令和五年東京都議会会議録第十七号

○議長(宇田川聡史君) 九十七番伊藤ゆう君。
   〔九十七番伊藤ゆう君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○九十七番(伊藤ゆう君) 経済だけで文化がないような都市では、世界の人を引きつけることはできない。経済は文化のパトロンであり、文化は都市の魅力や磁力を測るバロメーターだ。人はなぜ都市に集まるのか、その人間心理を都市の磁力という言葉で解説を試みた故森稔氏の言葉です。
 私もまた、海外の都市を訪れた際、帰りの飛行機で抱く本能的な感情に興味を持つ者の一人です。帰りの飛行機の窓から、また来たいと思わせる都市には、数値化できない都市の磁力があります。
 先日、王室が残るスウェーデンを視察してまいりました。内覧が許されている王宮は観光名所として知られ、さながら博物館であるとともに、中世の時代を再現する騎馬隊、衛兵が王宮を守備し、観光客に中世の面影を伝えていました。歴史あるヨーロッパには歴史を伝える旧市街地が残り、現代のまち並みに同化しない旧市街地が観光客の好奇心を引きつけてやみません。
 翻って、東京を見渡せば、モノトーンで統一されていた江戸の面影を伝える旧市街地が保存されているとはいえません。しかし、本丸こそないものの、石垣、お堀、門扉が残される江戸城は、江戸の名残を伝える貴重な史跡であります。さらなる工夫で、名残は都市の磁力にも魅力にもなるものではないでしょうか。まさか皇宮警察の皆さんに、陣がさをかぶり、かみしもを羽織っていただくわけにもいかぬと思いますけれども、しかし、皇居周辺で道行く観光客にボランティアガイドを行うていで、陣がさ、かみしもを身にまとったお侍さんが闊歩していたならば、江戸の残り香を引き立て、観光客の目を喜ばせるのではないでしょうか。
 皇居周辺において、江戸情緒を引き立てる事業を新規に起こすべきと考えますが、都の見解を伺います。
 二〇二四年、欧米文化の中心地といえるパリにて、オリンピック・パラリンピックが開催されます。
 スポーツをまちの真ん中にをテーマに掲げるパリ市は、開会式を世界で初めて競技場ではなく、セーヌ川で行うと表明しています。まちの魅力を最大限に引き出し、五輪の引力で世界に発信しようとするパリの姿は、観光立国として学ぶべきものがありました。
 五輪の引力に引き寄せられた世界の観光客がパリ大会には多く集まります。このパリに吸引された観光客をどうにか東京に導くことができないか、私は、今年の夏にパリ市を訪れ、思案を巡らせてまいりました。今、パリで一番はやっているのは日本のアニメ、剣道、屋台、横丁ですよと教えてくれたのは、パリ市内で働く日本人建築家です。
 宿泊費が高騰する五輪開催中でもなお、パリを訪れる観光客は絶えず次の旅行先を探しているはずです。五輪開催地には、毎回、国やJOCによってジャパンハウスが開設されますが、いわばここは国を挙げてのVIPルーム。観光客が入れる空間ではありません。
 むしろ、東京都は、パリに集う観光客が一万キロ離れた東京の文化、喧騒、味わい、香りに触れられる空間を創出するべきではないでしょうか。扉を開けば、屋台、アニメ、相撲、横丁が連なるような、東京を一瞬にして感じられる空間、いわゆる東京ハウスを創出し、パリ五輪の引力を東京のインバウンドに引き込むべきと考えます。
 そこで、東京のインバウンドにつながるゲートウエーとして、パリ大会開催中に、パリ市内で、東京の魅力を体感できるような発信をすべきと考えますが、都の見解を伺います。
 国力を支えるのは、やはり人です。
 平成三十一年の予算特別委員会で、私は、都立工業高校改革を提案いたしました。その結果、工科高校への衣替え、企業との連携による教育プログラムへの改変がなされ、一気に工業高校改革が進んだことを高く評価いたします。
 先日、この話をミドリムシで有名なユーグレナの出雲社長にいたしましたところ、高校生の九九%が一度も起業家の話を聞いたことがない。一方、起業した人に話を聞くと、半数以上が起業家の話を聞いたことがあるというデータがあり、起業家の話を聞く機会は、工科高校を含めて、もっとつくられるべきと伺いました。特に若手創業者の中には、報酬度外視で、自分の成功、失敗体験を子供たちに伝えていきたいと願っている方が少なくありません。
 そこで、起業家育成を推進する都は、こうした起業家を都立高校に派遣し、子供たちに起業家の経験を聞く機会を提供するべきではないでしょうか。学校への起業家派遣のための起業家人材バンクを創出すべきと考えます。知事の所見を伺います。
 子供の学びは、教材やドリルからだけではありません。そもそも教育が何のためにあるかといえば、社会に出て、出会いたい仕事に出会うため、やりたい仕事をやり切る能力を備えるためにあるのだと私は考えています。
 ゆえに、いかなる仕事においても他者との関わりを絶つことはできません。社会人となって振り返れば、学生生活で一番大きな収穫となったのは、自分が何者かであるかも分からなかった青春時代の、同級生との仲間づくり、ふざけ合い、感情のキャッチボールだった気がいたします。
 このことは、スペシャルニーズのある子供たちも同様です。保育園では、障害のある子もない子も一緒に遊び、関わり合うにもかかわらず、あるときから、子供たちは、普通校と特別支援学校に分かれて進学し、分かれて学び、分かれて遊び、分かれたまま社会人になってしまいます。
 そこで、私は、龍円あいり都議と共に兵庫県の阪神昆陽高校を視察してまいりました。ここは、普通校と特別支援学校の校舎を同じ敷地内に設けている全国でも唯一といえる学校です。両校を渡り廊下でつなぎ、生徒同士の交流を促し、スペシャルニーズのあるお子さんが普通校の授業を日常的に選択できるようにしている点からも、画期的な学校でした。
 特別支援の生徒の声を紹介します。高校の生徒と会話ができるか心配していたけれど、自分から話しかけたとき返事があり、うれしかった。
 両校の校長を兼務する先生は、次のように述べました。普通校の生徒と一緒に授業を受けると、特別支援の子もコミュニケーションに自信がつき、就職した後、活躍しやすいといいます。
 分けるではなく、交流しやすい学校をつくることが、文字どおりインクルーシブな教育につながるのではないでしょうか。こうした分けない校舎づくりが、スペシャルニーズのある子供、ない子供の相互理解、コミュニケーション能力を育むものと思えてなりません。
 そこで、私は、小中学校及び都立高校の整備に当たり、都教委は今後、地元市区町村などと連携し、特別支援学校との一体的な設置を都として新たに検討していくべきと考えますが、教育長の見解を求めます。
 暑さ対策について伺います。
 子供の健やかな育成を促す意味でも、少年野球やサッカーなど地域のスポーツ活動は重要です。しかし、今年の沸騰化した大地の上での野外スポーツは、既に命の危険に及ぶ暑さとなっております。備えなしに試合継続が困難なほどです。
 河川敷で行われた野球大会を拝見していると、子供たちには、チームが氷のうなどを用意している一方で、審判員は、防具をつけている反面、氷のうなどの準備がなく、いわば丸腰状態。今にも倒れそうになっていました。暑さは確実に来年以降も続きます。
 そこで、審判員など各種スポーツを支える関係者が、暑さ対策グッズを購入できるように、都として、新たな競技団体からの申請があれば補助できる仕組みをつくるべきと考えますが、見解を伺います。
 備えよ常に、都民ファーストの視点でセーフシティを掲げて当選された小池知事の誕生以来、都の防災力は確実に強化され、この言葉も定着してまいりました。
 私の地元目黒でも、目黒川に新しい調節池が事業化決定されたほか、都道の無電柱化が、七年前の約三割から約五割へと飛躍的に達成されました。いうまでもなく、都道の多くは緊急輸送道路ですから、一本の電柱の倒壊が全ての緊急車両の往来を妨げ、命の導線を寸断いたします。
 目黒区において無電柱化が未整備、未着手になっているのが駒沢通りです。
 そこで、私は、駒沢通りの無電柱化を一刻も早く完成させるため、まず、測量から着手すべきと考えますが、見解を伺います。
 最後に、塾のない社会について申し上げます。
 私は、都議になってから一貫して、塾のない社会、すなわち、塾に頼らなくても努力する子供が、希望の進学を遂げられる社会の実現を訴えてまいりました。
 これまでに実現してきました学校内に塾を呼び込むスタディーアシストや、都立高校に誕生した校内予備校、塾代支援の大幅拡充は、親の経済格差が子供の教育格差にならないための一助になると、このように確信をいたしております。
 同時に、社会が求める人材が大卒者とは限らない今日において大事なのは、塾に通う時間よりも、友達と語り合う時間、家族と旅する時間、アートに触れる時間、起業家に接する時間、学校外活動にいそしむ時間ではないでしょうか。そうしたかけがえのない時間こそが、子供たちの脳内に健全な刺激を与え、自ら学ぶ意欲を引き出すものと確信してやみません。
 教育改革こそ地方政治の根幹であると私は信じております。人づくりに向けた都の一層の取組に期待を込めまして、私の一般質問を終わります。(拍手)
   〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 伊藤ゆう議員の一般質問にお答えいたします。
 挑戦者を応援する人材バンクについてのご質問がございました。
 世の中を変えたい、よくしていきたいという若者たちの熱い思いが、東京の未来を切り開いていきます。失敗を恐れずに挑戦する大切さや喜びを若い人たちと分かち合う取組を社会全体で進めていくことが重要であります。
 スタートアップ経営者や、企業で新規事業を立ち上げた方などの中には、自らの挑戦を若者に伝え、後に続いてほしいと思う人々が数多くいます。こうした方々を若者たちのチャレンジを後押しするサポーターとして登録する、新たな人材バンクの仕組みを立ち上げてまいります。
 都立高校をはじめ、様々な場に積極的に出向いていただき、自分の体験談や思いを語るなど、若者と触れ合う機会をつくり出してまいります。
 取組に共感する幅広い方々と共に賛同の輪を広げ、挑戦者を応援する社会の実現に向けたムーブメントを起こしてまいります。
 その他の質問につきましては、教育長、都技監及び関係局長が答弁をいたします。
   〔教育長浜佳葉子君登壇〕

○教育長(浜佳葉子君) 小中高校と特別支援学校の一体的な設置についてでございますが、共生社会の実現には、障害のある子供とない子供が共に学び、体験し、相互理解を深めることが重要でございます。
 これまでも都教育委員会では、障害のある子供とない子供の交流及び共同学習に関する研究や、特別支援学校の子供が居住地の学校に副次的な籍を持つ副籍制度など、インクルーシブな教育を推進してまいりました。
 今後、都教育委員会は、さらに取組を進めるため、区市町村や高校関係者等の意見を踏まえながら、高等学校等と特別支援学校との一体的な設置など、インクルーシブな教育の新たな在り方について検討してまいります。
   〔東京都技監中島高志君登壇〕

○東京都技監(中島高志君) 駒沢通りの無電柱化についてでございますが、無電柱化は、都市防災機能の強化や安全で快適な歩行空間の確保などの観点から重要な事業でございます。
 都は、無電柱化計画に基づき、第一次緊急輸送道路や環状七号線の内側エリア等における都道について、二〇三五年度の完了を目指して取り組んでおります。
 目黒区内の駒沢通りについては、災害時に重要な役割を持つ環状七号線と区役所を結ぶ緊急輸送道路であり、事業着手に向けた測量の準備を進めてまいります。
 引き続き、安全・安心な東京の実現に向けて、積極的に無電柱化を推進してまいります。
   〔産業労働局長坂本雅彦君登壇〕

○産業労働局長(坂本雅彦君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、都内の歴史と文化を生かした観光振興についてでございますが、海外から東京を訪れる旅行者を増やすため、江戸時代からの歴史や文化を生かした観光資源をつくり、集客に結びつける取組は重要でございます。
 これまで都は、各地の観光協会などと協力し、江戸時代から続く伝統的な芸能や歴史的建造物を観光資源として活用し、旅行者の誘致に結びつける取組を行ってまいりました。
 また、海外からの観光客向けに、茶道などを体験できるガイドツアーや、江戸時代の史跡を周遊するモデルコースの紹介などを行ってきたところでございます。
 今後は、外国人旅行者が江戸時代の歴史と文化を実感する工夫に力を入れた観光資源づくりを検討いたします。
 次に、海外で東京の魅力を発信する取組についてでございますが、外国から都内を訪れる旅行者を増やす上で、国際的なイベントの開催される海外の都市で、東京の魅力的なコンテンツを効果的にPRをすることは重要でございます。
 このため、都は、国際的なスポーツ大会の期間中に、海外の開催都市のまち中で東京の伝統的な文化などに触れるエリアを設けるとともに、競技場の中では都内観光の宣伝を行ったところでございます。
 来年のパリでは、オリンピックとパラリンピックが開かれ、世界各地から観戦や取材のため多くの来訪者が見込まれます。こうした機会を活用して、東京の魅力を効果的に伝える方法などについて検討をいたします。
   〔生活文化スポーツ局長横山英樹君登壇〕

○生活文化スポーツ局長(横山英樹君) スポーツを支える関係者への暑さ対策についてでございますが、都は、ジュニア育成地域推進事業におきまして、参加者の飲料や氷のう等を購入する経費を支援しております。
 一方で、今年のような厳しい暑さの中、スポーツ実施の在り方が課題となっており、事業対象のジュニアはもとより、スポーツを支える競技役員や審判員等への対策も、これまで以上に必要との声も伺っております。
 このため、審判員を含めた全ての参加者にとって暑さ対策がより適切に講じられるよう、必要な物品等について、競技団体等の意見も聞きながら取組を検討いたします。
 引き続き、夏場におけるスポーツ活動が安全・安心に実施できるよう対応を進めてまいります。

ページ先頭に戻る