平成二十四年東京都議会会議録第三号

〇議長(中村明彦君) 十九番伊藤興一君。
   〔十九番伊藤興一君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

〇十九番(伊藤興一君) 初めに、高度防災都市東京の実現に向けて、都の取り組みについて質問します。
 東日本大震災以降、首都直下地震、三連動地震の切迫性が指摘される中、先日は、文科省の調査により、これまで想定していなかった震度七の揺れが、都心部を襲う可能性があると報道されました。
 首都東京の最大の弱点である木密地域の不燃化は、都政の最重要課題として取り組みを全力で加速しなければなりません。
 都は、木密地域不燃化十年プロジェクト実施方針を示しました。その中で、不燃化促進の誘導策として、不燃化特区制度を創設したことは評価します。
 しかし、これまで木密地域整備促進事業が計画どおりに進まなかった地域に共通する課題として、建てかえは住民の経済的負担が大きいこと、共同化は合意形成に長い時間を要することが明らかであり、こうした誘導策だけでは早急な改善は困難であります。
 そこで、整備地域の不燃化プロジェクト推進に当たっては、これまでの施策に加え、燃えにくい、燃え広がりにくい建物に強化することが可能な上、比較的安価で施工でき、住民の合意形成が不要となる耐火改修、リフォームや耐火塗装による延焼防止策も事業の対象とすべきであります。
 また、整備地域と整備地域以外もあわせて、街区の内側、中心部の不燃化も重要であります。
 私の地元品川区には、街区の内側、中心部が木密となっており、消防車が入れないどころか、人が通るのがやっとという地域が点在しており、大災害が発生すれば瞬く間に炎が燃え広がることが危惧されることから、長年にわたって懸念の声が上がっています。こうした地域も迅速な避難、救援活動が行えるよう、被害を拡大させないための不燃化対策が必要な、公共性の高い地域であります。
 そこで、都は、不燃化促進の対象を街区の内側、中心部も含めたすべての木密地域とした事業を創設すべきであります。
 さらに、災害時に逃げおくれが心配される高齢者世帯や障害者がいる家屋の不燃化に対しては、都として優遇策を講じるべきであります。あわせて見解を求めます。
 次に、津波、高潮対策について質問します。
 想定をはるかに超えた地震、津波により甚大な被害をもたらした東日本大震災以降、居住地の安全性や標高、避難方法について、多くの都民、国民の関心が高まっています。
 こうした中、品川区では、今年度、高潮・津波対策検討基礎調査を委託、実施し、航空機によるレーザー測量で土地の高さを計測して、わかりやすく色分けした標高図を公開しました。これをもとに、今後、区民と協働して津波ハザードマップやマニュアルを作成するほか、電柱など区内五百カ所にその地点の海抜を表示します。
 これは、居住者やその地域を訪れた人たちが、津波や高潮による避難が必要となった場合に、みずから迅速な避難行動を起こせる貴重な情報源となり、また、まち中で常に標示を目にすることで、自助、共助の防災意識も高まります。
 しかし、この取り組みが単独の区事業におさまってしまえば、広域に往来する多くの人たちにとっては、行政区を超えれば効果が失われてしまいます。こうした取り組みこそ、広域的な観点から統一的に構築していくべきであります。
 そこで、都民、国民が標高や避難する方向などを正しく認識し、迅速な避難行動をとれるよう、広域行政を担う都が、東京湾に隣接する沿岸地域、低地部の関係区と連携を図り、わかりやすい避難、誘導策を構築していくべきであります。見解を求めます。
 次に、災害から子どもたちを守るため、学校施設の安全強化について質問します。
 このたびの震災では、震源地から遠く離れた東京においても、民間施設の天井の一部が崩落し、甚大な被害が発生しました。公立学校施設においては、天井材、外壁、ガラス、照明器具などの非構造物の被害が報告されています。
 いうまでもなく、学校は、子どもたちが一日のほとんどの時間を過ごす活動の場であり、災害時には地域住民の避難場所になることから、その安全性の強化は極めて重要であります。
 都はこれまで、校舎の耐震化を強力に推進し、都立学校は一〇〇%、公立小中学校は約九五%が耐震化されましたが、今後は、非構造部材の耐震対策も早急に実施する必要があります。
 なぜなぜならば、非構造部材の被害は、建物自体の損傷が軽微な場合であっても生じており、将来ある子どもたちを天井材やガラスの落下などによる被害から何としても守ることが私たちの責務であるからであります。
 国は、昨年七月に東日本大震災を踏まえた学校施設の整備に関する検討会による緊急提言をまとめましたが、非構造部材の耐震対策について、具体的な達成時期、目標は示されておりません。
 そこで、都は、まずは都立学校が率先して非構造部材の点検を開始するとともに、学校施設の整備基準を検証し、早急に対策を講じるべきであります。
 また、小中学校の耐震化一〇〇%を進めるのと同時に、校舎の耐震化が完了した学校から順次、速やかに非構造部材の耐震強化を図るべきであります。あわせて見解を伺います。
 次に、帰宅困難者対策について質問します。
 本定例会に、東京都帰宅困難者対策条例が提案されました。大規模災害の発生により、パニックや二次災害を回避するためにも重要な条例案であります。この中の第五章には、帰宅支援に関する条項があります。
 私は、三・一一東日本大震災の日には、都民の安全を確認するため、深夜まで品川区内を調査に回る中、国道の歩道からあふれながら歩いて家路を急ぐ多くの帰宅困難者の姿を目の当たりにしました。
 その折、寒空の中、身を縮めて歩くOLやサラリーマンの方々が、国道に沿った商店街の一角で湯気の立った温かい汁物をいただいている光景がありました。それは、ある八百屋さんが自発的に炊き出しを行い、それを地域の住民が手伝い、帰宅困難者を支援していたのであります。
 しかも、その真心の支援は、その先の商店街、またその先の商店街へと伝播しており、私は、江戸東京の心意気、ここにありと感動しました。
 これまで、都による災害時帰宅支援ステーションの指定は、都立高校を初めとする都施設、また、コンビニやガソリンスタンドなど、広域な都内に点在しておりましたが、今後、都は、その点と点を線で結び、区市、そして都県を超えても支援が続く帰宅支援ラインを形成できるよう企業、団体などに呼びかけ、帰宅支援ステーションの大幅な拡充を図るべきであります。見解を求めます。
 次に、魅力ある東京のまちづくりについて質問します。
 品川駅の南地域は、新幹線品川駅の開業や羽田空港の国際化に加え、リニア中央新幹線の始発駅に決定されるなど、東京の新拠点、表玄関としてにぎわいを備えた新たなまちづくりに期待が寄せられております。
 一方、アジアヘッドクオーター特区と特定都市再生緊急整備地域が指定され、この地域に隣接するエリアが選定されました。
 国と都による位置づけの中には、整備の推進に関し必要な事項として、運河、自然、歴史等の特性を生かした地域の顔となる魅力的な景観形成に配慮した都市開発事業を誘導するとしています。
 まさしく、品川駅の南地域は、屋形船や釣り船が並ぶ品川浦を初め、運河が縦横に形成されており、その横には江戸幕府の第一宿、品川宿があった旧東海道が走るなど、豊かな水辺の自然と歴史の特徴がある魅力的な地域であります。
 そこで、今後の地域整備については、地元品川区や住民の意向を重視しながら、周辺と調和のとれたまちづくりが進められるよう、都として柔軟に支援していくべきと考えます。見解を求めます。
 最後に、交通施策について質問します。
 都内の交通事故の件数は減少傾向にある一方、自転車による事故が後を絶ちません。先日は、私の知人が自転車同士の衝突事故に遭い、骨盤を骨折する重傷を負いました。
 自転車は最も身近な交通手段でありますが、一たび事故になれば、自転車利用者は一瞬にして被害者にも加害者にもなってしまう危険性があります。
 高齢社会が加速する東京において、こうした交通事故を防止するための取り組みはますます重要となります。
 都が示した「二〇二〇年の東京」には、交通渋滞の解消、自転車道や街路の整備、ITS技術の活用など、多面的な取り組みを行うとしています。
 そこで、都は、人と自転車ともに安全で優しい都市、東京を構築していくべきと考えますが、知事の所見を伺います。
 都議会公明党はこれまで、自転車利用の安全対策の強化を繰り返し都に求めてきました。そして、都は、条例制定も視野に検討委員会が報告書をまとめ、安全に連続して走ることができるよう、走行空間のネットワーク化を促進する必要性を挙げています。
 こうした中、警視庁は今月、自転車ナビマークを制定し、モデル実施を開始しました。これは、自転車が通行すべき部分と進むべき方向を明示したもので、法定外表示ではあるものの、自転車利用者のみならず、都民にとってわかりやすい取り組みであります。
 加えて、自転車利用のルール、マナーの向上と都民意識の醸成や自転車走行空間の連続性、ネットワーク化を促進するために大いに活用できる施策であると考えます。
 そこで、自転車ナビマークについて、今後期待できる効果を警視庁に伺うとともに、都や区市町村と連携して取り組みを加速、拡充すべきと考えます。所見を伺い、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 伊藤興一議員の一般質問にお答えいたします。
 東京における自転車の利用についてでありますが、環境負荷が少ない自転車は、都市における有効な移動手段の一つでありまして、欧州の諸都市では広く普及していることはよく承知しております。
 しかし、国土が平たんで、その多くが可住地であるいわゆるインハビタブルプレースを持っている欧州各国に比べて、急峻な山々が大部分を占める日本は、可住面積が全国土の三割にも満ちませんで、自転車利用上、大きな地勢学的なハンディキャップを負っております。
 先般も、オリンピックの用事でベルリンを訪れまして、日本大使館を出て、ホテルまでウンターリンデンを歩いていました。随分幅の広い歩道だなと思ったら、実はその半分が自転車の専用道路で、間もなくやってきた自転車に乗っている男にどなられましたが、非常にうらやましい気がいたしましたけれども。
 特に日本の東京では、自転車の数に比べて、とにかく地面が狭小で、自転車が安全に走行できる空間が決定的に不足しておりまして、今後、自転車の利用を拡大するには、何よりもまず二十世紀の負の遺産であります渋滞解消のための道路整備が不可欠であると思います。
 「二〇二〇年の東京」計画で示したとおり、今後十年間で外環道を含む三環状道路を整備し、都心に用のない自動車の流入を大幅に減少させることによって、東京の道路を取り巻く環境を一変させていきたいと思います。
 いずれにしろ、東京でよく見かけますが、ママチャリとみんないっていますけれども、前後にお子さんを乗っけ、中には生まれたての赤ん坊を背負って、とにかく親子で四人で乗っている自転車というのは、本当にこれ、ちょっと、ひっくり返ったらえらいことになるんじゃないかと思うんですが、こういった懸念も防ぐべく、都市インフラの整備の成果を十分に生かせられれば、東京における道路利用の可能性が広がると考えておりまして、今後とも、より快適で魅力的な都市空間を創出していきたいと思っております。
 他の質問については、警視総監、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔警視総監樋口建史君登壇〕

〇警視総監(樋口建史君) 自転車ナビマークというのは、車道の左端に一メートル余りでありますが、幅を青く塗りまして、一定間隔で自転車のマークも刷り込んであるわけですね。自転車が走行する場所を明示するとともに、方向も明示する、そういうものでありますけれども、この自転車ナビマークの意義や効果については、今、議員みずからご指摘いただきまして、ほとんどつけ足すことはないのでありますけれども、一応申し上げたいと思います。
 これは、去年の十二月に警視庁では自転車総合対策推進計画というのを策定しまして、大きくは二本柱でなっておりまして、一つは、現状のままでも自転車利用者のルール、マナーがやはり悪いと。これを指導取り締まりを強化する、これが一つですね。
 それと、これは手間も暇もいろいろなことが、条件が整わないとなかなか進まないんですけれども、自転車通行環境の確立も警察としてもきちんと責任を果たしていこうと、この二本柱であります。
 自転車ナビマークというのは、現状のままでもできることをやろうじゃないかという一環であります。強いていいますと、自転車通行環境の確立の一環として始めたことであります。今冒頭に申しましたけれども、左端を青く塗りまして、自転車がどこを通行すべきか、その方向はどっちの方向を通行するんだよということを明示するというものでありますが、これはもう当たり前の話ですけれども、交通ルールの周知徹底に効果があるものと考えております。とともに、そういうことをきちんと示すことが、自転車利用者に対する指導取り締まりを強化する上でも、その前提として非常に有用なものであると考えておるところであります。
 期待される効果は、これ、ご指摘あったとおりでありまして、何度ももう既に申し上げているんですけれども、東京は交通事故に占める自転車の関与した事故の比率が非常に高い。三七%ほどになるわけでありまして、この自転車関与事故の減少が期待できます、できると考えています。それと、自転車利用者のマナー向上の効果を期待しているところであります。
 それから、この自転車ナビマークの設置場所は、現在のところは二カ所でありまして、江戸川区の西葛西地区と小平市の小平駅南口地区でありますけれども、今後は効果検証をきちんとやっていきまして、これは自転車走行空間整備の現状のままでもできる手近な一手法でありますので、地域住民の方々の意見も十分に踏まえまして、また道路管理者等ともきちんと連絡をとり合った上で、さらに広げていきたいと考えております。
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、都立学校の非構造部材の耐震化についてでございますが、東日本大震災による都立学校の非構造部材の被害は、幸いにも重大なものはございませんでしたが、天井材のはがれや照明器具のずれ等、軽微なものが都立学校二百四十五校で延べ三十三件ございました。
 都教育委員会では、震災後、速やかに職員による非構造部材の緊急点検を実施し、必要な補修を行ったところでございます。
 来年度は、全都立学校を対象に、天井高が高く、照明器具等の耐震対策にふぐあいがあると、地震発生時に重大事故につながるおそれがある体育館を優先いたしまして、今度は専門家による総点検を行い、その結果に基づき、所要の落下防止対策を実施するとともに、非構造部材の耐震化について、都立学校の施設整備標準に盛り込んでまいります。
 次に、区市町村立小中学校の耐震化についてでございますが、区市町村立小中学校の建物の耐震化につきましては、国の補助制度に加え、都独自の補助も実施しております。これによりまして、区市町村立小中学校の建物の耐震化率は、平成二十三年度末には九六・五%となる見込みであり、今後とも着実に進めてまいります。
 また、非構造部材の耐震化につきましては、建物の耐震化とあわせて実施する場合には都の補助対象とするとともに、専門家による非構造部材の耐震化対策等の講演会を実施してまいりました。さらに、天井材の落下や備品の転倒等についての危険性と対応方法についても情報提供してまいりました。
 今後は、都立学校における点検等の具体的取り組みを広く紹介する等によりまして、非構造部材の耐震化についても区市町村を支援してまいります。
   〔都市整備局長飯尾豊君登壇〕

〇都市整備局長(飯尾豊君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、木密地域の不燃化についてでございますが、今回の木密地域不燃化十年プロジェクトは、震災時に甚大な被害が想定される整備地域を対象に、不燃化特区などの施策を重点的、集中的に行い、木密地域を燃えない、燃え広がらないまちにすることを目指しております。
 不燃化特区は、木密地域の改善に積極的に取り組む区に対し、期間と地域を限定して都が特別の支援を行い、不燃化を強力に推進するものであり、今後、区からの提案なども踏まえながら、制度の具体化を図ってまいります。
 お話のあった耐火改修等による延焼防止策や高齢者等への優遇策など、さまざまな提案が区からなされるものと考えており、都としては、区とも協議しながら実効性ある制度を構築し、木密地域の不燃化を効果的に進めてまいります。
 次に、品川駅の南地域のまちづくりについてでございますが、この地域は、本年一月に国が特定都市再生緊急整備地域に指定した品川駅、田町駅を中心とした地域に隣接しており、都が策定した品川駅・田町駅周辺まちづくりガイドラインにおいて、品川宿の面影や品川浦の水辺など、観光や歴史的資源を生かしたまちづくりを進める地域としております。
 都としては、住民や地元区が中心となり、魅力ある地域特性を生かしたまちづくりの計画が進められるよう、引き続き支援してまいります。
   〔総務局長笠井謙一君登壇〕

〇総務局長(笠井謙一君) 二点のご質問にお答えをいたします。
 まず、都民にわかりやすい避難誘導策についてでございますが、高潮や津波などの水害による被害を軽減するためには、都民の的確な避難行動を促す必要がございます。
 避難誘導の主たる役割を担う各区では、お話の標高図のほか、区域内を流れる河川水位をリアルタイムで表示するなど、地域の実情に応じた取り組みが行われております。
 都は、今後、防災会議のもとに設置した関係機関も参加する避難対策に関する検討部会におきまして、水害時における広域的な避難誘導について検討を進めてまいります。
 そして、この検討部会では、品川区の海抜表示の事例など、各区における取り組み状況等を調査し、その結果を踏まえて、住民にわかりやすい効果的な取り組みをほかの区にも広く普及させるなど、関係区と連携しながら実効ある避難誘導策を構築してまいります。
 次いで、災害時帰宅支援ステーションの拡充についてでございますが、都は、これまで九都県市と連携して事業者団体等との協定締結により、災害時帰宅支援ステーションの拡充を進めてまいりましたが、ご指摘のとおり、主要道路沿いにさらに多くの災害時帰宅支援ステーションを確保し、徒歩帰宅者が安全に帰宅できるよう、切れ目のない支援を行っていく必要がございます。
 このため、都といたしましても、引き続き企業や事業者団体等に対して協力を求めるとともに、新たに区市町村とも連携して、地域の企業や店舗等を指定する取り組みを進めることで、災害時帰宅支援ステーションのさらなる拡充を図ってまいります。

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