平成二十三年東京都議会会議録第十三号

〇議長(和田宗春君) 三十八番吉倉正美君。
   〔三十八番吉倉正美君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

〇三十八番(吉倉正美君) 東日本大震災の想像を絶する被害は、国内外に大きな衝撃を与えました。大混乱の中で、諸外国の人々に強い感銘を与えたのは、日本人の助け合いの精神と沈着な態度だといわれております。
 シンガポールの代表的な新聞ストレーツタイムズ紙は、日本人は静かな威厳を示していたと表現しております。大災害に直面して、なお、日本人の持つ精神性が高く評価されたものであります。
 また、今回の大震災で、多くの国々から寄せられた支援は、政府レベルだけではなく、人々の自然な気持ちのあらわれから発したものも多くありました。私も、日本への国際社会の連帯に心強い思いを抱いた一人です。
 翻って、一千三百万の人々が集中する首都東京にあって、大震災発生時に最も必要なことは、都民が本来持っている共助の精神や、他人を思う心を十分に発揮できるよう、都民の連帯と共生意識の醸成を進めることであります。石原知事の率直な所見を伺います。
 次に、首都東京を高度防災都市へと進化させるための対応について質問します。
 東日本大震災の教訓を踏まえ、首都直下地震だけではなく、東海、東南海、南海の三連動地震などの危険性も懸念される中にあって、都はこれまでの災害の被害想定や対策をとらえ直し、新たな視点から、より実践的に見直すべきであります。
 すなわち、第一点は帰宅困難者対策です。
 今回の大震災では、一時待機施設で受け入れた帰宅困難者は約九万四千人、帰宅に影響があった人は約三百万人という試算がありますが、マグニチュード七・三の首都直下地震が起きた場合には、都は、さらに多い約四百四十八万人の帰宅困難者が発生すると想定しております。加えて、けが人は約十六万人、中でも重傷者は約二万四千人発生するとの想定であります。
 特に、地震発生直後、外に避難した人々は、落下物やガラスの飛散による被害、施設内では、棚や机の転倒などによる被害など、多くのけが人の発生が予想されます。
 こうしたけが人の救護、救援対応に加えて、続々と集まる帰宅困難者の保護や、一時待機施設への誘導など、同時並行的に複数の課題が生じるような事態を想定しなければなりません。
 しかしながら、これまでの帰宅困難者対策の議論では、こうした医療や救護との関係は、明確にされてはきませんでした。
 そこで今後、トリアージなどの医療訓練を加えた、より実践的な帰宅困難者対策の訓練を行うべきであります。
 また、災害発生時には、交通機関の停止により、ターミナル駅周辺は、多くの滞留者で混乱することが心配されます。先日も、首都圏を直撃した台風十五号の影響でJRや私鉄などの運休が相次ぎ、ターミナル駅は帰宅途中の人々であふれました。
 こうした混乱を回避するためには、滞留者に対し、単独駅の運行情報だけではなく、乗り入れを含めた複数駅との運行情報を共有し、提供することが有効と考えます。
 そこで都は、複数のターミナル駅で同時に帰宅困難者対策の訓練を実施し、関係機関相互の連携、連絡を検証すべきであります。あわせて見解を求めます。
 第二点は、災害時における水の確保対策です。
 東日本大震災では、ライフラインである水道が絶たれ、飲料水を含めた水を確保することの重要性が改めて浮き彫りとなりました。人口密度が高く、一千三百万人の人々が生活する大都市東京では、災害時に広域的な断水が生じた場合、甚大な被害が発生します。これまでの訓練において、災害拠点病院などの医療施設に対する給水では、公道上に設置されている消火栓にホースをつなぎ、直接、病院の受水槽に給水する方法を採用したと聞いております。
 そこで都は、こうした消火栓から水を取り出す仮設給水栓方式により、住民への直接給水を実現すべきであります。さらに、区市町村との連携も含め、この仮設給水栓方式による住民への直接給水の拡大を積極的に進めるべきであります。見解を求めます。
 第三点は、都政における事業継続計画、BCPについてです。
 都は、発災時に短時間で重要な機能を再開し、事業を継続するため、地域防災計画の中に事業継続計画、BCPを位置づけ、平成二十年十一月には同計画を策定し、それに基づいた各局マニュアルを整備し、取り組みを進めてきたと聞いております。
 しかし、今回の大震災においては、多くの帰宅困難者の受け入れや、情報が混乱したために、この事業継続計画、BCPが十分に機能しない場面が生じております。危機管理の観点から、この事業継続計画は、事業を継続させる有効な手法ではありますが、訓練を通じて実践するとともに、事業動向などの状況の変化に応じて、適切な見直しを加えていかないと、発災時に十分に機能させることはできません。
 今回の大震災の経験を踏まえて、事業継続計画を継続的に改善する取り組みである、事業継続マネジメント、BCMの推進が求められております。
 そこで都は、計画を実践的に運用するために、この事業継続マネジメント、BCMを全庁的に推進すべきであります。見解を求めます。
 第四点は、災害時におけるライフラインの復旧について質問します。
 復旧に際しては、都と協力業界団体との迅速な情報連絡体制の構築が何よりも必要です。特に災害時、断水などの応急復旧対応に重要な役割を担う水道局の協力業界団体と、都との迅速な情報連絡は不可欠です。
 しかし、震災当日、家族の安否を確認する電話が殺到したため、電話がふくそうし、電話、ファクス等が通じにくい状態となり、支障を来したと聞いております。
 こうした点を踏まえ、都は今後、電話の発信規制の影響を受けない衛星携帯電話などを配備し、外部との情報通信に万全を期すべきであります。
 さらに都は、新たに震災時行動マニュアルを作成し、協力業界団体との連絡体制や作業手順などを明確にすべきであります。見解を求めます。
 次に、都立高校における外国人生徒の受け入れについて質問します。
 東京における外国人登録者数はふえ続けており、平成二十二年四月一日現在では、四十一万人を超え、人口総数に対する割合も三・二%です。
 また、学校基本調査によると、平成二十二年五月一日現在の公立中学校の外国籍生徒数は二千八百七十人、公立中学生総数に対する割合も一・三%と徐々にふえ続けております。
 こうした状況の中で、外国籍の生徒を高等学校に受け入れ、教育機会を提供する必要性はますます高まっております。これまで都は、都立国際高等学校と飛鳥高等学校に、在京外国人生徒対象枠を設けて受け入れをしてまいりましたが、応募倍率は高く、国際高等学校では四倍を超えるような年もあり、受験せず、あきらめる生徒も多かったと聞いております。
 こうしたことから、まだまだ在京外国人生徒対象の募集枠は不足しております。平成二十四年度以降、都立高校における在京外国人生徒対象の募集枠を拡大すべきであります。見解を求めます。
 次に、在京外国人生徒の都立高校入学者選抜について質問します。
 現在、在京外国人生徒を対象とした募集枠に応募するには、外国籍を持っていることが条件となっております。しかし、国籍の扱いなど、さまざまな事情により外国籍を取得できず、日本国籍だけを持ったまま、長い期間、外国で生活をしている子どもがおります。すなわち、日本国籍と外国籍の両親のもとに生まれ、日本国籍を有する者で、子ども時代のほとんどを外国で生活し、外国語が実質的な母国語という子どもです。
 このような子どもについても、選抜試験を受検することができるようにすべきであります。見解を求めます。
 最後に、日本語指導のできる教員の活用について質問します。
 都立高校での日本語指導が必要な外国人生徒の増加に対して、日本語指導のできる教員を、必要に応じて的確に都立高校に配置すべきであります。
 教育長からは、昨年度の決算特別委員会における我が党の質問に対し、教員の人材情報をデータベース化し、日本語指導のできる教員を積極的に活用していくとの答弁がありました。しかしながら、教員の配置については、まだまだ十分とはいえません。
 そこで、都立高校への日本語指導可能な教員配置については、さらに拡充を図るべきであります。見解を求め、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 吉倉正美議員の一般質問にお答えいたします。
 都民の連帯と共生意識の醸成についてでありますが、今回の震災で、東北地方の方々は、被災直後の厳しくつらい状況にも耐え忍んで、被災者同士で助け合っております。また、若い役場の職員が、みずからの命を犠牲にしてまで、津波から市民を退避させるよう呼びかけてもおりました。これらは、日本人が本来持つ美質にほかならないと思います。
 危険な地政学的条件のもとにありますこの日本において、我々には、いつ発生してもおかしくない震災に備え、みずからの命は自分で守るという決意と、身近な自主的な支え合いが求められておりまして、そのことが、今回の震災でも大きな教訓として明らかになりました。だからこそ、防災隣組の構築に着手したわけであります。
 古い話ではありますけど、私の子どものころには、戦争前から戦争中にかけて隣組というのがありまして、「とんとんとんからりと隣組」という歌までありました。回覧板という、そのまちの情報を伝える、何ていうんでしょうか、紙を板に載せて、次から次へ隣のうちに伝達する、そういう仕組みもありましたし、隣組同士で足りなくなった塩を借りたり、しょうゆを貸したり、そういうような非常に美しい、きめの細かいコミュニケーションがありましたが、それに比べて、人と人のつながりがいかにも希薄となった今日の大都市東京において、木造住宅密集地域で区民レスキュー隊が結成され、東京駅周辺の企業が合同で災害時のマニュアルを作成するなどの取り組みが既にありました。
 こうした連帯の芽を発掘して、広く敷衍していくこと、都民同士の身近な支え合いの根を広げていきたいと思っております。
 いかなる国家、社会においても、人間同士の連帯なくして生活が成り立つものではありません。大震災の教訓を風化させぬように、都民の意識改革を進め、都市における住民の連帯を再生していきたいものだと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 三点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、都立高校における外国人生徒の受け入れについてでございます。
 東京が、国際都市としての地位をより高めていくためには、東京に居住する外国人生徒に対して、義務教育のみならず、高等学校教育の機会の提供など、教育環境の整備をすることが求められております。
 都教育委員会は、平成二十四年度入学者選抜から、都立国際高等学校及び都立飛鳥高等学校に加え、都立田柄高等学校において、在京外国人生徒対象者の募集枠を新たに設置することといたしました。
 今後は、中学校における日本語指導が必要な在京外国人生徒数の動向や、新たに設置する都立田柄高等学校を含めた三校の入学者選抜の応募状況等を勘案し、募集枠のあり方について検討を進めてまいります。
 次に、在京外国人生徒対象枠の応募資格についてでございます。在京外国人生徒対象枠は、日本語に十分習熟していないが、学習意欲や能力がある外国籍の生徒に対し、高校において学ぶ機会を保障するために設置しているものでございます。そのため、現在、在京外国人生徒対象の選抜においては、応募資格を外国籍を持つ者と限定をしておりまして、日本国籍のみを持つ者は対象としておりません。
 しかしながら、それぞれの国が定めている国籍法により、日本国籍だけしか取得することのできない場合もございますことから、今後、その応募資格の扱いについて検討してまいります。
 次に、日本語指導のできる教員の活用についてでございます。都立高校に在籍する外国人生徒への教育に当たっては、生徒の母語に応じて適切に日本語指導ができ、生徒理解にたけた教員の確保が不可欠でございます。都教育委員会では、昨年度から、各校の校長を通じて人材情報を収集し、データベース化を図り、日本語指導にすぐれた教員を必要とする都立高校への配置に活用しているところでございます。
 今年度は、校長から情報を収集するだけではなく、すべての新規採用教員の提出書類に得意とする語学と、その水準を新たに記載させることといたしましたほか、語学研修の修了者や海外派遣経験者の情報を都教育委員会みずから収集し、データベースの精度を高めまして、日本語指導を必要とする都立高校へ、適材適所の人員配置をさらに進めてまいります。
   〔総務局長笠井謙一君登壇〕

〇総務局長(笠井謙一君) まず、帰宅困難者対策訓練についてでございますが、首都直下地震発生時には、交通機関の途絶により、大量の帰宅困難者が発生するだけでなく、広範囲にわたる建物倒壊や火災によって、多数の負傷者が生じるものと想定されております。
 このため、都は、関係機関と連携し、速やかに負傷者の救命救助を実施するとともに、帰宅困難者に対しても適切に対応していかなければならないと考えております。
 このことを踏まえまして、来年実施する帰宅困難者対策訓練におきましては、今後、関係自治体と調整を図りつつ、ご指摘のような複数駅での実施や、負傷者の救命救助訓練の実施など、実践的な内容を盛り込むよう検討してまいります。
 次いで、都の事業継続計画についてでありますが、事業継続計画を有効に機能させるためには、教育や訓練の実施を通じて、その内容を検証し改善する事業継続マネジメント、いわゆるBCMが重要でございます。
 今回の大震災では、発災後に事業を継続するに当たって、計画停電や物流途絶など、これまでの計画になかった想定外の事態の発生により、さまざまな支障が生じました。この教訓を踏まえ、新たな課題への対応策を検討し、現行の事業継続計画と、それに基づくマニュアル類を改定するとともに、計画に基づく実践的な訓練を実施し、発災時の対応力の向上を図ってまいります。こうしたBCMの取り組みを着実に推進し、発災後の都の事業継続を確保してまいります。
   〔水道局長増子敦君登壇〕

〇水道局長(増子敦君) 二点のご質問にお答えします。
 まず、震災時の仮設給水栓方式の積極的な活用についてでございますが、都では、給水拠点に水をとりに来ていただく拠点給水方式により、震災時の飲料水の確保を図っております。これに対し仮設給水栓方式は、使用可能な水道管の消火栓に仮設の給水栓を設置し、直接、住民に水を提供するもので、拠点給水方式や車両による給水方式を補完する有効な手段であると考えております。
 その運用に当たりましては、消火活動を行う消防庁等や住民への水の配り手となる区市町との連携が必要となることから、それらの関係機関と具体的な運用方法について協議を進めてまいります。
 今後、区市町の意向を踏まえた上で、年度内には合同の訓練を実施できるよう調整を行い、都民への仮設給水栓方式の普及拡大を図ってまいります。
 次に、発災時の協力業界団体との情報連絡網の整備についてでございますが、水道管が被害を受けた場合、単価契約事業者と協力して、応急復旧に当たることとしております。このため、発災時には、これらの事業者と連絡をとり合い、当局の事業所や現場に参集していただくことが重要となります。
 発災時には、一般の電話やファクス等は発信規制がかかるため通じにくくなり、ご指摘のように、これらの事業者との情報連絡に支障を来すおそれがあります。このため、当局所管部署へ、発信規制のかからない衛星携帯電話の配備をさらに進めるとともに、メール等を活用した連絡体制を構築してまいります。
 また、事業者のための震災時行動マニュアルを新たに作成し、当局との連絡体制や復旧作業に必要な緊急通行証の受け取り方法など、災害時の具体的な行動を明確にしてまいります。このような取り組みにより、協力業界団体との連携をより一層強化し、発災時の迅速な応急復旧活動の確保に努めてまいります。

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