平成二十三年東京都議会会議録第三号

   午後三時三十五分開議

〇議長(和田宗春君) 休憩前に引き続き会議を開きます。
 質問を続行いたします。
 五十番笹本ひさし君。
   〔五十番笹本ひさし君登壇〕

〇五十番(笹本ひさし君) 命の尊厳を踏まえ、医療について、以下、質問いたします。
 初めに、監察医制度について伺います。
 東京都監察医務院は、区部において死因の明らかでない急逝死や事故の犠牲者の検案、行政解剖により死因を分析、明らかにすることで、公衆衛生の向上、予防医学及び臨床医学に貢献し、社会秩序の維持と医療分野での貢献を目的として設置をされています。
 監察医務院長は、人が受ける最後の医療と表現をされています。生前の疾病に対する質の高い医療同様に、死者の尊厳を守り、一人の死を万人の生につなげること、個から社会にわたる医学的寄与のために、監察医制度が施行されていることが理解できます。
 児童や高齢者の虐待死、覚せい剤や違法ドラッグによる若年層の突然死、保険金詐欺に見られる自殺に見せかけた他殺、医療現場での過誤、事故、交通事故など、多様な死因の究明、分析は不可欠です。
 一方、超高齢化社会が加速し、ひとり住まいの高齢者の孤独死など、東京が抱える構造的な病理現象は深刻です。
 日本人でありながら、ロサンゼルス郡検視局長を務め、数々の著名人の検視、解剖を手がけ、銃器犯罪の検視を確立したトーマス野口医師は、事故や事件で一方の当事者が証言できないようなケースで、人生の最後に不利益をこうむることがあっては決してならない、決して死人に口なしを許してはならないとの立場を貫きました。
 医師が立ち会えなかった死の現場に、コロナー、検視官が駆けつけ、医学的見地から徹底的に死因究明を行い、デスリポートが作成され、当事者や保険会社に情報提供がされるとのことです。
 監察医務院における平成二十一年の年間検案数一万二千九百四十三体、解剖数二千七百体で、一日平均の検案数は三十五・五体、解剖数が七・四体と、検案数は二十三区の全死亡者の約二〇%を占め、監察医務院の重責がうかがえます。
 本来、死因究明制度は国の制度、責務で行われるべきであり、取扱事務を所管する官庁が厚生労働省と法務省にまたがっている点も議論の余地があると思います。また、区部と多摩・島しょで制度が異なり、制度設計は議論が必要かと考えます。医師不足がいわれ続ける小児科医や産科医以上に監察医の志願者は少なく、処遇なども課題と考えます。法医学への医学生の関心は高いと、元監察医務院長の上野正彦氏は述べていますが、志願者がふえない原因は把握すべきでしょう。
 また、警察、医療機関との連携を強化したり、IT技術の導入も精度向上に期待がされます。監察医務院は二十三区の異常死が対象ですが、死因究明にさらなる精度の向上と、その社会的使命について見解を伺います。
 次に、脳脊髄液減少症について伺います。
 脳脊髄液減少症は、交通事故によるむち打ち症、スポーツによる外傷、障害、学校などにおける児童同士の衝突、あるいは遊具などからの落下などによる頭部、全身への衝撃が発症の要因と考えられています。脊髄液により支えられ脳が浮いているイメージです。小さな穴から持続的に髄液が漏れ、髄圧が下がり、脳も下がってしまうことで、慢性的な疲労症、全身倦怠、起立性頭痛、睡眠障害、目まい、動悸、自律神経失調症など、原因不明の体調不良を起こす疾患とされています。
 都議会においても、平成十七年十二月に、脳脊髄液減少症の研究・治療の推進に関する意見書を提出しています。会派、党派を超え、速やかな患者救済の道を開くことが望まれます。
 厚生労働省、国の研究班は平成十九年に発足、三年計画で検討を行うとしているが、治験や臨床例などが十分でないということで、ガイドラインの策定にはいまだ至っていません。医療関係者のみならず、職場や学校、家族にも理解が得られず、怠け病や精神的な弱さとか、学校に行きたくないのでうそをついているなどと指摘される例が数多く報告されてきました。患者の苦しみは、病気そのものの苦しみ、精神的な苦痛、さらには保険適用外であるために経済的な負担まで強いられ、患者はもとより、ご家族の苦痛ははかり知れないものがあります。
 ちなみに、医療が進歩した現代でも、原因がわからず治療法が確立していない難病は数多く、厚生労働省により医療費を助成するように指定された難病は五十六種類に上ります。難病の指定の特定疾患の選定基準には、難治度、重症度のほかに、希少なことが条件になっています。いいかえれば、患者の数が少ないことが選定の条件になっているのです。
 一方、慢性難治性頭痛、目まい、慢性疲労症候群、いわゆるむち打ち後遺症など、たくさんの患者さんが苦しんでいる脳脊髄液減少症は難病には指定されていません。保険適用が認められていなくても、患者さんにとっては難病であることは変わりません。患者団体の皆様が熱心に働きかけたこともあり、昨年四月より、脳脊髄液減少症の検査については保険が適用されるようになりました。
 当時の長妻厚生労働大臣は、頭痛の原因を診断する検査については健康保険の対象になるということを、きちっと全国の医療機関にもご理解いただくような周知を徹底させていただきたいと発言をしました。
 都においても、難病相談支援センターのホームページの情報掲載や、患者団体とのホームページの相互リンクなど、一定の認識が広まってきたものと理解をしております。しかしながら、医療の世界、職場や学校現場など、潜在患者三十万人ともいわれながらも、一般社会での認知はまだまだ低いのが現実です。
 そして、有効性が報告されているブラッドパッチ治療、いわゆる自分の血液を硬膜外に注入し、血液の凝固、癒着により、髄液の漏出を防ぐ治療もいまだ保険適用外です。入院治療で一回三十数万円といわれる治療費が、全額自己負担の自由診療になったままであります。
 大変気の毒な例としては、生活保護の対象者がこのブラッドパッチ治療を受けると、保険適用外の高額医療を受けると生活保護の対象から外れてしまいます。病気がきっかけで職を失った方が、治療をすることでセーフティーネットからこぼれてしまうという悪循環さえ報告されております。そこで、以下質問をいたします。
 一、東京都は脳脊髄液減少症について現在どのような認識を持っているのか、今後の対応とあわせて見解を伺います。
 二、患者団体や家族会から、子どもたちの学校生活において脳脊髄液減少症の要因となるケースが数多く報告されています。学校生活で起きた事故に原因が考えられる脳脊髄液減少症について実態を把握すべきと考えますが、都の見解を伺います。
 また、学校の事故などで学校が加入する日本スポーツ振興センターの災害給付の保険は、保険診療が認められる治療に限られてしまいます。つまり、後遺症である脳脊髄液減少症治療のブラッドパッチには適用されず、被害者が医療費を自己負担せざるを得なくなります。学校現場において、脳脊髄液減少症に関する訴訟など把握されていますでしょうか。
 三、平成十九年六月八日付、都教委の学校におけるスポーツ外傷等の後遺症への適切な対応についての通知がなされておりますが、その後の教育現場での対応策や本疾患に対する周知徹底などについてお伺いします。
 教育現場の指導者、職員の認識は継続的に実施すべきと考えますが、見解をお伺いいたします。
 四、原因がわからず、不登校や理解をされずに苦痛を感じている、必ずしも把握できていない生徒や保護者に対して、相談ができるような体制、検査や治療が可能な医療機関を紹介するような、学校医との連携やコールセンターなどは有効と思われます。
 また、長期欠席を余儀なくされた生徒に対する復学への学習支援も望まれます。都の見解をお伺いします。
 平成十九年に発足した厚生労働省の研究班は、だれが見ても納得できる診療指針、ガイドラインの策定を目指したものの、研究班は期限の昨年、臨床例が少ないことを理由にガイドライン策定は間に合わず、継続となりました。結果として、平成二十二年の診療改定にブラッドパッチ治療の保険適用の審査が先送りをされてしまいました。ガイドラインの策定次第で、平成二十四年の診療報酬の改定に望みをつなぐしかありません。
 東京から国を動かす、この言葉が事実なら、国の動向を待っていては遅過ぎます。苦しみもがく患者の皆さんを、これ以上待たすわけにはいかないと思います。
 次に、自殺未遂者対策についてお伺いをいたします。
 平成十八年五月二十二日、国会の代表質問で自殺対策基本法とがん対策基本法の成立を訴え、故山本孝史参議院議員は、人の命を守ることが政治家の使命、救えるはずの命が多く失われていってしまうのは、政治や行政の対応がおくれているから。政治の責務で自殺者救済をと訴えました。
 本年二月に発表された警察庁のデータによれば、平成二十二年の全国の自殺者数は三万一千六百五十五人となり、平成十年以降、十三年連続して三万人を超える状況が続いています。
 東京都においても、平成十年以降は、毎年二千五百人から二千八百人もの方がみずからの命を絶つなど、大変深刻な状況です。
 一方、交通事故による死亡者数は、飲酒運転等に対する行政処分の強化、信号機、道路標識等の交通安全施設の整備、幼児から高齢者までの交通安全教育などのさまざまな対策により、平成十年の約一万人から、平成二十二年は四千八百六十三人と半減しております。
 東京都では、自殺相談ダイヤルの設置、ゲートキーパーの養成など、さまざまな対策を講じておりますが、その効果がいまだにあらわれていないのが現状です。
 自殺者の陰に隠れ、比較的話題に上らないのは、自殺者の十倍に上るともいわれる自殺未遂者です。実数を把握するのは困難と思われますが、三十万人近くの人がさまざまな理由でみずからの命を絶とうとしているのは驚くべきことです。
 平成二十年の福祉保健局と東京都医師会の報告書、救急医療機関における自殺企図患者等に関する調査報告書によれば、救急外来に受け入れた医療機関六十カ所、二九・一%で受診した自殺企図患者四百二十二名のうち、死亡者が四十九名、未遂者が三百七十三名であり、未遂者は既遂者の七・六倍との報告がなされております。別の報告によれば、未遂者の中には、再び行為に及び十数%が命を亡くしているとのことです。
 自殺未遂者は心理的に不安定であったり、経済的な問題があるなど、不治の病など解決困難なさまざまな悩みを抱えております。こうした状況は未遂後にも継続することになります。
 自殺未遂者はハイリスク者であることから、心理面や生活面での援助など、さまざまな支援が求められます。把握が困難なことは想像がつきますが、救命医療機関、精神医療機関など専門機関との連携が望まれます。
 都は、総合的な自殺対策に取り組んでいますが、今後、自殺未遂者への支援について一層の強化をすべきと考えます。
 最後に、東部地域の医療課題と墨東病院の新型インフルエンザ対策、感染症ネットワーク強化の取り組みについて伺います。
 保健医療を取り巻く状況を見ると、医療は高度化、複雑化し、患者のニーズも増加する中、小児科、産科を中心として医師の不足が顕在化し、さまざまな問題が生じています。
 地元江戸川区が所在する区東部保健医療圏は、人口密度が東京都の約二倍であり、特に出生数や小児人口は、地域の人口増を反映して大幅に増加をしています。この間、都内の小児人口は逆に〇・六%減少している状況を踏まえると、都内でもまれな地域といえます。
 その一方、産科及び産婦人科を標榜する医療機関は、平成二十年十月現在四十九施設であり、平成八年十月と比較して二六・九%減少し、人口当たりの全国平均を下回る状況にあります。
 また、小児科を標榜する医療機関についても、平成二十年十月現在二百七十七施設であり、平成八年十月と比較して一二・九%減少し、特に小児二次医療機関は、平成十八年以降、都立墨東病院のみという極めて厳しい状況にあるといえます。
 周産期医療においては、東部保健医療圏のNICUは二十一床で、平成二十一年で見ると出生数一万に対し十六床となっており、NICUについては、都全域で出生一万人当たり三十床を目標に、三百二十床を整備する方針ですが、都全域で現在二百六十四床のところ、さらに五十六床の整備が望まれます。
 また、人口当たりの一般病院数についても、全国平均を下回る中、三百床以上の一般病院が六病院と、人口当たりでは全国平均の半分程度と極めて厳しい状況にあり、新型インフルエンザを初め、新興感染症の入院治療に対応できる医療機能が不足しております。
 このような状況を踏まえ、東京都は、東部地区の医療課題の解決に向けてどのような取り組みをしているのか、お伺いいたします。
 また、墨東病院は、墨田区、江東区、江戸川区、千代田区、中央区及び港区を主たる管轄とする第一種及び第二種感染症指定医療機関であり、今後、新たなウイルスが発生した場合には、重要な役割を果たさなければなりません。
 墨東病院における感染症医療ネットワーク強化の取り組みについてお伺いいたします。
 以上で質問を終わります。(拍手)
   〔教育長大原正行君登壇〕

〇教育長(大原正行君) 笹本ひさし議員の一般質問にお答えいたします。
 脳脊髄液減少症と呼ばれている疾患の実態把握についてでございます。
 いわゆる脳脊髄液減少症は、疾患定義や診断方法、治療法などに関して、現時点では専門家の間でも意見の統一がなされていないことから、厚生労働省の補助事業により、大学の専門家等から成る研究班において、平成二十四年度までの期間で調査研究が行われております。
 都教育委員会は、現段階で取り得る方策として、学校内外における児童生徒の事故状況を把握するとともに、各学校に対して、事故の防止に努め、事故後の児童生徒に適切な対応をするよう指導しているところでございます。
 なお、本疾患に関する訴訟についてでございますけれども、都立学校に関する訴訟案件及び区市町村立学校に関して報告を受けている訴訟案件は、ともにゼロでございます。
 次に、脳脊髄液減少症への対応策と周知徹底についてでございます。
 都教育委員会では、区市町村の学校保健所管課長会や都教育委員会が開催する講習会等で、国などの調査研究の状況を説明するとともに、学校の管理下で事故が発生した後、児童生徒等に頭痛や目まい等の症状が見られる場合には、安静を保ちつつ医療機関で受診させること、保護者に連絡して医療機関の受診を促すことなど、平成十九年六月八日付通知文の趣旨の周知徹底を図っているところでございます。
 次に、学校の相談体制の充実や復学への学習支援についてでございます。
 学校においては、疾病等による長期欠席の児童生徒に対して、校長を初め担任や養護教諭等が組織的に教育相談の充実に努めるとともに、保護者と連携し、学校医や病院の受診を促し、その結果や病状を踏まえ、児童生徒に有効な対策を講じる必要がございます。
 教員は、日々児童生徒の出席状況を把握し、長期欠席の場合の学習面や生活面については、きめ細かく適切に対応しているところでございますが、今後とも、長期欠席の児童生徒については、原因、背景の分析や疾病の状況を踏まえ、保護者と連携をとり、適切に対応するよう学校を指導してまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

〇福祉保健局長(杉村栄一君) 四点のご質問についてお答え申し上げます。
 まず、監察医務院についてでございますが、監察医務院は、正確な死因究明によりまして、亡くなられた方の尊厳や権利を守ること、得られた情報の分析、提供により公衆衛生や臨床医学にも寄与することなどを使命といたしております。
 こうした使命のもと、検案で死因が判明しない場合には、解剖や薬毒物検査などを行い、精度の高い死因究明に努めております。
 今後、医務院の建てかえに当たり、解剖前に異状が疑われる部分を画像で確認でき、死因究明に有効とされるCTの導入に向けた検討などを行い、さらなる精度向上を図り、社会的使命を果たしてまいります。
 次に、脳脊髄液減少症についてでございますが、国は、厚生労働科学研究の中で、脳脊髄液減少症の研究を進めており、平成二十二年十一月時点で、百十七例の症例データが集約されたところでございます。
 国によれば、中間分析において十分な結果が出れば、今年度中に診断基準の作成が終了する見込みであり、来年度以降、治療法の有効性について研究を行うとのことでございます。
 都としては、脳脊髄液減少症につきましては、これらの研究の成果や国の動向を踏まえて対応すべきものと認識しており、引き続き情報収集に努めてまいります。
 次に、自殺未遂者への支援についてでございますが、昨年度都が行った自殺未遂者の調査の結果、本人や家族に対しまして、救急医療機関入院中に自殺予防のためのカウンセリングを行うことや、退院後の継続的な支援の必要が明らかになりました。
 このため、今年度は、自殺未遂に至った要因を分析することや、適切な支援を受けることの必要性を未遂者本人やその家族に認識してもらうため、カウンセリングの際に使用する教材の作成に取り組んでおります。
 今後は、自殺未遂者が精神科医療機関や保健所など地域の中で継続した支援を受けられるよう、救急医療機関を初めとした関係機関の連携を進めてまいります。
 最後に、区東部保健医療圏の課題への取り組みについてでございますが、当該圏域には、小児、周産期医療や新興感染症に対する医療資源が少ないという課題がありますことから、都は、昨年度地域医療再生計画を作成し、集中的な取り組みを進めております。
 小児医療につきましては、小児二次救急医療に参画予定の医療機関への支援を行い、来年度は、指定医療機関が増加する見込みでございます。
 周産期医療につきましては、NICU病床を確保するため、都立墨東病院を中心とした長期入院児の円滑な退院に向けた取り組みを実施いたしております。
 また、新型インフルエンザなどの医療体制を確保するため、都立墨東病院に感染症対応病棟の整備を進めているところでございます。
   〔病院経営本部長川澄俊文君登壇〕

〇病院経営本部長(川澄俊文君) 墨東病院における感染症医療ネットワーク強化の取り組みについてでございますが、墨田、江東及び江戸川区の医師会、保健所と連携して、区東部感染症会議を昨年九月に設置、開催し、また、第二回会議を今月に開催する予定でございます。
 区東部感染症会議では、感染症発生時の患者受け入れルールを検討するほか、昨年十一月から委員間のメーリングリストを開設し、インフルエンザの発生状況などについて情報交換を行っているところでございます。
 また、江戸川区医師会主催の江戸川医学会や区東部医療圏地域医療講演会において、墨東病院の医師がインフルエンザに関する発表、講演を行うなど、活発な交流を行っているところでございます。
 新たな感染症の発生を視野に入れ、こうした取り組みを積み重ねることにより、地域医療機関と墨東病院とのネットワークを強化し、限りある医療資源を最大限に活用してまいります。

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