平成二十三年東京都議会会議録第十八号

〇副議長(ともとし春久君) 六十八番神林茂君。
   〔六十八番神林茂君登壇〕

〇六十八番(神林茂君) あの三月十一日の大震災から、はや九カ月がたとうとしています。多くの方々の懸命な支援や協力があって今日の復旧があったわけでございますが、残念なことに、とかく人々の関心やマスコミの報道も時間の経過とともに次第に薄れ行くものであります。
 しかしながら、被災県での復興計画がほぼ十年を一くくりにされているように、本当の意味での復興自立に向けた本格的な取り組みはこれからであり、厳しい寒さを迎える東北の被災地では、放射能汚染など先の見えない課題が山積する中で、復興への長い道のりを一歩ずつ踏み固めて進んでいかなければなりません。
 今、東京都では、高度防災都市づくりを初めとする来年度予算編成や中長期計画への取り組みが大詰めを迎えております。それと同時に、人として、同じ日本国民の同胞として、また、東京への電力供給を初めとする長年にわたる信頼関係に報いるためにも、東京都という自治体が、被災地の復興自立に向けてどのような支援ができるのか、改めて問い直す時期でもございます。被災地自治体と連携を図り、被災された方々の立場や目線で、一日も早く復興自立に結びつく支援を継続的に行っていくことが肝要でございます。
 そこで改めて、知事の被災地復興への思いと来年度や中長期での復興支援に向けた取り組みへの考え方を伺います。
 復興に向けて避けては通れない最大の課題が、瓦れきの処理であります。知事は、他自治体に先駆けて、いち早く瓦れき処理を三年間で五十万トン受け入れることを表明いたしました。人としての道を踏み外すことなく、この国難を国民全体が助け合い、乗り越えていくことは極めて当然のことではありますが、いたずらに都民に不安をまき散らす風潮が起こる中で、知事の決断に対して、我が党としても絶大なる賛意を表するものであります。
 しかしながら、子を持つ親を初めとする都民の中に、強い関心や不安を抱いている方々も見受けられます。知事が所信表明の中で力説されたように、瓦れきの運搬から処理処分に至るまでの安全管理の徹底、都民への情報公開などをしっかりと行い、他自治体への受け入れが進むよう働きかけていただくことも改めて要望しておきます。
 私は、先日、知り合いの入居する仮設住宅に訪れる機会を得ました。仮設住宅で避難生活を送っている被災者の方々は、自分が暮らしてきた場所と大切にしてきたものを一度になくした失意とともに、動きのない生活状態が長期間続くことで著しく心身の機能が低下しております。まして、高齢者にとっては、今後も要介護者がふえ続けることが報道されたように、家族の介護が期待できない中で、ますます深刻な状況に陥っています。
 被災地では、医療施設や高齢者施設、在宅介護サービス施設なども被災しており、被災者の方々に十分な医療や心のケアを提供し、介護保険の認定作業やサービスの受け皿整備などをバックアップしていくことは、まさに急務であります。
 また、仮設住宅には、現在もなお、仕事に先の見通しがつかないまま、ただ漫然と生活を送らざるを得ない方々が見受けられます。仮に仕事があっても、瓦れき処理やライフライン復旧工事のアルバイトで、長年なれ親しんできた仕事に復帰することはかなわず、一生続けられる仕事について自立していくことには、ほど遠い状況にあります。
 被災地が本格的に復興自立を遂げていくためには、一日も早く地元に事業所が開設され、働ける方々が、できれば、もとの職業に復帰できるような就労の確保を図っていかなければなりません。
 これらの課題を克服していくためには、国の大づかみな対応や被災地自治体の対応能力容量の大きさだけでは到底困難であり、千三百万都民の生活現場を日々担ってきた東京都が、都内の民間企業や各種団体、ボランティアの方々の力をおかりし、率先して貢献することが必要であると考えます。
 そこで、瓦れき処理、心のケアを含めた健康管理、自立に向けた産業支援と雇用の確保など、復興自立に向けた被災地の生活現場で直面している課題について、東京都として、被災地自治体と連携を図ってどのように支援を行っていくのか、見解を伺います。
 先月下旬、私は、地元大田区に本社を持ち、生産拠点の工場を福島県南相馬市に置く、ものづくり中小企業の実態を直接見聞きする機会を持ちました。南相馬市にある工場は津波などによる被害はなかったものの、原発事故で警戒区域に指定され操業ができない状況が続いていました。
 工場再開の目安が立たない中、市役所に警戒区域の解除の要望書を出したり、支援策を依頼したものの、現在も操業再開の見込みはなく、現地の二十六人の社員をやむを得ず一時解雇に踏み切ったとのことでありました。
 こうした事例からも明らかなように、東日本大震災により、さまざまな形で大きな打撃を受けた都内中小企業は数多くあるものと考えられ、ひいては、東京の産業にも大きな影響が起こることが懸念されております。
 このため都は、こうした都内中小企業の状況をしっかりと把握し、これまでの産業振興で培った力を発揮して、被災地でダメージを受けた都内の中小企業の相談に乗るなど、現場の実態に即した積極的な支援を行うべきと考えますが、所見を伺います。
 待機児童の問題は深刻であり、早急な解消が求められております。
 昨年度の保育サービス定員は一万一千四百四十六人分増加し、待機児童数は前年度に比べ若干減少しましたが、それでも八千人近い待機児童がいる状況でございます。
 待機児童を解消するためには、保護者の就労形態を踏まえ、利用定員の増加に加えて、さまざまな利用者ニーズに的確に対応することが重要でございます。
 東京都独自の制度である認証保育所は、保育を必要とする場合にひとしく利用することのできる施設として平成十三年度に創設されましたが、待機児童の九割を占めるゼロ歳から二歳までの低年齢児の定員を五割以上設定することを義務づけているほか、ゼロ歳児保育や十三時間開所など、認可保育所だけではこたえ切れない大都市特有のニーズに柔軟に対応する施設として、待機児童対策としても不可欠なものとなっております。
 そこで、認証保育所の整備状況と利用している都民の声、評価、今後の方向性について伺います。
 現在、東京都では、地域の自主性及び自立性を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律、いわゆる一括法の公布に伴う児童福祉施設最低基準の条例化に向けた検討が行われております。
 その中で、認可保育所におけるゼロ歳児と一歳児の保育に必要な一人当たりの面積について、現在の都の認可基準である三・三平米から、国が認めた地域において年度の途中に定員の弾力化を行う場合は面積についても二・五平米までとするという案が検討されております。
 この面積の弾力的な運用の考え方は、認証保育所の制度発足時からの基準でありますが、施設の新設に比べて地域の保育ニーズに柔軟に対応できるものであり、地価が高く、待機児童の多い大都市東京に非常に適しております。
 各施設では、それぞれに個性を生かし、音楽や絵画など、さまざまな幼児教育に取り組んだり、地域との交流や子育てに悩む保護者の集いの場づくりなどを行うなど、質の高い保育サービスの提供を行っており、面積の弾力的運用が保育の質の低下につながらないことが実証されております。
 そこで、保育施設の面積基準に関する都の考え方を伺います。
 去る三月十一日に発生いたしました東日本大震災では、発生当日、公共交通機関がほぼ完全にストップし、保育施設に子どもを預けている保護者が当日迎えに行けなくなるなど、大きな混乱が生じました。
 また、その後も、停電や交通機関の混乱、ガソリンの不足、流通が不安定な状況が続き、保育施設は苦労を強いられる運営を続けたと聞いております。
 この経験を踏まえ、それぞれの施設が災害対応力を強化する必要があります。例えば、認証保育所については、地域における保育力推進強化事業という、保育の質の向上や地域の子育て支援の取り組みなどに柔軟に活用できる東京都独自の補助制度がございます。今年度は、都は、我が党の提案により、災害発生時における緊急対応に向けたこの補助制度の活用を、各施設に働きかけたところでございます。
 東日本大震災を受け、保育施設における災害発生時の緊急対応のための取り組みに対し、東京都として積極的に支援を行っていくべきと考えますが、所見を伺います。
 最後に、羽田空港周辺の交通対策について伺います。
 羽田空港の国際化は本年十月で一周年を迎えました。
 現在、欧米など、世界の主要十四都市との間に定期便が運航され、利用者も堅調に推移しており、来月からは、フランクフルトへの就航も予定され、ますます路線網の拡大が期待できます。
 さらに、羽田空港では、平成二十五年度に向けて年間発着枠が三万回増加する予定であり、今後、空港へのアクセス向上による利用客の利便性の向上や周辺環境保全などの観点から、空港周辺の道路交通対策に万全を期す必要があると考えます。
 現在、空港アクセスに重要な首都高速中央環状品川線や国道三五七号の東京港トンネル部など、広域交通ネットワークについては整備が進められております。
 一方、空港周辺市街地における交通渋滞問題については、地元区からの強い要望もあり、以前から機会をとらえて質問や要望をしてきたところでありますが、渋滞ポイントの一つであり、羽田空港へのアクセスの重要な拠点となっている大鳥居交差点についての今後の対応について伺いまして、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 神林茂議員の一般質問にお答えいたします。
 被災地の復興支援についてでありますが、震災発生からおよそ九カ月、被災者の懸命な努力と多くの善意に支えられて、被災地では、復興の兆しが徐々に広がりつつあります。壊滅的な被害を受けた石巻市では大手製紙工場が復旧し、三陸のカキやホタテの養殖も再開するなど、明るい話題も出始めております。
 一方、市街地に残されている多量の震災瓦れき、津波によって破壊された堤防や護岸、あるいは地盤沈下によって浸水した港湾施設など、あるいは地域の保健医療システムを支える人材の不足など、深刻な課題が残されたままであります。
 このような被災地の厳しい現実を前に、同胞としての連帯の心を確かなものにしなければ、被災地の復興、日本の再生は、とてもあり得ないと思います。
 しかるに、当事者の意識を欠いた国は、具体的な復興への道筋も示さずに、被災者や被災自治体はいら立ちを募らせているわけでありまして、都は、復興に向けた動きを加速するために、国に先駆けて、区市町村や民間とも力を合わせて、岩手県と宮城県の瓦れきを受け入れることにしました。
 また、被災地の新たなまちづくりを支援するために、道路、港湾に専門知識を有する技術職員や、医師、保健師などの保健医療スタッフを相馬港や気仙沼、石巻を初めとする最前線の被災現場に派遣するなど、息の長い復興支援に全力で取り組んでおります。
 先日、被災地に派遣している医師や技術職員から直接話を聞きましたが、津波にたびたび襲われている宮城県では、災害時に全国から支援に駆けつける医療チームをまとめて、全体を調整して事を行わせる災害医療コーディネーターという制度があるそうでありまして、今回の大震災時にも、これは非常によく機能したという報告がありました。こうした仕組みは、東京においても大いに啓示的でありまして、有効と思いますので、これから導入を早急に検討するよう指示もいたしました。
 被災地の現場で苦労している派遣職員からの報告は大変参考になりましたが、こうした彼らの経験を今後の東京の防災対策にも生かしていきたいと思っております。
 都は、今後とも、幾多の苦難に呻吟しながらも復興に向けて懸命に立ち上がらんとしている仲間の日本人、同胞への支援の手を緩めることなく、全国自治体の先頭に立って被災地が本格復興に向けて踏み出す歩みを強力に後押ししていきたいと思っております。
 他の質問については、技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監村尾公一君登壇〕

〇東京都技監(村尾公一君) 大鳥居交差点の渋滞解消についてでございますが、羽田空港では、国際定期便の就航が始まってから一年で国際線の利用者が六百九十万人を超えるなど、人や情報の交流に大きな効果が出ております。
 空港の発着枠が増加する平成二十五年度以降、羽田空港が国際空港としての機能をさらに発揮していくためにも、東京の最大の弱点である交通渋滞を解消することが重要であると認識しております。
 そのため、現在でも渋滞が発生している放射一七号線と環状八号線が交差する大鳥居交差点については、地元区から渋滞解消に関する要請もあり、その解消に向けた交差点の改良が急務であると認識しております。
 現在、環状八号線の現道内における車線数の増加について、交通管理者などと最終段階の協議を進めており、平成二十四年度の工事着手に向け、積極的に取り組んでまいります。
   〔総務局長笠井謙一君登壇〕

〇総務局長(笠井謙一君) 被災地支援についてでございますが、都は、発災直後から、岩手、宮城、福島の三県に現地事務所を設置いたしまして、職員の常駐体制をしき、腰を据えた支援活動を展開してきております。
 具体的には、被災自治体に直接出向き、日々刻々と変化する現地の状況や要望を確認し、関係各局や区市町村と調整をしながら、被災地のニーズに的確に対応した職員の派遣、火葬受け入れ協力、避難所の生活向上のための物資の提供など、効果的な支援につなげてまいりました。
 大震災からおよそ九カ月がたちますが、今なお被災地には、瓦れきの処理、被災者の生活再建など、ご指摘のとおり多くの課題が残されております。
 こうした状況の中、今後とも、現地事務所がこれまでに培った被災地とのパイプを生かし、被災地の情報収集に努め、関係各局等と十分連携して、被災自治体の要請にこたえてまいります。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

〇産業労働局長(前田信弘君) 被災地に工場のある都内中小企業の支援についてのご質問にお答えいたします。
 都内の中小企業が被災地に持つ工場の再建を速やかに実現して、震災による経営へのダメージを克服する取り組みをサポートすることは必要でございます。
 このため、都はこれまで、各経済団体を通じて調査報告を聞き取るほか、被災地支援本部と連携し情報収集を行ってまいりました。また、中小企業振興公社と協力し、必要に応じて現地で被災した都内中小企業の工場の状況の確認などに取り組んでおります。
 また、被災した工場の早期復旧など緊急的な課題の解決に向け、中小企業診断士などの専門家を無料で三回まで派遣する震災対応緊急エキスパート派遣などにより、相談事業を実施しております。
 震災による相談は、内容が多岐にわたり、工場の再建などにとどまらない経営全般をも含めた内容もふえていることから、今後はより総合的な相談対応を検討してまいります。
 こうした取り組みにより、被災地の現状を十分に踏まえた都内中小企業のサポートをよりきめ細かく展開してまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 三点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、認証保育所についてでございますが、大都市特有の保育ニーズにこたえる認証保育所は、平成十三年度の制度創設以降、着実に増加いたしまして、本年十二月一日現在、六百十八カ所、定員は二万人を超えております。
 都民からも高く評価されておりまして、昨年度の福祉サービス第三者評価における利用者調査結果でも、約九割の方が、一人一人の子どもが大切にされている、また、保育所が保護者の考えを聞く姿勢を持っていると回答をいたしております。
 都は、平成二十二年度から二十六年度までの五カ年で、保育サービス利用児童数を三万五千人ふやすこととしておりまして、今後とも、保育施策の重要な柱の一つとして認証保育所の整備を推進してまいります。
 また、国に対しましても、認証保育所を国の制度に位置づけ、財政措置を講じるよう、引き続き強く求めてまいります。
 次に、保育施設の面積基準の考え方についてでございますが、都は認証保育所について、制度創設時から、年度の途中に定員を超えて児童を入所させる場合に一人当たりの基準面積を弾力的に運用することを認めておりまして、多くの施設で利用者のニーズを踏まえ、柔軟な受け入れを行っております。
 認可保育所におきましても、基準面積の弾力的な運用を図ることは、保育ニーズに応じて既存施設のより柔軟な活用を可能にするものでありまして、待機児童解消の選択肢を広げる効果があるものと考えております。
 都は、今後、条例案の提出を予定しております認可保育所の設備、運営基準におきまして基準面積の弾力化を取り入れることを検討しており、現在、児童福祉審議会においてご審議いただいております。
 最後に、保育施設の災害発生時の緊急対応に対する支援についてでございますが、都は、認証保育所を対象といたしました地域における保育力強化推進事業を活用いたしまして、緊急時のメール配信システムの導入や、施設内のガラス類の飛散防止対応などの施設独自の取り組みに対する支援を行っております。
 また、今回の震災を踏まえた緊急対策といたしまして、区市町村への包括補助制度により、災害に備えた水や非常食等の備蓄等に対する支援を実施いたしました。
 今後とも、災害時の児童の安全を確保するため、区市町村と連携をいたしまして、こうした補助制度も十分活用しながら、保育施設における防災体制の充実を働きかけてまいります。

〇副議長(ともとし春久君) この際、議事の都合により、おおむね十五分間休憩いたします。
   午後三時二十分休憩

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