○議長(川井しげお君) 五十八番小竹ひろ子さん。
〔五十八番小竹ひろ子君登壇〕
○五十八番(小竹ひろ子君) 平和の推進について質問いたします。
私は、終戦の年四歳で、宇都宮で見上げた空襲の真っ赤な夜空と、母と一緒に見た焼け野原は目に焼きついています。東京に転居すると、学校には父親のいない子も多く、学校前の青梅街道を走る米軍トラックに友達がはねられ、何の手当てもなくむしろに寝かされ亡くなりました。広島の祖母に、原爆のピカでやられたと見せられた背中のケロイドも忘れられません。戦争の悲しみは二度と誰にも味わわせてはならない、それが私の強い思いです。
東京では、三月十日大空襲を初め、各地の空襲で子供や女性などが火の海を逃げ惑い、十万人以上の命が奪われました。生き残った人も、家も家族も失い孤児になるなど大変な思いをしました。一家全滅で生きたあかしのない人もいます。
知事は、十月に硫黄島を訪れ、七十年前の戦闘を想像し、胸が潰れる思いであったと語り、多くの若者に硫黄島を訪ねてもらい、戦争の悲惨さを実感してもらいたいと述べておられます。
知事、硫黄島だけでなく、二十三区内や多摩地域でも戦争で多くの人が犠牲になった傷跡を具体的に知ることは可能なのではないでしょうか。
ところが都は、戦跡マップ一つ発行していません。民間団体では、戦争の惨禍を繰り返させないために、東京空襲の体験を次世代へ引き継ぐ活動が多く行われています。それらの活動や施設を知事も視察すれば、学ぶべきことも多いはずです。
東京都として、平和について知り考える場を提供し、第二次世界大戦や東京空襲の悲惨な体験と戦争の惨禍を二度と繰り返さない決意を次代に引き継いでいかなければなりません。知事の認識を伺います。
東京都がオリンピック・パラリンピックを平和の祭典としてふさわしく開催するために、二〇二〇年までを平和の五年として、集中的な平和の事業を都政の各分野で展開し、都が平和と核廃絶、友好の立場を発信していくことを求めますが、知事、いかがですか。
私は、広島市の平和事業を視察しました。原爆ドームや平和記念資料館だけでなく、まちの至るところに被爆の記憶が保存されていました。時にはアメリカ公文書館まで行くなど、埋もれた事実の発掘も続けられています。遺品の寄贈があれば、被爆を伝える資料として残すため、誰の遺品か、どこで被爆し、その後どうなったかを詳細に調べるそうです。こうした姿勢に学ぶべきではないでしょうか。
東京都は、九十年代に平和祈念館建設に向けた東京空襲を体験した三百三十人の証言ビデオや、約五千点の遺品や空襲資料の提供を受けました。これらは庭園美術館に保管されたまま、詳細な整理も研究もされずにいます。公開されたのは、証言ビデオ九人分などごく一部です。提供された方々は、多くの人に見てほしいと願っているはずです。直ちに証言ビデオや資料の本格的な整理、研究に着手するとともに、平和祈念館が建設される前でも、広く一般公開することを求めます。
また、二十五回を数える東京都平和の日記念事業で語られた戦争体験などを一つにまとめて冊子にし、証言集として都民に普及していただきたいと思いますが、いかがですか。
東京空襲犠牲者名簿には、現在八万三百二十四人がおさめられていますが、最近は、新規登録が年間百人から二百人にとどまっています。空襲犠牲者遺族の方は、犠牲者を一人でも多く名簿に追加できるよう、手がかりとなる現登録名簿の公開を希望しています。また、名前も公開されないのでは、亡くなった方は犠牲者という抽象的な存在にしかならず、一人一人が生きたあかしにもなりません。一人一人を丁寧に追悼するためにも、名簿を公開していただきたいと思います。どうでしょうか。
私たちは、次の世代に戦争体験と平和の大切さを伝えていかなければなりません。日本国憲法は前文で、日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、我らの安全と生存を保持しようと決意したと述べています。憲法の精神にのっとり、平和について主体的に考え、行動できる子供たちを育てることを求めます。
オリンピック憲章は、オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会を奨励することを目指し、スポーツを人類の調和のとれた発展に役立てることにあるとしています。オリンピック・パラリンピック教育では、平和教育を柱の一つとして位置づけることを求めます。
最後に、知事及び都議会各会派の皆さんに訴えます。
戦争で十万人以上の犠牲者を出した自治体で、公立の戦争資料館のないのは東京だけです。かつて東京都平和の日条例を都議会各会派の共同の力で制定し、平和の日記念行事を行う中で、戦争犠牲者を日常的に追悼し、戦争体験を風化させることなく次代に引き継ぐ場の建設が、超党派で提案されました。
戦後七十年を機に、改めて東京平和祈念館、都立の戦争資料館の建設に向けた議論を開始し、一日も早く実現することを呼びかけます。
次に、浴場振興について伺います。
銭湯は、都民の公衆衛生とともに、健康増進や住民相互の交流など、福祉の向上に重要な役割を果たしています。さらに今日では、江戸時代からの日本の庶民文化を継承し、発信する存在として、その文化的価値を楽しむ人がふえ、またスポーツ愛好家や観光客などからの注目も高まっています。
東京都公衆浴場組合の理事長も、日本のすばらしい文化を海外に発信し、観光資源としての銭湯に取り組む決意を語っています。こうした銭湯の持つ今日的役割と浴場振興の重要性について認識を伺います。
銭湯は、東京全体で六百三十軒にまで減少しています。私の地元文京区では、五月には一九二七年創業の現存する木造銭湯で最古のクラスといわれた月の湯が、九月には明治時代から続いていた菊水湯も閉店し、区内の銭湯は七軒になってしまいました。利用者拡大に向け、公衆浴場組合ではPRを刷新し、ネットなどで銭湯文化や銭湯の魅力を生き生きと伝え、英語、中国語、韓国語にも対応するなどして若い世代や外国人などの獲得につながっています。浴場組合が実施するさまざまな創意工夫を凝らした利用促進PR事業にも補助を拡大することを求めます。
また、東京都主催のスポーツイベント、TOKYOウオークの参加者へ、割引入浴などが試みられていますが、この取り組みを都として連携、拡大することを提案します。いかがですか。
高齢者人口の増加により、介護予防サービスの充実が求められています。銭湯を地域資源の一つとして活用した健康体操やカラオケなどのミニデイサービスなどが行われています。健康の維持やひきこもり防止、認知症の見守りなどとして重要です。都と区市が連携し、浴場の一層の活用、充実を図ることを求めます。
銭湯の減少により、区市を超えて浴場を利用する方がふえています。ところが、高齢者の百円入浴券など、区の独自事業は他区では使えず、大変不便だという声が上がっています。隣接区のサービスの相互利用ができれば、利用者にも浴場にもメリットがあります。
区市に対し、東京都から強く働きかけていただきたいと思いますが、いかがですか。
日本の入浴文化、銭湯独特の建築や浴室のペンキ絵、ショウブ湯、ユズ湯など銭湯を生きた文化として保存、継承してほしいとの声が浴場関係者や都民から上がっています。台東区上野にある燕湯は、二〇〇八年に浴室にある岩山を含む建物全体が国の登録有形文化財として登録されました。
都は、地元区と協力して、燕湯の保存を支援していくことが重要だと思いますが、いかがですか。
名古屋市では、市独自の登録地域建造物資産として銭湯を支援しています。ぜひ都も、これを参考にしていただきたいと思います。
私の地元の銭湯は、息子さんが後を継ぎ、リニューアルして大変なにぎわいです。公衆浴場組合では、若手経営者の会が後継者育成のために婚活などを行い成功しています。
都として、後継者育成や事業継承セミナーなど、浴場組合とも連携し、中小企業振興公社の力もかりながら、専門家の積極的派遣で、経営相談はもとより支援拡充を行っていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。答弁を求めて質問を終わります。(拍手)
〔知事舛添要一君登壇〕
○知事(舛添要一君) 小竹ひろ子議員の一般質問にお答えいたします。
戦争体験を次代へ引き継いでいくことについてでありますが、さきの大戦で戦争の惨禍をこうむった歴史を持つ都民にとって、恒久平和の実現は最大の願いであります。
そのため、都は、東京都平和の日条例を制定し、毎年継続して、三月十日の記念式典を初め、東京空襲資料展の開催や東京空襲犠牲者名簿の収集など、平和関連事業を実施し、都民が受けた苦難の歴史を語り継ぐとともに、平和意識の高揚を図っております。
私たちは、今日の平和と繁栄が多くの都民のとうとい犠牲の上に築かれていることを決して忘れてはなりません。
今後とも、都は、平和の日記念行事等を通じて、戦争の惨禍を再び繰り返さないよう、平和国家日本の首都として、次世代に戦争体験や平和の大切さを伝えてまいります。
続きまして、平和の発信についてでございますが、オリンピック・パラリンピック大会は、スポーツを通じて世界の人々の尊厳を保持し、平和な社会を推進することを目的としております。
都は、二〇二〇年大会の開催都市として世界の都市と連携し、世界平和の実現に貢献してまいります。
そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長が答弁をいたします。
〔教育長中井敬三君登壇〕
○教育長(中井敬三君) 三点のご質問にお答えいたします。
まず、憲法に基づく平和に関する学習についてでありますが、都教育委員会は、これまでも、日本国憲法並びに教育基本法を踏まえ、学習指導要領に基づき、児童生徒に対して、国際社会に生きる平和で民主的な国家社会の形成者として、必要な公民的資質の基礎を養うための教育に取り組んでおります。
引き続き、区市町村教育委員会や学校と連携し、学習指導要領に基づき、こうした取り組みを進めてまいります。
次に、オリンピック・パラリンピック教育における平和教育についてでありますが、都教育委員会が設置している東京のオリンピック・パラリンピック教育を考える有識者会議が、本年八月に中間のまとめとして、多様性を尊重し、共生社会の実現や国際社会の平和と発展に貢献できる人間の育成を目標の一つとする教育の基本的枠組みを公表しております。
都教育委員会といたしましては、今後示される有識者会議の最終提言の内容等を踏まえ、オリンピック・パラリンピック教育を進めてまいります。
最後に、国登録有形文化財の保存への支援についてでありますが、台東区に所在する公衆浴場である燕湯は、文化庁が平成二十年四月十八日に国登録有形文化財として登録しております。
都教育委員会は、国登録有形文化財について、管理する個人、団体の申請に基づき、その活用整備や防災対策、耐震補強工事等に対し、国、区市町村とともに、補助の実施や専門的、技術的な指導を行い、適切な保存を支援しております。
〔生活文化局長多羅尾光睦君登壇〕
○生活文化局長(多羅尾光睦君) 六点のご質問にお答えいたします。
まず、証言ビデオ等の公開についてですが、東京空襲資料や証言映像は、平和祈念館で展示することを前提として収集、作成したものでございます。
都は、平和祈念館の建設が凍結された後、収集した資料を活用し、毎年三月十日の東京都平和の日にあわせ、都内で東京空襲資料展を開催するとともに、区市町村主催の資料展へ貸し出しを行っております。証言映像については、改めて証言者の同意を得てダイジェスト版を作成し、公開しているところでございます。
次に、証言集の作成についてですが、都は、東京都平和の日に係る取り組みについて、記念式典の概要や東京空襲被災者代表の体験談に加えて、平和の日関連事業などを記録した報告書を毎年作成し、区市町村等に配布しております。
今後とも、平和の日に係る取り組みについて報告書を作成し、平和意識の普及を図ってまいります。
次に、空襲犠牲者名簿の公開についてですが、東京空襲犠牲者名簿への登載は、遺族や関係者からの申し出に基づいて行っております。名簿は犠牲になられた方々を追悼するために作成しており、公開を前提に収集しているものではなく非公開としていますが、親族、知人等の申し出に限り当該部分の閲覧ができるよう対応しております。
なお、名簿登載者をふやしていくために、ホームページや「広報東京都」などを通じ登載を呼びかけるとともに、区市町村等に対しても協力の依頼を行っているところでございます。
次に、公衆浴場の今日的役割と浴場振興についてですが、都内の公衆浴場数は、自家風呂の普及などにより減少し、本年十一月末現在、最盛期の四分の一の六百三十軒となっております。
一方、公衆浴場は、都民への入浴機会の提供とともに、健康づくりや地域住民の交流の場として重要な役割を果たしており、海外に向けた日本の伝統文化の発信などの役割も期待されていると認識しております。
都は、公衆浴場が果たしているこうした役割の重要性を踏まえ、施設の耐震化や使用燃料の都市ガス化に係る経費を補助するなど、各種助成事業を実施しております。
次に、公衆浴場利用促進に対する補助についてですが、公衆浴場経営の安定化を図っていくには、若者や外国人など新しい顧客層を掘り起こしていくことが重要です。
このため、公衆浴場組合は、ことしの四月から、ホームページをリニューアルし多言語化するとともに、SNSを活用した情報発信等に取り組んでおります。
都は、こうした公衆浴場組合の取り組みに対し経費の一部を助成しており、今後も支援してまいります。
最後に、区市が配布している入浴券の相互利用についてですが、各区市は、地域の特性や住民ニーズを踏まえ、高齢者等に対し入浴券を配布しています。公衆浴場の減少に伴い、高齢者等の中には、居住している区市の公衆浴場に出向くより、隣接している他区市の公衆浴場の方が自宅から近いという状況も生じております。
このため、都は、区市に対して、入浴券配布における隣接区市間の相互利用について既に検討を依頼しており、引き続き働きかけを行ってまいります。
〔オリンピック・パラリンピック準備局長中嶋正宏君登壇〕
○オリンピック・パラリンピック準備局長(中嶋正宏君) TOKYOウオークの魅力向上の取り組みについてでございますが、都は、都民の誰もが、いつでも、どこでも、いつまでもスポーツを楽しむことができるスポーツ都市東京の実現を目指し、より多くの都民がスポーツを楽しめるよう、一般社団法人日本ウオーキング協会などとの共催により、TOKYOウオークを実施しております。
TOKYOウオークは、都内名所などをめぐり、東京の魅力を体感しながら歩くイベントであり、参加者により楽しんでいただくため、地域の賛同を得て、お話の公衆浴場のほか、地元の美術館、博物館の割引などを行っております。
今後とも、大会の魅力を高める取り組みを適切に実施してまいります。
〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕
○福祉保健局長(梶原洋君) 公衆浴場を活用した介護予防についてお答えをいたします。
区市町村は、高齢者が可能な限り地域において自立した日常生活を営めるよう、地域の実情を踏まえ、さまざまな地域資源を活用して介護予防事業を行っております。公衆浴場は、こうした地域資源の一つとして活用されているところでございます。
〔産業労働局長山本隆君登壇〕
○産業労働局長(山本隆君) 公衆浴場の事業承継に係る支援についてでありますが、中小企業振興公社等において実施している、相談や専門家の派遣、セミナーなどの事業承継の支援策については、既に拡充をしているところであり、これらは公衆浴場を含めさまざまな業種の中小企業等が利用可能となっております。
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