平成十二年東京都議会会議録第十七号

   午後三時四十三分開議

○副議長(五十嵐正君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 七十七番寺山智雄君。
   〔七十七番寺山智雄君登壇〕

○七十七番(寺山智雄君) 質問を始めます。
 「父が亡くなったのは、中学一年の夏だった。遊びから帰ったら部屋に遺書があった。
 『お母さん、あとは頼む。子供たち元気でな』と書いてあった。当時、父と弟と三人で寝ていた部屋で父がベットの手すりにネクタイをかけて首を吊って死んでいるのがわかった。
 僕は最近まで、自分や家族を残し、勝手に自らの手でその命を絶ってしまった父に対し恨みに近いものを持っていた。しかし、この文集を作るために自死遺児たちと話し合いをして以来、僕は父の死に向き合っていくようになった。借金を抱えこのまま、借金を苦にしていかなければならない。もう先が見えない、そう一人で思い悩んでいた父はどんなに苦しかっただろうか。そんな父に対して恨みを持っていたことをとても後悔した。現在、不況やリストラなどで中高年の人の自殺が驚くほど増加している。多くの人がそれぞれ大きく深い悩みを抱え自らの命を絶っていってしまう。家族を残して。九八年、日本は三万人もの自殺者を出した。みんなこのことをもっと重く受け止めてもらいたいと思う。」これは、この春、自殺で残された子ども、妻の文集「自殺って言えない」を編集した、ある大学生の手記の一部です。
 三万人を超える自殺者のうち、一万人が四十、五十代の働き盛りで、九八年の警察庁の調べでは、その動機は、経済生活問題が前年比七三%の増、勤務問題が四九%の増で、不況、借金苦、リストラ、ストレスなどが働き盛りの父親を自殺に追いやっていることを裏づけています。
 父の自殺と向き合った青年の、このことをもっと重く受けとめてほしいという言葉とともに、彼らの編集した文集は多くのマスコミに取り上げられました。そして、全国から大きな共感と反響を呼びました。これは皆、あすは我が身という不安と、将来への危機感が横たわる生活の中に自分たちもいるんだという思いを、数多くの方々が持っていることのあかしではないかと思います。強気で笑顔でいる自分の裏側には、常に現実の変化と抱える問題の深刻さにくじけそうになる弱い自分。
 東京構想二〇〇〇中間のまとめでは、新たな社会システムの構築を実現していく上で、新しい公正の原理が必要だとし、そのために、個人や企業が、たとえ挑戦に失敗した場合でも、致命的な事態に陥らないように、敗者復活型のセーフティーネットを構築していくことが必要であると示されています。施策の展開が早急に求められていると思いますが、知事の所見を求めます。
 平成十二年の東京都中小企業白書の小売業編の調査では、売上高減少が七七・九%。経営者の平均年齢は六十一・三歳。経営者の高齢化や後継者難、そして売り上げ低迷のトリプルパンチが続く中、実に廃業予定が四一・三%に上り、また商店街の景況感を見ても、七五・七%が衰退していると感じています。
 私が今危惧していることは、行財政改革の早急な取り組みが必要とされる中、知事の選挙公約の実現が優先される一方で、一見地味でマスコミ受けはしないかもしれないけれども、都民の苦しみや悲しみというくびきをほどいていくような、そのような施策が軽んじられる方向へ動きつつあるのではないかということです。
 社会的弱者と呼ばれる個人や家族の自立自助の努力の限界を超え、行政の支援が不可欠な方々、あるいはルールなき不条理な競争に破れた競争原理の被害者ともいうべき方々に対する救済支援型のセーフティーネットの整備充実も、今後の行政の大切な責務として実行していかなければなりません。
 そこで、以下の課題について伺います。
 バブル崩壊後から今日まで、経営不振から、自己資産まで失い、借金苦に追い詰められ、またみずからの命を犠牲にしたような、そのような中小企業経営者、あるいは商店主が存在してきていますし、また現時点でも、そのような決断を迫られているような方々がたくさんいらっしゃいます。
 そこまで追い詰められるまでに、専門家の助言や指導を受け、傷口を最小限にとめた幕引きができ、新たなる挑戦を迎えることができただろうという方々も数多くいたはずです。自己責任が当然の基本ではありますが、一体このような現状について都はどのように考え、また今後対応していくおつもりですか、伺います。
 また、衰退現象に歯どめのかからない商店街対策、これの方向性を伺います。
 一方、雇用労働環境の悪化は、依然改善される空気が見てとれません。特に、パート労働者の大半を占める女性労働者は、単に労働時間が短いということだけで、正規従業員と比べ、不利な立場に追い込まれてきています。母子世帯の母親であれば、なおさらです。また、中高年男性のリストラも、相変わらず大きな社会問題として解決されません。
 生活の安定の基礎ともいえる雇用や労働条件は、適切に守られるべきです。しかしながら、このような人たちに対する救済、支援策は、十分機能していません。このことに大きな危惧を感じます。
 都は、これまでも、労働問題に関する実態把握、それを踏まえた労働相談を実施し、また働く方々の悩みや労使の紛争解決に取り組んでこられました。これをさらに充実させる必要があります。都は今後どのような労働相談を展開していくのか、伺います。
 次に、私たちが生活する上で欠かせないセーフティーネットは、医療、病院です。
 都は、東京ERなど、さまざまな都立病院の改革の方向を打ち出し、現在改革会議で検討しておられますが、これまで、都立病院が担うべき重要な役割、また都民ニーズも高く推進されてきた、高度、専門、行政医療への取り組みは、さらに充実させるべきです。所見を伺います。
 一方、乳幼児から成年にわたる幅広い世代で、今アレルギー性疾患で苦しむ方々の対応、これは患者や家族のみならず、社会的な取り組みも必要な重要な課題です。都はどのような対策を進め、また今後どのような取り組みを行われるのか、伺います。
 次に、心のセーフティーネットともいえる心の東京革命についての取り組みです。
 この施策に対し、都民の受けとめ方に温度差があります。心の東京革命に対する都民の施策評価に幅があるということです。ただ単にしつけや礼儀作法などのルールや標語をにしきの御旗に、啓発、また、これまでの既存の施策の充実に向けた取り組みというだけでは、単なるパフォーマンスとのそしりを免れません。
 凶悪な少年犯罪、不登校、引きこもり、あるいはいじめに起因した悲惨な事件が後を絶たない状況の中で、都民は、このような犯罪や事件の減少が目に見えて改善することを望んでいると思います。そのための斬新で効果的な青少年施策の充実と実行が求められています。その取り組みをお伺いします。
 次に、児童虐待について伺います。
 社会的関心の高まりや関係者の努力などにより、これまで家庭の外にあらわれにくかった児童虐待が表面に出てくるようになったことも手伝い、児童相談所などで受けている虐待の件数は、ここ数年で急増しています。
 関係機関の通告義務などが盛り込まれた児童虐待防止法が施行され、これから年度末に向け、さらに保護が必要な子どもたちが増加すると思われます。しかし、児童相談所の一時保護所や児童養護施設は、ほぼ満杯の状態が続いています。私は、こうした状況を改善するために、緊急な対応を求めるものですが、見解をお伺いします。
 近年、虐待の世代間の連鎖ということが指摘されています。虐待を受けた子どもは、親になってから、自分の子どもにも虐待をすることが多々あるというものです。
 虐待を受けた子どもを親から引き離すだけでは、問題の本当の解決にはなりません。子どもの心理的ケアを行うとともに、虐待の問題を抱えた親に対するカウンセリングを実施し、子どもの家庭復帰、あるいは虐待の防止に向けて、関係機関が連携を図りながら取り組める体制をつくっていく必要があります。
 福祉局の来年度予算要求においても、こうした趣旨から、親に対するカウンセリングの充実、あるいはピアカウンセリングなどを含む虐待防止のネットワークづくりが挙げられていますが、深刻化する虐待に対応するには、これらの実施も含め、さまざまな虐待対策に取り組むべきと思いますが、見解を伺います。
 東京都女性財団の廃止問題についてです。
 まず、今回の廃止の方針に対して、大きな憤りと疑義を感じざるを得ません。廃止へ向けての都の進め方が余りにも早急で、乱暴過ぎます。庁内、また、さまざまな方々から寄せられる現状の女性財団のあり方は、改革、改善される必要が多分にあると思います。
 しかし、財団の内部検討や理事、評議員の中での検討がなきままに、財団は一定の役割を果たした、自助努力、採算をとる運営ができていないという一方的な理由で、財団のほとんどの職員、あるいは都からの出向職員を引き揚げるという生活文化局のやり方は、暴挙といわざるを得ません。
 まさに寝耳に水の今回の廃止方針に、多くの都民が戸惑いと批判の声を上げています。本当に財団は一定の役割を終えたのでしょうか。財政難の中で、効率的、効果的な監理団体改革はもちろん必要です。だからこそ、改革の方向性を、まず財団、生活文化局、利用者、団体がともに考えるべきです。
 東京構想二〇〇〇の中間のまとめでは、新しい東京の生活像として、個人が能力を発揮するに当たって、それを阻害する不合理な制約がない社会を実現しなければならないとしています。財団は、今後の改革によって、東京からその施策を全国、世界に発信できる可能性をいまだ私は持つものと考えます。今後の東京都の対応を伺います。
 最後に、私見として一言申し上げます。
 地方自治法の百三十二条では、議員は、無礼な言葉を使用し、他人の私生活にかかわる言論を禁止しております。また、行動においても、都議会では、国会とは違って、壇上からコップの水をぶちまける者など、一人もここには存在していません。それは、一千二百万都民から選ばれた首都東京の代表の一人一人として、私たちが、特に本会議場での言動に品格が求められることを自覚しているからにほかなりません。これは、知事も含め理事者の方々にも当てはまることではないでしょうか。今後の、知事を含め理事者の方々のきちっとした対応を望み、私の一般質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 寺山智雄議員の一般質問にお答えいたします。
 セーフティーネットに関する質問でありますけれども、私がこの東京構想二〇〇〇で考えたセーフティーネットなるものは、アメリカでいえばフェールセーフという社会的習慣についてでありましたけれども、多少そういう概念のとらえ方の食い違いがあるにしても、何といっても日本は自由経済社会でありますから、その競争原理として、失敗はあくまで自己責任だと思います。しかしなお、アメリカでも、アメリカの社会のダイナミズムを表象するフェールセーフの社会習慣というものは、創意のある試みに対しては周りが非常に寛容であるという、つまり、それが社会の柔軟性、活力というものを表象していると思いますけれども、いずれにしろ、日本における中小企業というものが競争原理にさらされながら悪戦苦闘しているのは、私もよく理解しております。
 しかし、原則として、これからの社会は、結果の平等ではなくて、積極的な挑戦を促す機会の平等、その成果を評価する新しい公正の原理が重視されるべきだと思っております。それが、また日本の社会をダイナミックにしていくゆえんであると思います。
 そのためにも、みずからの行動の責任は自分がとるということを前提にしながらも、なお、一度挑戦に失敗したことや、疾病に陥って立ち直れなくなったといった致命的な事態に陥らないように、それを社会的に保障するセーフティーネットをできるだけ驥尾に付して構築していく必要があると思いますが、これは、しかし、やはり限度の問題だと私は思います。そういう意味で、それを心得ながら、新しい東京構想の中で、東京においてそういう新しい社会的習慣というものを普遍していく努力をしたいと思っております。
 他の質問については、関係局長が答弁いたします。
  〔労働経済局長浪越勝海君登壇〕

○労働経済局長(浪越勝海君) セーフティーネットに関する三点のご質問にお答えいたします。
 まず、経営不振に陥っている中小企業者への支援についてでございますが、本来、事業の経営は、事業者の自己責任において行われるべきものであります。しかしながら、経営基盤が脆弱で経済環境の激しい変化等に対応できない中小企業に対して、都では、制度融資や転廃業を含む経営相談を行うなど、幅広く対応してきているところでございます。
 今後は、施策の一層の普及を図るなど、支援策を活用しないまま破綻するような事例ができるだけ生じないよう努めてまいります。
 次に、商店街対策の方向性についてのお尋ねですが、消費需要の低迷、後継者難、空き店舗の増加など、商店街を取り巻く環境にはまことに厳しいものがございます。
 都は、こうした状況を踏まえ、活力ある商店街育成事業や空き店舗活用推進事業などさまざまな商店街振興事業を実施し、その活性化に努めているところでございます。また、現在、来年三月を目途に策定を進めております商店街振興プランにおいて、二十一世紀の商店街が取り組むべき戦略を明らかにするとともに、地域の特性を熟知し、まちづくりに取り組んでいる区市町村と連携を図りながら、商店街の活性化を積極的に推進してまいります。
 最後に、労働相談についてのお尋ねでございますが、現在、労政事務所では、労働問題全般にわたる相談やあっせんを通じ、働く人々の悩みや労使紛争の解決を支援してきているところでございます。
 お話の、厳しい労働条件下にある、リストラに遭った中高年齢労働者等に対しては、特別相談会を実施するなど、きめ細かな対応をしているところでございます。また、相談者の利便性を高めるため、インターネットを活用したQ>A方式による労働相談や、個別的労使紛争を解決するための新たな仕組みづくりを検討しております。
 今後とも、都民の要望に的確に対応できるよう、労働相談体制の整備や機能の充実に努めてまいります。
  〔衛生局長今村皓一君登壇〕

○衛生局長(今村皓一君) セーフティーネット対策につきまして、二点のご質問にお答えいたします。
 まず、都立病院が担うべき医療への取り組みについてでございますが、都立病院は、これまで、一般の医療機関では対応が困難ながん医療などの高度医療、難病医療などの専門医療、並びに感染症医療、救急医療などの行政的医療を都民に提供することを基本的かつ重要な役割としてまいりました。
 都立病院改革会議では、都立病院が果たしてきたこうした役割も踏まえながら、都民の医療ニーズの動向や医療環境の変化などに対応した都立病院のあり方について、現在ご議論をいただいているところであります。来年夏に予定されている報告を踏まえ、今後、都立病院が担うべき医療を提供してまいります。
 次に、アレルギー疾患対策についてでございますが、ぜんそくやアトピー性皮膚炎に代表されるアレルギー疾患は近年増加の傾向にあり、その対策は保健衛生上の重要課題であると認識しております。
 このため、都は、平成十年に東京都アレルギー性疾患対策検討委員会を設置し、実態調査を行うとともに、アレルギー疾患ガイドブックの作成、ぜんそく患者等への自己管理支援事業の実施など、各種事業を行ってまいりました。
 今後、今年度末に予定されている検討委員会報告を踏まえ、アレルギー疾患対策の一層の推進に努めてまいります。
   〔生活文化局長高橋信行君登壇〕

○生活文化局長(高橋信行君) 最初に、心の東京革命の取り組みについてでありますが、心の東京革命は、次代を担う子どもたちに社会の基本的ルールなどを教え伝えていくため、家庭、学校、地域等で具体的な行動を実践していく運動であります。
 そのため、都は、都民の行動をサポートするため、行動プランに基づき、子育て支援の情報提供や地域における体験学習の場の提供、キャンペーンの展開など、さまざまな施策を実施しております。
 今後、都の施策の一層の充実に努めるとともに、地域や学校等が一体となった主体的かつ先進的な取り組み例をモデルとして設定し、他の地域に普及するよう、地域の具体的な取り組みの支援に努めてまいります。
 次に、女性財団事業の直営化についてでありますが、女性財団に対しましては、これまでも監理団体経営評価におきまして、財務面、事業面、組織面で一層の努力を必要とするとの指摘があり、そのための改善を促してまいりました。しかしながら、今般の監理団体総点検におけるゼロベースの見直しの中で、当財団は自立的な経営体として存続することが困難だと判断し、他団体との統合なども検討いたしましたが、適切な統合先も見当たらず、直営により普及啓発事業等を継続することとしたものであります。
 また、現下の重要課題である企業における参画促進や家庭内等における暴力問題などには、本庁とウィメンズプラザが一体となって、行政機関として責任を持って対応する必要があります。
 都としましては、財団がこうした趣旨を十分に踏まえて検討、対処されるよう、理解を求めてまいります。
   〔福祉局長高齢者施策推進室長兼務前川燿男君登壇〕

○福祉局長高齢者施策推進室長兼務(前川燿男君) 児童虐待につきまして、二点のご質問にお答えいたします。
 まず、児童の保護についてでありますが、現在、児童相談所の一時保護所や児童養護施設への入所児童数が、ここ数年に比べて増加をいたしており、入所の理由から見ますと、虐待や非行によるものがふえているのは、ご指摘のとおりであります。中長期的な動向につきましては、なお見きわめが必要であると考えておりますが、当面、早急に保護が必要な児童への応急的な対応について検討してまいりたいと思います。
 次に、児童の虐待への対応についてでありますが、児童の虐待は、大都市における家庭や地域の養育力、子どもを育てる力の低下といった客観的な状況に、親としての未熟さや貧困など個人的な要因が加わったときに生じるものと認識をいたしております。対応に当たりましては、福祉、医療、教育、警察などの関係機関が、地域社会の中で総合的に取り組む必要があります。
 都では、こうした観点から、児童相談所の機能強化を図るとともに、広く関係機関のネットワークづくりに努めてまいりました。今後とも、区市町村と連携しながら、対策の強化を図ってまいります。

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