令和元年東京都議会会議録第十五号

○議長(尾崎大介君) 六番後藤なみさん。
〔六番後藤なみ君登壇〕

○六番(後藤なみ君) まず、東京都における認知症施策について質問いたします。
 国は六月、認知症施策をさらに進めるため、認知症施策推進大綱を策定し、認知症基本法も本年度中に成立の予定となっています。
 二〇二五年に東京で暮らす認知症の方の数の推計は約五十六万人。これは都内に通う小学生の数にも匹敵します。その中で、自宅に暮らしている方は約半数。認知症の方々が地域で生活することがこれまで以上に当たり前になる状況の中で、認知症の方を取り巻く社会の側も大きく意識の転換が求められています。
 そんな中で重要なのは、この大綱で示された共生の概念です。大綱では、認知症の人が尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても、同じ社会でともに生きる共生社会を描くとしています。
 東京都は、これまでも認知症の予防については、さまざまな対応を進めてきましたが、今後は、認知症とともに生きるという共生社会をどのように描き、実現していくかが問われています。
 認知症当事者に行った調査では、自分の暮らす地域が認知症の人に住みにくいと感じている人は約六割を超え、さらに七割が認知症になったことで交流機会が減ったと答えているなど、現状は認知症の方にフレンドリーな社会とはいえない状況になっています。
 共生社会の実現に向けては、認知症を介護保険制度や福祉政策の中で語るだけでなく、認知症の方を取り巻く交通や通信手段、金融や住宅、行政サービスなど、全庁横断でそれぞれの事業に取り組むことが必要だと考えます。
 そこで、認知症になっても、住みなれた地域で暮らし続けることができるまちづくりに向けて、共生の視点から施策を推進すべきと考えますが、知事の見解を伺います。
 こうした共生社会の実現に向けて大きなテーマになるのが、認知症の方の移動支援です。東京都に住む軽度認知症高齢者のうち、約九割の方が日常的に近所の散歩や買い物に出かけているのに対して、一人で公共交通機関を利用して外出している人の割合になると、二割まで落ち込むことがわかっています。
 その理由としては、道に迷ったり、券売機などの機械操作が難しいといった認知機能に関する内容になっています。
 現在、国や都では、高齢者の免許自主返納制度が進んでいますが、免許を返納した人は介護リスクが二倍近くに上がるという調査も出ており、特に軽度認知症の方々が以前と変わらず外出や交流機会を継続できる環境をつくるために、公共交通機関の認知症対応が急務となっています。そのために今後都が取り組むべきと考えるのは二点です。
 一つ目は、認知症の方が公共交通機関を利用した際に、乗務員などがそれに気づき、サポートできる支援体制を整備することです。
 そして二つ目は、認知症の方の移動に当たって障壁となるバリアを取り除くことです。
 一つ目の支援体制に関しては、認知症の方の理解促進に向けて国が進めている仕組みとして、認知症サポーターがあります。現在、都では、都営地下鉄等の乗務員に対してサービス介助士の資格取得を進めていますが、こちらは認知症に特化したものではありません。金融機関や小売業者などでは、認知症を知るための取り組みを既に進めており、例えば、スーパーのイオンでは、新規で出店する際に全ての従業員に認知症サポーターの受講を義務づけています。
 今後は、都営地下鉄や都バス、都電などの乗務員にも認知症を理解し、支援するための教育体制をつくることが重要だと考えます。
 そして、二つ目の認知症の方の移動の障壁となるバリアを取り除く取り組みについてですが、都心では縦横無尽に公共交通機関が走っています。身体障害者の方々の利用については、乗務員の方が乗車駅と下車駅で連絡をとりながら対応していますが、軽度認知症の方などが移動する際にもサポートの仕組みをつくることが必要だと考えます。
 例えば、イギリスのプリマス市では、市営バスにこうしたヘルプカードを導入し、バスの利用に不安がある乗客が、このカードにあらかじめおりるバス停の名前を記入し、バスを利用する際に運転手に見せる仕組みになっています。
 また、ロンドンのガトウィック空港では、認知症で支援が必要な方にストラップを配布し、本人が特別な意思表示をしなくても、周りのスタッフたちが困っている様子を見て、適切なサポートができるようになっています。
 世界最速で高齢化が進む日本の首都東京において、こうした認知症フレンドリーな移動支援を都営交通で実現することは、まさに世界の見本となる東京モデルの発信にもつながるのではないでしょうか。
 そこで、現在、都営交通が進めている障害者に対する取り組みに加えて、認知症を含む高齢者や障害者への理解を深め、これらの方々が安心して移動できるための取り組みを進めるべきだと考えますが、見解を伺います。
 さらに、東京都の認知症施策検討のあり方についても一言申し上げます。
 さきに挙げた国の法案制定の動きについて、認知症の当事者団体などからは、私たち抜きで議論することなく、私たちの声が反映した法律をつくってほしいとの声が上がっています。私たち抜きに私たちのことを決めないで、これは障害者運動の有名なスローガンですが、都の認知症施策の策定過程にも同じことがいえるのではないでしょうか。
 例えば、がんであれば、がん対策の協議会にがん患者が入るのは当然のこととなっています。しかし、認知症の場合、認知症になると何もわからなくなるというイメージが先行して、政策の受け手である認知症の当事者の声が届かずに、医療や介護の専門家や福祉制度の研究者などがかわりに課題を語り、解決策を示している状況です。
 現在、東京都では、認知症施策の主要会議体として東京都認知症対策推進会議等を設置していますが、委員に認知症の当事者がいたのは、平成二十九年八月の推進会議の一回のみです。
 そこで、認知症施策を進めるに当たっては、認知症の当事者や家族の意見を聞いていくことも重要だと考えますが、都の見解を伺います。
 加えて、今後はこうした会議体に当事者を委員として選任するなど、認知症施策を決める際には、必ず当事者の声を反映できる仕組みに取り組まれることを要望いたします。
 次に、高齢者の住まいにおける課題について質問します。
 二〇二五年問題の中でも深刻なテーマの一つは、ひとり暮らし高齢者の住まいの確保です。東京都では、現在、ひとり暮らしの高齢者のうち、約二人に一人が賃貸で暮らしているにもかかわらず、高齢者の入居を拒む貸し渋りが横行しており、単身や高齢などを理由に、民間賃貸住宅の約四割もが入居制限を行っている現状があります。そんな中、大家が抱える不安を払拭するための仕組みづくりが喫緊の課題となっています。
 そうした中で切り札となり得るのが、住宅セーフティーネット制度です。
 住宅セーフティーネット法に基づく本制度は、高齢者など、住まいの確保に困難を抱えている人たちに対して入居を拒まない住宅として、主に空き家を活用するだけでなく、入居者の生活を支援する団体を居住支援法人に指定し、連帯保証人に関する相談や見守りなどを行い、生活を支援するものです。
 ひとり暮らし高齢者でも、入居した後も見守りをしてもらえれば、孤独死などの心配も減り、家主も安心して貸し出すことができることから、この制度の運用の肝は、福祉的な役割を担う居住支援法人にあると考えます。
 現在、都のセーフティーネット住宅は七百八十一戸と、都が掲げる目標の三万戸には遠く及びませんが、この制度をさらに普及させるためには、各市区町村の福祉のプレーヤーの協力が欠かせないものになります。
 しかし、本制度の普及啓発に当たっては、不動産業界には周知が進む一方で、そのサービスを支える福祉業界の方の認知度は低いままです。部屋を探しているユーザーのうち、住宅セーフティーネット制度について理解している人の割合はわずか九%。さらに福祉業界となるとさらに低くなる現状となります。
 制度の一層の普及に当たっては、福祉部門とも連携し、関係者となる福祉業界にも広報、PRを積極的に行い、協力を呼びかけるべきだと考えますが、都の見解を伺います。
 次に、ダブルケア家庭の抱える課題について質問します。
 少子高齢化と女性の晩婚化に伴い、子育てと親の介護に同時に直面するダブルケアの問題が表面化してきています。二つの負担が同時に襲いかかることにより、精神的、体力的、時間的、経済的な負担はとても大きく、複合的な課題を抱えているケースが多いのも特徴です。
 私は、昨年度も一般質問でこの問題について取り上げ、自治体への支援として、相談支援機能の強化やケアマネジャー、子供家庭支援センター職員等に対する研修開催実施などを訴えてまいりました。さらに、本年度の予算特別委員会においても、我が会派からダブルケア支援を都に求めています。
 その際、都からは、相談体制の強化や相談を担う職員の研修等を行っていると答弁がありましたが、現在の取り組みについて伺います。
 次に、ダブルケアと仕事の両立について質問します。
 ダブルケア当事者の方々にとって、ダブルケアと仕事の両立も深刻な問題です。ダブルケア当事者が離職した割合は、男性の四人に一人、女性の三人に一人ともなっており、今後、男女ともにダブルケア離職が大きな課題となっていきます。こうしたことからも、都として仕事と介護、仕事と子育ての両立にかかわる支援だけでなく、仕事とダブルケアの両立支援に取り組むことが重要だと考えます。
 その中で、まず重要となるのは都民や事業者への普及啓発です。現在、都では、家庭と仕事の両立支援ポータルサイトで、育児と仕事、介護と仕事の両立について紹介をしていますが、仕事、介護、子育てが重なるダブルケアに関しては全く触れられていない現状です。
 また、介護と仕事の両立に関しては、電話やメールの相談窓口が設置されていますが、対象としてダブルケアの記載がなく、相談してよいのか、ちゅうちょしてしまうのではないかと思います。
 今後は、都として仕事と育児、仕事と介護だけでなく、それが重なるダブルケアを行っている方も、都の支援制度の対象となることがわかるようにする必要があると考えますが、見解を伺います。
 最後に、多胎児のいる子育て家庭への支援について伺います。
 多胎児の出生率は不妊治療の増加や晩産化などを理由に、半世紀で約二倍に増加し、現在は約百人に一人が双子や三つ子を出産する時代になっています。にもかかわらず、多胎児家庭への支援はなかなか進んでいないのが現状です。
 そんな中、昨年一月、三つ子の母親が生後十一カ月の子供を床にたたきつけて死亡する事件が発生し実刑判決が下されました。一人でミルクを一日二十四回、それでも泣き続ける我が子の世話で当然寝られず、次第に鬱状態になっていく様子が報道され、世間でも大きな話題になりました。
 私のもとにも多胎児支援を求める保護者の声が多く寄せられています。その中でも特に多いのが移動の支援です。市区町村では多胎児支援として、独自に当事者サークルなどの事業運営を行っていますが、当事者たちは、そこにたどり着くまでに大きなハードルがあるのです。乳幼児健診や区役所に行きたくても、双子や三つ子のベビーカーは幅が広いためにバスに乗ることができません。買い物などで外出をしたくても、双子や三つ子を連れていくには、母親一人では人手が足らず、外出自体を控えるようになり接点が閉ざされることで保護者が孤立状態に陥りやすくなります。
 こうしたことからも、多胎児は単胎児よりも虐待リスクが高いといわれており、虐待防止の観点からも単胎児と同じ施策ではなく、個別ケースと捉えて支援することが重要だと考えます。
 そこで、双子や三つ子など多胎児を育てる家庭への支援を進めるべきだと考えますが、都の見解を伺います。
 また、今後は多胎児の移動支援などにも、都として取り組むことを強く要望し、私の質問を終了いたします。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 後藤なみ議員の一般質問にお答えいたします。
 認知症対策について、私の方からお答えさせていただきます。
 お話にありましたように、二〇二五年には何らかの認知症の症状を有する高齢者は、都内で約五十六万人に達するという推計がございます。認知症対策は、都が取り組むべき重要な課題の一つと認識しております。
 このため認知症の対策の総合的な推進を高齢者保健福祉計画の重点分野に位置づけまして、認知症の人の意思が尊重され、できる限り住みなれた地域で自分らしく暮らせる、そんな社会の実現を目指して施策を進めているところでございます。
 これは国の大綱で示されました認知症とともに生きる共生と理念を同じくするものでございます。
 現在、区市町村ごとに認知症疾患医療センターを整備するなど、地域の中で認知症の方が状況に応じて適時適切な支援を受けられる、そのような体制の構築を進めております。
 また、認知症の疑いを家庭で簡単に確認ができるチェックリストを盛り込んだパンフレット、そして基礎知識などを紹介したポータルサイトなどを通じまして、広く認知症の理解の促進をしております。
 今後とも、認知症の方や家族が安心して地域で暮らせる東京の実現を目指しまして、さまざまな施策を進めてまいります。
 残余のご質問は、関係局長よりのご答弁とさせていただきます。
〔交通局長土渕裕君登壇〕

○交通局長(土渕裕君) 認知症を含む高齢者や障害者の方々が安心して移動できるための取り組みについてでございますが、交通局では、駅やバス車内などで、お困りのお客様に対しまして、駅係員や乗務員が積極的に声かけしておりますが、高齢者や障害者など支援を必要とするお客様に、より適切に対応するためには、こうした方々への理解を一層深めることが重要と考えております。
 これまでも職員に対し、おもてなしの心と安全な介助技術を身につけられるようサービス介助士の資格を取得させているほか、高齢者や障害者に係る疑似体験器具を用いた研修などを実施してまいりました。
 今後とも、高齢社会の進展も踏まえ、支援に必要な資格の取得を促進するとともに、研修の充実を図るなど職員の対応力向上に取り組んでまいります。
〔福祉保健局長内藤淳君登壇〕

○福祉保健局長(内藤淳君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、認知症施策の推進についてでありますが、都は認知症の人や家族の意見を聞き、効果的な認知症施策を進めるため、認知症対策推進会議の委員として家族会の代表に参画いただくとともに、必要に応じてご本人にみずから体験等をお話しいただく機会を設けております。
 また、認知症の人が集まり、みずからの希望や心配事などを話し合える場を設け、本人の声を生かした地域づくりを進める区市町村を支援しているところでございます。
 さらに、若年性認知症の人や家族の意見を聞くため、昨年度、アンケート及び訪問調査を行ったほか、今年度は、介護事業所等が活用できるマニュアルの作成のための検討会にもご参画いただいております。
 今後とも、さまざまな機会を活用して、認知症の人や家族の意見を聞きながら、認知症施策を推進してまいります。
 次に、育児と介護のダブルケアについてでありますが、高齢者の地域での相談支援の拠点である地域包括支援センターでは、近年、ダブルケアなど、高齢者福祉以外の分野を含む相談への対応等が課題となっております。
 このため、都は、センターの相談機能の強化等に取り組む区市町村を包括補助で支援しているほか、センター職員が多様な課題を抱える家族介護者に対し、さまざまな専門職や関係機関等と連携して、相談支援できるよう研修を行っております。
 また、区市町村の職員向けのシンポジウムを開催し、分野横断的な課題に対応できるよう、相談体制の一元化や相談機関の連携強化の取り組み事例を紹介しているところです。
 今後とも、育児と介護のダブルケアなど、複合的な課題を抱える家庭の支援に取り組む区市町村を支援してまいります。
 最後に、多胎児を育てる家庭への支援についてでありますが、双子や三つ子など、多胎児を育てる家庭は、同時に二人以上の妊娠、出産、育児をすることに伴う身体的、精神的負担や外出を控えることによる社会からの孤立など、多胎児ならではの困難さに直面する場合も少なくないと指摘されております。
 区市町村では、多胎児を育てる家庭の不安感や孤立感の軽減を図るため、保健師等による妊娠期からの助言や指導に加え、保護者が交流し、育児の情報交換ができるよう、育児学級や交流会等を実施しております。
 都は、こうした育児学級等の具体的な実施内容を一覧にして区市町村に情報提供するほか、地域の実情に応じた取り組みを包括補助で支援しているところでございます。
 今後とも、多胎児家庭への支援に取り組む区市町村を支援してまいります。
〔住宅政策本部長榎本雅人君登壇〕

○住宅政策本部長(榎本雅人君) 住宅セーフティネット制度における福祉部門との連携等についてでございますが、高齢者や障害者等、住宅確保要配慮者の居住の安定を図るためには、住宅の確保だけではなく、福祉部門と緊密に連携しながら、見守りなどの入居後の生活支援を行うことが重要でございます。
 このため、都は、住宅、福祉双方の関係団体で構成される居住支援協議会等において、居住支援法人の活動状況や他の地域の協議会における先進的な取り組み事例を初め、本制度に係るさまざまな情報の共有化を図ってまいりました。
 今後、こうした取り組みに加え、民間福祉事業者が参加するセミナー等の機会を捉え、福祉現場の第一線を担う関係者へのPRなど、積極的に情報発信し、本制度の一層の普及を図ってまいります。
〔産業労働局長村松明典君登壇〕

○産業労働局長(村松明典君) 育児と介護が重なる、いわゆるダブルケアと仕事の両立についてですが、現在、都は、育児や介護と仕事の両立について、家庭と仕事の両立支援ポータルサイトにおいて、体験談など、両立の参考となる事例や支援策を紹介するとともに、従業員の両立支援に取り組む企業に対して、専門家派遣や奨励金の支給により後押ししております。
 これらの事業は、ダブルケアと仕事の両立についても支援の対象としていることから、今後、事業のPRに当たりましては、当該事業がダブルケアにも対応していることを発信してまいります。
 これに加えて、ポータルサイトやライフワークバランスのイベント等において、参考となる事例紹介などを行ってまいります。

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