令和元年東京都議会会議録第十一号

○議長(尾崎大介君) 四十六番増田一郎君。
〔四十六番増田一郎君登壇〕

○四十六番(増田一郎君) 初めに、中小企業支援のための融資制度について伺います。
 米中間の貿易摩擦により、世界経済に暗雲が立ち込めています。先月、内閣府が発表した国内景気の基調判断は約六年ぶりに悪化に転じ、日本経済の先行きに関する見通しは急速に不透明感を増しています。
 二〇〇八年に発生したリーマンショックは、金融機関が体力を失い、資金供給ができなくなることによって生じた、いわば金融機関発の経済危機でありました。
 それに対して、今起きようとしているのは、世界経済の大動脈ともいえる米中間での関税引き上げ合戦による物流の停滞、そして、両国の覇権をかけた特定企業の排除の動きと、それに伴うサプライチェーンの寸断といった、これまでに誰も経験のしたことのない事態です。
 中国の情報機器メーカー、ファーウェイへの制裁問題が改めて示すように、IT機器の製造は数多くの部品のサプライチェーンの上に成り立っており、日本のメーカーやその下請企業も深くその連鎖の中に組み込まれております。
 今後もし、米中間で報復関税がエスカレートしたり、特定の企業の排除の動きがさらに進むようであれば、東京に数多く集積している中小の製造業者に、いつ、どのような形で影響が顕在化するのか、予断を許しません。
 販売先からの突然の受注停止によって生じる在庫資金の手当て、新たな販売先を見つけるまでのつなぎ融資の確保など、財務体力の弱い中小企業を守るために、東京都はあらゆる事態に備えて必要な金融支援メニューを整えておくべきと考えます。
 リーマンショック時には、国が中小企業金融円滑化法を制定し、市場への資金供給の確保に努めるとともに、東京都の中小企業制度融資、信用保証制度も、金融危機の早期収拾と中小企業の救済に大きな役割を果たしました。
 経済の先行きを正確に見通すことはできませんが、今後、景気が急速に悪化した場合に備え、中小企業制度融資と信用保証制度が持つ機能をフルに使い、十年ぶりに起こるかもしれない危機に対して万全の備えをし、それを中小企業経営者に周知しておき、不安を払拭しておくことは極めて重要です。
 そこで、このような状況を踏まえ、都としてどのような支援を展開していくのか見解を伺います。
 一方、東京都の中小企業制度融資は、そのような経済危機に対応をする機能はもちろんのこと、資金調達力の弱いスタートアップ企業や中小企業を助け、育てるという大切な役割も担っています。
 特に昨今は、これまでになかった電子決裁、入出金管理のツールや業務効率化のソフトウエアなどが次々と新興のフィンテック企業によって生み出されています。これらは、大企業よりも、むしろ人手不足に悩む中小企業にこそ導入メリットが大きいといわれており、東京都ではこのようなスタートアップ企業や、新たに管理インフラを導入しようとしている中小零細企業を資金面で支援するため、制度融資を積極的に活用すべきと考えます。
 そこで、そのような企業を支援するための現在の取り組み状況についても、あわせて伺います。
 次に、国際金融都市東京構想について伺います。
 銀行、証券、保険、資産運用業、外資系金融機関、そして、シティー・オブ・ロンドンのチェアマンなど、国内外のあらゆる金融機関のトップが一堂に会して、金融センターとしての東京のあるべき姿を議論し、国際金融都市東京構想が取りまとめられてから一年半余りが経過しました。
 その間、東京都は、グリーンボンドの発行、ESG投資の促進、東京金融賞の創設、シティー・オブ・ロンドンとの覚書の締結など、次々と打ち手を実行し、その結果、新興の資産運用業者やフィンテック企業などの誘致に、着実に成果を上げていると理解しております。
 一方、香港やシンガポールといったアジアのライバル企業の発展もそれ以上に早く、昨年九月に発表された最新の国際金融都市ランキングにおいて、東京は残念ながら、五位から六位へと、さらにランキングを落とす結果となってしまいました。
 そのような状況を打開し、本構想をより強力に推し進めるために期待されるのが、今月始動することになった金融プロモーション組織、フィンシティー・トーキョーであります。
 アジアにおける金融センターとしての東京の優位性、魅力をこれまで以上の発信力を持って世界に伝えることが期待されますが、その具体的な姿と今後の事業の見通しについて伺います。
 そしてもう一つ、昨今の国際金融都市間競争の中で急速にその重要度を増しているのが、SDGsの目指す持続可能な発展を金融面から実現しようとする取り組み、サステーナブルファイナンスであります。
 その点、新たな取り組みとして注目されるのが、先日、知事が国際会議の場で表明したサステーナブルファイナンスに関する国連機関のネットワークであるFC4S、ファイナンシャル・センターズ・フォー・サステーナビリティーへの東京都の加盟であります。
 そこで、FC4Sへの加盟の狙いと今後に向けた決意について、知事に伺います。
 東京の今後のさらなる成長、稼ぐ力の強化を考えたとき、ニューヨークやロンドンがそうであるように、国際金融マーケットの中心であることによってもたらされる富は非常に大きなものがあります。国際金融都市東京構想はそれ自体が極めて具体的な成長戦略であり、それを着実に実行することは何よりも強力な稼ぐ力となるはずです。
 東京はアジアのライバル都市に比べて、法人税が高いという足かせはありますが、国際金融プレーヤーたちが自然に集まってくる都市にするためには、税率の高低だけでなく、市場の公平性、情報開示の透明性、通信インフラの安定性、金融行政や司法制度の信頼度、住環境のよさなど、多くの要素の総合力が必要であり、それら一つ一つを向上させ、金融都市としての魅力を高めるための不断の努力が必要です。
 私も三十年の国際金融実務の経験から、引き続き、本構想推進のためにあらゆる知恵を絞ってまいる所存です。
 次に、事業承継の取り組みについて伺います。
 日本経済の成長にとって一つの大きな課題となっていることの一つに、事業承継の問題があります。せっかく他社にまねのできない独自の技術を持っていても、せっかく業績が好調で黒字続きであっても、後継者がいないために会社の存続を諦めなければならない中小企業、零細企業、商店は非常に多く、これらの企業や商店がそのまま消えてしまうのでは、東京の稼ぐ力にとって大きな損失になることは明らかです。
 この問題については、国や各自治体、商工会議所や金融機関、大手会計事務所など、既にさまざまな関係者による取り組みが進められており、基本的には、事業を譲り渡したい側と譲り受けたい側をうまく結びつけるマッチングの手法が有効でありますが、その可能性を一層広げるためには、対象となる地域や会社の属性を縦横に広げ、各関係者間で情報を効率的に共有することが重要です。
 行政主体としての都に期待される役割としては、無料相談に応じたり、事業譲渡手続にかかる費用の一部を負担したり、つなぎ資金を低利で融資するなど、民間では担えない部分であると思います。
 私の地元立川市を初め、多摩地域においても、経営者の高齢化と後継者不足による中小零細企業の事業承継は、待ったなしの大きな問題です。
 そこで、特に多摩地域における小規模零細企業の事業承継の促進のための都の取り組みについて伺います。
 次に、社会的インパクト投資、ソーシャル・インパクト・ボンドについて伺います。
 私は昨年のこの議会において、税金、基金、都債に続く財源としてのソーシャル・インパクト・ボンドの可能性について質問を行いました。
 ソーシャル・インパクト・ボンドは、特定の行政課題について、その課題解決に必要な資金を借り入れ、もしくは債券の発行によって調達するもので、その解決に特別の関心や共感を持つ民間投資家から、通常よりも低い金利で資金調達を行い、その結果、税支出の低減効果が認められれば、そこから一定の配当を投資家に払うという民間資金活用手法の一つです。近年イギリスで普及し、国内では経済産業省を中心に数年前から検討が進められ、この一年では、基礎自治体において、ヘルスケア部門等で具体的な事例が出始めております。
 オリンピック・パラリンピックに向けたハードへの大型投資が一段落すると、恐らく東京はよりきめ細かな、ソフト面が重視される課題に多く直面することになると思います。そのような時代を見据え、財源確保の方法もこれまでの都債や基金だけではなく、民間の力を活用しつつ、よりきめ細かい課題に適応したソーシャル・インパクト・ボンドのような新しい手法を持っておくことは重要と考えます。
 折しも、都では、今年度、成長戦略やICTの利活用について集中的に取り組む戦略政策情報推進本部が設立されました。今後、新しい諸課題に向き合うことになると思いますが、成長戦略や新たな諸課題の解決ツールとしてのソーシャル・インパクト・ボンドの可能性について見解を伺います。
 最後に、立川市内の都市計画道路の整備状況について伺います。
 私の地元立川駅周辺では、駅北口付近や青梅線をまたぐ踏切付近で慢性的な交通渋滞が発生するなど、道路整備に関するさまざまな課題を抱えています。
 立川市には首都機能に甚大な被害が生じた場合に、災害応急対策活動の中心的拠点となる立川広域防災基地や、災害時物資の備蓄と災害時物流確保のために重要な役割を果たす都の防災倉庫があり、それら重要施設の機能をフルに発揮させるためにも、周辺の都市計画道路を早急に整備し、アクセス性を向上させることは急務です。
 具体的には、都心と多摩地域を結ぶ基幹道路である国道二〇号や、中央高速道路方面と立川防災基地のある市内中心部を南北に結ぶ二つの計画線、立川東大和線と立川三・一・三四号線の早期整備が長年強く求められております。
 三・一・三四号線については、これまで議会や委員会で私も繰り返し早期整備を求めてまいりましたが、今回は、もう一つの重要計画線、立川東大和線のうち、立川三・三・三〇号線の取り組み状況について伺います。
 以上で私の一般質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 増田一郎議員の一般質問にお答えいたします。
 FC4S、ファイナンシャル・センターズ・フォー・サステーナビリティーという機関でございますが、そちらへの加盟の狙い、そして今後に向けた決意についてのお尋ねをいただきました。
 環境や社会問題に配慮しながら、金融経済都市としての発展を遂げる、これこそまさにスマートシティーとして目指す姿でありまして、世界の潮流ともなっております。
 ESG投資額は二〇一八年におきまして三十兆ドル超と急拡大をいたしておりますが、その多くは欧米となっております。
 サステーナブルファイナンスの普及に向けまして、東京が先進的な取り組みを行って、日本、さらにはアジアを牽引していく必要がございます。
 このため、グリーンボンドの発行、そして東京金融賞の創設などの施策を展開いたしまして、さらにこのたび国連機関であるUNEPが運営をして、世界の二十を超える金融センターが加盟しております、このFC4Sへの加盟を決定したところでございます。
 この加盟によりまして、サステーナブルファイナンスの分野で志を同じくする他の金融センターと連携を深めるとともに、都の取り組みを世界に発信するということで、海外からの投資資金を呼び込むことにつなげてまいります。
 このような取り組みを通じまして、東京が国際金融都市として、世界の熾烈な都市間競争を勝ち抜き、スマートシティーとして持続的に成長していくことを目指しております。
 その他のご質問につきましては、関係局長からのご答弁とさせていただきます。
〔産業労働局長藤田裕司君登壇〕

○産業労働局長(藤田裕司君) 二点のご質問にお答えをいたします。
 初めに、中小企業に対する金融支援についてでございますが、都内の中小企業が刻々と変化する経済情勢の中でも持続的に発展していくためには、事業の状況に応じて円滑に資金調達できる環境づくりが不可欠でございます。
 そのため、都は、制度融資におきまして重要な機能であるセーフティーネットとして、一時的な売り上げ減少や大規模な経済危機に的確に対応する仕組みを構築しているところでございます。また、小規模企業等が融資を受ける際の負担を軽減するため、都が信用保証料の一部を補助するなどの工夫も行っているところでございます。
 一方、新たな事業展開を強力にサポートするため、創業や海外販路開拓、IoTやAI等の設備導入に必要な資金調達にも対応しております。
 今後とも、社会経済状況の変化などに応じながら、経営の下支えと成長の後押しの両面から、中小企業に対する資金繰り支援に万全を期してまいります。
 次に、多摩地域における事業承継への支援についてでございますが、多摩地域の経済や雇用を支える小規模企業が将来においても、地域でその役割を担っていくためには、個々の企業が置かれた状況を踏まえた多様な事業承継支援が必要でございます。
 都は、多摩地域の事業承継を支援する拠点を二カ所にふやし、巡回相談や専門家の派遣を通じまして、個々の事情に応じた支援を重ねますとともに、従業員や社外など第三者への承継に必要なノウハウの提供にも力を入れているところでございます。
 さらに今年度は、後継者不在の事業者と創業希望者、中小企業支援機関等が一堂に会するシンポジウムを開催いたしまして、成功事例の紹介や支援制度の周知、個別相談会を行うことで、具体的な承継に結びつける契機としてまいります。
 こうしたさまざまな切り口による支援を積み重ね、多摩地域の小規模企業の事業承継を後押ししてまいります。
〔戦略政策情報推進本部長松下隆弘君登壇〕

○戦略政策情報推進本部長(松下隆弘君) 二点のご質問にお答えいたします。
 フィンシティー・トーキョーについてでございますが、一般社団法人東京国際金融機構、フィンシティー・トーキョー、これは国際金融都市東京の実現に向けまして、官民の金融関係者が連携しまして、情報発信や企業誘致等を進めるための組織として設立されたものでございまして、今月始動したものでございます。
 この組織のトップは、前日銀副総裁の中曽宏氏でございまして、会員数は、国内主要金融機関、外資系企業、関係団体の参加も得まして、現時点で三十者でございます。
 同組織は、最初の海外プロモーション活動をこの七月上旬にパリで実施するほか、国内外での金融セミナーの開催や海外金融プロモーション組織との交流、連携等の事業を実施する予定でございます。
 都といたしましては、フィンシティー・トーキョーの会員として参画するとともに、事業が円滑に進むよう、今後とも支援を行ってまいります。
 次に、課題解決ツールとしてのソーシャル・インパクト・ボンドの可能性についてでございます。
 ソーシャル・インパクト・ボンドは、行政サービスを民間に委託するなどの際、あらかじめ設定された指標に基づき成果を支払っていく官民連携手法でございます。
 行政の立場から見ますと、サービスの成果を確保しつつ、将来発生する行政コストを軽減できるメリットがあるとされております。
 戦略政策情報推進本部が所管いたします成長戦略の分野などにおきましても、民間事業者との積極的な連携が求められる、そういった領域であることから、課題の内容によっては、その導入が可能であると考えております。
 今後、具体的な課題に取り組む中で、ソーシャル・インパクト・ボンドの導入が有効な分野について、その活用について検討してまいります。
〔建設局長三浦隆君登壇〕

○建設局長(三浦隆君) 立川東大和線のうち、立川三・三・三〇号線の取り組み状況についてでございますが、立川東大和線は、多摩地域における南北方向の主要な幹線道路でございまして、人や物の流れの円滑化のみならず、災害時における物資輸送や救援、救助活動など、広域的な防災性の向上にも寄与いたします極めて重要な路線でございます。
 本年三月には、立川三・三・三〇号線のうち、多摩都市モノレールの泉体育館駅付近から都道一四五号線までの約二・五キロメートルの区間につきまして、都市計画変更案及び環境影響評価書案の地元説明会を開催いたしました。
 今月末から現況測量を実施し、令和三年度の事業化に向けまして、道路設計や関係機関との協議を進めてまいります。
 今後とも、多摩地域の活力と防災性を高める都市計画道路の整備に全力で取り組んでまいります。

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