平成二十二年東京都議会会議録第四号

○副議長(鈴木貫太郎君) 三十一番たきぐち学君。
   〔三十一番たきぐち学君登壇〕
   〔副議長退席、議長着席〕

○三十一番(たきぐち学君) 初めに、救急医療について伺います。
 東京都は、昨年の八月三十一日より、救急医療の東京ルールの運用によって、これまで受け入れ先が決まらなかった選定困難事案への対策に着手し、救急患者が迅速に医療を受けられるよう取り組みを開始しました。
 東京ルール適用事案の一日平均件数は、二月までの六カ月間で三十件、当初想定していた百件より低い水準で推移しているものの、ことしに入って増加傾向にあります。医療機関からの話では、想定の件数より少ないのは、東京ルールの開始によって地域救急医療センターへの症例の集中を嫌って、二次救急医療機関が積極的に受け入れを図っている結果との指摘もあります。
 東京ルール開始後四カ月間の救急搬送時間を前年同期間と比べると、十二医療圏すべてで三十分以上かかった件数が増加しており、平均搬送時間も長くなっています。これだけで判断すると東京ルールの効果は出ていないのではないか、心配せざるを得ません。
 私たち民主党は、平均時間四十七分という全国最低の救急搬送時間を全国平均以下の三十分に短縮するべきだと考えていますが、都は明確な目標を掲げていません。救急搬送にはさまざまなケースがあり、すべての効果を時間だけで判断できるものではありませんが、目標がなければ成果をはかることはできません。搬送時間が長くなっている現状を分析した上で、東京ルールの目標値を明確に設定するべきと考えますが、所見を伺います。
 これまでの運用実績を見ると、当初は調整役としての機能を担うはずだった地域救急医療センターが、実際には全事案の約六五%を受け入れています。事実上、最後のとりで病院としての役割を担っている地域救急医療センターの存在が、この制度を円滑に運用できるか否かのかぎを握っていると考えます。今後、事案数が増加した場合、十分機能していくのでしょうか。
 平成十年に四百十一あった都内の救急医療機関が、この十一年間で三百三十まで二割も減少しており、都内の救急病院の厳しい経営実態が推察できます。さらには、救急患者の診察料の未払いが地域救急医療センターにとっての不安要素ともなっています。都は、損失医療費の補てん率を高めてはいるものの、抜本的な対策が求められていると考えます。
 救急医療現場の実態の詳細を把握することを強く求めます。その上で、現在の地域救急医療センターに対するさらなる支援の拡充を図る、あるいはすべての二次救急医療機関に対して東京ルールへの積極的な参加を促すことで負担の平準化を図っていくなど、東京ルールを安定的に運用していくために、今後どのような方向性を持って取り組みを進めていくのか伺います。
 東京ルール適用事案の多くは、薬物や急性アルコール中毒、精神症状のある人、認知症の高齢者や路上生活者など、傷病以外の部分で対応の難しいケースであり、搬送先選定の大きな障害になっているとの指摘があります。こうした患者の受け入れによって、本来の救急医療業務以外の業務に多くの時間を割かれているという実態もあるようです。
 このような方々への対応は、救急医療の分野だけで解決するものではなく、関係機関が連携して取り組まなければ、救急患者を迅速に医療が受け入れる体制を構築することへの根本的な解決とはならないと考えます。
 精神的な問題を抱える患者に対しては精神科医療との連携、認知症の高齢者などに対しては行政の福祉部門との連携が不可欠です。精神救急の現場に余裕がない状況下では、例えば地域救急医療センターに精神科医を配置することを促したり、難しい背景のある高齢者などに対しては、福祉の担当者が地域救急会議のメンバーとして問題を共有し、体制を構築することなどの対策が急務と考えます。所見を伺います。
 今後、東京ルールの効果を上げるためには、東京消防庁との綿密な連携と情報の共有が欠かせません。運用開始から六カ月とはいえ、人の命がかかった救急医療は、実績の検証を常に行い、改善点を見つけ、スピード感のある対策が求められます。
 運用開始後四カ月の同時期で比べると、三次医療機関への搬送件数は約千件増加しています。消防隊の現場の対応は変わったのか、三次救急搬送の現場に変化はあるのかなど、複眼的にとらえることが必要です。東京ルールに関する東京消防庁との連絡協議体制は確立されているのか伺います。
 東京ルールは、医療法に基づき、ベッド数や人口に応じて設定された二次保健医療圏を単位として制度構築がなされています。ベストな医療は生活圏と医療圏が一致していることだと考えます。
 しかし、放射線状に都市が形成されてきた東京都において、現在の二次保健医療圏が生活圏と符合しているとはいえません。こうした根本的な課題をも内包していると認識をした上で、今後の東京ルールのあり方を模索していくことも必要だと問題提議をし、次の質問に移ります。
 環境施策について伺います。
 東京都は、世界で最も環境負荷の少ない先進的な環境都市の実現に向け、カーボンマイナス東京十年プロジェクトを推進しています。
 しかしながら、国に先駆けてスタートした排出権取引あるいは自然エネルギー利用促進のための太陽光発電設備設置促進など、CO2削減対策を論じるとき、今あるエネルギー消費量を肯定した上での対策、つまり現在のエネルギー消費を前提としたプラスアルファの施策が目立ちます。エネルギー資源の多くを輸入に頼っている日本のエネルギー安全保障を考えたとき、既に存在しているのに使われずに放出されている未利用エネルギーや、蓄積したエネルギーを逃がさないという視点は、プラスアルファではなく、一昨年の洞爺湖サミットで日本から世界に発信した、もったいない精神を体現する日本にこそ必要とされる施策であり、取り組むべき分野と考えます。
 未利用エネルギーについては、代表質問で今後の取り組みを伺いました。ここでは家庭部門におけるさらなる取り組みを求め、質問いたします。
 二〇〇六年度における都内のCO2排出量は、家庭部門で九〇年度比一〇・八%増加しています。給湯や冷暖房におけるエネルギー使用量が中心ですが、太陽光などの再生可能エネルギーや省エネ家電製品に対する投資に比べて、蓄積したエネルギーを逃がさない、つまり断熱に対する認識が不十分ではないでしょうか。
 ヨーロッパでは、まずエネルギーの必要量を減らす、すなわち断熱強化。次に、石油などの化石燃料のかわりに持続可能な再生可能エネルギーを使う、すなわち再生可能エネルギー。そして最後に、化石燃料を効率よく使用する、すなわちエネルギー効率のよい家電製品、これによってCO2排出ゼロ住宅を実現するのが最も効率のよいエネルギーサイクルという概念があるようです。
 国立環境研究所の試算では、一九九〇年比CO2排出一五%以上削減するためには、住宅分野では新築の一〇〇%、既存住宅の改修年一%を高断熱住宅とする必要があるとされています。再生可能エネルギーなど省エネの手段の効率をより高めるためにも、住宅の高断熱化が有効であると考えます。所見を伺います。
 都は、東京都住宅マスタープランにおいて、次世代省エネ基準に適合した新築住宅の比率を二〇一五年までに六五%とする目標を掲げていますが、二〇〇五年で一四%にとどまっています。また、既存住宅については、次世代省エネ基準よりもハードルの低い、窓に二重サッシまたは複層ガラスを使用した住宅の比率が、目標四〇%に対して二〇〇八年で一四%にすぎず、目標とする水準には遠く及びません。年間十から十五万戸の新築住宅もさることながら、六百八十万戸ある既存住宅の改修、リフォームを促進することは、地域経済への波及効果も期待されます。
 国は住宅版エコポイントを始めますが、省エネ住宅の適合率を上げ、目標を達成するためには、東京都独自の支援策をさらに強化するべきと考えますが、所見を伺います。
 ドイツでは二〇〇八年から、すべての新築住宅に年間のエネルギー消費量、CO2の排出量の表示を義務づけるエネルギーパス制度が始まり、EU各国でも採用が進められようとしています。対象の住宅がどの程度のエネルギーを消費するか、その性能を数値で表示することによって、住宅の賃貸、売却時における住宅のランク資料として活用されています。
 この制度のポイントはエネルギーの見える化にあります。日本でも商品、サービスのライフサイクルの過程で排出されたCO2量を表示するカーボンフットプリント制度、直訳すると炭素の足跡制度導入に向けたモデル事業を開始しています。CO2という見えないものを数字で見えるようにすることは、目標や達成度をよりわかりやすく、人々の行動を促します。
 パス制度は、都民の行動を促すと同時に、住宅の資産価値を高めることにもなり、中古住宅市場の活性化にも寄与するものと考えます。
 都では、条例改正により、ことし十月から、延べ床面積五千平米を超えるマンションに対して環境性能を示すラベル表示を義務づけましたが、より広範囲な住宅に住宅エネルギーパス制度導入の検討を始めるべきと考えますが、所見を伺います。
 次に、ものづくり企業の振興について伺います。
 私の地元荒川区は、印刷、金属加工、皮革、衣服関連などを中心としてさまざまな業種の事業所が立地していますが、とりわけ製造業が盛んなものづくりのまちとして発展してきました。製造業が占める割合は全産業の約二七%と、区部全域と比べ二倍以上です。
 また、四人以下の従業員規模の事業所数が六割以上を占め、中小零細企業が二十三区の中でも際立って高いのが特徴です。こうした中小零細企業は、下請部品や半製品の製造が多いことから、不況や価格競争、発注側の経費削減等のあおりをまともに受け、利益を削らざるを得ないという、もともと非常に弱い立場にあります。
 このような下請を中心とした荒川区の事業所は、今では最盛期の半分まで落ち込んでいます。長期的な傾向に加えて、昨今の我が国経済を取り巻く厳しい環境がさらなる追い打ちをかけ、今や荒川区の製造業は極めて深刻な状況にあります。
 都は、下町四区、台東、荒川、墨田、葛飾と連携して、それぞれの頭文字をとったTASKプロジェクトを推進していますが、今こそこうした企業を下支えする支援策を強力に行っていくことが求められています。
 今後、都は、ものづくり企業の振興をどのように図っていくつもりか、知事の所見を伺います。
 ものづくりの頂点は、熟練した技能を持つ職人です。荒川区には独自のマイスター制度があり、広く活躍されていますが、技術をいかに継承していくのか、後継者の育成が大きな課題となっています。ものづくり人材を確保するには、ものづくりの魅力、トップランナーのステータスを高めることが重要です。
 東京都は、都内の中小企業に勤務するすぐれた技能を持つ人を東京マイスターとして認定しており、これまで千二百人を超える方が東京マイスターの称号を得られていますが、その存在をどれだけの人が知っているでしょうか。東京マイスターの積極的なブランディングを図り、認知度を高め、表彰制度にとどまらず、活躍の場を提供していくことが必要だと思います。
 所見を伺い、私の質問を終わります。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) たきぐち学議員の一般質問にお答えいたします。
 懸命に努力をする小零細企業への支援についてでありますが、東京には多種多様な基盤技術を有する小零細企業が数多く存在し、日本の産業を支える重要な役割を果たしております。しかし、こうした企業の多くは、国際競争の激化や長引く不況により厳しい経営環境に置かれ、ものづくり産業の持続的な発展が危ぶまれております。
 あなたと同じで、私の選挙区でありました大田区にもこうした零細企業がたくさんありまして、そういった企業の存続のバリアの一つは、だれに、どうやってこの技術を継承していくかということ。もう一つは、相続の問題なんですね。こういった問題を周りでやはり援助し、解決してあげないと、せっかく大事な役割を根底の根底で果たしている小零細企業の存続というのは難しいと思います。
 このため、技術力の向上や受注体制の強化を図るとともに、制度融資の充実など、多面的な支援を一層強化していかなければならないと思っております。
 今後も、こうした取り組みを着実に実施し、東京の産業の屋台骨を支える小零細企業をしっかりと支援していくべきだと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁します。
   〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 四点についてお答えを申し上げます。
 まず、東京ルールについてでありますが、昨年八月末の運用開始以来、東京ルールとしての事案は、本年二月末までに五千五百五十六件となっており、地域の救急医療機関相互の協力連携や、救急患者受け入れコーディネーターによる地域を超えた調整が行われ、救急患者は確実に受け入れられております。
 東京ルールの目標は、救急患者の迅速的確な受け入れであります。事業開始後、約半年を経過したところでありますが、今後とも実績を踏まえた検証を重ね、着実にルールの定着を図ってまいります。
 なお、適切な救急医療の確保のためには都民の皆さんの協力が欠かせませんことから、救急医療が都民にとって貴重な社会資源であることの普及啓発を一層行うとともに、シャープ七一一九の救急相談センターの利用を促進してまいります。
 次に、東京ルールの今後の方向性についてでありますが、地域救急医療センターの役割は、一義的には患者受け入れのための地域内調整であり、その調整が難しい場合にみずからも患者の受け入れを行うものであります。圏域内の二次救急医療機関が一体となって救急患者の受け入れを行うという東京ルールの趣旨から、地域救急会議を通じて救急医療機関同士の連携強化を図り、地域全体で患者を受けとめる体制の整備を進めております。
 あわせて、来年度、地域救急医療センターの診療体制のさらなる強化を図るための支援を充実することといたしました。
 次に、関係機関との連携についてでありますが、東京ルールとしての事案の中には困難な背景を持つケースが相当数含まれておりますが、こうした事案に対しましては、救急医療機関だけでなく、関係機関の協力が必要であります。このため、医療、消防、警察、福祉部門などが参画する地域救急会議を設置し、この会議において、患者の受け入れ時や退院時に、それぞれの機関が役割に応じた支援を行うよう、課題の把握及び解決に向けた検討を行ってまいります。
 最後に、東京消防庁との連携についてでありますが、東京ルールの取り組みには、救急の現場で搬送業務を担う東京消防庁との連携、協議が不可欠であります。このため、東京ルール事案と判断する目安や、地域救急医療センターとの連絡体制、救急患者受け入れコーディネーターと東京消防庁指令室との協力連携体制等、東京ルールについて議論を重ね、一体となってその仕組みを構築してまいりました。運用開始後の現在も、地域救急会議の場などにおきまして、現場の状況を把握し、個別の事案について問題が発生する都度、常に協議をしながら、事業を実施しているところであります。
   〔都市整備局長河島均君登壇〕

○都市整備局長(河島均君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、住宅の高断熱化などの省エネ対策についてでございます。
 地球温暖化の防止に向け、二酸化炭素排出量の削減など環境負荷の低減を図るためには、住宅分野におきましても環境に対する負荷の小さい住まいづくりに取り組むことが必要であると認識しております。
 都内の家庭部門におけるエネルギー消費を見ると、給湯及び冷暖房によるものが過半を占めておりまして、窓や壁などの断熱性能の向上を図ることに加えまして、省エネ性能にすぐれた給湯器やエアコンなどの高効率設備機器の導入を図ることが重要でございます。
 さらに、太陽エネルギーを初めとした再生可能エネルギーの活用など、省エネ対策として多様な取り組みを推進することが必要であると考えております。
 次に、省エネ住宅を促進するための都独自の支援策についてでございますが、住宅の省エネ化に当たりましては、新築住宅に対する施策はもとより、都内に数多く存在する既存住宅の省エネリフォームなどを促進していくことが重要であると認識しております。
 このため、都では、省エネリフォームに関して寄せられた優良事例や助成制度などを取りまとめたガイドブックを他の自治体に先駆けて作成し、都民や事業者に情報発信するなど、独自の取り組みを行ってまいりました。
 来年度は、新たに、希望する家庭に専門家を派遣し、住宅の省エネリフォームを技術的に支援し、既存住宅の省エネの動きを促進していきたいと考えております。
   〔環境局長有留武司君登壇〕

○環境局長(有留武司君) 住宅への環境性能表示制度の導入についてお答えいたします。
 都内の住宅戸数は、その七割が集合住宅となっており、平成十七年から、購入者が環境に配慮した住宅を選択しやすいよう、一万平方メートルを超える大規模マンションを対象に、マンション環境性能表示制度を導入いたしました。
 さらに、本年十月からは、改正環境確保条例に基づきまして、五千平方メートルを超えるマンションに対象を拡大し、あわせて二千平方メートル以上のマンションにも適用を可能にするなど、順次制度の拡大を進めてきております。
 今後とも、この制度の活用を図り、住宅の環境性能表示の普及を進め、定着を図ってまいります。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

○産業労働局長(前田信弘君) 東京マイスターについてのご質問にお答えします。
 熟練した技能を持つ方々は、それぞれの産業分野のみならず、東京の貴重な財産でありまして、その確保と育成を図ることが求められております。
 都では、昭和五十八年度から、金属加工や飲食物調理など、二十の職業部門の第一線で活躍され、特にすぐれた技能を有している方々に知事賞を授与しておりましたが、さらに平成十五年度から、その受賞者の方々を東京マイスターとして認定しております。
 こうした東京マイスターの技能や功績は、都のホームページに掲載するほか、講師データベースに登録し、ものづくり講習会を実施する区市町村や民間団体等に広く情報提供しておりまして、知名度の向上を図っております。
 また、活躍の場の拡大に向けては、職業能力開発センターを地域に開放する技能祭や、職人わざの奥深さを紹介する、たくみのわざフェアなどの場におきまして、その作品の展示や実演を行い、その技能のすばらしさを都民に理解していただく機会を提供しております。
 さらに、若者に技能の現場を体験させる職人塾において、東京マイスターの方々が親方としてものづくりの魅力を伝えるなど、後継者の育成にも貢献していただいております。
 今後とも、こうした取り組みを積極的に進めまして、東京マイスターの社会的地位を高めるとともに、活躍の場を広く提供することにより、ものづくり技能の振興に努めてまいります。