平成二十三年東京都議会会議録第九号

〇副議長(鈴木貫太郎君) 二十七番柳ヶ瀬裕文君。
   〔二十七番柳ヶ瀬裕文君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

〇二十七番(柳ヶ瀬裕文君) 三月十一日に起きた東日本大震災によって、我が国はまさに未曾有の国難といえる状況に陥っています。また、大震災によって引き起こされた福島原発事故は、東北地方のみならず、関東圏、そして、この首都東京にまで大きな影響を与えています。
 福島原発から飛散した放射性物質は、遠く離れた東京にまで到達し、さまざまな問題を引き起こしています。この放射性物質の問題で対処が困難なのは、その影響がよくわかっていないということなのです。高線量の放射線を浴びれば、がんの発症率が上がるという知見はありますが、低線量被曝がどのような影響を与えるか、これはよくわかっていません。
 ですから、私たちがこの問題に対処するに当たり、とり得る方針はただ一つ。被曝量、放射性物質の量、これを可能な限り低減させていく、この方針しかありません。つまり、私たち都議会と東京都は、都民の健康を守るために、この大方針を掲げて施策につなげていくべきだと、そのように考えています。
 さて、都内の下水処理施設で高濃度の放射性物質が検出されました。東京に到達したさまざまな放射性物質が雨によって降下し、下水道に合流し、下水汚泥に入り込んだ。その汚泥を焼却することによって濃縮され、高濃度の放射性物質を含んだ焼却灰を生み出したのです。
 問題は、下水処理施設は放射性物質を取り扱うこと、これを想定したものではありません。本来、厳重に管理されなければいけないその物質が、突如として都の施設にあらわれた。しかし、都は、高濃度の放射性物質があること、これを認識しながらも、その影響を考慮することなく、原発事故前と同様に、変わらない工程でこの間、処理を続けてきました。ここにまずは大きな問題があるのではないかということ、これを申し上げておきます。
 放射性物質を飛散させたのは東京都ではありません。都も被害者です。しかし、その問題への対処をちゅうちょし、都の施設が万が一にもこの汚染を再拡散させることがあるとするならば、それは加害者の一員になってしまうのです。どうか賢明なご判断をいただきたいと思います。
 二つの大きな懸念があります。一つは、下水処理を作業している職員、作業員の安全は大丈夫なのかということ。もう一つは、その処理作業の過程で、周囲に放射性物質等を飛散していないかどうかということです。
 南部スラッジプラントでは、東京都の調査で毎時二・六九マイクロシーベルトを記録する施設がありました。この値は計画的避難区域に指定された地域と同等の非常に高い値であり、国が電離放射線障害防止規則で定めた管理区域にしなければならない基準である毎時二・五マイクロシーベルトを超えるものです。
 管理区域とは、作業員や一般人を被曝による健康被害から守るために、放射線量の高いエリアをほかの地域と分けて区分管理するというものです。
 東京都は、この高線量を記録した施設を、規則に従い管理区域に指定し、むやみに人を立ち入らせない、線量管理をするなど、作業員の安全を図らなければならないはずです。しかし、高線量が判明してから二週間たっても、その指定はなされていません。
 そこで、なぜこの管理区域に指定しないのか、その理由をまずは聞かせていただきたいと思います。
 また、管理区域に指定しないと労働安全衛生法違反に問われるということ、これをご存じなのかどうか、これも伺いたいと思います。
 南部スラッジプラントでは、たまたまこのような線量の高い施設が判明しました。ほかの各水再生センターやスラッジプラントの状況はどうでしょうか。同様の施設がないかどうか、徹底した調査を要請しますが、見解を伺いたいと思います。
 各下水処理施設の周囲への影響も心配です。焼却灰や混練りされた灰が運搬などの過程で飛散していないかどうかということもありますが、一番の懸念は、焼却時に排出される排気ガスです。
 先ほども申し上げたとおり、下水処理施設は放射性物質の処理を目的につくられたものではありません。ですから、その排ガス処理においても、ダイオキシン対策、粉じん対策が主眼に置かれています。そのような施設で、果たして高濃度の放射性物質を燃やすとどうなるのか。
 昨日、排ガスはフィルターや水処理を通じて九九・九%以上の放射性物質を捕集できるから安全だという答弁があったかと思います。これはどのような根拠に基づくものなのでしょうか。その根拠はよくわかりません。粉じんが九九・九%とれるから放射性物質もとれるということなのでしょうか。多分、国の災害廃棄物安全評価検討会で提出された九九・五%捕集できるという、この資料に基づくものなのでしょう。
 そこで、私はこの検討会のメンバーである、独立行政法人国立環境研究所の大迫センター長に話を聞いてまいりました。すると、この検討会に示された条件と都の施設では条件が異なるということがわかりました。
 この図を見ていただきたいのですが(パネルを示す)これがその検討会に提出された資料であります。国の実験では、放射性物質を焼却した後、急冷をして、バグフィルターを通して、その後に水処理、活性炭、触媒、こういった処理をして、煙突から排気がなされています。
 これに比べて、都の施設はどうか。例えば南部スラッジプラントであれば、焼却された後、急冷されることはありません。非常に高い温度、三百三十度、これでフィルターの方に送り込まれます。バグフィルターよりも性能が劣るセラミックフィルター、これを使っている。湿式スクラバーはどうか。水処理も、上からのシャワーリングでしかありません。活性炭、触媒、こういった機能はスラッジプラントにはついていないんです。
 つまり、この国の九九%捕集できるという施設に比べて、非常に簡易なつくりになっているのがこの下水処理施設なんです。正しくいえば、それぞれの施設は設備、性能が異なり、やってみなければわからないということになるのだと思います。つまり、この排ガスの安全性というのは、非常に脆弱な根拠の上に成り立っているといえるのです。
 また、もし排ガスから放射性物質を九九・五%捕集できたとしても、安全だといえるわけではありません。それは、その排ガスの量、規模が圧倒的に大きいからなんですね。濃度が低くても、大量に放出されれば危険だということなのです。
 専門家の助言をいただきながら、どれだけの放射性物質が大気中に排出されている可能性があるか、これを試算してみました。
 東京都から提出された一日当たりの汚泥の量、焼却灰の量、そして放射能の量、こういったものを掛け合わせていくと、一日当たり、東京都全体の下水汚泥の総放射能量、これは約二十一・五億ベクレルになります。焼却灰の放射能総量、これは十七・六億ベクレルなんですね。
 とてつもない量の放射能、放射性物質を扱っているわけですが、ポイントは、放射性物質は焼却してもどこかに消えることはないということなのです。その姿が気体になったり固体になったりはするものの、トータルの放射能量、これが減ることはありません。つまり、この汚泥に存在した二十一・五億ベクレル、焼却灰となって捕集した十七・六億ベクレル、この数字を引いた一日三・九億ベクレル、これが行方不明となっているのです。どこに行っているかわからない。都は、この三・九億ベクレルがどこに行ったのか、これを合理的に説明することができるのでしょうか。
 大きな可能性としては、これは二つあります。排ガスとなって大気に排出されている、もう一つは、水処理によって溶けている、そのどちらかです。セシウムは水溶性ですから溶けている可能性はありますが、それがどれだけの量か、これはわかりません。
 そこで、もし都がいうように、排ガスに放射性物質が含まれないとするならば、非常に高い濃度の汚染水を排出していることになります。都は、大気中に放出されていないというのであれば、そのことを示すためにも、処理水をしっかりと検査するべきだと思いますが、その見解をお伺いします。
 また、土壌を中心とした処理施設周辺への影響調査が必要です。それは原発事故から三カ月がたち、濃度が低くなっていると考えられる現状の排ガス測定だけでは、これまでどれだけの影響を与えてきたのかわからないからです。
 江東区では、江東こども守る会という有志の皆さんが独自に専門家に調査を依頼し、測定を行っています。その結果、東部スラッジプラント周辺の土壌から高濃度の汚染を検出し、調査に当たった神戸大学の山内教授は、その報告書で、東部スラッジプラントが二次的な汚染源になっている蓋然性が認められるとまでいっているんです。この結果を都はどのように受けとめているのか。
 まずは、現状の排ガスを各施設で検査測定すること。その測定方法に関しては、よく検討することが必要です。また、施設周辺など外部への影響を調査し、広く公表すること。必要に応じて除染することなどの手だてが必要だというふうに考えますが、所見をお伺いいたします。
 また、下水汚泥の放射性物質は、今後も継続的に排出されていきます。高濃度に汚染された焼却灰も大量に出続けるんです。現状は、この高濃度の焼却灰は、中央防波堤に埋め続けていますが、このことは未来に禍根を残すことになりませんか。
 今、我が国の技術は大変すばらしいものがあります。例えば、金沢大学の太田教授が率いる汚染処理プロジェクトチームなどは、この下水汚泥処理の途中段階でセシウムなどを洗浄できる、その可能性を示唆しています。このような技術をぜひ積極的に検討していただきたいと思いますが、見解を伺います。
 私は、昨日お言葉をいただきましたが、不安をあおる者ではありません。そこに都民の健康を害するわずかでも可能性があれば、徹底的に調査をして明らかにする必要があるんです。それが私たちの役割なんです。それを調査することもなく、根拠もなく、安心だ、安心だという者があれば、その者こそ不安をあおる者だということになりませんか。
 普通の焼却施設で放射性物質を燃やし、不安を持つのは当然です。東京都は、その不安に対し、納得のいくまで説明する責任があります。徹底した調査をし、その結果を広く明らかにしていただきたいと思います。
 次のテーマに移りますが、原発事故による影響で食の安全が大きく揺らいでいます。東京は、世界でも有数の食の中心地でしたが、現状はどうなっているのか。各区市議会には、給食の食材を心配し検査を求める陳情などが数多く提出されています。なぜこのような要望が多く出されるのか。それは現状の検査体制が不安だからですね。そして、子どもに対しては本当に安全なものを食べさせたいという、ごく当然の願いがあるからなんです。
 東京都は、この状況で何をするべきなのか。都は産地で検査をしているから問題ないと考えているようですが、それで本当に不安を払拭できるのか。
 元農水事務次官、高木氏が委員長を務め、伊藤裕康氏もメンバーとなって出した日経調の緊急提言の中には、消費者の不安に対応するため、東日本から入荷する水産物の汚染度合いを築地市場など消費地市場でも独自に調査を行い、定期的に情報発信することが必要だとしており、各段階での検査が重要だと述べています。つまり、産地での検査だけでなく消費者に近いところでも、ダブルチェックをすることが必要だということなんですね。
 実際、東京都は消費地として、この放射能汚染に関しては、チェルノブイリ以来二十四年間、ヨーロッパの食材を徹底的に検査してきました。平成二十一年度には六百十六品目、これを検査し、フランス産ブルーベリージャム一検体から三百七十ベクレルを超える放射能を検出しています。
 私は、都内流通食品は世界一安全だというブランドを再度取り戻さなければいけないと思います。そのためには、徹底的な検査が必要なんです。都は、中央卸売市場において、都内で流通する農産物などの抜取検査を実施するべきと考えますが、見解を伺います。また、検査機器を整備するということですが、これらの機器を積極的に活用し検査すべきと考えますが、見解を伺います。
 以上で私の質問を終わります。(拍手)
   〔下水道局長松田二郎君登壇〕

〇下水道局長(松田二郎君) 柳ヶ瀬裕文議員の一般質問にお答えをいたします。
 放射性物質を含む下水汚泥の取り扱い等に関するご質問でございます。
 まず、下水道の各施設の管理及び放射線量の調査についてでありますが、放射性物質を含む焼却灰などの処理作業に当たり、施設へ立ち入る作業者を限定するとともに、マスク、手袋、ゴーグルを着用するなど安全対策を講じております。
 また、汚泥処理を行う水再生センターやスラッジプラント全十二カ所において、既に施設の内部や周辺で空間放射線量を測定し、作業環境の安全性を確認しながら作業を進めております。私どもは、推計値だけで仕事を進めているわけではございません。
 なお、測定結果が比較的高い一部のエリアでは、既に安全対策を講じておりますが、作業員の労働安全衛生対策に万全を期すため、厚生労働省など関係機関と協議しつつ、作業の安全性を一層高める観点から、よりきめ細かな作業方法を徹底するなど適切に対応してまいります。
 次に、下水汚泥の焼却によって生じる排ガスやその影響についてでございますが、排ガスは煙突から排出をされる前に、細かいちりなどを除去できる高性能フィルターなどに通しまして、その後、さらにアルカリ性の水によって洗うことで、固形物を九九・九%以上回収し、焼却灰が施設外へ飛散することのないよう適切に管理をしております。
 水で洗った後の排ガスの成分を専門家に委託して測定をした結果、放射性物質は検出されておりません。このため、周辺環境への影響はないと考えております。
 次に、処理水に含まれる放射性物質の測定についてでありますが、当局では、これまで放射性物質による処理水などの汚染状況を確認する目的で、総量としての放射能である全ベータ放射能による測定を行ってまいりました。
 四月二十八日に四カ所の水再生センターで測定した数値を公表しておりますが、二カ所で不検出であり、検出をされた二カ所の水再生センターでも、一キログラム中一・五ベクレルと一・七ベクレルでございました。その後も継続して測定を行っておりますが、直近の六月七日に測定した数値は、四カ所すべてで不検出でありました。
 次に、下水汚泥の焼却によって生じる排ガスの測定方法や外部への影響などについてでありますが、先般、国から下水汚泥等の当面の取り扱いに関する考え方が示され、この中で、排ガスの放射能濃度を測定することとなっておりますが、測定方法などの具体的な手法が示されないなど、多くの自治体が対応に苦慮する内容となっております。
 既に当局では、一部の施設で学識経験者などの助言を踏まえ、排ガスの成分を専門機関に委託して測定をしており、その結果、放射性物質は検出をされておりません。今後とも、各施設で継続して測定をしていくこととしております。
 また、汚泥処理施設の敷地境界の空間放射線量について、既に公表はしておりますが、都内の他の地域と変わらない数値となっております。このため、周辺環境への影響はないと考えております。今後とも、いたずらに不安をあおられることのないよう、正しい情報を公開してまいります。
 次に、放射性物質の除去などの技術の検討についてでありますが、既に、首都大学東京や東京工業大学などの学識経験者などから、下水汚泥や焼却灰に含まれる放射性物質の測定方法や取り扱いについての助言を得ております。
 また、国がこのほど設置した放射能に知見を有する学識経験者などで構成をしております下水道における放射性物質対策に関する検討会において、下水処理施設における放射性物質の挙動や、下水汚泥の保管、有効利用、処分の方策等を検討しております。この検討会には、私ども下水道局も参画をしております。検討会における意見や議論などを踏まえまして、今後とも適切な対応を図ってまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、農産物などの放射性物質の検査についてでございますが、安全を確認するためには、作付状況や出荷時期が把握できる生産地におきまして、出荷前に検査をすることが最も確実でございます。このため、都は、優先的に検査を行うべき地域及び品目を定めまして、生産地にて安全確認を行いますとともに、出荷規制の対象地域や品目を決定するよう、今年三月二十日、国に対して緊急要望を行っております。
 これを受けまして、現在、国は、検査対象自治体や重点的に検査すべき品目、検査の頻度等を示し、各自治体に検査計画を策定、実施をさせております。また、暫定規制値を超える農作物などが流通しないよう、生産地での検査結果に基づきまして出荷制限等の措置を講じております。さらに、出荷制限の解除に当たっては、三週連続で暫定規制値以下になることを条件とするなど、厳しく対応しているところであります。
 こうした仕組みが定着をしている現段階におきまして、都外で生産された農作物等を都が流通過程で検査する考えはございません。
 次に、新たに整備をする検査機器の活用についてでございますが、現在、健康安全研究センターには二台のゲルマニウム半導体核種分析装置が配置をされておりますが、これらは文部科学省から委託されたモニタリング事業及び食品検査のほか、原発事故以降は、知事が認可を行っております市町村水道や、都内産農作物等の検査のためにフル稼働しております。
 今回の補正予算では、この機器を二台増設し、都内産農産物及び各生産地と連携をした出荷前の農作物等の検査体制を維持強化いたします。また、市町村水道の検査を強化するとともに、専用水道や飲用井戸水などを速やかに、かつ継続して検査をいたします。
 このように、今回整備する機器は、それぞれの目的と用途に応じまして、必要とする検査に積極的に活用する予定でございます。

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