令和二年東京都議会会議録第二十二号

○議長(石川良一君) 七十四番川松真一朗君。
〔七十四番川松真一朗君登壇〕

○七十四番(川松真一朗君) 初めに、コロナ対策について伺います。
 ことし一月二十四日に都内で初の感染者が確認されてから十カ月半が経過することになりました。三百日を超える新型コロナウイルスとの闘いの中で、都民や都内事業者は疲弊をきわめていますが、第三波ともいわれる感染拡大の波はいまだ続いており、海外でのワクチン接種の開始など一部明るい兆しは見えるものの、先行きは不透明のままです。
 都はことし五月に事業者向け東京都感染拡大防止ガイドラインを策定し、翌六月にガイドライン遵守を宣言した事業者に対して、感染防止徹底宣言ステッカーの発行を開始しました。コロナ禍で極めて厳しい状況下にある中、感染拡大防止に真摯に取り組む店舗がステッカーという都のお墨つきを得て、都民等に店舗を安心して利用していただけるようにする仕組み自体は評価するものです。
 しかし、ステッカーの発行は事業者による申告制をとっているため、ステッカーを掲示する店舗が実際に適切な感染防止対策を講じているという担保はされていません。
 こうした中、都は、七月に専決で条例を改正し、事業者によるガイドラインの遵守を努力義務化しました。専決という手段の妥当性はともかく、事業者による感染防止対策を促す上で努力義務を課したこと自体は必要な措置であったと考えますが、その条文を見ると、事業者は、都、国、特別区、市町村及び事業者が加入している団体等が定めたガイドラインを遵守するよう努めなければならないと規定されているのです。
 条例にあるとおり、現在はさまざまな団体や業界がそれぞれガイドラインを策定していますが、それぞれの内容が完全に一致しているわけではなく、事業者からは、感染防止対策に取り組みたいが、どのガイドラインを守ればよいのかがわからないと戸惑いの声も聞きます。
 努力義務とはいえ義務です。したがって、当然、その内容や対象は明確でなければなりません。
 条例において守るべき事項が明確ではないがゆえに、ステッカーを掲示する店舗の中には、厳格にガイドラインの記述の一つ一つを守っている店舗もあれば、店員がマスクを着用するくらいで、消毒液の設置や十分な換気等も行われていないような店舗も見受けられます。
 都内は店舗等を含む事業所が非常に多いため、実務的に整理すべき課題があることは承知していますが、少なくとも、都民や事業者が感染拡大防止のために最低限守るべき事項を、東京都がその責任において明確にすることこそが、店舗等を利用する都民の安心と、事業者による真に実効性ある取り組みにつながるのではないでしょうか。
 そこで、都民や事業者に実効性のある取り組みを促し、感染拡大防止を図るため、都として都民や事業者が守るべき統一的なガイドラインを業種ごとに明確に定めることが重要であると考えますが、認識を伺います。
 次に、脱押印について伺います。
 私は、行政手続の簡素化、無駄を省くということに関して大いに賛成します。コロナ禍の中で、デジタル化のおくれが指摘されており、これも早急に進めていかなければならない課題です。
 しかし、無駄を省きデジタル化を進めるのは、よりよい社会を築くための手段でしかありません。何を無駄と考えるのか、デジタル化という手段を用いて何を目指すのかということも、同時にしっかりと議論していくことが必要だと考えます。
 いうまでもなく、判こは日本の伝統であり、工芸であり、文化であります。漢字という美しい表意文字と彫刻という日本のものづくりの技術が融合したもので、社会生活を営む上でも、単なる道具以上の大きな価値を担ってきました。
 自分の判こを持つことは、いわば一人の責任ある大人としての自覚が求められることでありますし、判こを押すことの意味というのは大変重いものがあります。
 結婚、離婚、マイホームの購入、借金など、判こにまつわる人生の物語は枚挙にいとまがありません。判こは人生の大事な節目にあられます。だからこそ私たちは、通常、判こを押す前に、もう一度書類を確かめ、不備や思い違いがないことを確認した上で判こを押します。これが契約や取引の安定にもつながっているのです。
 実際、世界一オンライン化が進んでいるといわれる電子国家エストニアにおいても、結婚、離婚と不動産にかかわる手続はオンラインで済ませることはできません。
 今、東京都は、構造改革のコアプロジェクトとして、判こレスという言葉を使っています。十月九日に発表したDX推進に向けた五つのレス徹底方針の中でも、五つのレスの一つとして判こレスを掲げています。
 本定例会においても、関連する条例案が提案されております。都がいう判こレスとは、一体何を目指しているのか。それは、判こそのものをなくすということではなく、押印を廃止することであるのに、あおり過ぎではないかと考えるものです。
 今後、都がデジタル化を初め、構造改革を推し進める上で、日本の文化、伝統技術、あるいは、これまで都が組織として積み重ねてきた経験や知見などに対しても、しっかりと敬意を払っていく必要があると考えます。
 構造改革を進めていくに当たっての知事の見解を伺います。
 また、押印廃止や判こレスという言葉が時代の流れとしてさまざまに取り上げられることで、印鑑業界の方々は大変不安な思いを募らせています。
 私の地元、墨田区だけでなく、都内の至るところで、印章、いわゆる判こは、伝統工芸として非常に大切にされてまいりました。これは、単純に時代の流れの中で、ある業界が廃れていくという話ではないと思います。
 印章には、たくみのわざの粋が込められています。印鑑業界が廃れてしまうということは、日本人の物を大切に扱う心、ものづくりを敬う心、そして日本人の息遣いといったものが失われていくということではないでしょうか。判こを押すことで大きな決断をする、身が引き締まるというような日本人の意識は、私はこれからも必要だと考えています。
 判こ職人だけでなく、東京には伝統的な職人のわざが集積しており、私たちの生活を支えるとともに、ものづくり産業の発展に大きく寄与してきました。このような伝統的なものづくりは、磨き抜かれた技能の結晶ですが、そのすばらしさを十分にご存じない方もいるのが実情です。
 こうした中にあって、若者のものづくり離れが深刻化しており、これまでも培われてきたすぐれた技能の継承が大きな課題となっています。
 東京のものづくりを将来に向けて持続的な発展をさせるためには、新たなものづくり人材の確保に向けて、次代を担う若者たちに、ものづくりの魅力をしっかり伝えていくことが重要であると考えますが、都の見解を伺います。
 次に、認知症対策について伺います。
 平成二十八年度に、東京都健康長寿医療センターが、板橋区高島平一丁目から五丁目にお住まいの七十歳以上の高齢者全員を対象として実施した生活実態調査を行いましたが、私はその結果に驚きました。何と認知症の状態にあると評価された方のうちのおよそ半数は、医療機関での診断がなされていない状況であるとの報告となっていたのです。
 認知症になっても住みなれた地域で暮らし続けるためには、認知症に早期に気づき、早期に診断し、症状が悪化する前に治療や支援につなげていくことが重要です。地域において認知症の早期診断、対応の取り組みを推進すべきですが、都の見解を伺います。
 認知症予防という観点では、これまでさまざまなところで叫ばれてきたフレイル予防とも関連して重大な局面を迎えています。
 コロナ禍において、特に高齢者の方の中には、必要以上に外出を控えるという方もおります。
 このことは、感染リスクを懸念し、体操等を行う地域への通いの場への参加を控えることにつながるなど、高齢者の運動の機会が減少しています。高齢期の健康状態を維持するためには、十分な栄養摂取や社会参加とあわせて、日ごろから適度な運動を行い、体力を維持することが大変重要です。
 都は、高齢者の運動の機会の確保など、高齢者の健康維持についてどのように取り組むのかを伺います。
 次に、再生エネルギーについて伺います。
 先日、交通局が水力発電所で発電した再エネ電気を公募により売却し、最終需要家の一つとして、都営バス全営業所において活用すると発表しました。
 再エネの利用拡大に向けて、クリーンエネルギーを地産地消するという非常によい取り組みだと考えています。
 環境省は、来年度から、二酸化炭素の排出を五〇年までに実質ゼロにすることを目指すゼロカーボンシティーを応援するとしましたが、都はそれに先んじて、去年、二酸化炭素排出量の五〇年までに実質ゼロの脱炭素社会実現を目指す宣言をしました。
 今後、エネルギーの脱炭素化を図っていくことが一層重要となります。そのため、土地が狭小などの東京の地域特性を踏まえた再エネ導入拡大の取り組みを検討し、予算も措置して、しっかりと取り組んでいくべきです。それが経済の活性化にもつながると私は考えております。
 都が再エネ利用拡大の牽引役となっていくべきと考えますが、見解を伺います。
 次に、学校給食について伺います。
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、和牛肉等のインバウンド需要の減少や輸出の停滞等により在庫が増加するなど、深刻な影響が生じています。そのような中で、国は、販売促進緊急対策の一環として、和牛肉等の学校給食への提供を推進する国庫補助事業を実施しており、実際にさまざまな自治体では採用に至っています。
 都においても、ぜひこのような事業を活用し、学校給食に和牛肉等を提供する事業を実施すべきと考えますが、現在の状況を伺います。
 最後に、警察行政について伺います。
 今、世の中は新型コロナウイルスによる影響が懸念されるものの、来年には東京オリンピック・パラリンピックが控えており、サイバーテロなども含めて、首都東京の治安をどう守り抜いていけるかが私たちの課題となっています。
 実際に、世界中のさまざまな背景を持つ組織が各地で諜報活動を行っているとされ、首都東京も警戒の必要があります。
 特に、冷戦時代からは東西両陣営によるスパイ活動が展開され、日本も工作活動の舞台となったりもしましたが、近年は、中国が平成二十九年に国家情報法を施行し、国内外の工作活動に法的根拠を与えたことで、中国によるヒューミントは活発化しているとされています。
 ことし十月には、大阪において、自社の営業秘密に当たる技術情報を中国企業に漏えいしたとして懲戒解雇となった元社員が、不正競争防止法容疑で書類送検された事例も報告されています。
 また、北朝鮮の脅威も私たちの近くに迫っているとされています。
 金正恩体制になった現在も、日本国内で工作員による活動が依然として行われていると考えられ、経済活動での外貨獲得や最先端技術が盗まれる可能性があるという指摘もあります。
 そんな中、警視庁では来春、公安部の外事部門で、中国、北朝鮮を担当してきた外事第二課を分割する方針を固めたと報道がありましたが、その事実関係と狙いについて見解を伺います。
 以上で私の一般質問を終わります。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 川松真一朗議員の一般質問にお答えいたします。
 構造改革についてでございます。
 新型コロナウイルスとの闘いの中で浮き彫りとなった課題を乗り越え、東京が世界から選ばれる都市となるためには、デジタルトランスフォーメーション、DXをてことした改革をスピード感を持って推進しなければなりません。
 従来の紙ベースのアナログ環境から、オンラインをベースとしたデジタル環境へと転換するため、構造改革のコアプロジェクトとして、判こレス、ペーパーレスなど五つのレスの徹底を推進しております。
 都が進める判こレスの目的は、都政のクオリティー・オブ・サービス、QOSを高めていくことであります。行政とのやりとりで慣習的に都民に求めてきた押印につきましては不要とする一方、表彰状など押印自体に意義がある真に必要なものにつきましては、引き続き公印を用いる方針でございます。
 印鑑の文化、伝統技術など、これまで我が国が積み重ね、培ってきたものを大切にし、守るべきものは守りつつも、時代の変化に応じ、都民の目線に立って、変えるべきものは大胆に変えていくこと、そのことこそが求められております。
 こうした認識に立ちまして、制度や仕組みの根本にまでさかのぼった構造改革を強力に推進をいたしまして、都民が利便性を実感できる都政を実現してまいります。
 残余のご質問につきましては、警視総監、教育長及び関係局長からのご答弁とさせていただきます。
〔警視総監斉藤実君登壇〕

○警視総監(斉藤実君) 外事第二課の分割についてであります。
 新型コロナウイルス感染症の影響は、世界的な経済状況の悪化と内政面の混乱、国際秩序の変化等を招くおそれもあるところ、こうした状況に乗じた北朝鮮等による対日有害活動の一層の活発化が懸念をされます。
 とりわけ、政治、経済、外交の中心である首都東京において、今後も対日諸工作や、不正な資金、物資獲得活動を活発に展開されることが予想されるところであります。
 このため、アジア地域の外国人に係る警備情報、警備犯罪、外事関係法令違反事件等の取り締まりを所掌する外事第二課から、来春、北朝鮮を含む北東アジア地域の業務を切り出して、外事第三課を新設する方向で東京都と調整を行っているところであります。
〔教育長藤田裕司君登壇〕

○教育長(藤田裕司君) 学校給食提供推進事業についてでございますが、本事業は、国産農林水産物等の販売促進を目的として、国の全額補助により、学校給食に和牛肉等の食材を提供するものでございます。
 都教育委員会は、区市町村の要望を受け、学校給食の献立の充実と食育推進の観点から本事業を活用することとし、既に準備を開始しているところでございます。
 具体的には、国との調整を図りながら、本年十月に区市町村教育委員会に対する意向調査を行い、二十四自治体から実施したいとの回答がございました。これを受け、現在、東京都学校給食会や東京都食肉事業協同組合など関係機関と実施方法等について協議を行っております。
 今後とも、国や区市町村、関係機関等と連携し、速やかに実施できるよう取り組んでまいります。
〔総務局長山手斉君登壇〕

○総務局長(山手斉君) ガイドラインの策定についてでございますが、ガイドラインは、事業者が自主的な感染防止の取り組みを進めるため、業界団体が国と調整を図り、業種ごとの実態や専門家等の知見を踏まえて策定した指針でございます。
 また、都や区市町村のガイドラインは、こうした業界団体のガイドラインをもとに、事業者が感染対策を行う際の基本的な取り組みをわかりやすく整理したものでございます。
 各事業者の店舗等の状況はさまざまであり、効果的な対策も一律ではないことから、都は、各事業者がその業種や施設の特性に応じ、適切なガイドラインのもと、店舗の状況に即した感染防止策の実施に努めることを求めてございます。
 今後も、事業者に対して、これらのガイドラインの遵守を呼びかけ、感染防止策を徹底してまいります。
〔産業労働局長村松明典君登壇〕

○産業労働局長(村松明典君) ものづくりの魅力発信についてですが、新たなものづくり人材の確保に向けて、ものづくりとそれを支える職人わざの魅力を広く発信し、若者の関心を高めることは重要でございます。
 このため、都は、日本の生活や文化を支えてきた衣食住工の伝統的なたくみのわざを職人の方々に実演していただき、その魅力を発信するイベントを毎年開催してまいりました。
 今年度は、オンラインを活用し、さまざまなたくみのわざをライブで配信する新しいスタイルで実施したところでございます。
 今後とも、こうした取り組みを通じて、楽しく親しみやすい情報発信を行うことにより、若者がものづくりの世界を目指す社会的な機運を醸成してまいります。
〔福祉保健局長吉村憲彦君登壇〕

○福祉保健局長(吉村憲彦君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、認知症の早期診断、早期対応についてでございますが、都は、認知症の早期診断、早期対応を推進するため、チェックリストを掲載したパンフレット等を送付し、家庭で確認の上、認知症を懸念して検診を希望する方に問診、認知機能検査を行い、専門機関等につなぐ区市町村の取り組みを支援しております。
 また、二次保健医療圏ごとに指定する地域拠点型認知症疾患医療センターに配置したアウトリーチチームが認知症の疑いのある高齢者等を訪問し、早期に必要な支援につなぐとともに、全区市町村に設置された認知症初期集中支援チームに訪問支援のノウハウを提供しております。
 認知症になっても住みなれた地域で安心して暮らし続けられるよう、今後とも、区市町村と連携して、早期診断、早期対応を推進するなど、認知症施策に取り組んでまいります。
 次に、コロナ禍での高齢者の健康維持についてでございますが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う外出自粛により、高齢者の心身機能の低下が危惧されております。
 このため、都は、高齢者の筋力維持に効果的な運動を紹介した動画の配信や、感染を防ぎながら定期的な外出、適度な運動などを促すリーフレットの配布により、高齢者に健康的な生活習慣の維持を働きかけてまいりました。
 また、感染防止対策を行った上での通いの場の継続や、オンラインツールを活用した体操教室の実施など、地域では高齢者が安心して運動できる機会が提供されており、都は、こうした事例を区市町村の担当者会議等で共有するなど支援をしているところでございます。
 今後とも、区市町村と連携し、コロナ禍における高齢者の健康維持に向けて取り組んでまいります。
〔環境局長栗岡祥一君登壇〕

○環境局長(栗岡祥一君) 再生可能エネルギーの利用拡大についてでございますが、脱炭素社会の実現には、省エネ等の一層の推進によるエネルギー消費の効率化に加え、再エネの基幹エネルギー化が必要でございます。
 このため、都は、家庭や事業者向けに、太陽光発電等の導入補助や再エネ電力の利用を促す地産地消の取り組みを推進してまいりました。こうした中、RE一〇〇を目指す民間事業者が増加し、再エネ需要が高まりつつございます。
 そこで、今後、大規模な再エネ設備の設置が困難などの東京の特性を踏まえまして、再エネ電力の大量調達を必要とする企業等に向け、都外を含め、再エネ設備の新規導入にもつながる方策を検討してまいります。
 こうした取り組みを通じまして、脱炭素社会の実現に向け、再エネ電力のさらなる利用拡大を図ってまいります。

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