平成三十一年東京都議会会議録第五号

○議長(尾崎大介君) 九十七番岡本こうき君。
〔九十七番岡本こうき君登壇〕

○九十七番(岡本こうき君) 昨年、第二回定例会で六月に成立した東京都受動喫煙防止条例が、ことし一月一日に第一段階施行を迎えました。また、国の健康増進法は、一月二十四日に第一段階施行を迎えました。その中で、特に都民の責務と配慮義務の点について質疑させていただきます。
 条例第四条一項、都民は、他人に受動喫煙を生じさせることがないよう努めなければならない。第七条一項、何人も、喫煙をする際、受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない。七条二項、多数の者が利用する施設を管理する者は、喫煙場所を定めようとするときは、受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない。
 従来の健康増進法にはなかった新たな規定で、施設や場所を限定せず、また、義務者を限定せず、広く包括的に責務及び義務を規定するもので、重要な意義があります。
 厚生労働省は、屋外や家庭などを対象としたものと説明しています。
 なお、我々が議員提案で制定した、子どもを受動喫煙から守る条例では、都議会自民党だけが、法は家庭に入らずという原則からも納得できませんなどと述べていましたが、国は配慮義務の対象に家庭も含むと明言していますので、都議会自民党がいっていたことはやはり甚だ疑問といわざるを得ません。
 さて、この責務規定、配慮義務規定と密接に関連するもので近年問題となっているのが、近隣住宅受動喫煙トラブルです。昨年三月十四日の予算特別委員会や十一月二十二日の厚生委員会事務事業質疑でも取り上げさせていただきました。
 密接した戸建て住宅でも生じていますが、特にマンション、アパートといった集合住宅では、ベランダ喫煙や換気扇下での喫煙によって、たばこの煙や臭気が周囲の居住者の生活空間にも流入し、トラブルが多数起きています。時には一一〇番通報で警察沙汰になったり、また民事調停や裁判もなされ、ベランダでの喫煙者に損害賠償を命じた確定判決もあります。
 トラブルの未然防止策として、禁煙マンション、禁煙アパートといった選択肢を普及させ、住環境の分煙化を図ることが考えられます。海外では普及しつつありますが、日本はまだまだ少数です。
 今後、都として、住民同士のトラブル防止のため、また、受動喫煙防止及び健康施策として、さらには火災防止のため、禁煙マンション、禁煙アパートの普及を推進していただきたいと考えます。
 まずは都として、禁煙マンションの事例収集をするなどして、必要性やメリットの分析、検討を行っていただきたいと考えます。福祉保健局、都市整備局、関係機関の連携をぜひお願いいたします。
 こうした取り組みの根拠としても、責務規定と配慮義務規定は重要です。
 今後、条例の全面施行に向けて、罰則の定めがある点の周知を図っていくのは当然ですが、既に施行された罰則のない包括的な責務や配慮義務の内容についても、都民に周知を図っていくべきです。どのように取り組んでいくのか、福祉保健局に伺います。
 次に、周知の方法について述べます。
 都は、アンバサダー、健康ファースト大使として、オリンピック金メダリストの高橋尚子さんをポスターや動画に起用しています。せっかくのポスターですが、受動喫煙防止条例の文字は小さく、一見、何のポスターかわかりません。マラソンのポスターかと思ったという声も聞かれます。
 また、十五秒、三十秒の動画に関しても、条例の内容はほとんどわかりません。都民の関心は、条例によって、いつからどのように生活が変化するのかということです。
 ちなみに、昨年九月に条例を制定した千葉市は、十五秒の動画で、二〇二〇年四月以降オフィスや大きな飲食店では原則屋内禁煙、さらに千葉市では小さな飲食店でも従業員がいる場合、原則屋内禁煙、受動喫煙からあなたを守る千葉市という条例の肝部分を端的に伝え、低コストで市民の関心に応える動画を作成しています。
 代表質問でもご答弁いただきましたが、条例の施行時期と内容をわかりやすく知らせるポスターや動画を追加的に作成すべきです。
 高橋Qちゃんには、アンバサダーとして、条例全面施行まで継続的にご協力をいただきたいと思いますが、神奈川県が二〇一〇年の受動喫煙防止条例の施行の際に行ったキャンペーンを参考にしていえば、健康イメージのスポーツ選手に加えて、たばこをやめた著名人も起用して、喫煙者への禁煙の動機づけにつながる啓発も行うべきです。それぞれアピールする層や目的は必ずしも同じではないことから、著名人の起用は、二つのアプローチを同時に行っていくべきと考えます。
 喫煙率を下げることは、受動喫煙を根本的になくすことにつながります。
 国は、がん対策推進基本計画において、平成三十四年度までに成人喫煙率を一二%とすることとしており、都は、東京都がん対策推進計画において、成人喫煙率の目標値を平成三十五年度までの計画期間において一二%としています。
 平成二十九年の喫煙率は一七・七%で、目標値の達成には三割以上の減少が必要です。三割減らすというのは、容易なことではありません。
 喫煙率を減らすことについて、どのように目標値一二%を達成していくのか、具体策を伺います。
 今後、条例の全面施行を機に、喫煙をやめようと決意する方もふえると予想されます。
 喫煙の本質は、ニコチンの依存性にあり、やめたくてもやめられないという性質があります。実は、喫煙する人々のかなりの割合の方々が禁煙願望を持っています。厚生労働省の調査によれば、喫煙者の約六割が、やめたい、または喫煙本数を減らしたいと回答しています。
 我が国は、国策としてたばこを製造販売してきた珍しい国で、平成二十九年十二月八日の一般質問でも述べましたが、政官財の利権構造が存在してきました。しかし、国民の健康を犠牲にし、やめたいのにやめられない依存症罹患者を生み出してきたたばこ政策は、転換すべき時期に来ています。
 都において、受動喫煙防止の施策を一層加速させるとともに、禁煙願望を持つ人々の禁煙、卒煙支援についても引き続き積極的に取り組んでいただくよう要望して、次のテーマに移ります。
 昨年第三回定例会、十月に制定した東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例について伺います。
 都議会自民党だけが反対し、また、今はなきかがやけTokyoが採決に加わらず、他の会派は全て賛成した条例ですが、この条例の制定は、東京二〇二〇大会のレガシーの一つ、人権尊重都市東京の実現に向けた大きな第一歩です。
 まず、ヘイトスピーチに関する公の施設の利用制限の基準について伺います。
 先行する自治体として、川崎市のガイドラインは、不許可、取り消しとする要件を、不当な差別的言動の行われるおそれ、かつ他の利用者に著しく迷惑を及ぼす危険のあることが明白な場合としています。すなわち、言動要件かつ迷惑要件としています。
 他方、京都府、京都市のガイドラインでは、言動要件または管理運営上の支障要件としており、言動要件に該当すれば、それだけで施設の使用を制限できるとしています。
 東京弁護士会人種差別撤廃モデル条例案コンメンタールは、人種差別撤廃条約と二つの最高裁判決を踏まえて、川崎市のような二つ目の迷惑要件は不要としています。
 条例十四条の規定により審査会が設置、開催され、基準案に関し、専門家の意見が割れています。一月に審査会があり、本日午前中もこの審査会、二回目がありました。私も二回とも傍聴させていただきました。
 審査会委員の北村聡子弁護士は、東京弁護士会と同様、迷惑要件は不要と述べています。
 ヘイトスピーチ集会であっても、主催者側が平穏に行いますという限り、東京都は施設利用を許可せざるを得なくなり、オリンピックのホストシティーとしてどうなのかということ。二つ目の要件に該当しなければ、どんなひどい集会をしても開催されてしまい、開催阻止したいマイノリティー側が、かえって毎回騒乱を惹起するような事態を招きかねず、基準のせいでかえって問題が起きるといった発言をしておられます。
 それに対して、憲法の教授や別の弁護士の先生方は、言動要件一つのみにした場合、外交問題や政治的に意味のある表現にまで過度に規制がなされるおそれがあるといった危惧を述べ、二つの要件を立てることに賛成しています。
 私としては、東京弁護士会や北村弁護士が述べるのと同様、川崎市ガイドラインのような著しい迷惑や明白な危険を要件とすることは、問題があると考えています。実際、川崎市人権施策推進協議会の部会長が、ヘイトスピーチが行われるのが明らかでも許可せざるを得ない、仕組み上、大きな矛盾と指摘しています。私としては、川崎市よりも、京都府や東京弁護士会の要件の方が妥当と考えます。
 また、少し別の考え方としては、〔1〕言動要件を充足すれば、〔2〕迷惑要件の該当も推定が働くといった考え方も審査会で言及があり、そのような折衷的な基準や運用も妥当なのではないかと思う次第です。
 法律専門家で意見が割れる法的に難しい基準策定ですが、先ほど述べた審査会委員の懸念事項も踏まえ、基準の策定とその後の運用について、都はどのように対処していくのか、総務局の見解を伺います。
 次に、多様な性の理解の推進について伺います。
 性自認、性的指向に関する基本計画の策定に当たっては、我々が条例成立時の討論で求めたとおり、専門家や当事者などの意見を十分聞いて進めるべきと考えますが、現在の状況及び都の見解を伺います。
 次に、児童相談所についてです。
 先ほど龍円あいり議員からも、児童相談所の常勤弁護士の配置の要望がありましたが、私からも、加えて、そのメリットを述べさせていただきます。
 月二回や週一日程度の非常勤弁護士と、常勤弁護士とでは、弁護士の関与に質的な大きな差があります。
 前者は、職員が相談したいことを相談するための弁護士活用です。児童福祉司が相談したいと特に思っていない内容や、保護しないと決めたケースや見落とした点は、弁護士への相談に上がってきません。相談する、しないの判断が誤っていれば、そもそも相談がなされません。
 他方、常勤弁護士配置は、日常的な関与によってそうした見落としや漏れを減らすことができ、また、断片的な相談ではなく、弁護士が事案の全体像や経緯をより詳しく把握できます。
 我が会派六名で視察に行った福岡市の児童相談所で、次のメリットを聞いてまいりました。
 常勤弁護士の配置によって、事案の当初から事実や証拠収集に関する具体的な指示を行うことができ、より的確な事実認定を行うことができるようになった、職員の法的専門性や子供の権利に対する意識の向上につながった、一時保護所における処遇の改善にもつながった、子供の意見表明の保障を向上させる、親権者からの要求や主張に対して、法的妥当性の確信に基づいて的確な対応を行えることで、職員の精神的な疲弊を減らし、メンタルヘルスの改善にもつながったなど、多くのメリットがあったとのことです。
 弁護士の活用を家庭裁判所の手続や法解釈の相談に限定するのではなく、当事者との面談、家庭訪問への同行、各種会議への出席も含めて、より深くケースに関与できる体制をつくっていくべきです。
 常勤弁護士を配置することは、子供の最善の利益のために大きな意義があることを強く申し上げて、常勤弁護士の配置に関する福祉保健局の見解を伺います。
 以上で終わります。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 岡本こうき議員の一般質問にお答えをいたします。
 私に対しましてのご質問、一問ございました。性自認、性的指向に関する基本計画の策定についてでございます。
 性自認、そして性的指向に関する困り事はさまざまでございまして、課題も埋もれがちでございます。そんなことから、専門家や当事者の方々の声を伺っていくことは重要でございます。
 お話の、いわゆる人権尊重条例でございますが、性自認及び性的指向を理由とする不当な差別の解消並びに啓発等の推進を図るために、基本計画を定めるということといたしておりまして、その策定に当たりましては、都民などから意見を聞くものと定められております。
 現在、都庁各局の施策現場におきまして、どのような配慮が必要なのかなど、個別具体的に課題の抽出を進めておりますとともに、有識者などによります研究成果、当事者ニーズや、ほかの自治体、企業における施策実施状況など、計画策定のための調査も行っております。
 引き続きまして、専門家や当事者等の意見を伺いながら計画の策定を進めて、必要な施策展開を通じ、多様性が尊重され、温かく優しさにあふれて、誰もがあすに夢を持って活躍できる東京、これを実現してまいりたいと考えております。
 その他のご質問につきましては、関係局長からのご答弁とさせていただきます。
〔福祉保健局長内藤淳君登壇〕

○福祉保健局長(内藤淳君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、受動喫煙防止条例の周知についてでありますが、条例を実効性あるものとするためには、都民、事業者、区市町村のご理解、ご協力を得なければならないと考えております。
 都は、昨年六月の条例制定後、その趣旨や規制内容につきまして、広報紙やホームページ、SNS、区市町村や事業者向けの説明会等を通じ、広く都民や事業者に周知するとともに、受動喫煙による健康影響につきましても啓発に努めているところでございます。
 本年一月の都民の責務や喫煙する際の配慮義務等の施行に当たりましては、集中的な広報を行い、積極的に普及啓発を進めております。
 今後も、施行のタイミングなどに合わせたイベントや、条例をわかりやすく解説し、訴求力のある動画なども活用しながら、都民の理解促進を図り、受動喫煙防止対策を一層推進してまいります。
 次に、喫煙率の減少に向けた取り組みについてでありますが、都は、禁煙を希望する方を支援するため、区市町村や医療保険者等を通じましてリーフレットを配布するほか、禁煙治療に保険が適用される医療機関の情報をホームページに掲載してございます。また、未成年者の喫煙防止の啓発のため、ポスターコンクールを実施しているところでもございます。
 今年度は、禁煙外来の医療費等への助成を行う区市町村の取り組みを推進するため、包括補助での支援を開始しており、受動喫煙防止条例の施行に向けた啓発イベント等におきましても、たばこの健康影響について周知しております。
 来年度は、小中高校別に禁煙教育の副教材を新たに作成し、各学校へ配布する予定でございます。
 こうした取り組みを通じまして、今後も、喫煙率の減少を図ってまいります。
 最後に、児童相談所への弁護士の配置についてでありますが、児童相談所が子供を守っていくためには、法的対応等を適切に行う上で、常勤、非常勤のいかんにかかわらず、日常的に弁護士と相談できる体制を確保することは重要であり、都は現在、全ての児童相談所に非常勤弁護士を一名ずつ配置するとともに、副担当となる協力弁護士を、ベテランと若手とを組み合わせて原則二名ずつ登録してございます。
 この非常勤弁護士と協力弁護士が、総勢四十五名の体制で、保護者の意に反した施設入所や親権停止など法的手続への対応を行うほか、児童相談所の求めに応じまして、速やかに専門的な見地からの助言等を行っております。
 今後、法的対応力のさらなる強化に向けまして、他の自治体の取り組み状況や国の動向を見きわめ、児童相談所における弁護士配置のあり方を検討してまいります。
〔総務局長遠藤雅彦君登壇〕

○総務局長(遠藤雅彦君) 人権尊重条例における公の施設の利用制限についてでございますが、公の施設の利用制限の基準につきましては、ヘイトスピーチが行われる蓋然性の高さと、公の施設の安全な管理に支障が生じる事態が予測されるか否かの二つの要件を案として示しまして、現在、審査会の意見も聞きながら検討しているところでございます。
 基準の策定後は、予定されている集会等のテーマ、具体的内容、開催、実施の方法等の諸事情のほか、過去の集会及びその言動など、客観的事実に照らし、個別具体の事案について利用の可否を判断してまいります。
 こうした事前の措置に加え、事後の拡散を防ぐ取り組み及び事案の概要公表など、条例に規定する措置もあわせ、ヘイトスピーチの解消に向けて取り組んでまいります。

○議長(尾崎大介君) この際、議事の都合により、おおむね二十分間休憩いたします。
   午後四時二十八分休憩

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