に入れた総合的震災対策を積極的に推進していくべく改正をするわけであります。
 阪神・淡路大震災を初めとする都市型地震に見られるように、地震による被害を軽減するためには、予防対策としての地震に強いまちづくりだけでは、住民の貴重な生命と財産を守り切れるものではないということは明らかであります。
 つまり、一方的に到来してしまった災害に、その後の措置として、危機管理というものを通じて、どれだけ波及していく被害というものを少なく食いとめるかという努力を今回の条例には盛り込んだつもりでございます。
 次いで、自動車排出ガス規制の強化と交通量の抑制についてでありますが、大気汚染を改善し、都民の健康を守るために、使用過程車に対して、我が国で最も厳しいディーゼル車規制に取り組んでおります。新車の排出ガス規制についても、かねてから、ヨーロッパ並みのものに強化するよう、国に再三強く求めております。
 自動車交通の過度の集中を抑制し、大気汚染を改善するためには、交通需要マネジメントを推進するとともに、外環など三環状道路を初めとする道路整備が喫緊に必要なものと思っております。
 それが完成したときに、どのようなよき変化が起こるかは、昨日の代表質問でもお答えいたしました。ちなみに、加えて申し上げますと、時速が五キロメートル上昇した場合には――現況二十キロを切っておりますけれども、これが仮に二十五キロに達成されたときには、窒素酸化物は乗用車で一二%、普通貨物で一〇%、粒子状物質は乗用車で九%、普通貨物で九%削減されます。
 他の質問については、関係局長が答弁いたします。
   〔福祉局長高齢者施策推進室長兼務前川燿男君登壇〕

○福祉局長高齢者施策推進室長兼務(前川燿男君) 障害者医療費助成につきまして、四点のご質問にお答えいたします。
 まず、見直しに伴う影響実態調査についてでありますが、さきの障害者医療費助成制度の見直しは、過去のさまざまな調査統計等を踏まえ、十分に検討した上で実施をしたものでございます。
 負担の公平や介護保険制度との整合性などの観点から見まして、適正な制度内容となっていると考えております。
 次に、障害者医療費助成制度の自己負担についてでありますが、障害者医療費助成制度の見直しに当たりましては、自己負担の額につきまして、高齢者と同様に無理なく負担が可能という観点から、老人保健法の水準によることといたしましたが、低所得者につきましては、入院時の食事代のみの負担としたものでございます。
 したがいまして、老人保健法の一部負担額が改正された場合には、障害者医療費助成制度における自己負担もそれに連動して変更されるものでございます。
 次に、障害者医療費助成制度の見直しについてのお尋ねでありますが、さきの見直しは、制度発足後の社会経済状況の変化や国の施策の充実等を踏まえ、負担の公平、介護保険制度との整合性の確保などの観点から実施したものであります。
 区市町村や関係団体、都民の声等を十分に考慮し、都議会での審議をいただいて決定をいたしました。したがいまして、もとの制度に戻すことは考えておりません。
 最後に、重度心身障害者手当についてでありますが、重度心身障害者手当の所得基準は、負担の公平性の確保の観点から新たに導入したものであります。見直しに当たりましては、激変緩和を図るため、三年間の経過措置を設定いたしました。
 区市町村や関係団体、都民の声等を十分に考慮し、都議会での審議をいただいて決定したものであり、もとの制度に戻すことは考えておりません。
   〔衛生局長今村皓一君登壇〕

○衛生局長(今村皓一君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、東部療育センターの建設についてでございますが、来年度は、日影、緑化計画など周辺環境との調和や防災計画のあり方等、施設建設に当たっての諸条件を総合的に整理していきたいと考えております。
 引き続き、施設の建設に向けて努力してまいります。
 また、在宅重症心身障害児の緊急入所病床の拡充についてでございますが、これまで、病院機能を有する重症心身障害児施設の整備などにあわせて、緊急入所病床を確保してまいりました。今後とも、病床の確保に努めてまいります。
 次に、成東児童保健院廃止後の児童の生活についてでございますが、ほとんどの児童は、地域の医療機関等と連携している他の児童養護施設等に受け入れる予定であります。また、長期に入院が必要となる児童についても、病院内での訪問教育などを利用することにより、現在と同じような生活ができるものと考えております。
 また、成東児童保健院は、児童福祉法の一部改正などを踏まえ、見直しを行った結果、結核など転地療養を目的として入所する児童が減少してきたことや、医療ケアの必要な児童についても、児童養護施設等において対応できることなどから、総合的に判断して廃止することといたしました。したがって、計画を再検討する予定はございません。
   〔都市計画局長山下保博君登壇〕

○都市計画局長(山下保博君) 木造住宅の耐震診断、耐震改修への補助についてでございますが、耐震診断等は、本来、その所有者等の責任において行われるべきであると考えております。
 都といたしましては、耐震診断講習会の開催、耐震診断技術者の育成など、技術面からの支援を実施してきたところでございます。
 木造住宅の耐震診断の補助等につきましては、地域に密着した区市町村が、それぞれ地域の特性に応じて実施しているところでございまして、今後とも、こうした区市町村と連携して、木造住宅の耐震性の向上に努めてまいります。
   〔環境局長中野英則君登壇〕

○環境局長(中野英則君) 公害防止条例改正案の規定に基づく指針についてでありますが、指針は、条例実施上必要な専門的技術的事項などの細目を定めたものでありまして、例えば、事業者に提出を求める環境配慮の計画書に盛り込むべき内容などを具体的に示すこととしているものであります。
 なお、条例案の作成に当たりましては、これまでも、都民等からの意見を聞き、その反映に努めてまいりました。

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