平成二十三年東京都議会会議録第四号

〇副議長(鈴木貫太郎君) 二十五番星ひろ子さん。
   〔二十五番星ひろ子君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

〇二十五番(星ひろ子君) 初めに、大都市における緑のあり方について伺います。
 知事は、無秩序に開発、建設された東京では、美しさが感じられないと嘆き、景観条例を改正して美しい風格ある首都東京に再生していきたいと繰り返し力説されました。美しいまち東京の実現は都民にとっても希望するものであり、一歩一歩それに近づいてほしいものですが、美しい景観形成には、建物の色や形だけでなく、緑が占める割合が大きいと思われます。
 都市の緑は、ヒートアイランド対策や防災機能など、都市環境の改善だけでなく、美しい景観の創出により、都民に潤いや安らぎを与えており、また生態系の保全からもとても重要です。しかし、高度経済成長やバブル経済などによる都市化の進展で、東京の緑は希少となっています。
 都は、平成十八年に策定した「十年後の東京」において、水と緑の回廊で包まれた美しいまち東京を復活させることを掲げ、これを受け、平成十九年に、全庁横断型の戦略組織である緑の都市づくり推進本部を設置し、緑の東京十年プロジェクトを推進してきました。東京を成熟した都市にするためにも、大切な緑を守り、育てていかなくてはなりません。このことは、緑豊かな都市づくりを掲げる生活者ネットワーク・みらいの主張とも一致するものです。
 都はこれまでも、緑の創出や保全に向けたさまざまな取り組みを行ってきましたが、都市の緑は都市化の影響に常にさらされています。この取り組みが滞れば、またいつ都市の緑が失われるかわかりません。水と緑の回廊で包まれた美しいまち東京を復活させるに当たり、大都市における緑のあり方について知事の所見を伺います。
 次に、住民生活に光をそそぐ交付金についてお聞きします。
 今回、国は補正予算として三千五百億円の地域活性化交付金を計上し、そのうちの一千億円は、住民生活に光をそそぐ交付金として計上されました。これを受け、都は、消費者行政の強化やDV対策、自殺予防対策等を実施するため、補正予算に五億円を計上しています。
 そこで、確認ですが、そもそもこの住民生活に光をそそぐ交付金の趣旨と交付対象事業について、国からはどのように示されているのか、お伺いをいたします。
 この耳なれない交付金は、今後の継続も定かでない中、大変短い期間で計画を提出しなければならなかったという問題はありますが、今回の補正予算案に計上された事業については、都でこれまでにも取り組んできている事業、いいかえれば、既に光が当たっている事業であるという印象すら受けます。
 都議会生活者ネットワーク・みらいとしては、弱者対策、自立支援の分野にはいまだ光が十分に当てられていない、本来、光を注ぐべき事業がさまざまにあり、都として取り組む事業はほかにもあると考えます。
 そこで、具体的な分野として、目の不自由な人への対策についてお伺いをいたします。
 眼鏡をかけても視力〇・三未満の弱視児については、文字を大きくした拡大教科書が必要です。二〇〇八年六月に成立したいわゆる教科書バリアフリー法では、文部科学省が定めた標準規格に基づく拡大教科書の発行の努力義務が出版社に課せられ、小中学校の全検定教科書の大半に拡大版が発行されています。
 視覚障害者教育の専門機関である盲学校においては、拡大教科書の使用も可能となりましたが、普通高校に通う弱視生徒は、製作コストの点から大きな自己負担を余儀なくされています。
 ことし一月、国は、高校の拡大教科書の標準規格を策定し、教科書会社に拡大教科書の発行を促すとともに、ボランティア団体に教科書デジタルデータを提供、さらに高等学校、特別支援学校高等部もデジタルデータの提供が受けられるよう実施要綱を改正しました。これにより、学校が文科省へ届け出をすれば、データの提供を受け、拡大教科書を学校で作成することが可能となっています。
 こうした流れを受けて、都教委は、都立高等学校の弱視の生徒の実態をとらえるとともに、拡大教科書の普及、使用について、生徒、学校を支援すべきと考えますが、所見を伺います。
 また、見えにくい人は、盲人、弱視者に限りません。だれもが年をとり、老眼鏡が必要な老後の時期は長くなっており、低視力の高齢者は、全国で百数十万人いると推計されています。
 これまでバリアフリーといえば、建物や交通機関など、ハード面では配慮が進んでいますが、情報入手や読書などのソフトの部分ではまだまだ認識が広まっていないのではないかと思われます。視力低下を来すと、日常生活の中で、新聞はおろか、手紙や行政からのお知らせも読めず、契約書や手続の書類が滞るなどの問題も起きています。ソフトのユニバーサルデザインの観点から、視力低下を含め、視覚に障害のある方でも円滑に情報を入手可能とする取り組みが重要と考えますが、都の見解を伺います。
 これから一層進んでいく高齢社会において、身体的な不都合をカバーするだけでなく、高齢になっても文化的な日常生活が保障されるために、読み書きサービス、代読、代筆サービスを公的なサービスと位置づけることが重要です。
 今後、地域の福祉計画において、こうしたサービスを検討する自治体も出てくるものと思われますが、都としてもサービスを担う人材の育成、研修等を支援し、すべての都民にサービスが行き届くよう強く要望をいたします。
 次に、新しい公共についてお聞きします。近年日本においても、事業を通して社会問題を解決することを目的とした社会的企業や、障害者の就労の場として、最低賃金を保障、社会保険にも入る新たな障害者雇用のあり方としての社会的事業所と呼ばれるNPOや市民事業を立ち上げる人がふえています。
 これまで、行政、営利企業、地域のそれぞれが高齢者福祉や子育て・子育ちなどの公共サービスを担ってきましたが、そこに当てはまらないはざまにいる人々への支援が大きな課題になっています。
 例えば、子どもに対しては、行政は学校や保育園、児童館、福祉事務所などを用意し、企業や民間は私立の学校、幼稚園、また各種の習い事や塾などを提供し、地域では親や家族、近所の人、子ども会などが育ちを担ってきました。しかし、不登校やいじめ、虐待、自殺などのさまざまな社会的課題があり、その解決のための支援の一つとして、プレーパークや子どもシェルターを運営するNPOなど、地域の中に必要な機能を市民みずからがつくり出してきました。
 これからの地域課題に対しては、公的措置としての対策ではなく、当事者に寄り添うことを大事にした活動こそが新しい公共であると生活者ネットワーク・みらいは考えています。そして、このような社会的事業所をふやすことにより、市民が暮らしの視点の尺度を持ち、地域独自の問題解決を図りながらまちづくりを行うことが必要です。
 今回、国の新しい公共としての市民、事業者、行政の協働を進めるために補正予算が組まれ、新しい公共の担い手となる特定非営利活動法人等の自立的活動を支援し、新しい公共の拡大と定着を図るため、基金を設置すると議案が出されています。
 この基金を利用した支援事業について、都はどのように考えているのか、お伺いをいたします。
 次に、福祉保健区市町村包括補助事業についてお聞きします。
 福祉保健区市町村包括補助事業は、住民に最も身近な行政である市区町村が地域のニーズに応じたさまざまなサービスを提供することができるよう、都が支援し、都民の福祉の増進を図るものであり、市区町村が主体的に、みずからの発想と責任でサービスを展開していくという点で、分権時代にふさわしい事業であると評価し、さらなる充実を期待するものです。
 しかし、この数年間の各自治体の予算、事業内容等を細かく調査してみると、本来の目的である分権の視点や新たなニーズにこたえるという積極的な取り組みをしている自治体と、そうでないところと活用状況に差があるのではないかと思います。
 そこで、都として、この事業の実施についてどのように評価しているのか、また市区町村における活用を促進するため、どのような取り組みを行っているのかお伺いをいたします。
 ある市の検討事例を申し上げますと、広い公園の中央にバリアフリートイレが設置されていましたが、乳幼児を連れて遊べる遊具の場所からは遠い距離にあったため、若い親たちが、小さな子どもたちが使いやすいトイレが欲しいという要望を出しました。
 市は、公園整備内の設置基準は満たされているため困難であると判断しましたが、子育て支援という面から対応できないかという市民活動団体からの提案を受け、包括補助事業の活用を含め、再検討することになったと聞いています。
 地域では、子育てサークルや高齢者支援のグループなど、住民による団体が柔軟な発想を生かしてさまざまな活動を行っています。行政担当者だけでなく、こうした住民が包括補助事業について知り、市区町村に提案していくことにより、役所の縦割りの発想では気づかないしなやかな視点を生かした包括補助事業の活用がなされるのでないかと考えます。
 今後、都において、市区町村職員だけでなく、都民への周知を行うことも重要と考えますが、所見を伺います。
 最後に、在宅医療についてお聞きします。
 高齢化の進展に伴い、二十四時間三百六十五日、切れ目のない在宅サービスを必要とする方もふえ、医療、介護の連携強化が求められています。どんなに介護が必要になっても、おいしいものを食べたいという要求は当たり前のことであり、その意欲が生きる力につながるのです。人間にとって、食べることはまさに生きることそのものです。
 ところが、要介護高齢者の中には、自分の歯があるにもかかわらず、かんだり飲み込んだりすることが困難な摂食・嚥下障害のある方が少なくありません。摂食・嚥下障害は、脳卒中の後遺症、神経障害等、さまざまな原因によって生じ、口から食べる楽しみを奪い、生活の質を損なうばかりでなく、低栄養、誤嚥性肺炎、窒息の原因ともなり、新聞報道によれば、患者数は都内で七万人以上もいるといわれています。
 摂食・嚥下障害は、口から食べて飲み込むまでの一連の機能にかかわる障害であるため、医師、歯科医師、看護師、栄養士、言語聴覚士、歯科衛生士等、さまざまな職種がかかわる必要があります。摂食・嚥下障害に対応できる人材の育成が重要と考えますが、都の所見をお伺いをいたします。
 摂食・嚥下機能支援の重要性については、残念ながら、広く都民に周知されているとはいえません。摂食・嚥下障害を疑ったとしても、地域の中で的確な評価、指導ができる医師、歯科医師を見つけにくいのが現実です。
 その課題解決の糸口として、都はことし三月、東京都摂食・嚥下機能支援推進マニュアルを作成すると聞いています。在宅医療が進む中、在宅療養者の食を支えるには、摂食・嚥下リハビリテーションにかかわる関係者間の連携が必要であると思いますが、都の所見をお伺いをして質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 星ひろ子議員の一般質問にお答えいたします。
 大都市の緑についてでありますが、人類を初め酸素を必要とする生命体は、緑の存在なくして存在し得ないわけです。しかし、東京都の面積の約二十四倍の森林が、毎年、地球上から消滅しております。
 東京の都心には、皇居、明治神宮外苑など、ニューヨークのセントラルパークの二倍を超える約七百ヘクタールもの大規模な緑地が存在しておりまして、先人たちの努力によりこれが守られてきました。
 「十年後の東京」計画では、海の森を起点として、こうした大規模な緑地を街路樹で結び、グリーンロードネットワークを形成するとともに、都立公園の整備、校庭の芝生化、屋上、壁面の緑化などさまざまな工夫を凝らしながら、千ヘクタールの緑を新たに生み出す取り組みを展開しております。
 さらに、多摩・島しょ地域における貴重な里山や森林を次の世代に継承できるよう、計画的に保全や植林を進めております。
 緑を前にして心いやされない人はいないわけでありまして、緑の東京募金などを通じて、緑の育成に対する都民一人一人の意識を高めながら、従来の行政の枠を超えて、都民、民間企業、NPO法人などと協力し、緑のあふれる美しい都市東京の実現を目指していきたいと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 都立高等学校の弱視の生徒の拡大教科書についてでございますが、高等学校等においては、国の制度改正により、平成二十二年三月以降、教科書発行者が保有する教科書デジタルデータの提供を受け、このデータを拡大印刷することで、弱視の生徒一人一人に適した拡大教科書を提供することが可能となりました。
 平成二十一年九月時点の調査によりますと、都立高等学校の弱視の生徒十三人のうち、拡大教科書の使用が望ましいとされる生徒は四人であり、この生徒については、本人の希望等も踏まえ、教科書や定期考査用紙を拡大するなど、個別に対応しております。
 都教育委員会は、今後とも、教科書デジタルデータの提供が受けられることについて、都立高等学校へ周知を図るとともに、専門性の高い都立視覚障害特別支援学校が都立高等学校の支援を行い、弱視の生徒に適した指導の充実を図るよう努めてまいります。
   〔財務局長安藤立美君登壇〕

〇財務局長(安藤立美君) 住民生活に光をそそぐ交付金についてでございますが、国の要綱によれば、この交付金の趣旨は、これまで住民生活にとって大事な分野でありながら、光が十分に当てられてこなかった分野について、地域活性化等の速やかかつ着実な実施を図ることとされております。
 具体的には、地方消費者行政、DV対策、自殺予防等の弱者対策、自立支援及び知の地域づくりが示されており、今回の都の補正予算におきましても、こうした趣旨を踏まえ計上しております。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 五点のご質問についてお答え申し上げます。
 まず、視覚に障害のある方が情報を円滑に入手するための取り組みについてでございますが、高齢者、障害者を含め、すべての人の社会参加を促進していくためには、必要な情報を必要なときに容易に入手できるようにすることが重要でございます。
 このため、都が実施する広報等では、福祉のまちづくり推進計画に基づきまして、点字、音声、文字の拡大、IT機器等の多様な伝達方法による情報提供を行っております。また、都が作成する印刷物やホームページ等を見やすく、わかりやすいものとするため、色使いや色の組み合わせなど、色覚に配慮した色の使い方に関するガイドラインについて、現在検討をいたしております。
 次に、福祉保健区市町村包括補助事業についてでございますが、都は、都民に最も身近な区市町村が、地域の実情に応じ、主体的に福祉、保健、医療サービスの向上を目指す取り組みを促進するため、包括補助事業を実施いたしております。
 現在、子育て家庭、高齢者、医療、保健などの五つの施策分野で延べ四千六百件を超えるさまざまな取り組みが行われており、その中には、成年後見制度を普及する先駆的な取り組みが全都的に広がった事例も生まれております。
 都は、対象事業や活用方法に関する説明会を実施いたしますほか、先駆的な取り組みが他の区市町村にも広がるよう、事例集の作成や事例発表会などを行っており、今後も引き続き区市町村における包括補助事業の積極的な活用を促進いたしていきます。
 次に、包括補助事業の都民への周知についてでございますが、区市町村が地域のニーズをとらえ、きめ細かい福祉、保健、医療施策を展開していくためには、地域の意見や発想を生かした創意工夫あふれる取り組みを実施することが重要でございます。
 このため、都は、都民の意見がさまざまな取り組みにつながるよう、ホームページに包括補助事業の目的や先進的な取り組み事例を掲載するなど、都民に対する情報提供を行ってまいります。
 次に、摂食・嚥下障害に対応できる人材の育成についてでございますが、この障害に適切に対応するためには、医師や歯科医師が患者の摂食・嚥下機能の状態を適正に評価し、それに基づき、歯科衛生士や看護師、言語聴覚士、理学療法士等がチームでリハビリテーションを行う必要がございます。
 このため、都は平成二十年度から、医師や歯科医師を対象に専門的な研修を実施しており、今年度は歯科衛生士等を対象に、飲み込みの訓練、姿勢の保持などリハビリテーションに関する研修を行ったところです。
 来年度からは、これまでに開発した人材育成プログラムを活用し、都立心身障害者口腔保健センターにおきまして体系的な研修を行い、摂食・嚥下障害に対応できる人材を育成してまいります。
 最後に、摂食・嚥下リハビリテーションにおける関係者間の連携についてでございますが、都は平成二十年度から二年間、北多摩西部保健医療圏におきまして、摂食・嚥下機能支援のモデル事業を実施いたしました。本事業では、地域の医師会、歯科医師会等が参加する連絡会や事例検討会を開催しながら、患者の症状に応じて関係職種が連携する仕組みづくりを進めてまいりました。
 現在、こうした成果を盛り込んだ東京都摂食・嚥下機能支援推進マニュアルを作成いたしているところでございます。
 今後は、マニュアルを活用し、地域の実情に応じた多職種連携の仕組みを普及させるとともに、都立心身障害者口腔保健センターや保健所において連絡会や事例検討会を開催し、関係者間の連携を強化してまいります。
   〔生活文化局長並木一夫君登壇〕

〇生活文化局長(並木一夫君) 新しい公共支援基金を利用した支援事業についてでございますが、国は、新しい公共支援事業交付金の創設に当たりまして、都道府県に造成される基金の設置、運用等に関するガイドラインを定めております。
 このガイドラインによりますと、基金を利用し、都道府県が行うべき事業といたしまして、公認会計士等専門家の派遣による個別指導など、NPO法人等の活動基盤の整備や、寄附募集についての広報など、寄附を受けやすい環境の整備、NPO法人等と地方自治体が協働するモデル事業への助成などが示されております。
 今後、都は、このガイドラインに沿いまして、事業計画の策定や、支援対象者、支援事業の選定などについて具体的に検討してまいります。

〇議長(和田宗春君) 以上をもって質問は終わりました。

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