平成十二年東京都議会会議録第十七号

○議長(渋谷守生君) 八十二番丸茂勇夫君。
   〔八十二番丸茂勇夫君登壇〕

○八十二番(丸茂勇夫君) 質問に先立ち、昨日の浜渦副知事の我が党の渡辺議員への答弁についてです。
 渡辺議員が、九月二十八日未明に浜渦副知事が目黒区内で酒に酔った上、都民との間でトラブルになり、目黒署に始末書まで提出していた事件について、事柄の重大性を指摘し、都民への謝罪を求めました。ところが、副知事からは、反省も謝罪もありませんでした。これは、見逃すことのできない重大な問題です。
 それは、みずからとった行為が、副知事という重い責任を持つ公人の立場として決して両立しないことへの自覚がないこと、さらに、昨日の石原知事の、副知事に対して十分注意したとか、議運理事会で本人は遺憾の意を表しており、十分自戒していると思うという答弁とは逆に、副知事本人は、反省さえしていないことを本会議場で表明したことにほかならないからです。
 したがって、我が党は改めて、副知事に厳しい反省に立って都民と議会に謝罪を求めるとともに、副知事を任命し指導監督する立場にある知事に、事件を調査し、厳正に対処することを強く求めるものであります。
 まず、青年問題について伺います。
 青年の雇用をめぐる実態は極めて深刻で、それを打開することは、二十一世紀の東京を展望したとき、避けて通ることのできない都政の重大問題です。
 東京都を含む南関東では、十五歳から二十四歳の失業率は、九〇年代の十年間で四%台から一〇%台へと急増し、全世代平均の二倍にもなっています。
 失業が増大する中でフリーターが急増し、全国的に、この十年間で二倍の百五十一万人にも達し、その多くは事業所が多い東京に集中しています。実に、十五歳から二十四歳までの雇用者の五人に一人はアルバイトやパートなのです。
 こうした青年の現状を、若者の甘えなどと、青年の個々人の責任にする議論もあります。しかし、問題の根本には、九〇年代に政府や財界が進めた異常ともいえるリストラ政策があり、民間、公務員を問わず、採用が大幅に抑制されたことがあります。
 東京労働局の資料で、九〇年代と九九年の高校、中学の卒業生に対する求人数を調べますと、高校生は、二十七万三千六十六人だった求人枠が四万六千百八十人、中学生は、一万二十七人が何と七百八十五人と一割以下になっているのです。フリーターの多くが、月収十二万円前後の賃金ではとても暮らしが成り立たず、晩婚化が一層進み、少子化の要因になっていることも見逃せません。
 私の地元大田区では、物づくりの技術が若い世代に受け継がれないと、業者の後継者問題が深刻です。さらには、今日のような青年の社会保険の未加入者の増大は、年金など社会保障制度そのものを崩しかねません。
 朝日生命のリポートでも、若年層の雇用機会の減少を放置しておくことは、我が国経済の持つ潜在的な生産能力において、質、量の両面でマイナスと警鐘を鳴らしています。
 青年の雇用をめぐる問題は社会全体の大問題であり、こうした事態を放置するなら、青年にとっての苦しみにとどまらず、二十一世紀の東京全体の社会や経済に深刻な矛盾を広げることになることです。
 知事、このような青年の放置できない現状をどのように見ていますか。また、切実な青年の声や願いにどうこたえますか。所見を伺います。
 次に、解決が求められている雇用を拡大する問題です。
 今の青年は、各種のアンケートを見ても、社会に役立つ仕事をするために技術を習得したい、学んだことを生かし働きたいなど、まじめに働きたいと考えているのですが、雇用枠そのものが少ないことが問題なのです。
 また、女性の就職差別をなくす運動をしている泣き寝入りをしない女子学生の会のアンケートでは、就職活動自体が困難で、大学三年生の一月から就職活動を始めるのがほとんどで、学業との両立さえ困難であるとか、就職活動に二十万円前後もかかるなどという声が多数寄せられています。
 都は、高校生の採用開始時期等について、取り決めを厳守するよう文書も出しています。また、日経連と大学関係団体も、卒業年時以前の採用活動は、学業に支障を来すので行わないよう申し合わせを行っています。しかし、いずれも十分守られていないのが実態です。
 そこで、青年の雇用を拡大するためには、まず、都が採用枠の拡大に真剣に取り組むことです。東京は、全国でも最も多く企業が集中しておりその効果ははかり知れないものがあります。しかも、社会生産性本部も指摘しているように、違法なサービス残業をなくすことで、新たな雇用枠が数十万人拡大することができるのです。都として、企業に採用枠の拡大に取り組むよう、積極的に働きかけるべきです。
 女子学生の就職差別をなくすなど、就職の機会均等を図り、秩序ある採用活動ができるよう、就職ルールを確立し実行させることです。あわせてお答えください。
 また、都自身が努力すれば、青年の雇用枠を確実に拡大できる分野があります。都立病院の看護婦、消防士、学校の先生など、都民の暮らしを支えるもので、若い人の中で希望者も多数います。
 特に学校教育の分野では、若い先生の採用は待ったなしの問題です。都内の小学校では、五十代の先生が三四%なのに、二十代の先生はわずか七%です。このままでは、数年後には五十代の先生が大量に退職するので、学校運営にも支障を来すようになります。
 教職員の新規採用を計画的にふやし、若い先生の比率を高めるべきです。お答えください。
 最後に、フリーターへの支援を抜本的に強めることです。
 フリーターといわれる青年には、再就職への支援を初め、さまざまな要因があり、対応も複雑です。
 ことしの夏、ディズニーランドで働くたくさんのアルバイト青年のところに、突如、厚生年金の保険料五十万円の請求書が届き、びっくりして私どもに相談に来ました。会社が年金と社会保険への加入手続をサボっていたことがわかり、交渉の結果、会社が全額負担して解決しました。
 ところが、社会保障や労働基準法など、働く際の基本的なことは知らされていない、実際に問題が起きても、解決の相談もどこにどうしたらいいかわからず、悩んでいる例が多いのです。
 こうした実態を見るならば、これまでの延長線でなく、実効ある対策が急務であることは明らかです。
 まず、都技術専門校は、統廃合でなく、定員枠を抜本的に拡大し、内容も青年の要求に合ったものに改善すること。イギリスやドイツ、フランスでは、資格取得のための訓練費用と生活費の助成など、抜本的な対策で青年の雇用を大幅にふやしていますが、これらに学び、失業給付のない青年が資格を取るための職業訓練手当や生活費について、都として助成することです。
 さらに、青年の生活サイクルや労働実態に合わせて、いつでも相談が受けられ、社会保険、就労、労働条件など多面的な内容に対応できるような体制、例えばホームページやメール相談、フリーター一一〇番などを行うことです。
 以上、述べてきたように、フリーターなどへの支援は、単に雇用の問題のみならず、社会問題として、これまでの労働行政の枠を超えて、都政全体で取り組む新たな対応が求められていますが、どのような姿勢で臨むのか、知事の姿勢を伺います。
 次に、二十一世紀の東京の活力にとって大事な課題である中小企業振興について伺います。
 東京の中小企業は、都内各地に密着して産業を集積し、全事業所の九九%を占め、就業者数では約七割と、雇用の面でも重要な役割を果たしています。ところが、東京は、工場数でも従業者数でも、二十年前と比べてそれぞれ三〇%を超える減少で、主要四大都市圏である神奈川、愛知、大阪と比べ、一番大きく落ち込んでいるのであります。私は、東京の産業の基礎となる物づくりに焦点を当てて、何点か伺います。
 知事は、所信表明で、東京には、機械・金属の城南、繊維・雑貨の城東など、我が国の物づくりを支えてきた産業集積の存在と、その産業集積が、海外生産の増加、長期不況の中、地域内の企業数が減少し、支え合いの構造が崩れ、ひいては技術力が低下することへの懸念まで触れられました。また、まちづくりと産業政策の両面から、今ある集積地を支援することも述べています。
 そこで、まず都として工業振興プランを策定し、そのプランに東京の三大集積産業を位置づけ、支援の仕組みをつくるよう求めるものですが、知事の答弁を求めます。
 さて、知事が危惧された城南、城東の物づくりは、今、都の独自事業である工業集積活性化支援事業の適用を受け、新製品開発など意欲を持って頑張っています。しかし、最初に指定を受けた大田区、品川区、墨田区、足立区は今年度が最終年で、知事の所信表明とは裏腹に、事業が打ち切られようとしているのです。
 知事、地元大田区では、この事業の適用継続を強く求め、二十三区区長会としても事業の継続を求めると聞いています。二十一世紀に物づくりを橋渡しする事業として、適用を継続し、拡充することを重ねて求めるものです。答弁を求めます。
 国には、地場産業の支援策の一つに、市町村や異業種等の任意グループでも、また都道府県等が主宰する事業であれば補助を受けられる地場産業創出・育成支援事業があります。この事業は、調査費、地域グループ活動事業費、試作品等開発費などに国が二分の一補助するもので、都としての活用が急がれていますが、見解を伺います。
 さらに、国は、基盤技術振興法を制定し、基幹的産業である製造業の発展を支えるため、物づくり基盤技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するとしています。昨年三月、法成立以来、一年と八カ月を経ようとしています。私が昨年の七月議会で、法に基づく都の対応について伺った際に、知事は、国との整合性を図りながら対応を検討したいと答弁されましたが、一向に具体策が見えてきません。
 私がこの事業を活用してぜひ取り組んでほしいと考えているものが、物づくりの技術継承、人材育成です。熟練技能者の確保、技能の継承問題では、加工、組み立て、精度の高い技能の習得に十五年以上を要するものもあり、現状が改善されない限り、五年後には何らかの障害が生じるとショッキングな指摘もされています。
 この問題をどう打開するかについて、都として中長期的な展望を持った緊急の打開策を打ち出すことが重要だと考えますが、これまでにどのような施策を検討したのか、改めて伺います。
 中小企業にとって、厳しい環境を乗り越えて生き抜いていくためには、IT、情報技術は避けて通れない課題です。それは、仕事発注に際し、インターネットを通じて三次元の映像が送られ、それを分解してそれぞれの部品を製作するシステムがふえているからです。また、新たな製品開発や、それを商品化し、事業として成り立たせる上でもITは欠かせません。
 先日、大田区のある企業の新製品開発を見てきました。建設残土や木くずなどの廃棄物を焼成せずに少量のセメントで固形化する技術で、建築材料などの用途が期待でき、三宅島の降灰も再製品化が可能だというものです。もともとこの企業は、自動車メーカーの下請として技術を蓄積してきたもので、都の産業技術研究所や工業大学の協力のもとに、事業化に大きく踏み出そうとしているものです。ITはこうした技術や製作品の紹介などを受注に結びつける上でも重要です。
 一方、こうしたIT化に追いつけない企業も多く、どう手を差し伸べ支援していくかが急がれています。
 そこで、先ほど若い世代の雇用問題を取り上げましたが、現在の若者は、インターネットはお手の物です。この若い力と職人とを取り持つIT塾の設置など、仕組みづくりが大事になっているのではないでしょうか。パソコン導入など、IT対応の補助も検討すべきです。あわせて答弁を求めます。
 最後に、物づくりの現状は暗いものばかりでないことも触れておきたいと思います。
 それは、日本の物づくりが世界に対して独占的に供給している部品、材料、それに工作機械がこのところふえているとの指摘があるからです。アメリカ・ビッグスリーの自動車メーカーの車体プレス金型はすべて日本製、半導体を生産するシリコンウエハーにおける日本のシェアは七割を超え、さらに携帯電話用リチウムイオン電池は、日本企業が開発し、独占しているとのことです。
 このように、中小企業は常に技術革新を図りながら、より精密で軽量、小型化、安定化を目指して物づくりに力を尽くしています。ですから、こうした可能性を秘めた中小企業は、物づくりを飛躍的に高めるかなめとして、機械設備のレベルアップをし、仕事量もふやしたい、そうすれば売り上げも伸びると考えています。
 私は、こうした要求にこたえる施策や設備投資に、事業が一定の軌道に乗るまで、無利子もしくは低利の据置期間の長い特別融資を検討すべきだと考えます。答弁を求めて、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 丸茂勇夫議員の一般質問にお答えいたします。
 青年の雇用問題も、やはり国全体の経済動向いかんにかかっていると思います。若者の多くは、みずからの努力で未来を切り開き、意欲を持って仕事について、社会に貢献していきたいと思っております。それが真の若さというものでありましょう。
 一方、依然として、この日本社会、総じて厳しい就職環境でありまして、そういう状況の中で、自分の希望する職業になかなかつけずに、やむなくアルバイトやパートタイマーを選択する者も大勢おります。このような若者に対して、安定した就労の確保が図られるように、職業相談や技能の習得など、総合的な支援策の充実に努めていきたいと思っております。
 次いで、フリーターへの支援についてでありますが、現代の若者の就労形態は、その人生観や価値観に基づいて、なかなかさまざまでありまして、中には最初からフリーターを希望する者がありますが、大多数は、能力も意欲もありながら、厳しい就職環境などの中で就業ができずに、その力を十分に発揮できない若者が多い状況でありまして、こういうことは、本人にとっても社会にとっても大きな損失であると思います。
 都としましては、こうした若者が希望する職業につき、充実した生活が送れますように、総合的な施策を展開して充実を図っていきたいと思っております。
 なお、その他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長横山洋吉君登壇〕

○教育長(横山洋吉君) 教職員の新規採用についてのお尋ねでございますが、採用数は、ご案内のとおり、児童生徒数の増減、退職者数、定数改善等の要因により決定されますが、若い教師をふやすことにつきましては、学校運営の活性化のために望ましい面もございますので、今後とも、国の計画を踏まえた定数改善や勧奨退職制度の活用等によりまして、新規採用教職員の拡大に努めてまいります。
   〔労働経済局長浪越勝海君登壇〕

○労働経済局長(浪越勝海君) 七点のご質問にお答えいたします。
 まず、学生等に対する採用枠の拡大及び就職ルールの確立についてでございますが、採用枠の拡大や就職ルールの確立についての指導は国が主たる役割を担っており、先般、主要経営者団体に対し、採用枠の拡大の要請を行ったと聞いております。
 都は、公平公正で秩序ある採用活動が行われるよう、セミナーの実施や啓発資料の配布などを通じまして、企業の啓発、指導に努めてきたところでございます。今後とも、東京労働局等の関係機関と連携し、企業における適正な採用の促進に努めてまいります。
 次に、中小企業対策における地場産業の支援についてでございますが、東京の地場産業は、都民生活の快適さと利便性、文化の向上や雇用の場の確保に大きく寄与し、地域経済活力の源泉となっており、東京の産業の再生に大きく貢献するものと考えております。業界が意欲を持ってみずからの課題を整理し、克服すべき方向性を打ち出すべく、みずからの振興プランを策定する場合には、都はこれまで同様支援してまいります。
 次に、工業集積地域活性化支援事業についてのお尋ねでございますが、この事業は、工業集積地域の活性化を図ることを目的に、地域を指定し、五年間にわたり支援していく事業でございます。平成八年度から毎年度四地域、今年度までに合計二十地域を指定し、当初の計画どおり、今年度で地域指定を終了することとなっております。なお、今後の地域の工業振興施策のあり方については、区市等と意見の交換を行いながら、この事業の具体的な成果を検証した上で検討してまいります。
 次に、地場産業の支援に対する取り組みについてでございますが、都は既に、地場産業を積極的に支援するため、伝統工芸、繊維、皮革及び印刷などの各分野において、新商品企画開発、販路開拓、人材養成事業などの支援事業を実施し、その振興を図っているところでございます。今後とも、引き続き地場産業の振興に努めてまいります。
 次に、ものづくり基盤技術振興基本法に基づく施策についてのお尋ねでございますが、東京の活力を支えてきた物づくりが、若者の物づくり離れや技能者の高齢化によって厳しい状況にあると認識しております。都はこれまでも、物づくり基盤技術を支えるために、試験研究機関における技術指導、事業主団体等が行う後継者育成事業を助成するなど、支援を行ってきたところでございます。ご指摘の法律に基づく施策づくりにつきましては、国の基本計画を踏まえながら対応を検討してまいります。
 次に、中小企業のIT化への支援についてのお尋ねですが、最近、国を初め、商工会議所、民間などでさまざまなIT関連の講習会等が行われています。都でも、産業技術研究所において、企業の技術者を対象に、物づくりに直結した実習を伴うIT研修を開催するとともに、技術専門校においても、在職者を対象にIT能力向上訓練を実施するなど、中小企業のIT化支援に取り組んでいるところでございます。
 また、中小企業が技術開発などでIT機器を導入する際に、必要な設備資金などを、低利で融資を行っております。今後とも、中小企業がみずから取り組むIT化を支援してまいります。
 最後に、物づくりを進めるための特別融資についてのお尋ねですが、都は従来から、中小企業の物づくりの基盤となる機械設備等の整備を支援するため、制度融資による長期資金融資や、中小企業振興公社による無利子の設備資金貸し付け及び長期、低利のリースなどによる設備貸与制度を設けております。今後とも、これらの制度を一層活用し、都内中小企業が行う物づくりに対して支援してまいります。

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