平成二十三年東京都議会会議録第十八号

   午後五時四十分開議

〇議長(和田宗春君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 三十番佐藤由美さん。
   〔三十番佐藤由美君登壇〕

〇三十番(佐藤由美君) 発言させていただきます。
 平成十九年六月にがん対策推進計画が策定され、この第一期の終了を控え、厚生労働省がん対策推進協議会において、先月二十一日、次期計画の骨子案が示されたところです。この案では、地域連携と在宅医療の拡充とともに、見落とされていた小児がんについて、課題と対策の必要性が盛り込まれています。
 小児がんは、だれしもがなり得る病気です。そして、五歳以降二十歳になるまでの子どもたちの幼い命を奪う病気は小児がんです。毎年二千人から三千人の子どもががんと診断されています。体じゅうのどの箇所でも発がんし、その発生箇所ごとに治療法が異なる中で、高度な治療ができる専門医が極めて少ないという現実があります。こうした中、治療ができる病院を集約することにより、がん治療の高度化、専門性を高めていく必要性が示されているところです。
 東京都内における小児がん治療の充実に向けて、モデルとなる拠点病院を指定して適切な治療を受けられる体制の整備が求められます。
 一方、このことは逆にいえば、ふだん暮らしている地域から離れて治療を受けざるを得ない状況を意味します。そういう意味で、付き添う家族は、泊まり込みや病院近くの宿泊のため、大きな負担を負います。現在、NPOなどにより、家族の宿泊ができるケアハウスを運営するなどの取り組みが進められていますが、都として、良質な治療体制の拡充とともに、こうした患者、家族の生活面など社会的な支援を行っていくことが不可欠と考えます。
 都として、小児がん患者が高度で専門的な治療を受けられる体制整備と家族への支援について、どのように取り組んでいくか伺います。
 現在、もちろん適切な医療が受けられたことが前提になりますけれども、小児がんの治癒率は向上しています。子どもの治療中の生活や教育が課題です。
 小児がんの治療サイクルは、例えば一週間入院、二週間退院して家で過ごし、また入院をしてと繰り返す中で治療を行う状況があります。自宅療養中は前籍校に通学し、入院中は病院内分教室や訪問教育機関を活用するといった、柔軟な対応が求められています。
 しかし、現状では、一たん学籍を病院内教育に移した後の地元校の対応は大きな格差があります。学籍がなくても授業や行事に受け入れる学校もあれば、受け入れに消極的な学校もあり、自宅療養中に前籍校に通える子どもはまだまだ少ないのが現状です。
 分教室に学籍を移しても、一時退院中、希望に応じて地元の前籍校にスムーズに通えるようなシステムの構築が必要と考えますが、所見を伺います。
 また、高校生の場合、入院中の教育の場が保障されなければ、欠席がふえ、留年を余儀なくされるわけですが、高校生、特に小児科以外の混合病院に入院している場合など、受け入れられる病院内教育の場が少ない状況があります。療養中に取り組んだ地元校から出された課題を提出することで単位を取得できるといった教育条件整備も必要です。
 昨年、特別支援教育推進計画第三次実施計画が出されていますが、改めて病院内教育の多様な役割の理解を深め、位置づけを明確にしなければなりません。
 病院内教育では、学習のおくれを防ぐという役割だけにとどまらず、闘病中の子どもの心理、精神面へのサポートが求められています。病院内教育では、学習空白の補完は大切な課題の一つです。しかしながら、専科の教員の授業時数を確保されるだけでは不十分です。病気の子どもたちには、想像を絶するような不安を和らげること、自分のありのままの気持ちを出せる人の存在などが必要だからです。
 また、子ども本人とともに家族の支えとなったり、地元や医療とのつなぎ役も大きな役割です。医療、前籍校、保護者と連携しながらトータルケアの一員として、教科の専門性だけでなく、幅広い病院内教育の専門性が求められている分野です。
 第三次実施計画では、eラーニングを活用した指導内容方法の研究開発についても掲げているところです。しかしながら、単にネットワーク上のプログラムができても、人の支えがなければ、闘病中の、闘病生活の中での学習へのモチベーションにはつながりません。病院内の学習の場が充実していること、授業中や放課後活動の中で、学習、遊び、語らいをともにする時間や、しんどいときにベッドサイドでともに過ごす時間があってこそ、信頼関係が生まれ、信頼関係が支えになってこそ、eラーニングなどのツールが生かされるのだと考えます。
 幅広い視点で子どもをとらえ、つなぎ役としての教員の役割が理解され、しっかりとその役割が発揮できるような教員の配置と研修システムを整えていくことが不可欠と考えます。病院内教育の意義について所見を伺います。
 授業を確保し、幅広い視点で子どもを理解し、寄り添える担任がしっかりとそばに常駐している教育の場を保障していかなければなりません。
 病院内教育では、現在、分教室と訪問教育で構成されているところです。しかしながら、訪問教育では、週に六時間程度しか授業が保障されていません。治療や体調等により計画的に学習が進まないこともあり、次の訪問までに大きく間隔が開いてしまいます。
 訪問教育の時数をふやすことは大変重要ですが、こうした子どもの体調に応じて学習を進めるためには、教員が常駐し臨機応変に対応することが必要です。分教室であれば、放課後の時間を利用することによって、子どものそうした体調に合わせて対応することができます。また、教室に来て友達や教員と過ごす時間は、つらい治療を耐えている子どもたちにとってとても貴重な時間です。教員が常駐できる病院内分教室をふやすことが求められていますが、所見を伺います。
 さて、さきの定例会で知事は、教育再生円卓会議の設置を表明しました。先月十六日に開催された第一回会議録を読み、内容については共感する箇所もあれば、本当に子どもたちと触れているのだろうかと、事実認識や議論の方向性に疑問に思う箇所など、もろもろありますが、ここではただ一点確認をしておきたいと思います。
 当然ながら、教育は権力からは独立のものであって、権力を持つ者は教育に介入することに懐疑的であるべきことを、改めて確認しておきたいと思います。
 また、教育は、教育を受ける個人は経済的な、人的な資源と位置づけられるものではなく、何かの企業や組織が雇用するという関係ではない以上、教育を議論する場で人材と呼ぶことに違和感があることも申し添えておきたいと思います。教育は諸個人のためにあり、国家、自治体はその保障のために全力を尽くすべきと考えます。
 次に、社会的包摂、参画について伺います。
 法教育の目的は、法専門家の教育とは異なり、一人一人が単に決まりを守るという観点にとどまらず、責任や公正、正義など、法が内包する価値や民主主義の基本的な理念をワークショップ形式でやりとりの中で理解し、社会に参画をしていくことにあります。
 司法制度改革審議会報告でも、さまざまな政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等のもろもろの改革、これらの改革の基底に流れているのは、一人一人が統治客体意識から脱却をして、統治主体として社会の構築に参画をし、この国に豊かな創造性とエネルギーを取り戻そうとする志であるとうたい、この司法改革はその最後に位置づけ、その中で学習機会の充実を図ることと明記しています。
 平成二十年度に、子どもたちに生きる力を身につけさせることを目的として改訂された学習指導要領において、法や決まり、司法にかかわる指導内容が新たに示される中、都教育委員会は、平成二十年七月に法教育研究推進協議会を設置し、本年三月に法にかかわる教育カリキュラムを発行し、各市区町村教育委員会や学校に配布をしたところです。
 法務省法教育研究会が設置されて既に八年が経過している中で、モデル事業やシンポジウムの開催といった普及啓発の段階を超えて、早急に小中高の学校で実践に移すべきと考えますが、都教育委員会では、各学校における法教育の実践的な取り組みを推進させるために、区市町村教育委員会や学校に対してどのような具体的な取り組みを行うか、伺います。
 各学校における法教育の実践的な取り組みを推進させるには、適切な指導ができる力が不可欠です。そのため、教員の育成過程における履修科目の改定も視野に入れなければならない一方、法専門家や研究者などが出前講座を実施する、あるいは教員に対する研修を担うといったように、法律専門家などと連携を図るなどして、教員の授業力の向上を図っていくべきと考えますが、都教育委員会の所見を伺います。
 次に、一人一人の参画とともに、社会的包摂の観点から伺います。
 今、日本における外国人登録者数は、二〇一〇年では二百十三万となっており、三十年前の二・五倍強と増加をしています。こうした中、都教育委員会は、都立学校に授業補助のために、日本語とほかの言語ができる人を配置する取り組みをしているところですが、どの言語であっても、自分の母語を確立している場合は格別、そうでなく、一つの言語も確立できていない子どもの存在を見逃してはなりません。
 一九七九年に迫害を逃れてきた定住インドシナ難民の二世の子どもたちは小学生になります。ふだんの会話は日本語でやりとりができますが、少し込み入った事柄になると表現が難しくなる状況があります。子どもたちにとって、親のベトナム語は母語にはならず、一方で、ふだん使う日本語については、十分にみずからの母語として確立する環境が整っていない状況があります。
 多くの難民の定住する県では、学校と民間団体が連携をし、日本語教師の協力と地域のボランティアの力で、放課後日本語教室を開催しているところです。
 言語は単なるコミュニケーションの道具にとどまるのではなく、みずからが何を考えるのか、自己の確立に不可欠です。その子がその人生を生きるために、バイリンガルと究極の反対にあるセミリンガルの子どもを放置してはなりません。だからこそ、授業補助とは別に日本語学習支援が不可欠と考えます。
 東京においてもこうした観点から、日本語教室の重要性を位置づけ、子どもたちがひとしく母語を確立して自己を確立できる環境を整備するべきと考えます。
 また、国際化は東京の中に進んでいるものです。観光業の振興に向けて、標識などに多言語表記をする取り組みがあります。しかしながら、短期滞在のみならず、定住して家族で暮らす在住外国人がいます。そういう意味で生活としての言語、権利保障に係る手続などはもちろんのこと、災害情報における多言語による提供や医療通訳などの支援を拡充すべきと考えています。
 都は、こうした地道な在住外国人支援のために活動を行っている市区町村や地域のNPO団体と連携し、支援を行っていくべきと考えますが、所見を伺います。
 三点目に、経済、産業振興について伺います。
 国内需要の収縮やグローバル競争の激化等の構造的課題が深刻化する中、展望が開けない中小企業も存在することから、必要な施策を講じていく必要があります。
 現在、グローバル化の中、国際分業が進み、日本は、完成品ではなく、部品の輸出入の割合が高くなっている現状があります。日本国内で大小の企業が系列を組んで受注生産という構造は変化をして、中小企業においては活路を、みずからの強みを生かして外の市場へ展開していくことに見ている状況があります。販路開拓支援、政策金融の強化、技術流出対策の強化など、海外展開支援の充実が必要です。
 都内の中小企業の幾つかに伺いました。城東地域のある企業では、情報通信の製品にこれまでの技術を改良して、その情報通信の安定に寄与する部品をつくり出しています。こうした技術が国際分業のネットワークの中の一員として組み入れられていることが必要と考えます。
 しかし、実際に中小企業が海外での営業活動を行うといった場合、自力で開発していく創業者もいますが、商習慣など情報が十分でない上に、取引先とのネットワークづくりに必要な人的なつながりもなく、言葉の壁などが立ちはだかり、販路を見出すことが容易ではない側面があります。
 こうした中小企業の海外市場での販路開拓の努力を支援するため、行政としてサポートが重要となると考えますが、所見を伺います。
 三月の東日本大震災では、サプライチェーンが断絶し、また流通が寸断されたことは周知のとおりです。物流に大きな混乱が生じました。東日本太平洋側の港湾の被災により、ふだんであれば仙台塩釜港から京浜港へ内航フィーダー輸送網を使っている企業も、日本海側の港湾まで陸送して輸出入を行う東北の企業も多かったと報道されています。
 さて、国土交通省の輸出入貨物流動調査によると、東日本地域でのコンテナ貨物の輸出入においては、京浜港取扱シェアが、平成五年と平成二十年の間で大きく落ちていることが明白です。東京港は京浜港として、国際コンテナ戦略港湾の指定を受け、ことし九月には京浜港の総合的な計画を策定し、これらの取り組みが始動したところです。東京都は、基幹航路の維持を目的に、コンテナ貨物量をふやすことを方針として、新たな補助制度を十二月一日に開始したところです。
 補助に係る費用対効果を検証していく必要がある一方、同時に、京浜港運営に改善を行い、魅力的な港湾にすることが本質的な競争力の向上につながると申し上げまして、質疑を終わります。ありがとうございました。(拍手)
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 佐藤由美議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、分教室と前籍校との円滑な連携についてでございます。
 入院中の児童生徒は、学校生活への復帰に際して不安が募りやすいことから、一時退院中、入院前に通っていた前籍校において、入院前と同様に友達とともに学び不安を解消することが、治療への意欲を高める上でも大切なことでございます。
 これまで都教育委員会は、都立特別支援学校の児童生徒が居住地の小中学校に副次的に籍を置いて交流できる、副籍制度の充実を図ってまいりました。
 今後とも、副籍制度の活用について、区市町村教育委員会等に周知いたしまして、入院中の児童生徒が退院後、円滑に前籍校に復帰できるよう、継続して支援してまいります。
 次に、病院内教育の意義についてでございます。
 病院内教育は、入院中の児童生徒の学ぶ意欲にこたえ、学習のおくれを防ぐとともに、治療への不安やストレスの軽減を図りながら、病気に向き合う気持ちを育てるという意義がございます。
 そのため、都教育委員会は、校長の人事構想に基づき、教科指導力や特別支援教育の専門性にすぐれた教員の配置に努めるとともに、児童生徒の心理面にも配慮しながら必要な学習指導を行えるように、教員に対する研修を行ってきたところでございます。
 今後とも、児童生徒が病気の治療に専念するとともに、学習のおくれを防ぐことができるよう、校内研修やケース会議での指導助言等を通して、教員の資質、能力の向上に努め、病院内教育の充実に努めてまいります。
 次に、病院内分教室についてでございます。
 都教育委員会は、これまでも病院内分教室について、入院中の児童生徒の教育ニーズや病院の状況等を踏まえて設置してきたところでございます。
 今後とも、対象となる児童生徒及び病院の施設設備の状況等を総合的に勘案し、適切に対応してまいります。
 次に、法教育の実践的な取り組みについてでございます。
 学校教育における法や決まりに関する学習は、平成十八年の教育基本法の改正に伴い、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画する資質や能力を養う観点から、新しい学習指導要領に位置づけられたものでございます。
 都教育委員会は、平成二十三年三月に、各教科等で活用できる、法に関する教育カリキュラムを全国に先駆けて開発し、区市町村教育委員会を対象にした説明会や本カリキュラムに基づく公開授業を通して、学校における実践的な取り組みについて普及啓発してまいりました。
 今後とも、法に関する教育の充実を図るため、本カリキュラムを踏まえた社会科や家庭科、道徳の時間等における実践事例を取りまとめまして、区市町村教育委員会や学校に提供してまいります。
 次に、法教育における教員の授業力向上についてでございます。
 法に関する教育においては、児童生徒に、法や決まりの背景にある価値や意義などについて、実際の事例に基づいて考えさせることが大切であるため、法律の専門家と連携を図った授業づくりが有効でございます。
 そのため都教育委員会は、弁護士や検察官と教員が共同して行った授業を公開するなどいたしまして、専門家との連携の意義や具体的な指導方法について、区市町村教育委員会や学校に普及啓発してまいりました。
 今後とも、法に関する教育を適切に実施する上で、教員の模範となる授業を公開するとともに、法務省や裁判所、弁護士会等の関係機関の情報を区市町村教育委員会や学校に提供するなどいたしまして、教員の授業力の向上に努めてまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 小児がん対策のご質問についてお答え申し上げます。
 都内では、がん診療連携拠点病院等で小児がんの診療に対応しておりまして、特に小児がん長期フォローアップの体制を整備しております四つの医療機関では、専門外来を設けまして、小児がん経験者の健康管理や合併症の予防など、きめ細かな支援を実施いたしております。
 現在、国は、がん対策推進協議会におきまして、小児がんの医療機能を集約化し、高度専門的な医療の提供と治療後のフォローアップを行う拠点病院の整備や、患者、家族に対する情報提供や相談支援等の体制づくりについて検討を行っております。
 都は、このような国の動向を注視しながら、患者、家族が適切な医療や支援を受けられるよう、必要な対応を検討してまいります。
   〔生活文化局長井澤勇治君登壇〕

〇生活文化局長(井澤勇治君) 在住外国人支援のための市区町村等との連携支援についてでございますが、十分な日本語の力を有していない在住外国人が安心して生活することができる地域社会づくりを目指しまして、多くの市区町村が、地域における国際交流協会やNPO等と連携して、外国語による情報提供や相談事業などを行っております。
 都は、こうした活動を行う市区町村や国際交流協会、NPO等との合同連絡会議を開催いたしまして、団体間のネットワークの強化や情報の共有化を積極的に促進しております。
 また、在住外国人支援事業助成を実施いたしまして、NPO等による日本語教室や相談事業などの活動を支援しております。
 今後とも、市区町村等と連携し、在住外国人の自立と地域社会への参加を支援してまいります。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

〇産業労働局長(前田信弘君) 中小企業の海外販路開拓支援についてのご質問にお答えします。
 都内の中小企業がすぐれた技術力を生かし、今後の成長が見込まれるアジア市場で販路開拓を行う取り組みを支援することは重要であります。
 そのため都は、多くの商談が期待できる分野に海外販路ナビゲーターを配置し、企業に対しまして現地情報の提供や相談対応を行っております。また、商談の機会の確保に向け、海外展示会に出展する中小企業の支援を実施しております。
 こうした取り組みにより、都内中小企業の海外販路開拓をサポートしてまいります。

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