委員長 | 大津 浩子君 |
副委員長 | 橘 正剛君 |
副委員長 | 服部ゆくお君 |
副委員長 | 増子 博樹君 |
理事 | 松葉多美子君 |
理事 | いのつめまさみ君 |
理事 | 吉原 修君 |
加藤 雅之君 | |
田中 健君 | |
早坂 義弘君 | |
中屋 文孝君 | |
西崎 光子君 | |
中谷 祐二君 | |
神野 吉弘君 | |
興津 秀憲君 | |
吉田 信夫君 | |
三宅 茂樹君 |
欠席委員 なし
出席説明員総務局 | 局長 | 笠井 謙一君 |
危機管理監 | 醍醐 勇司君 | |
総務部長 | 山手 斉君 | |
総合防災部長 | 村松 明典君 | |
企画調整担当部長 | 箕輪 泰夫君 | |
特命担当部長 | 榎本 雅人君 |
委員外の出席者
参考人
東京大学地震研究所教授 佐竹 健治君
明治大学大学院政治経済学研究科特任教授兼危機管理研究センター研究員 中林 一樹君
本日の会議に付した事件
東日本大震災を踏まえ、東京都地域防災計画の見直しに向け、今後、東京で発生が懸念されている大規模地震などへの対策をあらゆる角度から強化することについて調査・検討する。
参考人からの意見聴取
・東日本大震災を踏まえた東京都地域防災計画の見直しについて
○大津委員長 ただいまから防災対策特別委員会を開会いたします。
これより、東日本大震災を踏まえ、東京都地域防災計画の見直しに向け、今後、東京で発生が懸念されている大規模地震などへの対策をあらゆる角度から強化することについて調査・検討を行います。
本日は、お手元配布の会議日程のとおり、参考人からの意見聴取を行います。
なお、参考人からの意見聴取については、先ほどの理事会において、お手元配布の実施要領のとおり運営していくことを申し合わせました。ご了承願います。
これより、参考人からの意見聴取を行います。
本日は、東日本大震災を踏まえた東京都地域防災計画の見直しについて、東京大学地震研究所教授の佐竹健治さん及び明治大学大学院政治経済学研究科特任教授兼危機管理研究センター研究員の中林一樹さんから順次意見を聴取いたします。
それでは、佐竹参考人、ご発言席にご移動をお願いいたします。
ご紹介いたします。
東京大学地震研究所教授で、地震火山情報センター、センター長の佐竹健治さんです。
本日は、ご多忙のところ、委員会にご出席いただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして御礼申し上げます。
東日本大震災を踏まえた東京都地域防災計画の見直しについて、これに関しまして、特に津波に関する最新の知見について、ご専門の立場からご意見をお伺いしたいと思います。
なお、佐竹参考人には、ご着席のまま発言していただきたいと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。
○佐竹参考人 東京大学地震研究所の佐竹と申します。
本日は、東京都における津波についてお話をさせていただきたいと思います。
昨年三月十一日の東日本大震災による津波は、北海道から千葉県までの太平洋岸に大きな被害をもたらし、中でも、岩手、宮城、福島の三県では、死者、行方不明者が二万人近くにも上る大災害となりました。
この津波を起こしたのは、気象庁によって二〇一一年東北地方太平洋沖地震と命名された地震でございます。
地震という単語は、二つの意味で利用されています。一般には、地震というのは地面が揺れることを指しておりまして、けさの地震とか、震度三の地震などというふうに使われております。一方、我々専門家、地震学では、地面の揺れのことは地震動と呼んでおりまして、その大きさを震度というスケールであらわしております。そして、その地震動をもたらす原因となる地学現象のことを地震と呼んでおり、東北地方太平洋沖地震ですとか、関東地震などと呼んでおります。この意味での地震の規模は、マグニチュード、いわゆるMであらわしております。
日本周辺では、太平洋プレートとフィリピン海プレートとが日本列島に衝突して潜り込む沈み込み帯となっております。このようなプレート境界では、沈み込むプレートが、その上にある陸地を引きずり込み、変形することによって、ひずみが蓄積します。プレート同士の速さ、相対速度、速さは年間数センチと、つめが伸びるほどの速さ、非常にゆっくりしたものでございますが、これが百年間続きますと数メートルにもなり、変形の限界に達して、もとに戻ろうとしてはね返ります。このようにして、地下の岩石が、ある面を境にずれ動くことを断層運動と呼んでおり、その際の衝撃が波となって伝わっていくのが地震波でございます。
このように、地下で断層運動が発生しますと、その上の地表面、あるいは海底には地殻変動が発生いたします。東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震の場合、海底が五メートル以上隆起した、上下に動いたということが観測から明らかにされております。海底の広い範囲でこのような地殻変動が発生しますと、その変動がそのまま海面に生じて、これが津波の発生源となります。
プレートが沈み込む日本海溝や相模トラフは、水深が数千メートル程度ありますけれども、巨大地震の地殻変動が及ぶ領域というのは、これに比べてずっと大きなスケール、数十キロから数百キロというスケールで発生しますので、海底の変動と水面の変動は同じであるとみなすことができます。
このようにして発生した津波の伝わる速さは、専門的なことを申しますと、水深と重力加速度との積の平方根であらわすことができます。つまり、水深が大きいほど津波は速く伝わります。例えば水深四千メートルの深海ですと、津波の伝わる速さは時速七百二十キロとジェット機並みのスピードで伝わります。一方、水深が浅くなって、例えば二百メートルになりますと、時速百六十キロと特急列車程度、東京湾のように水深が二十メートル程度になりますと、時速五十キロ程度、自動車程度の速さというふうに遅くなります。
その一方で、津波の大きさですね、津波の高さというのは、沿岸に近づくにつれて大きくなります。津波の高さは、ある仮定のもとでは水深比の四分の一乗に比例するということが知られております。つまり、水深三千二百メートルから二百メートルまで、例えば水深が十六分の一になりますと、津波の高さは二倍になります。そして、水深二百メートルから十メートルまでの間には、さらに二倍になります。海底が徐々に浅くなる場合には、水深が三千メートルから十メートルまで変わる間に、津波の高さは四倍にもなるわけでございます。
津波の性質について、もう少し述べておきたいと思います。
津波が、通常の波、波浪と決定的に異なるのは、その長さ、波長と呼んでございますが、波の長さでございます。波の長さというのは、波は山と谷がありますが、その山から山までの距離です。これを海岸のように一カ所にとどまって波が通過するのを見ている場合には、波の山が来て、その次の山が来るまでの時間、これを周期と呼んでございますが、周期も異なります。
通常の波、波浪の場合は、波長、波の長さは百メートル程度、周期、波が上がって下がる、下がってまた上がるまでの時間は十秒程度です。
一方、津波の場合には、先ほど申しましたが、波長は数十キロ以上、それから周期は数分から数十分と長く、通常の波とは全く異なるわけでございます。
通常の波というのは十秒程度押したり引いたりするんですけれども、津波の場合は数分から数十分間も海面が上昇し続けるわけでございます。そうしますと、これは波というよりは、もう洪水というイメージでございます。専門的になりますが、流体力学的には、通常の波、波浪は、波長が水深より短く、それから主に風によって水の表面だけが運動をするわけでございます。そのために、表面波、あるいは深水波、深い水の波などと呼ばれております。
一方、津波に関しましては、波長、波の長さが水深に比べてずっと大きく、海面付近から海底までの水が同じように運動することから、長波、長い波、あるいは浅水波、浅い水の波というふうに呼ばれております。
津波の高さは、海岸付近の地形によっても大きく変化します。一般には、津波が大きくなるのは、湾の奥、あるいは岬の先端などでございます。V字型の湾の奥では、湾の海岸で反射を繰り返した波が集中するほか、湾に入ってくる津波の周期がその湾の固有の周期と一致する場合には、共鳴現象ということによって大きくなります。津波の大きさ、高さが大きくなります。
後で詳しく述べますが、東京湾はV字ではなく、どちらかというとU字型をしておりますので、エネルギーが一カ所に集中するということはございません。
岬の先端では、海底の地形の影響で津波が集まるために大きくなる傾向がございます。三陸海岸などのリアス式海岸では、大小の湾が数多くあるために、津波の大きさが局所的に大きく変化することになります。
このような津波の伝わる様子といいますのは、コンピューターシミュレーションによって再現することができます。先ほど申しましたように、津波の伝わる速さというのは、水深、海の深さによって決まりますので、実際の海の深さを格子状に格子点で与えて、流体力学的な基本式、これは運動方程式と連続の式というふうに呼んでございますが、これを差分法、有限要素法というような数値的な方法によって解くと、コンピューターの中で解くというのがシミュレーションでございます。
津波は海面から海底までが同時に動きますので、深さ方向には一つの格子でよいのでございますが、水平方向にはなるべく細かい格子を用います。通常、深海では数百メートルから数キロメートルの格子、海岸近くでは数十メートル程度の格子点を用いてシミュレーションを行っております。
東京都の推定では、外洋では八百十メートルの計算格子を使い、沿岸に近づくにつれて二百七十メートル、九十メートル、三十メートルと、三分の一ずつ小さくしていき、最後に、津波の高さを計算しますと、東京湾の沿岸では十メートルの格子を用いております。
以上、津波の発生とそのシミュレーションについて、基本的なことを申し上げました。
次に、東京湾の津波について、資料を使ってご説明したいんですけれども、資料の中で、まず津波の高さや、それから堤防の高さについて、その定義と基準面ということをご説明いたします。
資料の二枚目をごらんください。
津波の高さといいますのは、平常の潮位、つまり津波が来なかったときの潮位、海面からはかります。したがって、満潮時に津波が来ても、あるいは干潮のときに津波が来ても、その高さというのは同じです。このようにして定義した津波の高さというのは、潮汐や気象条件によらず、先ほど申しました海底地殻変動と、それから津波の伝わり方のみで決まることになります。
ちなみに、東京湾においては、満潮時と干潮時、潮が満ちたときと引いたときでは、海面の高さは約二メートルの差がございます。
一方、防潮堤などの高さは、陸地に固定した基準面からはかります。基準面としては幾つかあるのでございますが、東京湾では東京ペールと、略称TPと呼ばれる東京湾平均海水面というものがよく用いられております。これ以外に、荒川ペール、略称APと呼ばれる荒川工事基準面がございます。
東京湾平均海水面ですが、TPといいますのは、満潮時の海面の高さと干潮時の海面の高さの平均でございます。通常、陸上の標高、海抜は、このTPからはかります。一方、AP、荒川工事基準面は、隅田川河口の霊岸島での観測結果から決めたもので、大潮の干潮時の海水面とほぼ等しい高さ、すなわち、これ以上は海水が低くならないという最低の海面でございます。
海図などに示します水深といいますのは、東京湾の場合はAPですが、APなどの干潮時の最低潮位面からはかります。これは、さもないと船舶などが干潮時に座礁してしまうおそれがあるからでございます。
先ほど申しましたように、東京湾での干満差、満潮と干潮の差というのは約二メーターございますので、満潮時の海水面、つまり高潮位面ですけれども、これはAPからはかると二メートル、それからTP、平均海水面からはかると一メートルとなります。
以下では、この基準面としては、すべてTP、東京湾平均海水面に統一いたします。ですから、津波とは関係なく、満潮時には海面がTPプラス一メートルになり、干潮時にはTPマイナス一メートルになるということをご留意いただきたいと思います。
その次のページの図は、国土地理院によって作成された東京都心部の標高をあらわしたものでございます。
詳細な標高データを用いることによって、東京の地形がよくわかるかと思います。いわゆる山の手と下町が明確に分かれていること、それから、山の手にも河川によって削られた谷地形があることというのがおわかりいただけるかと存じます。このような地形は、地震の際の揺れ、すなわち震度にも大きく影響いたします。
津波に関してご注目いただきたいのは、荒川沿いの低地でございます。区でいいますと、墨田区、江東区、葛飾区、江戸川区などは海抜が低い、いわゆるゼロメートル地帯が広がってございます。ゼロメートルというのは、先ほどいった標高、TPからはかりますので、平均海水面より低いところを指すわけでございます。
さらに、この中にはTPマイナス一メートル、海抜ですけれども、TPからはかってマイナス一メートルよりも低い場所もございます。TPマイナス一より低いということは、干潮時の海面よりも低いということでございますから、これは堤防がなければ常に浸水してしまうような地域でございます。
また、TPプラス一メートルより低いところ、これには先ほどの四区、墨田、江東、葛飾、江戸川のほかに荒川区、足立区なども含まれてございますが、この黄色で囲ったところでございますが、ここでは満潮時の海水面よりも低いわけですから、堤防がもしない場合には、毎日少なくとも二度は、津波が来なくても満潮時には浸水する地域というふうになってまいります。
このようなゼロメートル地帯を浸水から守るため、さらには台風時に発生する高潮による浸水から守るために、東京湾では防潮堤が築かれており、この防潮堤の高さというのは、TPからはかって三・五メートル以上となってございます。
高潮自体の高さは、過去の記録から二・五メートル程度というふうに想定されておりまして、これに、先ほどから申し上げております満潮時の水面を加えることによって、TPプラス三・五メートル以上というのが東京湾における防潮堤の高さとなっております。
東京湾におきましては、このような防潮堤が築かれておりますので、後から申し上げます津波の被害想定の結果は、結論から申してしまいますと、津波がこれを上回ることがないということが明らかになりました。
次に、昨年の東日本大震災の際の東京湾における津波についてご説明いたします。
二〇一一年東北地方太平洋沖地震による津波の高さにつきましては、我々も含めました大学などの研究者によって測定されております。その結果は、津波合同調査グループとしてまとめられてございます。
岩手県の三陸沿岸では、最高四十メートル近くの津波の高さが測定されてございます。
関東地方におきましては、千葉県の旭市飯岡、六ページ目の地図に、右上の方にございますけれども、旭市の飯岡付近では七・六メートルと最も高く、ここでは津波によって十四名の死者が発生してございます。その南の外房では、津波の高さは二メートルから四メートル程度でございました。
東京湾内におきましては、このグループによっては、報告では、木更津で二・五メートル、船橋で二・八メートルというように報告されてございますが、次にお示ししますように、機械的に記録された、観測された津波の高さといいますのは、九十センチから一・五メートル程度でございました。
海面のこの時間的な変化を記録するために検潮所という設備がございます。これは、七ページの右上の図にございますが、海岸付近に井戸を掘ったり、その下の写真にございますようなセンサーを設置したりして、海面の高さが時間とともにどう変わっていくかというものをはかるのが検潮所というものでございます。
お手元の左上の図は、昨年の三月十一日の正午から翌々日、つまり三月十三日の午後六時までの間の海面の変化を示したものでございます。
毎日二回ある潮の満ち干、干満によって海面が最大二メートル近く変化すると申し上げましたが、そのような潮の満ち干、満潮、干潮を繰り返す中で、さらに時間的に速く変動する津波の様子が記録されてございます。
時間的に速いと申し上げましたけれども、下にあります横軸に時間がとってございますので、これをご参照いただきますと、それぞれの波、つまり山と山の間の時間は--山から山の時間、先ほど申しましたように周期でございますが、これは、例えば東京晴海の巨大津波計の記録ですと約一時間程度、これをごらんいただきますと、最初に、十五時、十六時ごろに山が来ておりまして、その後、海面が下がっております。それから、また上がっておりますが、その間の時間は約一時間ほどかかっております。つまり、三十分間はずっと海面が上がり続けて、その後、三十分間はまた海面がずっと下がり続けるというような運動をしているわけでございます。
既に説明しましたが、この東京晴海の巨大と書いてございますのは、右下にありますような、写真にございますような、東京の晴海に気象庁によって設置された巨大津波計の記録でございます。巨大津波と、巨大と書いてございますのは、巨大な津波によっても破壊されることなく測定できるセンサーという意味で巨大津波計という名前がつけられてございます。この晴海の巨大津波計では、最大一・五メートルの津波が記録されてございます。この一・五メートルという高さは、最初に申し上げましたように、通常の潮位から測定したものでございます。
その次に、東京湾の地形についてご説明したいと思います。次のページの図をごらんください。
東京湾といいますのは、海上交通安全法上は、三浦半島南端の剣崎と房総半島の西端の洲崎を結んだ線から北の海域というふうにされてございますが、通常は、三浦半島の観音崎と房総半島の富津岬を結ぶ線、浦賀水道と呼んでございますが、この間はわずか六キロほどしかございませんが、この線よりも北側を狭義の意味での東京湾というふうに呼んでございます。この狭義の東京湾というのは、水深が平均十七メートルと非常に浅い海となってございます。この狭義の東京湾の面積、観音崎から富津岬を結んだ線より北側の東京湾の面積というのは約九百平方キロとなってございまして、これは琵琶湖よりも広い面積でございます。
これに、先ほど申しました平均水深約十七メートルですが、これを乗じますと、水のかさ、水の容積というものを計算することができますが、その水の容積は約十六立方キロメートルとなってございます。これは、琵琶湖の場合は、先ほど申しましたように、面積は狭義の東京湾の約三分の二、六百七十平方キロメートル程度しかございませんが、平均水深が四十一メートルとありますので、水の容積は二十八立方キロメートルとなります。つまり、東京湾の中にある水の量というのは、面積がずっと小さな琵琶湖の水の量の半分ぐらいしかないということでございます。つまり、狭義の東京湾というのは、非常に浅い海で水が余りない、余りないといってはおかしいんですが、水の量が非常に少ないということです。
そのページの左側の図をごらんいただきますと、海上保安庁によってつくられた海底地形図でございます。
これをごらんいただきますと、観音崎のあたりで水深が急に浅くなっている、小さくなっているということがおわかりいただけるかと思います。つまり、相模湾から入ってきた水--相模湾の方から見ますと、観音崎のところまで来ますと水深が急に浅くなります。それで、先ほど申しましたように、狭義の東京湾の中では十七メートル程度しかございません。このように、水深が急に小さくなりますと、津波が入ってきた場合は、そのエネルギーは大部分が反射してしまいます。つまり、その湾の中には入っていかない、入りにくいということになります。
一番最初に、津波の高さは水深が浅くなるにつれて大きくなるというふうに申し上げたのでございますが、東京湾のように入り口に急ながけがある場合には、大部分のエネルギーは、そもそもここで反射されてしまいますので、中に入っていきにくいということになってございます。
お手元の九枚目の図に、昨年の東北地方太平洋沖地震を含め、後で述べます元禄の関東地震、あるいは大正の関東地震による津波の高さをまとめてございますが、これを見ますと、外房や浦賀水道に比べますと、東京湾の中、特に一番奥の東京都の沿岸では、津波の高さは低くなっているということがごらんいただけるかと思います。先ほどの地形図でご説明しましたように、津波のエネルギーというのが浦賀水道付近で反射してしまって、東京湾の中には入り込めなかったというのが原因と考えられております。
それでは、次に、一九二三年の大正関東地震と一七〇三年の元禄関東地震についてご説明いたします。
東京湾に最も大きな津波をもたらす原因となる地震は、関東地震と呼ばれるタイプのものでございます。これは、三浦半島から相模湾内に震源を持つ地震で、フィリピン海プレートと陸地の境界面で繰り返し発生するプレート間の巨大地震でございます。
一番最近は、一九二三年九月一日に発生しまして、関東大震災の原因となった地震でございます。これは大正関東地震というふうに呼ばれております。この大正関東地震の際、三浦半島や房総半島は一・五メートル程度隆起いたしました。土地が高くなったわけでございます。一方で、丹沢周辺の山地では一メートル近く沈降したということが知られております。
また、相模湾の熱海や伊東では津波が襲いまして、その高さは十メートルを超えるほど大きかったというふうにされております。また、次のページに写真があったと思いますが、鎌倉でも津波による被害が発生しております。
関東大震災による死者の数は約十万名とされておりますが、その九割近くは火事による焼死者でした。一方で、津波による死者も約三百名程度あったというふうにされてございます。にもかかわらず、東京湾の中における津波の高さというのは数十センチ程度でございました。
次のページに、大正関東地震のときに東京湾で記録された、検潮所で記録された、機械的に記録されたものを示してございます。ごらんいただきますと、これは芝浦、それから深川、それから千葉の検潮所、それから隅田川沿いの本所、呉服橋、白鬚橋という検潮所の記録でございます。
ここでは高さを尺で示してございますけれども、左下をごらんいただきますと、芝浦の検潮所では四尺程度、一・二メートル程度の潮位変化の上に、二尺、六十センチ程度の津波が記録されてございます。
上の隅田川沿いの呉服橋、白鬚橋などでも津波が記録されておりますけれども、これは満潮時と干潮時の潮位差を超えるものではございませんでした。
大正関東地震の二百二十年前、江戸時代中期の一七〇三年十二月三十一日、旧暦で申しますと元禄十六年十一月二十三日にも関東地震が発生しており、これは元禄関東地震というふうに呼ばれております。
元禄関東地震の際にも、三浦半島が約一メートル隆起したこと、それから、相模湾沿岸では数メートルの津波が襲ったということが知られてございます。このときには、東京湾内での津波は二メートル程度というふうにされてございますが、これは古文書に基づくもので、それほど正確な数字ではございません。
それから、相模湾や三浦半島では、大正関東地震と元禄関東地震は同じような地殻変動、海岸の変化や津波をもたらしました。一方、房総半島の南端、館山市付近では、大正関東地震の際には一メートル程度隆起したのに対し、元禄関東地震の際には五メートルから六メートルも隆起しております。また、外房では、大正関東地震の際には津波の高さが一、二メートルであったものが、元禄地震の際には五メートル程度と、ずっと大きな津波があったということが古文書の調査からは明らかにされてございます。
政府の地震調査研究推進本部では、日本付近の海溝型地震の長期評価を公表しており、これには関東地震も含まれております。地震本部の評価では、関東地震を大正型と元禄型とに分類し、これらの地震の繰り返し間隔をそれぞれ、大正型が二百年から四百年、それから元禄型が二千三百年というふうに推定してございます。
大正型の関東地震につきましては、二百年から四百年の繰り返し間隔で発生し、最後に発生したのが一九二三年、現在は、それから八十八年たったところということになります。これよりやや規模の大きい元禄型の関東地震というのは、約二千三百年間隔で繰り返して発生しており、最後に発生したのが一七〇三年、現在は、それから三百八年経過したところであります。
このように、それぞれのタイプにつきまして、平均的な発生間隔と、それから最後の地震からの経過時間ということがわかりますと、それらに基づいて将来の地震の発生確率というものを計算することができます。
今後三十年間の発生確率というのを計算いたしますと、大正型関東地震は、ほぼゼロから二%、元禄型の関東地震は、ほぼゼロ%となります。今後五十年間を考えますと、大正型はゼロから七%と、やや高くなりますが、元禄型は、ほぼゼロ%でございます。
また、地震の規模、マグニチュードにつきましては、大正型がマグニチュード七・九、元禄型は八・一というふうにされてございます。
元禄と大正の関東地震については、最近、産業技術総合研究所と東京大学によって、新しい断層モデルが提案されております。これは、さきに申しましたような海岸の上下変動から求めた地殻変動データ、それから古文書などの歴史資料、それから最新のプレート形状に基づくもので、最新の知見が反映されております。
このモデルによりますと、大正及び元禄の関東地震による三浦半島側での断層面、プレート境界面の滑りは約五メートル程度でございました。房総半島南端付近では、大正関東地震の際の滑りでは約〇・三メートルであったのに対し、元禄の関東地震の滑りは九・四メートルと非常に大きいものでございました。このために、地震の規模は、大正地震に比べて元禄関東地震の方が大きくなっているわけでございます。
それでは、東京都がことし四月に発表、公表いたしました新たな地震被害想定のうち、津波に関する部分についてご説明したいと思います。
一七ページからでございます。
都では、東日本大震災を踏まえ、平成十八年に公表された被害想定の見直しを行いました。想定する地震のタイプとしましては、いわゆる直下型地震、東京湾北部地震と呼んでございます。そのほかに、関東地震のような海溝型地震、それから、立川断層などの活断層で発生する地震を検討いたしました。
津波につきましては、これまでご説明しましたとおり、過去に東京湾で最も大きな津波をもたらしたものとして元禄関東地震を想定して、最新の断層モデルから津波シミュレーションを行い、津波の高さを計算いたしました。この際、東京湾内では、最小十メートルメッシュという細かな地形データを用いて、地震発生から約六時間までの津波の高さを計算してございます。
また、後で述べますが、東京湾北部地震、いわゆる首都直下地震につきましても、津波の計算を実施してございます。
立川断層の地震につきましては、これは陸上で発生するため、津波を起こすということはございません。
初めに述べましたように、東京湾では、満潮時には海面の高さがTPプラス一メートルになりますので、これに津波の高さを加えて、さらには地殻変動も考慮しております。すなわち、ここで想定されている津波の高さというのは、満潮と重なった場合の津波の高さでありまして、干潮の場合には、干潮時の津波の高さというのは、これから約二メートル低くなります。
さらに、水門が閉鎖された場合と開放された場合において、津波シミュレーションを実施しております。
次のページ、一八ページになりますが、元禄関東地震についての津波の高さは、最大TPプラス二・六メートルとなりました。
その次にお示ししておりますが、東京湾に津波が到達する時間につきましては、約三十センチの津波第一波が到着するまでには、地震から四十分かかること、そして、先ほど申しましたTPプラス二・六メートルという津波の最大波が来るまでには、地震の発生から約二時間かかるということがわかりました。
また、その次のページ、二〇ページに示してございます、ちょっと見にくいのですが、津波の波形です。津波が、どのような波が上がったり下がったりするかという波形を計算してみますと、津波の山から山までの周期が一時間程度あることがわかります。すなわち、東日本大震災の津波と同様に、海面が約三十分間上がり続け、その次の三十分間は下がり続けるという、非常にゆっくりとした変動をするということが予測されるわけでございます。
気象庁では、東日本大震災のときのように、地震が起きますと、約三分程度で津波警報を出すというふうになっております。したがって、東京湾の場合は、津波到着までに四十分から、最大波ですと二時間ぐらいの時間がございますので、津波警報が出てから津波が到達するまでの間に十分な時間がございますので、この間に避難、あるいは水門閉鎖などを行う時間的な余裕がございます。したがって、想定をする場合には、水門を閉鎖したという条件で津波シミュレーションを行うというのは現実的だと思いますけれども、地震動による影響など何らかの理由で水門が閉まらなかった場合についても、津波のシミュレーションを行って高さを計算いたしました。
水門の閉鎖時と開放時では、津波の高さはほとんど同じでございますけれども、浸水域がやや変わってございます。水門が閉鎖された場合の浸水域というのは約四・八平方キロメートルでございまして、主に堤外河川敷、東京湾に面した堤外の領域、あと、護岸の外の領域などが浸水することになります。水門が開放された場合には、水門が閉まらなかった場合には、さらに水門からあふれた浸水域というのが加わって、その面積は約七・九平方キロメートルになります。
津波のシミュレーションによって、津波が荒川や隅田川などを遡上するという要素も計算されております。一九ページの右上の図でございます。
先ほど申しましたように、計算のメッシュサイズが十メートルとなっておりますので、それより大きいスケールにおいて河川を遡上する津波というのも考慮されてございます。
東京湾内のみではなく、島しょ部についても、津波の高さや到達時間というのを計算しております。
これは二四ページ目にまとめてございますが、島しょ部では津波は高く、御蔵島で二十二・四メートル、三宅島で十八・一メートル、八丈島で十一・五メートル、神津島で十・六メートル、新島で九・二メートル、大島で八・一メートル、青ヶ島で五・六メートル、利島で四・九メートル、小笠原で三・八メートルという結果になってございます。
御蔵島、三宅島などでは、津波の高さが大きいのみではなく、第一波や最大波到達までの時間が十分から二十分以内と、地震の直後に、揺れの直後に大きな津波が来るというのが特徴でございます。
以上、まとめますと、元禄関東地震のほかに、東京湾北部地震、マグニチュード七・三の地震についても津波の計算をいたしております。東京湾北部地震の場合には、東京湾岸は五センチから三十センチ程度隆起することが期待されております。これを考慮いたしますと、津波の高さは最大九十センチ程度となります。これに満潮時の一メートルを加えますと、最大津波の高さはTPプラス一・九メートルとしてございます。津波の高さがTPプラス一・九メートルと申しましたが、満潮時の高さが一メートルということを考えますと、その半分以上は津波でなくて、潮の満ち干の影響であるということにご注意いただきたいと思います。
最後にまとめますと、結論として、東京湾での最大の津波の高さは、元禄関東地震によるTPプラス二・六メートルとなります。これは、満潮時の水位、それから地震による海岸の沈降を考慮したものとなっております。
一方で、最初にお話ししましたように、東京湾における防潮堤というのは、高潮対策からTPプラス三・五メートルとなっておりますので、現況の防潮堤を超えるような津波が来ることはないというふうに考えられます。
ただし、これも最初にお話ししましたように、東京都の区部東部ではゼロメートル地帯など地盤が低い部分がありますので、そこに非常に多くの方が住んでいるということは忘れてはいけないかと思います。
以上で津波に関するご説明を終わりたいと思います。
○大津委員長 ありがとうございました。
佐竹参考人の発言は終わりました。
次に、佐竹参考人に対する質疑を行います。
なお、佐竹参考人におかれましては、答弁する際は、手を挙げて、委員長の許可を得てから発言していただきますようお願いいたします。
それでは発言を願います。
○いのつめ委員 佐竹先生におかれましては、素人の私たちにも基本からわかりやすくご教示いただきまして、ありがとうございました。
そこで質問をさせていただきますが、今回、佐竹先生は、東北地方太平洋沖地震の翌日に被災地を上空から視察するなど、精力的に被害状況の調査に当たられたと伺っています。こうした未曾有の被害をもたらした東日本大震災を踏まえ、東京に起こり得る津波の被害想定に携われた先生に、津波の専門的な知識をお教えいただければと存じます。
今回の被害想定では、沿岸区部にまで大きな津波は来ないということですが、一七〇三年の元禄関東地震の際には、伊豆半島や房総半島では十メートルを超える津波が来たとのことです。このように、地域によって津波高が大きく異なる要因は何なのでしょうか。いいかえれば、津波高を決定する要素はどのようなものなのでしょうか。ご教示ください。
○佐竹参考人 津波の規模は、震源の広さ、それから震源域の水深、水の深さ、それから断層のずれの量などの大きさによって決まります。
それで、先ほど申しました断層運動によって上下する海底地殻変動ですけれども、海底地殻変動の量、それによって上下する海水の量が多くなると、津波の高さが--大きな津波が発生することになります。ただし、発生した津波が各地点においてどのような高さになるかというのは、海底地形によって大きく変わります。先ほど申しましたように、津波はV字型の湾とか岬の先端などで大きくなります。それから、一般的に海が浅くなると大きくなります。
ご質問の伊豆半島や房総半島で十メートルを超えた津波といいますのは、このように震源のそばであったために、非常に大きな津波があったわけでございます。
一方、東京湾の中は水深が非常に浅く、先ほど申しました十六メートル程度というふうになってございますので、東京湾の入り口付近に大きながけのようなものがございまして、そこで津波が、エネルギーが反射されるわけでございます。
したがって、東京湾の中には津波が入っていきにくいので、東京湾の中ではそれほど大きくなく、二メートル程度の津波になるというようなことになります。
○いのつめ委員 わかりました。ありがとうございます。
そして、今回の想定では、地震に伴って地盤が沈下または隆起するという地殻変動についても考慮したと伺いました。石巻では、地盤沈下により満潮時には水につかる地域が出たと聞いており、大きな課題だと認識しています。
それで、元禄型関東地震が実際に起こった場合に、東京湾沿岸ではどのくらいの地盤の沈下が見込まれるのでしょうか。また、こうした沈下の規模は、地震の規模によって異なってくるのでしょうか。ご教示願います。
○佐竹参考人 昨年の東日本大震災の際には、ご質問のように、石巻付近では最大一メートル程度、陸地が沈降いたしました。逆にいいますと、海面が一メートル上がったために、満潮時には浸水する地域が出てきたわけでございます。
元禄型の関東地震、あるいは関東地震が発生した場合でも、やはり同じように地盤が隆起あるいは沈降いたします。
三浦半島では、元禄型あるいは大正型の関東地震の際には一メートル程度、隆起いたします。一方、東京湾では沈降いたします。その沈降量は、今回想定いたしました元禄型の関東地震では、東京湾での沈降量は約三十センチから四十センチ程度でございます。先ほど申しました津波の高さに関しましては、この沈降量も考慮してございます。
○いのつめ委員 今回の被害想定の結果では、津波だけでは防潮堤を乗り越えることは考えにくいとのことですが、よくいわれるように、津波と同時に高潮が発生した場合などでは、複合災害の発生、つまり、両方が合わさって防潮堤を乗り越え、大きな被害をもたらすこともあり得るのではないかと考えます。区部東部は特に地盤が低いところが多く、先生もおっしゃっておりましたが、人口も多く、心配されるところです。
複合災害が起こり得るとしたら、どのようなケースが想定されるのでしょうか。ご教示ください。
○佐竹参考人 複合災害についてのご質問でございますが、まず、津波の今回の想定では、津波と、それから津波による水の高さ、津波の高さ、それから潮の満ち干による--先ほどから何回も申していますが、満潮、干潮では二メートルの差がございます。その潮の満ち干と、それから津波の同時発生というのは考慮してございます。つまり、先ほど申しましたTPプラス二・六メートルというのは、満潮のときに津波が来た場合の高さでございます。
このように、潮の満ち干と、それから津波の同時災害、同時発生ということは考慮してございます。
一方、高潮です。
高潮によって最大二・五メートル程度が想定されるわけでございますけれども、高潮と津波が同時に来るということも理論的には考えられます。確率は非常に低い、極めて低いとは思いますが--高潮等ですね、ごめんなさい。高潮等--満潮時に高潮が来て、それで、さらに津波が来るということも理論的には考えられます。確率は低いと思いますが、これについては考慮してはございませんので、このような場合には、津波がさらに高くなるということは考えられます。
○いのつめ委員 ありがとうございました。
やはり住民の方でも、津波を心配されている都民の方や、また、神奈川や千葉などの方も、近郊の方も、ご心配されている方がたくさんいらっしゃると思います。
これから私たちが高度防災計画を立てていく上で、きょう先生から教えていただいたこと、役立てていけるように頑張りたいと思っております。どうもありがとうございました。
○中屋委員 本日、佐竹先生におかれましては、大変にお忙しい中、当委員会にご出席いただき、ありがとうございます。
私の方から三点ほどお伺いをさせていただきたいと思います。
被害想定は、いたずらに不安をあおるのではなく、行政や都民が災害に対して冷静に備えていくために、起こり得る被害像を客観的に、また、科学的に示していくことが重要であると思います。こうした観点から、今回の想定は最新の科学的知見を取り入れたと伺っております。大変重要なことだと考えます。
津波の想定においても、今ご説明があったように、地震や津波のモデルを設定されるとのことですが、まず、今回の津波の想定を行うに当たり、用いたモデルにはどのような最新の知見が反映されているのか、従来のモデルとはどのような点が異なるのか、その特徴などについて教えていただけますでしょうか。
○佐竹参考人 一七〇三年の元禄関東地震につきましては、古くから調べられておりまして、さまざまなモデルが提案されてございます。今回我々が用いたのは、産業技術総合研究所と我々東京大学で提案してございます最新のモデルでございます。
これは、まずデータとしましては、海岸付近で、三浦半島、房総半島などで調査いたしました海岸付近の隆起量、それから沈降量でございます。これについて、さらに、従来データに加えまして、我々自身が調査した経過が含まれてございます。
同時に、外房の方では、元禄のときには大きな津波があったということを申し上げました。特に九十九里浜では、海岸から数キロまで津波が浸水しているということがわかりました。これは、外房における、九十九里浜における津波の供養碑などを地元の郷土史家と一緒に調査いたしまして、浸水域を想定いたしました。
その浸水域のデータと、それから最新の方法で、レーザープロファイラーと呼んでございますが、はかりました海岸の地形を用いて津波のシミュレーションをしてございます。
それから、断層面を想定するフィリピン海プレートの形状につきましては、文部科学省の首都直下地震防災・減災特別プロジェクトなどの見解、研究成果から、フィリピン海プレートというのは、従来想定されていたよりも多少浅いということがわかってまいりましたので、このようなプレートの境界、プレートの形状も最新の経過、結果を反映したものとなってございます。
○中屋委員 次に、最大クラスの津波の想定についてお聞きしたいと思います。
東日本大震災の教訓を踏まえ、たとえ発生確率が低くても、起こり得るものであれば、しっかりと想定をしておこうという方向に世の中が変わりました。これは非常に大切なことで、今回の被害想定では、先生も委員として参加された地震部会において、相模トラフで科学的に起こり得ると考えられる最大クラスの津波を想定されたとのことであります。仄聞したところでは、国でも現在、相模トラフにおける最大クラスの津波の想定を検討しているとのことです。先生はこの国の検討会の委員にも入っておられるので、こうした検討に当たっては、当然、国に先駆けて行った都の想定が参考にされるものと考えます。
そこでお伺いしますが、今回の都のモデルは、相模トラフにおける最大クラスの津波を想定するにふさわしいモデルと考えてよいのか、ご教示ください。
○佐竹参考人 防災対策を講じる上では、起こり得るリスクというのを科学的根拠に基づいて分析することが重要でございます。想定する地震につきましても、単に仮定に仮定を重ねて大きいモデルをつくればよいというものではございませんで、過去の記録などを分析して、現実に起こり得るものを想定すべきだと思っております。
今回の東京都で設定いたしましたモデルは、先ほど申しましたように、最新の科学的知見に基づいて、過去に起きた相模トラフの巨大地震を科学的に分析して作成したものでございます。
したがって、現実に起こり得る最大クラスの津波を想定したものとしてございますので、都や国が防災対策を講じる上でふさわしいモデルというふうに考えてございます。
○中屋委員 次に、島しょの津波の想定について伺いたいと思います。
今回、島しょ地域での津波高についても想定を行っており、御蔵島では二十二・四メートルなど、二十メートルを超える津波が襲来するとのことであります。
こうした厳しい想定にしっかりした備えが必要だと感じますが、一方で、大海原にぽつんと浮かぶ島に、本当にそんな大きな津波が来るのだろうかという率直な感想も持ちます。本土では陸に向かって海底が徐々に浅くなってくるのに対して、島の中には、かなり海底深くから立ち上がっている島もあるようで、こうした島でも、やはり高い津波となるのでしょうか。島を襲う津波のメカニズムについてご教示いただきたいと思います。
○佐竹参考人 今回の想定は、各島、島しょの地形的な特徴を踏まえて検証を行ってございます。
具体的には、島も含めた海底地形を、先ほど申しましたように八百メートルから数十メートルというメッシュで与えて、その上で津波の計算を行ってございます。
ご質問にありましたが、島は大海原にぽつんと浮かぶというふうにおっしゃられましたが、島は、海の上から見ますと大海原に浮かんでいるように見えますけれども、実際に水をどけてみますと、特に東京都伊豆諸島は伊豆海嶺、あるいは小笠原海嶺という高くなったところの一部でございます。そのために、津波の高さというのは、その海底地形による大きな影響を受けるわけでございます。
今回の想定いたしました元禄型海底地震というのは断層のずれが大きくて、それから震源の域が広く、大規模な津波を起こすというふうに想定されます。移動する海水の量が多いと、先ほど申しましたように津波の規模が大きくなります。(「地震だ」と呼ぶ者あり)よろしいですか、続けて。
移動する、持ち上げる海水の量が多いと津波の規模が大きくなる上、震源に近く、遮るもののない島しょ部では、津波のエネルギーがそのまま伝わってくることになるわけでございます。
こうしたことから、島しょ部では高い津波が想定され、中でも震源との位置関係によって、御蔵島、それから三宅島などでは高い津波が来るというふうに推定されてございます。
ただ、これら、今申しました、二十メートル、十八メートルなどの高さは、最大の津波の高さでございまして、これは地形などの影響によって変わってくるわけでございます。細かい地形を与えて計算したときの最大の高さが二十メートルということでございますので、島の周りがすべて二十メートルの高さになるというわけではございません。
○中屋委員 貴重なご意見ありがとうございました。
以上で私の質問を終わりたいと思います。
○橘委員 佐竹教授におかれましては、貴重な研究成果をご紹介いただき、感謝申し上げます。
まず私の方から、今回の被害想定では、相模トラフ沿いに起こる海溝型の地震によって、東京でどのような津波が発生するのか、それから、過去最も大きな津波が発生したとされる一七〇三年の元禄関東地震をモデルに詳細に検討がされております。
関東地震といえば、関東大震災をすぐ思い浮かべるわけですけれども、この関東大震災と元禄関東地震、これは発生のメカニズムから、海溝型とかプレート型とかさまざまな形態がございますし、そのマグニチュードにおいては〇・二しか違わないわけですけれども、先ほどの資料にもありましたように、津波の高さとか、かなりの違いがあるようでございます。この発生メカニズム、それから津波の規模、この二つの地震では何がどのように違うのか、お聞かせいただければと思います。
○佐竹参考人 大正の関東地震、それから元禄の関東地震、両方とも相模トラフを震源とする海溝型の地震でございます。大正型の関東地震というのはマグニチュードは七・九とされておりまして、元禄型の関東地震はマグニチュードは八・一というふうにされてございます。
マグニチュードといいますのは地震のエネルギーの大きさを示すものでございますけれども、これは基本的に対数スケールでございます。したがって、マグニチュードが一ふえるということは、エネルギーは約三十倍大きくなります。ですから、マグニチュードが〇・二違うということでも、エネルギーにすると約二倍違うわけでございます。
元禄型の地震と大正型の地震では何が違うかと申しますと、今申しましたように、元禄型の地震の方がトータルではエネルギーが約二倍になります。これは、大正型の地震は、相模湾から三浦半島、それから房総までに震源域があるのに対しまして、元禄型はさらに外側ですね、外房側に広がっていた、震源域が広がっていたために、より大きな規模になったということが考えられてございます。
○橘委員 次に、中小河川での津波の遡上についてお聞きいたします。
今回の詳細な検証の結果、東京湾沿岸部における津波に関しては、基本的に防潮堤などによっておおむね防御可能というふうに、先ほどのお話もございました。
私たち、今回の東日本大震災でさまざまな被害状況を見聞きしてきたわけですけれども、この東日本大震災では、がけ地を津波がはい上がる、遡上するという、そういう現象が鮮明に記憶にあります。
そして、きょうの先生のお話を伺っておりますと、河川についてはそれほど大きな遡上、そしてまた津波という発生はないとのお話もございましたけれども、この資料にあります、二一ページの元禄関東地震による津波浸水図とありますけれども、この赤い線というのが遡上したという、そういう水門の開放時に遡上したという図だと思いますけれども、これを見ますと、都内の重立った河川を遡上したという、そういった図だと思います。
これに関連してですけれども、東日本大震災の遡上したということと兼ね合わせますと、今回詳しく調べておられないと思いますけれども、もっと小さな河川でこの遡上による津波の被害という、そういう現象は起きる可能性もあるんではないかと私は考えたんですけれども、大きな河川は、ある程度川幅によって吸収力がある、しかしながら、それよりもっと小さな河川では、川底も低いし、それを遡上した場合には、これが津波の高さになって倍加するんじゃないか、かさ上げされるんじゃないか、そんなことをちょっと想定したんですが、この辺はいかがでしょうか。
○佐竹参考人 まず、二一ページ目の図でございますけれども、ここで赤い線で書いてございますのは、これは河川沿いの堤防や護岸でございます。ですから、この赤いところが浸水するわけではございません。赤いところに堤防があるということでございます。この堤防を考慮した場合に、ごらんいただけますように、この緑ですか、黄色とか緑で塗ってあるところが浸水域でございます。
だから、水門が開放されているときには、この緑や青ですか、赤以外の色が塗ってあるところ、あるいは多摩川などの堤外地ですね、堤防の外側の河川敷などが一部浸水することになってございます。
今回の想定では、津波の浸水域の想定では、十メートルのメッシュを使ってございます。ですから、十メートルのメッシュで表現できる範囲では、主に大きな河川が中心となりますが、中小河川でも十メートルのメッシュで表現できるところにつきましては、津波のシミュレーションによって浸水域を想定しております。それ以下のところに関しましては、これはモデルの限界、計算の限界でございますから、正確な計算はされてございません。
そこで、津波が、中小河川だからといって、特に小さいからといって、特にそこで津波が大きくなる可能性というのは考えにくいわけでございますが、ただ、そこに関して何もしなくていいということではないわけでして、やはりその堤防ですね、あるいは津波以外にも高潮などでも同じことが起きますので、高潮対策などとして河川の整備などの適切な対策を講じることによって、津波による浸水被害も抑止できるものと考えます。
○橘委員 次に、防潮堤の外側における浸水について伺います。
東京湾の沿岸部では、コンテナふ頭など、防潮堤の外側にさまざまな施設がある部分も存在いたします。もちろん、こうした施設は相当のかさ上げをしていると思いますけれども、大幅に浸水すれば、コンテナが流れ出すということも考えられます。
今回の想定では、このような防潮堤の外側における浸水の有無についてどのように検証されたのか、また、その結果はどうだったのか、お聞かせいただければと思います。
○佐竹参考人 今回の被害想定では、現在使われております防潮堤の整備状況や地盤高などを、十メートルメッシュという詳細な地形データを用いて計算してございます。
東京湾の沿岸部には、品川ふ頭、大井コンテナふ頭などの、コンテナふ頭などが存在してございまして、これらは、地盤高がTPプラス五・二から八・一メートル程度となっております。したがって、想定される津波高よりは、最大TP二・六でしたが、それを大幅に上回っておりますので、コンテナふ頭につきましては浸水は生じないというふうに考えられます。
その他の堤外地につきましては、河川敷などを除きますと、津波高と地盤高を比べますと地盤高の方が高くなっておりますので、やはり大きな浸水は生じないという結果になってございます。
河川敷につきましては、先ほどの図にもございましたが、一部浸水が生じるところがございます。こういうところに関しまして、河川敷につきましては避難するということが重要でございまして、幸い、東京都の場合には、地震が発生してから津波が来るまでに十分な時間がございますので、適切な避難をすることによって被害を避けることができるんじゃないかと考えます。
○吉田委員 共産党の吉田と申します。きょうは、先生、ありがとうございました。
まず第一点、お伺いしたい点なんですが、平田先生にも実はお伺いしたんですけれども、被害想定のあり方にかかわるんですけれども、国の防災基本計画で新たに津波災害編がつくられて、そこで、想定に当たってという箇所の中で、津波堆積物調査とボーリング調査だと思うんですが、こういうことが示されて、できるだけ過去にさかのぼって調査をする必要があるということが提起をされています。他県で既に実施をされている事例がありますけれども、東京の場合には、この津波堆積物調査、あるいはボーリング調査の必要性などについて、先生、どのようにご認識でしょうか。
○佐竹参考人 過去の地震、津波を調べるには、これまでは歴史文書が主に使われてきたわけでございます。ただ、これに関しましては当然限界がございます。例えば、関東地震の場合には、一七〇三年の元禄の関東地震につきましては歴史文書からかなり被害の様子がわかってございますが、それより古いものに関してはほとんどわかっておりません。それより古い地震を調べるためには、ご質問のような津波堆積物、あるいはボーリング調査ということを実施するのが適切であります。
実際、我々も、東京大学でも、神奈川県の小網代というところで津波の堆積物を調査いたしまして、これによって、元禄よりもう一つ前の津波ですね--関東地震、これは一二九三年と考えられてございますが、この津波の調査で、一二九三年に発生したと考えられる関東地震の津波堆積物というのを発見してございます。
津波堆積物の調査といいますのは、まず、我々研究機関、国、大学、それから産業技術総合研究所などの研究機関で時間をかけて行っております。これは、ボーリングをすればすぐ出てくるという簡単なものではございませんで、特に東京の場合、非常に地形改変、あるいは発達しておりますので、人工物などがありますので、場所を選ぶのが非常に大変でございます。我々も東京の江戸川区、江戸川沿いなどでそういう調査をしたわけでございますが、液状化の痕跡は出てまいりましたが、津波堆積物の、過去の津波の痕跡を見つけることはできませんでした。
ご質問では、都としてこういうことを実施すべきかどうかということだったと思いますけれども、こういうものは、やっぱり研究機関で実際にいろいろなされておりますので、我々もやっておりますので、行政機関としてはそういう結果を大いに利用していただくのがよろしいんではないかというふうに考えます。
○吉田委員 もう一つ、津波の説明としては非常によく、きょうの説明でもよくわかったんですけれども、ただ、被害想定ということになると、先ほど複合ということがありましたが、高潮との複合だけではなくて、堤防、防潮堤などに、地震や、あるいは液状化による破損などで、もし一カ所でも決壊箇所が生まれた場合には、かなりの範囲に非常に大きな影響を及ぼすと思うんです。これは津波の先生にこういうことを質問するのは適切かどうかといえば、悩みながらこうやって質問するんですけれども、その被害ということに着眼した場合には、やはり堤防の破損等による影響ということも検討する必要があるんではないかと思うんですが、この点について、お答えできる範囲でお願いします。
○佐竹参考人 私も申し上げましたように、東京都は非常にゼロメートル地帯というところがございますので、堤防に依存しているというのは事実でございます。したがって、堤防が万一破損した場合には、そこは津波によって浸水する。津波がなくても満潮時には浸水する場所でございますので、堤防が非常に重要なことは間違いございません。
津波による堤防の浸水、破損ということに限りますと、東日本大震災の結果、わかったことは、津波が堤防を大幅に超える場合には、東日本大震災のときにも大きな津波によって堤防が破損しております。ただ、東日本大震災の場合でも、地震波、地震の揺れ、あるいは堤防より小さい津波、堤防より低い津波によって破損したという例はほとんど、というか、全く聞いてございません。
したがって、想定される津波の高さが堤防より低い分においては、堤防の破損ということは、ほぼ考えなくてよろしいのではないかというふうに考えてございます。
○吉田委員 次に、先ほど話が出たことで、ちょっと質問の角度を変えます。
十メートルメッシュで計算しているということですから、十メートル以下の河川幅の中小河川の浸水については表現はされていないということなんですが、一般論で、高潮などと違って、津波の場合には水の塊が押し寄せてくるのかなというふうに想定しますと、河川幅が狭くなればなるほど、水位がその分高まるんではないかというふうな印象を持つんです。そういうことも考える必要があるかなと思うんですが、その点は、基本的な点でいかがでしょうか。
○佐竹参考人 一般的に、河川でも、同じ量の水が入ってきますと、河川が狭くなると、幅が狭くなると、その分、高さが高くなるということは、そのとおりでございます。
ただ、十メートルまで--どうしても、今回のような想定をするには限界がございますので、これまでは、十メートルメッシュで表現できる範囲におきましては、今おっしゃったような、狭くなることによって高くなるということは想定してございます。ただ、それは、このようなシミュレーションというのは限界がございますので、どこかまでで打ち切る必要があるわけでございます。今回の場合はそれが十メートルなんですけれども、それより小さい河川でどうなるかということに関しましては、想定をさらに上げる、精度を上げるということも不可能ではないんですけれども、それよりは、実際の現場に応じた対策、それから堤防の高さなどをきちんと検討、調べて、対策を講じていくという方が現実的なのではないかというふうに考えております。
○吉田委員 最後に、島しょのことが話題になっていましたけれども、いわゆる南海トラフ巨大地震に伴う津波ということが全国的に発表されて、東京の七島でも影響が大きいことが出ているんですが、被害想定に当たって、この南海トラフ巨大地震による津波というのは対象とする必要があるのかどうかについて、ご意見を最後にお聞かせください。
○佐竹参考人 島しょ部におきましては、先ほど申しました元禄型関東地震が最大であるというのは、東京湾に限った話でございます。東京湾に限っては、元禄型の関東地震が最大の津波をもたらします。
島しょ部におきましては、大正、元禄型の関東地震以外に南海トラフの地震を想定する必要が当然ございます。南海トラフの巨大地震につきましては、現在、国の内閣府の方で検証を行っておりまして、既に中間発表によって、新島などで非常に大きな津波になるということが起きております。
内閣府の方でも、八月末をめどに津波の集計、推計結果というのが公表されるというふうになっておりますので、それを参考にした上で、相模トラフの関東地震、それから南海トラフの地震、両方それぞれについて検討して、対策を考えていく必要があるのではないかというふうに考えます。
○西崎委員 西崎と申します。最後の質問者になりますのでよろしくお願いいたします。
私ども素人ですと、津波といいますと、東日本大震災で映像から映し出された津波の怖さとか、あるいはスマトラ沖地震の状況とか、先生も出向いていって、いろいろな現状を調べていらっしゃるということをホームページで拝見したんですけれども、津波の怖さだけが私ども先行しまして、すべて飲み込まれるんじゃないかという印象がすごく強いんです。
今回、東京湾の地形ということで、今ご説明いただいて、エネルギーが反射して湾の入り口で浅くなっているので、東京湾の津波の高さは非常に低いということをお話しいただいたんですけれども、ただ一方で、東京湾内で津波が反射を繰り返して、なかなか減水をしないのではないかというお話をされる方もいらっしゃって、増幅されるのではないかといったことも耳にいたしますけれども、具体的にこの反射ということをどういうふうに考えていったらいいのか、先生にご教示いただければというふうに思います。
○佐竹参考人 先ほど申しましたように、東京湾の場合には、入り口のところに大きながけがあって、そもそも中に入ってきにくいという、東京湾に入る前にエネルギーが反射してしまって中に入ってこないという状況がございます。
ただ、それでも全く入ってこないわけではありませんで、一部には津波が入ってまいります。そのようにして湾の中に入ってきた津波に関しましては、確かに反射を繰り返すということはございます。ただ、一方で、東京湾は先ほど申しましたように非常に浅い湾でございまして、水深が十数メートル、二十メートルないようなところでございます。
このように、海底が浅い場合は、海底の摩擦というのが非常に大きく来まして、海底の摩擦によって津波のエネルギーが結構早く減衰するということになりまして、だから、湾の中に入ってきた津波に関しまして、反射を繰り返して増幅するということはあり得ない、むしろ、その海底摩擦によって減衰するということが、物理的には予測されることでございます。
○西崎委員 先日、テレビ番組で行われていたんですけれども、南海トラフの巨大地震のシミュレーションで、プレートの破壊が時間差で次々と起こった場合に、異なる場所で発生源となる津波が合成されまして、巨大な津波になるという結果が示されておりました。
相模トラフの地震でも、同様に津波が合成されて、今回の被害想定よりも大きな津波が生じるんではないかという可能性はないのか、教えていただければと思います。
○佐竹参考人 南海トラフにおきましては、ご存じのように、東海、それから東南海、それから南海と、東海地方から四国の沖に関しまして、非常に大きな地震が発生するわけでございます。
ここは全長七百キロ程度、非常に長いところでございます。それで、同時に発生する場合あるいは時間差を置いて発生する場合によって、津波の振る舞いが異なります。
例えば、四国に注目いたしますと、まず東海、東南海ですね、東海地方で地震が発生すると、その津波がずっと伝わってきて四国の前まで来ると。そのときに四国の沖で地震が発生するというようなことが起きると、いってみれば二つの津波が、二つの地震による津波が同時に来るわけですから、津波が非常に大きくなると。それが時間差発生ということでございます。
南海トラフの場合は、このように非常に長くて、七百キロぐらいの中で、それぞれが百キロから二百キロぐらいの地震が幾つか、時間差を置いて発生した場合には、そのようなことが考えられるわけでございます。
一方、相模トラフの場合には、地震が発生するところの長さが全体で百キロから二百キロぐらいしかございませんので、それが次々に起きるということはあり得ないわけですから、南海トラフのような時間差による津波、あるいはその増幅ということは考えにくいわけでございます。
○西崎委員 最後の質問になります。
先ほど吉田委員からいわれてしまったんですけれども、今回の被害想定では、津波の高さそのものは堤防を越えないので、堤防そのものを破壊するというか、そういう影響はないというようなお答えだったと思うんですけれども、そうしましたら、一般論で、よく私ども、津波の実験をしている映像などをテレビで拝見するんですけれども、例えば三十センチといわれた場合に、非常にひざより下なので何の影響もないんじゃないかということで、ついその高さで--今回も東日本大震災で、初めに何センチぐらいですということがいわれて、それで堤防を越えないから全然逃げる必要がないというふうに一般的に思われてしまって、かえって被害になったということも聞いていますけれども、堤防がなかった場合の津波の高さによる影響というんですか、普通に、どういうふうなものなのか教えていただければと思います。
○佐竹参考人 津波の高さにつきましては、三十センチという、今、お話がございましたが、先ほど申しましたが、津波は普通の波とは違いまして、普通の波ですと、例えば三十センチの波が来ても、数十秒我慢していればいいわけでございます。ところが、津波は、先ほど申しましたように、長いときには三十分ぐらいずっとそれが続くわけですね。そうしますと、例えば深さ三十センチの川の中にいて、ずっと立っていられるかというのと全く同じ話でございまして、ですから、三十センチでも、数秒、一分我慢すればいいんじゃなくて、やはり三十分、一時間ずっと波が押し寄せてくるわけでございますから、そうしますと、たとえ三十センチといっても、それほど安全なわけではございません。
ただ、堤防は、そのようなものに対して持ちこたえるということのためにつくられているわけでございますので、その堤防を越えない限りは、堤防は安全というふうに、持ちこたえるというふうに一般に考えてございます。ただ、その堤防も、先ほど申しましたが、その堤防を越えるような津波、少しぐらいは大丈夫という実例がございますが、大幅に越えるような津波が来ますと、堤防そのものも破壊されてしまいますので、被害が広がるわけでございます。一般論のお答えでございます。
○大津委員長 ほかに発言がなければ、お諮りいたします。
佐竹参考人からの意見聴取はこれをもって終了いたしたいと思いますが、これにご異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○大津委員長 異議なしと認め、佐竹参考人からの意見聴取は終了いたしました。
佐竹教授、本日は、大変お忙しい中、貴重なご意見をいただき、まことにありがとうございました。心より厚く御礼申し上げます。
この際、議事の都合により、おおむね十五分間休憩いたします。
午後二時二十三分休憩
午後二時五十分開議
○大津委員長 それでは、休憩前に引き続き委員会を開きます。
参考人をご紹介いたします。
明治大学大学院政治経済学研究科特任教授兼危機管理研究センター研究員で、阪神・淡路大震災記念、人と防災未来センター上級研究員及び首都大学東京名誉教授の中林一樹さんです。
本日は、ご多忙のところ、委員会にご出席いただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして御礼申し上げます。
東日本大震災を踏まえた東京都地域防災計画の見直しについて、これに関連して、特に首都直下地震による被害像について、ご専門の立場からご意見をお伺いしたいと思います。
なお、中林参考人には、ご着席のまま発言していただきたいと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。
○中林参考人 ご紹介いただきましてありがとうございました。お手元の資料に従いまして、お話をさせていただきたいと思います。
私は、現在、政治経済学研究科所属ですけれども、もともとの出身は工学部建築を出て、都市計画とかまちづくりをやっておりましたので、そうした観点からの話が中心になるかと思いますが、今回の新しい被害想定の中から、被害像、災害像をどういうふうに見るかということでお話をさせていただこうと思っております。
資料に従って話を進めさせていただきますけれども、この十六年間に、我が国で震度七の地震が三回起きました。一九九五年の阪神・淡路大震災、二〇〇四年の新潟県中越地震、そして二〇一一年の東日本大震災、この三つの地震から何を学ぶかということが、これから震災対策を考えていく上で非常に重要だと思っております。この三つは、それぞれ日本で起こり得る地震をそれぞれ典型的にあらわしたものだと。阪神大震災は、ご存じのように、神戸を中心に大都市地域を直撃する地震でした。
新潟県中越地震は、日本の国土の七割を占めるともいわれる農山村地域を直撃する、しかも、超高齢化の農山村地域を災害が襲うとどうなるのかということを示した事例だと思います。
さらに、昨年の東日本大震災は、島国の日本、三万四千キロの海岸線があるといわれておりますけれども、そのうちの二千キロ以上にわたって、津波による大きな被害をもたらしたということでございました。
一枚めくっていただきますと、阪神以降に起きた地震災害を並べてございますけれども、やはり被害規模が小さい地震と、被害規模の大きい地震とでは、災害対応の仕方に大きな差が出ると。そういう意味で、阪神大震災あるいは東日本大震災の災害対応から復旧復興へ向けての歩みに、我々はたくさん学ばなければいけないことがあるんだというふうに思っております。
東日本大震災のときの東京では、被害が出ていますが、そこにありますように、死者七人というのを除けば、非常に軽微な被害であったと。その中で、安全を確保するために鉄道がとまったわけですけれども、それに伴う帰宅困難という問題が顕在化しました。しかし、その他がなかったということは、逆にいうと、帰宅困難だけが、ある意味では非常にクローズアップされてしまった。ただし、この後お話しする被害想定を前提にすれば、本番のときには、さまざまな被害事象が発生し、その中の一つとして、帰宅困難問題というのも位置づけられるんだということであろうかと思っております。
今回の被害想定でございますけれども、先ほど佐竹先生のお話にもありましたが、四つの地震を想定しています。その中で、今回、直下の地震等というふうについているんですけれども、サブタイトルの等というのは、まさに元禄型関東地震、これは直下の地震ではなくて相模トラフの地震と。
したがって、直下の地震というのは、東京湾北部、多摩直下、そして今回行った立川断層地震、しかし、これ以外にさまざまな直下の地震というのが起こり得るわけですけれども、すべてを被害想定することができないということで、今回、三つの直下の地震について被害想定をしてみたということになろうかと思います。
被害想定の項目は、六ページのところにありますけれども、前回、二〇〇六年に被害想定をしておりますけれども、そのときよりも少しふえた部分があります。特に今回は、被害想定といいますと定量的な被害を出すと、何棟全壊するとか、何人けがをするとか、そういう数だけではなくて、数はどうも出せないけれども、様相としてといいましょうか、被災の状況として、どういう状況が起こりそうかということも想定しておこうということで、アスタリスクのついているような部分は、量的な問題よりも質的な想定を少し試みようということが行われてきました。
地震の揺れといいますのは、季節とか時間によって変わりません。地震の規模と震源の位置が決まれば、おのずと一義的に揺れが決まってくるわけですけれども、その結果、発生する被害というのは、季節、時刻あるいは気象状況によって大きく異なるわけです。したがいまして、今回の被害想定では、基本的なシーンといいましょうか、条件として、冬、朝の五時、昼の十二時、夕方の十八時というのを設定しました。
朝の五時というのは、阪神大震災と同じでございまして、最も多くの人が自宅にいる時間帯、昼の十二時というのは、最も多くの人が自宅以外に出向いている時間帯、夕方十八時というのが最も火を使っていて、火災が発生しやすい時間帯ということで、この三つを今回基本的なパターンとしております。
結論的には、この冬の夕方十八時というのが、最も被害量としては大きくなる可能性が高いということで、これを基本として被害想定を見ていくということになりました。
八ページが、今回取り上げた四つの地震の震度の分布でございます。震源の位置等が変わりますと地上の揺れ方が変わりますので、それぞれ地震によって異なった震度の分布になっております。
今回の被害想定の目玉が直下の地震ということで、東京湾北部と多摩直下にどうしてもなるわけですけれども、この二つ、震源の位置を確定しましたので、この絵を見比べていただくと、例えば、板橋区とか練馬区というのは、両方の地震で、黄色、震度六弱ということですけれども、今後、いかなる場合にも震度六弱ということをいっているわけではありません。
この二つケースを設定したのが、たまたま結果として震度六弱ですけれども、もし、この区部北部に、例えば震源を設定して想定すれば、もう少し強い揺れになる可能性は当然あります。
被害想定というのはそういう意味で、前提を設定して、前提条件に基づいて計算をしておりますので、一つの姿は見せますけれども、確定的にこうなるということを示しているものではありません。
条件が異なれば、少し被害想定の様子も変わってくると、そういう、やや不確定な要素を持ちながら、でも、どのぐらいの目安かなということを示しているのが被害想定であるということで、ご理解いただければいいかなと思っております。
結果として、四つの地震の被害想定ですけれども、九ページ、東京湾北部地震、これは区部を直撃する地震ということで、最も被害量が大きく想定された地震ということになりました。帰宅困難者は、すべての地震で鉄道がとまるということを前提にしておりますので、すべての地震で五百十七万人という数字になります。
今回の東京湾北部地震、冬の夕方十八時、風速八メートルというケースですけれども、三月十一日の東日本大震災、あるいは十六年前の阪神・淡路大震災と比べてみたらというのが、一〇ページの表でございます。死者、不明者については、三月十一日の津波災害が圧倒的に人的な被害を大きくしております。これは津波の影響であることは間違いがありません。しかし、建物の被害等は、東京湾北部地震の東京都の分だけですけれども、東日本の二・五倍、阪神の三倍近い建物被害等が発生するということでして、非常に大規模な災害であるということがわかるかと思います。
地面が揺れた後、最初に発生する被害というのが液状化であったり、あるいはその上に建っております建物が、揺れによって被害を受けるということでございます。揺れている最中は、場合によると身動きがとれないような状態で、十秒、十数秒続くというのが直下の地震ということになろうかと思います。
一二ページですけれども、どういうふうに建物の揺れによる被害を想定するのかということですが、揺れによる被害というのは、阪神大震災が最も顕著な揺れによる被害の地震事例ということで、今回も、前回と同じように、阪神大震災での揺れによる建物の被害率というのを前提にして想定をしております。
建物の耐震基準というのが建築基準法によって定められておりますが、ご存じのように、一九八一年に新耐震という形で新しい基準がつくられました。それを一つの境にして、それより新しいもの、それより古いもの、しかもその古いものについては、さらに昔の基準、旧基準、その以前のものということで三段階に分けております。
この赤い線を引いた場所が、震度六強の最も強い揺れ、この赤い線の右側にいきますと震度七、左側の下の方に小さい数字で恐縮ですが、六って書いてあるところが計測震度六です。この六から六・五未満の範囲内がすべて震度六強でございます。したがって、六強というのは極めて幅が広いと。六弱に近い六強と震度七に近い六強では、建物の被害が大きく、被害発生率が違うんだということを示していると思います。七に近いところで見ますと、古い、旧築年といっている昭和三十六年以前のものは八割、昭和五十六年以前の中築年といっているもので六割、八一年以降の新耐震基準でも、一五%、一割五分の全壊率ということでありました。
それぞれのまちがどれぐらいの震度になるか、それぞれのまちに構造別、建築年代別に、どれぐらいの建物が現在存在しているか。それにそれぞれ係数を掛けて被害の量を推計するということが基本でございます。
一三ページには、非木造の場合の全壊率というものを載せております。木造に対しまして、かなり全壊率が低いですけれども、同じような傾向があるかというふうに思っております。
結果としまして、建物の木造、非木造合わせた全壊棟数の分布、これは、二百五十メートルメッシュ、約六・二五ヘクタール当たりどれぐらいの全壊になるかということで示している図です。東京の木造密集市街地というのは、大体一ヘクタールに七十棟前後の木造の建物が建っておりますので、六・二五ヘクタールということになりますと、約五百棟、一つのメッシュに存在していると、赤いところは、そのうちの百から二百ぐらいが全壊するというような割合になっているとお考えください。
次の一五ページが、そのうちの木造です。棟数としては、木造の方がまだまだ多いというのが日本の都市でございます。特に、下町あるいは城南の低地の部分が、震度六でもやや強い方の揺れになると、前回も震度六、今回も震度六ということは、実は、震度六強の中でも強い揺れに若干シフトしていると考えていただいた方がよろしいわけでして、そこに、建物の揺れによる被害というのが集中しております。非木造につきましても、やはり揺れに起因するということと、古いビルがやや多い下町等に被害が多目に想定されています。
多摩直下の地震でございますが、これは震度六強のエリアが、多摩の方にシフトします。したがいまして、東京湾北部地震とちょっと分布が違っているように見えますけれども、震源直上になる多摩のエリアにつきましては、黄色とか赤いところが若干見受けられると思いますけれども、これは震源の真上ということで、震度六強の強い揺れが想定されているところでございます。
その前提になる建物の分布が一八ページですけれども、特に木造の建物でして、山手線の外側を赤い帯といいましょうか、面が覆ってございますが、これがいわゆる環状七号線の内外に広がる木造住宅の密集市街地ということでして、東京の都心、副都心部は、こうした木造の密集市街地に取り囲まれているというのが、東京の都市構造ということになります。
次のページ、一九ページが非木造の建物です。これは逆に、都心部、副都心部に非木造の建物が多うございます。また、下町にも非木造の分布が高くなっておりますけれども、このエリアは、歴史的には、八十八年前の関東大震災の後、後藤新平のもとで区画整理をした東京の都心地域です。結果として、不燃化が非常に進んでいる。これはやはり基盤が整備されておりますので、不燃化が進みやすいということをあらわしているかと思います。
今回、例えば、区部でいいますと、震度六強が全域の七割ということで、前回の倍以上にふえてございます。全体として、平田先生が多分お話しになったと思いますが、震源が二十キロに浅くなったということから、地上の揺れというのが直上で強く出ております。しかし結果として、先ほどの揺れによる被害十一万六千棟、二〇〇六年の揺れによる被害よりもちょっと少なくなっております。
私も実はちょっと驚きました。どれぐらい建物が建てかわったんだろうか。これは私の想定を超える勢いで、東京では建物が建てかわっておりました。
二〇ページですけれども、固定資産税台帳のデータベースで、平成十七年というのが前回の被害想定をしたときの建物の状況です。平成二十二年というのが今回の被害想定に使ったデータです。震度六強の一番強い揺れですと八割全壊と想定される旧築年が十六万棟木造で滅失し、中築年、六割全壊と想定されるところで十九万棟滅失し、新しい建物が四十二万棟建っているということでして、単純に当てはめると、八割全壊、六割全壊が三十五万棟減って、一五%全壊が四十二万棟ふえている、その差し引きが、揺れによる被害というのが、実はふえていないということの背景だということがわかりました。
ただ、まだまだたくさんの耐震化あるいは建物の建てかえを必要とする木造建物あるいは非木造建物が、東京に存在しているのも事実かというふうに思います。
さてもう一つの大きな被害の原因として、火災というものがございます。これは八十八年前の関東大震災では、大部分の人的被害が火災によって発生していたわけですけれども、やはり東京の場合には、広大に広がる木造密集市街地、今、一万六千ヘクタールというふうにいわれてきているわけですけれども、その木造密集市街地で最大の課題というのは、この火災の発生ということでございます。
今回、焼失だけでいうと二十万棟、そのうち火災の前に全壊している建物があるので、それを差っ引きますと、十八万八千棟が焼失するという結果になってございますが、前回の被害想定と今回の被害想定では、想定手法を大きく変更いたしました。より実態に近づいた被害想定をしているというふうに考えております。これは木造密集市街地で火災が燃え広がり出すと、どんどんどんどん消さなければ燃え広がっていくと、どれぐらいまで燃え広がるのかということを見たのが、この二二ページのクラスターという見方です。小豆色がずっとありますが、これは基本的に木造住宅と考えてください。一つの火災で消しとめなければ次々と燃え広がっていく範囲をクラスターというふうに設定しております。
二一ページの図が、そのクラスターの一つのケースで、風速八メートルのケースです。そうしますと、赤いところとかオレンジのところが、大きな木造密集市街地の塊でして、赤で一万棟以上、黄土色で八千から一万棟の木造が隣接していると、もし消しとめることができなければ、これが燃え尽きてしまう可能性があると。これを一つの単位にして、出火確率あるいは焼失、消防の消す確率等の確率を掛けて推計したというのが今回の被害想定でございました。
結果といたしまして、まず、二三ページが、揺れによってどれぐらい出火するのかというのを見たものです。基本的には、揺れが強くなるほど出火の確率は上がります。
それらをもとに集計してみた今回の出火件数というのが二四ページでして、東京湾北部地震が、東京都全体で八百十一件ということでございます。これが全部炎上するわけではありません。このうちの多くは初期消火等によって消しとめられます。
二五ページのフローの右上のところに炎上出火件数というのを出すようになっていますけれども、八百十一件のうち、ある確率で消していって、最後、燃え上がる可能性があるのを想定します。これは出火件数も条件によって変わりますし、消し方も条件によって変わりますので、一義的に決まるものではありません。その後、消防団あるいは消防署の活動によって火を消していくんですが、最後、消し切れないものがどれぐらいの確率で発生するかということで想定します。
結果として、二六ページにありますのが、最も火災の出火件数の多い冬の夕方十八時、かつ風速八メートルという風のもとでの延焼結果でございます。
先ほどの木造密集市街地のうち、震度六強の揺れに見舞われている地域、かつクラスターの大きな地域で、より被害が発生する確率が高くなるという結果になっております。
次の二七ページは、多摩直下地震のケースです。やはり震源直上の震度六強のエリアが多摩地域にシフトしております。密集の密度というのは、東京区部が圧倒的に強うございますので、東京区部の震度六強の弱い方、あるいは震度六弱の強い方、そうしたところで火災も発生しますが、やはり多摩直下の場合には、震度六強になる多摩地域に火災が発生すると。ただ、クラスターはそれほど大きくありませんので、そんなに大きな量にはならないだろうというのが今回の想定でございます。
その結果、四つの地震についてまとめたものが二八ページの表ですけれども、最も火災による被害、焼失棟数が多いのが東京湾北部、冬の十八時、風速八メートルです。ただ、風速が半分の四メートルになると、被害が半分に減るかというと実はそういうものではありません。四メートルでも、十八万九千棟の焼失ということでございまして、一万二千棟程度の減少です。風速というのが少し四メートルを超しますと、実は、火災の燃え方というのは余り変わらないんだと、これはもう過去の実態からも証明されておりますし、シミュレーションでも、そういう推計ができるようになっております。
結果といたしまして、二九ページですけれども、今回の被害想定では、まず、地震が発生して、揺れによる倒壊、その後、火災が発生して焼失する、こういう建物の物的被害というのを区別に見たものが、この二九ページの表です。倒壊と焼失で一万棟を超える被害になるというのが十一区ということでございまして、確定的にこうなるわけではございませんが、一応結果から見ると、このような区の並びになります。
見ていただくと、ほとんどの区が実は環七が通っている区でございまして、やはり環七周辺の木造密集市街地に建物の揺れによる被害、火災による被害が集中的に発生するということをうかがわせているというふうに思います。
そうした全壊焼失に伴いまして、人的被害、特に建物の内部に閉じ込められたり、あるいは全壊した建物の下敷きになったり、あるいは救出救助が間に合わなくて火災が発生したり、いろんな原因で人的被害が推計されるわけですけれども、その表にありますように、九千七百人ということでございます。これは前回の被害想定よりも一・五倍ほどふえてございます。その最大の原因といいましょうか、理由は、実は、今回の被害想定の推定式をより現実に近いものに、実際の被害に近いものに改善したというところにございます。今回が多いんではなくて、今から反省すれば、前回の人的被害の想定がやはりちょっと甘かったのかなということでございます。
今回は、木造の建物に時間別に何人いるか、非木造の建物に時間別に何人いるか、それぞれ全壊率を掛けて、その中から負傷者の発生率あるいは死亡者の発生率を推計したものでして、今回の方が、より実態に合った推計式になっていると思います。
結果としまして、九千七百人の死者のうち、建物倒壊による死者が五千四百人、揺れによるブロック塀その他を合わせますと五千六百人が揺れによる死者、火災による死者というのが四千百人ということでございました。
次の三一ページ、これは、阪神大震災のときの建物の揺れによる大破率、木造でいうと全壊率、非木造でいいますと大破率という言葉を使うんですけれども、その割合と重傷者の関係をあらわしている式ですが、これと大破率と死者の割合、あるいは大破率と負傷者全体の割合、そういう回帰式をもとに、それぞれのまちに、どれぐらい建物があって、どれぐらいある時間その建物の中に人がいて、どれぐらい揺れるのかということで推計するというような方法を積み上げていくものです。
そのときに、負傷者その他のことにかかわるんですけれども、どれぐらい救出救助ができるのかというようなことで、これは非常に有名な表なんですけれども、前回も使っておりますが、阪神大震災のとき、これは実は朝の五時四十六分、最も地域に人がいる時間帯でした。結果として、埋もれた家から助け出したのは、地域の人たちが六四%、三分の二ということで最も多かったということでございます。
また、七十二時間、三日間が命を救う時間だというふうにいわれてきておりますけれども、まさに、この消防団の救出で、生存率というのは三日を超えると圧倒的に低くなるということがわかるかと思います。こうした過去の例をもとに人的被害というのを想定しております。
三三ページ、三四ページは、火災の死者あるいは負傷者との関係、これも過去日本で起きました火災を伴う地震と、そのときの死者、負傷者の発生をもとに回帰式を設定して、それによって推計をしているということでございます。
ここまでが、ある意味では基本の被害想定なんですけれども、それ以外、これからいろいろ、まさに災害対策を検討する上で必要な情報として、幾つかの特徴ある被害を想定しました。
三五ページ、三六ページは、いわゆる道路がどれぐらい建物の倒壊等、あるいはブロック塀の倒壊等で閉塞してしまうかということを見たものです。下が東京湾北部で、上が多摩直下地震ですけれども、やはり震度六強になるエリアを中心に、かなりの割合で道路閉塞するまちが出てくるということです。
凡例としては、一番赤いところが二〇%以上ということになっておりますけれども、道路の割合というのは、交差点から交差点までの道路を一と数えます。ですから四つ角の交差点に立つと四つ道路を見渡せます。二〇%というのは、五つの道路のうちの一カ所が閉塞しているということですから、二つの交差点を通ったときに、必ずどこかで、行こうと思う方向に道路閉塞が起きているというような割合が、この二〇%以上というような割合です。二五%以上ということになりますと、四つ角に立つと、どこかの道路が通りにくくなっているというような状況です。そういうことを前提に、二つのケースですけれども、道路閉塞状況を踏まえた災害対応を想定していく必要があると思います。
それから次に、都市にとって重要なのがライフラインということです。トイレの問題というのは、非常に大きく生活者の問題としてかかわるわけですけれども、同時に電気、情報等、東京の都市機能を維持する上でも、非常に重要な課題ということになります。
生活者の視点に立つと、まず水が来るか、トイレが使えるかということなんですけれども、三八ページが上水、下水の被害率です。ただ、すべてを被害想定しているわけではありません。例えば、下水道でいうと管渠、管の部分の被害率だけですので、マンホールの浮き上がりというようなことを想定しているわけではありません。
それから随分、上水道と下水道で差があるように思われるかもしれませんけれども、ちょっとこれは推計式が、上水と下水で違ってございます。上水の方は、まず、揺れの震度によってどれぐらい破損するか、さらにその後、液状化によってどれぐらい被害が増幅するかというのを別建てで推計してございますけれども、下水道の方は、揺れによる被害と液状化による被害を合わせて一つの被害率にして想定しておりますので、例えば、下町の液状化の発生する可能性が高いところでは、若干、下水道の被害率というのは低目に、山の手等の液状化の発生が考えられない地域では、やや高目に下水道の被害が想定されているというふうに見ていただいた方がいいかなと思っております。
それから、電気、通信、ガスということですけれども、三九ページでございます。この電気は、まさに固定の停電率ということでして、ここでも液状化を想定したものと、さらに停電率には、火災ということ、火事を想定しております。日本の都市、東京も含めて、電線が空中を走っておりますので、市街地火災を起こしますと全部電線が燃えてしまいます。通信線も燃えてしまいます。そういうことも考慮した上での被害率です。
ガスにつきましては、ブロック単位の中で、ある一部、三分の一以上が非常に強い揺れになったら、これは危険物ということもあって、安全のためとめてしまうということで、そういう前提に立つと、とりあえず大分、ガスとしては遮断するということが起きてしまうということでございます。
それから、電話は、固定の電話の不通率です。阪神大震災のときの電話の不通というのは基本的に固定電話でした。携帯は、まだまだ普及しておりませんでした。
しかし今回は、携帯について見てみようということで、四〇ページの図というのは、恐らく初めてやった被害想定ではないかなと思います。
携帯電話ということでございますので、まず、アンテナが大丈夫か、アンテナから先は有線ですので、それが大丈夫かということをあわせて、それから電気がないとだめですので、停電率あるいは回線の不通率ということを前提に想定をしてみたと。ここには、いわゆるユーザーの使い方によるふくそうということは含まれておりません。ふくそうの前に、どれぐらい携帯電話が物理的に機能を維持しているかどうかというものを見たものということでございます。
四一ページが、多摩直下地震ということでございまして、やはり、人口密度、住宅密度の差というのが、非常に情報の被害については、大きな差を生んでいるというふうに思います。ユーザーのふくそうの問題ですけれども、四二ページで、東日本大震災のときの通信回線ですが、NTTドコモ、au、ソフトバンクともに音声というところが普通の電話です。九〇%、九五%という状況で、ほぼ全域ふくそう状態が発生していたと。
しかし、このパケットというところはメールです。携帯メールによる通信というのは時間はかかりますけれども、これは大分使えたと。特にau、ソフトバンク等では、パケット通信の中でのふくそうは発生していなかったということです。ただ、みんなが音声を頑張って、パケットを使わなかったからだともいえるのかもしれません。ちょっとこのあたりは、むしろユーザー側のルールをつくることの方が大事ですし、それから安否確認その他は、やっぱりパケット通信で行うということが必要なのかなというふうに想定されます。
ちょっと時間になってしまいましたけれども、もうあと少しだけお話させてください。結果として、ライフラインの復旧日数ということですけれども、これは前回もそうでしたが、阪神大震災、今回さらに東日本大震災のライフラインの復旧にどれぐらい日数がかかったかということになります。阪神大震災と同じ復旧日数で、東京の被害想定に基づく被害からの復旧を図ると。それぞれの事業者もそういう対応をしていくということで、今回の被害想定になっております。
さらに、その他の被害ということで、地下街の被害ということも今回出しました。殺到者数というところに三七%という数字がありますが、これは実は、アンケート調査に基づいたデータです。これが多くなりますと、いわゆる階段に殺到して、そこで脱出パニックといいますが、人が人を踏みつけて下敷きになった人が亡くなってしまうというような事態です。そういう事態も起こり得るのかなということがこの被害想定ですが、これは逆に、殺到者を冷静に行動させることができれば、ゼロになるということでもあります。
それから、四五ページは、エレベーターの停止ということでございます。平均何人乗っているかということまで今回やっておりませんけれども、東京湾北部で七千五百台ほどのエレベーターが停止すると、これを動かすには相当時間がかかるということにもなろうかと思います。
また、脱出困難者というのは、例えば、マンションのドアのフレームがゆがんであけられなくなって外へ出られないとか、あるいは木造の住宅が傾いてドア等あけられなくなって部屋から出られないとか、玄関から出られない、そういう状況でありまして、六万人という想定になっております。
それから、四六ページの方が、東京湾北部地震ですと九千七百人の死者のうち約半数が、いわゆる災害時要援護者、高齢者ということになるんではないかという想定です。これはなぜそうなるかといいますと、古い建物が全壊率が高くて、倒壊による被害の多くが古い建物であると、どうしても、経験的に高齢者の方のお住まいが古い住宅の場合が多いということで、どうしても高齢者の方を中心とした災害時要援護者の方が、犠牲になる可能性が高くなっているということでございます。
それから、震災瓦れきですけれども、東日本でも大きな瓦れきの処理というのは話題になっておりますし、東京都、各区、いろいろご支援しているところだと思いますけれども、約その倍ですね、東日本が二千三百万、東京の今回の被害想定でいきますと四千三百万、ちょっと少ないじゃないかと思うかもしれません。実はこれは、火災が多くなればなるほど瓦れきはふえません。火災というのが実はある意味では野焼きをしている状態でございまして、木質系の可燃物の瓦れきというのは火災によって燃えてしまうんですね。その結果として、十万棟の全壊、二十万棟の焼失、その他さまざまな施設合わせて四千三百万トンというようなことです。ただこれも最終処分を考えますと、非常に大量の瓦れきであることは間違いないというふうに思います。
それから、今回、建物の被害、火災による被害が少し減少したことを踏まえて、より実質的には、避難生活者も前回よりも減ってございます。このうち真ん中の、避難生活者って書いてあるところが、いわゆる小中学校等の区市が設置する避難所へ避難するしかないというふうに考えている人の割合でして、区部で約二百万人という数字になってございます。右側は、公的避難所ではないところに避難をする、疎開をするということで、百二十万人というような数字になってございます。
それから、帰宅困難者でございますが、これは今回ふえました。ふえた理由の一つは、外国も含めて首都圏以外から、観光、出張その他で来ている人も入れてみると四十六万人ぐらいそうした人が平均いるということで、前回の四百万台から今回五百万台にシフトしてございます。
帰宅困難者というのは、実は一九八三年、四年に、東京多摩地域の被害想定をしているときに、東京らしい被害の一つということで想定したのが最初の帰宅困難問題でした。余り当時は議論にならなかったんですが、一九七八年の宮城県沖地震のときに、夕方五時過ぎの地震で、翌日の朝まで家に帰れなかった人--科学技術庁の調査がありまして、二十キロ以上家から離れているところで被災した人は、だれも帰らなかったということで、実は二十キロ以上の人は、帰ろうにも帰れないんだということを前提に、帰宅困難者というのを想定したものです。
当時は、都心に人が集まることよりも、郊外の住宅地では、帰ってきてほしいんだけれども、お父さん帰ってこられないよと。お母さんとお年寄りと子どもで一晩頑張らなきゃいけないという、帰宅困難居住者が多数発生して、郊外では、今でいうと災害時要援護者を中心に一晩頑張らなきゃいけないということをクローズアップするための推計だったんですけれども、阪神大震災以降、都心にあふれる人も大問題であるということで、そちら側に、対策としてはシフトしております。
いずれにしても、裏表の関係でして、郊外に住んでいる家族が被害を受けていない、けがをしていないという状況が確認できれば、落ちついて都心で安全な対応をすることができる。郊外と都心の問題というのは実はリンクしているんだということを、ぜひご了解いただいて、ご検討いただければというふうに思っております。
今回、先ほどいいましたように、少し被害想定が、五百十七万ということでふえておりますが、これは、帰ろうにも帰れない遠来者を入れてみたということでございます。
ちょっと時間が押してございますので省略いたしますけれども、五二ページのところに、これまで進めてきた帰宅困難者対策ということがございますが、私の考えとしては、やはり安否の確認というのは非常に重要であると。それで、我が家は大丈夫とか、大きな被害を受けていない、家族も大きな被害を受けていないということが確認できれば、落ちついて都心で、安全になるまで待機するということが可能になってくると。もし、家族は大けがをしましたとか、我が家が燃えていますなんていうことがわかったら、それこそ何をおいても帰らなきゃいけないということになってしまうわけで、いかに安否の安を確保するということが基本かということになると私は考えております。
その意味で、安否の安を確認するための情報基盤の整備、(4)ですね、これが確保できてくれば、一斉帰宅、先ほどのように、木造密集市街地が都心、副都心を取り囲んでおりますので、都心部の人は、火災がおさまるまでは、その場所にとどまるのが最も安全なんです。慌てて家へ帰るということは火災に向かって歩いているということでございますから、ぜひそうならないように、郊外の家族との安否確認ということをきちっとできるようにするということが、何よりも大事かなと私自身は思っております。
帰宅支援というのは、火災がおさまった後、二日目夕方とか、三日目以降の課題ということになろうかと思います。
最後にしたいと思いますけれども、五四ページ、これは実は私の最後の提案ですけれども、東京スタイルの災害に強いまちづくりということで、防災家づくり、防災まちづくり、防災訓練、プラス、阪神以降、復興についての取り組みを、首都東京としては、世界に先駆けて、事前復興ということで進めているわけですけれども、これを一つ東京スタイルのまちづくりの中に入れて、被災後どういうふうに迅速に復旧復興するかも含めたまちづくりを進めていくということが、何よりも災害に強いまちづくりにつながるんではないかなと思っております。
最後、五五ページですけれども、いずれにしましても、この被害想定というのは起きていないことを想像しておりますので、まさに創造力の世界です。科学的であるとはいえ、よく我々は、倍半分と仲間うちでいうんですけれども、倍になっても決して想定外ではない、半分でおさまることもあり得ると。そういうことでございますので、想像で、どういう状況になるのかが、新しく必要な対策を生み出していくんではないかなというふうに思っております。
ちょっと余計なことをお話したかもしれませんけれども、私の方からのプレゼンテーションは、以上にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
○大津委員長 ありがとうございました。
中林参考人の発言は終わりました。
次に、中林参考人に対する質疑を行います。
なお、答弁する際は、手を挙げて、委員長の許可を得てから発言していただきますようお願いいたします。
それでは発言を願います。
○いのつめ委員 都議会民主党のいのつめまさみでございます。どうぞよろしくお願いいたします。
なお、先生には、昨年秋にも、東京都の防災対策をご教示いただきましてありがとうございました。また、きょうも重ねてのご教示ありがとうございます。先生は、国内外のさまざまな地震被害の状況を研究されていらっしゃいまして、本日もその豊富な知見の一端をご教示いただきました。東京都が首都直下地震への備えを固めていくために、まず、東京に起こり得る地震像をしっかりとイメージすることが重要だと考え、まずお伺いいたします。
今、ご説明にもありましたが、阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災は、それぞれ被害の様相が異なったとのことです。我々が備えるべき首都直下地震は、こうした過去のさまざまな地震像と比較して、それぞれどこが共通点なのか、また異なるのか、東京の被害の特徴をご教示ください。お願いいたします。
○中林参考人 震度七の地震を三つ並べて先ほどお話ししたんですが、共通点といいますと、まず地震の被害というのは、やっぱり揺れから始まるんだということです。建物の耐震性が高く、揺れによる被害が少なければ、その後に発生するさまざまな被害も減っていきます。そういう意味では、地震対策の基本として、耐震対策、耐震改修、あるいは建物の建てかえも含めた耐震性を高める、ライフラインも含めて都市施設の耐震性も高めるということが何よりも重要であると。これがもう地震対策の基本だというふうに思います。
その上で、この三つの地震と東京で想定される震災との違いは何かといいますと、最大の違いは火災です。火災による被害が非常に危惧されているというのが、東京の最大の特徴であろうと思っています。
例えば、阪神大震災も火災が発生いたしましたが、あれは朝の五時四十六分、まだほとんどの人が寝ている時間帯に起きた地震でして、被害の結果でいいますと、揺れによる被害が十万五千棟、火災で焼失したのは七千棟です。死者でいいますと、直接命を落とした方が五千五百人です。そのうち揺れによって下敷きになった方が五千人、火災の現場から発見された方は五百人。
ところが今回被害想定をしてみて、東京湾北部でいいますと、十一万六千棟の全壊、それから十八万八千棟の焼失、死者で見ますと五千六百人の揺れによる死者、四千百人の火災による死者。火災がなければ、朝の五時の地震が一番人的被害が多くなるんです。なぜかといえば、壊れるもののほとんどが住宅だからです。
しかし、東京の場合には、火災が膨大に発生するものですから、朝の五時よりも、夕方の十八時の方が死者がふえてしまう。それは火災による死者が大きくふえるからなんです。そういう意味で、東京の震災対策では、やはり火災対策、燃えなくする、あるいは出火したものをなるべく初期消火で消しとめる、かつ消防等を運用して拡大させないようにする、こういう火災対策というのが何よりも大事であるという災害の特徴ではないかなと思います。
○いのつめ委員 ありがとうございました。ポイントをおっしゃっていただきました。
次の質問は、今回の想定で、揺れなどによって倒壊する建物の数について見ると、東京湾北部地震では、前回の想定より減少しているようですが、その一方、多摩直下地震では、前回より増加しているとのことです。地震を起こす首都直下のフィリピン海プレートの上面が、従来より二十キロ浅いことが発見され、こうした新たな知見を用いた検証の結果、強い揺れの地域が拡大したとのことですが、これがどのように影響しているのか、どのようにとらえればよいか、ご教示をお願いいたします。
○中林参考人 先ほど、この五年間で、たくさんの建物が建てかわったというお話をしました。東京全体で、建物の揺れによる被害が若干減った。区部で見るともっと減っているんですけれども、それはやはり区部を中心に、実は、古い建物が滅失し、新しい建物が建てかわっていったということであろうかと思います。
それから、多摩地域で若干ふえておりますのは、やはり多摩地域の揺れ、震度六強の揺れが、前回、二〇〇六年の多摩直下では〇・八%でございましたが、今回は二五%ということで、何倍になりますでしょうか、物すごい割合でふえております。そのことが結果として、多摩地域で建物の揺れによる被害がふえています。
ちなみに、区部の震度六強の変化は四〇%が七〇%ぐらいにふえているというような結果になっております。〇・八が二五ですから、そうですね、割り算すればいいんですけれども、相当、強い揺れの地域がふえたことが最大の原因だと思います。
○いのつめ委員 今、ご説明をいただきました旧耐震基準に基づく古い建築物については、かなりの被害が見込まれると思います。その一方で、新耐震基準の建物でも、例えば、年月が経過すれば、徐々に弱くなったりして被害が生じるのではないかとも思います。新耐震基準の木造住宅について、被害想定ではどのように想定、検証されているのでしょうか。
また、それに対応し、家屋の倒壊や延焼を防ぐにはどうすればいいのでしょうか、適切なメンテナンス方法などはあるのでしょうか、ご教示をお願いいたします。
○中林参考人 新耐震基準というのが、一九八一年に建築基準法改正でつくられました。翌年、八二年の七月以降の建物にすべて適用されるということになりました。初期に建った新耐震基準というのは、もう築三十年ということでございまして、委員ご指摘のとおり、経年劣化というのが起きてきている時期に入っています。これは木造も非木造、鉄筋コンクリートでも、ある意味では同じです。
したがいまして、阪神大震災のときは、まだ、築十五年だったんですね、新耐震で一番古いものが。それから十五年、十六年たっているということになりますので、シロアリその他さまざまな原因がありますので、できれば、新耐震基準でも、その古いものについては耐震診断、そういうことをそろそろ始めた方がいいんではないかなと。よく日本では、築三十年で大きく修理するか、建てかえを考え出すかというそういう時期でございますので、建てかえを考える、あるいは修理で大丈夫かというのは、まず耐震診断をして、きちんと内部までどういう状況にあるかを判断することが大事だと思います。
ただ、これまでの耐震改修というのは、八一年以前の建物を、八一年以降の基準に合わせるように改修しようということで進めてきているわけですけれども、そういう耐震診断をするレベルも、新耐震以降であるから安心ということではない、というところに少し踏み込み出したんではないかと思います。
特に木造は、二〇〇〇年に建築基準法の改正に絡んで、その新耐震基準でもこういうふうに木造を建てるといいのですという、その仕様というものが出されました。それ以前というのは、いわば設計士とかあるいは工務店さんにお任せしている部分があったものですから、かなりばらつきがあるといわれています。そうしたことも考慮すると、新耐震基準以降の建物について、古いもの、新しいもの、あるいは二〇〇〇年以前と以降では、少し見方を変えていく必要が出てきているかなと思います。
ただ、今回は、二〇〇〇年以前と以降で、どういう被害に差が出るかというデータがございません。都合のいい、そういう地震が起きていないんですね。わずかにあるとすれば、中越沖地震の柏崎市の被害のデータなんですけれども、ちょっと量が少ないこともあって、今回は考慮していないのですが、そういう状況にあります。
耐震診断の結果、補強が必要であるということになれば、これは木造でも鉄筋コンクリート等でも、補強の技術は多様に開発されておりますので、そうした補強技術に開発が必要であるという事態ではないというふうに思います。
○いのつめ委員 貴重なお話をお聞かせいただいてありがとうございました。携帯電話のデータや、また、ご高齢者の方が多く閉じ込められやすい、また、ご高齢者のお宅が火災に遭いやすいというような、本当に貴重なお話をきょうは伺いました。本当にありがとうございました。
○早坂委員 自民党の早坂でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
今回の新たな被害想定における死者数は、最大で九千七百人、六年前の想定では六千四百人、およそ一・五倍に増加をしています。私は、この数字を見まして大変驚きました。と申しますのも、さまざまな政策を展開して、耐震化、不燃化が進んでいること、そして、個々人の住宅の更新が進んでいるから、当然この人数は減っているのかと思ったら、一・五倍にふえたということでございます。今、先生からのご教示によって、震源が浅くなったことが、その原因だろうということで理解をしたところではあります。
一方で、この首都直下地震が起きた場合に、この程度の数字で済むのか。この九千七百人もまだかなり控え目で、実際にはもっと多くの犠牲が出るのではないかという心配、こういう指摘も一方でございます。今回のこの想定数九千七百人について、例えば、阪神・淡路大震災と比較をして、どのように考えるべきか、お考えをお聞かせください。
○中林参考人 阪神大震災と比較しますと、阪神大震災は六千四百三十二というような数字が出ているんですが、あれは実は九百三十人ほどの震災関連死、直後に亡くなった直接死と称するところは五千五百人です。そのうち、揺れによって亡くなった方が五千人、火災の現場から焼死体として発見された方が五百人ということです。揺れによって壊れた建物が十万五千棟ということが阪神大震災です。
今回の東京湾北部地震のケースですと、十一万六千棟の揺れによる全壊に対して、五千六百人の揺れによる死者、十八万八千棟の焼失家屋、これに対して四千百人の死者ということで九千七百人ということです。ですから直接死としては、むしろ今回の方が阪神大震災とも適合している。火災による死者が多い分だけ、東京の震災の特徴をあらわしているかと思います。
ただ、今回の被害想定、前回もそうですし、どこがやっているのもそうなんですが、震災関連死というのは被害想定をしておりません。したがいまして、実際に亡くなられる方というのは、災害後のデータを見ると、震災関連死を含めるんですね。東日本大震災で一万九千二百人というのも直接死です。三月末日に復興庁が出した震災関連死が千六百十八人、途中経過ですけれども、足しますと二万一千人なんですね。
そういう意味では、震災関連死というのが東京でどれぐらい発生するか、これはもう想定のしようがないんです。いろんな死因が想定されまして、想定のしようがないのですけれども、そういう関連死を含めて考えますと、これよりも少し上回った数字に、最終的にはなるのは間違いないと。どれぐらいかといわれるとちょっと出せません。
○早坂委員 いただいた資料の八ページ、東京湾北部地震のこの震度分布を見ると、我が東京の区部東部で揺れが激しいということになります。さらにこれを繰りまして一四ページを見ると、同じく区部東部において全壊建物が多いということがよくわかります。揺れが大きければ、全壊建物が多いというのは当然のことであろうと思うんですが、さらにページを繰りまして、二六ページになりますと、火災による焼失棟数は、むしろ東部より区部、西部に大きな被害が出る。これがややちょっと理解に苦しむところなんですが、この点について、ご教示いただければと存じます。
○中林参考人 火災による被害というのは、まず最初、揺れた後、どれぐらい出火するかという想定をして、その後、消しとめられないものがどれぐらい燃え広がってしまうのかという想定をします。火災の出火の想定というのは揺れに比例します。揺れが強いところほど出火の確率が高くなります。
ただし、燃え広がるかどうかというのは、揺れではなくて、建物の込みぐあい、特に木造住宅等の込みぐあいによって規定されます。その両方をあわせて考えてみますと、今回、山の手の南部地域、これはプレートが微妙に北へ向かって沈んでいるので、南側ほど震源が浅くなっているということでもあるんですけれども、震度六弱だったところが六強になって、出火件数の分布がやや高く想定されるということ。
さらにクラスターという方式を今回とったわけですが、木造の密集した固まり、これも、もともと提案されていた東大の加藤孝明准教授によると、延焼運命共同体といういい方を彼はするんですけれども、消しとめられなければ一つの火で燃え尽きてしまう固まりです。
これが下町よりも山の手の方が大きくなっていると。下町は、鉄道、河川、それから後藤新平の区画整理も含めて、街路がかなり密に入っているんですね。ですから同じ木造密集市街地なんですけれども、微妙に細かく分断されている。山の手側の方が分断が少ないということで、クラスターが大きくなっている。それから出火率が若干、揺れが強くなった分上がって、かつクラスターが大きいということが、山の手側で焼失棟数が大きく出てきている結果に反映しているということになるかと思います。
○早坂委員 今回の火災の想定は、毎秒八メートル、過去の気象のデータに基づいて、より実態に即した形で行ったというふうに承知をしております。となると、前回の被害想定で行った毎秒十五メートルという設定は、相当に大きかったということになるのでしょうか。
関東大震災では、かなり強い風が吹いて火災旋風が起きました。短時間で見ると、台風のときのような極端な風速の風が吹くこともあり、このような場合には、火災が飛び火するといった事態も考えられると思います。被害想定として、今回の風速毎秒八メートルを用いた点について、お考えをお聞かせください。
○中林参考人 前回、風速十五メートルを使ったというのは、実は二〇〇五年に内閣府が被害想定をするときに風速十五メートルを使っていて、それと同じ条件を入れてみようと。それから従来東京都が設定してきたのは、風速六メートルということで想定をしていました。阪神のときは無風といわれているんですが、六メートルの風が吹いていたというのが神戸の気象台のデータですので、前回は三メートル、六メートル、十五メートルでやったんですね。
今回は、じゃ実態は本当に東京で冬どれぐらいの風が吹くのかということを、六カ所の気象観測所のデータを三十年分とって調べました。一番強い風になったのが大手町の気象庁のある東京観測所でして、平均しますと、十分間の平均のことを最大風速というんですけれども、十分間で平均四・八メートルというのが東京で一番大きな風、多摩地域よりも海に近い方が風が強いんですけれども、そういう結果になりました。標準偏差という誤差の範囲ですが、それをプラス一シグマ、プラス二シグマ、かなり起きにくいところに上げてやっと七・九メートル、今回そのプラス二シグマというのを採用して八メートルということにしました。
ちなみに、十分間の平均風速の中で、風というのは呼吸するというんですが、強くなったり弱くなったりします。ぶうっと強くなったときのことを最大瞬間風速というんですけれども、これは約倍になるといわれています。
したがって、関東大震災の映像等を見ると、そんなに強い風が吹き続けていたわけではない。恐らく最大瞬間風速で十五メートル、ということは平均でやはり八メートルというような規模ですので、十五メートルと八メートルで非常に大きな差があるように見えますけれども、大きな差がないと。むしろ今回は、東京の気象条件に合わせて推計をしたと。しかもその中でも、めったに起きない冬の強い風の日ということを前提にしているというふうに思っています。
○松葉委員 都議会公明党の松葉多美子でございます。本日は、先生大変にありがとうございます。
首都直下地震などへの大規模災害の対応を考えていく上で大切だと考えております点について、何点かお伺いしたいと思います。
まず、災害発生時の混乱の中では、どうしても高齢者の方や障害者の方、また、女性、子どもといった方への配慮が足りなくなることが考えられます。今回の想定でも、死者の半数は、要援護者ということになっております。先ほど、高齢者の方は古い住宅に住まれている方が多いという、そういうお話もございました。
都市防災の専門家であられます先生の眼で、この被害想定を見られる中で、こうした方々に対して留意すべきこと、また考えておくべきことがありますでしょうか、その点をお伺いしたいと思います。
○中林参考人 高齢者、障害者、女性あるいは子どもということですけれども、いわゆる災害時要援護者ということになろうかと思います。災害時要援護者をどういうふうに守るか、そのために災害時要援護者に対しての被害想定の中での気配りを若干ずつやってきたところではありますが、委員ご指摘のとおり、まだまだ足らないというところがあろうかと思います。
特に今、被害想定というよりも、対策を考えていく上で、女性の視点とか、あるいは子育て世代の方の視点ですとか、あるいは障害者の方の見方、そうしたことを十分反映させていく必要は、これからますますふえてくると思います。
その中で、じゃどうするかというと、被害想定もそうなんですけれども、木造の密集市街地にそういう被害が集中する、家を失うことによって、その後の震災関連死に遭遇する可能性も高まってくると。それをどういうふうに支援するかというのは、恐らくハードウエアではなくてソフトウエアといいましょうか、隣近所での支援ということが何よりも災害時には重要になると思います。
そういう意味で、防災隣組というような隣近所で助け合える仕組みをつくる、あるいはそういう人間関係をつくっていくということが何よりも重要になってくるんではないかなと。被害想定等で、そういうコミュニティの緊密さみたいなものを評価できないかということをずっと長年研究課題としてやっているんですが、なかなか評価する決め手になるデータがないのが実情ですけれども、結果としては、そういう隣近所での助け合いというのが極めて重要であるのは間違いありませんし、昨年の東日本で、「絆」という字が昨年の漢字になったということは、まさに、そこが極めて重要なんだということを示しているんだろうというふうに思います。
個人情報保護法等絡みで、なかなか災害時に、どういう状況になるかということと、毎日の生活でプライバシーを守りたいというところの相互の問題はあろうかと思いますけれども、やはり災害時には、近くにいる人こそが唯一の救いでありますので、そうした近隣のコミュニティを維持する、あるいはコミュニティの力で災害を乗り越えていけるような取り組みを、ぜひとも展開すべきではないかなと。今回わずかですけど、災害時要援護者のことを被害想定で検討したというのも、そうしたことを背景に検討してみたということでございます。
○松葉委員 ありがとうございました。次に、阪神・淡路大震災や東日本大震災の教訓からも、トイレ問題は非常に重要であるということを認識をいたしております。先ほどのご説明の中で、震災時のライフラインとトイレの問題を先生取り上げていらっしゃいましたけれども、この首都直下地震では、三百万人を超える避難者が生じることが想定されておりまして、これまで経験したことのない事態も考えられるのではないかと思います。
これまで、調査研究をされてこられた先生として、どのような状況になるとお考えになっていらっしゃるのか、具体的にご教示いただきたいと思います。
○中林参考人 先ほどのライフラインの中で、上水、下水の被災というのを出しました。今もう、ほぼ一〇〇%水洗トイレと考えてよろしいかと思うんですけれども、水洗トイレが使えなくなるのは、下水ではなくて上水がとまることなんですよね。したがいまして、下水が余り被災をしていない状況ですと、トイレで出したものを流せればいいという、そういう意味では、飲み水も重要なんですが、生活用水をいかに各家庭で確保するか。例えば、たき込み型のおふろですと、翌日たく分のお水を常に蓄えておく、使った後、水を入れかえておくというようなことでしたり、あるいはボイラーでお湯を出す方式ですと、すぐお湯を捨てないで残しておく、そういうことが、実は生活用水として使えることになります。
それからもう一つ、仮設トイレ等がとにかく必要になりますが、膨大なエリアに膨大な量を運ぶとなりますと、とても一日、二日では賄えません。そういう意味では、今、実は携帯トイレというのはすごくいろんな種類が出回っております。交通で渋滞したときのための携帯トイレ、これは自動車グッズ屋さんに売っておりますし、今、山登る人はみんな携帯トイレを持って山を汚さない、山の環境を守るということで携帯トイレを持っていきます。これはスポーツ屋さんへ行くと売っております。そういうふうに、一人一人の家庭で、どれだけ携帯トイレを準備してもらうかということが、私は対策としては非常に重要で、三日分ぐらいそれで各家庭が頑張ってもらえると、その後のトイレ対応というのがスムーズに動くんではないかなというふうに思っております。
結果として、先ほどのような上水、下水の被害になりますと、相当トイレに支障が出るのは間違いがございません。それを公で全部やるというのは、とても至難のわざですし、現実的ではないと思っておりますので、少なくとも三日間、携帯トイレで、脱臭剤と凝固剤が入っておりますから、要するにごみがふえるんですけれども、ごみとして各家庭で処理していただく、ごみとして各家庭で保管しておいていただくというようなことが何よりも重要になってくるんではないかなと。避難所等にも携帯トイレを少し準備しておくということで、初動対応というのが随分変わってくるんではないかなというふうに思っております。そうした、少し発想の転換をしながら、時間をかけてトイレを回復していくというようなことを、もう一度見直してみるということも大事なんではないかなと思っています。
○松葉委員 最後に、帰宅困難者への対応についてお伺いしたいと思います。
昨年の三月十一日の帰宅困難者対策といいますと、イメージが強くありますけれども、あのときは、電車がとまりましたけれども、大半の建物は問題がなく、火災も余り起きなかったという状況でありました。ところが首都直下地震では、多くの建物が倒壊し、火災が延焼することが想定されるわけであります。
先ほど先生からは、都心部の人はその場所にとどまることが最も大事だというお話もございました。このむやみに移動を開始しないという基本方針で対策を進めているところですが、こうした厳しい状況が生じ得る中で、移動しないで本当に大丈夫なのかという逆な不安もあります。この点についてどう考えていけばいいのか、ご教示いただきたいと思います。
○中林参考人 都心区、都心三区というところに、帰宅困難者が多数発生するのは紛れもない事実なんですけれども、広く見ると、東京区部全体に相当数の帰宅困難者というのは発生します。全員がその場所にとどまるのが本当に安全なのかということですが、委員ご指摘のとおり、例えば、木造密集市街地、環七周辺にたくさんの滞留者が発生する可能性があるわけですけれども、そこでもし火災が発生した場合には、実は、地域の皆さんと一緒に、広域避難をする、東京都が指定しております避難場所に、居住者の方も滞在者の方も一緒に避難をするということが何よりも命を守る上で重要になってきます。
ですから、帰宅困難者問題ということで特化させるというよりも、そのまちに滞在している人の命を守るという視点に立てば、地域の特性に合わせて、守るべき命を守るための行動、対策というのがあると思います。
先ほど、火災が最も東京の特徴だといいましたけれども、その大火災が発生したときに、帰宅困難者も含めてどういうふうに東京都の指定している広域避難場所に避難をして命を守るのか、こうした広域避難のあり方についても、同時に検討していくという課題ではないかなと個人的には思っております。
○吉田委員 先生、きょうはどうもありがとうございます。私、日本共産党の吉田信夫と申します。幅広い問題提起をしていただきましたけれども、限られた時間ですので、私は、先生が長年取り組んでこられた、主にまちづくりに関して何点かお伺いをさせていただきます。
既に、今までの話の中でも、火災対策ということを考えてみても、東京の場合には、木造密集地域に対してどう対策をとるのかということが大きな課題だと思います。現実に考えたときには、この路地という特性を生かしつつ、どう防災まちづくりを進めていくのかということが一つの課題だと思います。
二〇〇六年に、「路地からのまちづくり」という本が出版されて、その中で、先生も寄稿されていますが、先生は、路地型防災まちづくりという概念を提起をしておりますけれども、できれば、この路地型防災まちづくりについての考え方や具体策について、今日の時点でコメントしていただければと思いますが、よろしくお願いいたします。
○中林参考人 ある出版社が、路地のまちづくりという本を企画したんです。それは、いかに路地がすばらしいかということで企画したんですけれども、やはり木造密集市街地に路地が多いんですけれども、防災をやっている立場から見ると、余りにも路地礼賛は、少し危ないのではないかというのが私の正直なところでした。ちょっと知っている人が編集していたものですから、実は割り込みで、路地の防災まちづくりというのを書かせてくださいということで書いたのが、委員ご指摘のものです。
そこで何をいいたかったのかというと、確かに、現実のまちがありますので、大幅に改造するというようなことは、なかなか現実には動きません。しかし災害はいつ起きるかわからないという意味で、緊急措置として、路地を最大限活用しながら、住んでいる人の命を守るためには、まず、耐震化を進めると。路地を瓦れきの山にしないということで、逃げる空間を確保する。あるいは救出救助で活動する空間を確保する。それをいわば路地型防災まちづくりということで提案したわけですけれども、これはまさに緊急措置というふうに思っています。
もし、そのまちが全員助けられて逃げたんだけれども、どこかで起きた火災によって燃えてしまうと、そこを再建するためには、やはり最低限、建築基準法が求める四メートル幅員の道路を整備する方が再建が早いんですね。そういう意味では、最低限の基盤整備の区画整理等をやった方が再建が早くなる。それから次の災害のときには区画整理をする必要がなくなる。本来的には、やはり一定の基盤整備をして、しかも潤いのあるまちにするということが何よりも大事だと。
しかし、すぐには、そのステージにいかないものですから、路地を生かして、かつ路地というのは、昔から向こう三軒両隣で、緊密な人間関係を生むという空間でしたので、それを最大限生かすと、そういう人間関係の助け合いが生かされるような路地空間を確保するためには、路地に面している家に、必要があれば耐震改修をしてもらう、そこから改めて助け合うことも含めたまちづくりを進めたらいいと、そういう提案をさせていただいたものです。
○吉田委員 続けて、今いわれたことに関連するんですけれども、やはり住宅の耐震改修、とりわけ木造住宅の耐震改修というのが、現実に、生命、財産を守る上で非常に重要課題だというふうに思いますが、これをどう促進をしていくのかということに関連してなんですけれども、個人財産であるということと、公的な支援との関係ということが議論をされながら、全体としては公的支援が進んできているんではないかなというふうに思います。
これも、にわか勉強で、先生が都立大学時代に寄稿された本の中で、私、すばらしいなと思った箇所があるので、ちょっと引用させていただきます。
壊れてからの支援よりも、壊れる前の補強への支援こそが大切である。既存不適格建築物の耐震補強の促進は、高齢化が進展する二十一世紀の最も基本的な災害を減らす課題であり、一層の促進方策が必要だという箇所がありました。本当にそういうことが今必要ではないかなというふうに思うんですが、この点での先生の見解、それと個人財産と公的支援との関係について、もしよければお願いいたします。
○中林参考人 先ほど、阪神大震災、新潟県中越地震、今度の東日本ですけれども、特に、阪神と中越地震を踏まえて、耐震改修が重要であるということは大分浸透してきたと思うんです。建てかえも促進しましたし、耐震改修も随分、一時に比べれば進んできました。実際東京でも、各区市、ほとんどすべての自治体で、耐震診断は行政の負担で行う、工事が必要な場合に耐震改修工事の一定割合、一定額については補助することができるというような取り組みを進めてきまして、それが大きな追い風になっていると思います。
ただ、幾ら必要だといっても、なかなかそれが、するべき人のところへ届かないんですね。どうやって、あなたの家は、こういう状況なので耐震改修した方がいいですよ、幾ら家具を固定しても家が壊れちゃったら元も子もないんですよということをうまく伝えていかないといけない。
そのために、先進的に進んで頑張っている、例えば、足立区ですとか、あるいは墨田区ですとか、こういう区では、地元の設計士の皆さん、それから福祉関係の皆さん、そういう方と一緒になって、地域ぐるみで耐震改修をすると。一軒の家の私有財産の問題ですけれども、地域ぐるみで取り組むと。福祉の方が一緒に行くと、高齢者の方にとっては何よりも信用なんですね。変なリフォーム屋さんが行っても絶対玄関あけてくれませんけれども。そういう意味では、総合的なまちづくりとして、耐震改修に取り組んでいる自治体は、やはり実績が上がっています。
なぜそういう取り組みになるか、公的資金を入れるかというと、一つは、火災が起きてしまえば、自分の問題だけではなくて、周り近所に全部迷惑をかけるわけですから、かつ被災した後、避難所へ行って、仮設住宅に入って、それ全部公費で賄うんですね。そういう費用のことを考えれば、避難所へ行かなくてもいい、あるいは仮設住宅がなくても修理で住み続けられる、その程度の被害に抑えられれば、公費のむだ遣いにならない、長期的に見ますと、そういう意味でだんだん公費を使うということに対する抵抗は減ってきているかと思います。
特に、生活再建支援法ができて、被災者で持ち家で、住宅再建するときには、百万円プラス加算金二百万で三百万円の助成をするという仕組みですけれども、それを考えますと、それまでに考えられていたよりも相当程度の補助をしても、被災後に支援するよりは、よほど効率よく被害を減らし、命を守り、財政を維持できると、そういう関係にあるんだと考えておりますので、今後とも、そういう意味では、公的資金を使った耐震補強というのは必要だろうと思いますし、それを運用するためには、地域の行政と一緒に地域ぐるみで推進する、そういう仕組みが大事だと思うんですね。
例えば、一つの例ですけれども、隣の人が、おばあちゃん助けに行くよと。だけど私がおばあちゃんのベッドまで行く間に、このたんすは倒れる、玄関がこんなになっちゃったら行けないんだから、家の耐震性をちゃんとやって、たんすも倒れないように固定してくれれば、すぐ私は助けに行くよという、そういう一言が物すごく自治体を動かすんですね。そういう声かけができるような、これは広い意味でいうと、まさに防災隣組なんです。その隣組の延長上に耐震化が一層進んでいくと、何か東京スタイルの耐震化ということにつながるんじゃないかなと思っています。
○西崎委員 都議会生活者ネットワーク・みらいの西崎と申します。最後の質問者になりますので、よろしくお願いいたします。
これまで、いろんなお話が出てきたんですけれども、私からは、まず通信への影響と備えについてお伺いしたいと思います。
三・一一の大混乱の一つの要因は、東京でも、携帯電話がほとんどつながらなかったことだと思います。首都直下地震が起きれば、同じようにふくそうが起こり、通信規制がかかるでしょうし、電波を飛ばす基地局が被災すれば、もっと大変な事態になると思います。
先ほど、先生の方から携帯電話の不通分布についてご説明もいただきましたし、今回の東日本大震災における携帯電話のふくそう状況などについても、ご説明いただいたんですけれども、今回の被害想定では、こうした設備面での被災なども見込んでいるのでしょうか。
そうした場合、通信はどのくらいの期間使えなくなるのか、復旧に当たっては過去の震災の例をとりますと、固定電話で二週間、神戸でも中越でも東日本でも、二週間ぐらいというふうに書かれておりましたけれども、この通信の確保というのは、発生時の応急対策、その後の復旧を進めていく上でも大変重要な問題ではないかと思いますので、その点をご教示いただけますでしょうか。
○中林参考人 携帯電話というのは、電話からアンテナ、アンテナから有線で相手のいるアンテナまでいって、そこからまた電波で飛ぶというシステムですよね。したがって、みんなが一斉に携帯を使うと、アンテナの容量をオーバーして発信するものですから、ふくそうという状態で、どれをキャッチしていいかわからなくて、全部キャッチできないという状態になってしまいます。アンテナが減れば減るほど、そういう状況が起きやすくなるんですね。
東日本の被災地に、委員の皆さんも行かれていると思うんですが、大分よくなりましたけれども、当初は携帯が全部使えなかった。なぜかというと、アンテナが建っていたまちがすべて津波で流されて、ゼロになっちゃったんですね。したがって、無線電話じゃありませんので、アンテナがないと立たないと。東京の被害想定でそういう状況がどういうふうに発生するかというと、一つは揺れによってアンテナが傾いたりする。それよりも大きいのは、実は火災による影響で、家ごと燃えてしまう、ケーブル線も燃えてしまうと。先ほどの携帯電話の支障のエリアというのは、実は、火災が発生するエリアとオーバーラップしていますし、建物の倒壊等が多いエリアともオーバーラップしています。そういうエリアでは、多分生きているアンテナが何本かある、線も何本か残るとは思うんですけれども、非常に限りがありますので、みんなが一斉に使おうとすると、もうふくそうということで使えなくなるというのが実態だと思います。
一応、そのハードウエアとしては、必要なところで必要な情報がとれるようにするには、二週間ということを一つの目標にして、一週間で何とか頑張って八割方戻して、二週間で必要なところに戻すというような回復曲線が、阪神のときだったんですけれども、一応そんな目標で事業者も考えているということです。
ただ、ふくそうということについては、我々がどういうふうに使うのかということにかかるんだと思います。したがって、被災から、そういう電話の回復状況というのはだんだん知らされてきますので、一定の回復状況になるまでは、ある意味では、不要不急の音声通話をやめて、必要なところを先ほどのパケット通信で、メールでやりとりをするというような、いわば災害後の情報連絡のルール化みたいなものも、これはコミュニティでというよりも、まさに、全国的な問題かもしれませんけれども、我々がそういうような、ある種の常識を持っていく、つくっていくというようなことが、回復する施設をより有効に使うためには必要なんじゃないかなと。
ただ、余震等で火災が発生したとか、あるいは急病人が発生したとか、そういう一一九番とか一一〇番というのは、これは最大優先ですので、むしろそういう緊急事態にしか音声を使わないというぐらいの、いわばルール化をするということが、この限られた通信線をより有効に使う上では重要だと思いますし、事業者の方も多分、回復を急ぐと思いますが、どういう使い方ができるかというようなことを刻々公開していくことによって、無用なふくそうというような不安をあおる状態を避けていけるんではないかなと思っています。
○西崎委員 もう一点、子どもたちの被害の状況についてお伺いしたいんですけれども、先ほど、要援護者ということで、松葉理事からもお話がありましたけれども、今回、東日本大震災では、子どもの死亡数というのが、なかなか把握できなかった。あるいは子どもの被災状況、どういう状況にあるのかということが非常に把握しづらかったということを聞いております。
私どもも、福島とか宮城に行ったときに、例えば、津波で亡くなられたお子さんが、学校にいたらみんな集団で移動して、子どもたちが助かったけれども、たまたま学校を休んで風邪で自宅にいた子どもが、自宅で津波に遭っているというような状況、聞いて大変胸が痛くなったんですけれども、やっぱり大規模な災害が発生したときに、弱い立場にある子どもに対して、できるだけの備えをしていく必要があると考えます。
その点で防災教育というのが出てくるのかもしれないんですけれども、釜石の例とかいろいろな状況の中で役立っている部分もあるんですが、特に子どもたちに特徴的にあらわれてくる課題としては、どのようなものが考えられるのか。
また、学校での保護、登校下校時に起きた場合など、親の手から離れた場合の子どもに対する、そういったときに被災した場合の留意点など、ご教示いただければと思います。
○中林参考人 子どもというと、すぐ学校というふうに目が行くんですけれども、子どもがどこにいる時間が一番長いかというと、実は自宅にいる時間が一番長いんです、夜も含めて、夏休みも含めて。そういう意味では、まず子どもを地震から守るというのは、自宅をしっかり耐震化しておくということが何よりも大事なんですね。その上で、委員がおっしゃるように、子どもも活動していますし、親も活動していますから、ばらばらになってしまう可能性が非常に高いんだと思います。
学校にいれば、帰宅困難者でいえば、寄る辺ある人ですよね。学校にとどまって、学校で対応するというのが一番大事だと思います。家にはだれもいない、両親とも働きに行っているという家庭も少なからずあると思います。そういう意味で、公立の学校というのは、地域の避難所であったり、防災拠点になっておりますから、PTAではなくて、PTSの関係をつくることが私は非常に大事だと思っているんです。Pとは親ですね、Tは先生ですね、Sというのは子どもです、スチューデントです。親と子と先生とで、この地域の中で災害が起きたときに、どういうふうに災害を乗り越えていくのか。家に帰らせるというのが、何となくこれまでの一般ルールのように思っているんですけど、実は家へ帰らせる前に、親が避難してくるとか、おじいちゃん、おばあちゃんが避難してくるということもあって、一つの学校を拠点にした災害直後の対応の仕方というものを、改めて皆さんで考えてもらうようなことをしていくことが大事なんではないかなというふうに思っています。
公立学校の、いわば防災のシステムというのは、地域と密接不可分の状態でありますので、地域ぐるみで、学校を、子どもをどういうふうに守っていくのか。親がいないときには、お隣の方がこの子の仮の親ですと、そういうことを先生がわかっていないと渡せないわけですよね。そういう意味では、親と先生と子どもが、お互いに災害時にどう対応をするのかということをきちんと確認しておくことが、まず大事だと思います。
阪神の後、東京都の生活文化局の私学部の方では、私立学校の子どもたち、小学校、中学校、高校を含めて、生徒自体が帰宅困難になる可能性は非常に高いということで、改めて防災対応マニュアルというのをつくって、つい最近でき上がりました。ちょっと頼まれて、一緒にアドバイスしながら、マニュアルの改定をさせていただいたんですけれども、そうした私立学校での取り組みと同時に、地域でのそうした学校防災の取り組みというのが必要ではないかなと。
親子で、災害とは何かということをきちんと学ぶことも大事で、世代を超えた防災教育、防災学習ということも大事だろうというふうに思います。社会教育と学校教育で、ともに防災が学べるというような仕組みも、地域の防災システムを考えていく上で必要な知識ということでもありますので、そうした部局を少し広げた展開も、私は必要ではないかなというふうに思っています。
○大津委員長 お諮りいたします。
中林参考人からの意見聴取はこれをもって終了いたしたいと思いますが、これにご異議ありませんか。
〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
○大津委員長 異議なしと認め、中林参考人からの意見聴取は終了いたしました。
中林教授、本日は、大変お忙しい中、貴重なご意見をいただきまして、まことにありがとうございました。心より厚くお礼申し上げます。
これをもちまして本日の委員会を閉会いたします。
午後四時三十四分散会
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