平成二十七年東京都議会会議録第三号

   午後五時二十五分開議

○議長(高島なおき君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 百四番かち佳代子さん
   〔百四番かち佳代子君登壇〕

○百四番(かち佳代子君) まず、児童虐待対策について伺います。
 昨年、都内で、七人兄弟のうち一人の男の子の行方不明が発覚して、その後両親が、二、三年前に亡くなったので雑木林に埋めたと供述をした大変衝撃的な事件がありました。
 今日、貧困や親の事情から、虐待によって心身ともに傷つく子供たちが増加し、時には命を落とすなど、年々深刻で複雑になっています。こうした子供たちを救済し、一人一人に合った支援をする児童相談所や児童福祉司の果たす役割は、ますます重要になっています。
 私はこの間、都内の児童相談センターや児童相談所、一時保護所などを視察しましたが、一時保護所は、入所した児童にとっては、外出や通学を含め、さまざまな制約も受けるところであり、緊急に親から引き離された児童は、精神的にも不安定で、温かい支援が必要だということを痛感しました。
 現在、都内の一時保護所は六カ所で、定員百九十二名ですが、ここも既に定員オーバーの状態です。複雑な事情を抱えた子供たちが、時には折り重なるように敷き詰めた布団で休まなければならない状況です。
 現在、都内の児童福祉司は二百人で、年間約八千件に及ぶ相談に対応し、一人平均九十三件ものケースを担当しながら、子供たちの命を守るために必死の取り組みをしています。
 東京の人口当たりの児童福祉司数は、全国都道府県の中で最低です。厚労省は、一人当たりの担当数の理想は二十人から三十人といわれていると国会で答弁しており、過重負担は明らかです。
 児童相談所は、人口九百万人の神奈川県内に十四カ所、人口七百四十万人の愛知県内に十二カ所が設置されています。都内の児童相談所はたった十一カ所です。
 知事は、被虐待児の急増に対応して、児童相談所の体制を強化し、一時保護所の定員をふやすと述べ、新年度予算案では児童福祉司は十三名ふえ、一時保護所の定員は二十二名ふやすとしたことは重要な前進です。
 しかし、長期ビジョンには、児童福祉司の人数や一時保護所の定員、児童相談所の数をふやす計画は示されていません。今日の児童福祉司、児童相談所の現状をどう認識し、中長期的にこれらの取り組みをどのように強化していくのか、お聞きします。
 児童養護施設など、受け入れ施設を確保することが必要です。同時に国は、小規模化、家庭的養護の体制の拡充を求めています。児童福祉審議会の提言や都の長期ビジョンにも示されているサテライト型の児童養護施設の展開は、東京の実情に対応したものであり、ファミリーホームや養育家庭などへの支援が期待されています。
 都内に児童養護施設のない地域が多くあることを踏まえれば、さらに設置数をふやし、家庭的養護を推進することが望まれています。都はどのように取り組むのですか。
 家庭的養護の柱の一つは、養育家庭の存在です。しかし、養育家庭への委託件数は、ここ十年間、伸び悩んでいます。深刻な被虐待などの増加や実親との調整困難、社会や学校での無理解など、困難や悩みを抱えている人が多いということも、何人かの里親さんから話を伺いました。
 養育家庭への支援は、現在三人のチームで取り組む体制になっていますが、里親の会などと児童相談担当者との認識を一致させ、要保護児童に対する問題解決のためのチーム力を強化することを含め、新たな里親支援の仕組みづくりが求められています。
 その際、里親の乳幼児養育への取り組みや、委託継続困難事例への検証作業などの確立に向け、里親の会や関係者も含めた検討会を設置し、取り組む必要があると思いますが、いかがですか。
 虐待防止対策のためには、幼少のころから、その年代に応じて命の尊厳や大切さを伝え、自己肯定感を高めるとともに、命や性についての正しい知識を啓発していくことが重要です。さらに、孤立しがちな若年出産や産前産後の鬱防止など、身近なところで費用の心配なく支援を受けられる仕組みづくりを確立し、これらの取り組みに助産師などの活用を検討することを求めます。お答えください。
 次に、看護師不足対策について伺います。
 国の第七次看護職員の需給見通しに基づく東京都の需給見通しでは、二〇一一年には二千六百二十三人の不足だったのが、二〇一五年にはゼロになり、看護職員の不足は解消するとしています。
 しかし、実際には二〇一四年十二月の時点で、看護師の不足状況は都内では九千三百七十七人となっており、需給見通しの不足数の七・六倍にも膨れ上がっているのです。
 昨年九月に知事も参加した福祉先進都市東京に向けた懇談会の中で、上昌広医学博士は、東京の看護師は絶対数も養成数も極度に不足している、東京は今後看護師不足がボトルネックとなる、養成数をふやすしかない、看護師は地育地活、地域で育ち、地域で働いている、東京が養成しないと周辺の県から看護師を吸い寄せ、その県の医療を壊してしまうとして、看護師不足の深刻さと養成数をふやすことの重要性を述べています。
 知事、都の看護職の需給見通しは未達成状況が続いています。需給均衡を目指して諸施策に取り組んできても、なお不足状況が続いている事態をどのように認識しているのですか。また、懇談会での上教授の発言をどのように受けとめているのですか。それぞれお答えください。
 全国の看護職の離職率が一一%前後なのに、都内では一四・二%です。二〇一三年の日本医療労働組合連合会の調査によると、仕事をやめたいが七五%を占め、理由は、人手不足で仕事がきついが四四%とトップです。これが現場の悪循環となっているんです。
 厚労省五局からの通知は、看護業務が健康で生きがいを持って能力を発揮し続けられる職業となるために、働く環境を整備し、雇用の質を高めていくことが喫緊の課題だとしています。
 また、日本看護協会は、夜勤、交代勤務のガイドラインを示し、長時間拘束の夜勤の改善や生体リズムに即した正循環勤務体制を図り、夜勤免除や勤務時間の短縮など多様な働き方を保障するなど、労働環境の改善によって離職防止を呼びかけています。それらを遂行するためにも、看護師の大幅増員が必要なのです。
 二〇〇〇年に出された、都における看護職員養成に関する検討会の最終報告では、今後、高齢社会を迎えるに当たって看護需要は高まるとしていながら、都内の看護師供給の一端を担っている都立看護専門学校の定員は、統廃合によって養成数が四割も減らされました。削減するのは逆行です。
 経済的負担が少しでも軽い都立看護専門学校の増設が必要です。都は、志ある看護学生を育成する責務があります。今日的状況に照らして、都における看護職員の養成に関する新たな検討と計画が必要ではありませんか。
 また、築四十三年の広尾看護専門学校の改築は、速やかに実施するよう求めるものです。それぞれお答えください。
 この際、定員もふやすことを求めておきます。とりわけ、地域中小病院での看護師不足が深刻です。有料職業紹介業の手数料制度は、届け出制で高額の手数料を認めています。
 このため、中小病院では大変な負担を強いられています。ある病院では、紹介業者を介して二十七人を採用したものの、三割に当たる七人が数カ月以内に中途退職しました。費やした経費は千三百万円にも上ります。この経費のもとは診療報酬です。病院経営上も大きな負担、医療、看護の質の低下を招くと訴えています。
 知事、人の命を預かる看護という職業や、病院経営や医療の質に大きく影響を与えかねないこのような事態を、どう認識していますか。
 日本病院協会も、せっぱ詰まった病院の多くが有料あっせん業者に頼る状況から、アンケート調査を行い、国においても民間職業紹介業者を利用した医療機関が対応に苦慮する事例があるとのことから、実態調査を行っています。
 都として、都内医療機関の看護師不足などの状況、有料職業紹介業の利用状況や問題の実態について調査し、対策を講ずることを求めます。お答えください。
 日進月歩の医療現場を離職した後、再就職するためには、高いハードルがあります。丁寧な研修制度の充実と条件整備とともに、働き方の相談窓口は、都内十七カ所のハローワークと連携したり、出張相談など支援体制の強化とともに、ナースプラザが行っている再就職のための無料合同説明会も、今は二カ所だけですが、より身近なところでも開催するなど参加者をふやす工夫も必要です。それぞれお答えください。
 荏原病院は公社化して九年になりますが、以来、看護師不足のため、四十三床の休止状態が続いています。こうした中で、病床稼働率は平均六七%と、他の公社病院と比較しても最低です。
 荏原病院は、羽田空港に最も近い位置にあり、都立の時代からSARSやエボラ出血熱など一類感染症受け入れ病院として重要な役割を担っています。また、地域の中核病院として五百床のベッドを確保していながら十分な稼働ができていないことは、都民にとっても大きな損失です。
 長期に看護師不足が続いている要因を都として調査、分析し、打開策を明らかにして、支援対策を強化することを求めます。お答えください。
 最後に、新空港線についてお聞きします。
 JR蒲田と京急蒲田駅の利便性を確保するとして始まった地下鉄蒲蒲線構想は、現在では新空港線構想となり、総事業費も当初の試算で千八十億円。最新の新たな構想は、フリーゲージトレーンの導入というものですが、これはまだ実験段階であり、実用化すらしていないものです。
 この構想は、池袋や埼玉方面から羽田空港への鉄道輸送ルートを創設し、短時間、大量輸送が目的です。JR蒲田も京急蒲田も通過駅になりかねず、沿線住民にとっては通過列車ばかりがふえてかえって不便になることは、京急の高架化後のダイヤによって既に経験済みです。
 新空港線は、沿線住民の利便性や費用対効果の観点、あるいは新型車両の実用化までの工程や安全性の確保など、未解明の問題が山積で、実現性の厳しい構想ではないかと思いますが、都の見解を求めて質問を終わります。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

○知事(舛添要一君) かち佳代子議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、児童虐待への対応力の強化についてでございますが、児童虐待は、子供の心に深い傷を残すだけでなく、子供たち一人一人が持つ未来への可能性を奪うこともございます。決して許される行為ではありません。
 都はこれまで、深刻化する児童虐待に的確に対応するため、児童福祉司や児童心理司の増員、虐待対策班の設置、一時保護所の定員拡充など、児童相談所の体制強化に取り組んでまいりました。来年度は、児童福祉司をさらに増員するとともに、一時保護所の増設も行います。
 また、区市町村に対しましては、虐待対応力の強化を図るため、子供家庭支援センターへの専門職の配置を支援するなど、さまざまな取り組みを行ってまいりました。
 児童虐待の防止に向けては、行政のみならず、民生児童委員、医療機関や学校など地域が一体となって取り組んでいかなければなりません。今後、地域の関係機関との連携を一層強化し、児童虐待防止に向けて全力で取り組んでまいります。
 看護職員の確保についてでございますが、都はこれまで、都内に勤務する看護師の就業実態調査を踏まえ、需給見通しを策定し、修学資金の貸し付け、復職研修の実施、ナースプラザでの就業相談や職業紹介など、さまざまな施策を展開してまいりました。
 その結果、就業者数は着実に増加しておりますが、同時に、高齢化の進展などにより、看護需要は増大しておりまして、今後一層取り組みを進めていく必要があると思っております。
 昨年九月の、言及がありました有識者懇談会では、委員から、看護職員の養成数をふやすべきだと、そういうご意見を承りました。専門的立場からのご意見と受けとめておりますが、看護職員の確保を進めるためには、今、都内で七万人存在すると推計されております潜在看護師の活用が第一に必要であると考えております。
 都は、今後とも、看護師の養成対策、定着対策、再就業対策を三つの柱にして、看護職員の確保に取り組んでまいります。
 そのほかの質問につきましては、関係局長が答弁をいたします。
   〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 六点のご質問にお答えします。
 まず、家庭的養護の推進についてでありますが、都は、家庭的養護の取り組みを進めるため、少人数の生活単位で養育を行うグループホームやファミリーホームに対する開設準備経費や家賃の助成、グループホームの補助者や助言指導等を行う職員の増配置など、都独自の支援を行っております。
 また、来年度は、グループホームなどにおける子供たちへの支援をバックアップするため、児童指導員や心理士を配置したサテライト型児童養護施設を、試行として三カ所整備してまいります。
 次に、養育家庭への支援についてでありますが、都は、児童を委託している養育家庭に対して、児童相談所や民間団体を活用した訪問支援や養育家庭同士の交流促進など、きめ細かな支援を行っております。
 また、養育家庭への委託を推進するため、各児童相談所に、養育家庭の代表者や児童福祉施設職員などで構成する里親委託等推進委員会を設置し、関係機関が協力連携しながら、施設に入所している児童の状況確認を行うとともに、委託の可能性を検討しております。
 今後とも、昨年十月にいただいた児童福祉審議会の提言も踏まえ、家庭的養護を推進してまいります。
 次に、虐待防止に向けた仕組みづくりについてでありますが、都はこれまで、子供を安心して産み育てられるよう、出産前後に家庭などの援助が受けられず心身の負担感を抱える母親を対象に、保健師や助産師等による継続的な相談支援を行う区市町村の取り組みを支援してまいりました。
 来年度は、保健師や助産師などの専門職が、全ての子育て家庭の状況を妊娠期から把握し、継続した支援を行うゆりかご・とうきょう事業も開始し、区市町村を支援してまいります。
 次に、看護職員の養成についてでありますが、都内の看護職員養成数は、民間養成施設の学科新設や定員増により増加傾向にあり、平成二十三年からの三年間で二百三十人程度増加し、平成二十六年四月の入学定員は五千九百人を超えております。
 また、現在、都内には離職した看護職員が約七万人いると推計されており、今後とも、養成、定着、再就業を施策の柱に、総合的な看護職員の確保に取り組んでまいります。
 都立看護専門学校の改築等につきましては、計画的に進めてまいります。
 次に、医師、看護師の有料職業紹介業についてでありますが、国は、平成二十五年度に医師、看護師の職業紹介に関する調査を実施いたしました。その結果を踏まえ、紹介業者とのトラブルを防止するため、昨年十月には、各都道府県労働局に医療機関からの相談窓口を設置しており、職業安定法等に違反する可能性があると判断した事案については、必要な指導等を行うこととしております。
 有料職業紹介業は、職業安定法による厚生労働大臣の許可に基づき運営されており、その指導監督は国が実施しております。都としては、国の動向を注視してまいります。
 最後に、看護職員の再就業支援についてでありますが、都はこれまで、離職した看護職員を対象に、身近な地域の病院で復職支援研修を実施しており、研修受講者の半数以上が再就業につながっております。
 また、昨年度から、東京都ナースプラザの職員が都内二カ所のハローワークに出張し、看護師等の有資格者や資格取得希望者を対象に、就職や資格取得に向けた専門相談を実施しております。
 さらに、離職する看護職員の届け出制度が本年十月から開始されるのに伴い、地区医師会の協力による就職相談会も開催いたします。
   〔病院経営本部長醍醐勇司君登壇〕

○病院経営本部長(醍醐勇司君) 荏原病院における看護師確保についてでありますが、これまでも公社病院では、看護師の退職理由の分析を行った上で、インターンシップ制度の創設や二交代制勤務職場の拡大、さらには育児短時間勤務制度の導入など、看護師確保に向けて働きやすい職場環境を整えてまいりました。
 都としても、看護師を必要に応じて公社病院に派遣するとともに、共同して採用活動を実施するなど、看護師確保を引き続き支援してまいります。
   〔都市整備局長安井順一君登壇〕

○都市整備局長(安井順一君) 東急線蒲田駅と京急蒲田駅とを結ぶ新空港線、いわゆる蒲蒲線についてでございますが、本路線は、運輸政策審議会答申第十八号で、二〇一五年までに整備着手することが適当である路線と位置づけられております。本路線の整備につきましては、多額な事業費のほか、事業採算性、東急線と京急線との線路幅の違いなど、さまざまな課題がございます。
 都といたしましては、引き続き、区を初めとした関係者間で議論を重ねるなど、必要な対応を図ってまいります。