平成二十三年東京都議会会議録第三号

〇議長(和田宗春君) 十番くりした善行君。
   〔十番くりした善行君登壇〕

〇十番(くりした善行君) 私からは、二〇一一年の東京国際アニメフェアに関連して質問をさせていただきます。
 東京国際アニメフェアは、日本のアニメーションを世界に発信するとともに、アニメ関連事業の新しい商取引の場として、二〇〇二年に初めて開催されました。以後、九年間にわたって順調に規模を拡大し、昨年度の来場者数は十三万人に達しました。国内のアニメ業界最大のイベントとして、海外からも多くのファンが訪れるようになりました。
 ことしは十年度の記念すべき年として、当初、過去最大の十四万人の来場者を予定しておりましたが、昨年の十二月に東京都青少年健全育成条例の改正をきっかけに、大手出版社が相次いでアニメフェアに対する出展拒否を宣言したことにより、参加企業が大幅に減少し、現在、例年どおり開催することは決定したものの、依然として大変厳しい状況に立たされております。一月二十五日の時点で、出展企業は、昨年より九十一社減り、百五十三社の予定となってしまいました。また、出展のキャンセルされたアニメは、集客力の高い人気作品が多く含まれ、一般来場者の大幅な減少も危惧されております。
 このアニメフェアは、数年前を境に、運営を民間の手にゆだねることによって自律的な発展を目指すという目的で、アニメ、出版印刷に関連する民間企業のメンバーによって構成される東京アニメフェア実行委員会によって運営をされるようになりました。
 実行委員会の発表した収入予測によれば、事態が起こる前に約三億三千万円と予想されていた収入が、約二億二千万円まで落ち込むという見込みになっており、これによって、実行委員会がこれまで積み上げてきた基金約六千万円余りをすべて取り崩して、アニメフェアを通常どおり何とか開催できるように計画を立て直しております。
 しかし、この予想どおりイベントの開催が行われた場合、イベント後に実行委員会に残る残金は約二十八万円となっており、実行委員会事務局は、四月からオフィスの家賃さえ払うことができなくなる可能性もあるとして、嘆息しております。
 東京都は、このアニメフェアに対して、今年度は一億二千五百万円の負担金を捻出しておりますが、運営主体を実行委員会に移して以降、都からの負担金を毎年二千五百万円ずつ引き下げる方針に従って、ことし一億二千五百万円だったのが、来年度は一億円の負担金が捻出される予定となっております。
 もし参加企業のボイコットが続けば、これまでどおりの支援内容では、基金がなくなり、また負担金も二千五百万円減る来年度以降は、イベントの開催自体が立ち行かなくなることは明白であります。
 東京都の手を離れたとはいえ、今や日本の誇るアニメ文化の一大イベントとなっている東京国際アニメフェアについては、来年度以降も開催を行えるよう、都は責任を持って努力をしていくべきだと思いますが、都の見解を伺います。
 また、参加企業の相次ぐ出展中止については、東京都政が大きく関連しており、東京都は、この非常事態に対して、日本の誇るアニメ産業の発展を後退させないためにも、必要に応じて、新たな支援のあり方について改めて検討すべきだと思います。
 事実、一月二十五日に行われたアニメフェア実行委員会において、前田産業労働局長が、財政面から見ても継続して開催できるよう支援していく、そう明言されましたが、現在の状況が続いた場合、負担金の増額も視野に入れた支援を検討しているのでしょうか、お伺いいたします。
 また同時に、アニメフェアの正常開催に向けて、出版、アニメ関連企業との関係改善に向けて、全庁的な対応を行っていくべきだと思います。
 そこで、これまでの都の関係改善に向けての取り組みについて振り返ってみたいと思いますが、そもそも出展拒否の口火を切った大手出版各社が参加拒否を表明したのは、十二月の十日のことでございました。しかし、出版各社に対して、東京都がアニメフェアの参加について最初のアプローチを行ったのは、それから一カ月たった一月十四日のことであったと聞いております。東京国際アニメフェアを重要イベントと位置づける東京都産業労働局としては、条例の審議に対して影響を与えるかどうかはさておいて、少なくとも出版各社に対してヒアリングを行い、経緯と現状の把握を行うこと、これは可及的速やかに対応を行うべきであったと思いますが、なぜここまで対応がおくれてしまったのか、見解をお伺いします。
 また、一月十四日のコミック十社会との協議の中で、青少年・治安対策本部からは条例の改正についての趣旨説明、産業労働局からは東京国際アニメフェアに参加をしてもらえるように、ここで初めてお願いをしたとのことでありました。
 しかし、一月十四日にお願いを行っていたにもかかわらず、石原知事は、一月二十三日のテレビ番組において、出版社を名指しで批判するとともに、出展拒否行動に対して、どうぞ、だったらおやりください、ほえ面かくのは向こうだと思うよと、このような発言をされました。実際に、この発言によって出版社側は都の姿勢に対して強い不信感を抱いたといいます。なぜ、お願いすると同時に、来なくていいという、このような不整合が起きてしまうのでしょうか、お伺いをいたします。
 これらの経緯の中、各出版社と東京都の溝は埋まることのないまま、東京国際アニメフェアの開催へと二カ月を切りました。例年どおりであれば、既にポスターも張って広報を行うべき時期に差しかかっているにもかかわらず、開催の可否さえ決まらない。
 そんな中、二月の二日に東京都から、コミック十社会の各社に対して一通の書簡が配布をされました。石原知事の署名が入ったこの書簡であります。
 その中の一文を読み上げますが、このアニメフェアの意義とこれまでの成果を踏まえ、開催を望む多くのファンのためにも、フェアの成功に向けて手を携えていきたく、本日筆をとりましたと、石原知事から、アニメフェアに復帰をしてほしい、そういった意思が初めてここに示されておるわけでございますが、しかし二週間前に来なくていいといった知事が、どうしてこのように変わったのでしょうか、お伺いをいたします。
 このように、アニメフェアの正常開催に向けて努力を始めたという点に関しては、基本的に評価のできることだと思っています。しかし、この書簡に対する出版関係者の評価はさんざんたるものでありました。同書簡の中には、過日の知事による侮辱的な発言に対する謝罪もなければ、これまで東京都が行ってきた紋切り型の条例改正の趣旨説明と何の変わりもないものであったからであります。
 さらに、知事の署名も、都議会だより等に利用されているもののコピー。配布の仕方も、前日に各社の代表取締役にアポをとったそうですが、一部の出版社にはアポさえも正しくとれていなかったと聞いています。客観的に見ても、各出版社に対する誠意や、本当の意味で手を携えていくという姿勢は感じられず、何とか平穏無事に事を済ませたい、そういった姿勢しか伝わってきません。
 そして、それに続いて、二月の七日、先週の月曜日でございますが、東京都は、自主規制団体である出版倫理協議会のメンバーに対して、青少年健全育成条例の運用に関しての説明会を行いました。当会の行方が、条例改正だけではなく、アニメフェアに対しても深く関係をしていたことから、東京都からは猪瀬副知事、産業労働局、そして出版社側からはコミック十社会のメンバーもオブザーバーとして参加をしておりました。そこで初めて、東京都は出版社に対して、条例の運用について具体的な案を提示し、それに対して議論が行われました。
 具体的には、不健全図書を決定する青少年健全育成審議会のあり方を一部見直すという内容であります。
 これまで、審議会においては、不健全図書の決定を行う上で議論を尽くすための環境が十分整えられていないのではないかという指摘がなされてきました。不健全図書の指定においては、該当図書を審議委員が実際に閲覧をして、指定すべきか否かの意見を述べ、採決をするという形をとっておりますが、意見は、ほとんどの場合、指定に異議なしという簡潔なものに終始をしています。
 過去三年間に審議会にかけられた図書は、九十三冊中九十三冊、つまり一〇〇%の確率で指定をされている上、指定以外の意見が上がったものでさえ、わずかその中の三件でありました。審議会にかかったものは、当たり前のように不健全図書指定をされる現在の状況下において、出版各社、そして作家の方々が危惧を持つことは無理からぬことであります。
 審議の環境についても、限られた時間の中で、長編作品であってもわずか一部しか閲覧することができない。議事録の公開はされているものの、発言者名は伏せられており、責任ある議論はできないのではないか。また、漫画への専門的見識を持った審査委員の割合が少ないのではないか、そういった指摘もされてきました。
 その日に東京都から行われた提案は、この審議会に対して、新しく出版業界が選定をした専門委員を設置するという内容でありました。この専門委員については、位置づけがはっきりしておらず、実効性が担保されていないという理由から、現状においては、出版側の高い評価を得ることはできませんでした。
 また、この会議の中で、審議会の前段階で自主規制団体が行う打合会では、これまで意見を述べるだけだったが、一定数以上の委員が反対をした場合、対象の図書を審議会に挙げないシステムにしたらよいのではという出版社側の案に対して、都からも前向きな意見が出たと聞いておりますが、そのような変更の余地はあるのでしょうか、見解を伺います。
 私は、この間の知事及び各局の出版社への対応が、条例改正は心配に値しない、そういった一方的な説明に終始をしていたのが、現在、具体的な対話に変わってこようとしている、これは評価のできることだと思います。しかし、大変残念なのは、東京国際アニメフェアが危機的状況になるまで、やろうと思えばできたはずの対応を怠ってきたこと、また、その場しのぎの対応に終始して、業界の方の信頼を取り戻すという本当のゴールに必ずしも近づいていないことであります。
 私も初めて知ったのですが、おのおのの作品をアニメフェアに出展するか否かの決定権を持っているのは、これは出版社ではなくて、原作の漫画家の方々であります。もし原作者の方がアニメフェアに参加をしたいといえば、出版社はそれに対してノーとはいえないそうであります。
 つまり、おのおのの漫画家の方が、現在、みずからの意思で出展に反対をしている。ですから、幾ら協力してほしいと出版社の代表取締役に対してこういった書簡を送っても、作家さんお一人お一人が東京都に対する認識を改めない限り、事態は前進しないということであります。
 十二月十日に出されたコミック十社会の声明の中には、都と漫画家、アニメ制作者との話し合いが、ただの一度も行われてこなかった、それさえ行おうとせずに、知事が事実誤認に満ちた不誠実な発言を繰り返しているとあります。
 実際にお話伺ってみてもそうですが、条例改正に対する不満だけではなくて、条例改正に至るまでの対話の場所が用意をされてこなかったこと、そして、たび重なる知事の侮辱的な発言が出展拒否の大きな原因になっている。現に、二月七日の協議の中で、出版社の方から、数々の暴言に対して謝罪があって初めて和解に対してのスタートラインに立てると、そういった意見が出たとのことでありました。
 知事は、出版社に対して、ずっと来なくてもいいよ、あるいは卑しい仕事をしている、漫画家の方々に対してそのようにおっしゃられました。そんなふうにいわれて、一緒に仕事がしたいと思いますか。
 出版社、漫画家の方々からしても、ビジネスチャンスは、これはふえた方がいいに決まっている。また、冒頭申し上げたとおり、東京都としても、このアニメフェアは大切なイベントであります。都知事の不用意な発言や態度によって、都民、国民の利益が損なわれることは、あってはならないことだと思います。
 ここに書かれているように、手を携えて、東京の地場産業であるアニメ、漫画を発展に導いていきたいのであれば、彼らの信頼を再び得るために、このような紙を配らせるんじゃなくて、知事の口から直接理解を求めるとともに、今後のことについて表明をすることが、私は、今、最も必要とされている、そう思います。
 最後に知事の見解をお伺いして、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

〇知事(石原慎太郎君) くりした善行議員の一般質問にお答えいたします。
 アニメフェアの開催についてでありますが、改めて申し上げるまでもなく、漫画、アニメは、我が国が生んだ独自の文化でもあります。新しい才能を見出し、世界に発信しながら、産業としても一段と発展させるために、都としてもアニメフェアに協力してきました。
 そうした漫画、アニメの重要性、その発展を願う気持ちは、出版界、漫画家の皆さんと変わりません。こうした思いを込めて、先般も出版社各社に私のメッセージを送りましたが、今日、アニメフェアの開催をめぐってこうした状況になったことは極めて残念であります。
 多くの漫画やアニメが子どもたちに感動を与えてきた。一方で、漫画やアニメが子どもたちに与える影響も非常に大きいんです。
 先般のブラジルの世界大会では、今回問題にした種類の漫画も含めて、児童ポルノというものがこれだけ野放しになっている国は日本だけだ、何とかしてくれという要請がありました。
 今、卑しい、卑しくないとありましたが、あなた、小学校の先生と子どもが同棲して生活する、近親相姦する、あるいは親子の近親相姦、兄弟の近親相姦、そういうゆがんだ性愛というものを書いて金をもうけている人間というのは、私は卑しいやつだと思いますな。
 しかし、そうした自主的な努力、従来の条例をもってもなお、強姦などの犯罪行為を賛美する一部の漫画を子どもがたやすく手に取ることができる事態が存在しているわけでありまして、今回の条例改正は、こうした事態の改善を望む都民の思いにまさしくこたえるためのものであります。子どもを健やかに育てることは大人の責任でありまして、そのために全力を尽くさなければならないと思います。
 もとより本条例は、出版業界が懸念するような、表現を規制し、創作活動を萎縮させるものでは決してありません。さらに、議会の付帯決議を踏まえて条例を運用してまいります。
 なお、くりした議員に申し上げますが、条例は、くりした議員も賛成して改正されたはずのものですな。しかし、ただいまの質問を聞いておりますと、なぜ質問したかという思いを禁じ得ません。
 あなたは、かつてオリンピック関係の問題について、スタッフが身分を偽って調査した結果をもとに本会議で質問をし、後に非を認め謝罪したこともあったじゃないか。都民から選ばれた都議会議員の責任の重み、都議会の最大の権威のある議決行為そのものの重みをおとしめたとのそしりを後々受けないように、ご忠告申し上げます。
 他の質問については、関係局長から答弁します。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

〇産業労働局長(前田信弘君) 五点のご質問にお答えいたします。
 アニメフェアについてでありますが、アニメフェアは、アニメ業界や都が参加する実行委員会が開催してまいりました。フェアは、この三月の開催で十回目を迎えますが、この間、多数の出展者に貴重な商談の場を提供し、若手の優秀なクリエーターが世に出る機会を創出するとともに、国内外の多くのファンが楽しむ意義あるイベントと認識しております。今年度につきましても、実行委員会が一丸となってフェアの成功に向けて尽力しております。
 都はこれまでも、アニメ産業振興のためにこのフェアを支援してまいりました。来年度以降のフェアの開催につきましても、都として引き続き支援を継続、実施してまいります。
 次に、アニメフェアの財政支援についてでありますが、都はアニメフェアの開催について、平成二十二年度では、一億二千五百万円を負担金として支出しております。今後も引き続き、必要な財政支援を行っていく考えであります。
 次に、コミック十社会への対応についてでありますが、漫画を出版する十社で構成するコミック十社会は、昨年の第四回都議会定例会で、東京都青少年健全育成条例の改正案が審議されていた十二月十日に、アニメフェアへの協力、参加を拒否する緊急声明を出しております。さらに、都議会における同条例の可決を受けまして、十二月二十二日、再度、改正条例の可決に反対の立場から声明を出しております。
 このような声明が出されたことから、条例を所管する青少年・治安対策本部が、条例改正の趣旨を改めて説明する目的で、十二月二十四日、十社会に対し、その機会を持ちたい旨申し入れを行いましたが、相手方の都合で一月十四日になったものと聞いております。産業労働局は、この訪問に同行し、アニメフェアの意義について理解を求めたものであります。
 次に、アニメフェアへの参加についてでありますが、まず基本的な認識として、青少年の健全育成の重要性、またアニメフェアの開催の意義については、出版業界と共有しているものと考えております。その上で、一月二十三日の知事の発言は、アニメフェアは業界が中心となって開催されるものでありますから、それに対する態度は相手方の判断によるものであるということをあらわしたものであります。
 一方、一月十四日に、都は、コミック十社会に対しまして、都議会で可決されました条例改正の趣旨を説明するとともに、アニメフェア開催の意義の理解を求めておりますが、知事の発言と不整合であるとは考えておりません。
 最後に、アニメフェア開催への対応についてでありますが、アニメフェアは、アニメの重要性を認識し、アニメ産業の振興を図るため、業界と都が協力して実施しているものであります。今回、条例改正に反対して、フェアへの参加協力を拒否する動きが出ている中で、アニメを世界に誇る日本文化として盛り上げ、その振興を願う思いから、出版各社に書簡で、知事からメッセージを送ったところであります。
 一方、一月二十三日の知事の発言は、先ほどご答弁したとおりでありまして、変説したというお話は全く当たらないと考えます。
〔青少年・治安対策本部長倉田潤君登壇〕

〇青少年・治安対策本部長(倉田潤君) 打合会についてでございますが、都は条例の規定に基づき、不健全図書として指定しようとする個別の図書類につきまして、青少年健全育成審議会に意見を聞くときは、必要に応じ、自主規制団体の意見を聞くこととなっております。
 このため、都は、出版関係の自主規制団体から成る諮問候補図書に関する打合会を設けており、他の道府県にはない都独自の制度として、出版業界からもその意義を評価されていると承知をしております。
 都といたしましては、条例改正を機に、打合会の運用のあり方について、自主規制団体との間で具体的な議論を開始しており、ご指摘の意見の検討も含め、議論を深めてまいります。

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