平成二十七年東京都議会会議録第十七号

   午後三時三十分開議

○議長(川井しげお君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 六十九番和泉武彦君。
〔六十九番和泉武彦君登壇〕

○六十九番(和泉武彦君) 日本人が古来より持っているおもてなしの心は、世界でも独特な日本文化の中で育まれてきたものであり、後世にも引き継いでいくべきものと思います。
 前回の一般質問にて、私は、おもてなしの心の重要性について質問をいたしました。あれから一年が過ぎ、オリンピック・パラリンピックを成功させるために、このおもてなしの心を踏まえたさまざまな施策が展開されています。今後は、さらにおもてなしの心を持った施策を加速度的に前へ進めていかなければなりません。
 今回も、このようなおもてなしの施策を、さらに新たにどのように進めていくべきかについての質問をさせていただきます。
 おもてなしとは、常に相手を思って、何をするべきか考えることから始まります。二〇一二年のロンドン大会が成功したといわれる理由の一つに、パラリンピック大会の成功がありますが、そのパラリンピック大会を日本でも成功させ、さらにその先に見据えるべきは、障害者と彼らの持つ障害というものを理解し、支え合う社会をつくっていくことが重要です。相手を思う、理解することなくしては、真のおもてなしはできません。
 私は、医師としてこれまで多くの障害者と接し、その声を聞いてきました。その中で、まだまだ障害に対する周囲の理解が不足していることを感じるとともに、障害者やその家族の方々は、問題を自分たちだけで抱えてしまい、全てを自分たちで解決しようとしていることを目の当たりにしてきました。
 全ての人々が障害に対する理解を深め、家族の方々の心の凝りをほぐすことが重要であり、パラリンピック大会を成功させることは、そうした状況を打破するための絶好の機会となります。
 先日発表された二〇二〇年に向けた東京都の取り組みの素案に記載されているように、既に都では、パラリンピックの認知度向上などに取り組んでいることは承知しておりますが、競技の紹介など一過性のブームで終わらせてはなりません。
 そこで、パラリンピックを通じた障害者とその障害への理解促進と共生社会の実現に向けて、都はどのように取り組んでいくのか、知事の所見を伺います。
 パラリンピック大会を成功させるためには、障害者スポーツボランティアの面からの取り組みが重要です。首都大学東京健康福祉学部では、理学療法士や看護師など医療専門職を目指す学生が学んでいますが、平成二十五年に開催されたスポーツ祭東京二〇一三の全国障害者スポーツ大会においては、これらの学生が選手団サポートボランティアとして参加しました。また、車椅子バスケットボール日本代表合宿が行われた際にも、ボランティアとして活躍しました。
 こうした医療系の学生や医療従事者が障害者スポーツ支援を行うことは、支援する側にとっても、身につけた専門知識を生かせるというメリットがあるだけではなく、支援を受ける障害者アスリートにとっても、自分の体のこと、障害についてもきちんと理解してもらっているという安心感のもとで支援を受けることができるなど、大変有意義なことであり、二〇二〇年のパラリンピックにおいても、この専門知識を持ったボランティアの活躍が期待されます。
 加えて、パラリンピックを契機に、一般の都民の方にも、障害者スポーツ、さらには先ほども申し上げた障害についての理解促進を図ることにより、障害者アスリートが安心して競技に専念できる環境をつくるべきであります。
 そこで、障害者スポーツに関する教育を充実させ、医療専門職を目指す学生をボランティア人材として育成することや、都民への普及啓発活動など、首都大学東京における今後の取り組みと、その期待される効果について伺います。
 また、オリンピック・パラリンピック大会におけるボランティアには、障害者スポーツだけではなく、さまざまなボランティアがあります。大会運営の一翼を担い、空港、駅、そして観光名所などにおける観光、交通案内などを行うボランティアは、大会を成功させる上で欠かせない存在です。
 この大会には、都内だけではなく全国各地から多くの方々の参加が見込まれますが、彼らが迷うのは、果たしてどんなボランティアができるんだろうか、どうやったらボランティアになれるんだろうか、いつから参加できるのかなどの細かい話であり、そのためには、大会開催に向けたきめ細やかな、都内部だけではなく、都外部も含めたボランティア活動の情報が必要です。
 そこで、二〇二〇年大会に向け、オリンピック・パラリンピックのボランティア活動について、わかりやすく情報発信をしていくべきと考えますが、都の見解を伺います。
 さて、大会に向けた準備と同時進行で考えなければならないことが、観光の振興です。
 ことしの訪日外国人観光客は、既に千九百万人に達する勢いです。外国から初めて東京を訪れた旅行者は、名所や有名な娯楽施設などをめぐって、観光地としての魅力の基本を体感するのが通例です。そこで東京によい印象を持てば、今度は個人として、興味や関心に応じて多くの旅行者がなかなか立ち寄らない地域にも足を延ばすことになり、こうした旅行者がリピーターとなることが期待されます。
 東京には、リピーターの外国人観光客が関心を示すであろう隠れた名所がたくさんあり、彼らに対するきめ細やかなおもてなしの取り組みが必要です。
 今後、外国人旅行者の誘致、とりわけリピーターの誘致を重点的に行うためには、地元の区市町村としっかりと連携して、観光振興を行う地域、その裾野を地道に広げていくことが重要ですが、そうした取り組みへの支援について、都は今後どのように進めていくのか、見解を伺います。
 次に、外国人観光客への受け入れ環境の整備について伺います。
 今後さらに、和室や布団にふなれで、入浴方法も浴槽の中で体を洗うなど、日本と異なる生活文化を持った人たちや、特定の肉を食べない場合や野菜しか口にしないなど、食習慣の違いがある人たちがたくさん訪れるようになります。そうした私たちと異なる文化や習慣をしっかりと正しく理解をして、彼らに滞在時の快適な環境を提供することが本当のおもてなしにつながります。
 そのためには、各国の文化や食生活、マナーなどの特性を具体的に分析し、その結果を宿泊施設の環境整備に生かしていくべきです。
 そうした視点から、都ではどのような対応を進めていくのかお伺いします。
 さて、オリンピック・パラリンピックの開催が五十六年ぶりであることを考えると、改めて、将来を担う子供たちにとって、そのことがどんなに貴重で得がたい経験となるか、想像もつきません。
 東京を訪れる方々に対して、真心のこもったおもてなしを実践するには、相手への気遣いや礼節など、子供たちが日本人の心を育むことが必要です。
 日本人の心とは、例えば茶道や華道、能、狂言などの伝統的な文化における礼儀作法、立ち居振る舞いはもちろんのこと、アニメーションなどの新しい文化の中にも、日本人特有の価値観や道徳観、自然への畏怖の念などさまざまな形であらわれており、子供たちが日本の伝統や文化を学ぶことは極めて重要であると思います。
 これまでも都教育委員会は、伝統文化に関する教育を進めてまいりました。
 そこで、改めて、学校教育において我が国や郷土の伝統文化に関する教育を推進する意義について伺います。
 また、教科書や本を読んで知識を習得するだけではなく、伝統文化の学習を、教室の中だけではなく、実際に見たり触れたりする体験型にして、豊かな感性をフル稼働し、最大限の学習効果を上げるべきです。
 例えば、プロの実演家の演技を見ることで、子供たちは、わざのすばらしさや一つ一つの動きの緊張感を味わうとともに、作品に対する憧れを抱き、さらに深く理解しようとする意欲を高め、新たな発想を広げていきます。
 また、専門家の指導を直接受けることにより、作品自体のすばらしさだけでなく、完成に至るまでの過程や作品に込められた作者の思いなどを直接聞くことができます。
 こうしたことが日本の伝統文化を真に理解することにつながり、ひいては日本人の心を十分理解し、海外の方々へのおもてなしにつながると考えます。
 そこで、我が国や郷土の伝統文化を理解する上で、子供たちがその道の専門家から直接指導を受けたり、実際に鑑賞したりするなどの体験に学ぶ機会を充実させることが有効であると考えますが、都教育委員会の見解を伺います。
 私は、医師として今まで、病気から世界中の人たちを救うための研究を行ってきました。そして、一人一人の病にかかった人たちの診療も行ってまいりました。患者さんのさまざまな訴えに向き合って、病で困った人たちの悩みも聞いてまいりました。
 最近の医療というものは、エビデンス・ベースド・メディシン、EBMと呼ばれる、証拠に基づいた治療のみがともすると実施されます。
 しかしながら、データのみで診療を行うと、患者の状態を見過ごしたり、診断に大きな落とし穴がある可能性があります。
 実は、治療のヒントというものは、患者さんが話をした何げない言葉に隠されていることが多く、その声を聞き漏らしてはならず、それにより、きめ細やかなアドバイスをすることができ、患者にとって満足のいく医療が受けられます。これこそが、まさにおもてなしの心につながります。
 これは都政運営でも同じで、我々も、そして都の職員の方々も、都民の小さな声を一つ一つ聞いて、それを検討、調整し、そして都民へきめ細やかく対応するために、おもてなしの心を持って接するべきだということを申し上げ、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
〔知事舛添要一君登壇〕

○知事(舛添要一君) 和泉武彦議員の一般質問にお答えいたします。
 パラリンピックを通じた共生社会の実現についてでありますが、東京は、世界で初めて二回目のパラリンピックを開催する都市となります。
 パラリンピックは、障害のある人もない人も、誰もがその能力を生かして、みずからの行動を決し、そして夢を追い続けることができる社会へと変革していく大きな力があります。
 パラリンピックとその先を見据え、障害者スポーツの振興、誰もが芸術文化を享受できる環境づくり、教育やボランティア活動を通じた障害者への理解促進などにより、支援や配慮を必要としている人に手を差し伸べ、社会全体で支える心のバリアフリーを実現してまいります。
 また、大会に向けて策定しますアクセシビリティ・ガイドラインを踏まえて、全ての人に優しいユニバーサルデザインのまちづくりの一層の推進につなげるとともに、ICTを利用した情報面のバリアフリーなどを推進してまいります。
 こうしたハード、ソフト両面の取り組みを全力で進め、大会を通じて、障害のある人もない人も互いに尊重し、支え合う共生社会を実現してまいります。
 そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長が答弁をいたします。
〔教育長中井敬三君登壇〕

○教育長(中井敬三君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、伝統文化に関する教育の意義についてでございますが、児童生徒が、将来国際社会で活躍するためには、我が国の歴史や文化を理解し、日本人としての自覚と誇りを高めることが極めて重要であります。
 そのため、都教育委員会は、学校において系統的、計画的な指導ができるよう、伝統文化に関するカリキュラムの開発や教材集の作成、配布に加え、都立高校における日本史の必修化等の取り組みを推進してまいりました。
 今後、全公立学校で展開するオリンピック・パラリンピック教育などを通して、児童生徒が、我が国や郷土の伝統文化の価値とともに、世界に誇る最先端の技術など、現代の日本のすばらしさについても理解を深め、世界に発信できるようにするなど、伝統文化に関する教育の充実を図ってまいります。
 次に、伝統文化を体験的に学ぶ機会の充実についてでございますが、児童生徒が我が国や郷土の伝統文化への理解を深め、豊かな感性や創造性を高めるためには、専門家等の外部人材から指導を受けたり、すぐれた作品や演技を鑑賞したりする体験が重要であります。
 そのため、都教育委員会は、専門的な知識や技能を有する外部人材を活用した取り組みを推進するとともに、効果的な実践事例を掲載した指導資料を作成、配布するなど、各学校における体験活動が充実するよう支援してまいりました。
 今後、区市町村教育委員会や学校と連携し、外部人材を活用した取り組みをさらに拡大するとともに、都立高校生が在学中に一度は伝統芸能を鑑賞できる機会を確保するなど、児童生徒が伝統文化に直接触れ、感動を味わう体験的な学習を一層充実させてまいります。
〔総務局長中西充君登壇〕

○総務局長(中西充君) 首都大学東京における障害者スポーツの支援についてでございます。
 大学が障害者スポーツの理解促進、裾野拡大に取り組むことは、医療専門職を目指す学生に対する高い教育効果も期待できる重要な取り組みでございます。
 健康福祉学部は、今年度からカリキュラムを充実させ、初級障害者スポーツ指導員の資格取得認定校となりました。今後、医療や障害に関する専門知識などを学んだ学生が新たに資格を取得し、地域の方々とともにボランティアとして活動することが可能となります。
 また、バリアフリー化する体育館を活用し、アスリートによる都民対象の講習会など、普及啓発活動も予定しております。
 これらの取り組みを通じて障害に関する都民の理解を深め、障害者スポーツの環境改善にもつながることが期待されます。
 都は引き続き、首都大学東京の取り組みを支援してまいります。
〔オリンピック・パラリンピック準備局長中嶋正宏君登壇〕

○オリンピック・パラリンピック準備局長(中嶋正宏君) 二〇二〇年大会のボランティアについてでございますが、幅広い年齢層の多くの方々にボランティアに参加していただくためには、その機運を醸成し、裾野の拡大を図っていくことが重要でございます。
 このため、都では本年九月に、官民さまざまな関係団体で構成される東京都ボランティア活動推進協議会を設立いたしました。来月下旬には、協議会の協力を得ながら、オリンピアンやパラリンピアン、ボランティア経験者を招いたシンポジウムを開催し、ボランティアの魅力を発信してまいります。
 また、今年度末までには、大会のボランティアに関する情報を取りまとめたポータルサイトを立ち上げ、ボランティア活動の内容や、行政はもとより、さまざまな民間団体の取り組みを広く紹介するなど、きめ細かい情報発信を行うことで、ボランティアの参加を促進してまいります。
〔産業労働局長山本隆君登壇〕

○産業労働局長(山本隆君) 二点のご質問にお答えをいたします。
 まず、地域の観光振興についてでございますが、東京の各地域が海外からの旅行者の誘致のため、地元の自治体と協力し、観光資源の新たな開発に向けた機運を高め、その効果的な実現を図ることは重要でございます。
 これまで都は、地域の観光関連の団体が持つ旅行者の誘致につながる提案を、民間のノウハウを用いて実現する取り組みを行ってまいりました。
 今後は、地域の団体が区市町村との協力を強め、外国人旅行者の来訪を重視した観光資源の開発を行う場合への支援の充実を検討いたします。また、そうした事例が都内で幅広く進むように、地域で初めて企画に着手する取り組みへの後押しの充実の検討も行ってまいります。
 これにより、外国人の旅行者の誘客に向けた地域ごとの取り組みの裾野を広げ、東京の観光振興策の効果を高めてまいります。
 次に、外国人観光客の文化や習慣への対応についてでございます。
 世界から東京を訪れるさまざまな観光客に対して、文化や習慣等に十分な理解と配慮をした対応を図ることは重要でございます。
 都は、外国人観光客について、習慣の違いから宿泊施設で生じた課題などを踏まえ、我が国の生活上のルールを多言語で説明する取り組み例を民間事業者に紹介してまいりました。また、昨年度は、日本の文化への理解や関心の程度を国別に把握する調査も実施をいたしました。
 今後、海外からの観光客の食や生活習慣などについて実情を把握する取り組みを進め、これを施策に反映するとともに、外国人に快適な宿泊環境を提供するための支援を検討いたします。
 こうした取り組みにより、外国人観光客の受け入れ体制の充実を的確に進めてまいります。