東京都議会予算特別委員会速記録第四号

○山本委員長 相川博委員の発言を許します。
   〔委員長退席、和田副委員長着席〕

○相川委員 私は、東京都におきます景観行政についてご質問させていただきます。
 アメニティーという言葉がございます。きょうの委員会のトップバッターでありました大西先生の質問の中にも登場してまいりましたけれども、イギリスのナショナルトラストの中から生まれた言葉、言葉というよりは、環境を守り、つくるという思想といった方が適切かもしれません。
 このアメニティーという言葉が日本に紹介をされまして、日本の閣僚の中で最初に取り上げられたのが、私の記憶に誤りがなければ、当時の環境庁長官であった石原知事でございます。そういう知事でありますから、都市の景観、美観、風格あるいは快適性といったものに殊のほか強い関心をお持ちであろうと確信をして、質問をさせていただきたいと思います。
 昨年十二月十八日に、東京地方裁判所から、国立マンション建築紛争の判決が出されました。この紛争は、単なるマンション紛争ではなくて、国立という、日本の中で最も学園都市の冠がふさわしい町のメーンストリートの沿線の景観を裁判の争点とする裁判でございました。
 そもそも国立という町は、大正の末期に、今の西武鉄道の前身であります箱根土地株式会社の堤康次郎氏、これは知事のお友達のお父様でいらっしゃると思いますけれども、その堤康次郎氏が、ドイツのゲッティンゲンという町をモデルにして開発をした町であります。
 堤さんは、まず中央線に駅を誘致いたしました。その駅がたまたま国分寺と立川の間にありましたので、両方の頭をとって国立という駅に、単純な命名をされたわけですが、私はそこの都立国立高校という高校を出たんですけれども、当時は知名度がなくて、遠征に地方に行きましたりしますと、あなた方の学校というのは、都立なんですか、国立なんですかとよく聞かれたものでありますが、そういう国立の名前が、当時、谷保村であったわけですけれども、駅の名前がそのまま町になって、現在の国立市に移り変わってきたわけであります。
 時々私も、今でも国立へ行って、喫茶店などに入ってぼんやりしていることがあるんですが、あの町へ行きますと、あのころの開発事業者の高い理想とロマンを感じずにはいられないわけであります。
 知事も、学生時代の一時期をあの町で過ごされたわけですけれども、その国立の大学通り沿道から二十メートルの範囲で、建物の高さ二十メートル以上を撤去しなさいと、こういう判決が出されたわけであります。
 私は、もう既にでき上がっている建物の二十メートル以上の部分を撤去する、これは現実的にはいかがなものかと思うわけでありますし、また、この紛争の過程の中で国立市が後追いでかけた地区計画も、やり方としては非常にこそくなやり方だったんだろうというふうに思っているわけでありますが、その論拠となった、景観利益が法的保護に値する、この点については、今後の景観行政を進めていく上で非常に注目すべき判断であって、大きな示唆を含んでいると考えているわけであります。
 ここで、その判決骨子の一部を紹介させていただきます。
 ある特定の地域において、地権者らが自己の土地利用に関して一定の自己規制を長期間にわたり継続してきた結果として、当該地域に独特の街並みが形成され、かつ、その特定の都市景観が、当該地域内に生活する者らの間のみならず、広く一般社会においても良好な景観であると認められることにより、前記の地権者らが所有する土地に付加価値を生み出している場合がある。途中、略します。
 いわゆる抽象的な環境権や景観権といったものが直ちに法律上の権利として認められないとしても、前記のように、特定の地域内において、ある特定の人工的な景観が保持され、社会通念上もその特定の景観が認められ、地権者らの所有する土地に付加価値を生み出した場合には、地権者らは、その土地所有権から派生するものとして、形成された良好な景観をみずから維持する義務を負うとともにその維持を相互に求める利益--これを景観利益といっているそうですが--を有するに至ったと解すべきであり、この景観利益は法的保護に値し、これを侵害する行為は、一定の場合には不法行為であると解すべきである、こういう判決が出されたわけです。
 そこで、知事にお伺いしますが、この国立裁判の、景観利益が法的保護に値するという判決をどのように評価されているのか、お答えいただきたいと思います。
 念のために申し上げますが、私は、この裁判の勝ち負けを問題にしているわけではなく、景観利益が法的保護に値するという判決文についてのみ評価をお聞きしたいわけであります。よろしくお願いします。

○石原知事 これは非常に難しい問題でありまして、私がここでどういうことを申し上げようと、これはもう私の私見の域を出ないと思います。
 景観利益というもののとらえ方ですけれども、いずれにしろ、この判決は、景観利益というものが侵害されたということで、でき上がった建物の上何メートルかを取っ払えという何か判決だったようでありますが、つまり、この裁判官はやはり裁判官なりの感性、感覚で、あの建物が、あの通りの持っている付加価値としての景観利益というものを侵害したと判断したわけですけれども、私は、これは非常にある意味で危険な判例でありまして、裁判官が、個人の感覚--価値観まで行く前の情念、感覚で、ある事物が景観利益というものを侵害した、しないという判断をするということは、例えばこれが場合によったら芸術などに波及してきますと、かなり厄介な問題になるんじゃないかと。これは日本では多分初めての判例だと思いますけれども、私はそれ以上のことは申し上げられませんが、運用され次第では非常に危険な判例になるんじゃないかという気がいたします。

○相川委員 私は、知事が、例えば東京駅の駅舎を、新しい制度をつくってまでも一生懸命保存された、そういう知事でありますから、必ず積極的な評価をいただけるのかなというふうに期待をしておりましたし、また、知事のご発言によっては、東京のみならず、全国の景観行政の進展に大きなインパクトを与えるんじゃないかというふうに思って、その前提に立って後の質問を組み立ててまいりましたので、今ここで茫然自失をして、自席に戻りたいなという思いもあるんですが、せっかくいただきました貴重な機会でございますので、気を取り直して質問をさせていただきたいと思います。
 私は、少なくともこの判決というものは、事景観行政を進めていくということの上では大変大きなよりどころを与えるものだというふうに考えているわけです。つまり、前人が営々と築いてきた、かけがえのない都民共通の財産だというふうに景観資源を規定しますと、それを守っていくための法的根拠を初めてもたらすものというふうに評価ができるんだと実は思っているわけであります。
 都においても景観行政を一生懸命進めておられますけれども、国レベルでのいわゆる根拠法というものが全くないという、そういう状況の中で、平成九年ですか、東京都景観条例を制定いたしまして、それを根拠として、景観基本軸の指定とか、あるいは特定公園の届け出というような施策を行ってきたわけであります。しかし、先ほどいいましたように、こうした施策は全く法的な拘束力がない。いいかえれば、現実的に良好な景観資源が開発によって破壊されるようなときがあっても、この条例で守れない、こういう現実があるわけです。
 そこで伺いますけれども、景観条例を改正するとか、都として独自に、貴重な景観資源を守るために、法的な拘束性を有する措置を検討すべきではないかと私は思っているんですが、いかがでしょうか。

○石原知事 今おっしゃった、そういう条例の準備が進行中かどうかというのは、私、まだつまびらかにいたしませんが、一つ、誤解のないように申し上げますけれども、私は、眺望権という形でもいわれますけれども、景観の利益というものは当然あると思います。なくてはならないと思います。ただ、その担保は、都市計画なども含めて、事前に条例を構えるとか、その他多角的に行われるものでありまして、今回のように、でき上がってしまった建物が、しかも後追いでできた条例に該当する、しないという形で、しかも裁判官が自分の感覚で、これは景観利益というものを侵害したという判断をすることそのものを私は非常に、危険な前例になり得るのではないかという気がすると申し上げました。

○勝田都市計画局長 後段の方の、建築条例に法的な措置を検討したらどうか、こういう点についてお答えをさせていただきます。
 景観条例は、良好な景観形成を推進するための基本理念を定めまして、建築行為等を行う事業者に対して景観への配慮を求めているものでございます。
 お尋ねのありました拘束性を持った措置をという点については、地域住民との合意形成を図りながら地区計画を策定し、その内容を区市町村が建築条例に定めることで対応が可能と考えております。

○相川委員 ただいまのご答弁の中で、法的な拘束性を持たせるためには、地区計画で、地区計画をセットして守っていくというような局長答弁であったわけですけれども、例えば、知事の母校であります一橋大学の兼松講堂なんていう、これは文化財保護法の原簿登録がされているはずですから、ほかの法律で守られているわけですけれども、仮にそういう建物じゃなくて、守りたいとしたときに、これは例えなんですけれども、ああいった兼松講堂のような歴史的建造物を地区計画で守れるんでしょうか、規定できるんでしょうか。私は、地区計画の方針にはうたい込めると思うんですけれども、建築基準法上の建築条例には、兼松講堂を守るということは書けないんじゃないかと思うんですけれども、いかがでしょうか。

○勝田都市計画局長 地区計画で拘束力という範囲につきましては、あくまでもその地区の地権者、そういった方々の合意形成が基本でございます。それからもう一つは、それを建築条例で規定するということで初めて拘束力が発揮されるということでございますので、建築基準法の枠の中の制限に当たるという、そういう項目であること、そういう要素であるということが必要になってまいります。
 したがいまして、今、先生ご指摘のような文化財的な意味合いのものを地区計画の中で保存する、そういう意味合いはなかなか難しいというふうには思います。ただ、文化財である建築物そのものの形態でありますとか、あるいはデザインでありますとか、そういったものを保全していくというような方向の規定は、地区計画の中で工夫によって可能ではないかというふうに考えます。

○相川委員 私が今申し上げましたのは、そのものを残すと。だから、地区計画で、例えば同じようなものをつくる、つくらせるということはできると思うんですね。外壁はこういうレンガにしなさいとか、色はどうしなさいとかいうことは決められたとしても、今、例に出しちゃいましたから、兼松講堂そのものを残すということは、地区計画で法的担保はできないんじゃないかと私は申し上げているんですね。それはできないんですよね。

○勝田都市計画局長 実例を申し上げた方がわかりやすいと思いますが、お堀端に明治生命館というのがございます。それから、日本橋のところに三井の本館というのがございますが、これは国の文化財指定というふうにされておりまして、こういうものについて、文化財というカテゴリー、法律のカテゴリーの中での保存といいますか、こういうことが一方でなされているものを、地区計画でその他の敷地の関係とか隣地の関係とか、そういったものを規定する、こういう実例はございます。
 先生のご指摘のとおり、そのものを地区計画でダイレクトに規定するというのは限界があろうかというふうに思います。

○相川委員 また別の機会に譲ろうかと思いますけれども、今、歴史的建造物に関しての質問をさせていただきましたので、現在、景観条例上の歴史的建造物というのは、どのような手順で選定して指定を行うのか、そのことをちょっと教えていただきたいと思います。特に国や公共団体が所有するものについてはどのようにしているのか、ちょっとお伺いしたいと思います。

○三宅生活文化局長 歴史的建造物についてのお尋ねでございますが、先ほど委員お話のありましたように、既に国とか都の文化財に指定されているものを除きまして、築五十年を経過し、歴史的な価値を有する建造物で、東京都の景観審議会に諮り、所有者及び地元の区市町村長の同意を得た上で選定しているものでございまして、対象としては、民間、公共、特に差別はありません。
 歴史的建造物に選定されると、その建造物の周囲百メートル以内の建築行為に対して、高さや形態、色彩などの景観への配慮をお願いすることになります。

○相川委員 わかりました。ただ、もう少し何かまだ埋もれているそういったものがあるんじゃないかと私は思っていまして、掘り起こしを、こういう機会ですから、ぜひやっていただきたいと思います。
 それと同時に、景観条例を読んでみて気がついたんですが、国や公共団体などについては、条例上、特定行為の届け出が免除されていますよね。これは建築基準法の計画通知なんかと同じ趣旨だと思うんですけれども、要するに国や公共団体というのは、法律を守るというのは当たり前で、破るわけがないと、こういう前提に立ってこの景観条例の規定も組み立てられているわけですね。
 そうしますと、最近特に不安を感じてしまうわけですね。例えば、例は余りよくないんですが、公の方が民間よりもまずいことをしているんじゃないかと。例えば滋賀県の豊郷町の例なんかあるんですけれども、背景にいろんな問題があったと思うんですが、小学校の校舎を壊してしまおうとか、あるいは、これもまたいい例じゃないかと思うんですけれども、美智子妃殿下のご生家なんかも、物納を受けた国税庁が多少その気さえあれば、あの大正建築の粋を残す道筋だって開けたと思うんですよ。民間よりむしろそういう公の方がまずいことをしているという気がしてならないわけです。
 そういう見方をすると、民間の方がずっと頑張っていまして、例えばここに都選定歴史的建造物の一覧というのがあるんですが、ちょっと小さいから、見えを張らずに、めがねをかけます。三越本店とか早稲田大学大隈講堂とか、ずっとありまして、三十九番に藪蕎麦というのがあります。神田ですね、これ。天たねで一杯やって、そばを食って、四十三番の竹むらであんみつなんていうのが定番コースになっていますけれども、例えばこの中に立教大学の本館とか図書館というのが指定されています。
 一昨年だったと思いますけれども、あの建物が耐震構造上よくないということで、耐震補強をしたらしいんですね。建て直しちゃった方が、同じような建物にそっくり建て直した方がずっと経費が安く済んだらしいんですけれども、あれはもちろん大学のシンボルというような建物でありますし、そういう付加価値を十分計算した上で耐震補強をしたと思うんですが、今、聞くところによりますと、外観の補修工事というようなことに関しては補助金の制度があるらしいですね。ただ、古い建物ですから、耐震構造を、とにかく補強するというようなことに助成の制度がない。この辺のインセンティブも少し検討していただきたいと、この際ですから、ちょっとお願いをしておきたいと思います。
 その次に、東京都が本定例会に新たに、東京のしゃれた街並みづくり条例というものを提案されています。これ、読みますと、都市計画の提案制度というものを制度化して、街区再編まちづくり制度と街並み景観づくり制度、この二つが提案されていますけれども、街並み景観づくり制度というのは、どちらかといえば、貴重な景観資源を守るというような趣旨よりも、新たな景観の創出に向けての措置というふうに受けとめられるわけですが、この条例の中に重点地区という規定があります。例えば条例第二十条第一項に、「東京の歴史的又は文化的な特色を継承し、特徴のある街並み景観を備えている地区」と、こういうふうに重点地区の要件を規定していますけれども、この規定の具体的なイメージというのはどういう地区なのか、教えていただきたいと思います。

○勝田都市計画局長 歴史的、文化的な街並みを継承していく地区というのは、江戸から東京へと続く歴史的、文化的な積み重ねを次世代に継承し、新たなまちづくりに生かそうとする地区や、地域の個性や多様な特色を有する地区等を想定しているところでございます。
 現在、制度をこれからご審議いただく、こういう段階でございまして、具体的なものについてはこれから詳細を詰めていきたいということで、きょうのところ、具体的な、確定的なイメージといいますか、そういったものを表現する段階にないということでご了承いただきたいと思います。

○相川委員 局長が個人的にお持ちのイメージとかも、何か差しさわりがあるようでしたら、もうこれ以上お伺いしませんけれども。
 その後、この条例の中で、知事が街並み景観重点地区を指定するというふうにありますけれども、景観保全型については、具体的にどんな地区をどんな形で指定していくのか、お答えいただきたいと思います。

○勝田都市計画局長 街並み景観重点地区の方でございますが、個性豊かで魅力のある街並み景観づくりを一体的に推進する必要性が特に高いと認められる地区につきまして、知事が指定するものでございます。
 具体的な地区の選定に当たりましては、今後、区市町村の意見を十分聞いて調整し、決めていきたいというふうに考えております。

○相川委員 この条例は、しゃれ街条例なんていっているらしいですけれども、既存の景観条例とどんな関係になるのか、さらに、この条例が建築確認と連動するのか、あるいは法的な拘束力を持つのか、このことをお答えいただきたいと思います。

○勝田都市計画局長 景観条例は、建築行為等を行う事業者に対しまして、景観への配慮を求めているものでございます。
 一方、お尋ねの街並み景観づくり制度は、知事が指定をする重点地区に限って、地元住民等が主体となり、景観に関する地域ルールを定め、みずから街並み景観づくりを進めていくとするものでございます。
 この制度は、直ちに建築確認と連動するものではございませんが、地域のルールを地区計画として定め、その内容を区市町村が建築条例に定めることによりまして、建築確認と連動させることができることになります。

○相川委員 最後に、街並みデザイナー制度についてちょっと申し上げておきたいんですが、私は、この制度そのものは否定をしませんし、むしろ積極的に取り組んでいただきたいというふうに思っているわけですけれども、ただし、この手の、この種の事業に先駆的に取り組んでいる区や市がもう既にあるわけですね。だから、実際に整備事業に取り組んでいらっしゃる区や市にむしろ補助金として交付をして、デザイナーの人選というのは区や市に任せるべきじゃないかというふうに実は思っています。そのことも少し検討していただければと思います。
 私は今まで質問してきまして、残念ながら、非力なせいか、成果が全く自分で感じられない、情けない話なんですけれども、実は昨年の六月に都市・環境委員会がございまして、私、この委員会で、多発をしている建築紛争を未然に防止する制度を東京都として考えたらいかがかなという趣旨で質問をしたわけですね。そのときに、ADRの提案なんかもさせていただきました。
 で、その質問のお答えとして、こういうことをいただいているんですよ。実は、私があることを引用しました。それに対して、局から、委員が先ほど引用されましたように、景観というものは、地域社会全体の利益であり、国や自治体が内容を明確にして維持すべきものであるという考え方については、私も認識を同じくしていますと。私の認識と同じだったわけですよ。でも、それでもやっぱり景観条例を改正して、ある程度の拘束性を持たせるというわけにはいかないのか。この認識を同じくしているというのは、どのレベルの範囲なのか、ちょっと教えていただければと思います。

○勝田都市計画局長 先ほどもちょっとご答弁申し上げました、景観条例は、建築行為等を行う事業者に対して景観への配慮を求めるということで、景観が感覚的に、感覚的な感性によって判断されるということから、強制力を持たせていないということでございます。
 先生のご提案のように、景観にまつわる紛争の解決という意味合いで景観条例を少し拘束力を持たせたらどうかと、こういうご提案というふうに受けとめておりまして、これについてはさまざまな議論が展開されるであろうというふうには思っておりますが、今申し上げたように、景観が感覚的な感性によるという部分が、大変、ジャッジするということについて、私どもの方の立場で難しいという面もあって、景観条例の中での拘束力というのは難しいかなというふうに考えております。
 なお、先ほどもご答弁申し上げましたが、強制力を持った措置はむしろ、先ほど申し上げたように、地区計画の中で、そのものそのものが地域の皆様方の合意によって、合意形成によって成り立つということで地区計画を定め、建築条例をそこへかけるということで、そちらの方の方法論の方がむしろ適切かなというふうに考えております。

○相川委員 わかりました。ただ、地区計画は都知事権限ではないということで、その区市町村長の決定権限ですから、東京都が独自の事業として何かに取り組んだときに、都知事の権限ではないわけですよね。そういう点も少しお考えいただいた方がいいのじゃないかというふうに申し上げておきたいと思います。
 時間が押していますので、次の質問に入らせていただきます。
 里山保全地域の指定についてご質問いたします。
 平成十二年度の自然保護条例の改正がありました。保全地域の類型として、新たに森林環境保全地域と、里山保全地域というものが追加をされたわけであります。
 森林環境保全地域については、昨年の十二月ですか、青梅の上成木森林環境保全地域というところが、第一号として指定をされました。既にそこでは、公募されたボランティアの方々が保全活動を実施しているということで、私は新たな保全のあり方として今後も注目をしてまいりたいというふうに考えております。
 ところが、一方の里山保全地域。条例が改正されてからもう二年以上が経過をしているわけですけれども、残念ながら、平成十五年度の予算案についても積極的に指定をしていこうという裏づけが見られません。私の地元であります八王子市にも、寺沢地区というような良好な谷戸がありまして、この保全のために都とか地元市あるいはNPOなどが参加した多摩丘陵里山保全連絡会というものが設置をされて、保全方法などの検討が進められているというふうに聞いていますけれども、もちろん、指定をすればそれでよいということを申し上げているのじゃなくて、この問題というのは、土地所有者の理解とか、あるいは保全の仕組みづくり、公有化への対応など多くの課題があるということは、もちろん承知をしているわけですけれども、貴重な谷戸や里山の保全を実現するためにも、一日も早い里山保全地域の指定が、地元の人たちにとってみれば待たれているわけであります。
 現在、そのことでどのような対応をしているのか、伺いたいと思います。

○小池環境局長 里山などの良好な緑を回復し、保全するためには、継続的に保全管理できる体制づくりが不可欠だと考えております。そのため現在、ボランティア活動のリーダー養成、保全活動に参加するボランティア登録など、人材育成を進めているところでございます。
 お話の中にございました八王子市寺沢地区の谷戸の保全につきましては、多摩丘陵里山保全連絡会におきまして、関係団体等との意見交換の結果、ボランティアによる周辺樹林の整備などの保全活動を試行することにつきまして合意され、さらに一部の地権者の理解も得られましたので、十五年度早期に試行を実施するために、現在、準備を進めているところでございます。

○相川委員 一生懸命やっていただきたいと思います。
 最後に、多摩の森林再生について質問させていただきたいと思います。
 この件に関しましては、先般行われました本会議の一般質問で、自民党の臼井孝先生が取り上げられました。都議会でただ一人の私の同窓生でありますので、その臼井先生の質問をフォローする意味でさせていただきたいと思います。また、同じ境遇のところからご選出をいただいております、というのは、臼井先生も私も森林というものを背景に持つ地域から選出をしていただいておりまして、お互いにこの点については会派を超えて頑張らせていただきたいというふうに思っております。
 私は一昨年の十二月の定例会におきましても、知事に多摩の森林再生の基本的な考え方につきましてお伺いいたしました。私、多摩の森林再生にこだわりますのは、単に多摩地域の森林が荒廃しているから何らかの対策が必要だと、そういう理由だけでこだわっているわけでは実はありません。より積極的に、多摩地域の森林再生というものが、東京都における環境再生の一つの重要な戦略的基軸に据えられなければならない、こういうふうに考えているからであります。
 多摩の森林の再生というのは、それを水源とする河川の再生へというふうにつながっていくと思います。今は大分きれいになったところもありますけれども、汚染されて、地域住民にとっては大変よそよそしい存在になってしまったそういう川が、親しめる水辺へと、そのことによって再生をしていく。それがさらに里山とか湧水とか、あるいは農地などの再生につながっていく。私はこうした自然環境の再生というものを、都民の協働事業として取り組んでいく必要があると思っているわけであります。
 そういう中で、ことしの一月、東京都の農林漁業振興対策審議会が、二十一世紀の東京都の森林整備に関する答申案をまとめられました。そこでは、森林と都市が共生する東京モデルを築くことがうたわれています。私もその趣旨には多いに賛同をさせていただきたい、このように思います。知事には、ぜひ森林再生に向けた取り組みをこれまで以上に強化をしていただきたいと、このように考えております。
 そこでまずお伺いしたいのは、森林保全に向けた財政の活用という問題であります。農林水産省の調査によりますと、現在、全国で二十六の道県が、森林保全を目的にした独自課税の検討を進めている、こういうことが伝わっております。これは都道府県の半分以上が導入を考えているということになります。
 さきに触れました審議会の答申案においても、森林管理に関する税のあり方を検討すべきであると、そういう提言がなされておりました。私、全国でこうして見られる森林保全に関する課税導入の動きというものが、基本的には評価ができるものだというふうに実は考えております。
 それは、仮に森林環境税というふうにここでは呼ばせていただきますけれども、森林環境税というものが森林再生の大きな財源になり得るという理由に加えて、この税というものが、これまで分断されがちであった河川上流の水源林の近くに住んでいる人たちと、河川からさまざまな恩恵を受けている中流、下流の人たちとが手をつなぐ、いわばネットワークの役割を果たす、こういう可能性を持っているんだと思います。
 また、地方分権という観点からしても、国の補助金に頼らない独自の財政制度をつくるという試み、こうしたものは、基本的な方向性としては望ましいことだと考えているからであります。
 ただ、その際に問題になりますのが、都民の負担意識という問題です。東京都は現在、森林再生のために約七億円という予算を使っております。これは都民一人当たり六十円の税金を充てているということになるわけであります。
 昨年の十二月に、生活文化局から出されました世論調査がございました。森林整備のために充ててもよい税金額として、八〇%以上の都民が百円以上の税金を支出してもよいと、こういうふうに回答しています。つまり八割以上の都民が負担増を容認しているわけです。
 ところが、別の質問で、私有林の整備費用の負担については、全額税金で負担すべき、あるいは、主に税金で負担すべきと回答した都民の割合は四五・八%、過半数に達していませんでした。
 この結果というのは、簡単にいうと、こういうことなのじゃないかと思うわけです。都民としては、森林再生に必要な金を払うことにはやぶさかではないが、その金をむだに使われては困る、こういうことだと思うんですね。つまりいいかえれば、森林環境税というものを導入する際には、税収の使途をどうするのか、どのように使われたのか、制度をつくる上での徹底したオープンな議論としっかりした情報公開が求められる、こういうことをこの調査結果が示しているんだと思うわけです。
 そういう意味で、高知県がこの間、森林環境税の導入に際しまして、県民参加の森林保全というものを一つの県民運動としてやってきたと。このことは非常に注目すべき点があるというふうに、実は私は思っているわけであります。
 そうした点というものを念頭に置いて、東京都は、税を含め、都民や企業の費用負担や協力の手法について、現在どのように考えておられるのか、その点をお伺いしたいと思います。

○有手産業労働局長 先般の農林漁業振興対策審議会答申におきましては、多面的機能を持つ森林を健全な姿で次の世代に引き継ぐためには、森林の管理を社会全体で支える必要があり、費用負担のあり方について検討を進めるよう提言がございました。
 都といたしましては、答申の趣旨を十分踏まえまして、局内にプロジェクトチームを設置し、お話しの他県の事例の調査を行うとともに、関係者などの意見も聞きながら、具体的な検討を進めてまいりたいと考えております。

○相川委員 今の質問に関連しまして、次にお伺いしたいのは、森林の経済的な再生という問題であります。
 多摩の森林を守るためというのは、これまでのように林業だけに頼った施策では不十分である、このことはもうみんなが認めていることだと思います。森林を単なる木材生産の場としてとらえるということではなくて、森林の多面的な機能をどうやって評価して、これをどうやって維持していくか、このことを考える必要があると思うわけです。
 しかし他方では、やみくもにその税金をつぎ込んで森林を維持すればよい、こういう考え方にも問題があるというふうに私は思います。
 都における森林地域の経済的な困難というのは、改めて考えてみますと、これほど不合理なことはない。日本というのは、世界でもトップクラスの森林率を誇っているわけですし、特に多摩地域の森林というのは、こんな近くに、これだけの大消費地を抱えているわけですから、どうして産業として成り立っていかないのか、こういうことを私は考えてしまうわけです。
 それから、林業の振興ということばかりでなくて、都民にとっても、レクリエーションの場としても脚光を浴びていますし、最近は、シックハウスというような問題が一つの契機になって、国産材というものに対する関心が再び今高まっている、そういう社会状況も実はあるわけであります。
 環境の視点に立つということが、森林経営を経済的に成り立たせるということと必ずしも相反しないのだというふうに私は考えているわけでして、そうした観点から、林業振興と環境保全というものをうまくネットワークさせて、森林再生をやっぱり図っていくということが必要だと実は思うわけです。
 かつて三重県の速水さんという方が、朝日環境賞というものを受賞された。そのときに、最も美しい森林が最も利潤を生み出す森林だと、こういうコメントを残されました。私は全く同感であります。いずれにしても、長期的には森林経営を経済的に成り立たせるための仕組みあるいは制度づくり、これから大きな課題になっていくものと思われます。
 そうした観点から、都として、これまでの森林政策をどういうふうに総括して、今後、森林経営の振興策をどのように行っていくのか、考え方をお伺いして、質問を終わりたいと思います。

○有手産業労働局長 先ほど申し上げました審議会答申では、今後の森林施策につきまして、これまでの林業より広い視点に立ち、木質資源の循環利用、教育やいやしの場としての活用など、森林の持つ多様な働きを生かした森林産業を創出すべきであるとの提言をいただいたところでございます。
 都といたしましては、従来の木材生産を中心とした林業施策から、森林をステージとした新しい産業の育成を図る政策に転換することが必要だと考えております。このため、今後は、このような視点に立ちまして、森づくり推進プランを策定する中で、具体的施策について検討してまいります。

○和田副委員長 相川博委員の発言は終わりました。(拍手)

ページ先頭に戻る