平成二十七年東京都議会会議録第三号

○議長(高島なおき君) 六十二番野上純子さん
   〔六十二番野上純子君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○六十二番(野上純子君) 最初に、教育について伺います。
 子供は、よき触発があれば幾らでも伸びていくものであり、何かのきっかけで見違えるように成長するものです。大人の一人一人が、現在の子供が置かれた状況を理解し、苦しみを共感できるかどうかが大事です。学校にあっては、教師が子供たちの心の声に耳を傾け、子供たちの未来のために真剣に行動し、生命の尊厳と自尊感情を教え、幸せな人生が送れるように配慮する使命があると思っています。
 希望の登校、満足の下校。これは私の教師時代、子供たちが学校生活の中で知識、技能を身につけ、友達と楽しく学校生活を送り、満足して下校しているかどうか、目標にしていた言葉です。都の不登校の子供たちは、これまで減少傾向にありましたが、近年、増加に転じました。
 不登校になる背景として、いじめ、学力不振、ネット依存などによる生活リズムの乱れ、無気力、家庭環境等々の理由が複合しています。不登校の原因について調査をし、子供の心の奥にある課題は何かを探り、的確な対処をしていく必要があります。
 また、昨年度の都立高校における中途退学者は三千二百人、特に定時制の都立高校生の一一・八%が中途退学です。中途退学をすると、学校からの連絡もなくなり、夜遊びがふえたり、引きこもって孤立しやすくなります。
 都は、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの派遣等を行っていますが、不登校や中途退学に関し、再就学や就労に向けた切れ目のない支援など、新たな取り組みが必要と考えます。所見を伺います。
 学校生活が息苦しいのであれば、子供たちの居場所づくりをしていくことが大事です。毎年、葛飾にあるフリースクールで開催される研究発表会に参加をし、生きるのが苦しかった子供たちが、生き生きと体験を発表している姿を目の当たりにしてきました。自分の居場所が見つかれば、安心し、学業に励むことができます。自己実現の道も開けます。現場を見るにつけ、もう一つの教育の場であるオルタナティブ教育の必要性を感じています。
 国では、新たな動きがあります。フリースクール等に関する検討会議も始まりました。学校教育法の一条校に載っていない学校や施設で、子供の居場所づくりや学力支援に貢献している場所があれば、連携をとりながら活用を進めていくことが大事です。中途退学した子供や不登校の子供たちの立ち直りの場として、学校以外の教育の場との連携を図るべきと考えます。所見を伺います。
 本年四月から施行される生活困窮者自立支援制度は、経済的な困窮や社会的な孤立など、多様な課題を抱える方々を対象に、生活保護に至る前の段階から、その方の状態に応じた支援を早期に行い、自立を支援していく重要な制度です。
 我が党は昨年、子供の学習支援や就労準備支援、家計相談支援について取り上げ、法に基づく必須の相談事業に加え、各種の任意事業の重要性を指摘してきました。区市により取り組みにばらつきがあるのは望ましくないため、できる限り足並みをそろえて実施することが必要です。
 そこで、より多くの区市において任意事業に取り組めるよう、財政面を含めた積極的な支援策が必要と思いますが、見解を求めます。
 また、その一方で、これまで都独自に取り組んできた低所得者対策の役割も、今後ますます重要です。
 都は、いわゆるネットカフェ難民への総合的な支援を初め、多重債務者に対する相談と貸し付け、受験生への学習塾や受験費用の支援など、我が党の提案を受け、全国に先駆けた独自の施策を積極的に展開し、成果を上げてきました。今回の生活困窮者自立支援制度の施行により、各区市において、生活に困窮している方々への総合相談窓口が開設されることとなりますが、各種の任意事業を含めた支援体制は必ずしも十分とはいえません。
 そこで、これまでの都独自の低所得者への支援策のノウハウを活用するなど、区市の生活困窮者対策を広域的、専門的な立場から、都としてバックアップしていくことが必要と考えますが、見解を伺います。
 次に、女性の活躍推進について質問します。
 知事の施政方針演説では、これからの東京と日本の経済を発展させていく原動力は女性であると明言されています。全ての女性が能力を十分に発揮して、職場や家庭、地域などで活躍し、夢や希望を持って取り組んでいく社会を実現すべきと考えます。
 それぞれの女性のライフステージ、ライフスタイルに応じて、全ての女性が輝けるよう、知事が先頭に立って、女性の活躍推進に向けた社会全体の機運の醸成が必要です。知事の見解を伺います。
 また、女性の活躍推進には、女性を取り巻く環境の整備のみならず、女性みずからの課題解決する能力が必要です。女性経営者や女性管理職に関する華々しい報道の一方で、多くの女性は、仕事上の悩みを抱え、十分に能力を発揮できない現状もあります。社内において、女性の先輩など模範となるロールモデルがまだ少なく、とりわけ中小企業では問題が深刻です。
 先輩から課題や悩みについて直接助言が受けられる仕組みを行うなど、女性の活躍推進に向けた人的ネットワーク形成が重要と考えますが、所見を伺います。
 伝統工芸品産業の振興について伺います。
 東京には、江戸の華やかな町人文化のもとで発展した工芸品産業が今なお息づいています。染物からガラス製品まで四十品目が都の伝統工芸品に指定され、作家や職人さんの手によるたくみの品々が作製されています。
 私自身、先月開催された第五十八回東京都伝統工芸品展を訪れ、来場者でにぎわう様子を見てまいりました。特に外国人の方々は、技法などを尋ねたり、実演に見入るなど、江戸の魅力が大いに伝わる機会となっていました。二〇二〇年の五輪を控え、東京の伝統や文化に世界の注目が集まる今こそ、伝統工芸をさらに発展させる絶好の機会であります。
 東京染小紋の制作者小宮康孝さんは、感性豊かで篤実なお人柄の、人間国宝にも指定された大家ですが、お話を伺うと、その作品は、材料の改善や文様の開発など、新しい取り組みを不断に重ねた結果であることがわかります。
 技法や材料などの伝統は守りつつ、先端の技術や先鋭のデザインなど、今の生活スタイルや感性に合わせた要素を取り入れれば、今までにない魅力ある作品をつくり出せると考えます。例えば、べっこうを薄くして組み合わせ、中をLEDにしたランプシェード、江戸小紋のネッカチーフ、江戸切り子のペーパーウエートなどです。
 我が党は、さきの定例会において伝統工芸品の商品開発に対する都の見解を求め、職人とデザイナーなどとの協働による商品開発への積極的な支援を検討するとの答弁がありました。
 そこで、このコラボレーションによる伝統工芸品の新たな商品開発支援について見解を伺います。
 また、商品の普及には、その魅力を消費者、需要者に的確に伝えなければなりません。我が党は、新しい伝統工芸展の場を設けるなど、開発商品の強力なPRをあわせて提案してきましたが、今後の都の取り組みについて伺います。
 最後に、ものづくりの起業、創業の支援について質問します。
 葛飾区内には、金属、ゴム、革製品、プラスチックなど、多種多様で高い技術を持った中小の製造業者が数多く操業しています。
 今月の十二日には、東京国際フォーラムにて、葛飾区見本市が開催されました。近隣区を含め百七社の企業が出展をし、盛況のうちに閉幕しました。
 中でも注目を集めたのが、海底八千メートルまで探査できる「江戸っ子一号」です。フルハイビジョンで、海底の3Dビデオ撮影に成功しました。現在、海外受注を目指して商品化に取り組んでいます。
 地元葛飾区にある東京理科大学では、ベンチャー企業を立ち上げ、大学の有する先端的な技術で、重いものを簡単に持ち上げることができるマッスルスーツを開発しました。私も試着してみましたが、重い荷物を軽々と持ち上げることができました。
 このように、葛飾区には、挑戦意欲あふれる魅力ある企業があり、地域経済の活性化にも貢献しています。
 一方、こうした長い年月にわたって培われてきた中小企業が廃業等で減少することは、地域だけでなく、東京の産業競争力の低下を招きかねません。起業に挑戦する人をふやし、新たな会社創設が必要です。
 そのためには、ものづくり産業を担う若者が、起業に成功したベンチャー企業の経営者から直接体験談や考え方に触れるなど、企業家精神を醸成すべきです。また、資金調達や販路開拓などのきめ細かな支援を受けられる施設をふやしていくことも必要です。
 あわせて見解を伺い、私の質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

○知事(舛添要一君) 野上純子議員の一般質問にお答えいたします。
 女性の活躍推進に向けた機運醸成についてでございますが、女性の活躍は、東京を活性化させる原動力でありまして、企業や都民など、より多くの主体がその認識を理解、共有し、女性の登用や就業継続につながる行動を起こすため、社会全体の機運醸成が重要であります。
 都は、今年度新たに、東京全体で女性活躍推進の機運醸成を図るため、産業、地域など、各分野の代表三十二団体から成ります東京都女性活躍推進会議を設置いたしました。
 また、先進的な取り組みを進める企業や団体に、初の知事賞を贈呈するとともに、女性活躍推進のシンボルとなります、女性が夢や希望に向かって羽ばたくロゴマークを私みずから発表いたしました。
 今後は、こうした取り組みに加えまして、交通広告やSNSを活用した広報キャンペーンの展開によりまして、都民、事業者の意識改革を促すとともに、女性活躍推進会議を核として経済団体などに働きかけを行い、企業や団体における女性活躍推進の取り組みの浸透を図ってまいります。
 さらに、東京都初の女性活躍推進白書を策定し、東京ならではのすぐれた取り組みを紹介するほか、国際シンポジウムの開催などを通じて、職場、家庭、地域で女性が生き生きと活躍する社会の実現の重要性を、より積極的に国内外に発信してまいります。
 そのほかの質問につきましては、教育長及び関係局長が答弁をいたします。
   〔教育長比留間英人君登壇〕

○教育長(比留間英人君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、不登校、中途退学対策についてでありますが、不登校や中途退学の児童生徒は、みずからに自信を失い、社会から孤立しがちになるとともに、生活の乱れや学力の不振を招き、進路の選択も困難になるなど、多様で深刻な課題を抱えております。
 こうしたことから、来年度、区市町村におけるスクールソーシャルワーカーの配置を拡充するとともに、新たに都立学校にも配置し、福祉と連携した支援を強化いたします。
 また、中途退学の防止を図るための具体的な目標や対応策を定めた計画を、今後全ての都立高校で策定することとし、各校の実態に合わせた取り組みの強化を図ってまいります。
 さらに、学校との関係が途絶え、これまで支援が届かなかった中途退学者を訪問し、個々の状況に応じて就労や再就学につなげる取り組みを、新たに都立高校で試行いたします。
 次に、学校以外の教育の場との連携についてでありますが、不登校の児童生徒に対し、区市町村教育委員会では、学校とは別に適応指導教室を設置し、児童生徒の相談や教科学習の支援などを行っております。また、いわゆるフリースクール等の民間施設におきましても、子供の居場所づくりや学習の支援等を行っております。
 しかしながら、こうした施設にも通えず、十分な支援を受けられていない不登校等の児童生徒が相当数存在することから、その実情を把握し、対策を講じることが必要であります。
 このため、来年度、不登校、中途退学の実態を詳細に調査いたしますとともに、外部の有識者を交えた検討会を設置し、学校以外の教育の場との連携を含めた対策を検討してまいります。
   〔福祉保健局長梶原洋君登壇〕

○福祉保健局長(梶原洋君) 二点のご質問にお答えをいたします。
 まず、生活困窮者自立支援法の任意事業への支援についてでありますが、複合的な課題を抱える生活困窮者の自立を支援していくためには、法の必須事業である自立相談支援に加え、任意事業である就労準備支援や家計相談支援、子供の学習支援などをあわせて実施することが重要でございます。
 このため、都は、長期ビジョンにおいて、生活困窮者への総合的な支援体制を、平成二十九年度末までに都内全域で整備していく政策目標を掲げており、来年度から区市が任意事業を新たに立ち上げるための独自の補助を実施いたします。
 また、事業の実施に必要な専門人材の養成研修を開始するなど、区市における体制整備を積極的に支援してまいります。
 次に、区市への広域的、専門的な支援についてでありますが、都はこれまで、インターネットカフェなどで不安定な生活を送る方や多重債務を抱える方、低所得世帯の子供などを対象として、独自の低所得者、離職者対策に先駆的に取り組んでまいりました。
 本年四月からの生活困窮者自立支援法の施行に伴い、実施主体である区市は、生活困窮者に対する総合相談窓口を開設いたしますが、支援の実施体制は区市により差があり、専門性の面でも課題がございます。
 このため、都は、これまで培ってきた広域的、専門的なノウハウを活用し、区市と連携して、離職者への資格取得支援や住居喪失者への低廉な住宅情報の提供、多重債務者への資金貸し付けなどを行い、多様な課題を抱える生活困窮者への包括的な支援に取り組んでまいります。
   〔生活文化局長小林清君登壇〕

○生活文化局長(小林清君) 女性の活躍推進に向けた人的ネットワークの形成についてでありますが、女性が昇進を望まない理由として、多数の人が、職場に相談相手となる管理職層がいない点を挙げております。
 こうしたことから、働く女性が悩みや課題を解決し、能力を発揮するためには、部下の育成方法や仕事と子育ての両立など、経験に基づいた助言を受けられる人的ネットワークの形成が必要であります。
 このため、都は、現在行っている起業を目指す女性に向けたネットワーク形成の支援に続きまして、新たに働く女性を対象として、組織での成功体験を有する方から助言や相談を受けられる連続講座や交流会を、事業者団体と連携の上、東京ウィメンズプラザで実施をいたします。
 こうした取り組みにより、意欲を持つ女性を強力に後押しし、女性の活躍の場を広げてまいります。
   〔産業労働局長山本隆君登壇〕

○産業労働局長(山本隆君) 三点のご質問にお答えをいたします。
 まず、伝統工芸品の商品開発支援についてでございますが、伝統工芸品産業を将来に引き継ぎ、さらに発展させていくためには、現代のニーズに応える工芸品づくりを進めていくことが重要でございます。
 そこで都は、来年度から、意欲ある伝統工芸の職人や作家、デザイナー、クリエーター等の人材を募り、その協働による商品開発プロジェクトに着手いたします。
 本プロジェクトでは、一年目に開発チームにより企画、デザインから試作品の制作、改良などを経て完成品を仕上げ、二年目に販路開拓支援を展開してまいります。
 プロジェクトを効果的に進めるため、マーケティングや工芸の専門家等が参加する委員会を設置し、専門的見地から、制作やプロモーションなどに関する助言を行うことにより、魅力ある商品開発を強力に支援してまいります。
 次に、開発商品のPRについてでございますが、商品開発プロジェクトの完成品を効果的にPRし、幅広い層に対し認知度を高めていくことは、東京の伝統工芸品のブランドイメージを向上させる上でも重要でございます。
 このため、プロジェクトの二年目に、その成果を広く披露するイベントを開催するなど、ご提案の趣旨も踏まえまして、積極的なPRの実施を検討してまいります。
 加えて、国内外の展示会への出展や英語版ウエブサイトの制作などに取り組み、多面的、継続的に商品の販路開拓とPRを図ってまいります。
 こうした取り組みを通じまして、東京の伝統工芸品の新たな魅力を広く発信してまいります。
 最後に、ものづくりにおける創業環境の整備についてでございますが、東京が将来にわたって持続的に成長するためには、革新的なものづくりを初め、新たな産業を担う人材を発掘、育成し、創業に結びつけていくことが重要でございます。
 今年度から実施している次世代の起業家を育成するコンテストでは、プロペラのない円筒型の風力発電機など、これまでにない発想に基づく製品が提案され、今後、先輩起業家の助言や開業時の資金提供等、事業化に向けて継続的に支援をしてまいります。さらに、成功事例をホームページ等で広く発信し、創業の機運を醸成してまいります。
 また、来年度からは、優良な運営計画を有する創業支援施設の整備等に対する助成事業を新たに開始いたします。
 これらによりまして、ものづくりを初めとする新事業の創出に向け、創業環境を積極的に整備してまいります。

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