平成二十六年東京都議会会議録第三号

〇議長(吉野利明君) 三十三番里吉ゆみさん。
   〔三十三番里吉ゆみ君登壇〕

〇三十三番(里吉ゆみ君) 初めに、子供の心の医療、児童精神科医療について伺います。
 発達障害や自閉症、統合失調症など、さまざまな子供の精神医療の重要性が認識されてきたのは、この十年来のことです。また、ひきこもりの若者の中にも一定数の精神疾患の患者が存在しているのではないかといわれています。これらの子供たちに対して、早期に発見し、治療、療育を進めることが重要です。
 しかし、現実には、幼児期には療育の場があっても、児童、思春期になると、地域に受け皿となる病院や児童精神科の専門医が不足しているために診てくれる先生がいないという事態が起こっているのです。思春期の子供の精神医療の拡充は、都として早期に取り組むべき課題です。
 知事は、子供の心の医療、児童精神医療の重要性についてどのように認識しているのですか、お伺いいたします。
 国でも、子供の心の医療に取り組む病院や専門医師不足を解決しなければならないと、知事が厚生労働大臣だった年、二〇〇八年度、三年間のモデル事業が始まったのです。国を挙げて子供の心の医療を拡充しようとしているときに、ほかの小児病院と一緒に統合し、都立梅ケ丘病院を廃止した都の責任は重大です。
 都立梅ケ丘病院が廃止され四年になりますが、いまだに行き先が定まらず困り果てている人、地域の診療所に通っていたが病状が悪化した人なども少なくありません。
 梅ケ丘病院に通えなくなってひきこもってしまった発達障害を抱えた方のお母さんからお話を伺いました。府中はやはり遠くて通えなかったし、訪問看護もないので通院は諦めたそうです。世田谷区内の専門病院は一時間近くかかるのですが、訪問看護があるのでそこに通院することにしたそうです。でも、やっぱり数回しか通えなかったそうです。病院とのつながりは、看護師さんの訪問看護だけが頼りだとおっしゃっていました。症状が改善しない中で、この家族は、ついにその専門病院の近くに引っ越しをしました。通院するために、ここまでしなければならないのが現実なのです。
 都立梅ケ丘病院がなくなった後の世田谷区周辺地域、二次医療圏でいえば、区西南部医療圏における児童精神科医療、子供の心の医療体制の充実、底上げを図るべきではないでしょうか。
 そのために、例えば都立松沢病院の敷地内の土地を活用するなり、世田谷区が梅ケ丘病院跡地に進めている保健、医療、福祉拠点施設の整備計画の中で、区と連携するなりして、小児総合医療センターの分院として児童精神科の外来の設置ができないかなど改めて検討するべきです。見解を伺います。
 また、子供はどういう環境の中で育つかが重要です。こうした子供の特徴から、子供の心の診療は医療だけで成り立つものではなく、医療間連携にとどまらず、保健、福祉、教育などとの連携ができるシステムが必要です。
 東京都でも、二〇〇八年度から子供の心診療支援拠点病院事業がスタートしていますが、都はどのように連携を進めるつもりか、見解を伺います。
 また、全国的にも、都内を見ても、児童精神科医師が不足しているために、子供、特に思春期を迎えた児童の通院先がごく一部に限られています。小児総合医療センターでは、いまだに児童精神科の初診は三カ月待ちという状況です。
 児童精神科医療の拡充には、専門医師の確保が不可欠です。都立病院として、児童精神医学を担う医師の育成を進めるべきです。また、都内の児童精神医師の増加に寄与するよう努めるべきです。見解を伺います。
 次に、ひきこもりへの支援について伺います。
 ひきこもりが社会問題として取り上げられるようになってからも十数年になります。都は、二〇〇七年、ひきこもりの実態調査を行い、十五歳から三十四歳のひきこもり者数は、都内だけで二万五千人と推計しました。二〇一〇年に内閣府が行った推計では、十五歳から三十九歳のひきこもりの方は全国で七十万人と推計しています。
 ひきこもりは、本人にとっても家族にとっても本当に苦しいことです。私も、何人もの方からお話を伺っています。ひきこもりの問題は、本人も何とかしなくてはと思う一方、なかなかその一歩が踏み出せない。親は自分の育て方が悪かったのではないかと悩み、誰にも相談できず抱え込んでしまうことも少なくありません。そして、そのまま何年も経過してしまい、余計、社会復帰が困難になってしまうのです。
 この問題は、本人にとっても家族にとっても深刻な問題であるだけでなく、社会にとっても大きな損失です。
 知事も厚生労働大臣時代に、この問題は、本人も苦しむ、家族も苦しむ、大変複雑な問題を抱えております、関係省庁とも連携をとりながら、このひきこもり対策、厚生労働省として正面から取り組んでまいりたいと思いますと答弁をしています。
 ひきこもりの問題は、都としても正面から取り組むべき重要課題だと思いますが、知事としての認識を伺います。
 この間、都の施策を見ますと、二〇〇四年度から相談事業を開始し、二〇〇七年からひきこもり実態調査、支援団体の実態調査、支援プログラムの検討開発など集中的に取り組み、二〇〇八年には、ひきこもりセーフティネットモデル事業やNPO法人などが行う東京都若者社会参加応援事業が始まりました。
 しかし、ようやく軌道に乗り、さらに拡充をというときに、都は予算を削ってしまいました。はしごを外された思いとの声も上がっています。
 我が党都議団は、都内の全自治体を対象に、ひきこもり状態にある者への支援に関する調査を行いました。その結果は、回答のあった五十三自治体の中で、現在何らかのひきこもり支援を行っている自治体は三十七、約七割ありました。しかし、事業内容を見ますと、相談事業や家族向けの懇談会などのところが多く、当事者への支援、居場所や社会体験事業などを行っているところは、全体の一割程度しかありませんでした。
 そうした中で、今もひきこもりの困難を抱え、苦しんでいる人たちが一日も早い救いの手を待っているのです。
 先日、かつてひきこもりだったという二十代の方からお話を伺ってきました。彼は、中学時代に自分に自信が持てなくなって学校に行けなくなったそうです。何度か心機一転、決意をして外に出ても、途中でうまくいかずにまたひきこもる、このことを繰り返していました。
 例えば、フリースペースに一時間以上かけて母親と一緒に通ったけれど、月一回がやっとなのに、何回通っても月一万円という費用負担もあり、けがをきっかけに行けなくなったそうです。
 その後、通える範囲にひきこもりの支援のNPO法人がオープンしたのを知り、通うことにしたそうです。最初は週一回フリースペースに通うことから始め、一年くらい通う中で定時制高校に入学したり、社会体験活動に挑戦するなど、少しずつ活動の場を広げ、二年かけて、今ではアルバイトができるまでになったそうです。
 この方の場合、近くに通える場所があったからよかったのですが、都内の状況を見ると、こうした施設は圧倒的に不足していますし、自治体の支援もNPO法人などの支援も地域によるアンバランスが大きいのが問題です。
 自治体やNPO法人などの支援団体からは、ひきこもり支援の窓口を設置したい、居場所づくりや中間的就労支援に取り組む必要がある、支援を拡充したいという声が出されています。
 こうした声をどう受けとめ、今後、都としてどのような取り組みを進めていくのか伺います。
 また、長期間ひきこもっている方は、みずから相談に出ていくことは非常に困難です。ひきこもり支援の入り口として極めて重要な、自宅などに直接訪問する訪問活動、アウトリーチ支援を進めていくべきだと考えますが、見解を伺います。
 子ども・若者育成支援推進法に基づき、都でも子供・若者支援地域協議会が設置されました。この協議会は、ひきこもり、ニート、不登校など、社会生活を円滑に営む上での困難を抱える子供、若者への支援等について、都の施策のさらなる充実と区市町村、関係団体との連携強化を目指すことを目的に設置されました。先日、第一回目が開催され、活発な議論がされたと伺いました。
 今後、当事者や親の会の方々など、現に困っている方にも参加していただき意見を聞くべきです。また、都の施策のさらなる充実を目指すという点では、大いに各参加団体の要望なども聞き、施策の充実に努めるべきです。
 これから都として、子ども・若者育成支援推進法をどう具体化するのか、また、協議会をどのように運営する予定か伺います。
 最後に、ひきこもりの長期化、高齢化への対応について伺います。
 町田市が年齢制限を設けず実態調査を行ったところ、四十代以上も一定数いたことがわかりました。また、都内のあるひきこもり親の会の方に伺いますと、参加しているお子さんは三十四歳以上が四割、四十歳以上でも一割もいるそうです。
 都のひきこもり支援の施策である若者社会参加応援事業の対象が十五歳からおおむね三十四歳までという年齢制限は、実態に合わなくなっているのではないでしょうか。
ひきこもりが長期化したときの対応、年齢制限を超えた方への対応はどのように考えているのか、都の見解を伺います。
 知事は施政方針表明の中で、都民の大きな負託に応えるため、さまざまな意見に耳を傾け、声なき声にもしっかり耳を澄ましてまいりますとおっしゃっています。
 ひきこもり当事者や親などの声に応えて、ぜひ、ひきこもり対策に取り組むよう求め、質問を終わります。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

〇知事(舛添要一君) 里吉ゆみ議員のご質問にお答えします。
 子供の精神医療についてご質問がございました。
 全ての子供は、日本の未来、宝であります。その健やかな育ちを支えることは、行政はもとより、社会全体が連携して取り組むべき課題であると考えております。
 心の健康は子供たちの成長にとって欠かすことのできないものであり、精神医療はこれを守り支えるものと認識しております。
 残余の質問につきましては、関係局長に答弁させます。
   〔病院経営本部長醍醐勇司君登壇〕

〇病院経営本部長(醍醐勇司君) 二点のご質問にお答えします。
 まず、児童精神科外来の新設についてでありますが、これまで進めてまいりました都立病院改革では、限られた小児の医療資源を最大限に有効活用するため、清瀬、八王子、梅ケ丘の小児三病院を統合し、都における小児医療の拠点として、小児総合医療センターを整備いたしました。
 同センターは、都全域を対象として、心から体に至る高度専門的な医療を提供しておりますが、加えまして、小児医療を重点医療としている区部の大塚病院にも児童精神科外来を設置し、連携を図っているところであります。
 したがいまして、新たな外来設置は考えておりません。
 次に、児童精神科医師の育成についてでありますが、都立病院では、平成二十年に開講した研修医制度である東京医師アカデミーにおきまして、既に児童精神科専門医の育成にも取り組んでおります。
 児童精神科医師を育成している病院が全国的に少ない中、同アカデミーにおきましては、これまで十八名の医師を育成し、うち十三名が都立病院、公社病院を初めとする都内の病院に就職するなど、都における児童精神科医療の充実に寄与しております。
   〔福祉保健局長川澄俊文君登壇〕

〇福祉保健局長(川澄俊文君) 子供の心診療支援拠点病院事業についてですが、都は、さまざまな子供の心の問題や被虐待児の心のケア、発達障害などに対応するため、平成二十年度に拠点病院を指定し、関係機関が連携して子供を支援する体制の構築を図っております。
 現在、拠点病院である都立小児総合医療センターでは、医療機関、保健所、児童相談所、児童福祉施設、教育機関などからの相談に助言を行うほか、小児精神科治療に関する連絡会や関係機関の職員を対象としたテーマ別の研修を実施し、連携強化に努めているところでございます。
〔青少年・治安対策本部長河合潔君登壇〕

〇青少年・治安対策本部長(河合潔君) 五点の質問についてお答えいたします。
 ひきこもり対策に関する都の認識についてでありますが、ひきこもりとは、就学や就労の際の不適応や人間関係等が原因で、自宅に六カ月以上閉じこもり、社会との接点を持てない状態であります。
 こうした状況が長期化すれば、本人にとって、就学や就労ができないなど自立と社会参加への機会が失われ、また、家族にとっても精神的、経済的に大きな負担がかかり、さらには、ひきこもりがふえることで、社会の活力の低下につながるおそれがあります。
 都は、ひきこもりの解消や自立への支援といった対策が大変に重要であると認識しておりまして、早期に適切な支援につなげていくため、今後とも、区市町村やひきこもり支援を行っておりますNPO法人等と連携して、地域における支援の充実を図ってまいります。
 次に、ひきこもり支援の充実についてでありますが、ひきこもりに陥る原因はさまざまであり、その支援も個々の事例に即したきめ細かな対応が必要であります。
 そのため、住民に身近な地域での支援を充実する必要があり、区市町村における取り組みの促進と、ノウハウを持つNPO法人等の育成が不可欠となります。
 そこで都は、区市町村の担当職員を対象とした情報交換会や実務研修を実施しております。また、ひきこもり支援を行っているNPO法人等の団体に、支援技術や経営能力の向上を図る講習会等を開催してまいりました。
 今後とも、こうした地域への支援事業を通じて、ひきこもり支援のさらなる充実を図ってまいります。
 訪問支援、いわゆるアウトリーチについてでありますが、ひきこもりの若者は、みずから助けを求めることが少ないため、外部の支援機関に結びつけることが困難な場合が多いことから、地域でのひきこもりの実態に即した訪問支援は有効な支援策となります。
 そこで都は、従来の相談支援に加え、国の補助制度を活用した訪問支援を来年度から取り組んでまいります。
 子ども・若者育成支援推進法の具体化及び子供・若者支援地域協議会の運営についてでありますが、都は、子ども・若者育成支援推進法の具体化として、全ての子供、若者の健やかな育成並びに社会生活を円滑に営む上で困難を有する子供、若者への支援についての総合的な計画であります、子供・若者計画の策定を予定しております。
 また、子供・若者支援地域協議会の運営につきましては、子供、若者施策の推進に当たり、子供、若者自身を含めた国民の意見聴取を適切に行う旨、国の方針が示されていることを踏まえまして、子供、若者の実情に詳しいさまざまな関係者から幅広く意見を聞いてまいります。
 最後に、ひきこもり対策の対象年齢についてでありますが、ご指摘の若者社会参加応援事業は、ひきこもりの若者を支援する民間団体の実態調査をもとに、十五歳からおおむね三十四歳までの若者層を主な対象としております。
 こうした年齢設定の趣旨は、本来、ひきこもりの問題を抱える若者を早期に適切な支援につなげ、ひきこもりの状態が長期化することを未然に防ぐものであります。
 これに対して、ひきこもりが長期化して対象年齢を超える場合には、本事業にかかわる団体が実情に応じて柔軟に対応してきたところでありますが、都が事業の対象とならない事例について相談を受けた場合には、個々の状況に応じて就労、福祉や保健、教育等の関連する専門機関を幅広く紹介しております。

〇議長(吉野利明君) この際、議事の都合により、おおむね十五分間休憩いたします。
   午後二時五十五分休憩

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