平成二十四年東京都議会会議録第十六号

〇議長(中村明彦君) 三十二番田の上いくこさん。
   〔三十二番田の上いくこ君登壇〕

〇三十二番(田の上いくこ君) 経済格差が学力格差になってはいけない。人生のスタートラインで子どもたちがつまずくことのないよう、家庭環境の差を公の学習支援で埋めていくことが求められています。
 都が行っている一定所得以下の世帯を対象とした受験生チャレンジ支援貸付事業は、格差是正の一助となり、子どもたちの将来の可能性を広げる施策であると認識しています。
 この事業は、中学三年生、高校三年生を対象として、受験料や塾費用の貸し付けを無利子で行うものです。高校受験の場合は上限二万七千四百円、大学受験は上限十万五千円、塾費用の場合は二十万円までとなっています。無利子で貸し付けする制度ですが、高校や大学等に入学した場合は返済が免除されます。この事業の対象となる学習塾等は、直接行うものか通信で、家庭教師は含まれません。
 平成二十二年の文部科学省の子どもの学習費調査によると、中学生の通信を含む家庭教師等に費やす年間の費用の平均は、公立で七万四千円、私立で十一万円、高校生の場合は、公立で八万八千円、私立で十七万二千円です。
 一方、中学生の年間の学習塾費の平均は、公立で二十五万七千円、私立で二十一万七千円、高校生は、公立で二十二万六千円、私立で三十一万八千円と、どの数字を見ても塾が高くなっています。通う回数や授業の時間の長さにより異なるものの、工夫次第で家庭教師を利用する方が安い場合もあります。また、引きこもりがちな子どもなど、塾になじまない子どももいます。
 教育格差をなくすため、大学生のボランティアを募り、学習支援をするNPOがありますが、家庭教師では、この事業を活用することができません。都は、この事業は集団で行うものとし、子どもが家の外に出ることが重要だとしていますが、そうであれば、通信も対象に含まれているのは疑問です。
 本来の目的は、低所得者のための事業であり、経済状況によって将来の可能性の幅を縮めないことではないでしょうか。この事業の適用を柔軟に家庭教師などにまで広げるべきではないかと考えますが、ご見解を伺います。
 やりくりを工夫して授業の回数をふやす、また、都から見ても貸付額が少なくて済むケースも出てくるのではないかと考えます。
 次に移ります。子宮頸がんは、がんの中でも予防できるがんとして知られています。予防は、ワクチン接種とがん検診によって確実なものとなります。
 子宮頸がんの原因は、高リスク型ヒトパピローマウイルス、すなわちHPVの持続感染であることは明らかにされていますが、ワクチンのみならず、HPV-DNA検査の技術を取り入れることで、子宮頸がん検診は大きな変革のときを迎えています。
 平成二十二年の国民生活基礎調査によると、二十以上の二年間の受診率は三二%、福祉保健局の同年の健康増進法に基づくがん検診の対象人口率調査では、やや高いものの三五・九%でした。ワクチン未接種世代は依然として多数でありますが、まず、現在の細胞診での受診率についてのお考えを伺います。
 従来の細胞診は、陰性を陰性と判定する特異度においてすぐれていますが、HPV検査は、陽性を陽性と判定する感度で高い数値を示します。これらを併用することで見逃しがなくなるため、多くの学者や産婦人科医が導入を要望しています。
 自治医大さいたま医療センターや島根県立中央病院の研究チームが日本癌学会で発表した調査では、細胞診で異常がなかった島根県の女性約五千人に対し、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスに感染しているか調べ、約五年間経過観察したところ、細胞診で異常がなく、HPV検査も陰性だった女性の場合、手術が必要なごく初期のがんが見つかったのは、三年後に〇・四%、五年後でも〇・六%。一方、細胞診で異常がないが、HPVで陽性だった女性は、三年後に二・九%、五年後には六・九%と併用検診の有用性がわかりました。
 厚生労働省は、九月三日、HPV検査の来年度導入方針を示し、来年度予算の概算要求に、女性のためのがん検診推進事業に必要な百十六億円を計上、細胞診に加えて、罹患率の高い三十代を中心にHPV検査を実施する方針を示しました。
 十一月十三日のがん検診のあり方に関する検討会では、試行的な研究事業などを推進していくなどの意見が出されましたが、一方で、日本産婦人科医会は、細胞診とHPV検査併用検診の普及に関する要望書を厚生労働大臣に提出しています。
 細胞診とHPV検査併用検診のメリットは、一、精度が高く見落としがないこと、二、両方の検査が陰性の場合には、受診者は三年間は子宮頸がんにならないという将来の安心が見通せること、三、受診間隔を長くできることで、自治体、受診者両者のコストが低くなること、四、一度の採取で両方の検査が可能であり、受診者の時間や心身の負担は変わらないか減少することです。
 日本産婦人科医会は、細胞診単独の検診の場合には、二十一歳から二十九歳で一年間隔、三十歳以上で二年間隔の検査を勧めていましたが、併用検査とすると、感度と特異度の双方が高いので、精度が上がり、両方の検査で陰性だった場合は三年置きの検査となります。
 内診台に上がるのが嫌という方も多く、女性が積極的には受けたくないといわれているのが婦人科検診です。体に大きな負担をかける検査ではありませんが、人によっては痛みを感じる場合もあり、体と心の負担が減少することは喜ばしいことです。
 また、医療経済の観点からも、毎年の細胞診に自治体が補助をするよりも、三年置きになることで、三年間で三割程度の削減が可能になるという試算もあります。
 島根県のデータによると、受診者の九割以上が併用検診で陰性になり、検診間隔をあけることができたそうです。
 子宮頸がん征圧をめざす専門家会議が、全国千七百三十八自治体を対象に行ったアンケートでは、千三百五十四自治体が回答し、細胞診とHPVの併用検診を行っている自治体は全国で四十九、また、二〇一三年春までに準備をしている自治体は約百五十です。島根県では全市町村で導入されていますが、都内で導入しているのは港区のみで、医師会が負担をしています。
 都は、併用検診導入自治体の事例を研究し、女性の健康を守る視点から、より有効な検診のあり方を検討すべきではないかと考えますが、ご見解を伺います。
 次です。東京都では、平成二十一年度から三年間、若年性認知症支援モデル事業が実施されました。
 江戸川区にある高齢者施設のなぎさ和楽苑では、モデル事業が終了した後も利用者の継続希望にこたえ、自主事業として、一日九百円の利用料で六十五歳未満の若年性認知症専門のデイサービスを行っています。就労型支援活動やアクティビティー支援活動、イベントなど、高齢者と区別したデイプログラムと居場所づくりに取り組んでいます。多くの認知症の方と一緒の活動は年齢差があり、趣味や嗜好が異なります。体力もあり、介護されるよりも、働いて社会に貢献したいと思う方が多く、作業のペースも異なるため、高齢者との活動に違和感を抱くことがあるようです。
 私の知人でも若年性認知症と診断された方がおり、仕事をやめて会社の寮を出ることになりました。家族のいないその人は、突然のひとり暮らし。仕事もないので何をしてよいかわからず、かといって何もしなければ症状は進んでしまうので、デイサービスを探しました。ところが、あるのは高齢者向けのサービスばかりです。
 若くして認知症を患い、さまざまな喪失感の中でも、同じ世代同士による共通の話題を見出し、役割感の持てる居場所があることが、本人や家族にとって今後の生きがいにつながるのではないでしょうか。
 都内でも、若年性認知症の人に対してサービスを提供する施設がふえてきました。世代に応じた環境設定が求められています。若年性認知症の方の社会参加活動を主とする居場所づくりが、今後ますます必要になっていきます。
 都において支援体制を構築するべきと考えますが、ご見解を伺います。
 次です。都市整備局は、東京都建築物液状化対策検討委員会で、民間建築物の建て主や所有者が敷地の地盤を把握し、液状化対策を図れるよう、東京都土木技術支援・人材育成センターなどの公共工事で得られた地盤データや過去の地形図についても情報提供をするとしました。
 建築物の液状化対策を行う場合、液状化予測図だけでは地盤の詳細まで把握できないため、地層構成や水位、地盤の強度がわかる柱状図や地歴図などの地盤データを整備し、情報提供していくとのことです。
 昨年三月の東日本大震災では、液状化による建物被害が五区八カ所で生じ、そのうち、都が四カ所、区が四カ所のボーリング調査を実施しました。こうした箇所も含めて、地盤調査データを情報提供すべきと考えますが、都市整備局のご見解を伺います。
 前述のセンターの東京の地盤では、地質柱状図のないまちがたくさんあります。東京の液状化予測図により、液状化が発生しやすい地域やその周囲でも地質柱状図がないところがあります。地下の構成を考え、臨海部の人工造成地盤や、足立、葛飾、板橋、墨田など旧河道、軟弱な沖積層の厚い地域が帯状に伸びている荒川沿いの地震で揺れやすい地域など、地盤が複雑であるところは今後も地盤調査を進め、情報提供していくべきと考えます。
 一方、建設局では、センターが中心となり、液状化予測図の見直しを行っていますが、予測図は、民間の建築物の液状化対策の資料としても参考になります。見直しの際には、変動する地下水位や地震動の大きさをどの程度に設定するかが重要です。
 東日本大震災のときには、液状化予測と現実の被害が必ずしも一致したとはいえませんでした。警戒のためには、判定条件を今までよりも慎重に設定していくべきと考えます。現在、見直しを行っている液状化予測図についてのお考えを伺います。
 土地、家屋の固定資産税の価格は、原則として三年ごとに見直しをしています。固定資産の価格とは、地方税法三百四十一条により適正な時価とされていますが、時価の下落が続いている中では、実際の取引価格との格差が大きく、固定資産税が過大な負担をもたらしています。
 液状化も評価に影響を及ぼす原因の一つです。液状化というと土地ですが、地盤沈下により家屋が傾けば、さまざまな困難と修復を強いられます。また、液状化被害が発生した地域の資産価値は、災害以前に比べて低くなり、なかなか売買も成立しない状況にあります。
 液状化ではありませんが、ある県で三百万円の破格で売りに出されている家屋つきの土地が、いつまでたっても買い手がつきません。津波の心配がある土地だからだそうです。
 東日本大震災を経て、損害を受けた固定資産は、一定の要件のもとに固定資産税の減免を適用されています。直接家屋に被害があった方にはありがたい措置だと認識していますが、災害があったときだけに適用される単年度措置でした。その後も、液状化により土地の堅固さが失われ、不安定になった家屋の課題は継続しています。
 また、災害により損害が発生した家屋に対しては、一定の要件のもと損耗減点補正率という制度がありますが、被災して損耗減点補正率を適用した家屋の固定資産評価額と災害前の家屋と比較して、大きな補正があるとは思えません。仮に被災した家屋を修復したとしても、以前のものと同じにはなりませんが、一たん修復すると、損耗減点補正率は適用されなくなります。引き続き、被災した土地が与える影響も考慮した上で、家屋も評価するべきではないかと考えますが、ご見解を伺います。
 以上で質問を終わります。(拍手)
   〔東京都技監村尾公一君登壇〕

〇東京都技監(村尾公一君) 田の上いくこ議員の一般質問にお答えいたします。
 液状化予測図についてでございますが、液状化予測図は、地域ごとの液状化の発生の可能性を目安として示したもので、公共施設や民間建築物などの液状化対策を検討する上で基本となる情報の一つでございます。
 現在の液状化予測図は、地表から深さ二十メートルまでの地層全体と、そのうちの地表から深さ六メートルまでの浅い部分のそれぞれについて地盤工学的な判定を行い、さらに、液状化の履歴や土地利用の変遷を加味し、液状化が発生しやすい地域、発生が少ない地域、ほとんど発生しない地域の三つに分類したものでございます。
 今回の東日本大震災で液状化した地域は、地層全体では液状化しにくいものの、浅い部分は液状化しやすいことから、発生が少ない地域に分類したものでございまして、想定したとおり、おおむね浅い層が液状化したものと認識しております。
 東日本大震災以降、東京都土木技術支援・人材育成センターを中心に、地盤の専門家の意見も聞きながら、地下水位データの補正、地盤データの補強、実際に液状化した地盤のデータ分析に基づく判定方法の確認などを行い、より精度の高い予測図を作成しているところでございます。
 今年度末までに見直しを完了させ、広く都民に情報提供してまいります。
   〔福祉保健局長川澄俊文君登壇〕

〇福祉保健局長(川澄俊文君) 四点のご質問にお答えいたします。
 まず、受験生チャレンジ支援貸付事業についてでございますが、都は、将来の自立に向けて意欲的に取り組む一定所得以下の世帯の子どもたちが、高校や大学への進学を目指し、受験に挑戦することを支援するため、中学三年生、高校三年生の受験生に対して無利子貸付制度を設けているところでございます。
 貸し付けにつきましては、受験料とともに、同世代の子どもたちと同じカリキュラムのもとでともに学び、みずからの学習の進みぐあいを理解することにより、さらなる学力の向上と目標の達成が期待できると考え、こうした環境が整いやすい学習塾等、集団で学べる場の受講料を支援対象としているところでございます。
 また、事業の実施に当たりましては、利用者の利便性を考慮して、都内すべての区市町村に窓口を設け、相談や申請にどの窓口でも同じ対応ができる体制をとっているところでございます。
 次に、子宮がん検診の受診率についてでございますが、都は、がん対策推進計画に基づき、がん検診の受診率向上に向け、リーフレットやホームページ、イベントなどにより、がん検診の重要性や具体的な受診方法について都民に周知を図ってまいりました。
 また、がん検診の実施主体である区市町村に対しましては、都が提案した個別の受診勧奨など効果的な受診率向上策に取り組む際に、包括補助事業を活用して支援してまいりました。
 こうした取り組みにより、平成二十一年の子宮がん検診の受診率は三五・九%となっており、がん対策推進計画で示した平成十八年の受診率と比較して、一二・四%上昇しているところでございます。
 次に、子宮頸がんの有効な検診のあり方についてでございますが、国は、自治体が実施するがん検診について、死亡率減少効果が科学的に証明された検診方法を指針で示しており、子宮がん検診は、二十歳以上を対象に、二年に一回、細胞診を実施することとされております。
 現在、国は、子宮がん検診として、従来の細胞診に加え、ヒトパピローマウイルスの検査を実施することについて検討しており、都としても国の動向を注視してまいります。
 最後に、若年性認知症の方への支援についてでございますが、都では、平成二十一年度から平成二十三年度まで、若年性認知症の方に対するモデル事業を実施し、この成果を踏まえ、本人や家族からの多岐にわたる相談をワンストップで受け、支援を行う、若年性認知症総合支援センターを本年五月に開設いたしました。
 また、このモデル事業の中で明らかになった、高齢者とは異なる若年性認知症の方特有の課題である、症状の進行程度に対応した支援方法や、必要なケアを受けながら社会参加を行う居場所づくりなどについて、現在、東京都認知症対策推進会議の中で検討しているところでございます。
   〔都市整備局長飯尾豊君登壇〕

〇都市整備局長(飯尾豊君) 地盤調査データの情報提供についてでございますが、東日本大震災を踏まえ、昨年七月に都が設置した建築物液状化対策検討委員会においては、建て主等が液状化による建物被害に備えていくため、土地の履歴や地盤状況を把握することなどが必要であるとの見解が示されております。
 引き続き、都や区市等が所有している地盤調査データに関する情報提供の方法などについて、委員会で検討を行ってまいります。
   〔主税局長新田洋平君登壇〕

〇主税局長(新田洋平君) 家屋の評価についてでございますが、東日本大震災により被災した家屋につきましては、総務大臣が定める固定資産評価基準及び平成二十三年十月十四日付総務省通知、東日本大震災により被害を受けた地方団体等における平成二十四年度の固定資産の評価替えについてに基づきまして、罹災証明書に記載された被災の程度をもとに、損耗減点補正率を適用することとされております。
 また、家屋の修復が行われた場合につきましては、平成十二年九月一日付総務省通知、家屋の損耗減点補正率の適用方法等についてにおきまして、損耗の修復により、通常の経年減点補正率が適用される状態に戻ったものとして取り扱うこととされております。
 都といたしましては、こうした基準や通知等に基づき、適切に対応しているところでございます。

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