令和四年東京都議会会議録第十四号

○副議長(本橋ひろたか君) 六十二番大松あきら君。
   〔六十二番大松あきら君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○六十二番(大松あきら君) 東京オリンピック・パラリンピック大会から一年がたち、何をもって、そのレガシーとしていくのか。都政の長期的な方向性を示す重要な課題であります。
 前回の東京大会では、大会前後に高速道路や新幹線が開通し、そうした交通インフラを土台に高度経済成長が実現しました。今大会では、バリアフリーや再生可能エネルギーのインフラ整備が加速され、障害者の社会参加や地球環境改善がレガシーとして人々の記憶に残っていくものと思います。
 その上で、今大会のテーマの一つ、共生社会の構築に力を注いでいくべきです。高齢者、障害者、外国人など、多様な人々が共に暮らせる社会、今大会に最もふさわしいレガシーになるものと考えます。
 そして、共生社会を実現するために、芸術文化の力を活用していくべきです。芸術文化には、多様性を包摂し、人々の心と心を結び、国と国をもつないでいく力があります。
 都は六月、だれもが文化でつながる国際会議を開催し、アーティストや社会福祉団体の方々が、共生社会について議論を行いました。そこで得られた知見を生かし、芸術文化による共生社会の構築への取組をさらに進めていくべきです。知事の見解を求めます。
 東京には世界に誇る多くの文化があります。その一つが映画です。日本の映画界は、ハリウッド全盛期にあっても、黒澤明監督が荒野の七人やスター・ウォーズなどアメリカ映画の名作にも大きな影響を与えるなど、世界の映画界をリードしてきました。近年の韓流ブームの中でも、是枝裕和監督が、今年、韓国と共同制作したベイビー・ブローカーがカンヌ国際映画祭で主演男優賞を獲得、ベネチア国際映画祭では、是枝監督にロベール・ブレッソン賞が授与されました。映画には国を超えて世界をつなぐ力があり、この分野で日本は強い発信力を持っています。
 しかしながら、芸術文化は、民間の競争に委ねているだけでは成長に限界があります。アメリカでは一九三〇年代のニューディール政策における芸術文化振興策が土台となりハリウッドが興隆し、韓国では一九九〇年代、政府が国策としてコンテンツ産業の支援を始め、今日の韓流を生み出しました。
 映画を興隆させるには、人材の育成が重要です。経済学者のガルブレイス博士は、著作で、今や世界は人材開発競争の時代と指摘、日本が公的資金を投入すべき社会的インフラは、技術や芸術を支える人材を育成する教育面でなければならないと提言しています。
 都は現在、映画人を目指すアジアの若者を育成するタレンツ・トーキョーを実施しています。世界的に著名な映画人から直接指導を受ける機会などを提供する事業で、これまでに多くの人材を育ててきました。
 都は、さらに優れた映画人を輩出し、世界の文化都市東京の存在感を高めるために、映画の振興に向けて、こうした人材育成事業を充実していくべきです。都の見解を求めます。
 また、東京国際映画祭とも連携した人材育成に取り組んでいくことを要望しておきます。
 次に、教育について質問します。
 都教育委員会は、教員が海外の大学で学びながら、現地の学校で交流する海外派遣研修を実施しています。現在はコロナ禍で、研修はオンラインで行われていますが、現地に行ってこそ、その効果は上がります。
 そこで、次年度以降、感染状況などを見極めながら、渡航を再開し、現在実施されているオンライン研修も内容や方法を工夫しながら、今後、現地での研修に生かしていくべきです。都教委の見解を求めます。
 また、都教委は、海外の教育機関との交流を広げています。こうした取組を受け、学校単位でも、児童生徒の国際交流を求める声が出ていますが、多忙な学校現場には、その準備に取り組む余力はありません。
 そこで、都内の公立学校における児童生徒の国際交流を一層推進していけるよう、都教育委員会が支援を充実させていくべきです。都教委の見解を求めます。
 今年の夏、四国で行われた全国高等学校総合体育大会で、北区内にある都立王子総合高校の生徒が、フェンシング競技で並みいる強敵を倒し、見事優勝しました。
 運動部の選手が全国大会などに出場する場合、都教委は選手の旅費などの一部を補助していますが、対象者が選手に限られています。しかし、選手が思う存分実力を発揮するためには、ふだんから支え合っている補佐役の生徒やマネジャーの同行が不可欠です。
 今後は、都立学校の運動部員が全国大会などに出場する場合、補佐する生徒にも支援を広げるべきです。都教委の見解を求めます。
 次に、人権について質問します。
 オリンピック憲章にうたわれる人権尊重条例は、重要なレガシーです。条例では、性自認や性的指向を理由とする不当な差別の禁止が明記されましたが、事業者側の理解が進んでいません。私は、地元北区で、性自認が女性のトランスジェンダーの方から、職場で男性用の服の着用を求められたという相談を受けました。性的マイノリティーの方々が安心して働き続けられるようにするためには、職場での理解や配慮が不可欠です。
 事業者や従業員が多様な性について正確な知識を得られるよう、啓発動画などをスマートフォンなどで手軽に視聴できるようにするべきです。また、職場の環境づくりに関して、専門家が現場に赴くなどして、相談に応じられるような支援が必要です。都の見解を求めます。
 そのトランスジェンダーの方は、自分の男性の体に対して強い嫌悪感があり、そのネガティブな感覚に四六時中さいなまれています。そこに社会の無理解が加わり、精神的な負担は想像を絶するものがあります。
 性的マイノリティーの方への心理面のサポートは極めて重要であり、都は現在、SNSを活用した相談事業を行っています。大変評判はいいのですが、つながりにくいとの声が寄せられています。SNSの相談事業の体制を拡充するべきです。都の見解を求めます。
 条例には、本邦外出身者に対するヘイトスピーチなど、不当な差別的言動の解消に向けた取組も明記されました。条例施行から今年三月までにヘイトスピーチ認定された言動は十六件、そのうち、少なくとも十三件が韓国、朝鮮人に対するもので、その重圧を最も強く受けているのが朝鮮学校などに通う在日の子供たちです。
 私の自宅から歩いて二、三分のところに、東京朝鮮中高級学校があります。生徒の国籍は、朝鮮籍が約半数、韓国籍も約半数で、ヘイトスピーチやネット空間に広がる差別的言動に触れ、子供たちの敏感な心は、大人が感じる以上の恐怖や圧力を感じています。
 先日、生徒のお母様から話を伺ったところ、電車の中で、オンマと呼んでいた子供が、ママというようになり、友達同士でも、朝鮮、韓国籍と分かる名前では呼び合わないようになったそうです。そのお母様自身には、学生時代、同級生の女子生徒が、車内でチマチョゴリを切り裂かれるという事件の記憶が生々しく残っています。
 政治や外交の問題は、子供たちには何の責任もありません。大人社会の問題で、子供たちが犠牲になっている実態を見過ごしてはなりません。
 ヘイトスピーチは断じて許されない、この気風をつくっていく啓発にさらに取り組み、繰り返されるヘイトスピーチの解消を目指していくべきです。都の見解を求めます。
 災害対策について質問します。
 高潮で想定される最大規模の浸水が東部低地帯で発生した場合、二百五十五万人が多摩地域などに広域避難しなければなりません。このうち、知人宅に避難する人などを除き、約七十四万人分の避難先を行政が確保することになっています。
 都は、大型施設を中心に避難先を増やしていますが、七十四万人分という膨大な避難先をどう確保するのか、大型の避難所を誰がどう運営するのかなど心配する都民の声が寄せられています。
 そこで、広域避難先となる場所と運営を担う要員の確保を区市町村と連携し、計画的かつ速やかに進め、その見通しを明らかにするべきです。都の見解を求めます。
 都は、昨年十二月、六十二区市町村と災害時の避難先や要員の提供などについて、相互協力協定を締結しました。しかし、大型台風が接近し、避難が始まった際、多くの区市町村は地元の避難所には地元の住民を受け入れるため、この時点で、他の自治体からの広域避難者を受け入れることは難しいとされています。
 一方、スポーツ施設や学校などの都立施設の中には、広域避難所として活用が決まっていない施設や活用は決まっていても、運営ルールが具体化していない施設があります。
 そこで、大規模水害の発生が切迫し、広域避難が始まった時点で、一人でも多くの避難者の安全を確保できるよう、広域避難所として活用する都立施設を増やし、その運営ルールを具体化していくべきです。都の見解を求めます。
 最後に、多摩川に架かる羽村大橋について質問します。羽村市とあきる野市をつなぐ羽村大橋は一九七四年に開通しましたが、都市計画が定める橋の幅の半分しか完成していません。計画では、上流部分と下流部分の双方を整備することになっていますが、都は、下流部分だけを整備し、供用を開始しました。
 このため、道路幅が狭く、羽村市側の奥多摩街道との交差点で朝夕のラッシュ時に慢性的な渋滞が発生し、歩道も狭く片側しかありません。
 羽村大橋の上流側部分の整備を早期に進めるとともに、奥多摩街道との交差点部分を改良し、渋滞の解消を急ぐべきです。都の見解を求め、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 大松あきら議員の一般質問にお答えいたします。
 芸術文化による共生社会の構築への取組についてのご質問でありました。
 芸術文化は、人々に喜びや感動をもたらすとともに、心と心を通わせ、あらゆる人々をつなぐ大きな力を持っています。
 東京二〇二〇大会を通じて得られた多様な価値や一人一人の個性を認め合える社会への歩みは、都の貴重な財産となりました。こうしたレガシーを芸術文化におきましても継続、発展させるため、この夏、共生社会の実現を目指し、だれもが文化でつながる国際会議を開催いたしました。
 世界各国の第一人者が集まり、テクノロジーを活用した障害者への鑑賞サポートなど、様々な先進事例を共有いたしました。さらに、認知症の方の創作体験や家にいながら美術館のアートを鑑賞できる分身ロボットの展示など、優れた技術や取組を発信することができました。
 今後、東京がネットワークの中心となって、芸術文化による共生社会の実現に向けた取組を世界に広げ、東京をダイバーシティ、インクルージョンを先導する都市へと発展させてまいります。
 なお、その他の質問につきましては、教育長、東京都技監及び関係局長が答弁をいたします。
   〔教育長浜佳葉子君登壇〕

○教育長(浜佳葉子君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、教員の海外派遣研修についてでございますが、コロナ禍において、海外への派遣研修の代替として、昨年度からは、オンラインを活用し、海外の大学の教員からリアルタイムで講義を受講する研修やオンデマンドによる研修を実施しております。
 また、今年度は、昨年度の取組に加え、オンラインによる現地校の授業視察や現地教育機関から受講者への講義内容に関する指導助言等の機会を設けるなど、研修内容の充実も図っております。
 今後は、渡航の再開も見据えながら、従来の海外渡航による体験的な研修に、これまで蓄積してきたオンライン研修のノウハウも取り入れ、研修の効果を一層高めてまいります。
 次に、児童生徒の国際交流の推進についてでございますが、広い視野や国際感覚、多様な人々と協働する力を身につけ、グローバルに活躍する人材を育成するためには、体験的な国際交流を推進していくことが重要でございます。
 都教育委員会は、これまで十の国や地域と教育に関する覚書を締結し、交流校の開拓等を行うとともに、今年度、都立学校七十二校を推進校に指定し、語学研修や留学生の受入れなど各学校の取組を支援しております。
 また、都内の公立学校に対しては、国際交流コンシェルジュによるワンストップサービスを通じ、在京大使館との交流など体験活動を支援しております。
 こうした取組により、学校の相互訪問や国際交流活動などを支援し、児童生徒の交流を一層推進してまいります。
 次に、全国大会等の出場に係る支援についてでございますが、運動部活動の生徒が全国大会等に出場した際、練習で培った力を十分に発揮できるようにするために、安全管理や技術指導等を行う顧問教諭に加え、遠征先での選手のコンディション管理、練習相手、競技用具の準備等、総合的に選手をサポートする生徒が重要な役割を果たしている場合があると認識しております。
 このため、全国大会等で選手が身体的、精神的に最高の状態を維持できる環境を整えられるよう、選手を補佐する生徒への支援の在り方についても検討してまいります。
   〔東京都技監中島高志君登壇〕

○東京都技監(中島高志君) 羽村大橋の整備についてでございますが、羽村大橋は、羽村市川崎とあきる野市草花を結ぶ多摩川を渡る橋梁であり、地域住民の生活や産業の振興に欠かすことのできない重要な社会基盤でございます。
 現在の橋梁は幅員が狭く、周辺の開発の進捗に伴う交通量の増加により、頻繁に渋滞が発生しております。このため、既設の橋梁の上流側へ橋梁を増設することとし、これまで設計作業を進めてまいりました。
 現在、工事用搬入路の確保に向けまして、地元市と調整を進めながら、河川管理者や交通管理者との協議などを実施しているところでございまして、引き続き関係機関の理解と協力を得ながら、工事着手に向けて取り組んでまいります。
   〔生活文化スポーツ局長横山英樹君登壇〕

○生活文化スポーツ局長(横山英樹君) 映画人材の育成支援についてでございますが、映画の振興のためには、監督やプロデューサー等の創造活動を支援し、育成を図ることが重要でございます。都は、ベルリン国際映画祭と提携し、世界で活躍できる映画人材の育成事業、タレンツ・トーキョーを実施しております。
 この事業に参加した早川千絵監督は、本年のカンヌ国際映画祭で新人監督賞の特別表彰を受けました。また、他の修了生もベネチア国際映画祭でノミネートされるなど、世界で評価される人材が輩出され、これまで積み重ねてきた育成事業の成果が表れてきております。
 今後は、国際映画祭に派遣し、人脈を広げるための支援など、若手の映画人材が世界で活躍できる取組を進め、東京のプレゼンスを高める映画の振興につなげてまいります。
   〔産業労働局長坂本雅彦君登壇〕

○産業労働局長(坂本雅彦君) 職場での性的マイノリティーの方への理解促進についてでございますが、誰もが働きやすい職場を実現する上で、事業者や従業員が性的マイノリティーの方に関する正しい知識を得て、理解を広げることは重要でございます。
 都では、職場での性自認及び性的指向に関する課題について労働相談を行うほか、事業者向けのセミナーを開催しております。
 今後は、職場における性的マイノリティーの方々への理解を効果的に広げるため、人事担当者や従業員向けのオンラインによるセミナーを実施するほか、事業者に専門家を派遣し、会社の状況に応じた助言を行ってまいります。
 こうした取組を通じまして、誰もが働きやすい職場づくりを支援してまいります。
   〔総務局長野間達也君登壇〕

○総務局長(野間達也君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、性的マイノリティーの方の相談についてでございますが、当事者の方の中には、周囲の無関心、偏見等の中で、学校、職場など様々な場面で困難に直面しているにもかかわらず、誰にも相談できず一人で悩みを抱えている方々も少なくないと認識してございます。
 このため、都では、当事者の方々の悩みや不安の解消につながるよう、電話とSNSによる専門相談を実施しております。このうち、SNSによる相談につきましては、令和二年度に週二回で開始し、令和三年度からは週三回に拡充いたしましたが、時間帯によっては待ち時間が生じるケースもございます。
 今後は、一人でも多くの方の相談を受けられますよう、現在の受付状況や相談体制を検証し、混雑する時間帯をあらかじめ周知するなど、様々な工夫を凝らしてまいります。
 次に、ヘイトスピーチへの取組についてでございますが、誰もが認め合う共生社会を実現するためには、東京に集う全ての人々の人権が尊重されることが重要でございます。
 都では、人権尊重条例に基づき、都民等からの申出を受け、本邦外出身者に対する不当な差別的言動、いわゆるヘイトスピーチと認められる表現活動の概要を公表してございます。また、啓発冊子、動画、SNSやデジタルサイネージ等を活用した広報活動により、広く都民への意識啓発に取り組んでおります。
 引き続き、国や区市町村とも連携しながら、適切に制度運用を図るとともに、様々な媒体を通じて、ヘイトスピーチは決して許されるものではないというメッセージを発信するなど、ヘイトスピーチの解消に向け取り組んでまいります。
 次に、広域避難対策のさらなる推進についてでございますが、いつ起こるともしれない大規模風水害に備え、広域避難先施設や開設運営要員の確保など、避難体制の具体化を迅速かつ着実に進めていくことは極めて重要でございます。
 このため、都は、広域避難先として、現時点で国や民間の六施設と協定を締結するとともに、オリンピックセンターを想定した開設運営マニュアルを取りまとめたところでございます。
 今後は、関係区と連携し、広域避難先のさらなる確保に向け、大学の施設や収容キャパシティーのあるホール等への働きかけを強化してまいります。また、区の職員に加え、都職員の派遣や民間事業者の協力等により運営要員を確保するなど、開設運営体制のさらなる具体化を図ってまいります。
 こうした取組を通じて、大規模風水害時における広域避難対策の実効性を一層向上させてまいります。
 最後に、水害時の都立施設のさらなる活用についてでございますが、大規模風水害時の広域避難先の確保に当たっては、国や民間の施設に協力を働きかけるとともに、都立施設を積極的に活用していく必要がございます。
 このため、都は、浸水想定区域外にある大規模施設を中心に、利用可能な都立施設については活用を原則とし、各施設管理者等と活用に向け調整を進めてございます。
 今後は、関係区と緊密に連携を図りながら、各施設の広域避難先としての開設運営マニュアルの整備を進めてまいります。また、国、民間施設による避難先の確保の状況なども踏まえ、必要に応じて、中小規模の都立施設につきましても広域避難先としての活用を検討してまいります。
 こうした取組を通じて、大規模風水害時の広域避難先の確保を着実に進めてまいります。

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