平成二十二年東京都議会会議録第九号

○副議長(鈴木貫太郎君) 百二十四番中村明彦君。
   〔百二十四番中村明彦君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○百二十四番(中村明彦君) それでは、質問いたします。
 本年十月十八日から、愛知県名古屋市でCOP10、生物多様性条約第十回締約国会議が開催されます。
 そのホームページから引用すれば、現在、世界じゅうで数多くの野生動物が絶滅の危機に瀕しております。IUCN、国際自然保護連合がまとめた二〇〇九年版のレッドリストには、絶滅のおそれの高い生物種として八千七百八十二種の動物や八千五百九種の植物がリストアップされております。
 日本においても、二〇〇六年から二〇〇七年に公表された環境省版レッドリストに三千百五十五種が絶滅のおそれのある生物種として掲載されております。
 このような状況により、現代は恐竜の絶滅以来の第六の大絶滅時代にあるといわれているのであります。しかも、一年間に約四万種といわれる現在の絶滅のスピードは、恐竜時代の絶滅速度よりはるかに速いのであります。
 こうした生物種の減少の原因のほとんどが開発や乱獲、外来種の持ち込みなど、人間の活動にあるといわれております。人間は、地球生態系の一員として他の生物との共存を求められているのにもかかわらず、一方的に生物に影響を与え、絶滅の危機を引き起こしているのであります。
 私たちの生活に必要な生き物でなければ別にいいと思われている方もいるかもしれません。しかし、すべての生き物はつながり合って生きており、思わぬところで私たちの生活に影響を与えるかもしれないのであります。
 東京都においても、平成二十三年度の生物多様性東京戦略の策定に向けて現在検討中であると聞いておりますが、緑施策だけではなく、このような生物多様性の重要性について都民に対して普及啓発の充実を図るなど、幅広い対策を展開していただきたいと思います。
 このような認識のもと、以下の質問をいたします。
 私は以前、平成二十年第三回定例会において、パンダの件で質問をさせていただきました。
 パンダも、さきに述べたIUCN、国際自然保護連合のレッドリストに掲載され、絶滅の危機にあるとされ、その保護育成が必要であるとされております。
 そこで、今回再度、ジャイアントパンダ導入についてお尋ねをいたします。
 昭和四十七年十月に日中国交正常化を記念して、ジャイアントパンダ二頭が上野動物園に来園しました。雄の名前はカンカン、雌の名前はランランと名づけられ、多くの日本の国民に愛されました。
 来園から二年目の昭和四十九年の年間入園者数、これは七百六十四万人を記録し、東京都内はもとより日本国じゅうがパンダ来園に沸き、地元商店街は活気にあふれ、パンダ来園の波及効果は高度経済成長の一翼を担ったものであります。
 以来パンダは上野のシンボルとなり、上野とパンダは切り離して考えることはできないほどとなりました。また、WWF、世界自然保護基金のシンボルマークとして活用されてもいます。
 平成二十年四月三十日にリンリンが死亡してから実に二年の間、上野動物園のパンダ舎にはジャイアントパンダが不在となり、パンダ舎にはレッサーパンダが居住をいたしております。そこを訪れる子どもたちは、パンダはどこにいるの、何でレッサーパンダなの、本当のパンダに会いたいという声が多く聞かれました。
 そこで、地元台東区では、パンダ再来園を切望して、署名活動や陳情書、小学生はパンダの絵や寄せ書きをして都知事にパンダを呼んでほしいと訴えました。また、二十三区議会議長会でも、東京都に対してパンダ導入の要望をいたすことがあったのであります。
 こうした多くの方々からの熱望を受け、都知事も交渉の端についたことは、さすがに都民目線で政治を行っているものと高く都知事を評価するものであります。
 そこで、現在中国側との交渉の中で、どのような協議を行っているのかをお伺いいたします。
 パンダは現在、国際自然保護連合が発表した絶滅のおそれのある生物リスト、レッドリストに掲載されていることはさきにも述べましたように、現在二千頭に満たない生息数というのが現状であり、保護育成が必要であるとされております。
 そのためには、パンダ保全の国際的な支援を行うため、中国ジャイアントパンダ繁殖技術委員会年会が毎年開催され、生息地の保全と繁殖を目的として、アメリカ、スペイン、オーストリア、タイ、オーストラリア、そして我が国日本の六カ国で十カ所の動物園がパンダを飼育し、中国に対して保護資金を提供しているのであります。
 そこで、中国側に提供するパンダ保護資金が具体的にどのように使われることになるのか、これをお伺いいたします。
 本年二月には、都知事は記者会見でこう述べられておりました。非常に強い要望があちこちからあった。子どもたちの人気が集中するようですから、それを備えることもやぶさかではないとして、パンダを受け入れようと発表されました。それ以来、都は積極的に中国側の中国野生動物保護協会と交渉を進めてまいりました。
 しかし、正式調印をしなければ、確実にパンダが上野動物園に来園すると決まったわけではありません。上野動物園がある地元や小学生たちも手放しで安心できるものでもありません。
 もちろん、相手が動物なので、雄、雌の相性を見きわめなければならなく、また、健康状態やワシントン条約に定められた国際手続の進め方など諸問題があることは十分承知しておりますが、早急に調印を行って子どもたちの願いを実現させ、安心させていただきたいと願うものであります。
 そこで今後、どのような準備をして、いつごろ導入されるのかをお尋ねいたします。
 また、パンダが導入されたときには、レッドリストに掲載されている希少動物の保全の大切さを訴える絶好の機会となります。温暖化による地球環境の破壊、CO2削減の推進など、動物を通して子どもたちから大人たちまでが、また外国からの観光客にも、地球を守り大切にすることの意義を伝え、環境保全の啓発につなげていかなければと考えます。その役割は、日本一の入園者数を有し、世界的にも優秀な飼育員を有する上野動物園だからこそできるのであり、積極的に取り組んでもらいたいと考えております。
 そこで、上野動物園では、希少な野生動物の保護育成、地球環境の保全について、パンダを通じてどのような啓発活動を行っていくのかをお伺いいたします。
 次に、小笠原諸島の世界自然遺産登録申請について質問をいたします。
 小笠原諸島については、平成十九年一月、世界に例を見ない地形、地質を有し、多くの固有種、希少種が生育する特異な島しょ生態系を形成していることから、政府ユネスコの世界遺産委員会へ自然遺産の暫定リストを提出いたしました。そして、本年一月二十六日には世界遺産委員会へ推薦書を本提出いたしました。
 本推薦書を提出するに当たっては、平成十八年十一月に小笠原諸島世界遺産候補地地域連絡会議、同じく科学委員会を設置し、会議を重ねてまいりました。科学委員会は、大学教授を中心とした学識経験者や行政機関で構成され、固有種の保護管理に関して、科学的な観点から現在まで十二回の会議を積み重ねてまいりました。また、地域連絡会議においては、地元小笠原諸島の商工会、観光協会やNPO団体を中心として、管理計画実行のための検討や外来種対策の検討を現在まで十二回の会議を開催されてきたと伺っております。推薦書の提出に至ることができたのは、その成果のたまものではないかと考えるところであります。
 現在、日本国内における自然遺産登録は、屋久島、白神山地、知床の三カ所であり、文化遺産は琉球王国のグスクを初めとして十一カ所が登録されております。
 小笠原諸島は、東京都では初の世界自然遺産登録申請となります。小笠原諸島は、オナガミズナギドリやカツオドリなどの海鳥の繁殖地にもなっており、国の天然記念物のシマアカネやオガサワラシジミ、オガサワラトンボ、オガサワラゼミなどが生息しております。これら島固有の動植物を守っていかなければならないと思います。
 世界遺産に登録された場合、観光希望者が今より多くなることは歴然といたしております。そのこと自体は拒むものではありませんが、観光客によって自然を破壊されるおそれや外来種を持ち込まれるおそれが生じてきます。そうならないための対処をどのように講じていくのかをお聞かせください。
 私は先般、環境・建設委員会で五月に白神山地のブナ林の視察をしてまいりました。平成五年に日本初の世界自然遺産として登録された地域であります。そこでの説明員の方、二名に案内されて行きましたが、青森県の職員を退職された後、ボランティアとして自然保護を生きがいとしている方々であり、一つ一つの動植物に対する強い情熱を感じ、深く感銘を受けたのであります。
 東京都では、平成十六年から自然公園を中心とした地域における自然の保護と適正な利用、管理を行う目的で、都独自のレンジャー制度を創設いたしました。正式名称は東京都自然保護員、いわゆる都レンジャーとして、現在十八名が多摩地域と小笠原地域で活動をいたしております。都レンジャーは九カ所の地域で活動いたしておりますが、秩父多摩甲斐国立公園、明治の森高尾国定公園、高尾陣場自然公園を初めとした多摩地域の国立公園、国定公園、都立自然公園に十二名が配置されております。そして、小笠原国立公園には六名が配置されています。
 小笠原諸島において都レンジャーの活動の一端を紹介させていただきますと、父島と母島に三名ずつ、計六名が配置され、観光客による固有種の盗掘等の不法行為の防止、過剰利用やマナー違反の注意、遊歩道や自然公園施設を安全に利用できるようにするための指導標識や案内板の補修、点検及び破損箇所や危険箇所の応急補修などを行っております。
 そして、近接する南島を初めとして、数多くの島の外来種の駆除や、固有動植物の生息状況の調査、外来種の生息状況の調査を行い、定期船の入出港の際にも立ち会い、小笠原からの違法な持ち出しや外来種の持ち込み警戒など、それは多岐にわたっての活動であります。
 世界遺産登録を目指す小笠原諸島においては、喫緊の課題である外来種対策や、観光客の増加による自然への影響を最小限に抑えるため、小笠原諸島における都レンジャーの役割がますます重要になると考えますが、ご所見をお伺いいたします。
 また、東京都では、都レンジャーを支援するボランティアとして、サポートレンジャーがおります。現在、多摩地域において百二十名余りの方々が活動していると聞いております。先ほど述べました白神山地は、範囲が広いとはいえ、陸続きの一つの地域であります。しかし、小笠原諸島は父島、母島など大小多数の島から成り、自然を保護管理していくには六名の都レンジャーでは余りにも面積が広く、行き届かなくなる面があるのではないでしょうか。
 そこで、都レンジャーの増員が必要であると考えますのと同時に、小笠原諸島にもサポートレンジャーの導入を図り、世界遺産に登録申請している小笠原諸島の自然を守っていく体制を構築していくべきと強く要望して、私の質問を終わります。ありがとうございました。(拍手)
   〔建設局長村尾公一君登壇〕

○建設局長(村尾公一君) 中村明彦議員の一般質問にお答えいたします。
 ジャイアントパンダに関する四点のご質問にお答えいたします。
 初めに、中国側との協議についてでございますが、希少な野生動物の象徴であるパンダを導入し、繁殖への取り組みや展示を行うことは、種の保存や来園者の自然保護への理解を深める上で重要でございます。
 本年二月に、パンダ繁殖研究プロジェクトの実施期間や保護資金の額など、中国側と基本合意に至りました。これを受けまして、現在、協定書の調印に向け、パンダ繁殖研究プロジェクトの進め方や役割分担について、最終的な調整を行っております。
 次に、パンダ保護資金についてでございますが、この資金は、生息地を保全するための保護事業のサポート及び中国パンダ保護研究センターにおける繁殖や健康管理に関する科学研究業務などに使われるものでございます。
 次に、今後の準備と導入の時期についてでございますが、協定書締結後、受け入れ準備として、日中双方がワシントン条約に基づく輸出入の許可申請を行い、輸送に関する準備や検疫等を行います。並行して、パンダ舎の老朽化した設備の更新や改修を行うこととしており、このため、パンダの導入は平成二十三年早期を予定しております。
 最後に、希少な野生動物の保護等に関する啓発活動についてでありますが、これまでも都立動物園では、国内外の動物園や研究機関と連携し、希少な野生動物の保護増殖や生息地保全の支援に努めてまいりました。
 これらの取り組みをわかりやすく伝えるため、恩賜上野動物園を初めとする都立動物園では、ゴリラやトラの生息地の危機的な状況を解説するパネルや、オランウータンの保全活動に関するシンポジウム、小学生を対象にツシマヤマネコの生態を学ぶ講座など、希少な野生動物の保護に関する啓発活動を実施しております。パンダ導入に当たりましても、同様にパネルや映像を利用しまして、来園者に希少な野生動物の保護の必要性と生物多様性保全の重要性を伝えてまいります。
   〔環境局長有留武司君登壇〕

○環境局長(有留武司君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、小笠原の観光客の増加への対応についてでありますが、小笠原の貴重な自然環境の保全管理を適正かつ円滑に進めるためには、世界自然遺産の推薦に当たって策定した管理計画を着実に実行していくことが必要であります。
 具体的には、観光客の増加による自然の破壊を防ぐため、利用人数や利用ルートの制限を定めた東京都版エコツーリズムを推進してまいります。また、観光客による希少動植物の捕獲や外来種の侵入を防止するため、東京都レンジャーによる巡回や指導を進めてまいります。
 今後も関係者と連携しながら、都独自の先進的な取り組みを推進し、観光とも調和を図りながら、小笠原の自然を守ってまいります。
 次に、小笠原における東京都レンジャーについてでありますが、世界自然遺産の価値である独自の生態系や固有種を守る上で、都レンジャーの役割は今後ますます重要となっていきます。そのため、外来種の侵入拡散防止に向け、都レンジャーによる定期船の発着時の荷物確認や、マットでの靴底洗浄の指導を徹底してまいります。
 また、観光客の増加による自然の破壊や盗掘を防止するため、観光事業者への指導、観光客への利用マナーの普及啓発を強化してまいります。さらに、都レンジャーによる自然環境の継続的な観測、監視を強化しまして、その状況の変化に対応した保全対策を的確に講じてまいります。
 今後も、都レンジャーの専門能力や機動力を生かして、世界自然遺産にふさわしい小笠原の自然を守ってまいります。

ページ先頭に戻る