平成二十九年東京都議会会議録第十六号

○議長(尾崎大介君) 四十八番菅原直志君。
〔四十八番菅原直志君登壇〕

○四十八番(菅原直志君) それでは質問をさせていただきます。
 本日は、がん対策、子供の貧困対策、監察医制度、この三つをテーマに質問させていただきます。
 まずは、がん対策について質問をさせていただきます。
 がん患者は、その病気がわかった途端に、多くの生活する上での課題に直面をいたします。働くこと、小さなお子さんを育てながらの闘病、家族を介護しながらの闘病、お一人で闘病する場合もあります。
 がん患者は、病気と、そして生活、両方と闘っているのだと思うのです。がん対策は、医療面や予防施策がとても大事ですけれども、都道府県のがん対策は、がん患者の生活を支えるという視点が必要と考えています。
 きのうの代表質問とは重複しないよう、幾つかに絞って質問をさせていただきます。
 まずは、がんの患者会、家族会についてです。
 がん相談は、医師などの医療関係者、がん相談支援センターなどで対応しています。その取り組みは評価をしていますが、多様化するがん患者のニーズ全てに対応できるとは限りません。
 がん患者が直面する問題はさまざまありますが、例えば自分自身のがんを家族、特に子供に告知する場合があります。これは経験者同士でなければ共有しにくい問題だと思うのです。
 現在、都内でも幾つかのがん患者会、家族会は、それぞれの個性を大事にしながら活動しています。患者会、家族会は、医療面だけではなく、生活全般の情報交換、家族との向き合い方など、患者が闘う生活を支える役割を担っていると思います。これら患者会、家族会を東京都のがん対策の中で積極的にサポートしていくことが必要だと思いますが、東京都の取り組みを伺います。
 次に、がん教育についてです。
 国民病といわれるがんを理解するために、がん教育を進めることは重要です。文部科学省では、がんの教育総合支援事業の中で、国内二十一カ所の自治体がモデル事業を展開いたしました。その成果報告も読みましたが、おおむね高い評価を受けています。残念なのは、このモデル事業に東京都が参加していないことでした。
 国も、次期学習指導要領にがん教育を明記しました。これからのがん対策は、小学校、中学校からのがん教育が欠かせないと思いますが、東京都のがん教育の現状と今後の取り組みについて伺います。
 次に、本人の希望に沿った終末期医療、みとりについて伺います。
 がんによって三人に一人は命を失います。治療方法がなくなり、みとりの場を考えることを改めて正面から考える時期だと思います。その点での質問です。
 ここで、アメリカとオランダ、日本を比較してみます。それぞれ高齢化率も高く、子供と別居する生活スタイルなども日本と似ている国です。がん患者の病院での死亡は日本が九〇%、アメリカが三七%、オランダは二八%というデータがあります。アメリカとオランダでは、病院以外では、高齢者施設や自宅でのみとりが行われており、おおむね三分の一ずつに分けられます。
 がんという病気は厳しい病気です。患者の人生や生活を大きく変えます。しかし、その反面、どのように治療し生き抜くかを選択できる病気でもあります。がん患者が自分の意思でみとりの場所を選択できる環境を整備していきたいと思うのです。その環境づくりは、成熟した社会への一つのステップではないかと思うのです。
 今までの病院完結型の医療から地域完結型の医療のあり方の議論が始まっています。東京都として、みとりに対しての取り組み、施策展開について伺いたいと思います。
 次に、子供の貧困対策について質問をします。
 まずは子供の貧困について基本的な考え方を確認したいと思います。
 子供の貧困といわれますが、まずは、子供自身が貧困なのではないということです。子供自身は本質的にとても豊かです。貧困なのは子供の周りの環境です。周りの環境は、社会と政治の責任です。
 子供の貧困の問題は、それぞれの家庭の問題で、保護者の選択の結果とする考え方もあります。一義的にはそのとおりですが、プライベートな問題として放置した場合に、日本社会全体に及ぼす影響は、一学年当たり二兆円という日本財団の試算もあります。
 さらに、子供の貧困は、経済的な貧困、社会関係性の貧困、文化の貧困がそれぞれ複雑に作用していると考えられます。経済的に苦しくても、社会的関係性や文化的な背景が豊かであれば、子供たちはどんどん伸びていく。そう考えれば、都が担う施策が見えてくると思います。
 私たちは、子供たちの生きる力を強くするため、可能性を広げるために、環境整備をしなければいけないと思います。それが子供の貧困対策の基本的な考え方だと思うのです。
 その上で、次の質問をいたします。
 昨年度、東京都は、子供の生活実態調査を行いました。この調査でわかったことが幾つかあります。
 まずは、いわゆる貧困率とは違いますが、生活困難層の割合が、小学校五年生では二〇%、十六歳、十七歳では二四%であること。
 生活困窮にある家庭の子供たちは、朝食を食べない割合が高いこと、授業がわからないと感じる子供も多いこと、クラブ活動に参加しにくい環境であること、保護者の健康状態が悪い場合が多いことなどもわかってきました。
 また、せっかくのサービスを知らないままでいる家庭が多くあること、特に、生活困窮世帯やひとり親家庭に行政サービスが届いていないということがわかってまいりました。
 こうした生活実態調査の結果を踏まえ、支援が必要な家庭や子供にサービスを周知することが必要と考えます。
 まずは、この点についての都の取り組みを伺います。
 また、区市町村や民間団体との連携について伺います。
 都内でも、民間団体などが子供食堂や居場所づくり、学習支援などを展開しています。また、これらの事業を区市町村が行政の立場から支えています。これらは、経済的支援だけではなくて、社会関係性や文化を豊かにする事業だと思います。
 都は、こうした区市町村と民間団体が連携した取り組みが進むようにサポートしていくべきと考えますが、見解と取り組みを伺います。
 国の法制化に伴い、都道府県もそれぞれが子供の貧困対策に取り組んでいます。法案の中でも、都道府県が、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定するとしています。
 都道府県の計画は、それぞれ策定しておりますが、少し温度差を感じるんです。神奈川県や千葉県は、子供の貧困対策の計画となっているのですが、東京都は、子供・子育て支援総合計画で進めている点でございます。
 東京都の進め方で、内閣府の子供の貧困に関する指標を通した対策や検証がなされているようには思えません。
 改めて、都は、子供の貧困対策についての計画を策定すべきと考えますが、見解を求めます。
 監察医制度について質問します。
 監察医制度は、戦後のGHQによって法制化されました。戦後の混乱期に、国全体を網羅する仕組みとはならず、大都市に限定された法律で進められ、今もその状況は変わっていません。東京都では二十三区が適用されておりますが、多摩地域では東京都独自の死因究明体制をとってまいりました。
 都内では、年間十一万人が亡くなります。その二割が監察医や検案の対象となっております。つまり、都内で年間に亡くなる二万人以上が対象です。
 人が亡くなった後、その死因を確定することは最後の人権であり、死因究明のための医療は、人間が最後に受ける医療といわれます。また、死因究明によって得られた知見が疾病の予防や治療にも役立てられますので、公衆衛生上も重要な制度でございます。
 しかし、それが、二十三区と多摩地域では別々の仕組みで運用されているため、今回の質問に取り上げました。
 私の住む日野市では、年間の死者数は一千四百人程度、そのうち二百人が検案されています。この死因究明を担う検案医ですが、現在、日野市の検案医はいません。そのため、八王子医師会にお願いをしてきましたが、それも限界となり、現在は東京慈恵会医科大学の協力をいただいています。
 検案医の高齢化により、地域の検案が崩壊の危機にあるのは日野市だけではありません。既に検案医のいない地域は、稲城市、府中市、調布市、三鷹市です。そのほかにも八十歳を超えた検案医が四名おります。
 東京都では、平成二十七年度、推進協議会を設立し、死因究明のあり方についての報告書を作成しました。また、この問題に関する国への提案要求も提出をしています。問題意識は一緒だと思います。
 そこで、次の二点について伺います。
 監察医制度の適用範囲を多摩地域にも拡大する必要があると思いますが、都知事の見解を伺います。
 もう一つ、監察医制度が多摩地域に適用されるまでの対応として、専門性の高い医師による検案体制を確立し、充実を図ることが必要と考えますが、都の取り組みを伺います。
 以上、がん対策、子供の貧困対策、監察医制度についてをそれぞれご答弁いただきたく思います。
 以上で質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 菅原直志議員の一般質問にお答えいたします。
 三点のご質問ですが、私からは監察医制度についてお答えをさせていただきます。
 死因が不明な死体を検案する、そして解剖する監察医を置くべき地域というのは、政令によって、東京二十三区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市と定められているところでございます。そこで、都は、そのための組織として、監察医務院を設置しております。
 政令で定められていないのが多摩地域でございまして、東京都医師会や大学の協力も得ながら、この体制を確保して、特別区と同じレベルで死因を究明できるように環境の整備を進めているところでございます。
 医師が行う検案や解剖というのは、ご指摘のように、人が受ける最後の医療でございます。死因の究明体制は、本来、国が必要な法整備を行って、地域を限定せずに整えることが必要だと考えております。
 都は、監察医制度が都内全域に適用できるように、国に繰り返し求めておりまして、今後も強く働きかけを続けていく所存でございます。
 その他のご質問については、教育長、そして福祉保健局長よりの答弁とさせていただきます。
〔教育長中井敬三君登壇〕

○教育長(中井敬三君) がん教育の取り組みについてお答えいたします。
 児童生徒が、発達段階に応じて、がんやがん患者に対する理解を深めることは極めて重要でございます。
 そのため、都教育委員会は、今年度、がんの種類やその予防、健康と命の大切さなどを学ぶリーフレットを全公立学校に約二十五万部配布いたしました。
 また、現在、がん教育推進協議会を設置して、児童生徒が、がん患者を含めて誰もが暮らしやすい社会などについて考えることができるよう、医師やがん経験者などの外部講師を活用した授業のあり方について研究をしております。
 今後、健康教育に関する研究指定校において、リーフレットや外部講師を効果的に活用したモデル授業を実施し、その成果を普及するなどして、全ての公立学校のがん教育を支援してまいります。
〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 六点のご質問にお答えをいたします。
 まず、がん患者や家族への相談支援についてでありますが、お話のように、がんに罹患した同じ経験を持つ方が行う相談支援や情報の提供、また、患者同士が体験を共有できる患者会などの存在は、患者や家族にとって力強い支えとなっております。
 現在、都内のがん診療連携拠点病院等が設置するがん相談支援センターや患者団体等は、患者や家族が気軽に語り合えるサロンや、がん経験者がみずからの体験を生かした相談を行うピアサポートなどを実施しております。
 都は、こうした取り組みに関する情報をがんポータルサイトにおいて広く提供しており、今後も、がん患者や家族のさまざまな不安や悩みに応える取り組みを支援してまいります。
 次に、地域におけるみとり環境の整備についてでありますが、誰もが住みなれた地域でその人らしく暮らし、希望に沿った最期を迎えられるようにするためには、医師を初め専門職のみとりへの理解を深め、地域における在宅療養体制の整備を進めることが重要でございます。
 そのため、都は昨年度、医師がみとりを実践するために必要な知識等に関する研修のカリキュラムを作成し、ことし八月に第一回の研修を実施いたしました。
 また、年度内に、医師、看護、介護職員、ケアマネジャーなどの多職種を対象に、事例検討などの実践的な研修を実施する予定でございます。今後とも、地域におけるみとり環境の整備に積極的に取り組んでまいります。
 次に、支援が必要な子育て家庭等への施策の周知でありますが、都が昨年度、墨田区、豊島区、調布市、日野市で実施をいたしました子供の生活実態調査では、子供食堂やフードバンクを利用したことがない家庭のうち、生活に困難を抱える家庭の方が、その他の家庭に比べ、その理由として制度等について全く知らなかったと回答した割合が高い結果となっております。
 こうした結果を踏まえまして、都は専任職員を配置して、生活に困窮する子育て家庭等の状況やニーズ等を把握し、関係機関と連携しながら、必要な支援につなぐ取り組みを行う区市町村への支援を今年度開始し、五つの区市が実施をする予定でございます。
 さらに、区市町村と連携して、小学校入学、転入届の提出など、子供の成長の節目や家庭の状況の変化など、さまざまな機会を捉えまして、子育て支援施策の周知を図ってまいります。
 次に、民間団体と連携した子供への支援についてでありますが、現在、区市町村では支援を必要とする子供と家庭に対し、民間団体と連携しながら、居場所づくりや食事の提供、学習支援など、さまざまな取り組みを実施をしております。
 都は、これらの取り組みがさらに進むよう、民間団体の事業立ち上げから運営までの相談支援や、立ち上げの際の初期経費の助成等を行う区市町村を包括補助で支援しております。
 また、首都大学東京と連携して、区市町村向けの研修会を実施し、子供の貧困に関する実態調査の手法や活用方法、食事支援ボランティアの派遣など、先進的な取り組みについて専門的見地からの助言を行うこととしており、今後とも、より多くの区市町村で、民間団体と連携したさまざまな取り組みが進むよう支援をしてまいります。
 次に、子供の貧困対策に係る計画についてでありますが、都は現在、支援が必要な子供や家庭を対象に、子供・子育て支援総合計画に基づき、福祉、教育、就労など、さまざまな分野において支援策を展開をしております。
 今年度は、総合計画の中間の見直しを行うこととしておりまして、見直しに当たりましては、子どもの貧困対策の推進に関する法律に基づく計画としての位置づけを明確にいたしますとともに、子供の居場所づくりや子供の貧困対策に取り組む区市町村への支援、高校生を対象とした給付型奨学金などの事業も新たに盛り込む考えでございます。
 今後とも、区市町村と緊密に連携しながら、必要な対策を総合的に推進してまいります。
 最後に、多摩地域の検案体制についてでありますが、検案医の確保が困難となっている地域のうち、立川警察署管内は監察医務院が、日野、三鷹の各警察署管内については、東京慈恵会医科大学、杏林大学、それぞれの法医学教室が検案を行っております。
 また、都は、多摩地域の検案医の確保や検案の精度向上を図るため、この二つの大学と協力をしまして、症例検討等を取り入れた研修会を昨年度から実施をいたしております。
 さらに、新たな検案医を確保、育成するため、医学生等を対象に法医学への関心を高めるためのセミナーを開催しているほか、今後、区部の大学法医学教室にも、多摩地域の検案業務等への協力を依頼することとしております。
 こうした取り組みを一層進めまして、多摩地域における検案体制の充実を図ってまいります。

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