平成二十八年東京都議会会議録第十三号

○議長(川井しげお君) 四十八番和泉武彦君。
   〔四十八番和泉武彦君登壇〕

○四十八番(和泉武彦君) 現在、オリンピック・パラリンピックに向けた課題や豊洲移転の課題が大きくクローズアップされておりますが、東京都の抱える重要な問題は、ほかにも山積をしております。高齢化社会を迎える中、医療や介護の問題も大変重要な課題であります。
 そこで、私は、在宅医療を行っている医師の経験から、今回、医療及び介護、そして福祉についてのしっかりとした議論をさせていただきたいと思います。
 まずは、健康づくりの推進について伺います。
 人間の究極の願望は、健康であり続けることだと思います。ここにいるどれだけの方々が健康であるかわかりませんけれども、誰もが望んでいることだと思います。
 健康というものは、WHO、世界保健機関の憲章で、ただ疾病や障害がないだけではなく、肉体的、精神的、そして社会的に完全に快適な状態であることと定義づけられております。
 ですから、明らかに疾患があっても、生活を変えなければならない状態でなければ健康といえますし、身体に障害がある場合でも、それが同じ状態で保たれているのであれば、やはり健康といえます。個人が社会生活を営む上でその社会にうまく適応している場合も、これも健康といえます。
 そして、健康の維持は、都民の最大の関心事でもあります。都は、東京都健康推進プラン21に基づき、さまざまな施策を展開してきましたが、今後も都民の生涯にわたる健康維持に必要な取り組みを積極的に行っていくべきと考えます。知事の見解と意気込みについて伺います。
 次に、高齢者の介護予防についてです。
 近年、平均寿命だけではなく、健康寿命の重要性がいわれております。
 私は、かつて学生時代、医師の使命というものは人の寿命を延ばすことなんだ、治療により戦後飛躍的に寿命が延びたのは近代医学の勝利なんだというふうに教わってきました。しかし、今、求められているものは、平均寿命を延ばすことではなく、健康寿命を延ばすことです。
 平均寿命と健康寿命の差とは、簡単にいえば、日常生活に制限があるかどうか、その期間であります。この差を縮めるためには、介護予防、これが極めて重要であります。
 例えば、介護予防に先進的に取り組んでいる自治体では、住民自身が運営する体操の集い、またサロンなどの通いの場を地域に展開し、これを拠点として、人と人とのつながりにより支え合える地域づくり、これを目指しており、大きな成果を上げております。
 この住民運営の通いの場が地域展開していくためには、介護予防に関して幅広い知識と経験を有した専門職の能力を活用することが必要です。高齢者人口の増加に伴い、今後、要介護高齢者、また認知症高齢者のさらなる増加が見込まれる中、区市町村が行う介護予防の人材などの体制整備とともに、住民主体の介護予防の取り組みを都として積極的に支援していくべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、介護の教育について伺います。
 介護が必要となったときに、その人たちを誰が支えていくかということは重要な課題です。家族だけでは支え切れないとき、介護福祉士を初めとする介護の専門家の助けが必要となるため、介護士の充実が必要ですが、現在、待遇改善などの取り組みを積極的に行っているにもかかわらず、介護職は離職が最も多い職種の一つとなっております。
 この離職理由としては、自分が思い描いていた仕事と違った、こんなに大変だとは知らなかった、このような理想と現実の認識のずれが、大きな原因として挙げられます。
 東京は核家族化が進行し、身近に介護を経験せず、介護の現実を知らない人たちがふえているため、この認識のずれを埋めるためには、若いうちから誰もが介護を身近に捉えることのできる環境をつくることが重要です。
 学校教育においては、これまでも介護に関する教育を行ってきましたが、高校生のうちから、さらに介護の現実を知り、介護に関する理解を深めるべきだと思います。ぜひ積極的に推奨していただきたいと思いますが、都教育委員会の所見を伺います。
 次に、がん教育について伺います。
 私が二十五年前、医師になったころは、がんは治らない、苦しんで最期を迎える、誰もがそう思っていた時代でした。だから医師は、患者への告知というものもしませんでした。病棟の末期がん患者の、痛い、何とかしてくれ、このような訴えに、医療関係者は常に無力感にさいなまれながら診療を行っていました。
 時が流れて、現在では、副作用の少ない抗がん剤の開発や術式の確立、緩和ケアにおける薬物や、投与方法が充実しております。また、がんに対するオーダーメード治療を行うことが可能になる時代となってきました。告知も積極的に行い、医師が患者とともにがんに立ち向かう努力をしております。
 しかしながら、がんに対する正確な知識を持たないと、偏見が植えつけられ、もしがんになった場合でも冷静な判断ができず、さらに、患者の気持ちに寄り添うことができません。
 そこで、今後のさらなるがん教育推進に向けた新たな都教育委員会の取り組みについて伺います。
 次に、訪日外国人観光客の医療サポート体制について伺います。
 我々が海外に出かけたときに、行った先で病気になったら、どういう医療を受けられるんだろうか、症状をうまく伝えられるんだろうか、一体お金が幾らかかるんだろうか。多くの漠然とした不安を抱えながら旅行をします。外国人観光客も同じ思いで日本に来ているわけです。そのようなときに、気軽に相談ができる窓口があると安心します。
 東京では、民間だけではなく、都でも、外国人の情報の入手を容易にするための無料のWi-Fi整備を進めており、宿泊施設のカウンターなどでは、コールセンターによるサポートも導入されております。このような施策は、旅行者の満足度の向上にもつながります。
 一方、病気になったときに、自分の病気に合った適切な病院に行けること、そして、行った先で細かなニュアンスを説明できることが大事です。このようなニーズに応えていくことが、今後求められていくと思います。
 そこで、外国人観光客がけがや病気に見舞われるなど困難な状況に直面した際に、その場ですぐにサポートを求めることができるような仕組みづくりが大切になると考えますが、都としての取り組みの考え方について伺います。
 また、救急で診てもらいたいという状態になったときに、救急搬送体制、さらには救急車を呼ぶべきか迷った場合の相談体制などの充実が必要と考えますが、東京消防庁の今後の取り組みについて伺います。
 次に、都立病院のあり方について伺います。
 都立病院は、明治初期に伝染病や精神疾患対策として開院されたのが始まりです。その後、昭和の初めには、医療供給が絶対的に不足していたため、量の確保に重点を置き、総合病院化を図ってきました。
 昭和四十年代に入り、大きく役割を変え、量から質への転換を行い、現在に至っております。
 このように、都立病院の役割は、その時代の社会状況や、医療の需要、供給の変化に応じて、変遷を遂げてきたわけです。
 しかし、今、改めて都立病院のあり方について検討する時期に来ていると思います。今後の都立病院はどのような医療を担っていくのかの見解を伺います。
 最後に、保育サービスの質の向上について伺います。
 ことしの二月に、ブログで、保育園落ちた日本死ねと、この内容が発信されました。いい回しの問題はともかく、内容に関しては共感を覚えた多くの親から支持を集め、社会問題化し、大変衝撃的なものでした。
 こうした中、都は、さきの定例会で我が党の代表質問に対し、夏までに待機児童の解消に向けた対策を取りまとめるという答弁を行い、それを実行され、現在、小池都知事を迎えた今、定例会において百二十六億円に上る補正予算を提出しております。
 示された緊急対策は、保育サービスの拡充を早急に進めるに当たり必要な内容と考えますが、保育サービスは、量の拡充だけではなく、質の確保も重要であることはいうまでもありません。
 例えば、ゼロ歳児は体調が変わりやすく、区市町村では、看護師の配置に対する補助など、さまざまな支援が行われております。保育士がその専門性を高めることに加え、看護師など他の専門職を活用することで、さらに保育の専門性が向上することが期待できると考えます。
 保育サービスの質の向上に向けた取り組みへの支援について、都の所見を伺います。
 保育サービスの整備は、当然、量的な拡充とともに、質の確保もあわせて進めるべきであり、都においては、今回の補正予算案にとどまらず、質の確保、向上に向けてのさらなる施策を充実していただくことを要望いたします。
 冒頭、健康について申し上げました。健康であるというのは、人が人らしく生きていく上で必要なことであります。
 健康の大切さというものは、病気になって初めてわかります。そのため都民が、そして、さらにはこの東京都も健康であり続けるために、自分はもちろんのこと、都知事、また職員を初め全員が思いを一つにして、そしてお互いに歩み寄り、譲るところは譲り、しっかりと議論を交わしながら、健康な都民、そして健康な東京都をつくることを強く要望いたしまして、質問を終わらせていただきます。(拍手)
   〔知事小池百合子君登壇〕

○知事(小池百合子君) 和泉武彦議員の一般質問にお答えいたします。
 健康づくりの取り組みについてのお尋ねがございました。
 年齢を重ねても、いつまでも健康を保つためには、まずは一人一人がそのライフステージに応じて、日ごろから食事、運動、休養などの生活習慣に気をつけていかねばならないと考えております。
 子供の時期であるならば、バランスのとれた食事や発育のための適切な運動、そして質、量ともに十分な睡眠が必要でありましょう。また、働く世代であるならば、暴飲暴食を控え、仕事のストレスをためない、また、健康診断を定期的に受診して、みずから健康管理に努めることも必要であります。
 同時に、学校では発達段階に応じた健康教育、企業では職場環境整備や健康診断、区市町村では地域全体の健康づくりなど、社会全体で支援することも重要と考えております。
 健康づくりは、みずからの人生、そして生活を大切にすることから始まると考えます。私は、この東京からライフワークバランスの取り組みを進めて、関係機関と連携しながら、生涯を通じた健康づくり、そしてそれを支える環境づくりへと取り組んでまいる所存でございます。
   〔教育長中井敬三君登壇〕

○教育長(中井敬三君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、高齢者介護に関する教育についてでございますが、これまで都立高校生は、家庭科の授業において、家庭や社会の果たす役割を初め、家族としての高齢者とのかかわりなどについて、講義や実習等により学んでおります。
 次代を担う若者が高齢者の介護についての理解を深めていくためには、介護の現状や課題などを正しく把握することに加え、介護をみずからの問題として捉えるようにしていくことが重要でございます。
 今後、都教育委員会は、家庭科や新教科、人間と社会等で、生徒が高齢者に寄り添い、思いを受けとめることができるよう、介護体験者の話を聞く機会を設けるとともに、高齢者施設等でのボランティア活動を充実するなど、生徒が主体的に介護にかかわる態度や実践力を育むための教育を推進してまいります。
 次に、がん教育の今後の取り組みについてでございますが、児童生徒が、がんの疾患やがん患者の心情について理解を深め、健康や命の大切さについて主体的に考えることができるようにすることは大変重要でございます。
 これまで都教育委員会は、がん教育について、保健の授業を中心に、健康的な生活の仕方とがんの予防等に関する学習の充実を図るよう、各学校等を指導してきております。
 今後は、区市町村教育委員会や都立学校の校長、教員を対象とした研修等を実施するとともに、文部科学省が今年度作成した、がんについて理解を深めるための教材やガイドラインの周知、活用の促進を図ってまいります。
 また、研究指定校において、これらの教材を活用したモデル授業を新たに実施し、その成果を全ての学校に普及し、学校におけるがん教育を一層推進してまいります。
   〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 二点のご質問にお答えをいたします。
 まず、区市町村が行う介護予防の取り組みへの支援についてでありますが、都はこれまで、介護予防に関する幅広い知識と経験を有し、事業の企画立案や予防機能強化のための実践的な研修等を行う介護予防機能強化支援員を、地域包括支援センター等に配置する区市町村を支援してまいりました。
 また、定期的に体操を実施するなど、住民が主体となって取り組む介護予防に資する地域の場づくりを、国のモデル事業を活用して進めておりまして、これまで九つの区市町に対し、アドバイザーの派遣などの支援を行っております。
 都は、地域のリハビリテーション専門職を対象とした独自の研修により、介護予防を推進する人材の確保、育成にも取り組んでおり、今後とも、住民主体の地域づくりを通じて介護予防に取り組む区市町村を積極的に支援してまいります。
 次に、保育サービスの質の向上に向けた支援についてでありますが、都は、障害児やアレルギー児、外国人児童など、特に配慮が必要な児童に対する保育の充実を図るため、社会福祉法人や株式会社など全ての事業主体を対象に、認可保育所、認証保育所、小規模保育等の多様な保育サービスを幅広く支援する保育サービス推進事業を実施しております。
 また、市町村に対しましては、地域の実情に応じて多様な保育ニーズに対応できるよう、子育て推進交付金により支援をしておりまして、各自治体では、保育の質の向上を図るため、保育所の看護師の配置や、障害児保育に必要な人員の配置への支援など、さまざまな取り組みが行われております。
 今後、看護師等の専門職の活用によるゼロ歳児保育の充実など、区市町村における取り組み事例も紹介しながら、保育サービスの質の向上に向けた取り組みを支援してまいります。
   〔産業労働局長藤田裕司君登壇〕

○産業労働局長(藤田裕司君) 外国人旅行者の緊急時のサポートについてでございますが、海外から東京を訪れる旅行者が、けがや病気など困難な状況に直面した場合でも、意思の疎通を円滑に行い、安心して滞在できる環境を整えることが重要でございます。
 都では、外国人旅行者が言葉の面で不自由なく観光を楽しめるよう、宿泊施設や飲食店、免税店等の事業者を対象といたしまして、接客時にコールセンターが二十四時間体制で多言語通訳を行う仕組みを導入しております。
 今後は、こうした事業者向けサービスの利用内容を検証した上で、医療機関の案内や救急相談等につきましては、関係機関とも連携しつつ、困難に直面した外国人観光客を直接サポートできるよう、コールセンターのさらなる活用を検討いたします。
 これにより、外国人旅行者がより一層安心して観光のできる東京の実現を図ってまいります。
   〔消防総監高橋淳君登壇〕

○消防総監(高橋淳君) 訪日外国人に対する救急搬送体制についてでありますが、東京消防庁では、英語対応にすぐれた救急隊三十六隊を運用しているほか、五カ国語に対応できるコミュニケーション支援ボードを、全救急隊及びポンプ隊に積載し、外国人傷病者への対応を図っております。
 また、救急車を呼ぶべきか迷った場合に、症状を確認し、緊急性の有無や受診の必要性など、訪日外国人にも安心して相談していただけるよう、電話で相談できる救急相談センターとインターネット上で自己判断できる東京版救急受診ガイドについて、医学的見地に基づく多言語対応を検討しております。
 今後とも、外国人に対する救急搬送体制等の充実強化に努めてまいります。
   〔病院経営本部長内藤淳君登壇〕

○病院経営本部長(内藤淳君) 今後の都立病院が担う医療についてでございますが、都立病院は、都民の生命を守る最前線で、日夜、災害医療や輸入感染症への備え、精神科救急、島しょ医療への対応など、行政的医療を基本に他の医療機関では対応しにくい医療に積極的に取り組んでおります。こうした役割は今後とも欠かせないものと認識しております。
 一方、地域医療構想の策定など、地域医療のあり方が大きく変化していく中、各地域の状況に応じまして、都立病院が担うべき医療を見定めるとともに、これまで以上に効率的な病院運営を実現する必要がございます。
 現在、専門家を含めた検討会でその方向性について議論を重ねており、平成三十年度からの次期計画に反映させてまいります。
 今後とも、都立病院が持つ高水準の総合診療基盤を生かし、地域の医療機関との連携を一層深めながら、都民にとって安全・安心な医療の提供に万全を期してまいります。

○議長(川井しげお君) この際、議事の都合により、おおむね十五分間休憩いたします。
   午後三時二十五分休憩

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