令和四年東京都議会会議録第十八号

○議長(三宅しげき君) 三十五番福手ゆう子さん。
   〔三十五番福手ゆう子君登壇〕

○三十五番(福手ゆう子君) 私は、医療機関で八年間働いていました。
 失業や低収入で、食事を減らし、クーラーを我慢して熱中症で具合が悪くなった患者さんや、糖尿病が悪化し治療が必要で、受診をしても支払いができない方などに関わってきました。
 お金の心配なく医療を受けられるようにすることは、人としての尊厳を守ることです。人の命や健康に差別や格差があってはならない、これは私の原点です。
 無料低額診療は、生活が困難な方に無料または低額で診療を行う事業であり、重要な役割を果たしています。
 中学生の子供を持つシングルマザーの女性は、契約社員で、国民健康保険料が高過ぎて払えず、保険証がありませんでした。具合が悪くても病院に行かず、重症化して救急搬送になりましたが、その後、無料低額診療につながり、治療を受けることができました。
 また、全身にひどい蕁麻疹が出て、無料低額診療を利用された四十代の男性は、リストラに遭い収入がなくなり、やはり無保険になってしまいましたが、無料低額診療で一か月集中して治療したことで、その後、就職活動を再開し、半年後には就職することができました。
 コロナ禍で居酒屋の仕事を失った六十代の方は、脳梗塞で運ばれた病院でかかった医療費で貯金を使い果たしてしまいました。その後、無料低額診療の病院に転院して、リハビリを行うことができました。
 近年、外国人の無料低額診療の利用も増えています。とりわけ外国人で無保険、無収入など無権利状態に置かれている方たちにとって、医療にかかる手段は、ほぼ無料低額診療しかありません。
 コロナ禍と物価高騰で、これまで何とか生活できていた人たちも食料支援を利用するようになり、医療費が払えない、保険証がなくて病院にかかれないという相談も増えています。経済的な理由で医療にかかれない人がいる状況は、あってはならないと思いますが、知事はどう認識していますか。
 また、政府も、無料低額診療は低所得者等に対する必要な医療を確保する上で重要だと評価しています。都民の受療権、医療を受ける権利を守る無料低額診療がますます重要になっていると考えますが、知事は無料低額診療事業の意義をどのように認識していますか。
 無料低額診療を実施する医療機関は、患者の医療費を減免しますが、そこには公的な補填はありません。本来であれば、直接的な支援が必要です。
 経営的に負担であっても、経済的な理由で医療を受けられないことがあってはならないというのが、実施している医療機関の共通の思いです。
 東京都社会福祉協議会の医療部会は、東京都や各自治体との連携を深め、無料低額診療を地域福祉の重要な機能と位置づけていきたいと目指しています。
 しかし、現在都内で実施医療機関がない市区町村は三十六か所で、全体の約六割に上ります。無料低額診療を行う医療機関を増やしていくことが必要と考えますが、都の見解を伺います。
 暮らしが大変になっている人が増えていても、無料低額診療の利用者数は増えていません。医療機関からも、無低診を知られていない、たまたま見つけて来る方がほとんどという声が出されています。
 さらに、無料低額診療を利用すること自体、ハードルが高いと感じる方が多くいます。病気にかかったのは自分の責任と捉え、生活に困窮していても、無料で医療にかかることを遠慮するのです。
 東京都が都民に対して、無料低額診療がどのような制度で、どの医療機関で行っているのかや、無料低額診療の利用は権利であることについて、リーフレットやポスター、デジタルサイネージ等を利用し周知すること、併せて福祉事務所や区市町村の生活困窮者支援相談機関、その他支援を必要としている方たちの相談に応じている関係機関にも周知し、相談者を利用に結びつけることを求めますが、見解を伺います。
 都立病院は、東京の医療を支える最後のとりでといわれていますが、低所得の方たちにとっても最後のとりでとなることが重要です。不採算医療の無料低額診療事業を都立病院でこそ実施すべきです。都立病院が実施すれば、制度の認知度を高めることにもなります。無料低額診療を都立病院で実施することを求めますが、知事の見解を伺います。
 薬局は無料低額診療の対象外で、改善する必要があります。全国では十一の自治体が独自で薬代の助成を行っています。東京都も行うことを求めます。
 無料低額診療は、憲法二十五条の具体化であり、本来は行政が責任を持って行うべきものです。そして、都民の皆さん、経済的に困ったときは、ためらわず無料低額診療を利用してほしいと思います。これは私たち国民の権利です。
 このことを呼びかけて、次の質問、性暴力被害者支援に移ります。
 この瞬間にも、身体にも心にも大きな傷を受け、苦しむ被害者がいます。ワンストップ支援センターは、二十四時間三百六十五日、性被害者がいつでも相談できる体制が取られ、被害後七十二時間以内の場合に避妊薬の投与など緊急医療対応が行われます。
 身体的、心理的な不安の相談を通じて、証拠採取や診察、法的支援など、必要とする機関へつなげるための同行支援も行います。
 これらの支援を可能な限り一か所で迅速に提供することで、被害者の負担を軽減して、心身の回復や解決を目指しています。
 先日、私は、東京都の性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターの相談状況をお聞きしました。小中学生からの性被害の相談等が増えているとのことでした。また、過去に受けた性被害に今も苦しむ方の相談もたくさん受けています。
 新たに施行されたAV出演被害防止法で、ワンストップ支援センターが相談窓口として位置づけられているなど、さらに役割が重視されています。
 一方で、被害に遭っても、相談するほどのことじゃない、自分のせいだからと、自分に責任があると感じて誰にも相談できない方もいます。こうした点でも被害者支援の強化が求められます。
 ワンストップ支援センターの相談は電話が中心ですが、今は、被害者と直接会い、産婦人科への同行支援をすることが増えていて、今年は既に百件を超えています。被害に遭った方や勇気を出して声を上げた方、それを支えた人たちの活動が切り開いてきた重要な変化です。
 ワンストップ支援センターには、相談センターと病院が別々に設置されるセンター拠点型、相談センターを中心とした連携型と、病院内に相談センターが置かれている病院拠点型の三つの形態があります。
 病院拠点型の性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターでは、相談と医療が一か所で迅速に受けることができ、被害者の負担を軽減する上で重要と考えます。
 東京都の性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターにおいて、被害者の負担を軽減するため、相談と医療が一か所で迅速に受けられるなど、被害者に寄り添った対応が重要と考えますが、知事はどう認識されていますか。
 国は、第五次男女共同参画基本計画で、ワンストップ支援センターの設置件数を増やすことを目標として掲げ、昨年度から増設を支援する予算もつけています。
 都内のワンストップ支援センターは一か所です。全国で一番人が集中する東京で、ワンストップ支援センターを増やすこと、利用者の利便性の高いところに設置すること、病院拠点型を設置することが必要ですが、いかがですか。
 二〇一八年度の東京の相談は、十九歳以下が百九十七人、相談内容は強制性交が六割で、加害者は家族関係にある人が四分の一を占めていました。そして、この傾向は今も変わっていません。こども基本条例を持つ東京都として、子供の性被害は放置できないと思いますが、認識を伺います。
 沖縄県は、二〇一九年から公立病院に相談センターを設置した病院拠点型のワンストップ支援センターを開設しています。
 沖縄県では、総合病院である公立病院にワンストップ支援センターがあることによって、産婦人科の医師が小児科の医師とタッグを組んでいくことで、子供に対して系統立ったアプローチができるようになった、小児科を受診した子供が虐待を受けていることが疑われる場合に、性暴力に気づいて組織的に対応できるようになり、若年被害者へ早く適切な支援ができるようになったと伺いました。このような病院拠点型のメリットがあります。
 都における若年被害者への支援の取組について伺います。
 政府は、病院にセンターを設置すること、特に中長期的な関係の安定を見据えて、公立病院や公的病院への設置を進める方針を示しています。
 性暴力被害者支援に率先して取り組むことは、都立病院の重要な役割ではないかと考えますが、知事いかがですか。
 性暴力被害者への支援のためには、多くの診療科が連携して対応することが重要です。その点で、都立病院は総合診療基盤を生かした医療の提供を役割としています。
 例えば、小児科、産婦人科、精神科などが設置されている大塚病院などに、病院拠点型ワンストップ支援センターを設置することにより、性被害者支援をさらに拡充することができると考えますが、都の見解を伺います。
 被害者支援の充実に向け、ワンストップ支援センターの在り方を検討する関係機関、支援団体等が参加する検討会を設置すべきと考えますが、いかがですか。
 沖縄県のセンターの担当医師は、被害者の診察は特別なスキルが求められること、被害者の対応には女性医師が求められるので、多忙な労働環境の改善や生活との両立の支援等を行い、人材を確保することの必要性を強調されました。
 都立病院の女性医師の比率は約三割となっていますが、性暴力被害者への支援を充実するためにも、都立病院において女性医師を増やすことが必要です。女性医師をはじめとした医療従事者が専門性を高めるとともに、働きやすい環境をつくることが重要です。見解を伺います。
 第四期東京都犯罪被害者等支援計画では、性犯罪、性暴力の被害者支援の充実を図るため、医療従事者の専門性向上のための取組を支援するとあります。都は、医師、看護師をはじめとした専門性を持った医療従事者の研修を実施していますが、その目的、内容と工夫されていることについて伺います。
 性暴力被害者支援に東京都が主体的に関わり、また、社会全体の課題として取り組むことで、被害者の回復と性犯罪、性暴力のない社会を実現することを求めて、質問を終わります。(拍手)
   〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 福手ゆう子議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、無料低額診療事業についてのお尋ねがございました。
 都は、誰もが質の高い医療を受けられ、安心して暮らせる東京の実現を目指しております。
 社会福祉法に基づく無料低額診療事業は、低所得者等に対する医療を確保する上で一定の役割を果たしております。
 性犯罪等被害者への対応につきまして、性犯罪等被害者の心身の負担を軽減するためには、身体、精神両面からの様々な支援が必要でありまして、都では、被害直後から関係機関の連携を図り、支援をいたしております。
 このため、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターにおきまして、医療機関を含む関係機関による支援を迅速にコーディネートするなど、適切に対応いたしております。
 その他の質問につきましては、関係局長が答弁いたします。
   〔福祉保健局長西山智之君登壇〕

○福祉保健局長(西山智之君) 五点の質問にお答えをいたします。
 まず、無料低額診療事業を行う医療機関についてでございますが、国は、本事業について、社会情勢等の変化に伴い必要性が薄らいでいるとして、新規開始を抑制する方針を示してございます。
 なお、都は、社会福祉法に基づき、医療機関から本事業の開始の届出があった場合は受理してございます。
 次に、無料低額診療事業の周知についてでございますが、都は、本事業の内容及び実施している医療機関をホームページに掲載するとともに、福祉事務所に対して、毎年度、本事業の活用について承知をしてございます。
 次に、都立病院での無料低額診療についてでございますが、無料低額診療事業は、社会福祉法に基づく社会福祉事業として位置づけられており、都立病院における実施については、都立病院の役割や、地域医療機関との医療連携の在り方や機能分担など、課題があると認識してございます。
 次に、都立病院での性暴力被害支援についてでございますが、現在、八つの都立病院が性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援事業の協力医療機関となっており、性犯罪や性暴力の被害者に対して医療的な支援を行う体制を整えてございます。
 最後に、都立病院の医療従事者についてでございますが、都立病院の医師等の医療従事者は、性暴力の被害者ケアに関する知識を身につけられるよう、都が産婦人科医会等と共催する研修に参加をしております。
 また、都立病院機構では、女性医師を含め、職員が働きやすい環境を整備するため、育児に限定しない短時間勤務の制度を導入してございます。
   〔総務局長野間達也君登壇〕

○総務局長(野間達也君) 五点のご質問にお答えいたします。
 まず、性犯罪等被害者を支援する窓口についてでございますが、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターでは、都内全域の被害者から二十四時間三百六十五日体制で電話相談を受けてございまして、被害者の状況に応じて、都が協力を依頼している医療機関と連携し、支援を行ってございます。
 本年度、連携先を二倍以上に拡大し、被害者がより身近な地域で支援を受けられるよう対応してございます。
 次に、若年被害者への支援についてでございますが、都は、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターにおきまして、子供や保護者等からの相談に対応するほか、周囲の大人が被害に遭った子供に適切に対応できるよう、留意点等を掲載いたしましたリーフレットを作成し、学校、都の協力医療機関、医療福祉機関等に広く配布してございます。
 また、支援者向け研修や都民向け講演会でテーマとして取り上げるなど、連携先機関と共に子供への支援強化を図ってございます。
 次に、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターについてでございますが、都では、当センターを拠点といたしまして被害者支援を行ってございます。様々な被害状況に対応するため、都立病院を含め、都内の医療機関等と連携し、適切な支援を行ってございます。
 次に、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターの在り方についてでございますが、性暴力被害者の支援に当たっては、産婦人科、精神科を含む中核的な病院との安定した連携協力関係が重要であることから、第四期東京都犯罪被害者等支援計画におきまして、事務的な管理等に必要な人材の配置や、他道府県の事例を踏まえました体制強化を検討し、関係機関との連携により各種支援を総合的に提供することとしてございます。
 最後に、医療従事者の研修の目的、内容等についてでございますが、都は、性犯罪等被害者への支援につきまして、医療従事者の理解や協力を求めていくため、産婦人科医会等との共催により、医師や専門看護職でございますSANE、公認心理師等を対象といたしました研修を毎年度実施してございます。
 研修では、必要な検査や治療方法、二次的被害を避けるための診療上の留意点のほか、SANEの養成プログラムなどについても解説してございまして、昨年度は開催期間を一か月とし、動画配信方式で実施いたしました。
   〔子供政策連携室長山下聡君登壇〕

○子供政策連携室長(山下聡君) 子供が受けている性被害についてでございますが、次世代を担う子供が心身に有害な影響を受けることなく健やかに成長する環境を整える必要がございます。
 このため、都は、性犯罪・性暴力被害者ワンストップ支援センターにおきまして、学校や児童相談所とも協力しながら、相談対応、医療機関等への付添い、精神的ケア等の支援を行うなど、各局連携の下、取り組んでおります。

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