平成二十四年東京都議会会議録第九号

〇副議長(ともとし春久君) 五十三番神野吉弘君。
   〔五十三番神野吉弘君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

〇五十三番(神野吉弘君) 東京都は、アジア地域の業務統括、研究開発拠点となる外国企業を五十社以上、その他の外国企業五百社以上を誘致し、新規需要や高付加価値を創出して、東京の、ひいては日本経済の活性化を図るアジアヘッドクオーター構想を進めています。
 現在、政府から特区エリア指定を受け、具体的な事業計画策定を行っている段階と伺っていますが、この施策を東京にとってより効果のあるものとするために、幾つかの質問を行います。
 今回の誘致に当たっては、誘致企業に対して税制面での優遇措置を与えることになっています。国税である法人税は二〇%の所得控除、地方税の法人事業税は全額免除。これによって、誘致法人の実効税率は、三八・〇一%から二八・九%まで下がります。さらに、固定資産税も全額免除。たとえ五年間とはいえ、破格の優遇であります。
 景気の低迷を受けて、都内貸しビルの空室率が高どまりをし、固定資産税の支払いが困難なビルオーナーがたくさん存在します。
 また、円高による製造業の空洞化の中、懸命の努力を続ける都内企業が多数あるのに、誘致する外資系企業に対してこれほどの優遇措置を与えるからには、誘致することによる大きな経済効果をアピールしなければ、国内企業はもとより、みずからの努力で市場の開拓を行って定着をしている既存の外資系企業も納得をしません。
 お話によると、外国企業五百社を誘致したときの経済波及効果は九千六百億円と試算をしているとのことですが、基礎となる数字は平成十六年三月のものです。リーマンショック前の数値では、いささか説得力に欠けます。
 そこで、今回のヘッドクオーター構想による正確な経済波及効果の数字をお示しをいただきたい。
 対象企業の誘致活動はこれからとのことです。しかし、これだけの税制上のインセンティブを与えるわけですから、対象企業の選定に当たっても当然厳しい基準を設け、都内企業が納得するものとしなければなりません。外資系企業に税率を下げて、ただ来てくださいというのでは、投資が欲しいだけの発展途上国です。最近では、あの中国ですら、投資額、雇用、技術移転を条件として誘致企業の選定を行っているとのことですから、誘致する企業には、雇用や日本国内での生産を初めとして、さまざまな条件をつけるべきです。
 例えば、日本国内で行うビジネスは、都内企業と競合するものであってはいけません。なぜなら、同じ市場で競合するとしたら、税制面での優遇がある分、誘致企業が有利となってしまうからです。雇用が生まれて外資誘致の経済効果が上がったといっても、その陰で都内企業の売り上げが落ちたのでは、何のための施策かわからなくなってしまいます。日本には全くなかった新しい発想を持った外資系企業を誘致し、そのノウハウを都内企業が吸収できる機会を求めるべきです。
 また、製造業ならば、当然、都内での生産を義務づけるべきです。それによって雇用や下請企業の利益も生まれるわけですし、都内企業が新たな技術移転を受けることができれば、大きな効果を生むことができます。
 都は、外資系企業の誘致に当たってどのような戦略をお持ちなのか、見解を伺います。
 このヘッドクオーター構想では、税制面での優遇のほかにもさまざまな配慮が施されています。例えば、都が率先して、都内中小企業のすばらしい技術を誘致企業に紹介するサービス。誘致企業にとっては、日本のすばらしい技術をものづくりに生かすことができ、新たな可能性を広げることができる。都内中小企業にとっても、新たなビジネスチャンスを生むことができれば、双方にとって経済活性化を図ることができるわけですが、そこでぜひ配慮していただきたいのが知財保護及び技術流出への対策です。
 我が国は、技術を守るという意識が非常に希薄でした。これまでも、何度も、欧米諸国や中国、韓国に煮え湯を飲まされてきました。例えば、高峰譲吉が発見したアドレナリンは、アメリカのジョン・エイベルに業績を盗まれ、欧米ではエピネフリンとしか呼ばれません。武井武が発見した磁性材料のフェライトの特許は、技術を盗んだオランダのフィリップス社の国際特許が認められてしまいました。最近でも、特殊鋼板の製造技術を盗んだ韓国ポスコ社を新日鐵が訴えたり、サムスン電子への技術流出によって、日本の家電メーカーが苦境に立たされています。
 まさに国際社会とは、他国の技術を盗むことにたけた魑魅魍魎が住む世界です。日本の人のよさがえじきとされています。
 そこで、善良な中小企業がこうした技術窃盗に遭うことがないよう、十分な対策を講じて保護すべきと考えますが、見解を伺います。
 次に、誘致した外資系企業社員の生活環境を整備するためとして、EPA看護師、介護福祉士を活用したベビーシッターを確保する事業について伺います。
 最近、日本語が難しく、試験に合格できなかった彼女たちへの同情が高まり、日本語能力のハードルを下げるべきとの大合唱が始まっていますが、私はその論にはくみしません。介護福祉士、看護師の仕事は、日本人の命を預かる仕事です。もともと日本語は語彙が非常に豊富。同じ頭が痛い、腹が痛いでも、しくしくなのか、がんがんなのかでは意味が違います。日本語能力が十分でなければ、お年寄りや患者の言葉から症状を読み取ることができません。
 都は、今回のヘッドクオーター構想の特区制度を利用して、合格できなかった彼女たちの在留資格を変更、外国語のできるベビーシッターとして雇用し、外国企業社員の便宜を図るとしていますが、都がすべきは、彼女たちの日本語能力や専門知識を高める支援を行うことと考えますが、見解を伺います。
 日本のGDPの九割は内需です。それほど日本の国内市場は成熟をしていて、みずから進出をしてくる外資系企業も数多く存在します。今回、税制面等のインセンティブを与えてまで外資系企業をわざわざ呼ぶならば、真に日本企業にとってプラスになる戦略を構築しなければなりません。大切なのは日本です。グローバリズムの時代だからこそ、ナショナリズムが必要なんです。
 親善や友好といった言葉に流されず、また、五百社という目標に縛られず、しっかりした制度構築をお願いして、次の質問に移ります。
 先日、売れっ子お笑い芸人の母親が、長年生活保護を受給していたことが発覚をして社会問題になりました。その芸人が記者会見で、今度は自分がおかんの面倒を見ないといけないということに関して、考えが非常に甘かったと語っていた。私は、この言葉にこそ現代社会のさまざまな病理の根本があると考えました。
 年をとった親の面倒や子育ては、本来は家族の役割でした。とりわけ日本の家族は、お互いを助け合うセーフティーネットとしての機能と、先祖崇拝を通して、みずからが社会的存在であり、歴史的存在でもあることを子どもたちに自覚させ、倫理観、道徳観、宗教的情操をはぐくむという教育機能をも果たしてきました。
 家族の形の変化に伴って、行政へのニーズが高まっていますが、その変化を前提とした行政のあり方を追求するよりも、家庭、家族の役割を再評価、再構築することを求めるべきと考え、都の行政施策について伺います。
 都営住宅での孤独死が問題になった。また、亡くなった親の弔いもせず、ミイラになるまで放置して、その年金をかすめ取るという信じがたい事件も発覚しました。育ててくれた親の恩に感謝する風潮が失われつつあります。子どもたちに親孝行を教えるべきです。
 確かに、親と離れて暮らす所帯の増加や複雑な人間関係によって、行政の手助けが必要な場面がふえていることも事実です。でも、行政はあくまで家族の補完であって、代替にはなり得ません。独居老人の生活保護受給率が高いことからもわかるように、育ててもらった子どもが親の面倒を見る、親孝行の精神風土を取り戻さなければ、国がつぶれてしまいます。
 都は、今後、道徳教育に力を入れるとしていますが、とりわけ親孝行を重視すべきです。価値観の押しつけは悪とする批判もありますが、教育に強制はなじまないとするこの主張こそが、今の時代の混迷を招いているんです。都は、憶することなく徳目教育の中で親孝行を教えるべきですが、見解を伺います。
 都はことしから、離婚した親子の面会を支援する事業を全国に先駆けて開始しました。離婚家庭の増加を所与のものとし、行政へのニーズが増加していることが理由との説明ですが、私は、都が主眼に置くべきは、正式に結婚をした夫婦と、その子どもから成る家族の大切さを重んじて、それを維持させる政策だと考えます。
 子はかすがいというように、離婚を思いとどまらせるのは子どもに対する愛情です。ならば、離婚親子が子どもと面会することを仲介するサービスは、夫婦の離婚に向けてのハードルを低くすることになるのではないでしょうか。
 民間団体も行っているそのサービスを、あえて無料で都が行う必要があるのか、見解を伺います。
 保育所の待機児童解消が強く叫ばれています。その声を受けて、都は、保育の拠点づくりとして、認証、認可保育所の施設整備に平成二十四年度、約八十五億の予算を計上し、その拡充に努めています。
 ハード整備費と運営費などのソフト費用の単純比較はできないことはわかっていますが、例えば、在宅で子育てをするお母さんへの支援策、一時預かり事業の運営費補助には、約四千万の予算しか計上されていません。在宅での子育て支援は、ほかにも子育て広場への運営費補助などもありますが、全体的に少ないといわざるを得ません。
 子育てをしているのは、仕事を持つお母さんだけではありません。都は、家庭で子育てをする専業主婦への手助けにも力を入れるべきと考えますが、見解を伺います。
 行政施策においては、子どもを預けて働く母親と専業主婦それぞれへのサービスは平等であるべきです。ゼロ歳児保育には、一人当たりの運営費として月額四十万から五十万、一、二歳児には月額二十万前後の税金が投入される。これだけの税金を投入して保育所をつくっても、保育士は足りないし、待機児童の掘り起こしにつながるだけとの意見もあります。ならば、保育所を利用する人に投入されるその税金相当額を、保育所を利用せず家庭での子育てを選択する母親に手当として支払うことを検討してはどうでしょうか。ノルウェーで行われている在宅育児手当制度の検討を要望させていただきます。
 現在、高校で使用されている家庭科の教科書を見ると、家族の多様化のみが強調され、本来の家族の意義というものが相対化されています。伝統的な家族の役割である高齢者介護や子育てについても、その経済的、精神的負担のみが強調され、家族間の信頼関係についての肯定的な記述を見つけるのにも苦労するほど、極めて偏った記述があふれています。
 今、大阪維新の会に代表されるように、維新という言葉が大はやりです。しかし、そのモデルである明治維新の本質は一体何かというと、革命でもなくて、改革でもありません。王政復古なんです。
 変化を受けてそこからの改革を訴えるのではなく、都は、伝統的な家族の復古を政策として訴えるべきと考えますが、知事の所見を伺って、私の質問を終わらせていただきます。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 神野吉弘議員の一般質問にお答えいたします。
 家族の再生についてでありますが、有色人種で初めて、当時においての近代化というものを達成した明治維新の本質が王政復古であるとする議員の主張はともかくも、人間はだれしも他者とのかかわりなしには生きてはいけないわけでありまして、家族はそうした連帯の基本単位であると思います。
 しかし、昨今の生活保護をめぐる問題にしても、ご指摘にありました、親の死を三十年も隠して、ミイラになるまで布団をかぶせて、その年金を詐取した問題にしても、家族が機能不全に陥っているのはだれの目にも明らかであります。
 今日の日本は、残念ながら、金銭欲、物欲、そういった我欲が価値の第一となりまして、権利さえ主張すれば何でもかなうという風潮が蔓延してきました。これは、家族が日本人の立場や世代を超えて継承していかなくてはならない垂直な価値の基軸というものを伝える力を失いつつある一つの証拠であると思います。証左であると思います。家族の立て直しこそが差し迫った課題だと私も思います。
 長い年月を経て失ってきたものを一朝一夕で取り戻すことは難しいですが、日本人がかつて脈々として受け継いできたものを今日にもう一回思い直して、確かに伝えていく、伝承する、そういう多角的な取り組みを積み重ねていく必要が絶対にあると思います。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 児童生徒への親孝行の指導についてでございますが、いかなる時代や社会にあっても、児童生徒に父母等への感謝の念や親愛の情をはぐくむことは、人間として生きていく上で極めて重要なことでございます。
 都教育委員会は、都内の全公立小中学校に対して、道徳教育郷土資料集を作成、配布し、家族への敬愛の心をはぐくむ指導の充実に努めております。
 また、各学校では、道徳授業地区公開講座などで、家族愛等にかかわる授業実践や保護者と地域住民を交えた意見交換会を行い、道徳教育のあり方について理解啓発を図っております。
 さらに、現在新たに作成しております独自の道徳教育教材には、父母等への敬愛を取り上げており、今後とも、区市町村教育委員会と連携した取り組みを推進することで、児童生徒の親に対する敬愛の心の育成に努めてまいります。
   〔知事本局長秋山俊行君登壇〕

〇知事本局長(秋山俊行君) 三点の質問にお答えをいたします。
 まず、アジアヘッドクオーター特区についてでございますが、東京がアジアのヘッドクオーターたる地位を確立していくためには、アジア地域の都市間競争、これに勝ち抜く必要があるというふうに認識をしております。
 現在、国内には約三千社の外国企業が進出しておりますが、このうち誘致効果が極めて高い、アジア地区の中核をなす業務統括拠点を置いているのは、都内で十数社、全国でも二十社程度にしか過ぎません。
 このため、今回の特区の取り組みでは、ビジネス環境や生活環境を整えることで、外国企業全体で五百社以上を誘致すること、これを目標としておりますが、インセンティブとなる税制の優遇措置につきましては、アジア地区のこの業務統括拠点等を対象として、五十社以上の誘致を目指すこととしております。
 こうした外国企業と都内の高い技術力を有する中小企業等とのマッチングによりまして、新製品開発や販路拡大の可能性が高まるほか、東京進出後の地方への二次投資等によりまして、日本全体の経済活性化に寄与するものというふうに認識をしております。
 また、特区の取り組みによります経済波及効果につきましては、現在、最新のデータに基づく試算を進めているところでございます。
 次に、誘致対象企業の条件づけなどの戦略についてでございますが、都といたしましては、情報通信、医療、金融、電子・精密機械等の東京のさらなる成長を促す業種、こういった外国企業を誘致対象と考えておりますが、その中でも、先ほど申し上げたところでございますが、税制の優遇措置の対象となる外国企業につきましては、誘致効果の極めて高い業務統括拠点等としております。
 こうした外国企業に対しては、国税と一体となった都税の減免措置や入国審査の簡素化等の規制緩和措置を行うに当たって、資本金、雇用等の一定の要件を国と調整の上、課す考えでございます。
 最後に、EPA看護師、介護福祉士候補者に対する国家試験等の支援についてでございますが、都は、EPAに基づき来日した看護師、介護福祉士候補者の国家試験合格率が低い水準にあることから、国に対して、来日前の日本語教育や来日後の国家試験対策の充実などを強く要望してまいりましたが、一部の改善にとどまっているのが現状でございます。
 そこで、都独自の支援策として、看護師候補者に対しては、首都大学東京と連携し、本年五月に日本語教育を含めた国家試験対策講座を開設したところでございます。
 今後は、来日前のビデオ等を利用した遠隔教育を実施する予定であり、また、介護福祉士候補者に対しても、日本語教育や国家試験対策を行うなど、都として支援策を充実させてまいります。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

〇産業労働局長(前田信弘君) 中小企業の知的財産の保護についてのご質問にお答えします。
 海外への販路開拓などを進める中小企業がふえる中、すぐれた技術を持つ企業の知的財産を保護することは重要となっています。
 知的財産総合センターでは、特許権等の知的財産権を用いた保護方法、共同研究や製品開発時における秘密保持のための契約書の書き方や社内規程のつくり方などについて、きめ細かいアドバイスを実施しております。あわせて、セールスの場面などで意図せざる技術流出を防ぐための営業担当者向けの講習会や、秘密の保持管理に関するセミナーも開催しております。
 こうした取り組みを通じて、中小企業の知的財産の保護を総合的に支援してまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、離婚した親子の面会交流支援についてでございますが、本年四月に施行された民法の改正におきまして、親が離婚する際に、別居する子どもとの面会交流に関して取り決めを行うことが新たに規定されました。
 この施行にあわせて、国は、民間支援サービスの利用が難しい所得の低い方を対象に、自治体が無料で面会交流の支援を行う制度を創設をいたしました。
 都は、この制度に基づき、親子の交流に向けた支援を実施いたしております。
 次に、在宅での子育て支援についてでございますが、区市町村では、子育てひろばや子ども家庭支援センターで育児相談に応じるほか、保育所等における一時預かり、保護者が病気や育児疲れなどの場合に子どもを預かるショートステイ、家庭への育児支援ヘルパーの派遣など、在宅の子育て家庭を支援するさまざまな取り組みを行っております。
 地域の実情に応じて区市町村が実施しております子育て家庭に対するこうした取り組みを、都は、今後とも、包括補助事業等により支援してまいります。

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