平成三十年東京都議会会議録第九号

○議長(尾崎大介君) 五番おじま紘平君。
〔五番おじま紘平君登壇〕

○五番(おじま紘平君) 私の地元練馬区は、昨年で独立七十周年を迎えました。昭和二十二年、特別区として二十三番目に誕生したのが練馬区であります。では、その練馬区が今、基礎自治体として十分に自立をしているか。東京都は広域自治体として十分に機能しているか。私は、区議会議員と都議会議員の両方を経験して、改めて国と都、都と区市町村の分権の重要性を強く感じています。
 知事が都政の最重要課題として取り組んでこられた待機児童施策でありますが、練馬区における認可保育所の設置については、東京都が権限を持っています。練馬区の単独判断では認可保育所を設置できないという事実もあります。しかし、地域によって大きく異なる保育ニーズに対応するには、現場での迅速な判断が極めて重要です。都全体の施策の方向性を踏まえることを前提としながらも、裁量と機動性はもっと現場の自治体にあってもよいのではないかと感じるわけであります。
 住民サービスの原則は、ニア・イズ・ベターであります。現場の自治体の実情を見きわめ、その役割や権限、担うための財源について議論を積み上げることが何より重要です。
 そもそも地方分権においては、社会の変化とニーズにより的確に対応しつつ住民サービスを行っていくため、国から地方へ権限と財源をセットで移譲することが必要不可欠とされてきたはずです。地方の主体性、独自性を担保し、地方分権と地域主権を後押ししていくのは国の役目でもあります。
 一方で、偏在是正を名目とした税制見直しにより、東京が累計六兆円もの財源を奪われている、地方分権に逆行するような現状もあります。
 そこで、まず、地方分権に対する知事の見解を伺います。
 一方で、分権のための議論が役所間の縄張り争いのようになることもまた、都民益とはほど遠いことです。
 昭和二十二年に、日本国憲法とともに地方自治法が施行されて以来、都区間ではさまざまな分権議論がありました。東京が急激な成長を遂げる中で行政がオーバーフローになってしまったこと、一方で、特別区においては自治権拡充運動が盛んに行われてきたことを背景に、福祉事務所や保健所、清掃業務を初め、都から区への権限移譲が順次行われることとなりました。
 このような流れの中で、都区間の協議の場として設置されたのが、都区のあり方検討会であります。課題とされたのは、役割分担と財源配分のあり方でした。五十三項目の事務を区に移管すべきとの結論が出たものの、その具体については、都と区の主張が平行線となり、物別れとなったまま今に至ります。
 そもそもの根幹議論である都区のあり方検討において、双方がテーブルにすらつかない中座状態が六年半も続いているのは、いかがなものか。日本全体では既に人口減少傾向にある中で、二十三区だけは二〇四〇年まで緩やかな増加を続けるというデータもあります。そのような都市独特の環境下に、行政課題がますます複雑化する中で、都区間の連携や役割分担のあり方は重要となるのではないでしょうか。
 そこで、都区制度について、どのような現状と課題を認識した上で、さらに都区制度を都民益に資するものに改革していくのか、都の所見を伺います。
 続いて、二〇二〇改革プランについて伺います。
 都政改革本部が取りまとめた二〇二〇改革プランは、知事が掲げた東京大改革の大きな柱であります。事業単体の見直しを進めるばかりでなく、その運用のあり方そのもの、ひいては都庁組織の構造にも踏み込まんとする姿勢は、都政においてもしばらく見られなかったものです。
 さきの定例会の討論でも申し上げましたが、新しいことを始めようとする際に、少なからず抵抗が生ずるのは常であります。しかし、これは新しい都政を実現するための産みの苦しみであります。何より改革に期待する都民は、その行く末を見ています。
 工業用水道については、廃止の方向で進めることが、知事の所信表明で明らかにされました。さかのぼれば、平成十六年度の包括外部監査で指摘を受けていた事項です。多くの利用者と、庁内でも多くの局にまたがる事業であったことから、議論に時間を要しました。苦慮の末の決断と受けとめています。何かを始めることより、何かをやめることの方が難しく、評価もされにくいものであります。
 一方で、やめた後のことまで責任を持つのが行政です。工業用水道の廃止についても、ユーザーへの影響は申し上げるまでもありません。まずは真摯に、丁寧に説明をしてご理解をいただく中で、いかに影響を和らげるか。特に工業用水ユーザーの場合、業種や使用状況によっては、上水道に転換をした場合に入ってくる塩素の影響が出る可能性もあります。
 では、有識者委員会の提言にあるように、塩素除去装置や逆流防止の受水タンクを設置するのはどうか、使用水量はどうか、敷地面積はどうか、立地条件はどうか。これは、業種あるいは経営規模によっても、本当にそれぞれ違うものだと思います。通り一遍のアンケートでは把握し切れないニーズも必ずあります。これをいかに細かく酌めるかが、ユーザーフォローの鍵であります。
 スムーズな利用転換をお願いするためにも、一件一件を直接訪問し、膝を突き合わせてお話を伺っていく中で状況把握をしていくことが必要と考えますが、都の所見を求めます。
 また、見える化改革の対象ユニットには下水道事業が挙げられ、包括的民間委託やコンセッション方式の活用を検討していくとされています。中でもコンセッション方式は、施設の運営権を官から民に移していくというもので、非常に体力の要る改革です。その分、ほかの自治体からも大いに注目をされております。
 行政の関与の中で行われる事業は、どこまで行っても官業であり、民業のように市場競争にはさらされません。市場原理になじまないものもあります。それ自体のよしあしは別としても、官にも民にもそれぞれ限界があります。しかし、それをどうにもならないものだとして、小手先の経営努力だけを繰り返していても成長はありません。
 二〇二〇改革プランでは、民間活力を積極的に活用していくことも明記をしています。民間でできることは民間に任せることは重要であります。
 そこで、こうした考え方に基づいた改革の展望について、知事の見解を伺います。
 続いて、都市農業と都市農地のあり方について伺います。
 地元練馬区において、農業は区の特徴の一つであり、産業です。二十三区の農地の四割は練馬区にあり、最大の面積を有しています。一方、都市において農地を維持していくのは簡単なことではありません。
 農地所有者の多くは、生産緑地の制度の中で税制上の優遇を受けています。一九九二年に始まった指定の期限は三十年、すなわち、二〇二二年を迎えれば、行政に買い取りを申し出ることが可能になります。
 一方で、買い取り申し出を受けた行政がそれに応えられないとなると、売却するしかありません。土地の供給が過多となれば、地価や家賃相場が下落するリスクがあります。そうなれば、我先にと売り抜けを狙うのも心理です。それを見越してか、私の地元の農家さんにも、連日のようにハウスメーカーが訪ねてきます。
 この二〇二二年問題に対応する策として、特定生産緑地制度が導入されました。指定から三十年を経過した生産緑地でも、十年ごとに指定を更新できるようにしたものです。
 農地が、宅地化すべきものから都市にあるべきものに変わった今、区市において適切にこの特定生産緑地指定が進められることが重要であると考えますが、都の見解を求めます。
 これに関連して、都市農地の貸借の円滑化に関する法律案が、今国会において審議されております。これは、農地法により制限されていた生産緑地の貸借を可能にするものです。この法案が、農業振興や農地保全だけではなく、住民生活の向上に資するかどうかはポイントであります。
 法案の中身を見ますと、賃借を行うスキームの中に、借りる側、つまり農業を行う当人が事業計画を作成し、地元自治体に提出することとなっています。この認定要件の中に、都市農業の機能の発揮に特に資する基準に適合する方法によりとあります。都市農地の本旨に照らし合わせ、農地の持続可能性が担保されるよう、法律運用の中でグリップを効かせることが重要であります。
 この法案を想定しての都の取り組みと、どのように市区町村との連携を行っていくのか伺います。
 また、農地保全に関しては、税制や法制だけでなく、ソフト面の施策も重要です。農地が農地として名実ともに都市にあるべきものと、いかに広く認識をしてもらえるか、都としても知恵を絞っていかなければなりません。
 地元練馬区では、来年に世界都市農業サミットというイベントを控えております。世界的にも希有かつ独特な練馬の農業のあり方を、国内はもとより海外に発信していくというものです。
 都市農業は、まだまだ一般にも認知をされていません。このようなほかの自治体や海外を巻き込んでの取り組みは、都市農業の存在意義を深め、価値を高めるためにも重要なことと考えます。
 都市農業を推進していく立場としての東京都としても、ぜひ練馬区が行う世界都市農業サミットに対して積極的な支援を検討していただきたいと思いますが、都の見解を求めます。
 以上で私の一般質問を終わります。
 ありがとうございました。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) おじま紘平議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、地方分権についてのご質問がございました。
 地方分権というのは、地域の実情に応じて、地方自治体がみずからの判断、そしてその責任において自主的、自立的な行財政運営を行って、個性豊かで活力に満ちた地域社会の実現を目指すものでございます。
 そして、そのためには、地方が地域の課題に自主的に取り組めるように、地方が果たす役割と権限に見合った財源を一体として確保していく必要がございます。
 国は、この間、累次にわたる法改正で、権限と税源の移譲を実施してまいりましたが、そのいずれもが不十分であるとしかいいようがございません。とりわけ昨今は、地方間で税を取り合う、パイの取り合いのような小手先の手法に終始している。そして、自主、自立の活力ある地域社会の創出に寄与していない、全く寄与していないといわざるを得ません。
 東京、そして日本を持続的成長に導くため、そのためには、首都東京が力強い牽引役となって、各地方もみずからの権限と財源をもって地域を活性化させること、それが重要でございます。
 今般、新たに立ち上げました東京と日本の成長を考える検討会での議論も踏まえまして、地方分権と地方財源は一体どうあるべきなのか、真の地方分権を見据えた都の主張をあらゆる機会を捉えて強力に発信をしてまいりたいと考えております。
 次に、民間活力の活用に係る今後の展望についてのご指摘がございました。
 効率性、柔軟性にすぐれた民、公共性や安定性を有する官、この民と官がそれぞれの特徴を生かして知恵を持ち寄って都政を前進させること、それが東京の発展につながっていくものと信じております。
 都はこれまで、民間にできることは民間に委ねるとの原則のもとで、指定管理者制度やPFIの活用など、民間のノウハウを生かして都民サービスを提供してまいりました。
 また、最近では、企業などとの包括連携協定の締結を行ったり、民間事業者から幅広い事業提案を募集するマーケットサウンディングの実施など、新たな取り組みにも着手をしているところでございます。
 現在、都政改革本部で実施をしております見える化改革におきましても、官民の一層の連携に向けて、他の自治体の取り組みも参考にしながら、さまざまな連携手法の活用について、しっかりと検討してまいりたいと考えております。
 残余のご質問は、関係局長からのご答弁とさせていただきます。
〔総務局長多羅尾光睦君登壇〕

○総務局長(多羅尾光睦君) 都と特別区の連携や役割のあり方についてですが、都は、特別区を包含する広域の自治体として、東京全体の活力を維持向上させる役割を担っており、一方、特別区は、基礎自治体として住民に身近な地域の行政サービスを提供しております。
 福祉、防災、環境など、東京が抱える多様な課題の解決には、都と特別区の緊密な連携が必要であり、都と特別区はこれまでも、例えば待機児童対策などの重要課題に連携して取り組んでまいりました。
 今後も、都区制度のもとで、ともに大都市地域の行政を担う都と特別区との一層の連携や適切な役割分担など、お話にもございましたように、今後の時代に的確に対応し得る大都市行政の実現に向けて、実務的な観点から検討をさらに深めてまいります。
〔水道局長中嶋正宏君登壇〕

○水道局長(中嶋正宏君) 工業用水道利用者の状況把握についてでございますが、事業を廃止する場合におきましては、工業用水道利用者の企業活動への影響を最小限にとどめるため、利用者ごとに宅地内の配管状況や上水道に切りかえた場合の影響などを十分に把握することが重要でございます。
 そのため、都ではこれまで、工業用水道を利用する企業を個別に訪問し、使用状況や上水道に切りかえた場合の塩素除去装置の必要性などを聞き取るとともに、局で管理する図面で配管や設備の設置状況などを把握してまいりました。
 今後、改めて個別に訪問いたしまして、切りかえに伴う配管や必要となる設備の設置場所などにつきまして、技術的な視点に基づき調査を行い、きめ細かく把握するなど、利用者の意向も十分に確認しながら、丁寧に対応してまいります。
〔都市整備局長佐藤伸朗君登壇〕

○都市整備局長(佐藤伸朗君) 特定生産緑地制度の活用についてでございますが、東京の都市農地は、環境や防災などの機能を有する貴重な緑の空間であるとともに、大消費地に近接する特性を生かして、付加価値の高い農業生産の場として活用していくことが極めて重要でございます。
 昨年創設された特定生産緑地制度は、指定により、農家の営農継続意向に対応し、買い取りの申し出期間を延長できるとともに、従前と同様の税制が適用されることから、都市農地の保全に大きな効果が期待できます。
 都は既に、区市や農業委員会等と協力し、さまざまな機会を捉えて周知を図っており、今後さらに、農家向けの説明会を開催し、指定のメリットの周知や意向把握等を行っていくなど、農家の方々に丁寧な情報提供を行いながら、特定生産緑地制度を積極的に活用してまいります。
〔産業労働局長藤田裕司君登壇〕

○産業労働局長(藤田裕司君) 二点のご質問にお答えいたします。
 初めに、都市農地の貸借に関する取り組みについてでございますが、今国会で審議中の都市農地の貸借に関する法案は、農地の有効な活用を図り、都市農業の有する機能の発揮を通じて、住民生活の向上に資することを目的としております。
 これまで都は、都市農地の多面的機能の発揮に向け、災害時に生活用水を供給する機能をあわせ持つ農業用井戸や、農業者から農業を楽しく学びながら新鮮な収穫物を得られる農業体験農園の整備等を支援してまいりました。
 貸借された農地におきましても、こうした機能が発揮されるよう、都は、農業会議と連携し、区市や農業委員会に対する制度の趣旨の周知や借り受け者からの相談対応を行ってまいります。
 加えまして、多面的機能の発揮に向け、借り受け者が施設整備等を行う際の経費を助成いたします。
 こうした取り組みにより、貸借された都市農地の適切な利用を進めてまいります。
 次に、世界都市農業サミットへの支援についてでございますが、都市農業振興基本法が成立し、都市農業に対する関心が高まる中、練馬区はこれに先駆け、農業体験農園などの先進的な取り組みを進めてきておりまして、都はこうした取り組みを支援することにより、都市農業の振興を図ってきたところでございます。
 平成三十一年度に練馬区が開催を予定しております世界都市農業サミットは、国内外の関係者が都市における農業の役割や取り組み内容等について、広く議論するものと伺っております。
 このサミットでは、シンポジウムに加え、農業体験等のイベントが予定されており、これらを通じて東京の都市農業の魅力を発信することで、地域住民の理解も促進し、その振興につながることが期待されます。
 今後、サミットの開催を機に、東京の都市農業がより一層活性化するよう、区と連携しながら必要な支援について検討してまいります。