令和三年東京都議会会議録第十九号

○副議長(本橋ひろたか君) 五十二番五十嵐えりさん。
〔五十二番五十嵐えり君登壇〕
〔副議長退席、議長着席〕

○五十二番(五十嵐えり君) 東京都議会立憲民主党の五十嵐えりです。
 私は、このコロナ禍でたくさんの方が苦しんでいる現状を見て、貧困や生活の悩みを自己責任にしない東京をつくりたいと訴えて当選いたしました。私は弁護士として、この間、知事が、緊急事態を理由に法律や議会を軽視し、民主主義が壊され、人権が脅かされている事態を懸念しています。
 冒頭、このコロナ禍で拡大した格差に対する施策について質問いたします。
 コロナ禍で度重なる外出や営業自粛により、もともと立場の弱かった人たちが、仕事や家、人とのつながりを失い、追い詰められています。
 私はこれまで、LINEやメールで若い女性の悩みを聞いたり、話し相手になったりする活動に取り組んでまいりましたが、特にコロナ禍になってから、バイトがなくなり病院に行くお金がない、両親から暴言を吐かれて家に居場所がない、生きている意味が分からないといった、命や自死に関わる相談が増えました。
 そうした子たちはどこに相談していいかも分からず、国や東京都からの支援があることも知らず、自分のせいだと思わされて、被害や貧困を受け入れてしまっている現状があります。特に、家庭内でのDVや虐待被害は実態が見えづらいのが現状で、様々な理由により若い人たちの貧困も拡大しています。
 そこで伺います。今後もコロナ禍による格差は拡大していくと思いますが、東京都が様々な被害に適切な支援を行っていくために、まずは被害を正確に把握することが必要だと考えますが、ご見解を伺います。
 次に、コロナ対策に関連して、感染症対策を担う要である保健所について伺います。
 私たちはコロナウイルスに直面し、保健所という公助の役割がいかに重要かを思い知りました。命と健康に関わる感染症対策は、自助ではなく公助で担うべきです。
 しかし、保健所はこれまで、行政改革の流れを受けて統廃合され、私の選挙区である武蔵野市にも保健所がありません。二〇〇四年の統廃合で、武蔵野市を所管する保健所は多摩府中保健所として、隣接する六つの市を含む約百七万人の都内最大規模になり、このコロナ禍で業務は逼迫しました。
 まず、こうした複数の自治体を所管する多摩地域の都立保健所の感染症対策業務が逼迫する原因がどこにあるとのご認識なのか、見解を伺います。
 保健所の所管人口は、地域保健法に基づく指針によると、都道府県が設置する保健所の所管区域は二次医療圏に一つを設置することが原則で、二次医療圏の人口が平均的な二次医療圏の人口を著しく超える場合には、地域の特性を踏まえて複数の保健所を設置できることを考慮すると指針に定めています。
 全国の二次医療圏の平均人口は約三十七万九千人で、多摩府中保健所の所管人口は約百七万人です。これは、平均的な二次医療圏の人口を著しく超え、指針に当たる場合と考えます。
 具体的には、武蔵野市西久保にかつての保健所の建物があります。こちらは、現在、多摩府中保健所の武蔵野三鷹地域センターとして食品衛生などの一部の業務が行われていますが、今後は感染症対策等でも活用することが考えられます。
 そこで伺います。同指針に基づいて、都は、多摩地域の都の保健所について、二次医療圏における複数の保健所や支所の設置等の保健所の体制強化を検討すべきと考えますが、見解を伺います。
 コロナ対策に関連をして、私権制限、いわゆるロックダウンについて質問いたします。
 都知事は、昨年の三月二十三日に記者会見で、事態の今後の推移によりましては、都市の封鎖、いわゆるロックダウンなど、強力な措置を取らざるを得ない状況が出てくる可能性があると発言をし、初めてロックダウンについて言及しました。
 その結果、都内では、欧米のような移動の自由が制限されるとの誤解が広がり、食料が買い占められるなど大混乱を招きました。にもかかわらず、その後も都知事は、ロックダウン発言は、多くの都民、国民の感染症に対しての意識を高められたので正しかったと正当化しています。
 しかし、いわゆるロックダウンは、憲法で保障された移動や営業の自由を大きく制約するもので、人権との関係で極めて慎重になるべきものであり、施政者が安易に都民の意識を高めるために根拠なく言及していいものではありません。
 本年二月にインフル特措法は改正されましたが、改正前も後も、日本では、欧米のような都民に対するロックダウン、すなわち都民に対する罰則付の行動制限はできません。
 こうした状況の中でも、都知事は本年八月三日、一都三県のテレビ会議で、特措法をめぐって課題が浮き彫りになっている、緊急事態宣言下を何度も経験したが、常にお願いベースになっていると発言をしており、現行法には課題があるとの認識を示されています。
 しかし、まさに八月とは都知事が強行開催したオリ・パラの期間中であり、八月五日には一日の陽性者数が五千人を超え、八月二十一日には都内の自宅療養者数は二万六千四百九人に上りました。東京都が、感染症法に基づいて都内全ての医療機関に病床確保や人材派遣を要請したのは八月二十三日と遅きに失し、自宅療養中に亡くなった方は八月だけで四十五名に上ります。
 こうして、万全な医療提供体制を整えず、都民の命と健康を脅かす事態を招きながら、感染拡大の要因を人流だけに転嫁して私権制限を示唆する知事の姿勢には、大きな問題があるといわざるを得ません。
 ここで、知事が、都民に対する行動制限について、どういうお考えなのかについて質問いたします。
 都知事は、特措法について法改正が必要だと考えているのか伺います。必要だとされる場合、都知事は、欧米のように都民に対して罰則付の行動制限を課すことが望ましいとのお考えなのか伺います。
 また、知事は、今後国に対してどのような内容の法改正を求めていくのかについても伺います。
 さらに、都知事がこれまでに、特措法の範囲内で都民に対する行動制限について、既に実施済みの行動制限の要請以外で、ほかに検討した規制があるかについて、内容を示してご説明ください。
 最後に、専決処分について伺います。
 都知事は、この間、コロナ対策を理由に専決処分を乱発してきました。地方自治法上、専決処分は真にやむを得ない場合に限り、長が議会の権限に属する事項を代わって行う、いわば例外的な手段を定めた手続です。
 それにもかかわらず、東京都は現在までに、条例の制定、改正や補正予算の編成で、合計十七回もの専決処分をしています。条例は、都内の事業者に対して標章の提示義務を課す内容も含み、こうした条例の専決処分はほかの四十六都道府県にはなく、極めて異例の事態です。
 補正予算編成は合計十五回、総額約二・四兆円に上り、これは既に執行済みのコロナ対策費である総額約六・四兆円の三分の一にも当たる非常に大きな金額です。
 専決処分について、都知事は、コロナ対策に当たりましては、その時々の状況を踏まえながら、都議会の皆様のご意見も伺いつつ、時機を逸することなく、適切に対応してまいりますと繰り返すだけで、丁寧な説明はありません。
 そこで、都に伺います。専決処分について、合計十五回、総額二・四兆円の補正予算編成が、地方自治法で定めた、特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認められるときに当たるとする具体的な事情をご説明ください。
 また、同様に、昨年制定、改正した東京都新型コロナウイルス感染症対策条例について、専決処分の要件に当たるとする具体的な事情をご説明ください。
 いうまでもありませんが、専決処分は二元代表制の意義に関わる重要な部分ですので、都民に対して丁寧にご説明ください。
 最後に、知事には、コロナ禍という非常時だからこそ、法治国家として都民の人権を守るために、憲法と法律にのっとり、都民に対して丁寧に説明する姿勢を強く求め、私の質問を終わります。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 五十嵐えり議員の一般質問にお答えいたします。
 特措法の改正についてのお尋ねがございました。
 長きにわたるコロナとの闘いの中で、要請に基づく行動制限など、現行の特措法の課題も改めて浮き彫りになっております。緊急事態宣言下におけます都民の行動変容などにつきまして、特措法の在り方も含め、議論すべき時期に来ておりまして、全国知事会としても同様の検討を要望しております。
 これらにつきましては、国民的な幅広い議論が必要であって、都としては、その動向を注視してまいります。
 その他のご質問については、関係局長からの答弁といたします。
〔福祉保健局長吉村憲彦君登壇〕

○福祉保健局長(吉村憲彦君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、生活に困窮する方の現状把握についてでございますが、都は、区市町村や関係機関と連携し、生活福祉資金の特例貸付や、仕事や住まいを失った方への緊急的な一時宿泊場所の提供などを行っており、こうした相談支援を通じて、生活に困窮する方の実態を把握しております。
 また、今年度実施する都民の生活実態と意識調査に、この一年間の生活水準の変化や生活困窮に係る施策の利用意向などの項目を設ける予定としております。
 引き続き、生活に困窮する方の状況を把握し、適切な支援を行ってまいります。
 次に、多摩地域の都保健所における感染症対策についてでございますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、新規陽性者の積極的疫学調査、入院や宿泊療養の調整、自宅療養者の健康観察等の業務が急増いたしました。
 こうした状況に対応するため、保健所内の応援体制や庁内からの応援職員の配置、会計年度任用職員等の活用、業務の委託化等、体制強化や負担軽減に取り組んでおり、引き続き、感染状況に応じ体制の確保を図ってまいります。
 最後に、多摩地域の都保健所の体制についてでございますが、住民に身近な保健サービスは市町村が行い、より専門的なサービスは保健所が実施するという地域保健法の考え方に基づき、多摩地域の都保健所は、二次保健医療圏に一か所となっており、広域的、専門的、技術的拠点として、地域の感染症対策の重要な役割を担っております。
 今後、感染拡大から終息に至るまでの都保健所の取組について検証した上で、改めてその在り方を検討していくこととしており、今年度は、保健所の感染症対策業務に関する調査分析を実施いたします。
〔総務局長黒沼靖君登壇〕

○総務局長(黒沼靖君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、特措法に基づく要請についてでございます。
 緊急事態宣言期間等における都民に対する要請につきましては、不要不急の外出自粛や営業時間短縮を要請した時間以降、飲食店等にみだりに出入りしないことなど、行動制限を伴いますことから、特措法第五条においても必要最小限のものでなければならないとされております。
 また、地方公共団体は、国の基本的対処方針に基づき対策を実施するとされていることから、都は、この基本的対処方針に記載された都民に対する行動制限に係る措置を実施するとともに、飲食店等に対する要請との整合を図るため、都民が飲食店等で飲酒する場合の人数等の制限についても検討し、法二十四条九項に基づく要請を行ってきております。
 次に、条例の制定及び改正に係る専決処分でございます。
 普通地方公共団体の長は、特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであるときなどに、専決処分を行うことができるとされております。
 昨年四月七日の新型コロナウイルス感染症対策条例制定時には、緊急事態宣言の発出を受け、都の感染対策を講じるに当たりまして、専門的な見地から調査、審議を行う審議会を附属機関として直ちに設置する必要がございました。
 また、同年七月三十日の改正時には、新規陽性者数の大幅な増加傾向が続き、都内全域、全世代へと感染が拡大するなど、危機的な状況でございました。このため、感染拡大防止の観点から、都民及び事業者が、ガイドラインの遵守や標章、ステッカー掲示店の利用に努める施策を直ちに実施する必要がございました。
 これらは、いずれも専決処分の要件を満たしてございます。
〔財務局長潮田勉君登壇〕

○財務局長(潮田勉君) 予算の専決処分についてでございますが、これまで、議会の閉会中に新規感染者が増加する局面などにおきましては、学校の臨時休業への対応や、緊急事態措置の延長に伴う感染拡大防止協力金の支給など、様々な対策を直ちに講じる必要がございました。
 具体的には、例えば、専決処分をいたしました補正予算の大部分を占める協力金につきましては、営業時間短縮などの要請を行う上で、事業者の皆様の準備などのためにも、対策の内容を、予算上の担保を得た上で早期にお示しすることが必要でございました。
 こうした対策を講じるに当たり、議会を招集する時間的余裕がなかったことから、地方自治法の規定に基づき専決処分を行ったところでございます。

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