平成二十六年東京都議会会議録第四号

〇議長(吉野利明君) 五十番野上ゆきえさん。
   〔五十番野上ゆきえ君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

〇五十番(野上ゆきえ君) まず初めに、二〇二〇年オリンピック・パラリンピック競技大会について伺います。
 高度経済成長と国際社会への復帰の幕あけとなった東京開催第一回目の一九六四年大会に対し、二回目となる二〇二〇年の大会は、六十五歳以上の人口が約三割となり、その半数が七十五歳以上となっている低成長と超高齢化社会の中での開催となります。開発と発展により便利で快適な都市から、有限な環境を持続的に維持していく成熟都市東京を示すことが求められています。
 現在、世界の多くの都市では、この持続的環境の維持と地域活性化に向けたさまざまな取り組みが行われています。都市ごとに取り組みは異なるものの、共通した課題は、二十世紀の負の遺産を解消し、新しい環境インフラをつくることにあります。
 例えば、アメリカの古都ボストンでは、高速道路を地下化し、歴史的環境と高度な都市機能が共存する町を回復する事業が行われました。スペインのバスク地方のビルバオでも、グッゲンハイム美術館の誘致を行い、新旧市街地を新共通システムで結び、河川沿いに文化と緑のプロムナードを整備いたしました。文化による都市再生です。
 東日本大震災から十年目の節目の年に開催となる二〇二〇年東京大会を、一過性の景気浮揚に終わらせてはなりません。
 そこで、大会開催に向けて、オリンピック憲章にもある持続可能性の構築についてどのように進めていかれるのか、知事の所見を伺います。
 さて、昨年、三重県伊勢神宮では、約一千三百年にわたって続いてきた式年遷宮が行われました。社殿を建てかえ、古くなった社殿の木材は全国の神社で再び利用されるという、究極のサステーナブルの儀式でありました。伝統的な信仰や文化、建物などが世代を引き継ぐ温故知新、不易流行のあり方は、日本人独特の文化を象徴したものであります。
 東京にも、多摩産材や木場の貯木場、そして神社仏閣、みこしなど、昔ながらの木の文化が根づいております。
 安倍総理大臣は、さきの衆議院予算委員会で、二〇二〇年大会整備について、長野オリンピックのエムウエーブのように、施設の整備では木材利用の促進に取り組むよう、国、都など関係部局に指示したいと述べております。
 大会整備に当たっては、日本文化、持続可能性という観点からも、国内外の木材、多摩産材などを率先して利用することが期待されているところですが、都の見解を伺います。
 二〇二〇年大会開催は、関係者のみならず多くの観光客が東京を訪れ、東京を舞台としたさまざまな人の交流が期待されます。しかし、東京の玄関口ともいえる空港インフラは脆弱であり、羽田、成田の二つの空港だけでの受け入れは心もとない状況です。
 一方で、多摩の横田基地には三千メートルを超える滑走路という貴重なインフラがあります。大会開催時にも、東京への訪問者の受け入れに活用ができるのではないかと期待するものです。
 一九九九年、当時の石原知事は、横田基地の返還と軍民共用化実現に向け、横田基地の民間利用を考える会を設置し、約三年間にわたり議論がなされました。二〇〇二年、サッカーワールドカップ日韓共同開催時には、横田基地の活用を進める動きがあったものの、残念ながら実現には至りませんでした。
 横田基地の民間活用化を進めることは、三多摩地域の物流と人的交流の起点となり、高度技術を持つ企業や製造業のビジネスチャンスを広げる鍵となります。都は、国への働きかけとともに、地元自治体に地域振興の具体案を示すなど、共用化実現への糸口を探りつつ、粘り強く取り組みを進めていただきたいところです。
 そこで、二〇二〇年東京大会開催時における横田基地の活用についての知事の見解を伺います。
 大会開催後も、将来にわたり東京が活力を維持していくためには、少子化を打破する取り組みの推進、若者や女性の就業支援、高齢者が多様な形で働き、さまざまな活動へ参画できる仕組みづくりが必要です。成熟と混沌が混在する二十一世紀に達成すべき目標とビジョン、それを明示し、都民と共有していくことが求められています。
 これまで都は、長期計画として、鈴木知事のマイタウン東京、青島知事の生活都市東京構想、石原知事の東京構想二〇〇〇を策定してきました。区市町村における長期総合計画策定においては、多様化する市民ニーズに対応し、協働を推進する観点から、住民アンケートや審議会の設置、パブリックコメント制度等を活用し、さまざまな市民から広く声を取り入れる工夫がなされています。さらには、長期構想のみならず、長期総合計画をも議会議決している自治体も見られます。
 舛添知事は、施政方針表明で、新たなビジョンの策定を明らかにしておりますが、計画の実現性を担保する上でも、人口推計や健全財政を維持するための財政推計を盛り込んだ計画の策定が求められていると考えます。知事の所見を伺います。
 次に、環境エネルギー政策について伺います。
 昨年九月、気候変動に関する政府間パネルによる第五次評価報告書の発表に続き、今月下旬にはIPCCの総会が横浜で開催され、気候変動の影響等に関する報告が出される予定になっております。気候変動に関する新たな知見が明らかにされるに従い、温室効果ガスであるCO2の削減につながる省エネルギー対策は重要性を増してきております。
 都市には世界人口の約半数が居住し、都市活動に伴い、大量のエネルギーが消費されていることから、私は、国家レベルでの対応に加え、都市レベルでの取り組みがますます重要になってきていると考えます。
 都は、二〇一〇年度から都内においてCO2排出量の多いオフィスビルなどの業務系施設を主な対象とする都市型キャップ・アンド・トレード制度を、世界に先駆けてスタートしております。本制度は、対象事業所としても最も多いテナントビルでの対策について、テナントにもオーナーと協力をして省エネに取り組むよう、努力義務を課しております。こうした仕組みがあったからこそ、震災後の電力不足の際にも節電対策が円滑に進んだとも聞いております。
 そこで、本制度におけるテナントビル対策の具体的な成果を伺うとともに、今後どのような取り組みを進めていくのか、都の見解を伺います。
 知事はかねがね、節電、省エネに取り組むべきことの大切さや、再生可能エネルギー導入拡大の必要性について、発言をされています。
 こうした取り組みが重要なことは十分に理解をいたしますが、他県に電力供給を大きく依存している東京です。これらの取り組みに加え、私は、あらゆる主体においてピーク時間帯の電力需要を効果的に調整するエネルギーマネジメントを推進し、エネルギー利用の効率化を実現することが重要であると考えます。
 その一つのツールとして、デマンドレスポンスの推進も重要です。電力需要が集中する時間帯に経済的インセンティブを課し、電力の需要を調整するデマンドレスポンスの活用は、ピーク時間帯の電力需要の円滑な調整が可能となり、発電容量を合理的な規模に維持し、電力の安定供給にも寄与します。
 先週公表されたエネルギー基本計画の政府案の中でも、アグリゲーターを介したネガワット取引などを通じて仕組みの確立に取り組んでいくべきとしています。
 こうした中、今年度、都は、自社ビルと異なり入居者の意向がさまざまで、省エネになかなか取り組みにくいテナントビルにおけるデマンドレスポンス実証事業を行っておりますが、実証事業の結果と、今後その結果をどのように活用していくのか、都の見解を伺います。
 次に、地方分権について伺います。
 昨年十二月の与党税制改正大綱では、法人事業税の暫定措置について、消費税を含む税制の抜本的改革までの措置という約束で、当然、今回の消費税率の引き上げにあわせて撤廃されるべきであったにもかかわらず、地方税への復元が一部にとどまってしまいました。また、法人住民税の一部をも国税化し、地方交付税原資としたことは、拡充すべき自主財源である地方税を縮小することになり、地方分権の流れに逆らうものとなっており、大変残念なことです。
 翻って、特別区との関係はどうでしょうか。国と地方自治体の間では、財政調整制度として地方交付税制度が設けられておりますが、都と二十三区特別区にも同じような都区財政調整制度があります。ほかの道府県では、市町村税である法人住民税が都税となっていることで、二十三区の産業政策を主体的に展開することに限界があること、二十三区が基礎自治体としての機能を十分果たせないことなど、課題が存在しております。
 例えば、固定資産税です。課税の過程で、実際に土地、建物、機械、設備を見て評価しているのは、特別区では都税事務所の都庁の職員です。そのデータは都が管理しております。大災害が万が一、二十三区を襲ったときには、二十三区が罹災証明の発行を行いますが、その正確性を期すためには、都からのデータ提供が望まれ、別途準備や手続が必要となり、災害時の迅速な対応に支障を来すおそれも指摘されているところです。
 知事は、中央集権から分権型社会に進めるべきと発言をされております。今後、国から都への財源、権限移譲を進めていただくことを期待するとともに、都区制度改革を初め、都から区市町村への、都の分権を進めていただくことも必要であると考えます。
 都民の立場に立った分権や都区制度改革が一層求められると考えられますが、都の区市町村への地方分権について、知事の所見をお伺いいたします。
 最後に、行政経営改革について伺います。
 都はこれまで、職員定数や給与体系の見直し、監理団体など、外郭団体のあり方や事業評価のシステム構築など、行政のあり方を不断に見直し、改革に取り組んでまいりました。その歴史を振り返ると、鈴木知事の三次にわたる行政改革と退任まで四年間の不断の行政改革、青島知事による行政改革大綱等の行政プランによる行政改革、石原知事時代には危機突破のための行政改革として、第一次、第二次、都庁改革アクションプランと続き、平成十八年には行財政実行プログラムが策定され、三カ年にわたって実行されております。
 都では、新知事就任に当たり、新事業を立ち上げる前段階の露払いとして行政改革プランを策定するということが、半ば慣習として行われておりますが、平成十八年策定の行財政プログラム終了後、新たな大綱は現在、策定、更新されていない状況です。
 一方、包括外部監査では、都政において、合理的な理由がない特命随意契約が毎年指摘されており、新しい改革への取り組みが待たれる事例なども報告をされております。行政機関の簡素化、合理化を目指すのみならず、地域の主体と都庁とが協働して、いかに公共空間を確保していくかということも必要です。
 職員の意識や組織文化の改革を行い、都庁が税金を付加価値の高いサービスに還元できるよう、そして変換できるように、ガバナンスの機能をより強化していくことが必要であると考えます。
 舛添知事は、公約集、東京世界一実行宣言の中で、都庁一丸となった行政の無駄排除を実行するとしております。
 そこで、その工程を見える化するためにも、新たな舛添行革改革大綱を策定することが必要であると考えますが、知事の行政経営改革についての見解を伺い、私からの質問を終わります。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

〇知事(舛添要一君) 野上ゆきえ議員の質問にお答えいたします。
 まず、二〇二〇年オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた持続可能性の構築についてでございますが、オリンピック憲章においては、大会開催について持続可能な開発を促進することが掲げられております。したがって、二〇二〇年大会の開催につきましても、環境への取り組みが求められております。
 そのため、立候補ファイルに掲げました環境を優先するという理念に基づきまして、再生可能エネルギーの積極的な導入や、選手村や会場への輸送手段としての電気自動車や燃料電池バスの活用などを考えております。
 このような取り組みを通じまして、オリンピック・パラリンピックの持つ強力な発信力により、我が国の環境への先進的な取り組みを世界にアピールし、持続可能な社会づくりに貢献していく所存であります。
 続きまして、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピック開催時の横田基地の活用についてご質問がございました。
 東京大会開催により、海外からの来訪者の増加が見込まれます。多摩にとっても、世界中の人々が訪れる機会となります。
 横田基地の民間航空利用は、首都圏の空港容量を拡大させます。同時に、多摩を初め、首都圏西部地域住民にとってメリットをもたらし、地域の活性化にもつながるものであります。
 しかし、この問題は、我が国の外交、安全保障にかかわるものであり、都としても、これまでさまざまな取り組みを行ってまいりましたが、国との連携なしには進展が難しいと思います。
 地元の声も聞きながら、国とともに知恵を絞り、取り組んでまいりたいと思います。
 続きまして、新たなビジョンの策定についてでありますが、私は選挙を通じて、東京を世界一の都市にすることを都民に訴え、知事となりました。都民の負託に応えていくため、東京が直面する課題に真摯に対峙し、まずは現場をこの目で見て問題を見出しながら、個々の政策形成を行っていきたいと思っております。
 ビジョンの策定に当たりましては、少子高齢、人口減少社会の到来など、社会経済状況の変化を見据えながら、解決への道筋を示してまいります。都議会の皆様とも議論を積み重ね、多くの方々の意見を幅広く聞きながら、東京の将来像を描いていきたいと思います。
 次に、都から区市町村への地方分権についてでございます。
 東京を世界一の都市にするためには、都と区市町村が連携を密にしながら、地域が抱える問題にきめ細やかに対応していくことで、東京の魅力をさらに高めていくことが重要だと考えております。
 そのためには、大都市東京の実態や地域特性などを十分に踏まえ、住民に身近なサービスを提供する区市町村と広域的な行政課題に対応する都が、適切に役割を分担していくことが求められております。
 こうした観点から、都はこれまでの平成十二年の都区制度改革により、清掃事業など、特別区に移管するとともに、八王子市や町田市に保健所の事務を移譲してまいりました。そのほかにも、区市町村との協議に基づき、住民に身近な事務の移譲を進めてまいりました。
 今後とも、首都東京を支える重要なパートナーである区市町村と緊密な協議のもとに、基礎自治体が担うにふさわしい事務について、分権の推進に努めてまいります。
 次に、行政経営改革についてでございます。この点のご質問をいただきましてありがとうございました。これまでこの点の議論をやる機会が余りありませんでしたので、いい質問を感謝申し上げます。
 行政は机上の空論であってはならず、さまざまな施策を具体的な成果に結びつけていくリアリズムと実行力が不可欠であります。
 都政運営におきましては、無駄を省き、財源や人材など限られた経営資源を最大限に活用した実効性の高いマネジメントが求められております。
 そのためには、個々の事務事業につきまして、立案から執行、成果の検証、必要な見直しというマネジメントサイクルを通じまして、改革、改善を着実に繰り返すことが重要だと思います。
 都はこれまで、事務事業の抜本的見直し、職員定数の大幅な削減、人事給与制度改革などにより、財政の健全性を取り戻してまいりました。さらに毎年度、事業評価や包括外部監査などの自己改革の取り組みを通じ、個々の事業を丹念に検証し、着実に成果を上げております。
 こうした地に足のついた取り組みの積み重ねにより、問題の本質に迫り、新たな発想や付加価値の源泉としていくことが重要だと考えております。
 今後は、私みずから実際に現場をつぶさに見て、さまざまな声に耳を傾け、都政の現状を見きわめた上で、しかるべき改革の方向を示したいと思っております。
 その他の質問につきましては、関係局長に答弁させます。
〔オリンピック・パラリンピック準備局長中嶋正宏君登壇〕

〇オリンピック・パラリンピック準備局長(中嶋正宏君) オリンピック・パラリンピックにおける木材の利用についてでございますが、施設整備における木材の利用は、日本の伝統文化を反映するとともに、森林の健全な循環を促し、環境の保全に寄与するものでございます。
 都としても、東京都公共建築物等における多摩産材利用推進方針を策定いたしまして、多摩産材の流通や利用拡大などを進めており、これまでに豊洲護岸歩道や産業技術研究センターなどの施設において、多摩産材を使用しております。
 今後、施設の設計等を進める中で、コストや耐久性なども考慮し、広く施設整備における木材の利用について検討してまいります。
   〔環境局長長谷川明君登壇〕

〇環境局長(長谷川明君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、キャップ・アンド・トレード制度におけるテナントビルの省エネ対策についてでございます。
 本制度の対象事業者には大規模なテナントビルが多く、対策にはビルオーナーとテナント事業者の協力が不可欠でございます。そこで、制度構築に当たり、大規模なテナント事業者に対しオーナーへの協力を義務づけております。
 制度開始後、オーナーが設置する省エネ協議会に参加するテナントは九割に上り、また快適性を向上させながら省エネを実現するすぐれた取り組みもあらわれております。この結果、テナント専用部のCO2排出量は、平均で約二割削減されております。
 今後、都は、こうしたすぐれた取り組み事例を広く紹介するとともに、テナント向けの省エネ対策を示した自己点検表の活用を促すなどにより、大規模テナントビルの省エネ対策を着実に進めてまいります。
 次に、デマンドレスポンスの実証事業についてでございます。
 東京に数多くあるテナントビルへのデマンドレスポンスの普及は、使用電力の抑制や電力系統に対する負荷の平準化の観点から重要であります。
 都は今年度、都市開発事業者の協力を得て実証事業を行っており、その結果、夏季のピーク電力を平均一割程度削減できるなどの成果が見られております。
 一方で、テナントビルにデマンドレスポンスを導入するに当たっては、ビルオーナーとテナント間の電力調整に対する合意形成の円滑化などの課題がございます。
 今後は、冬季における検証の結果も踏まえ、ビルオーナーとテナント間の具体的な実施手順など事業モデルを構築し、効果や事業モデルを広く発信することで、デマンドレスポンスの適用事例を拡大してまいります。

〇副議長(藤井一君) この際、議事の都合により、おおむね十五分間休憩いたします。
   午後三時十三分休憩

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