平成二十五年東京都議会会議録第三号

   午後五時四十分開議

〇議長(中村明彦君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 五十一番笹本ひさし君。
   〔五十一番笹本ひさし君登壇〕

〇五十一番(笹本ひさし君) 初めに、知事の国家観、領土に対する考え、安全保障を踏まえ、東京における米軍基地との関係など、知事の政治姿勢についてお伺いをいたします。
 昨年、東京都が尖閣諸島を購入しようとしたことで、多くの方から寄附金が寄せられました。国家、領土を守ろうという多くの方々の思いを感じました。
 さて、ここで知事にお伺いしたいのは、国を守るということを強く意識した国家観、海洋国家である日本、そして東京が領土に対してとるべき態度と考え、日米同盟、安全保障を踏まえて米軍基地への考えについてです。
 強気な国家の姿勢というのは、軍事力の誇示や声高な姿勢ではないはずです。いかなる政権であろうが、周辺諸国が日本の発言に対し、耳を傾け認められる態度をとることでしょう。
 軍事アナリストの小川和久氏は、講演の中で、海に守られ島国で生きてきた日本は、アメリカに占領されるまで危機に遭遇した経験がなく、危機に対するセンスを備える機会を持ち得なかったといいます。外交、安全保障、危機管理が得意とはいえないのに、日本でしか通用し得ない論理をいい続けては日本は滅びてしまう。領土問題を対処してこそ一人前の国家と述べております。
 都内には横田基地を初めとする八カ所の米軍基地及び施設があり、米軍専用施設の面積は一千三百二十ヘクタール、味の素スタジアム三百七個の広さに相当し、日本の米軍基地の四・三%に相当します。国家を防衛する尺度は軍事力にいいかえられますが、小川氏によれば、日本の安全と平和の実現には自衛隊と日米同盟の二つが柱となって実現ができるとし、日米同盟の理解こそが肝要と述べております。
 アメリカは、インド洋のすべて、太平洋の三分の二の海と沿岸で活動する米軍を日本列島の基地が支え、自衛隊との役割分担ができています。このような戦略的根拠地としてアメリカを支えることができるのは日本以外存在し得ません。経済や資金などの国力が充実した国家でしか不可能です。かりそめにも安全保障をやめてしまうと、アメリカは地球の半分の八〇%の軍事力を下支えする能力を失うことになり、現実的ではありません。ロシア、中国、韓国、インドがアメリカの意向に一目置く根拠ともいえるでしょう。アメリカが日本を戦略的根拠地として軍事力を配備、展開していることを周辺国は理解していないわけはありません。
 以上を踏まえ、三点についての質問です。
 一つ目は、日本が平和的な国際関係を保ちながら国を守るということを意識した国家観、二つ目は、海洋都市である東京が領土に対してとるべき態度と考え、三つ目は、日米同盟、安全保障を踏まえて、東京に所在する米軍基地に対する知事の基本的な姿勢について見解を伺います。
 二つ目は、作家でもある知事は、日本の未来を切り開くかぎは言葉の力と明言をされます。私に言葉の力が備わっているかはともかく、読書によって言葉の力を養うことにつながるという言葉をかみしめ、知事の著作「東京レクイエム」を拝読し、質問をさせていただきます。
 私は、個人的には、三島由紀夫伝の官僚機構の歴史や、現実などに深く切り込んだ、近代日本の挫折である原敬暗殺についても書かれた「ペルソナ」に聞きどころがあるのですが、今回はまちづくり、都市計画の点から質問いたします。
 「東京レクイエム」より抜粋、引用をご紹介します。多分一番早く未来にたどり着くのは、ニューヨークやパリやロンドンではなく東京かもしれない。欧米の都市は余りに正しいプロセスを踏み過ぎている。初めに過去があり、さらに未来が展望されているように。東京にはそうした時間軸が希薄である。都市計画のない大都会では、進むこと戻ることは瞬時に入れかえができるといわれています。
 さらに、東京になぜか都市計画が育たないかということの回答は困難だとし、政策もまた文化の反映なのだから、一筋縄ではいかないといっています。欧米の都市に共通しているのは、王の権力集中が結果的な都市づくりの基礎を提供してきたとしています。
 そこでお伺いするのは、東京の無秩序を秩序ある都市へと変貌させていくのは、都市計画を着実なものとして実行、育てることとしています。政策は、文化の繁栄とは近代民主主義の理念にも符合するでしょう。
 日ごろから迅速な政策の具体化を標榜される知事ですが、一方、都市計画の具体化には膨大な時間がかかります。これに関して知事の所見を伺います。
 次に、児童相談所の事務移譲、移管について伺います。
 知事は、施政方針の中で、東京を世界一の都市に押し上げる政策展開で、雇用就業支援において施策の効果を最大限に発揮するためには、一体となった展開が不可欠と明言されました。そのために、国のハローワークの持つ職業紹介機能の移管に向け戦略的に取り組むとも宣言をされています。
 二〇一〇年、江戸川区では小学校一年生の児童が両親からの暴行による虐待死亡事件が起きました。小学校、子ども家庭支援センター、児童相談所、相互の連携不足が原因による事件として報告されました。
 児童相談所は、都区のあり方検討委員会では移管の方向性が一致したが、事件をきっかけに区長会から、連携不足などあってはならない事故が発生したとして、早急に区に移管して体制を整えるべきとし、先行移管を都に提案、要望をしました。
 児童相談行政のあり方については、それを担う都と区が協力し、都区間や体制などについて幅広く検討すべき課題となりました。このため、都区のあり方検討委員会とは切り離れて別途整理されていくことが確認され、六回の部会と二回の検討会により議論が重ねられ、現状確認や問題意識の共有などが図られてきたといいます。
 第三十次地方制度調査会専門小委員会では、大都市制度のあり方について、児童相談所については区の意向に沿った考えが示されました。事務移譲、移管については、調査会が都から区に移譲すべき事務として児童相談所などを示し、専門職確保などの観点から、小規模区の間で連携をするなど工夫して移譲が考えられるとの意見が示されました。区長会側も、特別区という制度のもとでスムーズな意思決定が可能となると調査会の案を歓迎しました。
 複雑で深刻化する環境を専門的、広域的に対応できる環境整備を進めることは区市町村には不可欠と思いますが、子どもを取り巻く環境が緊迫していたり命の危険にさらされるような深刻な事案が存在する以上、スピード感のある都政改革が望まれています。
 ハローワークにおいては、都は、一体となった雇用政策を実現のために、国の持つ機能の移管に戦略的に取り組むということですが、児童相談所の行政機能と子ども家庭支援センターの機能など、仕事の流れの一体化は迅速な政策効果の発揮に寄与すると思います。児童相談所の特別区への事務移管、移譲について見解を伺います。
 次に、木密地域不燃化特区制度についてお伺いします。
 知事は予算案発表時に、不燃化特区五十カ所ということ自体が本格的にやるというメッセージと述べ、また施政方針においても、スピード感ある解消は急務としました。首都直下地震の発生確率がいわれる今、木密地域不燃化特区十年プロジェクトの着実な実行は防災対策の最優先と思います。先行実施地区に選定された十一区の十二地区では、事業化開始に向けて都区が一体となった整備プログラムが進められ、今後も都区の連携は事業の成否にかかわってくると思います。
 江戸川区の先行実施地区、南小岩七丁目、八丁目周辺地区は、JR小岩駅再開発事業をコア事業として不燃化対策を推進されています。また、境界線となる千葉街道と柴又街道が特定整備路線に指定されており、不燃化特区との相乗効果で木密地域の整備が加速されることに期待をします。
 先行実施地区の要項の見直しに当たっては、地元区からの意見が出されたと仄聞します。都区の連携、コミュニケーションに事業の成否がかかってきます。
 そこで、今後の不燃化特区を拡大させていくために、区の要望等も踏まえて取り組みやすい制度にしていくことが必要だと思いますが、都の見解をお伺いします。
 次に、京成本線高砂駅から江戸川駅間の連続立体交差の事業化についてお伺いします。
 都が施行する連続立体交差事業は現在八区間で事業中であり、間もなく事業に着手予定の準備中の区間が三区間ありますが、事業区間のうち、多くは今後数年間で事業完了の見込みとなっております。
 事業中の八区間には、京成押上線の押上駅から八広駅間と四ツ木駅から青砥駅の二区間も含まれていますが、それぞれの区間については、既に高架化に着手した区間や事業に必要な用地取得を進めている区間があります。
 一方、京成本線高砂駅から京成小岩─江戸川駅間については、平成二十年度の事業候補区間の一つに位置づけられ、東京都では平成二十一年度から二十三年度までの三カ年にわたり、国庫補助を受けながら連続立体交差事業に向けた調査が実施をされました。
 周辺まちづくりにおいても、十年以上にわたって調査検討を進め、機運を醸成するなど、一体となった取り組みを展開してまいりました。
 あわせて、事業化に当たって最大の課題とされてきました高砂車庫の移転については、平成二十二年度に、移転先や移転規模などについて、葛飾区、京成電鉄の関係者間でより現実的に検討がなされていると聞きます。
 財源の見通しができれば高砂車庫の移転の問題は前に進めると考えます。京成小岩駅周辺まちづくり協議会では、平成二十三年度にまちづくり構想を策定するまでに至っています。
 東京都として、京成本線高砂駅から江戸川駅間の連続立体交差化の事業化について、今後の展開及び事業化への課題についてお伺いします。
 次に、東部低地帯における水害、高潮対策について伺います。
 東部低地帯には人口約三百万人が、そのうち満潮面以下であるゼロメーター地帯には半数の約百五十万人が生活しています。この地域は、万が一の高潮や河川の増水、地震による護岸堤防の決壊などで甚大な被害が予想されます。
 また、近い将来の脅威として、東京湾北部断層に由来する直下型地震の際の津波、高潮は大きな脅威です。
 都では早くから、堤防、水門整備を進め、東日本大震災を踏まえ整備計画も策定しました。
 そこで、東部低地帯における河川高潮対策並びに地震津波対策について、現状と今後の取り組みについて伺います。
 最後に、都立篠崎公園の整備方針について伺います。
 東京都は、篠崎公園を盛り土により高台化し、防災拠点としての整備を進めることを発表しました。今後、防災面についての整備計画はどのようになっているのか、見解をお伺いします。
 以上で質問を終わります。(拍手)
   〔知事猪瀬直樹君登壇〕

〇知事(猪瀬直樹君) 笹本ひさし議員の一般質問にお答えします。
 国防や領土に関する認識についてでありますが、日本にとって良好な国際関係の中で平和と独立を維持することが国家存立の基本であることは自明の理であります。アジア太平洋地域の安全保障環境が厳しさを増す中、日米安保体制は我が国の安全とともに地域の平和と安定にとって不可欠なものであり、在日米軍基地はその一翼を担うものと認識しています。
 一方、防衛上の必要性や地域への影響の観点から、基地の整理、縮小、返還も絶えず検討されるべきであって、こうした認識のもとで、東京都では、多摩地域にある米軍のゴルフ場やキャンプ施設などについては速やかに返還を求めています。
 また、横田基地については、地域の発展に資する軍民共用化を推進するとともに、これは大事なんですが、航空主権の観点から、米軍が管理する広大な横田空域は速やかに返還されるべきものと考えています。
 航空主権というものは日本に与えないというのがアメリカの占領政策でありまして、日本に飛行機を持たせたら怖いという、そういう感覚があるんですね。ですから、航空主権を制限してきて、実際にかなり、日本の空域は米軍からまだ返還されていません。
 YS11、昔ありましたが、あれは結局アメリカにやめさせられたような側面もあります。ボーイング787、今回新しい飛行機ができましたが、部品はかなり、ほとんどが日本であっても、とにかくその飛行機そのものは日本のものではない、全体はアメリカのものであるというふうな考え方で、日本に航空主権を全面的に渡さないというのがアメリカの占領政策の延長だというところは、これは非常に重要な考え方として僕は持っています。
 ここはこれから大事な、横田空域の返還をさらに求めていきますけれども、国がちゃんと独立しているということを証明する必要があるためにも、航空主権は取り戻すべきだと、こういうふうに思っています。
 最後に、領土、領海についてでありますが、東京都の島しょ地域は日本の排他的経済水域の約四割を占めており、我が国の海洋権益を守る上でも重要な役割を果たしています。
 漁業を初め、島しょ地域の振興を図ることは、国益の維持、領土の保全にも資するものと認識しています。
 次に、東京の都市づくりについてでありますが、ヨーロッパの諸都市においては、王の権力の集中によって、絶対王政ができることによって結果的に計画的な都市づくりの基礎が提供されている。翻って東京はどうかといえば、都市の急膨張に私鉄のビジネスモデルが合致して、鉄道沿線に巨大な都市ができていくという、そういう形での近代都市が形成されたわけです。
 東京を、そういう意味では独自の、無秩序といえば無秩序、独自の秩序であるといえば独自の秩序でありますが、そういう、東京には、ある意味ではいろんなものをそしゃくして飲み込む能力は、ヨーロッパの都市よりも東京の方が深い力があるというふうに思っています。
 ヨーロッパの都市は、基本的には左右均衡、人工的、芝は刈り込むと、こういう形で自然を制御する。日本の庭園を見ればわかるけれども、日本の庭園は、ある意味では左右均衡ではなくて、あえてアンバランスにしている。これは日本文化ですから、ヨーロッパ近代文化と日本の都市の発達というのは、微妙に重なり合いながら、東京という独自な、世界でもまれな、そういう大都会が生まれたと、そういう認識であります。
 それで、そういうためには──自由度は非常に高いわけです。ただ、自由度の高いところで都市計画を定めるにはいろんな問題もあるけれども、だから民間の資金やアイデアを生かして、これから迅速に市街地の更新を図っていかなければいけない。のみ込む力はすごくありますね。
 また、道路や公園など事業の優先度を定めて、効率的かつ効果的な整備を進めていきます。
 今後も時代の文化を反映させながら、成熟都市です、成熟都市にふさわしい東京モデルをつくって、世界独自であり世界一である輝く都市、それをこれから目指していきたい。二〇二〇年の東京オリンピック・パラリンピックも、そこにきちんと照準を当ててやっていきたい、こう思っております。
 その他の質問については、東京都技監及び関係局長に答弁させます。
   〔東京都技監村尾公一君登壇〕

〇東京都技監(村尾公一君) 三点のご質問にお答えいたします。
 初めに、京成本線高砂駅から江戸川駅間の鉄道立体化についてでございますが、本区間は都市計画道路が三カ所で交差し、踏切十カ所のうち、あかずの踏切が二カ所あるなど、鉄道立体化の可能性を検討する必要があると認識しております。
 都はこれまで、事業範囲や構造形式などを調査し、検討を進めてまいりましたが、本区間には、京成高砂駅に隣接する車両基地の取り扱いなど、解決に時間を要する課題がございます。
 そのため、現在、地元区が中心となり、周辺まちづくりの中で車両基地を移転し、機能確保する案を検討しております。
 今後とも、地元区や鉄道事業者と連携し、課題解決の状況などを踏まえ、検討を進めてまいります。
 次に、河川における高潮や津波への対策についてでございますが、東部低地帯において都民の命と暮らしを守るには、高潮に対する備えに加えて、堤防、水門などの耐震対策を進めていくことが重要でございます。
 都はこれまで、高潮対策につきましては、国内で過去最大の高潮被害をもたらした伊勢湾台風を想定し、これに対応できる堤防や水門の整備をほぼ完了しており、この整備により、東京都防災会議が想定した最大津波高を上回る高さを確保しております。
 耐震対策につきましては、既存堤防の補強を初め幅広い取り組みを進めてまいりましたが、最大級の地震が発生した場合には、一部の堤防などにおいて部分的な損傷の可能性があることから、新たな耐震対策が必要となります。
 引き続き、高潮対策を進めるとともに、昨年十二月に策定しました地震、津波に対する整備計画に基づき、積極的に耐震対策の推進を図ってまいります。
 最後に、都立篠崎公園の防災に関する整備計画でございますが、篠崎公園は計画面積約八十六・八ヘクタールの広域的な利用を図るべき公園であり、平成二十四年現在、約三十・三ヘクタールが開園しております。
 整備計画では、川の手の広域レクリエーション拠点と憩いの森の創出や防災拠点の整備などを方針としていまして、スポーツや憩いの拠点となる広場の創出を図るとともに、災害時の救出救助活動の拠点など、防災機能向上に資する整備を行うこととしております。
 さらに、震災時のみならず水害時にも対応できるよう、広場の高台化と避難動線の確保を図り、国が進める江戸川の高規格堤防へ避難者を誘導することとしております。
   〔総務局長笠井謙一君登壇〕

〇総務局長(笠井謙一君) 児童相談所の特別区への事務移譲についてでありますが、児童相談所は、虐待や非行など困難ケースに対応できる専門性と、施設への入所調整など広域的な対応が不可欠であり、家庭復帰までの一貫した対応が求められます。
 現在の特別区は、人口約五万人の区から八十万人を超える区までさまざまでありますが、仮にすべての区へ事務移譲するとなれば、児童福祉司や児童心理司を初め、保健師、医師、弁護士といった専門人材をそれぞれの区で確保する必要があります。
 また、都内外の児童養護施設等への入所調整に当たっては、新たに、特別区相互、あるいは引き続き市町村部を担うことになる都と特別区との間で連携協力が必要となるなど多くの課題があります。
 なお、国の地方制度調査会では、児童相談所の移譲を検討すべきとする一方、特別区の区域の見直しについても検討することが必要と指摘されております。
 今後とも、児童虐待防止など子どもたちの健全な育成環境を実現していくという観点で、特別区と児童相談行政のあり方などについて幅広く議論をしてまいります。
   〔都市整備局長飯尾豊君登壇〕

〇都市整備局長(飯尾豊君) 不燃化特区制度についてでございますが、現在、十二の先行実施地区において、区とともに整備プログラムを作成しており、積極的に現場で取り組む区の後押しや、住民の建てかえ意欲が高まるような環境づくりに資する支援の実施を検討しております。
 今般公表した不燃化特区制度案では、区域の要件の緩和や都市計画事業以外もコア事業とするなど、区が取り組みやすい制度案としております。
 今後、制度内容の説明だけでなく、現場の実情に応じた制度の活用方法を提案するなど、区が応募しやすいように働きかけ、不燃化特区の拡大を図ってまいります。

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