平成二十八年東京都議会会議録第四号

○議長(川井しげお君) 七十五番野上ゆきえさん。
   〔七十五番野上ゆきえ君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○七十五番(野上ゆきえ君) 初めに、知事の基本姿勢について伺います。
 平成二十八年度予算案では、堅調な都税収入を背景に、これまでにも増して、ハード、ソフト両面にわたり積極的な施策展開が示されています。
 知事が目指す世界一の東京の実現のためには将来に向けた投資を行っていくことは重要であると考えますが、一方で、都財政を取り巻く社会経済情勢を勘案すると、現在の積極的な施策展開を支えている堅調な都税収入が今後も持続的に確保できるとは限りません。先行きの不透明さを考慮すれば、オリンピックの名のもとに単なるばらまきを行い、後年度に過大な財政負担のみを残すことは厳に慎むべきことです。
 二〇二〇年と、その先の成長につながる取り組みに思い切った投資を行うべきであり、これにより消費を喚起し、地域経済全体の底上げを図り、長期的に自立ができるビジネスモデルやイノベーションを生み出すことができれば、将来、都税収入という形で、その投資は回収できると考えますが、今回、どのような考えに基づいて予算案を編成したのか、知事の見解を伺います。
 知事は過日、新聞のインタビューに答え、尖閣諸島について戦略的な活用を早く決めてもらいたいと国に早期の決断を求められました。今後、十四億円の都尖閣基金の活用に向け、国に対し、どのような働きかけを行っていくのか。
 また、知事は常々、都市外交が国の外交を補完すると述べておられますが、知事の進める都市外交は尖閣基金の活用を後押しするものであるのか、知事の見解を伺います。
 次に、二〇二〇年東京大会における持続可能な大会運営について伺います。
 二〇一二年のロンドン大会では、スクラップ・アンド・ビルドではない持続可能性を目指す大会として運営され、史上最も環境に優しい大会として高い評価を得ました。その大会を支えたのが持続可能なイベント運営、マネジメントシステム規格であるISO二〇一二一です。さらには、来年二〇一七年にISO二〇四〇〇国際規格が発行される予定であり、法、倫理、人権などの社会的責任の観点も含め、大会運営には、将来にわたって持続可能である調達活動が求められています。ロンドン大会から八年を経て開催される二〇二〇年東京大会では、今日的な課題や国際的な水準を踏まえ、ロンドン大会よりもさらに進んだ大会としていくことが求められておりますが、持続可能な大会運営について、どのように取り組んでいくのか、知事の見解を伺います。
 東京大会において懸念することの一つに、食材の調達と提供があります。ロンドン大会では、フードビジョンを制定し、食材の調達について、環境保全の観点からのみならず、フェアトレードなどの社会貢献や多様な文化圏への対応などの取り組みが行われております。さらには、食が心身の健康や運動能力の向上に与える影響を学び、食を選択する力の教育も広く行われております。
 そこで、東京大会における食材提供の基準、東京大会のフードビジョンの策定に向けて、どのように取り組んでいくのか伺います。
 二〇二〇年大会では、食について理解を深める絶好の機会であり、都民一人一人が望ましい食習慣や食に関する自己管理能力を身につけるだけではなく、食文化を理解するなど、食について意識を高めていくことも大切です。大会に向けて、次代を担う子供たちに対して行われている食育に生かしていくべきと考えますが、都教育委員会の見解を伺います。
 大会開催時には、国際基準に合った食材の提供を進めていかなくてはならないと考えておりますが、現状では、国内基準と国際基準に差があるなど、課題は山積しております。
 組織委員会は、選手村の食堂を、和食を世界にアピールする場と位置づけており、国産の食材を使用したい考えを示しています。一方で、認証を受けた国産の食材だけでは十分な量を確保できず、多くの食材を外国産に頼らざるを得ないのではないかとの懸念も出ております。
 ロンドン大会では、英国規格であるレッドトラクター取得の農産物を基本基準とし、さらに意欲的基準として、オーガニックやグローバルギャップなど、有機認証食材であることを条件としていたとのことですが、日本では、認証された有機農産物は全体の一%にも満たない状況です。
 そこで、都は二〇二〇年大会へ向け、安全・安心な都内産農産物の供給に向け、どのように取り組んでいくのか伺います。
 また、安全・安心な食品の提供には、農産物の供給のほかに、食品の製造、加工段階での取り組みも必要です。食材が国を超えて流通するEUでは、食品の製造や加工段階での安全の確保をするため、衛生管理の手法であるHACCPをベースとしたさまざまな国際認証があります。
 こうした国際認証は、海外では食品の取引条件となっておりますが、中小事業者が多くを占める日本では、その取得への取り組みが大変おくれております。東京大会での食材調達の条件にHACCPを前提とした国際認証が求められた場合、国産の食品供給が困難になるのは明らかです。
 東京の特産物でのおもてなしや、東京から日本食、食文化を発信するためにも、今後、大会に向けて、都内での食品の衛生管理の向上を図り、事業者に対する監視指導や事業者による自主管理の推進について、都は区や市と一体となって効果的に取り組むべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、感染症対策について伺います。
 政府は昨年末、訪日外国人観光客を二〇二〇年までに年間三千万人と目標を引き上げました。大会期間中の延べ来場者数は一千万人強と予想されます。
 そこで問題となるのが感染症です。訪日外国人によって、日本人が免疫を持たず、これまで日本国内で疾患例がない感染症が蔓延する可能性もあり、さらには、外国では既に撲滅された感染症を日本から輸出する危険もあります。
 本年リオ大会を控えたブラジルでは、ジカウイルス感染症が流行し、妊婦の感染と胎児の小頭症との関係について、大きな社会問題となっております。
 妊婦が感染すると、胎児に重篤な影響を引き起こす病気には、トキソプラズマ症や風疹など、いわゆるTORCH症候群がありますが、これらの国内で余り知られていない、しかしながら社会的に大きな課題となる病気についての啓発を積極的に進めなくてはなりません。TORCHの中でも、とりわけ風疹は、平成二十四年から二十五年にかけて成人を中心に大流行し、いまだに十分な免疫を持たない人が多くおり、今後、再び大流行するおそれがあります。
 東京大会に向けて、感染症対策を進めることが重要であり、中でもワクチンで予防できる病気として、風疹に関する啓発や予防対策をより積極的に取り組むべきと考えますが、所見を伺います。
 さらに、大会開催に向け、都医学総合研究所もまた、後世に社会的、経済的、文化的に甚大な影響を与える感染症の克服に向け、研究や、その実用化に一層力を発揮すべきと考えます。都からは毎年三十億円を超える補助金が支出されております。
 研究所では、受託研究費など外部資金の獲得に努めてはいるものの、事業収益は都補助金の一割未満となっております。また、研究成果を特許化しておりますが、特許料収入は、平成二十六年度実績で約一千四百万円弱です。
 日本の研究機関の多くの特許は、主に日本出願特許であり、グローバルな事業展開を見据えた知財戦略が不十分なため、実用化につながらないとの課題がありますが、都医学総合研究所も、その課題を克服し、特許につなげ、新しい治療薬の開発に努めるなど、よりわかりやすい形で都民に貢献していくことが求められております。
 そこで、都医学総合研究所では、研究成果の実用化に向け、取り組みをより進めるべきと考えますが、見解を伺います。
 最後に、水素社会の実現に向けた取り組みについて伺います。
 地球温暖化の危機を背景に、昨年COP21が開催され、国際的な新たな枠組みであるパリ協定が締結されました。
 都はこれまで、我が国の地球温暖化対策をリードしてまいりましたが、今後より一層のCO2削減に向けて、水素社会の実現を目指すべきであると考えます。
 今後、二〇二〇年の東京大会を見据え、都内では多くの都市開発が見込まれており、CO2フリー水素が普及し、まちづくりの中で、エネルギーマネジメントやデマンドレスポンスと組み合わせて活用すれば、都市の快適性を損なうことなく、より一層CO2排出量を低減させることも期待できます。
 今後CO2フリー水素の普及に取り組むべきと考えますが、都の見解を伺います。
 水素エネルギーについては、局事業においても積極的に取り入れていく必要があります。
 水道局では、都内の約一%の電力を消費する事業者として、コージェネレーションシステムの導入など、エネルギーの効率化に加え、再生可能エネルギーの導入に努めております。
 先日発表された東京水道イノベーションプロジェクトによれば、水素の製造と活用について、新たに取り組むとしております。
 今後、水素の活用についてどのように進めていくのか伺い、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

○知事(舛添要一君) 野上ゆきえ議員の一般質問にお答えします。
 まず、平成二十八年度予算についてでありますけれども、東京と日本の成長を支え、誰もが夢や希望を持つことのできる社会を実現していく、それが都政をあずかる私の使命であると思っております。
 この使命を果たすとともに、二〇二〇年大会の成功、さらに、その先の東京の成長と、そういう意味での将来に対する投資を今こそ果敢に実行していくべきだと、そういう考えに立って予算編成に当たりました。
 こうした考え方のもとに、例えば非正規雇用対策を初め、誰もが活躍できる環境を整えるための取り組みに積極的に予算を配分した次第であります。
 同時に、やはりシンガポールにいろんな面で負けている。つまり、国際的なビジネス環境の整備、それから、観光の一大産業化のほか、中小企業の成長産業分野への参入支援、これから、日本から、東京から再生をリードしていく、そして新たな富を生み出す、こういう施策をこれまで以上に強く強化したところであります。
 この予算を原動力にして、東京の未来を創造すべく、全力を尽くしてまいります。
 それから、尖閣諸島基金の問題ですけれども、この基金の活用についてですが、尖閣諸島をめぐる外交上の対応については、これはもう国の専管事項であると考えております。
 都はこれまで、基金の活用の方途については、国が決定するように要求をしてきております。
 一方、都市には都市だからこそできる外交がございまして、それを私は、補強外交、補完外交と呼んでるわけですけれども、都市同士が共通する問題の解決や、文化、スポーツなど、さまざまな分野での交流を通じて相互理解を深めることは、都民生活の向上に資するものでありますし、それは結果として、国家間の良好な関係にもつながります。来週には、パリの市長が東京にいらっしゃいます。
 今後とも、都市外交基本戦略に基づきまして、東京都としての都市外交を展開してまいります。
 続きまして、持続可能な大会運営についてご質問がございました。
 ご指摘のようにロンドン大会の持続可能性計画では、人種や文化などの多様性を尊重する社会的一体性とか、それから健康的な暮らしなどのテーマも位置づけられました。環境の分野だけでなくて、社会、経済を含む幅広い観点から、持続可能性の確保に取り組んだ大会であったと私も思っております。
 そこで、我々の東京大会につきましては、現在、組織委員会が持続可能性に配慮した運営計画、この策定を進めております。そこでは気候変動とか資源管理など、環境の側面だけではなくて、人権、労働、公正な事業慣行への配慮など、社会、経済の側面も視野に入れてございます。
 一方、我々東京にとりまして、二〇二〇年大会は、持続可能な環境都市モデルを提案して、成熟都市として、さらに発展するための絶好のチャンスであると思っております。
 昨年末に公表しました二〇二〇年に向けた東京都の取組では、水素社会の実現などの環境対策を初め、多様性を尊重する共生社会づくり、それから東京の経済の活性化など、大会後のレガシーを見据えた政策を掲げてございます。
 引き続き、組織委員会と連携しながら、二〇二〇年の東京大会を持続可能性に配慮した大会として成功に導き、豊かな都市環境を実現していきたいと考えております。
 そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長が答弁をいたします。
   〔教育長中井敬三君登壇〕

○教育長(中井敬三君) 食育とオリンピック・パラリンピック大会についてでございますが、都教育委員会は、これまで児童生徒が食に関する正しい知識と望ましい食習慣を身につけ、健全な食生活を送ることができるよう、食育の取り組みを推進してまいりました。オリンピック・パラリンピックは、世界の文化や環境などを学ぶ教材の宝庫であり、多様な食文化等もその中の一つとなり得るものであると考えております。
 今後、都教育委員会は、オリンピック・パラリンピック教育を進めていく中で、世界の食文化の理解や食を選択する力の育成などにも取り組んでまいります。
   〔オリンピック・パラリンピック準備局長中嶋正宏君登壇〕

○オリンピック・パラリンピック準備局長(中嶋正宏君) 二〇二〇年大会における食材提供についてでございますが、大会期間中、選手村などにおきましては、安全・安心で高品質かつ十分な量の飲食の提供が求められます。ロンドン大会では、大会の約二年半前に、提供する飲食の内容や使用する食材の安全性の基準などにつきまして定めたフードビジョンを策定いたしました。
 二〇二〇年大会の開催基本計画では、組織委員会がIOC、IPCの求める要件や日本国内の基準などに沿って飲食サービスを提供することとしております。
 今後、都も協力しながら、組織委員会におきまして、日本の現状などを踏まえ、飲食サービスの提供等に関する戦略を検討してまいります。
   〔産業労働局長山本隆君登壇〕

○産業労働局長(山本隆君) 二〇二〇年大会への安全・安心な農産物の供給についてでございますが、都では、化学農薬と化学肥料の使用を控えた農産物を認証する独自の制度を創設し、食の安全・安心の確保などに向けた取り組みを推進しております。
 これまでに四百四十二名の農業者が生産する二千六百二十七品目の農産物を認証してまいりました。パンフレットや冊子により、こうした取り組みの普及を図ってまいりましたが、今後新たにSNSを活用するなど、都民への発信を強化してまいります。
 また、二〇二〇年大会を見据え、こうした安全で安心な都内産農産物が大会施設等で提供できるよう、農林水産振興財団に基金を設置し、国際認証等の取得に向けた事業を開始いたします。農業者を対象とした説明会を開催するほか、専門家による助言や取得費用と二〇二〇年までの維持経費を補助いたします。
 二〇二〇年大会での利活用を通じて、安全・安心な農産物の供給を一層拡大してまいります。
   〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 三点のご質問にお答えをいたします。
 まず、食品の安全確保に向けた取り組みについてでありますが、東京を訪れる多くの外国の方々に食を安心して楽しんでいただくためには、衛生管理を徹底し、食品の安全を確保していくことが重要でございます。
 都は現在、食品関係施設に対する一斉監視を特別区等と合同で実施するとともに、その機会を活用し、国際的な衛生管理の手法であるHACCPを周知し、導入を働きかけております。
 また、事業者が段階的にHACCPに取り組めるよう、都独自の自主管理認証制度を設け、その認証取得に向けた講習会を特別区と協力して開催しております。
 今後とも、二〇二〇年のオリンピック・パラリンピック開催都市として、特別区等と連携しながら衛生管理の向上を図り、食品の安全を確保してまいります。
 次に、風疹対策についてでありますが、都は患者の大多数が働く世代であった平成二十四年からの流行を受け、妊娠を予定または希望する女性を対象に、予防接種を抗体検査と一体的に行う区市町村の取り組みを包括補助で支援しております。
 今年度からは、職域における感染症対策を推進するため、東京商工会議所や東京都医師会と連携し、感染症に関する従業員研修や患者発生時の業務継続計画の作成等に取り組む企業への支援を新たに開始いたしました。
 また、ホームページ等で、二十代の女性では、風疹の免疫が十分でない方が約四割であるなど、昨年度の抗体検査の結果をお知らせし、予防接種の必要性等を広く都民に呼びかけており、今後とも、国や関係機関と連携しながら、風疹対策に積極的に取り組んでまいります。
 最後に、東京都医学総合研究所における研究成果の実用化に向けた取り組みについてでありますが、東京都医学総合研究所では、最先端の医学研究の成果を疾患の予防、診断、治療につなげるため、都立病院などの臨床現場や産業界、他の研究機関などと連携を図り、共同研究を実施するとともに、研究成果を知的財産として特許を取得し、実用化の取り組みを促進してまいりました。
 平成二十六年には、インフルエンザの感染を発症早期に診断できる高感度の検査機器を開発したほか、現在、統合失調症やC型肝硬変の新しい治療薬の実用化を目指し、臨床試験を進めております。
 今後とも、実用化につながる研究シーズを企画段階から発掘するなど、研究成果の都民還元に向けた取り組みを進めてまいります。
   〔環境局長遠藤雅彦君登壇〕

○環境局長(遠藤雅彦君) CO2フリー水素の普及についてでございますが、水素は利用の段階で水しか排出せず、化石燃料由来でない水素が普及すれば、低炭素社会の切り札となると期待をされております。
 国の水素・燃料電池戦略ロードマップでは、二〇四〇年ごろに、製造段階でも二酸化炭素を排出しないCO2フリー水素の本格的な活用を見込んでおります。
 都は、昨年公表いたしました水素社会の実現に向けた東京戦略会議の取りまとめにおいて、低炭素な水素の先導的な導入を方針として掲げ、太陽光等の再生可能エネルギーを活用した水素の製造に向けて取り組むこととしております。
 今後とも、さまざまな場面において水素の需要拡大に取り組みながら、民間事業者の技術開発や製造に関する意欲などを喚起し、CO2フリー水素の普及を図ってまいります。
   〔水道局長醍醐勇司君登壇〕

○水道局長(醍醐勇司君) 水道事業における水素の活用についてでありますが、水道局ではこれまで、太陽光発電や小水力発電などの再生可能エネルギーを積極的に導入してまいりましたが、さらに、消毒用塩素の製造過程で発生する副生水素について、その活用が期待できます。
 このため、安全にも配慮した副生水素の効率的な回収方法や、水力発電を初めとした複数の電源の組み合わせによる安定的な水素の製造方法、さらには、非常時を含めた活用のあり方などにつきまして、平成二十八年度から幅広い視点で調査研究を行っていきます。

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