平成二十二年東京都議会会議録第九号

○議長(田中良君) 四十一番高木けい君。
   〔四十一番高木けい君登壇〕
   〔議長退席、副議長着席〕

○四十一番(高木けい君) 我が国の危機管理が直接影響を及ぼす都政の課題について三点伺います。
 鳩山民主党政権が崩壊しました。昨年九月に発足以来、内政、外交を問わず、すべての面においてリアリティーのない政策と言動に終始したこの政権は、危機に直面する我が国にとって貴重な八カ月の時間を浪費しました。普天間問題で日米関係を極度に悪化させたことは、我が国の存亡とアジア全体の安全保障に直結することであり、不見識、不定見、不勉強で済まされることではありません。
 また、この政権が犯した最大の罪は、子ども手当や高校無償化に象徴されるように、ひたむきに努力することをとうとぶ国民の自助、自立の精神を失わせたことであります。
 天はみずから助くる者を助くとは、知事もよく引用されるサミュエル・スマイルズの「自助論」の有名な一節です。これは我が国近代国家建設に貫かれた重要な規範意識で、明治、大正、昭和を通じて、国民全体が意識することなく持っていた精神文化の一つでありました。国家も個人もそれぞれが直面する課題に対して、どのような選択と決定をするのか、みずから考え、みずから行動し、みずから問題解決を図り、その結果に対して責任を持つことこそが必要であるという哲学にほかなりません。
 しかるに鳩山政権は、そうした自助、自立という崇高な価値観を、選挙目当ての安易なばらまき施策で破壊してしまいました。まさに我が国解体を目指した、政治権力を使った犯罪的行為といわざるを得ません。
 こうした鳩山政権の不毛で無策な八カ月間は、都政に重大な影響を及ぼしています。例えば、横田空域の返還は、横田基地軍民共用化と並んで知事が積極的に進めてきた施策の一つであります。そのかいあって、一昨年九月に横田空域が一部返還され、ことし十月から羽田空港再拡張後の運用に対応できるようになりました。
 しかし、平成十八年五月に合意された再編実施のための日米ロードマップには、横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件の検討は本年三月に完了するとされていましたが、いまだその結果を国は明らかにしていません。つまり、この間、鳩山政権は、普天間問題にかかりきりで、とても横田空域の返還などに手が回らなかったと考えられます。大変残念なことです。
 しかし、そうはいっても、横田空域の返還はぜひとも実現すべき課題と考えます。そこで、この問題に対して、改めて知事の所見を問います。
 次に、中国の軍事的脅威にさらされている沖ノ鳥島及び周辺海域について伺います。
 鳩山民主党政権が日米関係を極度に悪化させたすきをついて、去る四月、中国が、我が国領土の最南端、沖ノ鳥島付近で露骨な軍事演習を、近来まれに見る期間と規模で行ったと報じられました。
 領土、外交、防衛問題は国の専管事項とはいえ、東京都の一部である同島周辺への軍事行動に、私たちは決して無関心でいてはなりません。現在、都の同島に関する政策は極めて個別の対応に終始しており、私はかねてから、これでは将来の総合的かつ積極的な展望を描くことが難しいと感じていました。この貴重な島と周辺海域の役割をより高め、国の意識をさらに強く喚起するためにも、都は一層充実した取り組みを考えるべきときに来ていると思いますが、知事の所見を伺います。
 危機管理の最後は、口蹄疫についてお尋ねします。
 四月に宮崎県で発生した口蹄疫は、急速に感染が拡大し、およそ十八万頭の家畜を殺処分せざるを得ない大変な事態となりました。時系列的に見て、これも民主党政権の危機管理のずさんさが招いた人災ともいわれています。
 口蹄疫は、家畜伝染病の中でも感染力が非常に強く、ひづめの数が偶数の動物に感染することから、畜産農家のみならず、動物園等での発生も懸念されます。したがって、宮崎県以外にも感染する可能性があり、都においても十分な注意が必要であると考えますが、都の対策についてお尋ねします。
 次に、高齢者施策について伺います。
 私の地元、北区では、ことしの特別養護老人ホーム入所希望者数、入所申込者数は既に九百人を超え、施設整備は喫緊の課題です。
 特養の整備に当たって、国はユニット型個室を基本としていますが、区議会や区民からは、低所得者も利用できる多床室の整備を求める要望が数多く寄せられています。特養で空室が発生しても、ユニット型個室では費用負担が重過ぎるとの理由で辞退する例もあると聞きます。
 このため、我が党は、昨年の第三回定例会代表質問で、こうした市区町村の実情も踏まえ、多床室を含む整備を検討すべきと提案し、都はこれを受け、今年度から新たに多床室での整備費補助を実施することとなりました。
 北区においても、閉校となった区立新町中学校跡地を事業者に貸し付け、定員百人のうち三〇%程度を多床室とする特養の整備を計画しています。
 しかし国は、新規に建設する特養では、多床室とユニット型個室の合築は一切認めない、仮に都道府県が設置を認めても、ユニット型個室部分の報酬については、従来型個室の低い単価を適用すべきとの解釈を唐突に示してきました。長妻厚生労働大臣は四月十六日、記者会見までして、従来どおりユニット型個室を推進するという大臣方針を発表する始末です。
 国の主張は、現場の実情を知らず、住民の要望とも遊離した、まさにリアリティーのない政策といわざるを得ません。
 そこで都は、地域の実情に応じて、多床室を含む特養の整備が可能となるよう、自治体の先頭に立って国に強く求めていくべきと考えますが、所見を伺います。
 続いて、出生前後に重い障害を負った方々の入所施設である府中療育センターについて伺います。
 都立の療育センターは、私の地元である北区を含む都内四カ所にあり、重症心身障害者の方々の支援施設として重要な役割を担っています。北区にある北療育医療センターは、近年、大規模な改修が行われましたが、都立として最も古い歴史を持つ府中療育センターは、開設から四十年以上経過し、施設が老朽化、狭隘化していることから、利用者家族会等からも建てかえが強く望まれています。
 都では今般、府中療育センターの改築に向けた基本構想を策定したところですが、改築に当たっての基本的な考え方と今後の取り組みについて伺います。
 次に、都議会自民党がPTをつくり進めてきた外郭団体改革について伺います。
 外郭団体は、設立以来、都政の補完機能を果たしてきました。その結果、都政の強みである現場の多くが、現在、外郭団体のフィールドに属しています。
 知事が常々発言しているとおり、国と違って都には現場があるゆえに、そこで起きている課題を直視することができ、その結果、ディーゼル車規制や認証保育所などのさまざまな先駆的な施策に取り組むことができました。
 この現場力を将来にわたって都政が維持していくためには、数多くの現場を抱える外郭団体を、都の指導のもとにきっちりと組み込んでおく必要があるはずです。そのためには、団体と都の人事交流を初め、経済的、人的支援も含めて、都の意向を団体に十分反映できる仕組みをつくる必要もあります。
 ただし、一般論として、都による経済的、人的支援は少ないにこしたことはなく、中長期的には、団体がそうした都の支援に頼らなくとも事業運営ができるような体制の転換を進めていくべきでしょう。また、外郭団体がみずからの判断で収益事業を行う場合も、都からの支援は慎むべきであるし、こうした収益事業が結果として民業圧迫にならないよう、常に厳しくチェックしていく必要もあります。その結果、もはや民間の領域であると判断されたものは、潔く民間にゆだねるべきであることも申し上げておきます。
 要するに改革のポイントは、都が現場とどう向き合うかであり、その現場を担う外郭団体の事業を都がどのように評価していくのかということです。
 さきの第一回定例会で、都は我が党の代表質問に対し、事業評価の対象を監理団体にまで広げることを明らかにしましたが、都から支出を受けている団体は監理団体に限ったものではなく、報告団体の一部にも支出を受けているものがあることから、評価の対象を報告団体も含めた外郭団体一般にすることが当然必要であると考えます。
 そこで、日ごろより現場力の大切さを意識されている知事に、外郭団体改革における事業評価の活用の重要性について所見を伺います。
 最後に、鉄道事業者と地元のかかわり方について申し上げます。
 先日、京浜急行は、京急蒲田駅付近の改良工事にあわせて、品川―羽田間をノンストップで結ぶダイヤ改正を、改良工事の協力者である地元大田区に何ら相談なく、一方的に決めました。それぞれの立場でさまざまな事情があったことは推察いたしますが、前提条件の一方的な変更は、地域にとって取り返しのつかない損失を招くおそれがあります。
 私は平成十九年第四回定例会で、私の地元、JR王子駅南口駅前広場の完成を目前にして、南口改札口の開設時間を一方的に短縮した事件を例に挙げ、このようなことが起こるのは、まちづくりにおいて地元自治体と鉄道事業者の間の基本的なルールがないからであり、連続立体交差や再開発などの事業に税金を投入し、時には事業主体として大きな責任を持つ都が、お互いにそごを来さないためのルールづくりを急ぐべきだと主張しました。
 このたびの京急蒲田の事件は、そのときから既に予想されていたことであり、起こるべくして起こったといわざるを得ません。このときの答弁は、輸送サービスの変更などに際しては、地元や利用者に対して適切な情報提供を行うよう働きかけてまいりますというものでありました。つまり、京急蒲田の事件は、いみじくも、現在、都が全く無力であることを証明してしまったわけであります。
このままでは同様の事件が次々と発生します。都は、次に同じような問題が起こったときに、行政の不作為といわれないよう、まちづくりにおける鉄道事業者の責務と役割について、都を含む地元自治体との間の一定のルールづくりを急ぎ、ルールの不備による悲劇を防ぐべきであります。
 そのことを再度申し上げ、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 高木けい議員の一般質問にお答えいたします。
 まず、横田空域の全面返還についてでありますが、在日米軍が管制を行っております横田空域は、一都八県にわたる非常に大きなエリアに広がっておりまして、民間航空機の運航の大きな支障になっております。
 現に、ヨーロッパ発でユーラシア大陸、ロシアの上を通過して日本海に出た飛行機は、残念ながら真っすぐ成田へ向かえませんで、西か東へ迂回して、この空域を避けて、とにかく成田にアプローチするという実態であります。
 ここで、彼らがその空域を占拠しているいわれであります米軍の空軍の演習が行われているかどうか、私、最近聞いたことありませんが、彼らはいまだにそれを固執しております。
 一昨年九月に行われた空域の一部返還によりまして、飛行時間の短縮や燃料の削減など多くの効果が得られましたが、さらに横田空域の全面返還を実現して、より合理的な航空路を設定することが絶対に必要であると思います。
 大体、我が国の空の管制が、非常に大きな部分、外国にゆだねられている現状はまことに異常でありますが、これは絶対に正さなくちゃいけないと思います。ただ、空域の占拠も含めて、彼らは非常に正直にいっておりますが、横田の問題は、我々、世界第二次大戦で日本に勝った戦勝の記念品であるということをいってはばからない。こういったものに対して、政権がかわろうとかわるまいと、政府はやっぱり腰を据えていうべきことをいわないと、なかなか相手は譲ってこないんじゃないかと思います。
 現に、先般、前原国交大臣がこの問題について聞きたいということで、あるところで会いました。この問題の参与をしてもらっております高瀬教授と一緒に一時間ほど詳しく説明いたしましたが、これを受けて、現政権がこの問題に、自民党の政権以上に積極的に取り組んでいることを私は望んでおります。
 嘉手納を含む沖縄の進入管制業務、嘉手納ラプコンは、本年三月末に我が国に返還され、那覇空港内で日本側による管制が行われております。嘉手納よりもはるかに使われていないというか、全く使われていない横田において、我が国が管制を行えないわけがないと思います。
 国に対し、米政権に強く働きかけて、横田空域及び管制業務の早期全面返還を実現するように、これからも強く求めてまいります。民主党の諸君もぜひこれに協力していただきたい。
 次いで、沖ノ鳥島とその周辺海域についてでありますが、沖ノ鳥島とその周辺海域は、グアムと沖縄を直線で結ぶまさに中間点にありまして、地政学的に極めて重要な意味を持つ場所であります。
 中国が最近、この水域をしきりに調査しているのも、これは西太平洋の覇権を、軍事的な覇権をねらった、潜水艦による戦略展開のための調査にほかなりません。
 加えて、沖ノ鳥島周辺の海には豊かな地下資源も眠り、豊穣な漁場が広がっております。都は、排他的経済水域における国益侵犯に対抗するために、国に先んじて船も新しくつくりまして、これを提供して、漁業活動を支援してまいりました。
 かつて小笠原の組合長、今、都全体の漁業組合長をしております菊池さんという、これはまさに気骨のある国士でありますが、彼が率先して乗り込んでいって、魚礁もつくり、漁港も考えておりまして、このごろは韓国、中国、台湾の漁船が姿を潜めたという現象は大変ありがたいと思っております。
 こうした国に先んじた取り組みは、いささか国益に鈍感な国の政府を突き動かして、今般の新しい法律の制定にもつながったと思います。
 国政の大眼目は、国民の生命、財産を守ることにありまして、国民の財産である領土と排他的経済水域を守ることは国の第一の責務だと思います。
 きのうも申しましたが、この日本列島が日本人のためだけのものではないというたわけた妄言は、私はやっぱり新政権によって撤回してもらいたいと、こう熱願しております。
 法律が制定されたとはいえ、今後、具体の策を持って、いかに国家として強い意思を示すかが重要でありまして、国の動きを刮目しつつ、必要とあらば、現場から注文すべきことをしっかりと注文してまいります。
 次いで、外郭団体に対する事業評価でありますが、都の強みは、まさに生々しい現場を持っていることでありまして、外郭団体もまた、その現場の一翼を担う重要な役割をしっかりと果たさなければなりません。
 これまでも外部監査を実施してきましたが、引き続きこうした外部の視点を活用するとともに、都みずからも税の使途を検証することを通じ、外郭団体の実施する事業をこれまで以上に厳しく評価する必要があります。こうした評価を徹底することで、現場に精通する団体の強みをさらに伸ばして、有効に活用していきたいと思います。
 今後とも、外郭団体を含め、現場に根差した発想力と行動力を最大限発揮することで、東京から国を変革する都政運営を行っていきたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

○産業労働局長(前田信弘君) 口蹄疫に対する対策についてのご質問にお答えいたします。
 都は、四月二十日の宮崎県での発生確認後、直ちに都内畜産農家や動物園等に情報提供を行うとともに、対象動物約七千頭の緊急調査を実施いたしまして、すべて異常はないことを確認しております。
 あわせて、家畜の健康観察、立ち入り制限、消毒の徹底について注意喚起を行い、その後も引き続き情報提供を行っております。
 さらに、宮崎県に獣医を派遣して応援に当たるとともに、現地の実態の把握に努めております。
 都の体制については、発生直後から庁内で情報交換を進めてまいりましたが、宮崎県での感染が拡大したことに伴い、さらに関係局の範囲を拡大いたしまして、情報の共有化を図り、迅速な対応を確保できるよう連携を図っております。
 今後、都内で発生した場合には、東京都口蹄疫対策本部を設置し、全庁を挙げて対応することとしております。
   〔福祉保健局長杉村栄一君登壇〕

○福祉保健局長(杉村栄一君) 二点のご質問についてお答え申し上げます。
 まず、特別養護老人ホームの整備についてでございますが、特別養護老人ホームは、ユニット型個室の整備を基本としておりますが、都は今年度から、高齢者の多様なニーズへの対応や低所得者の負担軽減等のため、プライバシーへの配慮等を条件に、多床室が施設定員の三割以内であれば、新設の場合にも整備費補助を行うことといたしました。
 しかし、国は本年三月、新設の特別養護老人ホームについて、ユニット型と多床室の併設は認めないことを明らかにいたしました。
 このため、都は、九都県市首脳会議等を通じて、地方の実情に応じ、多床室を併設した整備を行うことができるよう要望しておりまして、今後とも他の自治体等と連携しながら、国に対し強力に働きかけてまいります。
 次に、府中療育センターの改築についてでございますが、今般策定した基本構想では、利用者の重症化、高齢化や在宅支援ニーズの増加などを踏まえ、センターが担うべき役割と施設の整備方針を明らかにしました。
 改築後のセンターにつきましては、超重症児者等への医療支援や、通所、短期入所などの在宅支援及び看護師等の人材育成と情報発信の拠点としての役割を担う総合的な療育支援施設としていくことといたしております。
 また、施設の整備につきましては、療育に必要な医療機器等の配置や適切な機能訓練への対応、災害発生時の安全性の確保などに配慮することにいたしております。
 今後、この基本計画に基づきまして、事業内容や建物の規模、施設配置等について検討を進め、今年度中に基本計画を策定してまいります。
 引き続き府中療育センターを初めとする重症心身障害児施設の運営の充実に努めてまいります。

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