平成二十六年東京都議会会議録第三号

〇副議長(藤井一君) 七十四番早坂義弘君。
   〔七十四番早坂義弘君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

〇七十四番(早坂義弘君) 知事、ご当選おめでとうございます。
 私は、舛添知事の選挙公約、史上最高のオリンピック・パラリンピックという言葉に強い共感を持ち、支援させていただくことを決めました。と申しますのも、昨年三月の予算特別委員会で、二〇二〇年東京オリンピックは、オリンピックの歴史に残る最高のものであってほしいと私は当時の知事に対して強く訴えたからです。
 その観点から、二〇二〇年オリンピック・パラリンピック開催に向け、東京が目指すべき都市像について伺います。
 私ごとですが、昨年十月に大腿骨骨折という大けがをし、松葉づえの生活を二カ月間、余儀なくされました。病院のリハビリ室では松葉づえを使ってうまく歩けるのですが、一歩病院の外に出るとうまく歩けない。これには幾つか理由があります。
 その一つは、かまぼこ道路にあります。すなわち、雨水の排水をよくするため、道路は中心部分が盛り上がり、両端が下がっている構造になっています。そこを松葉づえを使って歩くと、体は右か左に大きく傾くのです。
 また、松葉づえは真っすぐ下にではなく、肩幅よりも横に広げて使います。したがって、車が一台ようやく通れるような狭い道では、向かってくる自転車や放置自転車にもよく気をつけないと、松葉づえがぶつかりそうになります。
 さらに、信号機が設置されている横断歩道にも苦労いたしました。歩くスピードが遅いので、一遍には渡り切れないのです。やむなく中央分離帯に引き返したことが何度もありました。
 幸いに、今日、私はつえの生活から離れることができましたが、そう遠くない将来、私自身が高齢者となれば、いつかまた、つえの生活に戻ることになるでしょう。今回の私の経験は、高齢社会がどういうものであるかを身をもって体験する、そして、今後、私たちが目指すべき社会のあり方を考える上で、かけがえのないものとなりました。
 申し上げるまでもなく、オリンピックが他のスポーツ大会と大きく異なるのは、その国の歴史に与える影響力です。つまり、史上最高のオリンピック・パラリンピックというからには、開会式の演出をどんなものにするかだけでなく、このオリンピック・パラリンピックを契機に、東京を今以上にどう魅力的にするのか。ひいては、どんな世界一の都市にするのか。その目標こそが問われているのです。
 世界史上、類を見ない速さで高齢化が進む我が国において、二〇二〇年東京オリンピック・パラリンピックで目指すべきものは、私は、高齢社会にふさわしいバリアフリー社会の構築だと考えます。
 平成二十三年一月、JR山手線目白駅で全盲の男性が誤ってホームに転落し、死亡いたしました。
 同じく七月には、東急田園都市線つくし野駅でも同様の死亡事故がありました。
 日本盲人会連合の調べによると、視覚障害者の四〇%が電車のホームから転落したことがあるとのことです。東京都盲人福祉協会の笹川会長さんにお話を伺うと、私は三回落ちました、我々盲人にとって転落はつきものです、そこに電車が来るかどうかは全くの運任せ、私はたまたま運がよかったので命があるのですとおっしゃっていました。知事も私も政治家同士、落ちることには殊のほか敏感にならざるを得ません。
 そこで、鉄道ホーム柵の設置を急ぐべきなのは当然のことです。ですが、その完成をただ待ち望むだけでいいのでしょうか。なぜなら、私たちは史上最高のオリンピック・パラリンピック、そして世界一の都市を目指しているからです。
 先ほどの笹川会長のお話によると、欧米ではホーム柵の設置はほとんど進んでいないそうであります。では、転落死亡事故が多いかというと、必ずしもそうではない。ホームにいるお客さんが、白いつえを持った盲人を見つけると、誰かがすっとそばに駆け寄り、誘導するからであります。
 結論を申し上げれば、ホーム柵の設置も大事、そして、たまたまそばにいる人が気を配ることも大事。二〇二〇年オリンピック・パラリンピック開催を契機に、その両者がうまく機能して、東京では盲人の転落死、いや、転落そのものが一件もなくなった、そういう結果を社会全体でかち取ることの方が、地下鉄一元化の議論より、都民にとってはるかに有益であるに違いありません。
 先ほどの私自身の体験に戻りますが、初めのころには車椅子の生活をいたしました。病院は当然バリアフリーになっており、あらゆるところに車椅子用のスロープが設置されています。しかし、車椅子は、いざ使ってみると、相当に腕の力を必要とします。すなわち、スロープの距離が少し長かったり、傾斜がきつかったりすると、スロープを上るのにはかなりの困難を感じるのです。
 四十五歳男性の私でもそう感じるのですから、お年を召された皆さんがどれほど大変かは、簡単に想像がつきます。
 しかし、たまたまそこを通りがかった人がちょっと車椅子を押してくれるだけで、そこにある障害は劇的に解消されます。つまり、福祉のまちづくりというハード、施設整備に魂を入れるのは、私たちのハート、真心にほかなりません。ハードとハートであります。
 昨年のIOCブエノスアイレス総会では、おもてなしがアピールされ、多くの皆さんの共感を獲得しました。しかし、あえて意地悪な見方をすれば、おもてなしとは外からのお客さんを迎えるときのものです。
 では、オリンピックを迎える私たち都民自身が、オリンピックに向けて共有すべき理念は何か。実は、それこそがハート、真心なのだろうと思います。
 二〇二〇年オリンピック・パラリンピックを契機に、世界一の都市を目指す。それは世界中の人々がうらやむという外からの評価、あるいはシンクタンクが発表する世界都市ランキングで一位になることも重要でしょう。ですが、それが私たちの目標ではありません。
 私はハード重視でも、ハート重視でもなく、その両者がぴったりと結びついた都市こそ、私たちが目指すべき世界一の都市にふさわしい目標だと考えます。二〇二〇年オリンピック・パラリンピックを契機に、その両者をともに充実させてこそ、東京は世界一になったと私たち都民自身が実感できる都市に成長するのだと思います。
 そこで、私の考える、こうした都市像に対する知事のご見解を伺います。
 さて、オリンピックの開催に向けて、新たな交通体系の構築も急務です。
 車中心の社会から、電車とシェアサイクルを乗り継ぐような、健康と環境に配慮した自転車を中心とする交通手段の提案も、世界一の都市にふさわしいものだと考えます。
 一方で、放置自転車や交通事故など、自転車をめぐるさまざまな課題も指摘されています。今後、例えば自転車レーンの整備など、どんなにハードが整ったところで、安全運転を心がける私たちのハートがそこになければ、事故は防ぎようがありません。
 今日、ナンバープレートやデポジットなど、幾つかの提案がなされていますが、それらの施策の展開には、安全対策が前提でなくてはなりません。
 そこで、自転車の安全利用に対する取り組みについて伺います。
 次に、防災について伺います。
 災害に強い都市をつくるためには、民間の知恵や技術を活用することが不可欠です。都内の中小企業の中には、高い技術やノウハウを生かして、遠隔操作型の救助ロボットなど、新たな製品開発に取り組む動きもあります。また、大学や研究機関ではさまざまな研究が進んでいます。
 今回の補正予算では、先進的防災技術実用化支援事業が目を引くところですが、その具体的内容について伺います。
 さて、ことしの冬では、二週間続けての大雪が記憶に新しいところです。降雪が二回とも土曜日だったこともあり、幾つもの学校で休校の判断がなされました。
 二回目の大雪の日、都立学校に通う息子は、交通機関のおくれを見越して、いつもより早目に登校しました。しかし、休校を知らせる電話連絡網が同級生のお母さんから回ってきたのは、息子が出かけたはるか後、授業開始のわずか十分前でした。さらに、授業開始から二時間後に、PTAからのメールで休校のお知らせが届きました。
 問題は幾つもありますが、ここでは二つだけ取り上げます。
 一つ目は、休校の判断が遅かったのではないかということです。
 学校を休校にするのは、登校の際に生徒の安全が確保できないからです。であるならば、その決定を急ぎ、かつ周知させなければ、生徒が登校してきてしまう。今回の判断のタイミングでは、そうした休校にする意義を失わせるものだったといわざるを得ません。
 二つ目は、連絡手段です。
 もはや高校生の九割以上が携帯電話を持つ時代に、どうして何十年も変わらない方法で、家に電話連絡網を回すのでしょうか。学校が保護者と生徒の両方に携帯メールを送るなど、ありとあらゆる手段を使って、決定を周知する手だてを尽くすべきです。
 三年前の東日本大震災では、多くの児童生徒が犠牲となりました。学校の裏には小高い山があるにもかかわらず、地震発生後、五十分間も児童たちを校庭に待機させ、その結果、全校児童の七割、七十四人が津波に巻き込まれ死亡した宮城県石巻市立大川小学校の悲劇は、教員の判断のおくれによる人災だったとも指摘されています。
 とっさの判断が子供たちの生死を分けるというのが、私たちが東日本大震災から学んだ教訓であったはずです。
 四十五年ぶりの大雪という想像を超える状況であったことは、個人としてはわかります。ですが、それは大雪も津波も同じこと。ある場面に遭遇した場合に、それを危機だと知らせる警報が、とっさにその人の頭の中に鳴り響くのかどうか、それこそが問われているのです。
 防災とは、災害が発生した後の迅速な復旧、復興のことではありません。防災とは、そもそもの被害を最小限に抑えることだと私は信じています。そのことを考える上で、今回の大雪は貴重な経験となりました。
 その観点から、都立学校における災害時の危機管理を今後どう考えるのか伺います。
 ありがとうございました。(拍手)
   〔知事舛添要一君登壇〕

〇知事(舛添要一君) 早坂義弘議員のご質問にお答えいたします。
 まず、議場を走れるぐらいにご回復なさったというのは大変うれしく思っております。そういう車椅子とか松葉づえの体験というのは、これは本当にバリアフリー社会をつくるための前提になると思いますので、大変貴重なご体験であったと思います。
 目指すべき都市像についてのご質問がございました。
 私は、この東京を、全ての都民が、ここで生まれ、生活し、働き、老後を過ごせて本当によかったなと思うことができるような都市にしたいと考えております。
 そのためには、ハード、ソフトの両面から、障害者や高齢者等が安全、安心、快適に過ごすことができるまちづくりが必要でありまして、お話の言葉をおかりすれば、ハードにハートがこもった都市づくり、これが必要だと考えております。
 本来、日本には、他者を思いやり、尊重し、互いに助け合って生活する伝統がございます。
 例えば、先日の大雪の際にも、立ち往生した電車の乗客や国道で足どめに遭った車の運転手に、周辺の住民が郷土料理を提供する、そういう光景が各地で見られました。
 こうした、日本人が生来備えている相手を思いやる気持ちを、二〇二〇年に向けたまちづくりにつなげていきたいというふうに思っております。
 そのバリアの中に、外国人にとっては日本語というバリアがありますので、これも、例えば外国人おもてなし語学ボランティアというものを育成して対応したいというふうに思いますし、そのために来年度予算にその手だてを施してあります。
 今後、これらを大きく育て、東京を思いやりに満ちた世界一の都市にしていきたいと思っております。
   〔教育長比留間英人君登壇〕

〇教育長(比留間英人君) 都立学校における危機管理についてでありますが、災害や異常気象の際、学校長は、警戒警報の有無や交通機関の状況などのさまざまな情報を踏まえ、授業を予定どおり行うか否かを決定し、速やかに周知する必要があります。
 先月十五日の大雪では、学校長等による交通機関の乱れの把握がおくれたため、休業の通知が伝わらないまま一部の生徒が登校した学校がございました。
 都教育委員会は、今回の事例を踏まえ、学校長が必要な時期に的確な判断を行うために必要な情報とはどのようなものかを、具体的に各学校に示してまいります。
 また、連絡体制については、連絡網やメールサービス、ホームページなど、各校の実情に応じた多様な方法を用いて、迅速かつ確実に児童生徒や保護者へ必要な情報が伝わるよう指導し、学校における危機管理に万全を期してまいります。
〔青少年・治安対策本部長河合潔君登壇〕

〇青少年・治安対策本部長(河合潔君) 自転車の安全利用についてお答えいたします。
 ご指摘のとおり、自転車の利用が促進されるためには、利用者一人一人の安全意識の醸成とルールにのっとった正しい実践が必要であります。
 そこで、都は、本年一月、自転車安全利用推進計画を策定し、自転車の安全利用に向けた社会全体の具体的な取り組みを明らかにしたところであります。こうした安全利用につきましては、ナンバープレート制度、デポジット制度、こういったことも有効であると考えておりますが、導入には、自転車は車両であるとの認識の徹底と、車両管理のあり方についての社会的な議論を踏まえる必要があると考えております。
 このため、都は、この計画に基づき、まずは家庭、学校、事業所等における安全教育を一層充実させることなどにより、自転車が安全に利用される都市を目指すこととしております。
   〔産業労働局長塚田祐次君登壇〕

〇産業労働局長(塚田祐次君) 防災技術の普及促進についてのご質問にお答えいたします。
 都内中小企業が高い技術力を発揮して災害対策に資する製品を開発することは、東京の防災力向上につながるとともに、産業を活性化する上でも重要であります。
 このため、都は、来年度より、先進的防災技術実用化支援事業を開始し、新規性の高い防災技術の製品化に取り組む都内中小企業を支援いたします。
 中小企業振興公社に十二億円の基金を創設し、試作品を実用化するための実証実験や改良に要する経費の三分の二について、一千万円を限度に助成を行います。また、実用化後は展示会出展経費を助成するとともに、製品を率先して導入するユーザーの負担軽減も図ります。
 こうした取り組みにより、中小企業によるすぐれた製品の開発と普及を促し、災害に強い都市の実現につなげてまいります。

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