平成三十年東京都議会会議録第九号

   午後五時二十五分開議

○議長(尾崎大介君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 六十八番増田一郎君。
〔六十八番増田一郎君登壇〕

○六十八番(増田一郎君) 立川市選出の増田一郎と申します。早速質問に入らせていただきます。
 まず、国際金融都市構想について伺います。
 昨年六月まで、私は約二十九年間、国内外の金融機関において、国際金融業務の最先端で仕事をしてまいりました。その間、幾つかの大きな金融危機を経験いたしましたが、とりわけ二〇〇八年九月に発生したリーマンショックは、その規模、影響度が桁違いに大きく、サブプライム商品への投資で巨額の損失を計上した欧米の金融機関が経営体力を失い、それまでアジア本部として東京に置いてきた支店や現地法人を次々と閉鎖し、撤退していきました。
 そのさまは、まさに大きな潮が引いていくようなもので、何千という多くの金融マンが職を失いました。私もその中の一人であり、幸い私はその後、日本の金融機関で再び職を得ることができましたが、その後、すっかりかつての輝きを失い、シンガポールや香港、上海にアジア金融市場の中心的地位を奪われてしまった東京の姿を見るにつけ、誰よりも強く国際金融都市東京の再興を願うものであります。
 金融は本来、産業の裏方的存在ではありますが、金融センターのあるところには、お金だけではなく、さまざまな情報が集まり、人が集まり、必ずそのまちは有形無形の恩恵を受け、そこに住む人々の生活は潤います。そのような見地からも、ぜひこの国際金融都市東京構想を成功させなければなりません。
 昨年十一月に発表された国際金融都市東京構想の中には、二つの大きなキーワードが含まれています。一つは投資運用業、そしてもう一つはフィンテックであります。日本には約千八百兆円もの巨額の個人金融資産があるといわれていますが、その大半が銀行預金や国債などの安全資産で運用され、自宅で眠っているたんす預金も相当の比率を占めているといわれております。
 これらの金融資産をそれぞれのリスク志向に応じた投資商品に導くことは、投資家にとっても、また国や都の経済を活性させるという意味でも大変有意義で、そのために投資機会創出について新たな視点やノウハウを持った資産運用業者を育て、ふやすことは重要であると考えます。
 また、これまでになかった新しいテクノロジーを持って新たな金融業務を創出するフィンテックも非常に大きな可能性を秘めており、新たな技術と意欲を持った新興業者を東京に招き入れることは、東京の経済の活性化、ひいては都民の利益にかなうものと考えます。
 また、新興の投資運用業者やフィンテック企業は、AIの進歩もあって、余り人手を要しない労働生産性の高い業態へと急速に変貌してきており、そのような金融業界の新たな変化を先取りするという観点からも、国際金融都市東京構想を進めることには意義があると考えます。
 そこでまず、そのような変化の中、国際金融都市東京が目指すところについて、知事の所見を伺います。
 外資系金融機関がその拠点をどこに置くかを判断するとき、最も重視されるのが法人税率であります。東京都においては、他のライバル都市、例えば香港、シンガポールと比べて、まだ法人関連税率が高いのが現状です。その軽減策については、国との協議が進められていると理解いたしますが、その現状について伺います。
 国際金融都市東京構想において、外国人高度金融人材を集めることは非常に重要です。日本人には余り知られていませんが、日本に居留した外国人が死亡した場合、自国にある財産も含めて日本の相続税の適用範囲になるということが大きな問題となり、優秀な外国人が日本に来ることへの一つの障害となっておりました。
 このため、国際金融都市東京構想において、国内に駐在する外国人に課される相続税の見直しについて国に働きかけを続けるとあり、実際に平成三十年度税制改正において、その改善がなされたと聞いております。
 そこで、その具体的な内容と外国人からの評価について伺います。
 構想の中で進められている東京版EMP、エマージング・マネジャー・プログラムについて、その目的は、海外から若手の優秀な投資運用マネジャーを招き入れ、開業に必要な資金の一部を補助することと理解いたしております。
 先ほど申し上げたとおり、日本の投資家のために新たな投資機会を創出することは、経済活性化のために重要ですが、それらの投資資金が日本や東京に関係のない海外の投資対象ばかりに向いてしまうのではもったいない気がいたします。
 投資先については、もちろん基本的に投資家自身が選定するものではありますが、都が補助金を出す際には、都内経済が活性化するような工夫が必要であると考えますが、この点について都の所見を伺います。
 次に、東京都が発行する都債の格付について伺います。
 大手の格付機関は、国債や地方債、あるいは社債などの債券の信用力を、一般投資家にわかりやすいように、最上級のトリプルAから破綻状態を示すシングルCまで、九段階の符号で示しております。
 東京都債の格付は、過去には最上位から二番目のダブルAでありましたが、現状においては、それよりも一段低いシングルAとなっております。
 しかし、これは、東京都の財務内容が悪化したことによるものではなく、格付機関がリーマンショック直後に格付方針を保守的に変更し、あらゆる地方債の格付の上限をその国の国債の格付までとするというルール変更を一方的に行ったため、シングルAの日本国債の格付に合わせて、その実力よりも一ランク低くされてしまったものであります。
 これは、国債がデフォルト、すなわち債務不履行を起こせば、その下にある地方自治体も債務不履行を起こすだろうという格付機関側の理論によるものですが、そもそも都は国の地方交付税を受けておらず、国債と比べて起債依存度がはるかに低いなど、その財務内容は国のそれよりもはるかに良好であり、格付機関の論理が東京都に当てはまらないことは明らかであります。
 現在は史上最低水準の金利環境が続き、都債は低利で円滑に発行されていますが、将来、金利上昇局面となった際にも、流動性や安全性を確保し、発行コストを縮減するという観点からも、より高い格付を取得しておくことは重要な意味を持つものであります。
 そこで、都は格付機関に対して、その強固な財政基盤を背景とする健全な財政状況が適切に反映されるよう強くアピールすべきと考えますが、その点についての見解を伺います。
 次に、ソーシャル・インパクト・ボンドについて伺います。
 今後、長期的に見れば、社会保障関係経費の増加と人口減少により、東京都の財政は徐々に逼迫していくことがさまざまな試算で予想されています。これまでの税収、都債、基金という財源にとらわれない、新しい民間資金活用の発想が必要であると考えます。
 その一つの可能性として最近注目されているものに、二〇一〇年に大幅な公費削減を迫られたイギリスで始まり、最近、日本政府も本格検討を始めたソーシャル・インパクト・ボンド、社会的インパクト投資という官民連携の社会的投資モデルがあります。
 背景にあるのは、単に高い利回りを求めるだけではなく、社会的課題の解決による社会貢献、すなわち社会的インパクトを優先し、利潤は二の次でいい、そういう考え方を持った投資家の広がりであります。
 ソーシャル・インパクト・ボンドは、各種ヘルスケア事業やクリーンエネルギー事業、就労支援など、公共性の高い事業に対して、利潤を求めない民間資金を初期投資に活用し、その結果、税コストの節減など一定の成果が確認できた場合に、そのコストセーブ分の一部を報酬として投資家に還元するという仕組みです。既に基礎自治体でも先行事例が出始めております。
 近時、国においても休眠預金口座に眠る資金を活用するなど、ソーシャル・インパクト・ボンド推進に向けた枠組みの準備を進めており、今後、日本においてもソーシャル・インパクト・ボンドを活用した行政サービスが急速に普及する可能性があります。
 そこで、東京都としても、全国自治体での先鞭をつけるという意味でも、今後のソーシャル・インパクト・ボンドの導入の可能性について検討を開始すべきと考えますが、その見解を伺います。
 最後に、都市計画道路立川三・一・三四号線の取り組み状況について伺います。
 私の地元立川市の中心には、国の災害対策本部機能の代替施設と位置づけられている立川広域防災基地があり、首都直下型地震など大規模災害発生時には、国の災害応急対策活動の拠点となることが想定されております。加えて、その周辺には災害医療センター、都の防災倉庫など、災害時の重要中核施設が集中しております。
 震災発生時にこれらの施設の機能をフルに発揮させるためには、立川市の南側を東西に走る中央高速道路方面から、立川市の中心に向けての南北縦方向のアクセス道路の充実を図ることが極めて重要であります。
 現状、中央高速道路方面からこれら中核施設を結ぶ南北縦方向の道路には、青梅線の二つの踏切がかかり、円滑な通行、輸送の妨げとなっております。実際、東日本大震災発生時には、青梅線の電車が踏切近くで停車したため、遮断機が数時間おりたまま交通が寸断されるという事態も発生いたしました。
 平時においても、医療センターに向かう救急車が青梅線の踏切で足どめされることが頻発しており、立川市民、特に青梅線を挟んで南側地域の住民にとって、青梅線との立体交差を含む南北縦方向の道路の整備は長年の悲願となっており、その整備を求める声は日に日に高まっております。
 立川周辺地域における防災性の向上を図り、住民の利便性を向上させるためには、第四次事業化計画の優先整備路線に位置づけられている立川三・一・三四号線を早期に整備することが重要と考えます。
 そこで、立川市内の都市計画道路である立川三・一・三四号線の取り組み状況について伺います。
 結びに、私は財政委員会に所属をしておりますが、都が扱うお金は、都債による調達も基金による運用もいずれも巨額であり、たとえ〇・一%の条件の違いでも、すぐに数千万、数億円単位の違いになってあらわれてまいります。それを負担するのは、最終的に都民であり、引き続き都民ファーストの目線を忘れずに、無駄なコストの排除に心血を注いでまいります。
 そのことをお誓いし、私の質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 増田一郎議員のグローバルかつローカルな質問にお答えをさせていただきます。
 国際金融都市東京についてのご質問でございました。
 東京が世界的な都市間競争を勝ち抜いて、持続的に成長していく、そのためには経済の血液といわれます金融の活性化が必須の要素であることはご指摘のとおりでございます。
 とりわけ少子高齢化社会の到来、イノベーションの進展等の時代の大きな変化の中で、莫大な家計金融資産の有効活用の観点から、資産運用業、そしてまた都民の利便性向上につながるフィンテック企業の育成は、重要な課題であると認識をいたしております。
 このため、東京版EMPの導入、アクセラレータープログラムなど、資産運用業やフィンテックに焦点を当てました施策に取り組むとともに、そうした企業を積極的に海外から誘致する観点から、二〇一七年度から二〇二〇年度までの四年間で、金融系外国企業四十社を目標といたしまして、誘致に取り組んでいるところでございます。
 このような取り組みで、世界中から金融関係の人材、資金、情報、技術、これらの要素が集積する国際金融都市東京を目指していきたいと考えております。さまざまなアイデアをお寄せいただければと思います。
 その他のご質問につきましては、東京都技監及び関係局長が答弁をさせていただきます。
〔東京都技監西倉鉄也君登壇〕

○東京都技監(西倉鉄也君) 立川市内の都市計画道路についてでございますが、立川三・一・三四号線は、首都直下地震など大規模な災害が発生した場合に、災害応急対策活動の中枢拠点となる立川広域防災基地にアクセスするとともに、新奥多摩街道などの主要な幹線道路にも接続するなど、広域的な防災性の向上に寄与する重要な路線でございます。
 本路線の整備に当たりましては、多摩川に向かいまして、高さ約十五メートルの高低差がある地形的な条件のほか、JR青梅線や複数の都市計画道路と交差する計画を考慮する必要がございます。
 現在、昨年度に実施いたしました航空測量の成果を踏まえまして、道路の概略設計を進めております。
 今後、道路構造等の検討を重ねますとともに、関係機関との協議を進めまして、早期事業化に向けて取り組んでまいります。
〔政策企画局長遠藤雅彦君登壇〕

○政策企画局長(遠藤雅彦君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、法人税の軽減についてでございますが、金融に関する税の軽減策は、将来的な税源涵養につながる政策減税の考え方に基づき行われるものと考えております。
 日本の法人税の大宗は国税が占めており、実効性のある引き下げに向けては、国の協力が不可欠です。国に対しては、資産運用業及びフィンテック企業の新規参入促進につながるよう、法人税の軽減を働きかけております。
 具体的には、昨年度から国家戦略特区における所得控除の対象に資産運用業及びフィンテック企業を拡充することを、内閣府に提案しているものでございます。
 今年度も継続して働きかけを進めるとともに、法人税の軽減を含め、海外の金融系企業にとって魅力あるビジネス環境を整備することにより、国際金融都市東京の実現に努めてまいります。
 次に、相続税の見直しについてでございますが、都では、外国人高度金融人材に安心して日本で仕事をしてもらえるよう、日本に長期滞在している外国人に対する相続税の課税要件の見直しを国に対して働きかけてまいりました。
 その結果、平成三十年度税制改正におきまして、日本に長期間住所を有していた外国人が出国後に行った相続については、原則として国外財産を相続税等の課税対象とはしない旨の改正が行われたものでございます。
 この改正は都の要望に沿ったものでございまして、外資系金融機関などからも高い評価を得ているところでございます。
 次に、東京版EMPについてでございますが、東京版EMPは、都が機関投資家に対してインセンティブを与え、新興資産運用業者への資金拠出を後押しする取り組みでございます。
 東京版EMPにおいては、資金が拠出される新興資産運用業者について、都内に法人の設立、または支店を設置することなどの要件を付すことで、雇用の創出や情報システムへの設備投資など、都内経済の活性化につながるような制度設計を行っているところでございます。
 東京版EMPを初めとした施策により、資産運用業の裾野を広げ、業者間の競争を活性化することで、資金を預ける都民やリスクマネーの供給を受ける都内中小企業等に対してメリットをもたらしてまいります。
 最後に、ソーシャル・インパクト・ボンドの今後の導入可能性についてでございますが、ソーシャル・インパクト・ボンドは、行政サービスを民間に委託するなどの際、あらかじめ設定された指標に基づき、成果に応じて対価を支払うものでございます。お話にありましたように、イギリス発祥の手法でございまして、国内でも八王子市などで取り組みが開始されているところでございます。
 この手法は、民間のノウハウと資金を活用した官民連携手法の一つとして注目されており、初期投資を民間資金で賄い、成果が得られれば報酬を支払う仕組みとなっているため、行政にとっては、行政サービスの成果を確保しつつ、将来発生するコストを軽減できるというメリットがあるとされております。
 今後、ソーシャル・インパクト・ボンドの導入に当たって想定される課題等につきまして、調査研究を積極的に進めてまいります。
〔財務局長武市敬君登壇〕

○財務局長(武市敬君) 都債の格付についてでございますが、地方自治体の格付は、我が国の地方税財政制度が中央集権的であることなどを背景に、格付機関の一方的な方針により、お話にございましたように、国の格付が事実上の上限とされております。
 一方、地方自治体の信用力のみに基づくスタンドアローン評価における都債の評価は、国債の格付を上回っております。これは、都財政の健全性が正当に評価された結果でありまして、都債が国内外の投資家に選好される要因の一つであるとともに、地方債市場における安定的かつ最も低利な資金調達の実現に大きく寄与しております。
 今後も、強固で弾力的な財政基盤を堅持するとともに、格付機関との丁寧な対話や投資家へのIR活動を通じまして、都の信用力を強くアピールし、都債の持つ優位性の維持向上に努めてまいります。