平成三十年東京都議会会議録第十七号

○副議長(長橋桂一君) 七十一番ひぐちたかあき君。
〔七十一番ひぐちたかあき君登壇〕

○七十一番(ひぐちたかあき君) これからの日本の首都東京には、都市としての総合力、つまり、経済だけではなく豊かな自然をも取り込んだ都市の風格、そして歴史を背景とした厚みのある文化、そのもとで、多彩な活動が展開され、訪れる人々に感動を与えるような都市の総合力が求められています。
 東京の大きな資産である水、そしてまた、地域が本来持っているさまざまな資源を生かし、東京の新たな活力につなげるべく、舟運、親水空間、産業育成、地域資源の活用について質問いたします。
 世界では、水の都市として、ベネチア、アムステルダムなどが知られていますが、東京は実に地形の変化に富んでいるのが特徴です。
 江戸は、多摩川、荒川、利根川の水系、つまり関東一円の水を一点に集めるよう設計されました。特に、玉川上水は、羽村から武蔵野台地の尾根筋を巧みに利用し、東へ流れること四十三キロ、四谷大木戸に到達します。
 つまり、多摩の豊かな水が、武蔵野台地の突端にある江戸城に向けて多くの自然河川と結びつき、田園地帯から内堀、外堀を通り、江戸市中、そして河口部から海へと流れる。江戸東京には雄大な水系ネットワークがあったわけであります。
 地元千代田においては、飯田橋から四谷までほぼ直線上に伸びる外堀というすばらしい水辺空間が残されています。近代までは、多摩の豊かな水が玉川上水として供給され、内堀、外堀と、それぞれ高低差で各堀に循環していく仕組みがありましたが、現在は、ともに閉鎖水系になっています。
 東京の河川や運河は、震災や戦災の瓦れきで埋め立てられ、一九六〇年代には、生活排水や下水道の流入により水質汚濁が深刻になり、また、都市型洪水に備える堤防の設置によって、次第に人々から背を向けられる場所となっていきました。
 水資源を生かす大前提である水質浄化については、市谷堀でも現在取り組んでいるしゅんせつや貯留管の整備などによる改善効果を大いに期待するところです。
 陸の時代に転じた近代には重要性が薄らいできたものの、河川や掘り割りが網目状にめぐっていた東京の都心、下町では、昭和初期までは水の空間、舟運が人々の暮らしの中に生きていました。
 都においては今、舟運の活性化について鋭意取り組まれていますが、こうした歴史的な背景も踏まえれば、舟運を観光だけでなく、今後、日常的な移動手段としても利用できるよう取り組むべきと考えますが、都の見解を伺います。
 地元にも、神田川、日本橋川が流れており、千代田区役所の裏側などには区の防災船着き場が整備されています。現状、平常時に開放されていません。防災船着き場は、被災時の輸送支援はもちろん、災害拠点病院などへのアクセス確保の観点からも大変重要であります。
 こうした区の防災船着き場についても、舟運に活用していくため、平常時にも利用できるよう管理者である区に積極的に働きかけていくべきと考えますが、都の見解を伺います。
 近代以降は、舟運と鉄道の物流が一体化され、秋葉原貨物駅、飯田町駅などは、鉄道と神田川との舟運をつなぐ重要な結節点でありました。これからの時代を考えれば、鉄道、バスに加えて、シェアサイクルの自転車置き場なども含め、自在に結節点を設けることが活性化には不可欠であります。
 しかし、どこに船着き場があるのかわからない人も多くおられるのが現状です。
 そこで、多くの人に舟運を利用してもらうようにするためには、陸上交通と水辺の結節をわかりやすくする船着き場の案内サインなどを充実させるべきと考えますが、都の見解を伺います。
 さて、一九六〇年代後半、高度経済成長のゆがみとして、都市の河川では都市型洪水も多発しました。当時、都は、改めて河川の持つ機能を見直し、治水、利水とともに、親水を重視すべき機能と結論づけました。
 実際、調査によれば、居住地の人口密度が高くなるほど、水辺の開放性に対する期待や評価が高くなる傾向があります。水に親しめる空間は、都市空間の再生のきっかけであり、地域社会形成の強化をもたらすものでもあります。
 例えば、今や全国から人々が訪れる観光スポットとなったお台場海浜公園は、水辺がにぎわう都心部の代表的な空間です。失われた海を都民の手に返すとして、海上公園の第一号として開設されました。
 先日、我が会派の島しょ振興政策研究会が神津島を視察した際、天上山斜面から流れ込む砂で定期船の接岸に支障が生じるため、しゅんせつ工事を実施していると伺いました。
 しゅんせつの結果得られる白砂は、お台場海浜公園でも活用されるすばらしい資源であり、実際に地元からは、恒常的な白砂の活用を要望されたところです。
 このように、都市の魅力ともなる砂浜などの親水空間を積極的に整備すべきと考えますが、都の見解を伺います。
 親水空間など、河川や堀などの景観資源を生かしたまち並みづくりを進めていくことは、東京の魅力を高めていく上で重要であります。地元区市町村と連携し、魅力ある景観形成に向けて取り組んでいくべきであります。
 現在、千代田区と景観行政団体移行に向けた協議を行っているとのことですが、景観行政団体移行の意義について、都の見解を伺います。
 昨日、本定例会の我が会派の代表質問の答弁にもありましたが、日本橋周辺の首都高を地下化し、まちづくりと連携し、都市を再生していく取り組みは大変重要であります。さきの東京オリンピックにおける渋滞緩和の妙案として、また土地取得の容易さから、建設用地の九割以上が、江戸時代に築かれた掘り割りでありました。
 今後、日本橋川の、いわばふたがとれることには大きな意味があります。既に都市計画が決定されたように、歴史的建造物の保存、日本橋船着き場の拡充、親水広場の整備を含めたまちづくりは、首都高のほかのエリアでも応用していくことが考えられ、大きな可能性を秘めているわけであります。
 さて、江戸時代、日本橋は水辺だけが活況を呈していたのではなく、商業そのものが活発、商いの中心地でもありました。そうした歴史的な経緯から、日本橋かいわいは今も製薬企業、医療の中心であり、また、神田川沿いのお茶の水、そして本郷には、医療機器、大学、研究機関が集積しています。水辺の活性化に合わせて、これからの時代を見据えて、新たな成長のために、産業そのものも大いに活性化させなければなりません。
 そこで、東京の集積のメリットを最大限生かすエコシステム形成の皮切りとするため、創薬関連産業の新たなイノベーションを生み出す環境整備を積極的に進めるべきと考えますが、都の見解を伺います。
 水辺に限らず、地域に根差す文化資源の活用も取り組まねばなりません。
 都においては、MICE誘致に鋭意取り組んでいますが、大規模な施設に加えて、成り立ちのあるまち並みや、代々続く老舗の商店、歴史的な建築物などをユニークベニューとして活用することは、まちやその地域の活性化にとりましても極めて重要であります。
 そこで、今後都として、大規模とともに、中小規模も含めたユニークベニュー施設の開発、周知にさらに取り組み、インバウンドへの対応をすべきと考えますが、知事の見解を伺います。
 地域の文化資源の活用でインバウンドを呼び込み、地域の振興につなげるために、外国人や観光客の利便性向上を図ることが必要であります。例えば、地域の文化資源の周囲において、商店街における国際化対応が既にされていますが、キャッシュレス対応は進みが遅いようです。
 都心の商店街においては、需要を取り込むために、さらに拡充、周知に努めるべきと考えますが、都の今後の取り組みを伺います。
 東京のすぐれた資産である水を生かし、また、地域が本来持っているさまざまな資源を生かし、東京の新しい活力、地域の振興につなげるべく、質問を行ってまいりました。
 さて、浮世絵を眺めていますと、江戸の水辺がモチーフになっているものが多々あります。一八五六年に刊行された歌川広重、名所江戸百景、日本橋雪晴では、冬の凛とした空気の中にも、中心には往来にぎわう日本橋を置き、手前に活気あふれる魚河岸、日本橋川には大量の荷を積んだ船、背後に無数の問屋や蔵、奥には雪かぶる江戸城、そして雄大にそびえる富士が描かれています。
 このように、かつての水辺は、人々の暮らしに根づき、社会、経済、文化を通してにぎわいを築いていました。水辺と暮らしが遮断されて久しくたっておりましたが、折しも、日本橋の空を取り戻し、再開発が計画されている中、平成二十九年九月に、二〇四〇年代の目指すべき東京の姿として、都市づくりのグランドデザインが発表されました。
 広重が描いた浮世絵からおよそ二百年がたつころですが、その二〇四〇年代に向けて、東京には、河川や運河など多様な水辺空間があり、こうした水辺を生かしたまちづくりをどのように進めていくのか、最後に知事の見解をお伺いしまして、私の一般質問を終わります。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) ひぐちたかあき議員の一般質問にお答えをいたします。
 まず、ユニークベニューの開発、周知についてのご質問がございました。東京がMICE誘致をめぐる国際的な競争に勝ち抜くには、誘致活動への効果的な支援を展開するとともに、開催地としての魅力を高めていかなければなりません。
 海外におきましては地域の歴史や文化が凝縮された美術館や博物館などで、国際会議のレセプションなどを行うユニークベニューを活用して、競合都市との差別化を図り、競争力の強化につなげているところでございます。
 ちなみに、昨日行われましたノーベル賞の授賞式でございますが、ストックホルムのコンサートホールで行われ、その後行われました晩さん会は、ストックホルムの市庁舎のホールで行われているということを改めて申し上げておきます。
 都におきましては民間施設等に対しまして、ユニークベニューとしての活用を積極的に働きかけて、施設数の拡大に取り組んでおります。今後は国際会議のレセプションが可能な大規模な施設に加えまして、小規模なミーティングにも対応できるような地域に根差した中小の魅力ある施設の開発も進めてまいります。また、ウエブサイトを新たに立ち上げまして、三百六十度画像などによって、これらの施設を効果的に紹介いたしてまいります。
 さらにユニークベニューとしての取り組みを開始、もしくは拡大しようとするような施設におきましては、実際にレセプションなどのショーケースイベントを実施いたしまして、MICEの主催者、施設側双方に施設の具体的な活用方法を示してまいります。これに加えて、発信力や訴求力の高いイベントでの利用なども促進してまいります。
 このように、こうしたさまざまな取り組みを進めるとともに、二〇二〇年に向けて世界の注目が東京に集まる絶好の機会を捉えまして、さらに工夫を重ねながら、ユニークベニューの利用を一層促進してまいります。
 次に、水辺を生かしたまちづくりについてのご質問がございました。
 ご指摘のように、かつて江戸は、水運が経済や人々の生活を支え、水の都として栄えてまいりました。そして今もなお、東京には、川、海、運河など、すばらしい水辺の空間がございます。
 都市生活にゆとりや潤いを創出していくためには、その資源を生かして、多くの人々でにぎわう水の都を再生していくことが重要でございます。
 こうした観点から、まちづくりのさまざまな機会を捉え、水辺に親しめるオープンスペースを確保し、活性化を図っていくなど、水辺に顔を向けたまちづくりを推進してまいります。
 また、区市町村などと連携をいたしまして、公園整備などの機会を捉え、かつての水辺環境も意識しながら、水の流れを感じられる空間の整備を促進してまいります。
 さらに水辺の魅力を都民に実感していただくために、船旅のPRであるとか、新たな航路の開設などによりまして、船を観光や交通の身近な手段として定着させてまいります。橋や護岸のライトアップなどによりまして、夜間の景観にも磨きをかけてまいります。
 こうした取り組みによりまして、東京二〇二〇大会後の二〇四〇年代に向けて、東京の水辺の魅力を高め、その活用をさらに推進してまいります。
 その他のご質問は、関係局長からのご答弁とさせていただきます。
〔都市整備局長佐藤伸朗君登壇〕

○都市整備局長(佐藤伸朗君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、舟運の日常的移動手段としての活用についてでございますが、都は、平成二十八年度から二年間、舟運の活性化に向けた社会実験として、民間事業者と連携し、臨海部と都心を結ぶルートなどで運航を実施いたしました。
 今年度は、認知度の向上に向けたPRなどに取り組むほか、観光に加え、通勤などの日常生活における船の活用方法について検討しております。
 具体的には、船着き場の整備状況や、周辺の公共交通網、開発動向を踏まえ、需要や利便性などの課題を整理し、実現可能性のある航路の抽出などを行います。
 その結果をもとに、今後、新たな航路の創出に向け、事業性の検証などを進めてまいります。
 次に、区が管理する防災船着き場の利用についてでございますが、船による移動の利便性を高めていくためには、より多くの船着き場が利用できるようになることが重要でございます。
 一方、防災船着き場の一般開放の拡大に当たっては、その管理体制や地元の理解などの課題がございます。
 都は、イベントの開催に合わせた臨時便の運航に取り組んでおります。今月末には、昨年度に引き続き、秋葉原と有明を結ぶルートで、ふだんは一般開放されていない和泉橋防災船着き場を管理者である千代田区の協力を得て活用し、運航を実施する予定であります。
 こうした取り組みにより、舟運の利便性や需要などを確認するとともに、課題の解決に向けて関係者との協議を行い、防災船着き場の一般開放が進むよう取り組んでまいります。
 次に、船着き場の案内サインの充実についてでございますが、舟運の利用を促進するためには、利用者の視点に立って、船着き場の利便性を向上させることが重要でございます。
 このため、都は、最寄り駅などから利用者を円滑に船着き場へ誘導できるよう、案内サインの充実に取り組んでおります。
 昨年度から、船着き場のピクトグラムの表示や名称の多言語化を図った案内サインの試験設置を行っております。今年度は六カ所の船着き場を対象に実施しており、設置の効果やルートのわかりやすさ、視認性などを確認いたします。
 今後、この成果を踏まえ、案内サインの効果的な整備に向けて関係者との調整を着実に進め、船着き場の利便性を高めてまいります。
 最後に、景観行政団体移行の意義についてでございますが、景観行政において、都は、広域的観点から方針や基準を定めるとともに、大規模建築物等に係る事前協議制度などを通じて、良好な景観形成に取り組んでおります。
 一方、住民に身近な地域の個性を生かした景観形成をきめ細かく推進する観点から、区市町村が景観行政団体の役割を担うことは重要でございまして、これまでも都との協議が整った区市については順次移行を進めてきております。
 千代田区についても、皇居の緑や水辺と調和した風格のあるまち並み形成など、都の景観計画との整合を図ることなどについて、区の方針が確認できたことから、来年度の移行に向けて協議を行っております。
 今後とも、都は、区などと連携し、首都東京の魅力的な景観づくりを進めてまいります。
〔港湾局長斎藤真人君登壇〕

○港湾局長(斎藤真人君) 親水空間の整備についてでございますが、水辺空間は、地域の憩いの場となるだけでなく、観光資源ともなり得るため、昨年策定した海上公園ビジョンにおきましても、水辺の環境づくりの面から、地域の魅力を高めていくことを、今後の方針に位置づけたところでございます。
 お話にございましたお台場海浜公園では、神津島でしゅんせつした良質な砂を海洋処分せずに再利用しており、同公園の魅力を維持していくため、今年度末にも神津島の砂を活用する予定でございます。
 今後とも、多くの都民に海に親しんでいただけるよう、海上公園の整備を通して、水辺の眺望や自然を生かした親水空間の整備に取り組んでまいります。
〔政策企画局長梶原洋君登壇〕

○政策企画局長(梶原洋君) 創薬関連産業の環境整備に関するご質問にお答えをいたします。
 革新的な医薬品や治療手法の創出は、都民、国民の健康の維持や、健康寿命の延伸に資するとともに、経済の活性化にもつながるものでございます。
 こうした観点に立ちまして、都は今年度から、創薬系ベンチャー育成支援プログラム、ブロックバスタートーキョーを開始し、専門家による指導助言や、投資家等とのマッチングなど、ベンチャー企業等を支援しております。
 お話のように、東京には日本橋を中心とする製薬企業の集積や、本郷、お茶の水を初めとする大学の集積など、多様な主体が集まっております。
 このため、来年度は、その強みを生かし、研究開発を加速させる環境整備に向けた取り組みを検討しているところでございます。
 創薬関連産業のイノベーションを促すためには、エコシステムの形成に向けた環境整備が必要であり、今後とも新たな医薬品や治療手法の創出に向けた取り組みを支援してまいります。
〔産業労働局長藤田裕司君登壇〕

○産業労働局長(藤田裕司君) 商店街でのキャッシュレス決済についてでございますが、東京の商店街において、海外からの観光客の消費をふやすため、キャッシュレスでの支払いを可能とするなど、決済の利便性を高めることは重要でございます。
 都は現在、国際化の推進など、政策課題の解決につながる商店街の取り組みを支援しており、外国人旅行者の消費拡大に向け、スマートフォンを使った支払い等、キャッシュレス決済に対応した設備導入への助成を行っております。
 東京二〇二〇大会の開催等を契機に、海外からの旅行者が商店街で買い物をする環境の充実を図るため、支援事業を紹介するリーフレットの中で、キャッシュレス対応へのサポートについて、これまでにも増してわかりやすく表記する工夫を行いますとともに、説明会等の場を通じて周知に努めてまいります。
 こうしたことを進めながら、商店街の利便性の向上を後押ししてまいります。

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