平成二十七年東京都議会会議録第三号

○副議長(藤井一君) 四十五番和泉武彦君
   〔四十五番和泉武彦君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○四十五番(和泉武彦君) 日本人の誇りの一つに、先祖代々脈々と受け継がれてきたおもてなしの心というものがあります。
 おもてなしの心は、平安、室町時代発祥の茶の湯から始まったといわれ、客や大切な人への気遣いをする心を築き上げた世界に誇れる日本の文化といえます。わびさびの心を持ち、表に出過ぎない控え目なものであり、目に見えない心を目に見えるものにあらわし、そのための努力や舞台裏はみじんも表に出さず、もてなす相手に余計な気遣いをさせないこと、これがおもてなしの本質です。
 相手を心からもてなすためには、我々は、まず自分自身の内面から磨かなければなりません。読書に没頭し知識と教養を磨くもよし、美術館へ足を運び芸術に触れ感性を磨くもよいでしょう。さまざまな感覚を磨く中で、相手をおもんぱかる心が育まれていきます。今後は、オリンピック・パラリンピックが開催され、世界中から人が集まる中で、行政も一体となったおもてなしの心に対する取り組みが必要と思われます。
 そこで、東京都は、今後、おもてなしの心をどのように育てるのか、また、その心をどのように発揮させていくのかという観点から質問をさせていただきたいと思います。
 まず、オリンピック・パラリンピック教育を通じたおもてなしの心や態度を育成する教育について伺います。
 二〇二〇年大会が開催される機会を捉え、子供たちには、訪れる人々との心温まる交流を積極的に図ってもらいたいと期待しています。そのためには、改めて日本の伝統や東京の歴史、文化などについて、子供たちみずから再認識することが重要であります。
 学校においては、これまでも、我が国の伝統文化や歴史を理解するための学習が行われているところですが、ともすれば、日本人らしさの象徴でもあるおもてなしの心は、現代社会において薄れつつあるとの指摘もあります。日本人のよさや開催都市東京の子供ならではの教養や作法を身につけておくことは、ますますグローバル化が進む国際社会で活躍する人材の育成につながるものと思います。
 そこで、二〇二〇年に向けて、日本人としての物の考え方や外国人に対する接し方についての教育を一層重視し、おもてなしの心や態度を学んでいくべきと考えますが、都教育委員会の所見を伺います。
 次に、おもてなしの心を培うためのボランティア活動について質問いたします。
 既に片言の英語を使って、まち中の外国人旅行者をおもてなしする外国人おもてなし語学ボランティアの育成が始まっておりますが、東京を挙げたおもてなしを実現するためには、多くの都民が言葉のボランティア活動に参加できる機会を提供するとともに、幅広くボランティアの裾野を拡大していく必要があります。
 都として、外国人おもてなし語学ボランティアの着実な育成とともに、都民のボランティアへの参加促進と機運醸成のための取り組みが重要と考えますが、見解を伺います。
 次に、東京の自然の魅力を生かしたおもてなしについて伺います。
 東京は、経済規模や利便性といった点で、ニューヨーク、ロンドン、パリなどと肩を並べる都市であることは誰もが認めるところですが、区域面積の約四割を森林が占めるなど、大変豊かな自然環境を有している点は、それほど認識されていないように思います。
 首都でありながら、静寂な深緑が広がり、きれいな空気やセラピー効果のある香りを感じられる空間をあわせ持つことが東京の特徴であり、その価値であります。
 そのため、国内外から訪れる多くの観光客に東京の自然の魅力を感じてもらえれば、すばらしいおもてなしになるし、それを端緒に、日本全国の自然に関心を抱いてもらうことになると考えます。
 このため、改めておもてなしの心で、外国人や高齢者を初め誰もが使いやすい公園施設を整え、来訪者の快適さや満足度を向上させるとともに、多摩や島しょの特色ある自然公園などの魅力、そして、東京の魅力をさらに発信していくべきと考えますが、都の見解を伺います。
 次に、観光振興及び伝統文化を通じたおもてなしについて伺います。
 東京は、昔ながらの下町情緒を堪能できる浅草寺や柴又帝釈天、美しい日本庭園が広がる新宿御苑など、さまざまな観光資源を抱えております。私たちにとっては当たり前の光景である地域のお祭りや盆踊りなども、外国人旅行者の目には珍しく魅力的に映るようです。また、江戸切り子などの伝統工芸品は、世界に誇る東京のすぐれた文化であり、こうした工芸品を制作する職人のわざを見て体験してもらうことも、旅行者にとっては得がたい経験になるでしょう。
 二〇二〇年に向けて、さらなる外国人旅行者誘致を進めるためには、どのような観光資源が外国人旅行者の関心を引くのか、しっかり分析した上で、都内各所に点在するさまざまな伝統文化に関する情報を集約し、利用しやすい形で発信していくことが重要と考えます。
 そこで、外国人旅行者に向けた伝統文化情報の発信について、都の具体的な取り組み内容を伺います。
 また、外国人旅行者には関心が高い伝統文化ですが、このすばらしい文化を外国人の方が鑑賞、体験するには、その機会が少ないなど、高い潜在性を持った伝統文化の価値を発揮し切れていないのが実情です。
 東京の魅力を一層高めていくためには、こうした伝統文化の価値を改めて認識し、その潜在力に光を当てるべきです。
 そこで、東京の多様な芸術文化における伝統文化の意義と、それを伝える取り組みについて都の所見を伺います。
 日本特有の文化、公衆浴場、これも再認識しようという機運が高まっております。とりわけ海外からの観光客に日本文化を味わってもらうためのおもてなしの一つが銭湯だと思います。しかしながら、どこにどのような特色を持った銭湯があるのか、また銭湯の歴史や入浴方法などを理解してもらう際、言葉が大きな壁になってしまいます。
 そこで、外国人観光客のPRなど、銭湯への理解を深めてもらうための取り組みについて伺います。
 都におけるおもてなしの実現には、都の施設を訪れるお客様にも気持ちよく利用していただけることが大事であり、日常の維持管理がより重要となってきます。
 一方、昨年六月に成立した改正品確法においても、社会インフラの維持管理を適切に実施するために、現場の担い手を育成確保することが基本理念として位置づけられております。
 これまでも、都は建物管理などの業務委託について、価格と技術を両方を総合的に評価する入札制度の導入を進めていますが、中長期的な担い手の育成、確保という点においては、その取り組みは十分とはいえません。
 建築物の長寿命化が重視される中にあって、建物管理などの分野においても、その担い手が安定して仕事ができる仕組みをつくり、都民サービスのさらなる向上につなげていくことが求められています。
 そこで、公共施設の維持管理における担い手を育成確保するために、契約内容に応じて複数年契約の手法を活用していくことが重要と考えますが、所見を伺います。
 私は、医師としてこれまで多くの症状を抱える患者を診察してきました。本日は、日本が誇るおもてなしの心について、冒頭も申し上げたとおり、相手を思い、見返りを求めず、相手を敬い、そして丁寧に接する、この心は、医師としても欠かせない心構えだと思っております。
 そして、超高齢化社会を迎えるに当たり、問題となっている認知症への取り組みは重要であり、認知症の人は行動できる範囲が限られているため、できるだけ身近な単位で認知症の人を支える体制を構築することが重要です。そのため、現在、二次保健医療圏単位で設置されている認知症疾患医療センターは、もっと数をふやすことが必要と考えてきました。
 これまでの定例会において、私はたびたび、認知症対策の強化の必要性について話をさせていただきました。都が認知症対策を重要課題と位置づけ、今後、認知症疾患医療センターが区市町村毎に一カ所指定されるよう整備を進めていくことは高く評価できます。
 しかしながら、認知症の人が住みなれた地域で生活するためには、かかりつけ医というものの存在が非常に重要です。かかりつけ医が認知症の兆候に早期に気づき、新たに指定する認知症疾患医療センターなどの専門医療機関と連携しながら、身近な地域で認知症の人を支えていく仕組みづくりが求められております。
 そこで、今後新たに指定するセンターを含め、認知症疾患医療センターが、かかりつけ医との連携について、具体的にどのような取り組みを行っていくのか伺います。
 最後の質問ですが、東京オリンピック・パラリンピックは、東京都がホストシティーとなり、世界各国から人を迎え、おもてなしをする絶好のチャンスです。そして東京都だけではなく、都民全体を巻き込んで、おもてなしの心を持って迎え入れることが極めて重要であると考えますが、知事の意気込みをお伺いいたします。
 オリンピック・パラリンピックを契機に、おもてなしの心を育む取り組みを東京都が率先して行っていくことにより、今まで失われつつあったおもてなしの心を、都民が、そして国民が取り戻して、世界に誇る日本の文化として、今後とも、発信、継承していくことができると私は確信しております。教育、文化、伝統、観光など、さまざまな東京の魅力を総合的に後押ししていくことが、おもてなしの心の浸透につながり、それを実践することができるはずです。
 おもてなしの心をこのまま薄れさせてはなりません。さまざまな取り組みを通じ、五年後、十年後、都民の心が変わり、そして東京が変わり、さらに東京からこのすばらしい文化を世界中に広げていくことをお願いいたします。
 また、その実現のために、誰もが尊厳を持った人間として輝きながら生活していってほしい、生涯生き抜いてほしい。寝たきりのまま長生きをして長寿だと胸を張る時代はもう終わりました。これからは、誰もが心も体も元気で、長生きをしてよかったと思ってもらえるような社会全体をつくるため、医療介護福祉制度の充実に全力を尽くして取り組んでいただくことをお願い申し上げ、私の質問を終わりにしたいと思います。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

○知事(舛添要一君) 和泉武彦議員の一般質問にお答えいたします。
 オリンピック・パラリンピック競技大会におけるおもてなしについてでありますが、二〇二〇年東京大会は、二百以上の国と地域から、数多くの選手や大会関係者、観客が集まる世界最大級のスポーツイベントであります。海外からの来訪者に対し、東京、日本の持つ魅力である芸術文化、観光、教育、技術などに加え、都民、国民のおもてなしの心をじかに伝える絶好の機会となります。そのため、大会開催に向けまして、都民一人一人がホスピタリティーを発揮できる環境づくりを行っていく必要があります。
 例えば、日本では言葉のバリアフリーなどの問題があります。多言語表記の充実を初め、Wi-Fiの利用環境の整備などを推進するとともに、幅広い年齢層の語学ボランティアの育成、さらには、最新の翻訳アプリを活用するなどして、言葉のバリアフリーを実現してまいります。
 また、伝統芸能など多彩な芸術文化を体験できるような文化プログラム、学校が大会参加国との交流を図る教育プログラム、市区町村への事前キャンプ誘致などを積極的に進め、各国の選手や観客などとの交流を促進いたします。
 東京の多様な魅力を知っていただき、リピーターとなっていただけるよう、東京ならではのおもてなしの心を持って、都民全体で世界の人々を歓迎してまいりたいと思っております。
 そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長から答弁をさせます。
   〔教育長比留間英人君登壇〕

○教育長(比留間英人君) おもてなしの心や態度を学ぶ教育についてでありますが、二〇二〇年に向けて、オリンピック・パラリンピック教育推進校三百校では、大会の意義や歴史の学習、スポーツや伝統文化に親しむ取り組みのほか、オリンピアン、パラリンピアンとの交流などに取り組んでおります。
 来年度は、こうした取り組みを加速するため、推進校を六百校に拡大するとともに、児童生徒が海外の人々とみずから進んで交流するため、日本の伝統的な作法の学習に加えて、国際マナーを学ぶ取り組みを導入いたします。
 こうした推進校の学習を踏まえ、今後、全ての児童生徒が日本人らしいおもてなしの心や態度を身につけられるよう、有識者会議で十分に検討をし、大会後も子供たちの財産となる、日本人としての心を育成する教育を推進してまいります。
   〔生活文化局長小林清君登壇〕

○生活文化局長(小林清君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、外国人おもてなし語学ボランティアの育成とボランティアへの参加促進、機運醸成についてでありますが、二〇二〇年大会に向けて、簡単な英語で外国人と触れ合う、外国人おもてなし語学ボランティアを育成するため、今月、トライアル講座を実施いたしました。
 来年度は、各区市町村や民間語学教育機関、町会、自治会等の協力を得まして、取り組みを本格化し、長期ビジョンで目標として掲げた三万五千人の育成を目指してまいります。また、育成したボランティアによるまち中での活動を開始し、裾野の拡大につなげてまいります。
 さらに、ボランティア支援の中核を担う東京ボランティア・市民活動センターの情報発信機能を強化するとともに、ボランティアの意義や実際の活動を紹介するイベントを開催するなど、ボランティア機運の醸成を積極的に図ってまいります。
 次に、東京における伝統文化の意義と、それを伝える取り組みについてでありますが、東京の伝統文化は、長い歴史の中で培われた精神性と技法を継承しながら、多様な文化を受け入れ、発展してまいりました。最先端のアートも、日本古来の伝統文化の影響を大きく受けており、多彩で奥の深い今日の東京の文化を支えておると認識しております。
 こうした伝統文化の魅力を多くの外国人が来日する機会を捉え体験していただくなど、特に海外に向けて、その価値をわかりやすく発信していくことが重要であると考えております。
 このため、今後都は、新たに伝統芸能の公演を含む大規模フェスティバルの構築や、外国人向けに、華道や茶道など伝統文化の体験事業を開始するなど、東京の伝統文化発信の取り組みを強化してまいります。
 最後に、外国人観光客への公衆浴場のPRについてでございます。
 公衆浴場、いわゆる銭湯は、我が国独自の伝統文化であり、外国人が入浴体験を通して日本への理解を深められるよう、情報発信することは極めて重要だと考えております。
 都はこれまで、公衆浴場組合が外国人向けに銭湯の歴史や入浴マナー等を紹介するパンフレットを作成、配布する取り組みを支援してまいりました。浴場組合は四月から、ホームページを英語、中国語、韓国語に多言語化し、その周知のためQRコード入りのリーフレット等も作成する予定でございます。
 今後、都はこうした取り組みに係る経費を助成するほか、都の外国語版ホームページ等で幅広く紹介し、より多くの外国人観光客に銭湯情報が伝わるよう、浴場組合とともに銭湯のPRに積極的に取り組んでまいります。
   〔環境局長長谷川明君登壇〕

○環境局長(長谷川明君) 自然の魅力を生かしたおもてなしについてでございますが、自然公園や都民の森は、緑と触れ合い、心身をリフレッシュできるほか、稲作体験、蛍観賞などを通じて、東京の自然の魅力を体感できる場であり、こうした自然との貴重な触れ合いの機会を国内外の来訪者に提供することは、おもてなしとなり得るものと認識しております。
 このため、都は、登山道の標識の英語表記やトイレの洋式化など、誰もが利用しやすい施設への改善を進めるとともに、鉄道事業者とのタイアップやSNSを活用したPRを行い、自然公園などの魅力を広く発信しております。
 今後も、高尾ビジターセンターの自然解説展示の多言語化対応や、観光事業者との連携によるPR強化などを進め、さらに多くの来訪者に、東京の自然環境の魅力を感じてもらえるよう取り組んでまいります。
   〔産業労働局長山本隆君登壇〕

○産業労働局長(山本隆君) 伝統文化の外国人旅行者への発信についてでございますが、異国の伝統文化に触れることは、旅行者にとって旅の大きな魅力であり、目的の一つでもございます。
 都は今年度、外国人旅行者が関心を持つ伝統文化の具体的内容を把握するため調査を行ったところ、神社仏閣や庭園等の施設だけでなく、花火大会や茶道など身近な伝統行事や文化にも関心が高いことがわかりました。
 来年度は、地域の行事や文化体験などのイベントを含む都内の伝統文化に関する情報を、区市町村等と連携して幅広く収集した上で、わかりやすく分類し、旅行者が簡単に検索をしてまち歩きに活用できる仕組みを構築いたします。
 旅行者が容易に東京の伝統文化に触れることができる環境を整えることで、満足度の向上を図ってまいります。
   〔財務局長中井敬三君登壇〕

○財務局長(中井敬三君) 業務委託における複数年契約の活用についてでありますが、改正品質確保法の理念や建築物の長寿命化の必要性を踏まえ、より適切な維持管理を実現していくには、現場の担い手を中長期的に育成、確保していくことが重要であります。
 そのためには、履行内容の品質確保につながるとともに、単年度契約と比べ、担い手の雇用の安定化を促す効果も期待できる複数年契約が有効と考えております。
 こうしたことから、建物管理などの業務委託において、契約内容の特性等に応じて複数年契約の効果的な活用を図ってまいります。
 具体的には、債務負担行為や長期継続契約の制度を活用して効果検証しながら、複数年契約の試行を拡大し、総合評価方式との組み合わせを図るなど、品質確保と担い手の育成、確保に向けた取り組みを一層推進してまいります。
   〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 認知症疾患医療センターとかかりつけ医の連携についてでありますが、現在、二次保健医療圏ごとに設置している十二カ所のセンターは、かかりつけ医からの相談に応じますとともに、認知症の診断等に関する研修会を実施しております。
 また、来年度からは、より身近な地域で認知症の人を支える体制を構築するため、区市町村ごとに地域連携型センターを新たに指定し、その要件には、かかりつけ医を初めとする認知症の人の支援に携わる関係者のネットワークづくりを推進することを求める方針でございます。
 さらに、東京都健康長寿医療センターに認知症支援推進センターを設置して、かかりつけ医向けの研修も充実することとしておりまして、これらの取り組みによりまして、認知症疾患医療センターとかかりつけ医の連携を一層強化し、地域の認知症対応力の向上を図ってまいります。