平成二十二年東京都議会会議録第九号

○議長(田中良君) 二十五番星ひろ子さん。
   〔二十五番星ひろ子君登壇〕

○二十五番(星ひろ子君) 二〇〇〇年の分権改革では、機関委任事務を廃止し、国と地方を上下、主従の関係から対等、協力の関係に変え、自治体の権限を拡大したとされています。しかし、現状はこれまでどおり、縦型の関係を払拭し切れないように見えます。
 地方分権はもとより国から一方的に与えられるものではなく、地域がイニシアチブを発揮することこそ重要です。都はこれまで、ディーゼル車の排出ガス規制などの環境政策を打ち出し、全国の自治体に先駆けて都独自の取り組みを実践してきていることは評価します。
 現在、国は区市町村への権限移譲、法令による義務づけなどの見直しや、出先機関改革などについて検討を行い、地域主権推進一括法の制定に向けた取り組みを進めようとしているところです。地方分権を進めるためには、国が地域の声を聞き、地域の実情に応じ、その意見を尊重すべきです。
 そこで、国に先駆けてさまざまな施策を展開している都として、国の地方分権改革への取り組みについて、知事のご見解を伺います。
 地域の実情に応じた施策を構築するためには、都政への市民参画をさらに推進することが重要です。しかし、都政における市民参画は基礎自治体よりもかなりおくれているといわざるを得ません。都政モニターや見学会など、都民の参加の場面は拡大されてきていますが、これだけでは参画としては不十分です。
 そこで、参画の場として審議会等への公募委員の登用について伺います。
 知事の諮問機関である審議会等は、法律や条例により、その制度を適正に運用していくために必要として設置されているものであり、都民目線での議論が求められます。今回、改めて一般都民の参画を調べてみると、公募で委員を募っている審議会等は余りに少ないことがわかりました。
 都は、一般都民の公募についてどのように考えているのか、また、公募に応じて審議会等に参加した都民委員が発言しやすい会議運営ルールをつくるなど、公募委員の積極的活用を進めるべきと考えますが、見解を伺います。
 また、いわゆる充て職の団体代表や特定の学識経験者を多用する審議会のあり方は再検討すべきであり、次代を担う若者の政治への関心を高めるためにも、青少年の参画の機会をふやすことを要望します。
 さて、生活者ネットワーク・みらいは、四月にイギリス、オランダに調査研究に行ってまいりました。そこから教育と精神保健について質問します。
 ユニセフの調査で、子ども自身が実感する幸福度が先進国で第一位というオランダは、教育の分権、自由化が確立し、モンテッソーリ、シュタイナー、イエナプランなどの教育ビジョンに基づき、地域主体で学校が設立、運営されています。高校まで公立、私立とも授業料はなく、大学入試もありません。私たちが注目したのは、徹底的な個別教育と学ぶ機会の保障、やり直しのできる教育環境です。中等教育、高等教育とも、子どもたちの力や希望によりさまざまなコースが選択でき、途中でコース変更も可能で、サポートも充実しています。大学に進むルートにも、直進、迂回路、敗者復活というさまざまな方法があります。子どもの境遇や育ちの進度の違いに十分配慮された仕組みで、そもそも落ちこぼれは存在しにくく、大いに参考になりました。
 一方、我が国においては、今日、経済格差と学力格差、不登校、ニートなど、子ども、若者をめぐる問題が山積しています。そこで、東京都の若者支援について、都立高校の現状と課題から質問します。
 東京都教育委員会は、三月二十六日の定時制二次募集試験で三百人以上の不合格者が出たことによる緊急の措置として、四月に入ってさらなる追加募集を行いました。しかし、今回の追加募集は、普通科、専門学科合わせて十校、各三十人ずつという限られたものであり、特に不合格者が多かった多摩地区では、商業科の一校しか追加募集がありませんでした。この結果、募集定員三百人のところ、応募者は百三十六人で、志願者のニーズとのミスマッチは明らかです。
 今後、経済不況、高校無償化などにより、都立高校は全日制、定時制とも志望者がふえる可能性があります。来年度はどうしていくのか、ご所見をお聞かせください。
 今日の定時制高校は、全日制を希望しても入れなかった生徒、不登校で学校生活になじめなかった生徒など、勤労青少年だけでないさまざまな若者の受け皿となっています。さらに、障害を持つ子どもたちも少なからず在籍していると聞いています。こうした特別の支援が必要な生徒がいる定時制高校に対して、都教委はどのような支援を行っているのか、お聞きします。
 ロンドン、アムステルダムの子ども、若者支援は、どちらも、リスクを抱えた子どもたちこそ十分な教育をというのが共通の考え方でした。高校無償化が実現した今、高校は、希望すればだれもが学べる場でなくてはなりません。障害のある子どもや不登校ぎみの子ども、さらには一たん退学しても再び学びたいという意欲を持った人へのやり直しを応援する、そうした学校は、定時制だけではなく、多様な受け皿が求められています。
 教育庁は、五年ごとに都立高校に関する都民意識調査を行っています。今後、高校改革の検証には社会の変化や都民意識の要望を取り入れるべきと考えますが、見解をお伺いいたします。
 最後に、精神保健医療について伺います。
 イギリスでは、ブレア政権のとき、サッチャー政権下で荒廃した保健医療サービスの改革を行い、がん、心臓疾患、精神疾患を最優先課題とし、精神保健医療費を一・五倍に増額し、この十年間の取り組みを進めてきています。
 私たちは、ロンドン市にあるイギリス最大の当事者・家族会の支援団体リシンクの事務所を訪ね、これまでのリシンクの活動やイギリスの精神保健医療などについて聞いてまいりました。
 イギリスでは家族やユーザーの求めているサービスの開発に積極的に投資をし、早期介入サービス、危機対応サービス、家族支援サービスが政策として具現化されてきました。そのために専門家の養成に多くの予算をつけ、精神看護士、心理療法士、医師などチームで支援にかかわり、医療中心のシステムから精神保健を重点とした政策へ転換し、地域で生活する精神障害者を支えています。
 都としても、精神障害者が地域で安心して生活できるよう、地域における対応力向上のための人材育成に力を入れていく必要がありますが、見解を伺います。
 また、精神疾患の方は、病気にかかってから未治療期間が一般的に長いというふうにいわれています。統合失調症の場合など、子どもや青年が最初から精神科に来ることは少なく、早期に適切な医療機関につなげることにより、未治療期間を短くすることが非常に大切です。今後の取り組みの方向性として、速やかに適切な支援や治療を受けるための仕組みをつくっていくべきと考えますが、ご所見をお伺いし、質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 星ひろ子議員の一般質問にお答えいたします。
 国の地方分権改革の取り組みについてでありますが、今からおよそ百四十年前、徳川幕府が倒れて、大名が払拭され、かわりに中央政府が命じた県知事が赴任していって、中央の指令のままに地方を牛耳る体制ができました。これは太政官制度というわけですけれども、まだ新憲法も発布される前のことでありますが、以来続けてきた中央官僚の全国支配にようやく批判というものが醸し出してきました。自民党の時代には地方分権、現政権になりましてからは、民主党政権は地方主権という大変耳ざわりのいい言葉が唱えられておりますけれども、しかし、依然としてその中央官僚の陰湿な実質的な支配が続いている感は否めません。
 副知事になってもらった猪瀬さんも苦労されてつくった丹羽さんの地方分権推進委員会の報告も、盛られた、削減すべき人間の数字、あるいは金目の問題なんかもすべてネグられていて、非常に抽象的な形でくくられている感じがいたしますが、今の政権も、あの地方分権推進委員会が勧告した内容を二番せんじで重ねて議論をしているという感じが否めません。そればかりか、政治主導といいながら、霞が関の抵抗をなかなか排除し切れずに、国が地方を縛ってきた義務づけ、枠づけの見直しなど全く不十分なまま、今続いているわけであります。
 さらに、東京の立場で申しますと、何を思いついてか、これからの住みやすい市街の形成をしていくために必要な用途地域というものを決定する権限を基本自治体に分与すると。耳ざわりはいいんですけれども、例えば東京の場合でいいますと、二十三区も区ごとにそれになるわけですが、これはこの間も原口君にもいったんですけれども、考えてみてくれと。二十三区の広さと独立した横浜市あるいは大阪市は全くほとんど同じ大きさでありまして、それとこの二十三区という、特別区というものを基本自治体としてとらえて、そこにこういう権限を分与しますと、もう都市の計画なんか実際にできなくなるわけでありまして、こういった前後左右とも見定めない、非常に軽率な思いつきというものは、私は東京にとって非常に迷惑千万なものであると思っています。
 地方の意向や実情を無視して、一方的に国の考え方を押しつけようとする姿勢というのは、まさにこれは中央集権的でありまして、とても見過ごすことはできないと思います。地方分権、地方主権がかけ声倒れにならないように、首都東京を預かる知事としても、今後も必要なことは国にはっきり申していこうと思っております。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁します。
   〔教育長大原正行君登壇〕

○教育長(大原正行君) 三点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、都立高校における生徒の受け入れについてでございますが、都立高校は、生徒の多様な適性や能力に対応できるよう、全日制、定時制を問わず、さまざまな学科やコースを設置しております。また、進学を希望する意欲と熱意のある生徒を一人でも多く受け入れることができるよう、地域バランスを考慮して十分な募集枠を設定しております。
 都教育委員会は、各都立高校の教育活動の特徴や具体的な入学者選抜方法等について情報提供を行い、生徒の適性や能力に合った適切な進路選択を支援するとともに、生徒数の推移や中学生の志望傾向等を踏まえて、希望する生徒を適切に受け入れるよう努めてまいります。
 次に、定時制高校における障害のある生徒の支援についてでございますが、すべての都立高校の定時制課程においては、特別支援教育コーディネーターを指名するとともに、校内に特別支援教育にかかわる委員会を設置して、障害のある生徒の指導方法や支援のあり方を研究するなど、適切な支援を組織的に行うよう、都教育委員会は各学校を指導してまいりました。また、学校の申請に応じて、平成二十二年五月現在、定時制二十校に必要な非常勤講師の時数も措置しているところでございます。
 次に、高校改革の成果検証についてでございます。
 都教育委員会は、都立高校に学ぶ生徒の多様化や社会の変化を十分に把握した上で、都民に信頼される魅力ある都立高校の実現を目指すため、平成九年、都立高校改革推進計画を策定し、これまで進学指導重点校やエンカレッジスクールを指定するとともに、チャレンジスクールを初めとする新しいタイプの学校を設置してまいりました。その結果、都立高校における大学進学実績の向上や、中途退学者、進路未決定者の減少を初めとする成果が上がっております。
 今後とも、都教育委員会は、都立高校改革推進計画の成果検証を着実に進めながら、社会状況や生徒、保護者を初めとする都民ニーズの変化を把握し、都民の期待にこたえる高校づくりを推進してまいります。
   〔総務局長中田清己君登壇〕

○総務局長(中田清己君) 審議会等への一般都民の公募及び活用についてでございますが、都は、附属機関等設置運営要綱の取り扱いにおきまして、附属機関の運営に当たりましては、幅広く各方面の人の意見を聞くことが求められるものであり、可能な場合は、都民からの公募を積極的に行うように努めることと定めております。この方針に基づきまして、審議会等の性格に応じまして公募委員を任命し、積極的なご発言をいただいていると考えております。
 今後もこの方針の考え方に沿いまして、審議会等の適正な運営がなされていくよう努めてまいります。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

○福祉保健局長(杉村栄一君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、精神障害者を支える人材の育成についてでございますが、精神保健福祉センターでは、区市町村や地域活動支援センター等において、相談支援などに携わる職員を対象としたスキルアップのための研修を実施いたしております。また、地域の対応力を強化するため、今年度から実施しておりますアウトリーチ支援モデル事業では、精神保健福祉センターの医師、保健師等の専門職チームが、区市町村や保健所との密接な連携のもとに地域に出向き、精神障害者に対する支援を行うとともに、困難事例に適切に対応できる人材の育成を進めていくことといたしております。
 次に、精神疾患の早期発見、早期支援についてでございますが、精神疾患の方を早い段階で適切な支援に結びつけることは、症状の悪化を防ぎ、安定した生活を継続する上で大変重要でございます。
 このため、区市町村や保健所、精神保健福祉センターにおきまして、精神保健福祉相談を実施し、医療機関への受診等について助言指導を行いますとともに、困難事例につきましても早期受診につながりますよう、関係機関による事例検討会を開催いたしております。また、現在、東京都地方精神保健福祉審議会におきまして、精神疾患の早期発見、早期支援に向けた効果的な取り組みにつきましても検討を行っているところでございます。
 引き続き、早期に適切な支援につながるよう努めてまいります。

ページ先頭に戻る