平成二十四年東京都議会会議録第九号

〇議長(中村明彦君) 九番山内れい子さん。
   〔九番山内れい子君登壇〕

〇九番(山内れい子君) 原発の是非を問う都民投票条例の制定を求めて、東京都に直接請求が行われました。昨年の福島原発事故以来、子どもへの被曝や市民生活に対する不安から、多くの市民が行動を起こさずにはいられなかったことを重く受けとめなくてはなりません。
 思えば、チェルノブイリ原発事故による食品の放射能汚染を契機に危機感が高まり、二十三年前の一九八九年、五十五万筆の署名を持って、東京都に食品安全条例の制定を求める直接請求が出されて以来の都民の政治行動です。
 知事がいうような単なるセンチメントではなく、自分たちの権利や暮らしを守りたい、これからの将来にみずから責任を持ちたいと考える都民が、三十二万人もいたということです。
 地方分権一括法が施行され、地方自治体の自己決定権、自立性を高めていくことが今、求められています。
 選挙で選ばれた議員といえども、すべてを白紙委任されたわけでありません。住民の生活や将来を左右する重大な課題については、民意の反映を保障する実質的な制度が必要です。
 知事は、直接民主制が、間接民主制を補完する重要な手段であることは論をまたないがとおっしゃっておられますが、住民投票制度についてどのようにお考えか、所見を伺います。
 次に、エネルギー対策についてです。
 国は、福島原発事故について、きちんとした検証も反省もせず、大飯原発を再稼働しようとしていますが、原発に依存しないエネルギー政策を打ち出すべきです。
 ことし夏の電力需給は、東京電力管内の予備率が、猛暑の場合でもプラス四・五%と試算されています。これは節電の定着が前提ですから、都民、事業者がしっかりと省エネに取り組む必要があります。
 都では、賢い節電について示していますが、具体的にどうしたらよいか悩む人たちも多いと思われます。
 一方、すぐれた節電、省エネ対策を実施している事例もあります。都がその事例を収集し、広く周知することで、節電がより一層進むと考えますが、所見を伺います。
 家庭における賢い節電を定着させるためには、我慢ではなく、電力使用量の見える化を図り、使用量データを活用した取り組みが有効です。
 東京電力は、今後五年以内に総需要の八割にスマートメーターを導入する方針を出しましたが、せっかく導入しても個々のユーザーがそのデータを活用できなければ意味がありません。また、最近では、家庭用エネルギー管理システム、HEMSの導入も始まっています。
 都として、ユーザーが電力使用データを十分に活用し、節電効果が電力料金に反映されるよう国や東京電力に求めるとともに、スマートメーターやHEMSを活用した省エネ、節電の推進についても、今後、普及拡大を目指していくことが必要と考えますが、見解を伺います。
 来月から再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度がスタートします。十キロワット以上の太陽光発電については、全量買い取りとなっており、今後、ビルやマンションなど、一定規模の建物で導入の加速が見込まれます。また、市民のお金を集めて市民共同発電所をつくろうという動きも顕著になっています。
 都は、これまで補助事業を実施してきましたが、この機会をとらえて、さまざまな建物で太陽光発電の市場を一層拡大できると考えますが、所見を伺います。
 次に、緑施策についてです。
 都は、先月、「緑施策の新展開─生物多様性の保全に向けた基本戦略─」を発表しました。都はこれまでも、既存の緑を保全する地域指定や自然保護条例に基づく開発許可制度と緑化計画書制度を通じて緑の確保や創出を図り、効果が見られたところもありますが、緑の減少を食いとめることができていません。
 例えば、市街地で四万平方メートル開発される場合でも、そこがグラウンドだったため、自然地が含まれないということで許可制度の対象とならず、そこに戸建て住宅が建つことで、緑化計画書制度の対象にもなりません。
 緑施策の新展開には、開発行為が生態系に与える影響を緩和する新たな仕組みが将来的な方向性として示されており、制度の見直しや緑の確保と創出が進むものを期待しております。
 都は、開発許可制度と緑化計画書制度のこれまでの成果をどのようにとらえ、生物多様性に配慮した緑の質と量を確保するために、今後どのように施策を進めていくのか伺います。
 最後に、若者支援についてです。
 ことし三月、内閣府は、若者雇用を取り巻く現状と問題で、高卒の三人に二人、大卒の二人に一人が教育から雇用へと円滑に接続できていないと発表し、大きな衝撃を与えました。
 五月の総務省発表の労働力調査でも、若者の完全失業率は各年齢の中で群を抜いています。これまで、若者の雇用の問題は、若者の意識の問題として論じられ、若者に責任が押しつけられてきました。しかし、就業の入り口でつまずき、経験やスキルのないまま年齢を重ね、ますます就労が難しくなるという悪循環を断ち切るためには、早期離職の内実を探り、そこを支援しなくてはなりません。
 若者の早期離職は、当事者である若者にとってダメージであるばかりか、非常に大きな社会的コストになります。
 こうした社会状況を踏まえて、現代の若者の雇用状況に対する東京都の見解を伺います。
 二〇一〇年に視察をしたイギリスでは、若者の失業は、単に職を失うだけではなく、将来にわたり大きな困難をもたらすとして、大規模な財政を投じ、コネクションズサービスを立ち上げ、若者のための一体化支援で実績を上げています。
 日本においては、二〇〇九年七月に子ども・若者育成支援推進法を制定し、自治体は全庁横断的な支援体制をつくることになっています。これまで、私たちは、困難を抱えている子ども、若者に対し、学校を卒業してから仕事に定着するまで社会的にサポートしていくべきと要望してきました。
 それには、孤立している若者たちが気軽に相談できる機関や居場所、多様な社会参加の場の提供等が欠かせないと考えますが、都の見解と取り組みについて伺います。
 都では、多摩地域の人材育成支援の拠点として、二〇一一年四月に、多摩職業能力開発センターを開設し、一年が経過しました。平均年齢が二十代のコースでは就職率も高く、企業側も大いに期待していると聞いています。仕事とのミスマッチを防ぎ、就職したい職業に必要な知識、技能を身につける機関として効果的な支援の一つであり、質、量ともに充実することが必要です。
 そこで、多摩職業能力開発センターにおいて、若者の能力開発にどのように取り組んでいるのか伺います。
 東京都労働相談情報センターやNPO法人労働相談センターに寄せられる相談では、職場の嫌がらせやいじめ関連の相談がふえていると報告されています。これは、まさにパワーハラスメントそのものにほかなりません。
 このような情勢を踏まえ、ことし三月、厚生労働省の職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議、職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言により、定義と対策が発表されました。
 うちに限ってない、関係ないという思い込みが、パワーハラスメントの顕在化を妨げています。防止するためには、パワーハラスメントの認識の共有、予防と対策に真剣に取り組むことが必要です。
 そこで、都庁内においてパワーハラスメントをどのようにとらえ、未然防止や対策を行っているのか伺います。
 また、都として、雇う側の企業や事業主に対して、パワーハラスメントについての認識や防止に積極的な対応を行うべきと考えますが、見解をお伺いいたしまして、生活者ネットワーク・みらいの質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 山内れい子議員の一般質問にお答えいたします。
 住民投票制度についてでありますが、改めて申し上げるまでもなく、住民投票という直接民主制が、間接民主制、つまり議会制度というものを補完する重要な手段であることは論をまちません。
 しかしながら、今回提出されている条例案の原発稼働の是非に関していえば、一自治体の住民投票になじむものでは決してないということを繰り返して申し上げています。
 エネルギー問題は、国家発展のかなめであります。しかるに国は、いまだにエネルギー戦略の明確な方向性を見出しておりません。高度に発達した社会を支える我が国の経済を発展させるために、いかなるエネルギーをどれだけ確保するか、政治が責任を持って決断し、早急に基本戦略を策定すべきであります。
 その上で、原発稼働の是非は、国が、安全性はもちろん、経済性、産業政策などを複合的に考慮して、専門的な知見も踏まえ、理性的かつ冷静に判断すべきであります。
 住民投票という手段で、ただ観念的に原発の是非だけを問い、その結果がにしきの御旗のごとくの力を持つならば、国を傾け、滅ぼす危険にもなりかねないと思います。
 ゆえにも、都民投票の条例案には反対であります。
 他の質問については、関係局長から答弁します。
   〔環境局長大野輝之君登壇〕

〇環境局長(大野輝之君) 四点のご質問でございます。
 まず、節電対策の優良事例等の周知についてでございますが、都はこれまで、大規模事業所への総量削減義務制度や中小事業所への地球温暖化対策報告書制度、また、家庭の省エネ診断員制度などの地球温暖化対策を進めてまいりました。こうした経験を生かしまして、昨年の夏におきましても、多くの都民、事業者が比較的無理なく節電に取り組むことができたものと認識しております。
 今後とも、都は、事業所でのすぐれた対策事例や家庭向けの具体的でわかりやすい対策について、ホームページで公開するとともに、省エネセミナーや節電アドバイザーなど、さまざまな機会を通じまして、広く都民、事業者に周知し、無理なく長続きできる節電対策を促してまいります。
 次に、家庭における賢い節電の推進についてでございますが、スマートメーターは、時間帯別の電力使用状況を把握できる電子式メーターでございまして、多様な料金制度とあわせて導入することで合理的な節電を促す有効な手段でございます。
 都はこれまで、国や東京電力に対しまして、スマートメーターの導入促進と柔軟な電気料金メニューの設定を繰り返し求めてきております。
 また、現在進められておりますHEMSとの情報連携に向けた規格化の動きを見据えながら、電力使用量の見える化に加え、需給逼迫時における自動制御等、家庭での電気の使用において、快適性の確保と省エネ、節電の両立を可能とするツールとしての活用を促してまいります。
 次に、太陽光発電のさまざまな建物への普及拡大についてでございますが、これまで余剰電力の買い取り制度が適用されてきた太陽光発電につきましては、今後、十キロワット以上という条件つきではございますが、全量買い取りが適用されるようになるため、従来の業態を超えて新たに発電事業に参入する事業者の動きが活発化しております。
 太陽光発電の導入方式としても、建物の所有者がみずから設備を設置する従来の方式に加え、建物の屋根貸し事業など新たなビジネスモデルが広がることも考えられます。
 都は、新たなビジネスモデルも含め、さまざまな形で太陽光発電の市場が拡大できるよう、事業者のニーズも踏まえながら、今後の普及策につなげてまいります。
 最後に、緑施策の成果と今後の進め方についてでございますが、都は、条例に基づく開発許可制度と緑化計画書制度を通じ、緑の確保と創出を着実に推進してまいりましたが、これまでも確保すべき緑地面積の割合の引き上げ、既存樹木の保全の検討の義務づけなど、随時制度強化を行ってまいりました。
 緑施策の新展開では、生物多様性に配慮した質の高い緑化を開発事業者に促す取り組みなど、新たな緑施策の方向性を示しておりまして、今後、緑の保全や創出をさらに積極的に推進してまいります。
 なお、開発許可制度につきましては、対象地に一定規模の自然地が含まれる場合には、グラウンドであっても制度の対象としているほか、緑化計画書制度につきましても、区市の同様の制度との役割分担のもと、小規模な宅地造成にも適切に対応しております。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

〇産業労働局長(前田信弘君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、若者の雇用状況についてでありますが、若者を取り巻く雇用環境は、失業率が高い水準にあることや、フリーターなど不安定な就業を余儀なくされている若者の増加など、厳しい状況にあると認識しております。
 こうした状態を放置したままでは、若者自身の職業的自立やキャリア形成に支障が生じるだけではなく、社会にとっても大きな損失につながります。
 都は、緊急就職支援事業により、非正規の若者の正規雇用化や職場への定着をサポートするとともに、職業訓練の拡充や就業支援の強化など、切れ目のないさまざまな雇用対策を実施し、意欲ある若者の安定的な就業の実現を後押ししております。
 次に、多摩職業能力開発センターにおける若者に対する能力開発の取り組みについてでありますが、昨年四月に施設や訓練規模を拡充して開設いたしました同センターでは、多摩地域の産業特性を踏まえ、エアコンなど電化製品の動作を制御する技能を学ぶ計測制御システム科など、四科目、年間百二十名の定員で、若者を対象とした実践的な職業訓練を実施しております。
 このほか、高校中退者などを対象に、若年者就業支援科溶接コースを年間三十名の定員で実施し、コミュニケーション能力やビジネスマナーなど社会人としての基礎能力を重視した訓練も行っております。
 こうした取り組みを通じて、多摩地域の若者の能力開発を支援しております。
 最後に、職場におけるパワーハラスメントについてでありますが、いわゆるパワーハラスメントを含む職場の嫌がらせは、労働者の尊厳や誇りを傷つけるばかりでなく、職場環境の悪化を招くものであります。
 このため、一義的には、企業の経営者などがその防止や対応を行うことが必要であり、都は事業主などを対象に、ハラスメント防止に関するセミナーや未然防止の取り組みの参考となる冊子等の作成、配布を通じて普及啓発を実施してまいりました。
 お話の国の有識者会議における提言では、パワーハラスメントの典型的な六つの行為類型を示しており、都としても、この提言も活用して、引き続き普及啓発に取り組んでまいります。
   〔青少年・治安対策本部長樋口眞人君登壇〕

〇青少年・治安対策本部長(樋口眞人君) 若者への支援についてでございますが、社会生活を円滑に営むことが困難な若者の支援に当たりましては、関係機関が連携して対応することが重要でございます。
 そこで、都では、若者が電話やメール、面接により人間関係の悩みや孤独などを気軽に相談できる総合相談窓口、これを若者の若と片仮名のナビで若ナビと呼んでおりますが、この総合相談窓口、若ナビを運営し、相談内容に応じて就労、精神保健等の専門機関への紹介を行っております。
 また、ひきこもりの若者については、訪問相談、フリースペース、社会体験活動から成る都のプログラムに沿って支援を行うNPO法人等を登録し、サポートする事業を実施しており、そして参加団体では、若者の自宅への訪問や、自宅以外の安心できる居場所の提供、運営、ボランティア体験活動への参加などを行っております。
 都は、これらの団体や関係機関と連携しながら、若者が社会参加に向けた一歩を踏み出せるよう引き続き支援してまいります。
   〔総務局長笠井謙一君登壇〕

〇総務局長(笠井謙一君) 都庁におけるパワーハラスメントの防止対策についてでございますが、一般的に職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的、身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させる行為とされております。
 近年、企業等では、厳しい経営環境の中で、職場内コミュニケーションの希薄化等の影響により、パワーハラスメントが顕在化しつつありますが、業務上の指導等との線引きが難しく、具体的な行為の認定やその後の対応に苦慮していると聞いております。
 都庁におきましては、現在、こうした企業等の事例研究や管理監督者への研修等を通じて、パワーハラスメントを未然に防ぐ意識啓発を行うなど、良好な職場環境の確保に取り組んでおります。
 今後とも、お話の国の有識者会議の提言も参考としながら、職員一人一人が意欲と能力を遺憾なく発揮できる風通しのよい職場風土づくりに一層努めてまいります。

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