平成二十四年東京都議会会議録第十六号

〇議長(中村明彦君) 七十三番伊藤ゆう君。
   〔七十三番伊藤ゆう君登壇〕

〇七十三番(伊藤ゆう君) 全対象国百八十三カ国中百七位、OECD諸国三十一カ国中二十六位と、いずれも日本が極めて低い調査結果になったのは、世界銀行が行った、世界の起業しやすい国ランキングです。いいかえれば、OECD三十一カ国の中で六番目に起業しづらい国が日本であるといえます。
 経済産業省が行った、高度外国人の起業環境等に関する調査報告書によれば、投資、経営目的で日本に新規入国した外国人数は、平成十九年、二十年をピークに横ばい、もしくは微減傾向にあると指摘し、起業環境の悪さから、起業目的の外国人の足が遠のいていることを示唆しています。
 一方で、起業しやすさランキング一位はニュージーランド、四位はシンガポール、五位は香港と、アジア諸国が上位に入っており、百七位の日本が周回おくれどころか、レースになっていないことが歴然です。
 さきの報告書によれば、起業環境において外国人が苦労するのは、事務所の賃貸借契約であります。日本在住の親戚を保証人にしたが、入居の審査がなかなか通らず、幾つかの不動産を当たってようやく借りることができた、起業の準備の中でも事務所の賃借に最も時間がかかったとの声もあり、短期滞在ビザや留学生ビザによって日本を訪れている外国人にとって、起業の第一歩である事務所の賃借が、限られた滞在日数の中で大きな壁になっている傾向があります。
 他方、シンガポールや韓国には、起業家向けの特別な在留資格が用意されており、シンガポールの起業家パスは、最大二年の滞在と、事業が継続している場合の更新を可能にするなど、起業環境の整備が進んでいます。
 東京においても、外国人向けの物件は年々増加しているといわれていますが、短期滞在、留学の在留資格では、事務所の賃借契約を結ぶに当たって、日本での在留、就労経験がないことを理由に貸し渋りを受ける傾向があるようです。
 外国人による都内での起業を支援するためには、東京での生活基盤を確保していくことが必要です。在留資格の見直しなど、国政レベルで解決しなければならない問題が多々ありますが、まずは現状において、都として、外国人の住居機会の確保を図っていくことが重要だと考えます。所見を伺います。
 政治の世界にもトレンドがあるように、ビジネスの世界、とりわけベンチャー起業家の世界には、利便性と利益を追求した風説ともいえるトレンドが世界を席巻しているようです。中でもシンガポールは、圧倒的に安い法人税などが磁力となって、人、物、金を集めていることから、ベンチャー起業家の間では、次に会社を出すならシンガポールが合い言葉になっていると聞きました。
 風説は必ずしも実態をあらわしていないかもしれません。しかし、その風説が転がり始めた雪だるまのごとく、人、物、金を集積し、シンガポールの独走を許しているとすれば、東京もまた、世界を駆けめぐる風説を起こす努力を怠るわけにはいきません。
 この風説は、決して難しい作業から生まれるものではないと思います。都には、世界でも類がないほどの手厚い創業支援策が用意されています。無担保の制度融資や、区や市が行っている利子の補給は、金融危機で利子が高騰している欧州では考えられない制度であり、こうした創業支援策は、世界の耳目を集めても不思議ではありません。
 この手厚い創業支援策が日本人の起業家のためにつくられた経緯があることは明らかですが、その条件を読めば、決して外国人を排斥するものではありませんでした。
 こうした既存の創業支援策を活用しない手はありません。世界でも例がないほどの手厚い創業支援策について、例えば、英語版をつくるなど、外国人が利用しやすいように工夫することは、外国人起業家の参入障壁を下げるだけでなく、世界に向けて東京が開かれている都市であることをアピールできる格好の材料になります。外国人に優しい創業支援策についてどのように取り組むのか、所見を伺います。
 他方、創業支援策については、日本人にとっても、メニューの多さから、わかりづらいものになっています。
 所在地の自治体によって利子補給があったりなかったり、業務種別によっても使える制度融資が違うなど、いささかのみ込みづらいものになっています。もし自分の所在地や希望の融資額を入力すれば、ベストミックスな制度融資を案内してくれるサイトがあったなら、たった一人で起業する創業者にとっても非常に便利なものになるはずです。制度融資などを紹介するサイトの検討について、所見を伺います。
 先日、ビッグサイトで行われた産業交流展に行ってまいりました。ことしで十五回目を迎える産業交流展には、ふだん目にすることの少ない中小企業の技術と英知を結集させた新製品の数々が陳列されており、一日いても飽きることがないほどでした。
 一方で、そうした中小企業には、海外への進出を目指す野心的な企業も多く、語学と人脈を有する有能な外国人新卒者を求めている中小企業もあると聞きます。しかし、中小企業が個別に募集するのは難しい反面、就労を希望する外国人にとっても、将来性のある中小企業に出会う機会はめったにありません。
 そこで、産業交流展は、こうした両者にとって格好の交流の機会になるものと思います。既に学生による魅力発見ツアーが開催されていると聞いていますが、日本人学生だけではなく、外国人留学生の魅力発見ツアーなどを組むことで、中小企業が外国人留学生にも魅力を発信できるようにするべきと考えますが、所見を伺います。
 また、都は、創業を目指す人への総合的な支援事業として、起業家支援セミナーを開催し、起業家同士の交流の場を設けています。こうしたセミナーも、外国人起業家にとっては、日本の商慣習を学ぶ上で貴重な機会になるとともに、相談窓口の明確化によって一層の支援につながるものと考えます。
 しかし、今年度の実績では、創業入門コースの定員二百名に対し、外国人の参加者は二名にとどまるなど、十分な普及が図られているとはいえません。今後、英語版の案内をつくるなど、外国人が参加しやすい起業家支援セミナーの検討を行うべきと考えますが、所見を伺います。
 シンガポールが独走する中、首都東京がアジアのヘッドクオーターであるためには、外国人が起業しやすく、留学生が就職しやすい環境をつくるほかありません。そうした取り組みによって、東京が外国人起業家に開かれている都市であることを世界にPRすれば、いつしか、起業するなら東京が風説となって世界に流れ、国際色あふれる人材の交流から革新的な新産業が生まれるものと確信します。都には一層の努力を要望いたします。
 次に、臨海地域における公募街区について伺います。
 リーマンショックを受けて、一部の公募街区においては、オフィスビルの計画が白紙に戻り、今後、都が整備方針を検討すると聞いています。白紙に戻った土地を含め、臨海地域の、特にお台場エリアは、MICEの拠点として潜在力の高い地域として複合リゾート施設、IRが誕生するのではないかと期待を集めています。
 一方で、マカオやシンガポールに出現しているカジノは、年々、国際展示場などとの複合化が進み、巨大化の一途をたどり、リーマンショック以前に想定していた臨海のまちづくりでは収容し切れない規模になってきています。
 今後は、巨大化する複合リゾート施設に対応するため、例えば、カジノに必要な敷地面積や交通インフラなど、事前に検討しておくべきテーマを洗い出しておく必要があります。特に、IRの目玉となるカジノについては、推進法の動向から注視すべきですが、現在の国の動向について伺います。
 今後の臨海開発の未来を大きく左右する要素は二つあります。
 一つはカジノ推進法案の行方と、もう一つはオリンピック誘致ではないでしょうか。オリンピック誘致に成功した場合、二〇二〇年開催時には、ホテル需要のほかに、レストランなど商業施設の需要が急増すると予想されます。万一、性急な街区の販売によってテナントビルなどが林立すれば、オリンピックにおいてエンターテインメント性の高い土地が失われかねません。
 臨海副都心に残された青海地区北側のまとまった土地については、これまでのように区画ごとに公募するのではなく、一体的に開発していくべきであり、このような視点で、公募時期を含め、慎重に検討していくべきであると考えますが、所見を伺います。
 最後に、緊急雇用創出事業について伺います。
 これまでに、国は緊急雇用対策として全国で総額一兆五百億円を緊急雇用創出事業に投じ、都はこれを受けて、平成二十年度から二十三年度にかけて約三百三億円の事業を実施し、五万七千八百七十九人の雇用を創出しました。三百三億円のうち都が直接事業を実施したのは約九十四億七千六百万円であり、多くの雇用を創出したことは評価するものです。
 しかしながら、平成二十一年度においていえば、全五十三事業、十二億三千四百五十万円のうち、十四事業、総額二億八千四百万円が実態調査などの調査関係に割かれていたことがわかりました。中には、調査結果が本当に活用されているのかなど、費用対効果は妥当なのか疑問なものもありました。
 緊急雇用創出事業は、短期的な雇用の色合いが強く、長期雇用を求める制度になっていないとの説明を受けましたが、これまでの緊急雇用創出事業がきっかけとなって、引き続き正社員として雇用された例は、都が把握している範囲でわずか二名と聞いています。
 国の事情により、急な事業発注を余儀なくされる緊急雇用創出事業は、調査ものなど、安易な事業の創出になりがちですが、より投資効果が高く、長期雇用に結びつくような事業が検討されるべきと考えます。所見を伺い、質問を終わります。(拍手)
   〔都市整備局長飯尾豊君登壇〕

〇都市整備局長(飯尾豊君) 伊藤ゆう議員の一般質問にお答えします。
 外国人の居住の機会の確保についてでございますが、都ではこれまで、外国人や高齢者等の民間賃貸住宅への入居の機会が制約されることのないよう、宅地建物取引業者を対象とした講習会での普及啓発や、リーフレットの配布による情報提供などを実施してまいりました。
 また、入居の際に保証人が必要な場合には、国の財団による家賃債務保証制度を紹介するとともに、関係団体等と連携して、外国人に対し、住まい方のルール等の情報提供をしております。
 こうした取り組みにより、引き続き外国人の居住の機会の確保に努めてまいります。
   〔産業労働局長中西充君登壇〕

〇産業労働局長(中西充君) 五点のご質問にお答えいたします。
 まず、外国人に対する創業支援策についてでございますが、海外の企業を東京へ誘致することにより、都内中小企業のビジネスチャンスを広げ、産業の活性化につなげることは重要でございます。
 都は、平成十七年に、外資系企業向けのワンストップ総合窓口でございます東京ビジネスエントリーポイントを設置し、これから東京に進出しようとする外国企業や創業を検討している外国人の支援を行っております。
 具体的には、英語での相談に対応するとともに、ビジネスや生活関連の情報について、外国語のウエブサイトを通じて発信しております。これらの取り組みにより、引き続き普及啓発を進めてまいります。
 次に、中小企業制度融資についてでございます。
 都の制度融資は、さまざまな中小企業の資金ニーズに対応するため、創業融資や経営支援融資などを初めとする多様な融資メニューを設けております。
 都は、こうした融資メニューの概要や利用要件について、ホームページ、パンフレットによりますわかりやすい周知に努めております。また、金融相談窓口において、個別の中小企業のニーズに合った適切な融資メニューを紹介しています。
 今後とも、制度融資の利便性向上の観点から、きめ細かい金融相談を実施するとともに、ホームページ等の充実を含め、引き続き利用者の立場に立った事業のPRを進めてまいります。
 次に、中小企業魅力発見ツアーについてでございます。
 東京の産業を支えるものづくり中小企業が、人材を確保するためには、その魅力を若者に理解していただくことが重要です。
 このため、都は、平成二十二年度から中小企業魅力発見ツアーを実施しております。この事業では、産業交流展に出展している中小企業のブースに、学生を中心とした若者を案内し、その製品や技術に触れるとともに、経営者や従業員と対話する機会を提供しています。
 この魅力発見ツアーは、学生を中心とした若者を対象としており、外国人留学生の参加についても可能でございます。
 今後とも、中小企業の魅力を発信し、その人材の確保を支援してまいります。
 次に、起業家支援セミナーについてでございます。
 東京の産業を活性化させるためには、創業を促していくことが重要であり、都では、毎年度、創業を目指す方などを対象とした起業家支援セミナーの開催や投資家等との交流の場を提供しております。これらのセミナー等は、外国人の方についても参加することが可能でございます。
 今後とも、こうした取り組みにより、創業の促進を着実に支援してまいります。
 最後に、緊急雇用創出事業についてでございます。
 本事業は、急激な雇用情勢の悪化による失業者の増加に対し、国の交付金を原資に都が基金を造成し、臨時的なつなぎの雇用の場を創出することを目的として実施するものです。
 都は、雇用期間を原則一年以内とし、人件費割合を事業費全体の二分の一以上とすることなど、国が定める実施要件に基づき、各局において必要な事業を実施しております。
 なお、緊急雇用創出事業で雇用された方に対しては、都のさまざまな就業支援策について情報提供を行い、安定的な雇用につながるよう支援しております。
   〔知事本局長前田信弘君登壇〕

〇知事本局長(前田信弘君) カジノについてのご質問にお答えいたします。
 カジノは、有力な観光資源であるとともに、経済波及効果や雇用創出効果が期待できるものでありますことから、世界の多くの国々で合法化され開設されております。
 一方、我が国におきましては、カジノは刑法で規制されておりまして、これを実現するためには、何よりもまず国が法整備をすることが必要でございます。
 このため、都は、国に対して必要な法案整備を行うこと、また、その際には、地域の実情に即した運営が可能な仕組みとするなど、地方自治体の意向を十分踏まえることを、これまでも継続して提案要求しているところでございます。
 国においては、超党派の国会議員により、議員立法でカジノ法案の成立を目指しており、各党で検討が行われていると聞いております。
 都としては、引き続き国の動向を注視してまいります。
   〔港湾局長多羅尾光睦君登壇〕

〇港湾局長(多羅尾光睦君) 臨海副都心青海地区北側の公募についてでございますが、東京が、アジア諸都市との厳しい競争を勝ち抜くためには、世界じゅうから人、物、情報が活発に流入する世界トップレベルのMICE、国際観光拠点の形成が重要と認識しております。
 臨海副都心は、羽田、成田の両空港から好位置に立地し、東京ビッグサイトやホテル、商業施設等のMICE施設が充実するなど、高いポテンシャルを有しております。
 特に、青海地区北側にある約十四ヘクタールのまとまった土地は、MICE、国際観光拠点として大きな可能性を持っており、この地域を有効に活用するための方策について、今後とも幅広く検討してまいります。
 なお、土地の公募時期については、不動産市況なども視野に入れながら、具体的な時期を見きわめてまいります。

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