平成三十年東京都議会会議録第九号

○副議長(長橋桂一君) 五十二番三宅正彦君。
〔五十二番三宅正彦君登壇〕
〔副議長退席、議長着席〕

○五十二番(三宅正彦君) 昭和四十三年六月二十六日午前零時、小笠原諸島返還協定が発効し、小笠原諸島全域が日本の施政権下に復帰し、それまで、アメリカ時間で一時間、サマータイムで一時間の計二時間あった本土との時差が日本時間に変更されました。
 真っ青な空に灼熱の太陽が輝く中、父島のアメリカ海軍司令部前の広場で、正午より歴史的な小笠原諸島返還記念式典が始まりました。
 まず、アメリカ大使館のアームストロング政治参事官がジョンソン大統領からのメッセージを代読し、次に、田中総理府総務長官が佐藤総理のメッセージを読み上げました。そして十五分後、アメリカ国歌に合わせて星条旗がおろされ、君が代の演奏とともに日の丸が掲げられました。
 また、硫黄島においても、同日正午に星条旗がおろされ、二十三年ぶりに国旗日の丸が翻り、太平洋で最もすさまじい戦場となった島が日本に返還されました。
 ことしは、それから五十年、記念すべき年です。返還以来、東京都や国は、小笠原住宅建設や超高速ブロードバンドの整備などといったインフラの充実や、観光振興、農業、水産業に対する支援に努めてきました。
 さらに平成二十三年には、世界自然遺産に登録され、世界的に注目されるようになりました。そして、小笠原村民の努力もあり、年々住みやすい島へと発展しているところです。
 しかしながら、小笠原には航空路開設という大きな課題が残されています。これまで、洲崎地区活用案、硫黄島活用案、水上航空機案などがさまざまな角度から検討されてきましたが、返還五十年の記念すべきことしには一定の方向性を示すべき、すなわち、村民の悲願である航空路開設を決断すべきです。知事の所見を伺います。
 次に、父島の都道行文線の整備について伺います。
 島しょ地域の道路は、住民の生活や産業活動を支えるとともに、災害時には避難路となる重要な基盤施設です。しかし父島では、都が発表した被害想定によると、二見湾周辺で最大約十メートルの津波が到達すると予想されています。このような津波が発生すると、中心集落と二見湾の対岸に位置する扇浦地区とが分断されてしまいます。いつ、どこで発生するかわからない巨大地震に伴う津波被害に備え、住民や観光客の迅速な避難を実現するため、防災性の高い道路の整備は喫緊の課題であり、私も行文線の整備を強く要望してきました。
 そこで、都道行文線の整備について取り組み状況を伺います。
 さて、小笠原には忘れてはならない島があります。硫黄島です。いうまでもなく、硫黄島は第二次大戦の最激戦地の一つであり、日米合わせておよそ二万九千人の戦死者が出ました。現在も日本人戦没者の未帰還遺骨は一万柱以上あるといわれており、国による収集帰還への取り組みが行われているところです。
 一方、旧島民について、都では年二回の墓参事業などを行っていますが、昭和十九年の強制疎開以来、返還後も帰島がかなわない状況です。
 そこで、硫黄島の現状について、知事の認識を伺います。
 次に、都立高校についてお聞きします。
 スマートで、目先がきいて、きちょうめん、負けじ魂、これぞ船乗りという言葉があります。一般的には、シーマンシップといわれる言葉であらわされるものです。
 スマートとは、機敏である、身のこなし方がよい、無駄がない、ユーモアがあるなどの感覚をまとめて表現したものです。目先がきくとは、先見の明がある、臨機応変で視野が広い、周囲に対する気配りにすぐれているなどということです。きちょうめんとは、責任観念が旺盛である、他人に迷惑をかけない、物、心両面の用意ができているなどということです。負けじ魂とは、苦しく困難な局面においても任務を投げ出すことなく、全力で最後まで努力しようとする気持ちを表現したものです。
 この標語は船乗りに限らず、私たち社会人が持つべき心構えでもあると思います。
 都立高校の中には、実習船「大島丸」を活用し、海洋教育を実施している唯一無二の学校である都立大島海洋国際高校があります。大島南高校から発展した大島海洋国際高校には、都内各地から、海に興味を抱き、将来、海を舞台に活躍したいと願う志の高い若者が多く集まっています。船を活用した航海実習、寮生活、海洋教育という三つの教育環境を生かし、海や船を素材とした課題を発見、探究し、たくましくも力強く育ち卒業するすばらしい高校となっています。
 そこでまず、大島海洋国際高校のこれまでの取り組みについて、見解を伺います。
 また、大島海洋国際高校の検討委員会の報告書では、単なる国際人の育成ではなく、海洋立国である我が国を支える国際的に活躍できる海洋人材を育成することを目指していくとしています。
 世界第六位ともいわれる排他的経済水域を抱え、その約三八%をこの東京都が有しています。そうした視点からも、世界に通ずる海洋人材の育成を、地に足をつけて確実に実施していくことが重要であると考えます。
 今後、海洋国際教育を充実していくためには、しっかりとした技術を持つ教職員を確保、育成していくことや、最先端の海洋技術を持つ大学などの研究機関との強固な連携などの取り組みを着実に進めていかなければならないと考えますが、所見を伺います。
 島しょ地域の豊かな海に加え、東京が有する魅力ある自然として忘れてはならないのが、多摩地域と島しょ地域に広がる森林です。
 東京には、都の総面積の四割に当たる約八万ヘクタールの森林が広がり、水源の涵養や二酸化炭素の吸収など、都民にとって不可欠の役割を果たしています。この森林を健全な姿で次世代に引き継ぐためには、間伐などの森林整備の促進と木材の利用拡大を図ることが必要であり、その事業を担う林業と木材産業の振興が不可欠です。
 ことしは、森林、林業にとって大きな転換点となる年です。
 国政では、平成三十一年度税制改正により、来年度から森林環境譲与税が市区町村及び都道府県に譲与される予定となっています。
 また、先月二十五日には、国会において森林経営管理法が可決、成立し、来年度より、森林所有者と意欲ある林業経営者間の連携を構築し、林業経営の集積、集約化などを図る新たな森林管理システムが開始されます。
 そうした中、本年十一月には、東京で初めてとなる全国育樹祭が開催されます。この全国育樹祭は、健全で活力ある森林を育て、次世代に引き継いでいくことの大切さを伝える国民的な森林、緑の祭典であり、森林整備や木材利用の機運を高める絶好の機会となります。
 こうした機会を捉え、東京における林業、木材産業の振興を強力に進めることが重要となると思いますが、都の所見をお伺いいたします。
 次に、高齢者施策について伺います。
 都では、ことし三月に、高齢者に係る幅広い施策を総合的に展開していくため、第七期の東京都高齢者保健福祉計画を作成しています。計画は、今年度からの三年間を計画期間とするとともに、団塊の世代が全て七十五歳以上となる七年後を見据えた中長期的な計画となっていますが、介護サービス基盤の整備、介護人材対策の推進、認知症対策の総合的な推進など、七つの分野に重点的に取り組むこととしています。
 これらを着実に実施し、計画の理念である地域で支え合いながら安心して暮らし続けることができる東京の実現に向け、力強い取り組みを行っていくべきと考えます。
 中でも重点分野の一つに位置づけられた認知症対策についてですが、今から七年後には六十五歳以上の六人に一人が認知症になるといわれています。そのような中、認知症対策として、認知症の方々が住みなれた地域で早期に適切な支援を受けられる体制を整備することが重要になると思います。
 平成三十年四月までに、全ての市区町村が、医療、介護の複数の専門職により構成される認知症初期集中支援チームを設置しました。一方で、島しょ地域については、認知症の専門医療を提供できる医療機関や人材の確保は厳しい状況にあります。
 そこで、認知症初期集中支援チームが円滑な活動を行えるよう、島しょ地域を含む市区町村に対し、都はどのような支援を行っていくのか伺います。
 最後に、昨日の代表質問でもお尋ねした受動喫煙防止条例に関して質問いたします。
 条例案では、従業員の有無を判断基準としていますが、都内中小飲食店では、ふだんは親族が手伝い、繁忙期はアルバイトを雇うなど、雇用のあり方は多様かつ流動的です。
 このため、行政が責任を持って継続的に把握し、条例を的確に運用していくのは現実的に極めて困難です。これに比べ、店舗面積は客観的かつ安定的な基準であり、都民にとってわかりやすい基準です。
 そこで、受動喫煙防止という都民生活に直接影響する条例を都が責任を持って運用していくには、店舗面積を基準に据えるべきであり、その上で、従業員の同意を条件に、喫煙か禁煙かを選択できる仕組みとすることで、誰もが納得し、実効性のある条例になると考えますが、知事の所見を伺いまして、質問を終わります。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 三宅正彦議員の一般質問にお答えをいたします。
 まず、小笠原航空路についてのご質問でございました。
 航空路の開設は、島民生活の安定と国境離島であります小笠原諸島の自立的な発展を図る、その上で極めて重要と認識をいたしております。
 私は、知事就任いたしまして、その直後、平成二十八年十月に父島を訪問いたしました。その際に、飛行場の候補地を現地でしっかりと確認をいたしております。自然環境を初め、さまざまな課題があるということも改めて認識をしたことでございます。また、村民の方々の思いも直接伺ったところでございます。
 昨年七月に開催いたしました都と村の航空路協議会におきましては、父島の洲崎地区を活用する案を中心といたしまして検討することといたしております。
 また、それまでの一千二百メートルの滑走路設置案と並行いたしまして、滑走路の長さや位置の検討を行うということを双方で確認いたしまして、現在、諸条件の調査を継続しているところでございます。
 引き続き、調査結果も踏まえまして、自然環境と調和した実現可能な航空路案が取りまとめられますように、国や村などの関係機関と緊密に調整を行いまして、精力的に検討を進めてまいります。
 硫黄島の現状に関する認識についてのご質問でございます。
 昭和四十三年六月、米軍の統治から返還された後、昭和五十九年六月に火山活動や産業の成立条件の厳しさを理由といたしまして、一般住民の定住は困難という政府決定がなされております。旧島民の帰島がそれによってかなわず、今日に至っているということでございます。
 また、いまだ一万柱以上のご遺骨が眠っているということで、国による収集事業が行われているのはご承知のとおりであります。
 このような状況のもとで、旧島民や戦没者の遺族の方々の思いに応えるために、都は、昭和五十四年度から墓参事業、昭和五十八年度から戦没者追悼式を毎年度実施するとともに、父島、母島への定住促進事業を行ってまいりました。
 現在の我々の繁栄が戦没者のとうとい犠牲の上に築かれていること、私は片時も忘れたことはございません。
 知事就任直後の平成二十八年十月、硫黄島を訪問いたしております。その際、都の慰霊施設におきましては、戦没者に対しまして花を手向け、心からの追悼を行ったところでございます。
 依然として火山活動の終息は見られておらず、政府方針は変わってはおりませんが、都としては墓参、そして追悼式を通じまして、硫黄島の歴史を風化させることのないよう努めてまいりたいと存じます。
 受動喫煙防止条例についてのご質問でございます。
 この条例では、みずから受動喫煙を防ぎにくい立場にある従業員を守るために、店舗面積にかかわらず全ての飲食店を原則屋内禁煙とした上で、従業員を使用しない場合には、禁煙か喫煙かを選択可能といたしました。
 従業員の同意を条件に、禁煙か喫煙かを選択できる仕組みをご提案いただいているわけでございますが、従業員は雇用者の方針に反対意見を示すということはなかなか難しいものでございます。昨年九月に実施したパブリックコメントにおきましても、そうしたご意見も頂戴しております。
 また、雇用のあり方というのは、多様かつ流動的だというご指摘でございます。従業員の有無を判断基準とする条例の運用は困難と指摘しながら、その従業員の同意を条件とするということには、むしろ矛盾があるのではないかと存じます。
 現在、保健所におきましては、飲食店の営業許可、そして監視指導を行う中で、管内の飲食店の状況を把握しておりまして、今後、保健所を設置している区市と連携協力をしながら、受動喫煙防止対策、より一層推進してまいりたいと考えております。
 その他のご質問につきましては、教育長、東京都技監及び関係局長からのご答弁とさせていただきます。
〔教育長中井敬三君登壇〕

○教育長(中井敬三君) 都立大島海洋国際高校に関する二点のご質問にお答えいたします。
 まず、大島海洋国際高校のこれまでの取り組みについてでございますが、大島海洋国際高校は、漁業などの水産業従事者を育成してきた大島南高校を、平成十八年四月に改編し、海を通して世界を知るという理念のもと、国際社会に貢献できる人材を育成してまいりました。
 具体的には、実習船「大島丸」を活用した航海実習、留学生の受け入れ、サイパンでの語学研修、寄宿舎での集団生活などの特色ある教育を通じ、自律性や責任感を養うとともに、生徒が希望する大学等への多様な進路実現を果たすなど、一定の成果を上げてきております。
 次に、今後の海洋国際教育の充実についてでございますが、実習船「大島丸」の老朽化への対応や、国が策定する海洋基本計画で、海洋人材の育成が主要項目とされたことなどを踏まえ、昨年十一月に、外部有識者を交えた検討委員会を設置し、大島海洋国際高校のこれからのあり方について議論してまいりました。
 そして、本年三月には、真に国際社会で活躍できる海洋人材を育成していくことなど、今後の方向性を盛り込んだ報告書を取りまとめたところでございます。
 今後、本検討委員会報告をもとに、都立高校改革推進計画の次期実施計画を策定する過程において具体的な充実策を検討してまいります。
〔東京都技監西倉鉄也君登壇〕

○東京都技監(西倉鉄也君) 小笠原村父島の都道行文線の整備についてでございますが、父島では、一たび津波が発生しますと、島内の生命線であります都道湾岸通りが寸断され、集落や避難所が孤立いたしまして、救助、救援活動に大きな支障となります。
 このため、湾岸通りの代替路として高台を通る都道行文線のうち、未開通区間であります奥村地区と清瀬地区の避難所間を結びます約〇・七キロメートルの区間の整備につきまして検討を進めてまいりました。
 本区間のルートや基本構造につきましては、集落からの避難機能はもとより、世界自然遺産であります小笠原の景観や動植物の生態系などを考慮いたしまして、自然環境の専門家を交えた検討会を経て本年四月に定めました。
 今後、環境調査や予備設計を進めまして、命の道となる本路線の早期事業化に向け取り組んでまいります。
〔産業労働局長藤田裕司君登壇〕

○産業労働局長(藤田裕司君) 林業、木材産業の振興についてでございますが、森林環境譲与税等の新たな制度の導入や全国育樹祭の開催を契機として、森林整備や木材利用への都民の関心を高め、林業、木材産業の成長につなげていくことは重要でございます。
 このため、都は、区市町村に多摩産材のモデル的な活用事例を紹介いたしますとともに、その調達方法等の助言を行うなど、譲与税を森林整備の普及啓発や多摩産材の利用拡大に効果的に活用できるよう支援してまいります。
 また、新たな森林管理システムのもとで、意欲ある林業経営者が事業規模を拡大できるよう、高性能林業機械の導入や、担い手の技術力向上に向けた取り組みを支援し、その経営基盤の強化を図ってまいります。
 今後は、多摩・島しょの森林の将来のあるべき姿を育樹祭で発信するなど、都民の森林整備への参加を促し、健全な森林を次世代に継承してまいります。
〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 認知症初期集中支援チームへの支援に関するご質問にお答えをいたします。
 都はこれまで、市区町村が設置する支援チームが円滑に活動できるよう、二次保健医療圏ごとに設置した地域拠点型の認知症疾患医療センターにおいて、訪問支援のノウハウを提供するなどの支援を行っております。
 また、東京都健康長寿医療センターに設置した認知症支援推進センターでは、支援チームの指導的役割を担う認知症サポート医のスキルアップのための研修を行っております。
 今年度からは、構成員である保健師や社会福祉士等の対応力向上のための研修を開始いたしますとともに、専門医の確保が難しい島しょ地域の支援チームに対して、推進センターの医師がチームの一員として、ウエブ会議等を通じて、専門的見地から助言を行うなど、市区町村への支援を充実してまいります。