平成二十三年東京都議会会議録第四号

   午後三時十一分開議

〇副議長(鈴木貫太郎君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 一番小林健二君。
   〔一番小林健二君登壇〕

〇一番(小林健二君) 初めに、文化芸術振興について質問いたします。
 今から十年前、私たち公明党は、二十一世紀の日本は文化芸術大国でなければならないとの視点から、「文化芸術立国・日本をめざして」と題する政策提言を発表し、今日まで文化芸術振興を推進してまいりました。
 一九三〇年代、世界恐慌下にあったアメリカでは、ルーズベルト大統領によるニューディール政策において、文化芸術政策が一つの柱として位置づけられ、不景気に沈んでいたアメリカ国民を文化によって奮い起こしていきました。
 また、一九四六年には、第二次世界大戦後の荒涼としたイギリスを文化芸術で復興させていこうと、経済学者のケインズが初代議長となった英国芸術評議会が設立されました。
 いずれも、文化によって、国を、国民を鼓舞していく取り組みでありますが、文化や芸術は人間の心を潤し、創造力を高め、困難にも負けない活力を生み出していくものであると思います。
 東京においても、都民の心に潤いを送る一層の文化政策を推進し、世界の文化都市に遜色のない首都東京を構築していくべきと考えます。そのためにも、都が平成二十年度より開始した東京文化発信プロジェクトを着実に推進し、プロジェクトの柱である世界の主要都市と競い合える芸術文化の創造発信、芸術文化を通じた子どもたちの育成、東京における多様な地域の文化拠点の形成という三つの柱の実現が大切であります。文化芸術を基軸に据えた東京の活性化について、知事の所見をお伺いします。
 文化の振興は短期間でなし遂げられるものではなく、長期的な視野で取り組むとともに、専門的な知見が必要であり、行政において文化政策を推進していくには、政策の継続性や専門性といった要素が求められます。文化芸術に精通し、かつ、現場の実情をよく知り、その声を反映させていける専門家の起用により、文化政策の企画立案、推進を一体的、継続的に取り組んでいくことが可能になると考えます。実効的な政策を実現していくために、芸術家や文化団体と行政をつなぐ専門家を活用することを検討してはどうかと考えます。見解を求めます。
 先日、私は、企業によるメセナ活動、すなわち、芸術文化支援活動の活性化を推進している公益社団法人企業メセナ協議会の方とお会いし、ご意見を伺ってきました。二〇〇九年にメセナ協議会が実施した民間企業のメセナ活動実態調査によれば、現在、メセナ活動を継続する上で課題と感じることというアンケート調査に対し、メセナ活動の評価が難しく、成果をアピールしにくいがトップで四六・三%、続いて、経営状況の悪化で、見直し、削減の方向にあるが四〇・一%でした。また、今後もメセナ活動を行う理由は何かとの問いに対しては、七〇%の企業が、活動が定着しており、継続への期待が高いとの回答でありました。
 メセナ協議会の方のお話では、各企業の担当者は、経営状況の悪化で予算が厳しい中でも、活動を続けていくためにあらゆる知恵を絞って取り組んでいると話しておられました。行政が進めていく文化振興とともに、民間企業が取り組んでいる文化芸術支援は、東京においても文化芸術の多様性や文化基盤の底上げに大きく貢献しているものと思います。企業が課題と感じている、メセナ活動の成果をアピールしにくいという課題を払拭し、文化貢献をしている企業に追い風を送るために、都としても、企業が行っているメセナ活動の成果を広く都民に紹介するなど、企業メセナ協議会と連携することで文化芸術振興のすそ野を広げていくべきです。見解を求めます。
 次に、都立高校における日本史の必修化について質問いたします。
 歴史は未来への知恵の宝庫であります。次代を担う高校生が自国の歴史を知り、そこから東京を、そして日本を変えゆく知恵を学びゆくことは大変に重要なことであります。都立高校生の約四分の一が日本史を履修せずに卒業していく状況の中、都では平成二十四年度から、全都立高校における日本史の必修化を行うことを決定し、このたび東京都独自の日本史科目の教科書「江戸から東京へ」が作成されました。
 東京には、往時をしのぶ文化財や史跡などの文化遺産が数多く残されています。日本史学習においては、教科書で学ぶだけではなく、東京に残されている文化遺産に触れる機会をふやし、歴史への興味や関心を高めていくような取り組みが必要です。
 例えば、江戸東京博物館を活用して、高校生のための江戸東京展などの企画展示を行ったり、毎年、都の取り組みとして行われている東京文化財ウイークを「江戸から東京へ」の教科書とリンクさせて高校生向けにアレンジするなどの取り組みをすべきです。平成二十三年度には、この教科書を使用した授業が試行されますが、一年間の試行成果を十分に反映して、さらなる日本史への関心を高める取り組みが必要です。今回作成された教科書で工夫されている点と今後の活用について見解を求めます。
 また、実際に指導に当たる教員が一層の創意工夫ができるような環境整備も大切です。「江戸から東京へ」の教科書には、さまざまなコラムが掲載されていますが、庶民の食事を支えた江戸野菜とのコラムには、私の地元練馬区の練馬大根が紹介されていました。このように自分の住む地域にかかわる歴史に触れることは、歴史を身近にし、一層の関心を促す一助となり、それぞれの地域にかかわりの深い歴史を広く紹介していくべきと思います。
 東京には、江戸東京の歴史に関連した博物館や資料館、図書館などが数多く存在し、このような施設を活用することも重要です。また、江戸の古地図と現代の東京を見比べてみたり、幕末になって残されている江戸のまち並みや人物の写真を数多く活用するなど、多様な資料や補助教材を準備して意欲的に学んでいける工夫も大切であります。都として、多角的な資料、教材を集積して活用していけるように提供していくなど、現場の教員に対する取り組みが必要と考えます。見解を求めます。
 次に、古紙リサイクルについて質問いたします。
 現在、新聞などの家庭系古紙回収は、行政回収や住民団体の運営による集団回収が行われており、回収業者によって収集された古紙は問屋に流れ、問屋から製紙メーカーへと流れてリサイクルされます。
 平成十一年度以降、都内において行政回収が本格化し、古紙回収量が増加する一方で、大きな問題とされているのが古紙の持ち去り問題であります。行政回収や集団回収で集められた古紙は、本来、各地域の再生資源を回収、リサイクルする業者によって収集されますが、これらの正規に委託された業者が回収する前に、集積所に集められた古紙を不正に持ち去る業者が横行している現状があります。
 社団法人東京都リサイクル事業協会の昨年度のデータによると、都内における持ち去り率は多摩地域で一四・五%、二十三区では三四・四%であり、中には七一・六%にも達している区もありました。被害総額は約十五億円にも上っております。私も関係者の皆様から、持ち去り被害による窮状をお聞きし、解決に向けた要望をいただいております。都内各自治体では、十七区六市が持ち去り禁止条例を制定し、パトロールを強化するなどの対策を講じていますが、条例が制定されていない地域で持ち去りをするなど、被害はいまだ根絶できず、住民による行政回収への協力意欲の低下や、回収業者に対する信用低下などの大きな問題に発展しています。
 都では、この状況に対し、昨年十一月より、古紙持ち去り問題対策検討協議会を設立し、持ち去り行為の根絶に向けた協議を開始しましたが、不正を看過せず、古紙のリサイクルを推進していくという視点で、都も対策を強化すべきであります。見解を求めます。
 最後に、地域医療支援について質問いたします。
 医療資源において、病床数の確保は大変重要な課題であります。基準病床数については、二次保健医療圏ごとに定められており、私の地元練馬区は、豊島区、北区、板橋区とともに、区西北部医療圏を形成していますが、練馬区はかねてより医療過疎地といわれ、病床数が著しく不足をしております。
 平成二十一年十月一日現在のデータによりますと、人口十万人当たりの病院の病床数は、二十三区平均が八百二十七床であるのに対し、練馬区は二百七十六床と二十三区で最低であります。人口七十万人を超える都内で二番目に人口の多い区であるにもかかわらず、人口に比較して極端に少ない病床数であります。練馬区にとっては病床数の確保、医療機能の拡充など、医療環境の整備は喫緊の重要課題であり、これまでも区民や区議会と一体となって、区内の病床確保が可能になるよう、国や都に対し活動を行ってまいりました。
 平成二十三年度には、区の地域医療の将来を見据えた区独自の地域医療計画を策定する予定であります。東京都保健医療計画では、地域医療の確保については、基礎的自治体である区市町村が取り組むこととされていますが、著しい医療過疎状態である練馬区の地域医療確保の取り組みについては、都としても積極的に協議に応じ、必要な支援策を講じていくべきであります。見解を求めます。
 また、区西北部医療圏では、板橋区に病院が集中しており、同じ二次保健医療圏の中でも医療資源の偏在が見られます。練馬区民の皆様からも、身近な生活圏における医療不足への不安の声も大変に多く寄せられております。病床確保に当たっては、二次保健医療圏内の実情を踏まえて、適正かつ柔軟な対応がなされるよう、都としても取り組んでいただくよう強く要望いたしまして、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 一番小林健二議員の一般質問にお答えいたします。
 文化芸術を基軸に据えた東京の活性化についてでありますが、変化の激しい四季を持つ日本の風土は、日本人独特の細やかな感性を培ってきました。ハンチントンのいうように、どのカテゴリーにも属さない日本独特の文化の体系というものをつくったわけでありますが、世界最古の国民歌集の万葉集や世界最古の長編小説の源氏物語を生みました。さらに、混乱をきわめた足利時代には、逆に、幽玄なさびのある芸術を生みました。世界で最も短い詩形であります俳句や短歌もつくり出しました。
 こうしたその日本の伝統文化に、現代美術や演劇、ファッションなども加わって、東京は世界的に見ても比類のない魅力を放っております。
 そこで、これまでにない文化政策を実現するために、芸術文化に造詣の深い各界の第一人者で構成する東京芸術文化評議会という、国にもない会議を立ち上げております。その独創的で斬新な提言に基づきまして、東京の潜在力を解き放つべく、戦略的に文化創造、発信に取り組んできました。
 また、次の時代を切り開くような若いみずみずしい才能を見出し、世界に飛躍させるために立ち上げたトーキョーワンダーサイトは、今ではコンテンポラリーアートの世界のサーキットの中にしっかりと入りました。
 今後も、文化政策を都市戦略の重要な柱に位置づけ、産業や観光の振興ともリンクさせながら、東京の活力を高めるとともに、世界の人々を魅了していきたいものだと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、東京都独自の日本史教科書「江戸から東京へ」の作成上の工夫についてでございます。
 都教育委員会は、都立高校生に、日本の近現代史の学習を通して、国際社会に生きる日本人としての自覚と誇りを身につけさせる必要があると考え、東京都独自の日本史教科書「江戸から東京へ」を作成いたしました。
 この教科書では、歴史的事実を客観的かつ公正に記述して、歴史の持つ重層性や複合性を生徒に考えさせ、理解させるとともに、各学習項目の冒頭に、江戸東京の変遷を切り口として、課題や意味などを問いかける学びの窓を設け、歴史を深く学ぶ動機づけを図っております。
 また、地図や写真等の資料を多く掲載し、生徒の視覚に訴えて、近代史の歴史事象の理解を一層促進するとともに、東京に今も残る身近な史跡や文化財などを取り上げ、生徒が歴史を肌で感じ取り、学習意欲を高められるよう工夫いたしました。
 今後、この教科書については、本年四月に在籍するすべての都立高校生に配布し、日本史等の授業で活用してまいります。
 次に、「江戸から東京へ」を指導する、各都立高校の教員に対する取り組みについてでございます。
 新学習指導要領日本史には、文化遺産、博物館や資料館の調査、見学などを取り入れることが示されており、生徒に実物資料などに触れさせることは、知識、理解の定着や歴史の考察を深めるために有効でございます。
 こうしたことから、都教育委員会は来年度、「江戸から東京へ」の教員向けの指導書を作成し、江戸東京博物館や都立中央図書館などの施設の活用法を初め、旧江戸城等の史跡や東京駅等の歴史的建造物などの文化財を活用した指導法を紹介してまいります。
 また、東京各地の史跡や文化財の情報を収集し、新たにデジタルコンテンツを作成して、各学校の教員が補助教材として活用できるようにしてまいります。
 今後、都教育委員会は、これらの取り組みを通して、「江戸から東京へ」を指導する教員の力量を高めてまいります。
   〔生活文化局長並木一夫君登壇〕

〇生活文化局長(並木一夫君) 二点のご質問にお答えいたします。
 初めに、芸術家や文化団体と行政とをつなぐ専門家の活用についてでございますが、都は、平成十八年に東京芸術文化評議会を設置し、芸術文化に対する支援や文化施設のあり方などに関してさまざまな提言をいただき、文化施策の企画立案に当たって、専門家の意見を積極的に取り入れてまいりました。
 これにより、東京文化発信プロジェクトや東京舞台芸術活動支援センターの開設など、これまでにないさまざまな施策に取り組むこととなっております。
 これらの施策は、海外への発信力をより高めていくために、事業の質的向上を図るなど、さらなる充実が求められております。そのために、文化に対する知見を有し、事業経験の豊富な専門家を、事業を実施する中でも活用することが有効と考えております。
 今後、都としても、芸術文化評議会における議論も踏まえ、専門家の活用方策について検討してまいります。
 次に、企業メセナ協議会との連携についてでございますが、芸術文化の創造発信が活発に行われていくためには、官と民それぞれの立場で多様な支援を行っていくことが重要でございます。
 とりわけ、多数の企業が集積する東京におきましては、企業が芸術家や文化団体を支援するメセナ活動が、芸術文化の発展に重要な役割を果たしてまいりました。こうしたメセナ活動の状況やその成果をより広く社会に紹介し、認知させることにより、企業の社会貢献活動について評価を高めていくことは、芸術文化に対する支援の継続、充実に非常に有効でございます。
 都といたしましても、こうした観点から、企業メセナ協議会を初めとする民間団体等との間で、広報や情報提供などに関する連携を図ってまいります。
   〔環境局長大野輝之君登壇〕

〇環境局長(大野輝之君) リサイクルについてのご質問でございます。
 組織的な古紙の持ち去り行為は、本来の資源回収ルートを断ち切り、地域のリサイクルシステムの崩壊につながるものであるため、容認することはできないと考えております。
 そこで、都は、古紙の持ち去りを防止するため、昨年十一月に区市町村や古紙回収業界の代表、日本製紙連合会等で構成する、古紙持ち去り問題対策検討協議会を設立いたしました。本協議会では、現在、罰則つきの区市町村条例の制定の拡大や、持ち去り情報の共有化のあり方など、実効性のある新たな対応策につきまして精力的に検討を行っております。
 今後、協議会としての意見を取りまとめまして、行政と各業界が一丸となって、この問題に取り組んでまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 地域医療確保に取り組む自治体への支援についてお答えをいたします。
 東京都保健医療計画では、住民に身近な地域医療の確保は区市町村の役割としており、都は、こうした区市町村の主体的な取り組みに対して支援を行うことといたしております。
 このため、練馬区から都に対して、地域医療の確保に向けた支援の要請があった場合には、十分に意見を聞いた上で、病床の不足状況など詳細な医療実態を把握した上で、具体的な計画書が提出された際には、二次保健医療圏の基準病床数の範囲内で公正な病床配分を行うことになります。
 また、当該病院からの申請に基づき、救急や災害などの行政医療に必要な施設整備について支援を行ってまいります。

ページ先頭に戻る