平成二十二年東京都議会会議録第三号

○副議長(鈴木貫太郎君) 十八番遠藤守君。
   〔十八番遠藤守君登壇〕

○十八番(遠藤守君) 初めに、ホームレス対策とソーシャルビジネスについて質問いたします。
 本日の質問を前に、先月二十六日、私はホームレス支援施設である自立支援センター品川寮を同僚とともに視察してまいりました。
 同センターは、原則二カ月の間、食事の提供を初め、職業、住宅等に関する相談を行っており、職員の献身的な仕事ぶりもあり、一定の評価を上げていました。
 しかし、残念ながら、直近のデータでは、入所者の約四七%が就労自立に至らず、その最大の理由が入所期間の短さにあることを痛感いたしました。実際、施設運営者からも、入所者には、幼いころに受けた心の傷や、人生途中で背負った深い挫折感を持った人が多く、短期間で十分な心理ケアを行うのは困難といった話や、でき得ることであれば、再就職に最低限必要な漢字やパソコン技能の習得など教育支援も行いたい、このような意見がございました。
 ところで、先日私は、ホームレス支援団体として世界的に有名な米国コモン・グラウンド・コミュニティ代表のロザンヌ・ハガティ女史の講演を聞きました。コモン・グラウンド・コミュニティは、ニューヨーク市内のホテルを改修し、ホームレスや低所得者を対象に、住居の提供のみならず、就労訓練や医療全般、そして心理カウンセリングなど、総合的なサービスを提供しております。
 当日の講演や関連資料を精査してみると、ここでのホームレス支援が成功した秘密が幾つか見えてまいりました。私なりに要約すれば、第一は、一概にホームレスといっても、そこに至った原因、経過はさまざまであり、それらについて詳細にデータ分析した上で、通常一年程度かけて、個々の状況に即した訓練を行っている。第二は、長年にわたる活動の積み重ねにより、すぐれた専門スタッフがたくさんいることが挙げられます。
 アメリカと日本の文化や制度の違いはあるにせよ、これらの取り組みは民間主体だからできた側面もあり、都として学ぶべき点も少なくありません。こうした事例も参考に、従来の発想を超えた、より効果的な仕組みを構築すべきであります。福祉保健局長の見解を求めます。
 ところで、このコモン・グラウンド・コミュニティは、近年我が国でも注目され始めてきたソーシャルビジネスの一つであります。ソーシャルビジネスは、福祉、貧困、環境などの社会的課題に立ち向かう新たな取り組みのことであり、欧米を中心に広く普及しておりますが、日本はまだ黎明期にあります。将来的に都の施策推進のパートナーとなり得る、このソーシャルビジネスのすそ野拡大に向け、都は、資金調達、経営ノウハウの提供、関係者の交流機会の設定などに積極的に寄与すべきであると考えます。見解を求めます。
 次に、教育管理職の負担軽減について質問いたします。
 小中学校では、学習指導面のほかにも多様な課題への対応が求められ、多くの教員は多忙をきわめております。特に管理職は、学校経営の責任者として、こうした課題への陣頭指揮をとることが求められ、その中には、学校がとるべき責任を超えた事案さえあります。これは、学校に責任の多くを押しつけようとする風潮によるところも大きいと思います。そこでまず、こうした社会的風潮に対する石原知事の率直なお考えを伺います。
 ところで、平成十九年度に実施した副校長、主幹の職務等に関するアンケート調査では、多くの副校長が、学校経営への参加や教職員の育成にやりがいと魅力を感じて管理職となったものの、実際には本来の業務以外のさまざまな対応に追われ、それが多忙感に結びついているとの結果が出ております。
 一方で、管理職選考の受験対象者である中堅教員も、管理職に求められる複雑、多様な課題に対応するための責任の重さ、業務の多忙さに不安を感じております。それが受験倍率が低い要因の一つになっているともいわれております。
 こうした影響を踏まえ、都議会公明党は、教育管理職の負担解消を目指し、知事に対する来年度予算に関する要望で、小中学校の副校長の業務実態の把握を求めました。都教育委員会は来年度、早速この公明党の提案を受け、公立小中学校における業務処理調査研究事業を行うと聞いておりますが、その具体的内容について説明を求めます。
 本調査は、外部委託の形式をとり、学校現場に新たな負担を課すものではないとのことから、一定の評価はいたしますが、管理職の多忙感はより多次元から調査すべきであります。
 そこで、副校長の事務や雑務を補助する、仮称スクールアシスタントを配置し、その具体的効果を同時に検証すべきと提案いたします。教育長の見解を求めます。
 次に、障害者の保養について質問いたします。
 都は現在、全国四十カ所で障害者休養ホーム事業を行っております。この事業は、障害者に配慮した一定の設備があり、積極的に受け入れる宿泊施設を都が指定し、障害者手帳を持っている都民がこれを利用した場合、大人一泊当たり六千四百九十円の助成を行うものであります。障害者の保養に加え、多くの場合、障害者は健常者と連れ立って旅行するため、観光振興の面からもすぐれた制度であるといえます。
 同時に、本制度には、バリアフリーの宿という目印効果もあります。それというのも、従来、宿のバリアフリー表示には明確な定義はなく、ある宿がバリアフリー対応と表示していても、実際に行ってみると、バリアフリーなのは玄関スロープのみで、現地でトラブルになるケースもあるようであります。
 こうした中で、障害者が宿選びの目印にしているのが都の休養ホーム指定宿であり、ここであれば、障害者は、現地に詳細な問い合わせをしなくても安心して旅行ができるわけであります。
 さきに述べたとおり、この指定宿は、北海道から沖縄まで全国各地にありますが、利用実績を調べてみると、都内の障害者が比較的旅行しやすい関東近県が多くなっております。そこで、全国四十カ所の指定宿を再編し、障害者がより訪れやすい環境を整えるべきであります。
 また、利用者についても、同じグループが繰り返し利用しているケースも見られ、広く障害者や家族が利用できるよう、周知に努めるべきであります。あわせて見解を求めます。
 次いで、島しょ住民の医療について、二点質問いたします。
 先月、私は伊豆大島を訪問し、島民の皆さんと種々懇談してまいりました。急速な高齢化により、医療、介護に関する不安や要望が相次ぎました。具体的には、本土の医療機関で治療を余儀なくされる慢性疾患患者等の交通費負担に関する切実な声が上がりました。
 例えば、島民割引のある東海汽船のジェット船を利用した場合、最も近い大島からでも、患者本人だけで往復で約一万円、場合によっては、これに付添者の船賃や宿泊費、さらに都内の移動にかかる交通費や食事代など細々とした支出が加わると、かなりの家計負担になります。
 こうした海による隔絶というハンディを軽減するには、ITを使った遠隔医療システムが有効な手段の一つであります。本土の専門医から島の医師に、患者の治療に関する指導助言を受けられるシステムを充実させれば、本土の病院に通う回数が減少し、結果的に経済的負担の軽減が図られるはずです。専門的医療の確保が困難な地域にこそ、都は積極的に対策を講じるべきです。見解を求めます。
 なお、島民の交通費負担の軽減を図る都の財政支援についても強く要望いたしておきます。
 第二に、三月一日オープンした多摩総合医療センター、小児総合医療センターは、離島便が発着する調布空港からもほど近く、島しょ住民の期待も膨らんでおります。一方で、周辺の地理に不案内なためか、島民との懇談では、付添者の宿泊先を懸念する訴えが聞かれました。
 現在、島しょ住民が広く利用する都立広尾病院には、我が党の提案により、緊急搬送された患者の付添者が安価で泊まれる施設が併設をされております。多摩、小児、両センター利用者のためにも同様の仕組みを検討すべきです。見解を求めます。
 最後に、羽田空港を発着する航空機の騒音対策について質問いたします。
 羽田空港における一時間当たりの出発容量は現在三十二便でありますが、これとは別枠で、五便が朝七時台に大田区臨海部を低空で離陸していきます。これについて、空港周辺の大森東、大森西、入新井、糀谷、そして羽田、五地区の住民でつくる協議会が、国土交通省に対して数次にわたり即時廃止を求めてきました。
 ところが、国は、この運用は出発ピーク時の輸送力を高めるものであり、かつ航空機騒音に関するいわゆるうるささ指数も環境基準を超えていないなどを理由に、地元住民の声に真摯にこたえてきておりません。
 秋に迫った再拡張により、一時間当たりの出発容量は段階的に四十便まで拡大されます。そこで、この新たに生じる枠に騒音原因となっている五便を割り当てることで、騒音軽減を図るべきであります。見解を求めます。
 区内の航空機騒音をめぐっては、これ以外にも、平成二十年九月二十五日から始まった新たな運用により、毎日約百便が、これまで飛行ルートではなかった大田区内陸部を飛び、地元大田区に多くの苦情が届いております。これについても、都は大田区と連携し、国に改善要求すべきです。
 それぞれ答弁を求め、質問を終わります。ご清聴ありがとうございました。(拍手)
   〔知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 遠藤守議員の一般質問にお答えいたします。
 学校にすべての責任を押しつけようとする風潮についてでありますが、すべての物事が他力本願になっている当節では、子どもへの教育の全責任を負うのは学校であり、専門家としての先生、教師であるというような考え方が敷衍している感じが否めません。これは全くの間違いというものだと思います。
 アメリカでは、子どもが成長して小学校に一年生として入ったときに、必ず三つのことを先生がいうそうです。一つは、みんなで決めたことは、自分一人が嫌でも、みんなのいうとおりにしよう。もう一つは、まちでお巡りさんが困っていたら、子どもでも助けよう。もう一つが大事でありまして、もし先生のいったことと、お父さん、お母さんがいったことが違っていたら、親にいわれたとおりのことをしなさいと。必ずそれを子どもたちにいい渡すそうであります。
 子どもの教育、しつけの主体者はあくまでも親であり、絶対に教師や先生ではありません。しかるに、自分の責務を放棄し、すべてを学校に押しつける親の存在が、学校を今日、疲弊させ、親子の関係も損ない、子どもの将来をも損なっているといって過言ではないと思います。
 他の質問については、教育長及び関係局長から答弁いたします。
   〔教育長大原正行君登壇〕

○教育長(大原正行君) 二点のご質問にお答え申し上げます。
 まず、公立小中学校における業務処理調査研究事業についてでございます。
 小中学校では、学習指導面のほかにも多種多様な課題への対応が求められており、業務が集中する副校長や主幹教諭等に多忙感が深まっております。
 平成十九年度に実施いたしました副校長等に対するアンケート調査では、さまざまな業務が副校長等に集中し、雑務に追われている現状が明らかになりました。
 このため、都教育委員会では、業務実態を詳細に把握し、職務改善を図る具体策の検討に資することを目的といたしまして、平成二十二年度に公立小中学校における業務処理調査研究事業を行うことといたしました。
 この事業では、副校長だけでなく、副校長を直接補佐する主幹教諭のほか、主任教諭、教諭及び事務職員のそれぞれの職務内容や業務運営上の課題を明らかにし、より効果的、効率的な学校運営組織や業務の進め方、適切な校務分担のあり方など、改善策を検討してまいります。
 次に、副校長の事務を補佐する職員の配置についてでございます。
 都教育委員会は、副校長や主幹教諭に業務が集中する状態を解消するため、教育委員会等から各学校への調査報告依頼を縮減するためのモデル校実態調査、退職教員を活用した非常勤教員制度や、主幹教諭を補佐する主任教諭制度の導入、さらに本年一月には、小中学校に勤務する事務職員がより積極的に学校運営に関与できるよう、その標準的職務を示す等、さまざまな取り組みを行ってまいりました。
 副校長の事務を補佐する、ご提案のスクールアシスタントにつきましては、来年度に実施いたします公立小中学校における業務処理調査研究事業の結果を踏まえ、コストや組織体制への影響をも考慮しつつ、その必要性について検討してまいります。
   〔福祉保健局長安藤立美君登壇〕

○福祉保健局長(安藤立美君) 三点についてお答えを申し上げます。
 まず、都のホームレス対策についてでありますが、ホームレスの自立を支援するため社会全体として取り組むことは重要な課題であると認識をしております。
 都はこれまでも、地域の実情を把握しているNPO等と協働して事業を実施しており、昨年十月に公表したホームレスの自立支援等に関する第二次実施計画におきましても、民間団体との連携協力を図り支援活動を展開していくことを盛り込んでおります。
 今後とも、ご提案の事例も参考に、NPO等の経験やノウハウを活用しつつ、ホームレスの就労自立に向けて適切に支援を実施してまいります。
 次に、障害者休養ホームについてでありますが、本事業は、障害者が家族や仲間とくつろげる保養施設を指定し、この施設を利用した人の宿泊料の一部を助成するもので、利用者がさまざまな地域の施設を選択できるよう配慮しており、四十カ所を上限として指定をしております。
 これまでも指定施設の変更を行ってまいりましたが、ご提案の趣旨を踏まえ、利用者からの要望や利用状況も考慮し、必要な見直しを行ってまいります。
 また、区市町村や関係機関に休養ホームのパンフレットの配布や広報をお願いしてまいりましたが、今後とも、区市町村等の協力を得ながら、きめ細かな周知に努めてまいります。
 最後に、島しょ医療についてでありますが、都は、島しょ地域の町村に対して、医師等の確保や医療体制の整備などについて支援を行ってまいりました。中でも、現地の医師に対し、都立広尾病院と島しょの医療機関を結ぶ画像伝送システムを整備し、専門医がエックス線画像を通じた診療支援等を行ってきたところであります。
 本年十月、このシステムを更新し、画質や伝送速度の向上を図るとともに、双方向での症例検討などが可能なウエブ会議機能を設ける予定であります。これにより、現地の医師が画像や検査データ等を見ながら、リアルタイムで専門医の指導助言を受け、診断や治療を行うことが可能となります。
 今後とも、こうしたきめ細かい支援を通じて、島しょ医療の確保を図ってまいります。
   〔産業労働局長前田信弘君登壇〕

○産業労働局長(前田信弘君) ソーシャルビジネスについてのご質問にお答えいたします。
 ソーシャルビジネスの育成は、新事業の創出という観点からも重要であると認識しております。
 このため、都では、平成十九年度より、ソーシャルビジネスを起業しようとする方に資金調達や経営のノウハウ等を伝える社会的企業家育成セミナーを実施してまいりました。
 また、平成二十一年十月より、社会的事業の専用相談窓口であるソーシャルベンチャーセンターを開設し、ソーシャルビジネスの起業に関心を持つ潜在層を対象として、セミナーや個別のアドバイス等を行っております。また、社会貢献活動を実施しようとする法人に向けましても、セミナーを行っております。
 さらに、今後、ソーシャルビジネスの事業者とその潜在層を交流させ、お互いのビジョンの共有やアイデアの探求、パートナーシップの構築等を促進してまいります。
 こうした取り組みによりまして、ソーシャルビジネスのすそ野を拡大してまいります。
   〔病院経営本部長中井敬三君登壇〕

○病院経営本部長(中井敬三君) 都立多摩総合医療センター及び小児総合医療センターの利用者向けの宿泊施設についてお答えいたします。
 このたび開設した両センターは、多摩地域の拠点であると同時に、島しょ地域を含む東京都全体の医療水準の向上にも資するものであります。
 小児総合医療センターでは、専門性の高い医療を提供していくことから、長期にわたる入院を余儀なくされるケースも想定されるため、患者さんのご家族が安価に宿泊できる施設を整備いたしました。
 運営は、難病児及びその家族に対する支援事業を行っている公益財団法人が担っており、島しょ地域の方々にも大いにお役に立つものと考えております。
 また、多摩総合医療センターについては、都立広尾病院が引き続き、島しょ地域の基幹病院としての役割を果たす中で、島しょ住民の利用実績が今後どう推移するかなどを見ながら、対応を検討してまいりたいと考えております。
   〔都市整備局長河島均君登壇〕

○都市整備局長(河島均君) 二点のご質問にお答えいたします。
 まず、羽田空港の朝の騒音対策についてでございますが、羽田空港では、現在、離陸回数をふやすために、最も出発便が集中する朝の七時台の五便に限りまして、大田区の市街地上空を飛行させる運用を行っております。
 国は、騒音を軽減するため、機材の低騒音化なども含め、再拡張後の運用につきまして、地元大田区と協議を行っております。
 都としては、航空機騒音を低減することは、地域の人々にとって重要な課題であることから、国に対しまして、十分な対策を講じるよう引き続き働きかけてまいります。
 次に、大田区内陸部における騒音対策についてでございますが、一昨年九月、横田空域の一部返還がなされ、飛行時間の短縮や燃料削減などにつながる効率的な飛行ルートの設定が可能となり、羽田から西方面に向かう便が、都内上空を含む三つのルートで運航されることになりました。国によると、これらのルートでの運航に当たっては、市街地上空に入る前に、東京湾上で高度を稼ぐなど、騒音に配慮しているとのことでございます。
 都としては、引き続き実態を把握するとともに、国に対し、環境に十分配慮した運航が行われるよう求めてまいります。

○副議長(鈴木貫太郎君) この際、議事に都合により、おおむね十五分間休憩をいたします。
   午後六時三十六分休憩