平成二十三年東京都議会会議録第三号

〇議長(和田宗春君) 六十七番石森たかゆき君。
   〔六十七番石森たかゆき君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

〇六十七番(石森たかゆき君) まず初めに、多摩地域の緑の保全について伺います。
 都では、平成十八年に策定された都市戦略としての「十年後の東京」で、水と緑に囲まれた都市空間の再生を大きな目標に掲げ、緑あふれる都市の実現に向けて、海の森や校庭の芝生化など、新たな緑の創出に取り組むとともに、丘陵地、農地などの都市に残された貴重な緑の保全や、森林機能の再生を積極的に推進しています。
 中でも、私どもが暮らす多摩地域は、面積の約五割を占めている緑豊かな森林や、自然公園、河川、農地などと相まって、潤いのある都市環境には欠かすことのできない貴重な緑が残されています。多摩の緑はいうまでもなく都民にとってはかけがえのない大事な財産であり、こうした緑を守るためには、開発行為をできる限り抑制して、現存する緑地の保全指定や、公有化を積極的に推進する必要があります。
 以前知事は、多摩地域の里山、八王子市戸吹地域を視察した際に、現地のすばらしい自然を目の当たりにして、何とか次世代に残したいと発言され、それがきっかけで、保全地域の指定に結びついたことがありましたが、知事の多摩地域の緑保全に向けての決意を、まずお聞かせいただきたいと思います。
 都市における緑は、人々に安らぎを与えるとともに、災害時には避難場所として活用されるなど、多様な機能を持っています。昨年は、名古屋で生物多様性に関する国際会議COP10が開催され、動植物の生存基盤としても、緑はますます重要となっておりますが、緑を確実に守るための保全地域の指定に向けては、環境局を中心に、関係機関の努力によって着実に前進しており、高く評価しているところであります。
 私の地元である八王子市の堀之内地区には、平成二十一年三月に指定された八王子堀之内里山保全地域があります。ここは過去に、多摩ニュータウン開発の際に、地権者の方々の反対によって残された地域でありますが、以前から、トウキョウサンショウウオなどの貴重な動植物が生息し、複数のボランティア団体によって、稲作や緑地保全活動が継続的に実施されてきた里山であります。
 保全地域に指定されたことによって、将来的に貴重な緑が守られることとなりましたが、現在では、地元八王子市が積極的にかかわり、地域の方々も草刈りや田植えを行うなど、良好な里山として維持管理がなされております。
 また、同じ八王子市の暁町には、当初、都営住宅建設用地として都が買収した広大な土地がありますが、その後、計画が変更され、手つかずのまとまった緑が残る場所があります。この緑地は、国道一六号と中央自動車道に隣接する場所でありますが、周辺部での宅地化が進み、緑が大幅に減少しつつある中にあって、草地が広がり、鳥や昆虫が多く見受けられる豊かな自然が残されたところであります。
 これまでにも、地域住民から八王子市に陳情書が提出されるなど、この緑地の保全は、地域にとって強い願いであり、私も以前から保全を求めて取り組んでまいりました。この緑を、堀之内地区に続いて、自然保護条例に基づく保全地域に指定し、都としてしっかり守っていくべきであると考えますが、見解を伺います。
 東京都では、平成十九年に、今後の財産利活用の指針を策定し、これまで基本としてきた全庁的な財産の有効活用や財政再建のための積極的な売却から、環境変化に対応した利活用といった視点から、民間活力を導入するなど、新たな取り組みを展開しております。
 財政危機に対応するため、不要財産の売却、施設統廃合等による財産の効率的な利活用によって、ある一定の成果を上げたことを踏まえて、平成十九年のこの指針策定に至ったところでありますが、これまでには、自治体や地域住民の意向によってさまざまな形で利用されてきた都有地などが、地元での暫定利用を終え、都に引き継がれた土地も何カ所か存在いたします。
 八王子市でいえば、やはりもともとは住宅建設用地であった大柳地区のグラウンドが、昨年十二月に利用を終了し、都に引き継がれております。ここは、地域の少年サッカー等で利用され、週末になると、子どもたちの元気な声がこだまするなど、子どもの育成、スポーツ振興の面からも有効に活用していたと思います。
 また、この土地周辺には、田畑と水路があることから、地元NPO法人の現地調査では、サギ、カモなどの水鳥、カエル、メダカ、ホトケドジョウなどの日本固有の生物や、ヒバリの営巣を初め、三十三種の野鳥が観察されているようであります。
 そこで、都は、今後この土地を利活用していくに当たっては、単に地域の開発という視点だけでなく、こうしたすばらしい環境があることや、青少年の育成という面も踏まえ、地元の自治体や住民の要望にも十分に耳を傾けながら、検討を行っていくことを要望しておきたいと思います。
 次に、高尾山についてお尋ねいたします。
 高尾山につきましては、都心に近く、豊かな動植物に恵まれ、古くから信仰の山としても知られているところであります。今や日本だけでなく、世界じゅうから多くの人が訪れる人気の高い観光地であり、都民にとっても貴重な自然公園であります。
 過日の節分の日には、八王子ゆかりの北島三郎やファンキーモンキーベイビーズなどの芸能人による豆まきが行われ、多くの方が薬王院に訪れましたが、この高尾山には登山路が何本もありまして、コースによって異なる景観、あるいは動植物が見られ、何度訪れても飽きることがないことから、リピーターの多い山としても知られております。
 その中でも、北側の斜面から山頂に通じる四号路は、ブナの新緑やカエデの紅葉など、四季折々の変化に富んだ景観が魅力の人気コースでありますが、この四号路のシンボルであるつり橋が昨年の降雪により破損し通行できなくなりました。つり橋については、都の早い復旧工事により通行できるようになりましたが、四号路は国有林で治山工事が行われているため、現在一方通行となっております。一刻も早く自由に通行できるようにするとともに、自然に親しめる高尾山の魅力をさらに高めるべきだと思いますが、都の見解を伺います。
 次に、多摩シリコンバレーの形成について伺います。
 多摩地域は、エレクトロニクス、精密機器等のすぐれた技術力を持つ最先端のものづくり企業や大学、研究機関が集積しており、圏央道の整備に伴い、今後ますますポテンシャルが高まるエリアであります。圏央道が全線開通となれば、多摩地域と研究機関が集積する茨城県のつくば市などとも短時間で行き来することが可能となり、ものづくり企業や大学などの交流による新たなビジネスチャンスの拡大が期待されるところであります。
 これまで東京都の産業振興策については、若干、多摩格差が生じていたと感じておりましたが、都ではこの地域の活性化のため、「十年後の東京」計画で、多摩シリコンバレーの形成を掲げ、これに基づく施策として、昨年二月に、中小企業に対する技術支援、経営支援を行う産業支援拠点、産業サポートスクエア・TAMAを整備いたしました。この産業サポートスクエア・TAMAでは、高度で最新鋭の充実した試験機器や設備を備え、さまざまな技術支援を行うとともに、東京都中小企業振興公社等が経営支援を行い、開設以来、着実な利用実績が上がっているものと考えています。
 こうしたすばらしい施設のサポートを受け、都内中小企業が高い技術力にさらに磨きをかけ、新たな技術や製品を生み出し、東京の産業の未来を切り開いていけるものと大いに期待しているところであります。
 多摩シリコンバレーの形成に向けては、このような都による支援体制の充実に加えて、企業同士が日ごろの活動の中で、多摩地域にとどまらず、その周辺地域も含めた広域的なネットワークをつくり上げて、互いの経営力や技術の水準を高め合うことのできる産業交流の場を確保していくことが極めて重要であります。
 こうした観点から、都は現在、八王子市に多摩地域における産業交流拠点を整備する計画を進めておりますが、地元八王子市のみならず、多摩地域の産業界からは、拠点の整備について、一刻も早い実現が熱望されているところであります。この産業交流拠点整備については、都は来年度、調査を実施する予定となっておりますが、これまでの経緯と今後の取り組みについてお示しいただきたいと思います。
 地元自治体においても、この産業交流拠点の整備計画に合わせ、周辺のまちづくり構想をこれまで検討してまいりました。この拠点整備とその周辺のまちづくりを一体的に進めることで、まちとしての魅力をさらに高めていこうというものであります。
 そこで、都は、この産業交流拠点を中心とした周辺一帯の地域の整備をどのように進めていこうとしているのか、お聞かせいただきたいと思います。
 また、多摩シリコンバレー形成に向けては、こうしたビジネスチャンスの拡大につながる産業交流の促進とともに、半導体や、将来的に市場規模の拡大が見込まれるロボット産業や、航空機関連産業など、多摩地域に集積が見られる産業の育成をあわせて行っていくことが重要であると考えます。東京都は、この多摩シリコンバレーの形成に向けて、今後どのように取り組んでいくのか、見解を伺います。
 最後に、昨日も質疑がございましたけれども、精神障害者医療について伺います。
 国内の自殺者数が、年間三万人台で高どまりのまま推移している中、自殺者には、うつ病などの精神疾患が多いことから、自殺対策として、精神科医療の充実は極めて重要であります。
 そのような中、国における障害者保健福祉施策が、入院医療中心から地域生活中心へという大きな流れの中にあって、都では平成十八年度から実施している精神障害者退院促進支援事業で、精神障害者の退院に向けてのさまざまな支援を行っております。さらに地域生活基盤においても、都では、共同作業所やグループホームの事業を推進し、精神障害者の社会復帰、あるいは社会参加の環境整備にこれまで取り組んできたところでありますが、精神障害者も増加傾向にあることから、地域生活基盤をより充実する必要がありますが、都としてはどのように取り組んでいくのか、お伺いいたします。
 精神障害者を支えるためには、地域生活基盤の整備を進めることも重要ですが、あわせて、安定した地域生活が継続できるよう、身近な地域で適切な医療を受けられるような仕組みも必要となります。
 都は、二十三年度、未治療、医療中断などによる、地域での安定した生活が困難な精神障害者に対する訪問支援事業を本格実施いたしますが、精神障害者は、その疾患の特性から症状が悪化するほど、みずから医療や福祉サービスを求めることができなくなることが多く、地域に出向いての支援は効果的であると思います。
 ただ、医師や看護師など医療資源が限られる中、医療機関や訪問看護ステーションなど、さまざまな実施主体によるきめ細かな訪問型支援の実施には、解決すべき課題も多いと思われますが、そのような中にあって、身近な地域で適切な医療を受けるためには、地域における精神科医療の連携が重要であり、都が今年度から実施している地域精神科医療ネットワークモデル事業を着実に普及すべきと考えますが、所見を伺い、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) 石森たかゆき議員の一般質問にお答えいたします。
 多摩地域における緑の保全についてでありますが、都会に近接していながら、あれほど多様な生き物をはぐくむ山々や、人々の暮らしに沿うようにして点在する里山など、多摩には、市街地と融合して独特の魅力を醸し出す豊かな緑が数多く残されております。現に、以前も視察いたしました八王子の戸吹地区では、絶滅のおそれがあるトウキョウサンショウウオも生息している美しい沢が、さながら明治時代に戻ったような風景として残されておりました。その後も私用で雲取山にも登りましたが、都心からわずかの距離にあれほど深い山があるというのも非常に魅力に富んだ日本の、東京の財産だと思いました。
 こうした多摩の自然は、都民生活に安らぎと潤いを与えるばかりでなく、高尾山のようにミシュラン・グリーンガイド・ジャポンですか、それにもノミネートされて、非常に魅力が高く評価され、日本人よりも外国人の観光客が多いというような現状ですが、海外からもこの情報を慕ってやってこられる方もあるようであります。
 いずれにしろ、これは都民の貴重な財産でありまして、これまで都は、人手が入らずに荒廃した山林を再生する取り組みや、残された丘陵地や里山を保全地域として指定する取り組みを進めておりまして、今後とも多様な表情を持つ多摩地域の緑を保全して将来の世代へと確実に引き継いでいきたいと思っております。
 他の質問については、技監及び関係局長から答弁いたします。
   〔東京都技監河島均君登壇〕

〇東京都技監(河島均君) 産業交流拠点周辺のまちづくりについてでございますが、都は、八王子駅前の旭町・明神町地区におきまして、産業交流拠点の形成とともに、核都市八王子の顔となる市街地整備に向けて取り組んでおります。
 これまで当該地区を対象に、産業交流機能のほか、まちの活性化を図る業務、商業等の機能導入や、地元市の意向を踏まえた広場の確保などにつきまして、事業手法も含めた調査検討を行ってまいりました。
 また、当該地区を含むJR八王子駅と京王八王子駅に挟まれた区域において、先ごろ、地元市が中心となり、都も参画して検討を進めてきた旭町・明神町地区周辺まちづくり構想がまとまり、まちの将来像や土地利用の方針などが明らかにされました。今後、都は、このまちづくり構想を踏まえつつ、地元市と連携して、当該地区の街区割りや導入施設、事業手法などの考え方を明らかにする全体計画を来年度中に取りまとめ、計画の具体化に向けて取り組んでまいります。
   〔環境局長大野輝之君登壇〕

〇環境局長(大野輝之君) 自然環境に関する二問のご質問でございます。
 まず、八王子市暁町に残る緑の保全についてでございますが、都はこれまでも、自然保護条例に基づく保全地域制度を活用しまして、東京に残された緑を守る取り組みを行ってまいりました。
 八王子市暁町の緑地は、周辺の雑木林と一体となって、約二百五十種もの多様な植物が確認されております。都内では少なくなりましたススキやカヤの草地が広がる貴重な地域でございます。このため、保全地域の指定に向けた手続を現在進めてきておりまして、三月末には指定を行う予定でございます。
 都内ではまれな、まとまった草地が残る暁町の特性を生かしまして、広く都民に親しんでもらえるよう、地元の八王子市とも連携し、良好な緑の保全と利用に努めてまいります。
 次に、高尾山の魅力を高める取り組みについてでございますが、ご指摘のように、高尾山は、都民ばかりでなく、諸外国から訪れる観光客にも親しまれている自然公園となっております。
 ご質問の四号路の一方通行につきましては、春の観光シーズンの前には解消できる見込みでありまして、これにあわせて道幅を広げ、路面を平らにするなど、四号路を、より歩きやすいものとなるよう整備をしてまいります。
 今後とも、都民が安全で快適に利用できるよう、登山道や案内板、トイレなどの施設を適切に整備しまして、自然豊かな高尾山の魅力をより高めてまいります。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

〇産業労働局長(前田信弘君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、産業交流拠点の整備についてでありますが、多摩地域には、先端的な技術を持つすぐれた中小企業や大学、研究機関が数多く存在するという高いポテンシャルがございます。そうした地域の力を十分に発揮させるため、中小企業同士の交流や、産学公の連携を深めるとともに、多摩の中小企業の製品や技術を広く発信するための拠点を、八王子市の産業技術研究センターの跡地に整備することといたしました。
 拠点の着実な整備のため、都は昨年度には、拠点に必要な機能のあり方について調査や検討を行っております。その結果を踏まえ、今年度は、産業交流拠点の施設の規模や用途などについて検討を行っております。
 また、拠点の整備が周辺地域のまちづくりと密接な関係があるため、関係局との協議にも取り組んでまいりました。来年度は、民間活力を導入する可能性などを踏まえた整備に関する調査を予定しております。
 次に、多摩シリコンバレーについてでありますが、多摩地域において、研究開発の充実を図り、付加価値の高い製品を生み出す力を発揮させるとともに、広域的な産業交流の活発化により新事業の創出につなげていくことが重要と認識しております。
 このため、多摩地域に集積する計測・分析器などの産業分野で、企業、大学、公的機関及び金融機関のネットワークを形成し、共同の研究開発の促進を図るとともに、同地域の航空機関連部品の企業が高付加価値の製品を生産し、受注を確保できるよう支援を行います。
 さらに、産業交流の広域化に向けて、産業交流拠点の整備に加え、今年度、多摩に隣接する神奈川県や埼玉県の一部を含む地域について、関係県市と協力して策定した首都圏西部地域広域基本計画に基づき、ものづくり産業を主な対象に、産学官の連携強化などを進めてまいります。こうした取り組みを総合的に展開することにより、多摩シリコンバレーの形成につなげてまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 二点のご質問についてお答え申し上げます。
 まず、精神障害者の地域生活基盤の充実についてでございますが、都は、精神障害者が地域で安定して生活できるよう、独自に整備費や運営費の助成を行うなど、グループホーム等の整備を推進しており、昨年十二月現在、定員は、平成十七年度末の五百六十人から千百八十九人へと着実に増加いたしております。
 また、地域生活を支える相談機能を充実するため、地域活動支援センターに、精神保健福祉士等を配置して、日常生活に関する相談対応や医療中断を防止するための通院同行等の取り組みを行う区市町村に対し、包括補助事業等を通じて支援を行っております。今後とも、こうした取り組みを一層進め、精神障害者の地域生活基盤を充実してまいります。
 次に、精神科医療ネットワークモデル事業の普及についてでございますが、都は今年度から、地域の関係機関が連携し、精神障害者の地域生活を支えるため、モデル事業を区東北部と南多摩の二つの二次保健医療圏で実施いたしております。
 この事業では、症状の変化に応じて、必要なときに適切な医療を提供できる地域連携の仕組みづくりを目指しており、現在、精神科の病院や診療所、保健所等の関係機関による協議会を設置して、地域で対応可能な疾患や往診の実施の有無、診療時間等の情報の共有とその活用方法などについて調査検討を行っております。
 今後、モデル事業を評価、検証するとともに、精神保健福祉センターの専門職チームによる訪問型支援の実施状況も踏まえまして、精神障害者が身近な地域で受診できるよう、関係機関の連携を構築してまいります。

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