午後五時四十分開議
○議長(川井しげお君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
質問を続行いたします。
五十七番河野ゆりえさん。
〔五十七番河野ゆりえ君登壇〕
○五十七番(河野ゆりえ君) 伝統工芸について質問します。
東京都には、江戸木目込み人形、江戸押し絵羽子板、江戸筆、東京銀器など、現在四十品目が伝統工芸品として指定されています。
東部地域の江戸切り子や多摩の織物など、伝統工芸の集積産地もあります。中でも、新宿区の染物は、京友禅、加賀友禅と並ぶ全国三大産地の一つです。
都は伝統工芸士の認定もしており、名誉都民には、江戸小紋の小宮康孝さん、江戸和竿師の中根喜三郎さんを初め、計八人が選ばれています。
名誉都民で江戸風鈴制作者の篠原儀治さんは、戦地から帰り、焦土となった東京で、まずガラスの破片を集めて瓶をつくり、生活費を捻出しながら、風鈴づくりを復活させました。
伝統工芸の歴史は縄文時代にさかのぼるといわれており、多くの品々が生活の中で生み出されました。伝統工芸はまさに日本の宝、東京の宝です。
ところが今、伝統工芸の多くが深刻な状況に置かれています。
京都府は、二〇〇五年に定めた、伝統と文化のものづくり産業振興条例の前文で、日々の暮らしの中から伝統的な生活文化が失われつつあり、それと密接に結びついてきた伝統と文化のものづくり産業の多くは、存続が危ぶまれるほど厳しい状況にあるとの認識を示しています。
東京でも、このままでは自分の代限りかもしれないという危機感が関係者に広がり、貴重な技術、技法を途絶えさせず、次世代に継承できるよう、懸命の努力が続いています。
伝統的工芸品産業振興法は、伝統的工芸品が、民衆の生活の中で育まれてきたことを重視し、伝統的工芸品の産業の振興を図ることは、国民の生活に豊かさと潤いを与えるとともに地域経済の発展に寄与し、国民経済の健全な発展に資するものだと位置づけています。
知事は、伝統文化と現在の文化が共存している東京独自の文化を世界に発信していくと発言しています。
知事、江戸文化と現在の東京の文化とを結んで発信していく上で、伝統工芸品産業の役割は重要であると考えますが、どう認識していますか。東京の伝統的工芸品産業をめぐる状況について、どう受けとめていますか。都として抜本的な支援を強める必要があると思いますが、いかがですか。
京都府には、民間の大学と連携した職人養成の京都伝統工芸大学校が設立されています。木工、漆、陶芸、彫刻など八分野を学ぶことができます。府立の清水焼などの陶工を養成する高等技術専門学校もあり、全国から学生を受け入れています。清水焼の若手職人のほとんどが技術専門学校の卒業生とのことでした。
金沢市は、卯辰山工芸工房を市が創設し、全国ばかりか海外からも研修生を受け入れています。
佐賀県は有田焼など陶磁器の技術者を養成する県立の大学校を設置しており、福岡県には博多織の養成校があります。
伝統工芸品は手づくり、手作業ですから、制作に当たる人材、職人の後継者を育てることが重要です。都の認識と今後の取り組みを伺います。
金沢市の卯辰山工芸工房では、研修者は授業料無料で、それに加えて月額十万円の奨励金が三年間支給されます。寮に入れば、家賃は月二万円程度です。金沢市は、それ以外にも、伝統工芸の専門的知識や技術を習得しようとする人に月五万円から十二万円まで給付する制度があります。ひとり立ちして工房を開設するときは、経費の二分の一、二百五十万円まで助成し、工房の家賃も半額を二年間助成しています。これらの経済的支援は、収入が少ない若手職人の大きな支えになっています。
人材育成には経済的支援も欠かせません。都としても、研修者への奨励金や、ひとり立ちする人への工房の家賃を助成する制度を検討するよう求めるものです。お答えください。
販路の拡大や後継者育成のために、伝統工芸を知ってもらう、見てもらう場所の確保が大事です。そのため、全国の自治体には、常設の展示館を設けている自治体が数多くあります。三千万人の人口を擁する首都圏のマーケットに注目して、東京への販路拡大に乗り出してきています。
例えば、金沢市には、市内に金沢の伝統工芸を一堂に集めて身近に工芸のわざを感じることのできるアンテナショップがあるほか、東京銀座に伝統工芸の魅力発信拠点が開設されています。
ところが、東京都には、都指定の四十品目を初めとした都内の伝統工芸品をそろえた常設の展示の場がありません。都こそ、首都圏の巨大な市場力を伝統工芸産業の振興に全面的に生かすべきと思いますが、いかがですか。
新宿区落合、中井地域では、ことし七回目を迎えた、染の小道実行委員会主催のイベントが地域に定着し、海外からの観光客も多数訪れています。昨年十月には、高田馬場、早稲田の染色業者が加わったお江戸新宿紺屋めぐりも開催されました。
都として、こうした自治体による伝統工芸の普及啓発の取り組みに対して財政支援をしてはどうですか。
東京発クールジャパンの取り組みの中に、伝統工芸を位置づけていることは重要です。都の中小企業振興公社が伝統工芸の職人やデザイナーを公募し、材料費、試作品の買い取り費用、デザイナー料などを支援して、新しい商品をつくり出す事業です。
デザインの力で伝統工芸に新しい息吹を起こそうとする、今年度から始まったこの事業を、さらに拡充し、発展させていくことが重要だと思いますが、いかがですか。
児童生徒に伝統的工芸品に触れてもらう機会をふやすことも大切です。
墨田区では、社会科の授業で、まちの工房や小さな博物館を訪れています。美しさと機能性を備えた作品に触れた子供たちは目を輝かすそうです。将来、後継者になる可能性も感じると工房の職人さんはいっています。
金沢市では、小学生に加賀友禅のハンカチ染め体験、小学校四年生でミュージアムクルーズ、中学三年生で能の鑑賞などを授業に入れています。
都として、小学校、中学校、高校、特別支援学校の児童生徒が学校教育の場で伝統的工芸に直接触れ、学び、制作を体験できるようにすることが重要だと考えますが、いかがですか。
東京の伝統工芸職人の方々の高い技術によって生み出された品々は、江戸時代以来の歴史があり、伝統文化の一つでもあります。
都が昨年策定した東京文化ビジョンで、東京の独自性の源泉ともいえる伝統文化を次世代に引き継ぎ、発展させていくとしています。東京の伝統文化の魅力を発信するため、文化事業の中で伝統工芸をどのように位置づけて取り組んでいくのですか。
伝統産業が置かれている厳しい現状を打開するために、産業振興だけでなく、文化、教育、観光など、局横断的な政策展開を進めるよう知事に求めておきます。
次に、マンション施策について質問します。
私の住んでいる江戸川区には、一九八一年以前の旧耐震基準のマンションが百八十一棟あり、都内のマンション百六十八万戸の約二割が旧耐震基準で建設のものです。マンションの老朽化対策が課題になっています。
あるマンションでは、給配水管にふぐあいが生じ、緊急性が高い配水管の補修はしたのですが、修繕積立金の不足から給水管の補修には着手できず、水漏れ事故が起きるたびに保険を使って応急対応でしのいでいます。居住者の高齢化で修繕積立金の引き上げも困難です。また、別のマンションでは、給水管、配水管の共有部分と私有部分の区分けが難しいことなどで、修繕の方針が決まらないままです。
都内では、少なくないマンションが、老朽化と居住者の高齢化で維持管理の困難に直面しています。しかし、国の調査では、永住したいというマンション居住者は、二十年前の約三割から、今日では半数を超えているのですから、安心して住み続けたいという願いに支援の手が待たれています。この問題は、いずれ九〇年代以降に建てられたマンションにも押し寄せる課題ですから、行政の支援を手厚くすることは、マンションの維持管理や再生に役立ちます。
東京ではおよそ四世帯に一世帯が居住しており、地域社会を構成する重要な要素となっているマンションの維持管理に果たす行政の役割について、都の認識を伺います。
管理の悩みや、区分所有であることなどから生まれるマンション特有の複雑な問題に心を寄せ、適切な支援をする専門家の役割は重要です。都は、マンション管理アドバイザー制度を設けていますが、利用は低調です。
今後、建物の老朽化や居住者の高齢化が進むマンションの急増が見込まれる中、管理組合による適切な維持管理を支援していくためにも、管理アドバイザー制度の一層の利用促進を図っていく必要があると考えますが、都の認識を伺います。
利用促進のために区市町村が助成制度を創設できるよう、都として支援することが必要ではないですか。
マンションの防災対策も重要です。特に中小規模のマンションでは、地域の町会等に加入しているため、防災資機材の支給は管理組合にありません。行政と管理組合の防災面での直接のパイプをつくっていく必要があります。
管理組合に防災組織をつくること、防災計画づくりのアドバイス、マンション独自の防災訓練の実施、備蓄物資や資機材の支給など、きめ細かい都の支援を求めるものですが、いかがですか。
都は、マンションの耐震化を進めるために、行政職員と専門家がセットになってマンションを訪問し、さまざまな聞き取りを行い相談に乗るマンション啓発隊に取り組んできました。一層の強化が求められていると思いますが、都は今後、マンション啓発隊の活動をどのようにしていくつもりですか。
また、この間の聞き取りの成果をマンション耐震化の促進に役立てることが大切ですが、どのような教訓があり、どのように生かしていくつもりですか。答弁を求め、質問を終わります。(拍手)
〔知事舛添要一君登壇〕
○知事(舛添要一君) 河野ゆりえ議員の一般質問にお答えをいたします。
伝統工芸産業についてでございますけれども、江戸の昔から今日まで受け継がれてまいりました伝統工芸品は、日本人の感性とたくみのわざにより生み出されてまいったものであります。こうした伝統工芸品の普及は、東京の歴史や文化の価値を広く発信することにつながります。
都は、消費者のライフスタイルの変化や大量生産品との競合などの課題を克服し、産業として維持発展できるよう、販路の開拓、それから人材育成などを後押ししてまいりました。
今年度からは、現代的なデザインの商品開発など、新たな市場を切り開く支援にも着手しております。
産業としても、また文化としても価値のあるものづくりの伝統を東京の強みとして、今後ともさらに発展させていく決意でございます。
そのほかの質問につきましては、教育長、東京都技監及び関係局長が答弁をいたします。
〔教育長中井敬三君登壇〕
○教育長(中井敬三君) 伝統工芸に直接触れ、学び、体験する教育についてでありますが、児童生徒が伝統工芸品等に触れたり、制作したりする体験は、日本の伝統や文化について理解するとともに、豊かな感性を育む上で重要であります。
各学校においては、教科や学校行事、部活動等、さまざまな場面で、地域の博物館や美術館等を活用しながら、児童生徒がすぐれた作品を鑑賞したり、専門家から直接指導を受けたりする学習を進めております。
また、都教育委員会は、各学校の取り組みが一層充実するよう、都内の文化施設の企画展や伝統工芸品の展示会等に関する情報の発信や、体験的な学習に関する実践事例を掲載した指導資料の作成、配布等を行っており、今後とも、こうした取り組みを継続してまいります。
〔東京都技監安井順一君登壇〕
○東京都技監(安井順一君) 四点のご質問にお答えいたします。
まず、マンションの維持管理に果たす行政の役割についてでございますが、マンションは私有財産であり、その維持管理は管理組合がみずからの責任で行うことが基本でございます。
一方で、マンションは、まちの構成要素でもあり、まちづくりの推進、コミュニティの活性化、あるいは地域の魅力、防災力の向上とも関係するなど、個人の私的生活の場にとどまらず、社会性を有していると認識してございます。
そのため、適正な管理や再生を促すことは、公共性、公益性の観点からも重要でございます。
次に、マンション管理アドバイザー制度についてでございますが、都は、組合の求めに応じまして、マンション管理に専門的なノウハウを持つ管理アドバイザーを派遣する制度を設けており、これまで同様、制度の利用を促進してまいります。
なお、区市によってはアドバイザー派遣費用への助成を実施しているところもあり、都は、そうした情報も他の自治体に提供しております。
次に、マンションの防災対策についてでございますが、マンションの防災力を高めるためには、管理組合が主体的に対策に取り組むことが重要でございます。
都はこれまでも、管理組合が適正な管理を行うための手順や方法などを取りまとめたガイドラインを策定し、災害に備えて準備しておくべき事項等について普及啓発を図ってまいりました。
今後とも、管理組合による防災対策への取り組みを促してまいります。
最後に、マンション啓発隊についてでございますが、管理組合への個別訪問により耐震化への取り組みを促すマンション啓発隊の活動を通じまして、これまで、耐震化には関心があるものの、合意形成を図る上で費用負担や居住者の高齢化等が課題となっていることが明らかになってございます。
このため、都は、管理組合に対しまして耐震化助成制度等を周知し、その活用を促しており、引き続き普及啓発に取り組んでまいります。
〔産業労働局長山本隆君登壇〕
○産業労働局長(山本隆君) 伝統工芸に関する五点のご質問にお答えをいたします。
まず、伝統工芸の後継者育成についてでありますが、伝統工芸の後継者育成は重要であり、都は、若者が親方のもとで職場体験を行う職人塾を引き続き実施してまいります。
次に、若手職人に対する支援についてでありますが、都は、意欲ある若手職人が新作の工芸品を展示販売する場の提供や商品開発、展示等に関する講習会の開催など、効果的な支援を行うことにより、その成長と自立を促しております。
次に、首都圏の市場力の活用についてでありますが、都は、都心の商業施設で伝統工芸品展を開催するほか、今年度は集客力の高い都内展示会への出展を支援しております。引き続き、効果的な支援に取り組んでまいります。
次に、自治体への支援についてでありますが、都は、伝統工芸品産業を初めとする地域の産業集積の維持発展に取り組む区市町村を支援しており、引き続き着実に実施してまいります。
最後に、商品開発支援についてでありますが、都は今年度から、現代の消費者に受け入れられるような新商品の開発支援に取り組んでおります。来年度も新規の開発を行い、完成後はPRや販路開拓を支援してまいります。
〔生活文化局長多羅尾光睦君登壇〕
○生活文化局長(多羅尾光睦君) 文化事業における伝統工芸の発信についてですが、都は、江戸以来、継承されてきた伝統工芸の魅力を博物館などで紹介しています。
江戸東京博物館においては、江戸の職人たちの手による工芸品を展示し、当時の人々の美意識を伝えております。
また、浜離宮恩賜庭園での東京大茶会において、伝統工芸の実演の機会を設けるなど、その魅力を発信しており、引き続きこのような取り組みを行ってまいります。
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